活动剧情
君が主役の物語を
活动ID:113
第 1 话:いざ新天地へ!
休日 早朝
乃々木公園
司:——ぱ・ぺ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽ・ぱ・ぽ!
寧々・類・えむ:『ぱ・ぺ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽ・ぱ・ぽ!』
司:……よし! 発声練習はここまで! 全員集合!
司:……うむ。 オレ達の門出にふさわしい、清々しい朝だな
司:さて——全員、準備はできているか!
えむ:うんっ!
寧々:今日から、よその劇団で勉強か……。 やっぱりちょっと緊張するな
類:そうだねえ。 ネネロボもしばらく留守番になるし、 これから大きく環境が変わることになるね
司:しかし—— 晶介さんがくれた『餞別』が、 これほどのものだとは思わなかったな
類:そこについては、僕も同じ気持ちだよ
類:晶介さん達が、僕達のためにつないでくれた劇団は3つ——
類:今回お邪魔する『春名座』、 そして『劇団三日月組』、『森ノ宮歌劇団』
類:いずれもタイプは違うけれど、 日本を代表する劇団だ
えむ:そんなところ全部ぐるぐる~って回っちゃえるなんて、 すごいよね!
寧々:しかも、どこも時間かけて しっかり勉強させてくれるって言うし…… 本当にありがたいな
類:フフ、そうだね。 今日から行く『春名座』でも、学べることをたくさん学んでいこう
えむ:うんっ!
えむ:えーっと、春名座さんは、むかーしからある劇団なんだよね?
類:ああ。 春名座は戦前から現在まで続いている 歴史のある劇団でね
類:そこの発起人のひとりは、 有名な戯曲の賞の名前になっていたりもするんだよ
えむ:ほえ~! そうなんだ!
類:座員はざっと200名。 今回見学させてもらえる、演出部や制作部も含めると もっといるかもしれないけれどね
類:役者は、若手もいるけれど、比較的ベテランの方が多い。 中にはテレビや映画で活躍している人達もいるから、 知っている人もいるんじゃないかな
寧々:そうだね。ドラマでもよく見かけるし……。 春名座の役者さんは『演技派』って呼ばれる人達が 多いイメージがあるな
寧々:なんていうか、役が自然と動き出すみたいっていうか…… リアリティある芝居をするっていうか
司:リアリティある芝居……か
司:(春名座の芝居は、映像でしか見たことがないが……)
司:(その、自然でありながら目を引きつける演技は とても素晴らしいものだった)
司:(ああいった演技をものにすることができれば、 また一歩、役者として大きく成長することができるはずだ)
司:(さらに気合いを入れろ! 天馬司! ——世界を笑顔にするスターとなるために!)
類:フフ、いい顔になっているねえ
類:それじゃあえむくん。 景気づけに、いつものをお願いできるかい?
えむ:うんっ! もっちろん!
えむ:みんなでいっぱいいっぱい修行して、 みんなでいっぱいいっぱい夢に近づいて みんなでいっぱいいっぱいわんだほいな笑顔になれるように~……
えむ:もっとがんばろ! わんだほ~い!!
類・寧々・司:『わんだほ~い!!』
数十分後
春名座 アトリエ
春名座スタッフ:間もなく演出家と役者達が参りますので、 こちらで少々お待ちください
司:は、はいっ! 承知しました!
司:ふぅ……。 やはり他の劇団の稽古場に入るのは、なかなか緊張するな
寧々:へえ。司でもこういう時は緊張するんだ
司:するに決まっているだろう! 今までとは、まるで環境が変わるのだからな!
寧々:環境……。 まあたしかに、この稽古場の雰囲気も、 ワンダーステージとずいぶん違うもんね
えむ:あっ、そういえばここって、ステージとか稽古場とかじゃなくて 『アトリエ』って言うんだよね? なんでなんだろう?
司:言われてみればそうだな。 アトリエと言うと、絵や彫刻を作る場所のイメージがあるが……
類:たしかに『アトリエ』と言えば、 画家や彫刻家の仕事場や工房を指すことが多いね
類:けれど本来は『芸術作品を制作する場所』という意味もあってね。 そういった意味でアトリエと呼んでいるんだと思うよ
えむ:ほえ~! なんだかカッコイイね~!
寧々:なるほど……。 …………
類:ん? どうしたんだい、寧々
寧々:いや、なんか…… そういう言葉ひとつひとつにもこだわりを感じるから……
寧々:わたし達、なんか、場違いな気がしてきて……
えむ:ほえ?
寧々:なんかこう……全体的に知的な雰囲気が漂ってるし……
司:なるほどな……。 たしかに言われてみると、そういう趣があるが……
司:だが安心しろ! オレ達も十分知的でクールだ! ドーンと胸を張れ!!
えむ:そうだよ! ドドーンとしてよう! なんてったってあたし達には類くんがいるし!
司:……いや待てえむ。 その言いかただと、類以外は賢くないように聞こえるぞ!
寧々:ほんと、このテンションが……
類:まあまあ。 そう不安になることはないと思うよ
類:たしかに春名座の芝居は 僕達のやるようなショーとは違うかもしれないけれど、 きっと快く迎え入れてもらえるんじゃないかな
えむ:あ! 誰か来るみたい!
春名座演出家:——お待たせしてすみません。 ワンダーランズ×ショウタイムの皆さん
司:……!
司:(人数はざっと20人というところか。 案外若い人達が多いな)
司:(そしておそらく、こちらの男性が——)
春名座演出家:お初にお目にかかります。 僭越ながら、皆さんの稽古を担当させていただくこととなりました 春名座の演出家——加藤と申します
司:(ついに、新しい修行が始まるのだな……!!)
第 2 话:春名座の芝居
春名座 アトリエ
春名座演出家:代表から、皆さんの話は聞いております
春名座演出家:役者として、演劇に携わる者として、より深く学びたい—— その想いから、この春名座に来られたと
春名座演出家:その志は、我々も同じです。 この度はどうぞ、よろしくお願いします
春名座座員達:『よろしくお願いします!』
司・えむ・寧々・類:『よろしくお願いします!』
司:(……これが、春名座か……)
司:(たしかに寧々の言うとおり、洗練された雰囲気があるな。 絶えず背筋が伸びているというか……)
司:(常に人に見られているという意識からくるのだろうか。 ……こういった姿勢も見習わなくては)
春名座演出家:さて、早速ですが、 本日からの稽古について説明します
春名座演出家:皆さんには—— 次の公演に向けて、我々と稽古をしていただこうと考えています
寧々:こ……公演ですか?
類:それは、とてもありがたいですが…… 正式なメンバーではない我々が、 いきなり出演までさせていただいてよいのでしょうか?
春名座演出家:ええ。最初は戯曲の分析やシーンスタディをしていただく…… といったことも考えたのですが
春名座演出家:ちょうど今日から新人公演の稽古が始まるということと、 皆さんはすでに広くご活躍されているということを加味して、 実践的に学べるよう、この形にさせていただきました
類:そうだったんですね……。 お心遣い、感謝します
司:(まさか、あの春名座で 早速公演に出させてもらえるとは……!)
司:(これはまたとないチャンス! この稽古の中で、春名座の芝居の真髄を掴んでいくぞ!)
春名座演出家:——では、今から台本を配ります。 受け取ったら乱丁落丁がないか、確認をしてください
司:(さてさて…… 一体どのような内容なのだろうな……!)
司:(現代的かつ、リアリティを重視する春名座では、 演目の内容も日常を描いたものが多い)
司:(そういったものは、ワンダーステージでは あまりやっていなかったから、いい勉強になりそうだ)
寧々:これってたしか、文学作品の……
類:ああ。梶原喜一郎の作品『柘榴』を下敷きにしつつ、 それを戯曲にしたもののようだね
えむ:ざくろ? どんなお話なの?
類:——時は昭和初期
類:売れない作家としての暮らしに疲れ果てた主人公が、 こんな人生が続くくらいならば、 いっそこのまま消えてしまおうと身投げを考える
類:しかし身投げの場所を探して転々とするうちに、 様々な人や物に触れて、 もう少し生きようと思えるようになる……
類:展開自体は淡々としているけれど、 人間の内面が繊細に描かれた、とても心あたたまる話なんだよ
司:なるほど……
司:(派手なできごとがなく、人間をしっかりと描く物語……。 やはり、今まであまりやったことがないタイプの内容だ)
司:(……これならばきっと、どんな役を振られたとしても、 今までとは違う演技に挑戦できるはず……!)
春名座演出家:では、早速ですが配役を発表します
春名座演出家:主人公・岸一郎役を矢田直樹
春名座座員A:はい!
司:(……当然のことではあるが——やはり主役は所属座員の方か)
司:(オーディション形式であったら、 ぜひとも狙いたいところだったが……こればかりは仕方がない)
司:(できるなら、話に深く関わる役をやりたいところだが……)
春名座演出家:次に岸の母役を——
春名座演出家:次に——
春名座演出家:岸の担当編集・日野宗次役を、獏野歴
類:……獏野歴?
司:ん? 知っているのか、類
類:ああ。春名座の所属だということは知らなかったけれど…… 何度か彼が出ている舞台を見たことがあってね
類:とても素晴らしい演技をする役者だよ
司:類がそこまで言うということは、 かなりのやり手なのだろうな。しかし——
司:誰も返事をしていないような……?
春名座演出家:……獏野くん? どこにいますか?
春名座座員B:加藤さん。 さっき連絡があって、獏野くんは少し遅れるそうです
春名座演出家:そうですか……まったく、あとで言っておかないといけませんね。 すみませんが、獏野くんの代わりは君にお願いしていいですか?
春名座座員B:はい!
類:……どうやら、まだ来ていないみたいだね
司:他の仕事をしているのだろうか? 早く演技を見てみたいものだが……
春名座演出家:では次。 古書店の店員・白藤役を、神代類
類:あ……はい
春名座演出家:喫茶店『ぷらんたん』の店員・百合子役を、草薙寧々
春名座演出家:喫茶店『ぷらんたん』の常連客・千代役を、鳳えむ
春名座演出家:最後に——
春名座演出家:編集者日野の同僚・中山役を、天馬司
司:はいっ!!
類:(編集者・日野の同僚……。 日野役は獏野さんだから——)
類:(つまり…… 司くんと獏野さんの掛け合いが見られるということか)
司:(中山、か……。 さっき台本をざっと見た時には見つけられなかったな)
司:(おそらく、それくらいの目立たない役なのだろう)
司:(だが、与えられたからにはどんな役も全力でやるのみ! さっそく台詞をチェックしなければ!)
司:(中山、中山……ん?)
司:『おはよう』
司:『またあの作家か?』
司:『仕方がないな』
司:…………
司:(脇役なのだから、台詞が少ないのは当然だが…… しかしこれは……)
司:どうやって役作りをすればいいんだ……?
司:(今までは——)
司:(役のセリフから、自分との共通点を見つけて、 そこをきっかけに役作りをしていった)
司:(だが、これだけでは……)
春名座演出家:では——今から読み込みの時間としましょう。 全員熟読の上、各々の立ち回りを考えてください。 時間は……30分
春名座演出家:それでは、はじめ
司:……!
司:(いや、悩んでいても仕方がない。 まずは内容を把握して、オレなりに考えていくぞ……!)
30分後
司:……ううむ……
司:(内容は理解できた。 しかし——)
司:(やはり……中山がどういう男かわからない。 わかるのは、文芸雑誌の編集者で、 それなりに同僚の日野と仲がいい……その程度のことだ)
司:(情報がなさすぎる。 これでは感情を重ねることはおろか、 具体的にイメージすることも……)
???:——すみません、遅れました!!
司:ん?
司:あれは——
第 3 话:獏野歴
春名座 アトリエ
春名座演出家:遅刻はいけませんよ、獏野くん
歴:す、すみません……。 バイトが長引いてしまって……
司:獏野……。 ということは……
司:(あれが、類が素晴らしい演技をすると言っていた、 獏野歴さんか)
春名座演出家:まあ、今回は大目に見ましょう
春名座演出家:先日お話ししたワンダーランズ×ショウタイムの皆さんが いらっしゃっていますので、先にご挨拶をお願いします
歴:あ、あなた達が……!
歴:えっと、すみません、稽古初日に遅刻をしてしまって……
歴:その、よろしくお願……あ、その前に、名前か……。 すみません、ちょっと慣れてなくて……
寧々:(……なんかちょっと、親近感わいてきたかも……)
えむ:(この人、最初に会った時の寧々ちゃんみたいだな~!)
歴:は、はじめまして……獏野、歴です……。 よろしくお願いします……
司:よろしくお願いします!
春名座演出家:獏野くん、このあと休憩をはさんで5分後に 読み合わせですが……できますか?
歴:は、はい。 大丈夫です……
司:ん? 類、どうかしたのか?
類:いや……さっき、彼の舞台を見て、 その時の演技が素晴らしかったと言っただろう?
類:今の彼を見ると……正直、その時の彼と同一人物とは思えなくてね
類:もちろん、僕が見たのは役を演じている獏野さんだから、 別人に見えるのは当たり前なのだけれど……
司:……ふむ……。 もしや、それほどの演技力がある、ということか?
類:ああ、そうかもしれないね
司:(それにしても……)
歴:…………て、…………だから、…………なんだ
司:(オレ達が30分かけて読んだ台本を 5分足らずで読まなくてはならないとは……大変だな)
司:(獏野さんの役——編集者の日野宗次も、 台詞がそこまで多くなく掴みづらそうな役だった)
司:(オレの演じる中山と同じように、 仕事の話ばかりをしていて——)
司:(最初のシーンは、 『困ります、岸さん』 『今回で最後です。次はありませんよ』だけだ)
司:(そのあとの掛け合いも、 そこまで目立った動きはないし……)
歴:——終わりました
司:(な……もうか? これだけしか情報がないのに、 役を演じるイメージができたというのか……?)
春名座演出家:それでは、今から読み合わせを始めます
春名座演出家:……ああそうでした、皆さん。 うちの読み合わせは、必要であれば動きを入れてかまいません。 あまり固くならず、自由にやってください
全員:『はい!』
春名座演出家:では、はじめ
春名座座員A:『——客間にある古びた蓄音機から、懐かしい音がしました』
春名座座員A:『そして、そのあたたかく美しい音色を聴いた時、 私は、自分の生を、ここで終わりにしようと思ったのです』
司:(……語りだけだというのに引き込まれる…… さすが春名座だな)
司:(いや、観客目線で見ている場合ではない。 目の前の芝居に集中せねば)
司:(——まずは、主人公である売れない小説家・岸の独白だ)
司:(そしてその直後、彼を取り巻く環境が見えてくる)
春名座座員C:『一郎! 連絡も寄こさないで、どういうつもりなんだい? お父さんは今もあんたが帰ってくるのを待ってるんだよ。 小説家なんて辞めて、さっさと家業を——』
春名座座員D:『岸さん、申し訳ないんだけれど…… 今度家賃を値上げすることになってねえ……』
春名座座員E:『最近この辺りをフラフラしている男がいるらしい。 ボサボサ頭に無精ひげで、身なりもみすぼらしくて…… ああ、御覧。ああいう男だ。みんな気をつけるんだよ』
司:(田舎に住む母には家業を継げと言われ、 家賃を滞納している下宿からは追い出されそうになり、 周囲にも疎まれている)
司:(そしていつも仕事をくれる編集者に、 締め切りを延ばしてくれと頼んだら ついに『次はない』と宣告をされる)
司:(——ここで、 獏野さん演じる編集者・日野が出てくるんだったな)
司:(一体どんな演技を——)
司:え……
歴:『困ります、岸さん』
春名座座員A:『そ、そこをどうにか……! あと3日あれば、原稿は必ず……!』
歴:『…………』
司:(……一瞬、誰なのかと思った……)
司:(さっきとまるで雰囲気が違う。 それに——)
司:(彼の動き、表情が……如実に物語っている)
司:(岸の締め切り延長の申し出は、今に始まったものではない。 そしてそんな岸に、日野はしびれを切らしている)
司:(……台本では、 『次はない』と見逃してもらえる)
司:(だがしかし、もしかすると……)
司:(岸はこのまま、 仕事を切られてしまうのでは——)
司:……っ
歴:『——今回で最後です』
歴:『次はありませんよ』
春名座座員A:『…………はい』
司:………!
司:(……そう……だ。 切られるはずはない。台本がそうなっているんだ)
司:(それなのに…… 『日野はもう、岸に見切りをつけてしまうんじゃないか』 という考えが頭をよぎった)
司:(内容がわかっている人間すら、 もしや、と思わせる——)
司:(なんという演技力だ……!)
寧々:(び……びっくりした……。 今、空気がガラっと変わったって言うか……)
類:(これは——相当な演技力だね)
類:(今までも、旭さんや、青龍院くんといった、 同年代の素晴らしい役者は何人も見てきたけれど……)
類:(この短時間で、ここまで質感をもった演技をするのは、 きっとあのふたりでも難しいはずだ)
司:(……いや、気を取られている場合ではない! 日野と中山の掛け合いは、間もなくだ!)
司:(台詞の口調からして中山はまだ若い男性だ。 が、慣れた様子から考えると、新人というわけではあるまい。 おそらく20代後半——)
歴:『——おはようございます』
司:(……よし、いくぞ!)
司:『おはよう』
春名座座員F:『日野くん、ずいぶん遅かったじゃないか』
司:『またあの作家か?』
歴:『ああ。 ……編集長、彼がまた締め切りの延長を申し出てきました。 今度こそギリギリかもしれません』
春名座座員F:『まったく……しょうがない男だな』
春名座座員F:『彼を使うのは、今月で終わりだ。 “白波”に彼のような作家は必要ない』
歴:『……わかりました』
司:『仕方がないな』
司:…………
司:(……ダメだ)
司:(会話を受けて返すことしかできていない。 獏野さんのように、中山という人間を見せることは……)
司:(いや……そもそも、 役として演じることができているのだろうか……)
春名座演出家:……………………
春名座演出家:それでは、本日の稽古はここまでです。 ありがとうございました
全員:『ありがとうございました!』
司:……はぁ
司:(公演に出させてもらえることにはなったが…… 今回も苦戦しそうだな……)
えむ:司くん、大丈夫? 顔がギュ~ってしてるよ!
司:ああ……。 またかなり悩むことになりそうだと思ってな
寧々:……うん。 それに周りは全員すごくレベルが高いし、 追いつくだけでも大変だよね
寧々:特に——獏野さんはすごかったな
類:ああ。 話の中では脇役のひとりに過ぎないが……、 彼の演技は素晴らしい
類:彼が動くと、役がひとりの人間として立ち現れる。 背後に、昭和の街並みまで見えてくるようだ
司:…………そうだな
春名座演出家:——天馬さん。 今、少しいいですか?
司:え? あ、はい! すまん、少し行ってくる!
寧々:あ、うん……
えむ:ほよ? 急にどうしたんだろ?
司:それで……なんでしょうか?
春名座演出家:実は天馬さんに、伝えたいことがありまして
司:伝えたいこと……?
春名座演出家:はい。まず—— 実は私は、事前にあなた達の公演を見させてもらっています
司:……!
春名座演出家:僭越ながら感想を述べさせてもらうと——
春名座演出家:天馬司さん。あなたには、光るものがあると感じました
春名座演出家:あなたの演技は、観客の胸に迫る。 これから役者として大きく羽ばたく可能性がある…… そう感じています
司:あ……ありがとうございます!
春名座演出家:ただ、その一方で——
春名座演出家:特定の役——感情が大きく変化する役でなければ、 演技が凡庸なものになるのではないか、とも感じました
司:え……
春名座演出家:そしてそれは……そう大きくは外れていないだろうと 考えています
春名座演出家:ということで、それを踏まえて、ひとつ課題を出します
司:(課題……!)
春名座演出家:今回天馬さんが演じることになった中山という男は、 昭和を生きる、平凡な人間です
春名座演出家:激しい戦争の中で人の心が芽生えるわけでもなければ、 フェニックスと絆を育み成長するわけでもない
春名座演出家:そんな、いたって平凡な人間を 『現実に存在している』と思わせてください
司:現実に……存在……
司:…………
春名座演出家:……相談には、いつでも乗ります。 頑張ってください
司:…………はい。 ありがとうございます
司:(いたって平凡な人間を 現実に存在していると、思わせる……か)
司:(たしかに……平凡な人間を演じてきたことは少ない。 強いて言えば、トルペが近いかもしれないが……)
司:(それでも、トルペはその心情を台本から拾うことができたし、 だからこそ、共通点を見いだして心を重ねることができた)
司:(だが中山は……それすらも難しい)
司:……ほとんど、ヒントがない状態だな……
司:(となると、やはり……)
司:(手本とすべき人間から学ばなければ)
司:——よし……!
第 4 话:天性の才能
春名座 アトリエ
えむ:司くん、遅いねえ~。 寧々ちゃんが練習に戻ってから、けっこうたつのに……
類:そうだねえ。 僕達もそろそろ制作部を見学しに行く時間だから、 一声かけておきたいけれど……
類:しかし……制作部や演出部を見せてもらえるのはありがたいね。 なかなか見る機会がないものだし
えむ:うんっ! いっぱい見学して、いっぱい勉強するぞ~っ!!
春名座演出家:お疲れさまです。これから制作部の見学ですか?
えむ:……あ! 加藤さん!
類:はい。いろいろと勉強させていただこうと思っているのですが…… 司くんとご一緒では?
春名座演出家:おや? 天馬さんですか? 先ほど別れたので皆さんのところへ戻ったかと思ったのですが…… もし見かけたら、伝えておきますね
類:そうですか……ありがとうございます
類:あの……すみません。 ついでと言ってはなんですが……ひとつ伺ってもいいですか?
春名座演出家:はい。なんでしょうか
類:こちらの役者である、獏野歴さんについてなんですが……
類:なぜ……主要な役ではないのでしょうか?
春名座演出家:…………
類:……もちろん皆さんの演技は、とても素晴らしいです。 しかしその中でも獏野さんの演技力は、頭ひとつ抜けていて……
類:あれほどの演技力があるなら、 主役の岸が抱える苦悩も表現できるはずです。 そう思ったら、疑問がわいてきてしまって……
春名座演出家:……そうですね。 私も、常々疑問です
類:え?
春名座演出家:当初は私も、獏野くんを岸役にと推していたんです。 ですが——
春名座演出家:獏野くんはやりたがらないんです
春名座演出家:絶対に——主役を
類:主役を……やりたがらない?
歴:…………して…………だと言うなら…………
寧々:(獏野歴さん……。 あの人の演技……自然と目が吸い寄せられた)
寧々:(ああいう演技ができるようになったら……ううん、 ああいう演技をするヒントをもらえるだけでも 成長できる気がする)
寧々:(さっきからずっと隅っこで台本読み込んでるから、 正直、話しかけづらいけど……)
寧々:(でも、ちょっとわたしとタイプが似てそうだし…… 役者としてレベルアップしたいなら、 自分から動いていかないと……!)
寧々:あ、あの……!
歴:………………なのかも………………が…………
寧々:(……え? む、無視? いや……さすがに聞こえてないだけだよね)
寧々:あ、あの…………!!
???:獏野さーーーーーーーーん!!!!
寧々・歴:『えっ?』
歴:えっと、今、誰か僕の……
司:獏野歴さーーーーーーーーん!!!!
歴:う、うわあ!!!!
歴:あ、あれ? あなたはえっと……ワンダーランズ×ショウタイムの……?
司:はい! 天馬司です! 改めまして、お見知りおきを! 天馬という字は、天翔けるペガサスと書き——
寧々:あーもーうるさ~~い!!!!
司:む? なんだ寧々、いたのか。類達はどうしたんだ?
歴:あ、え、えと……?
寧々:ふたりは制作部と演出部を見に行ってるの! それより、割り込みしないでよね!
司:割り込み?
寧々:わたしが先に獏野さんに話を聞こうとしてたの! あんなすごい演技どうやってやるのか——
歴:え? そ、そう——
司:おお! ならばオレ達の目的は一緒だったというわけだな! オレも今ちょうど、話を聞きたいと思って来たのだ! 共に獏野さんの演技の真髄を聞こうではないか!
司:というわけで獏野さん! ぜひお話を——!!
歴:ええと、その……!!
歴:そ、その前に、 もうちょっと声のボリュームを落としてもらえると…… 嬉しいです……
司・寧々:『あ……』
寧々:本当にすみませんでした。 ふたりして騒いでしまって……
司:大変申し訳ありません!
寧々:だから声を抑えてってば……
歴:あはは……これくらいなら大丈夫です……
歴:それで、えーっと…… 演技について……でしたっけ?
司:はい!
司:自分も獏野さんのような、 人間らしく深みのある演技をできるようになりたいと思い…… どのようにやっているのか、教えて頂きたいんです!
歴:人間らしい……か
歴:それは……
歴:正直……自分も感覚でやってるから、 どう伝えればいいのか、わからなくて……
寧々:え?
歴:台本を読むと、なんとなくイメージが浮かんでくるんです。 ああ、こんな人だろうなあって
歴:あとはそれをやってみて…… 加藤さんに演出をつけてもらったら、 それに合わせて調整していく感じ……かな
司:ほ……本当にそれだけなんですか?
歴:……はい。 他はみんなと同じ稽古をしていますし、 何か特別なことをしてるってわけじゃないですね……
司:(…………特別なことを、していない? あんな演技ができるというのに……?)
司:(では——)
司:(これが、天性の才能というものなのか……?)
司:(……いや! もう少し話を聞いてみよう! そうすれば何かヒントが見つかるやもしれん!)
司:すみません、あともう少しだけ、 質問させてもらってもよいでしょうか!
歴:は、はい…………。 役に立つかはわからないですけど……
司:結局……何もわからなかったな……
歴:ご、ごめんなさい。 あまり力になれなくて……
寧々:あ、いえ……獏野さんは悪くありません。 わたし達がまだまだなだけで
寧々:今日は自主練習の時間を割いてくださって 本当にありがとうございました
司:……ありがとうございました!
歴:い、いえ。 こちらこそ……おふたりと話せて楽しかったです
司:(……獏野さんは 穏やかで、とてもいい人だな)
司:(しかし……結局ヒントを得ることはできなかった)
司:(3つの台詞で……感情もよく見えない。 そんな役に、獏野さんほどの存在感を持たせるには……)
司:(ええい! 答えが出ない時は、行動して切り拓くのみ!)
司:(今回の課題を乗り越えるために——全力を尽くすぞ!!)
第 5 话:人生という物語
春名座 アトリエ
歴:…………でしょう…………けれど…………
春名座演出家:——獏野くん。 間もなく戸締りしますよ
歴:あ……! ギリギリまで粘っちゃってすみません。 台本読むの、楽しくなっちゃって……
春名座演出家:獏野くんが熱心なのはいつものことですから、 気にしませんよ
春名座演出家:それより——
春名座演出家:短編映画の主演についての返事は、 決まりましたか?
歴:あ……。 加藤さんも、キャスティングに参加されているんですよね……
春名座演出家:ええ。監督に言われました。 できれば君を説得してほしいと
歴:……気持ちはすごく嬉しいです。 僕なんかを主演に推してくださって……光栄です
歴:ですけど、やっぱり僕は——
歴:彼らに——日陰にいる役達に、光を当てたいんです
2週間後
ワンダーランドのセカイ
えむ:それじゃあ、みんないくよ~!! 見ててね~!!
ミク・リン・レン:『お~っ!!』
類:では——はじめ
寧々:『……あの作家先生、 珈琲1杯でどれだけ粘るつもりなのかしら』
えむ:『あら! あの隅の席に座られている方、小説を書かれているのね! 素敵だわ!』
寧々:『素敵なもんですか。 机にかじりついて、日がな一日夢想する仕事だなんて』
寧々:『それで、できるのは人生がどうだ社会がどうだ…… そんな憂鬱な作り話なのよ。なんの役にも立たないわ』
えむ:『そんなことないわ! そういった言葉のひとつひとつが巡り巡って 世のため人のためになるのよ!』
類:(——あれから2週間)
類:(文献にあたったり、昭和の物品を集めた資料館に行ったりして、 時代背景を固めながら役作りを進めてきた)
類:(その甲斐あって、 えむくんも寧々もいい調子だ)
類:(元々、夢見がちな千代と現実的な百合子は ふたりにぴったりの役だったということもあるけれど……)
類:(ふたりの課題であった発声と所作についても、 ちゃんとクリアできている)
類:(あとは——)
司:…………
類:(司くんが言い渡された課題については、 この前聞かせてもらったけれど——)
類:(さすがプロの演出家は違うね。 司くんの弱点をすぐに見抜いてしまった)
類:(果たして、 掴みにくい役に対してどこまでアプローチできるか……)
類:——司くん、調子はどうだい?
司:おお、類か。 そっちは一段落したようだな
司:こちらは……正直、かなり難航している
司:あれからいろいろ考えてみて、中山がどんな人物なのか、 想定を持って演じるのがいいのではないかと思ってな。 だが——
司:どうにもしっくりこない。 加藤さんも『まだまだやれるはずだ』と言っているし……
類:ふむ……。 ちなみに、今の想定を聞かせてもらってもいいかな?
司:ああ。 中山は文芸雑誌『白波』に勤める編集者で…… 年齢は30代と仮定した
司:日野に比べると軽い口調だし、 主語のない台詞からも、少々適当な性格だろうと思っている
類:なるほど。 方向性としては問題なさそうだね
司:ああ。実際そこまで想定したら、 なんとなくセリフがのってきたから 何度か演じてみているんだが……
司:それでも、何かが違う気がする
司:……もしかすると、実はもっと年がいっているのか?
司:しかしそれにしては、悩んでいる日野に対して 淡白な印象もある……ううむ
類:(……これは、大分行き詰まっていそうだね)
類:(何かアドバイスをしたいところだけれど——)
類:(……司くんは今、獏野さんの演技をイメージした上で、 自分なりにどう演じるかを模索している)
類:(ここで僕が横やりを入れると、逆に混乱を生む可能性が高い。 ……だから……)
類:(——ここは、我慢どころだね)
翌日
司の部屋
司:……はぁ
司:(今日は稽古が休みだから、 役についてとことん考えようと思ったが……)
司:早速、八方ふさがりになってしまったな……
司:(今オレは、これまで得た知見をもとに、 中山という人間を考えて演じている)
司:(だが……どんなに考えても、 獏野さんのように人間としての 深みを持たせることができない……)
司:(なぜだ……。 一体何が足りないのだ……)
司:はぁ~~~~~~
司:……いかんいかん! このままでは部屋にため息が充満してしまう!
司:……そういえば、いつも走っている公園に 新しいカフェができていたな
司:ここはひとつ、気分を入れ替えるとするか!
公園のカフェ
司:おお……。 天気がいいのも相まって、なかなかいい雰囲気だな
司:よし! せっかくだし、席はテラス席に…………ん?
司:(……どうも不審な男がいるな。 通行人をチラチラと見ながら、 ノートに何かを必死に書いている……)
司:(これは、ことと次第によっては警察を呼ばねば……。 しかし、どこかで見たことがあるような気も……)
司:……! あなたは——獏野さん!?
歴:あ……! 天馬さん!
歴:こ、こんなところで奇遇ですね……
司:ええ、役作りの息抜きに来たんです
司:あの……失礼ですが、 獏野さんは何をされてたんですか?
司:ノートに何かを書かれているように見えたのですが……
歴:え? あ、えっと……ちょっと趣味を……。 ……へ、変な趣味だから恥ずかしいんですけど……
司:そうなんですか? 一体どんなことを?
歴:えーっと……人間を見るっていうか……
司:なんと! 人間観察ですか! それはもしや、役を掴むために!?
歴:あ、いや! そういうのじゃないんです! ホントにただただ趣味で…………
歴:じゃ、じゃあ僕はこれで……
司:——待ってください!
司:よかったら、そちらのノートを見せてもらえないでしょうか!
歴:え……えっ、え!? ど、どうしてですか!?
司:実は今、役作りに行き詰まっていまして、 何かひとつでも、ヒントがほしいんです!
司:獏野さんのように、 役に深みを与えるような演技をするためにも——!
歴:ぜ、全然、役作りとかに使えるかっていうと どうかなって感じなんですけど、その……
歴:…………す、少しだけでしたら…………
司:本当ですか!? ありがとうございます!!
歴:……内容は周りの人に言わないでもらえると嬉しいですけど…… ……どうぞ
司:(……なんとも使い込まれたノートだな。 しかもページはほとんど埋まって……)
司:……!
司:(『——男性。推定60代。紳士的な服装。美しい姿勢で歩く。 柔和な雰囲気だが、時折真剣な表情で周囲を見渡す様子が印象的。 誰かを探しているのか』)
司:(『探しているとすれば誰を? 真剣な様子から見るに、 おそらく重要な人物。家族か長年の友か。もしくは彼らのために 必要な人物か。いや案外いなくなった彼の犬か』)
司:(『もしかすると、彼はある日忽然と失踪した妻を、 何十年にも渡って探しているのかもしれない。 彼と妻の出会いは、今から40年前に遡り——』)
司:これは…………
司:(『——女性。推定40代。青白い顔をしている。内臓に不調が あるのかもしれない。仕事によるストレス? 身なりからするに 大企業で、責任のある役職を任されているのかもしれない』)
司:(『ただ、あの青白い顔は仕事によるストレスだけだろうか? 彼女を悩ませているのは、もしかしたら、深夜にかかってくる 不審な1本の電話であるかも——』)
司:……まさか……
司:通行人を見て—— そこから物語を考えているんですか?
歴:も、物語なんて……! そんな大したものじゃないですよ
歴:なんていうか…… 『この人はこういう人生を送ってきたんじゃないかな』って あれこれ考える……っていうか、妄想するのが好きで……
司:人生を……妄想……
司:(それは、もしかすると——)
司:(オレが今まで——トルペやリオの時にやってきた役作りと 似ているのではないだろうか?)
司:(いや、しかしそこには大きな差がある。 オレは台本の中に書かれたさまざまな台詞を元に、 環境や感情を考えることができた)
司:(しかし、獏野さんは、ほんのわずかな情報からでも、 その人の人生の『物語』まで考えている)
司:(獏野さんは、日常的にこういった『物語』を考えているからこそ 深いレベルで役を掴むことができるのではないだろうか?)
司:(……そうか! ならばオレも、同じように『物語』を作っていけば——!)
歴:あ、あの……そろそろ……
司:あ、すみません! ありがとうございました!
歴:いえ……。何かの役に立ったなら幸いです。 まあ、多分そんなことないでしょうけど……
司:いえ! とても参考になりました!
司:ちなみに——獏野さんは、 どうしてこういった趣味をやろうと思ったんですか?
歴:あ……まあ、変わってますよね
歴:…………正直、始めようと思って始めたわけではなくて、 昔からの癖、みたいなものなんです
司:癖?
歴:はい。 たしかあれは……小学生くらいの時だったかな……
歴:いろいろあって僕は…………話し相手がほしかったんです
司:え?
第 6 话:あの日の想像力を
公園のカフェ
司:話し相手がほしかった……?
司:ええと……。 話し相手がほしいことと、この人間観察ノートは、 一体どういう関係があるんでしょうか?
歴:あ……えっと…… ちゃんと話すと、結構長い話になってしまうんですが……
司:かまいません! 聞かせてください!
歴:それじゃあ少しだけ……かいつまんで、お話しします
歴:——これを始めたのは、 先ほどお話ししたとおり、小学生の頃からなんですが……
歴:その頃、僕は……ちょっと寂しかったんです
司:寂しい?
歴:はい。僕の家は、両親があまり仲良くなくて……。 それに両親とも仕事をしていたこともあって、 小さい頃は、ほとんど家でひとりで過ごしていたんです
歴:あと、こんな引っ込み思案な性格だから、 友達も全然いなくて……
歴:だから、ずっと会話に飢えていました。 それで……
歴:寂しさをまぎらわすために、 自分で話し相手を『作る』ようになったんです
司:話し相手を……作る……
歴:はい。 最初は、物語の登場人物と話せたらいいなって思って…… 本の中の彼らと会話をしていました
歴:そうやって、シンドバッドや、アリスや—— 本に出てくるいろんな人間……人間以外のものとも、 たくさん、たくさん話しました
歴:本当に、ただの妄想ではあったんですけど——
歴:彼らの気持ちを考えて会話をするのは、 とても……とても楽しかったです
歴:そうやってるうちに、いつの間にか、その辺りを歩いてる人を見て あれこれ考えるようになって……
歴:その人がこうだったらおもしろいなとか、 そういうことをこのノートに書き溜めるようになったんです
歴:だから、その…… これは、その人達と会話するために必要なものなんです
司:(…………そうだったのか)
司:(獏野さんは『誰かと話したい』という想いから 長いあいだ、あらゆる人間の—— 本当に存在するかわからない人生まで想像していった)
司:(その想像力があったからこそ、 役を深い部分まで掴むことができるのか……)
司:(だが、そうなると——)
司:(これは一朝一夕でどうにかなるものではないのではないか?)
司:(獏野さんのように、その役の『物語』を考えれば ある程度、役への理解を深めることはできるだろう)
司:(しかし獏野さんの想像力は、 幼い頃からの境遇によって育まれてきたものだ)
司:(オレの想像力では、 中山という人間について考えられることは あまり多くないのでは…………)
歴:あ……すみません、こんなつまらない話を長々と……!
司:あ、いえ! そういうわけでありません! ただ……やはり、このノートは役作りの役に立っているのだと 思っていたんです
司:おかげで獏野さんが素晴らしい演技を—— どんな役でも輝かせる演技をすることができる理由が、 わかりました
歴:輝かせる……
歴:……そういってもらえると、すごく嬉しいです
司:え?
歴:あ、えっとその……
歴:僕……昔から、脇役に感情移入をしてしまうんです
歴:ひとり芝居でない限り、舞台には脇役が必要です。 でも……実際に目立つのは主役や主要人物達で…… 脇役のことは誰も気に留めません
歴:それは仕方のないことだと思うんですけど…… でも僕はいつも彼らのことを考える時、 『似てるな』って思ってしまうんです
歴:誰にも注目されない…… 昔の僕みたいだなって
司:……獏野さん……
歴:だから自然と、『僕の演技で彼らに光を当てたいな』って——
歴:『脇役達にもちゃんと人生があるんだっていうことを、 もっと知ってほしいな』って思って、 脇役ばかりやるようになったんです
司:……! それで今回も、あの役に……?
歴:……はい
歴:……でも最近は主演のオファーをもらうことも増えてきて…… 映画とかにも声をかけてもらえるようになったんです
司:え、映画の主演としてですか!? それはすごいですね……!
歴:……はい。 実際、それはすごく……本当にすごく嬉しいんですけど、
歴:でも僕はやっぱり『彼ら』が気になってしまって
歴:そういうわけで……お断りすることが続いてるんです
司:……そうだったんですか……
司:(……いち役者としてはうらやましい限りであるし、 獏野さんが主演の映画もぜひ見てみたいが……。 本人がそう考えているなら、仕方ないのだろうな……)
歴:……話が脱線しちゃいましたね。 えっと、少しはお役に立てましたか……?
司:あ、はい! とても参考になりました
司:ありがとうございました、獏野さん
司の部屋
司:(……あれからいろいろ考えてみたが)
司:(獏野さんのように役に近づくのであれば…… やはり想像力が足りない)
司:(オレは、役者でありながら、 誰かの人生を想像することはほとんどなかった)
司:(それよりも——)
司:目の前の人間を笑顔にすることばかり考えていた
司:……それはオレにとっての原点だ。 何ものにも代えられん
司:だが、役者として、スターの階段を上りたいと願うなら もっと想像力も鍛えるべきだったな
司:——しかし、考えるべきはこれからだ。 オレもこれからは獏野さんと同じように、 本を読み、人を見て、想像力を鍛えていこう
司:(だが……結局、目下の問題はまだ解決できていない)
司:(獏野さんのように、その役の『物語』を考えれば ある程度役を深めることはできるだろう)
司:(しかし——やはりオレの貧しい想像力では、 中山という人間について考えられることはあまり多くない。 ……そんな気がする)
司:……まったく、やってみる前からこの調子ではいかんな
司:そうだ、こういう時は——
ワンダーランドのセカイ
司:——いつ来ても、ここの景色は美しいな
司:下り坂になっていた気持ちも、 上り坂になるというものだ!
司:しかし、さすがにこの時間となると、 ミク達の姿は見えないな。 全員もう寝て——
司:ん? なんだこの音は? まるで車のような——
???:あ! 司くーん! よく来たわね~!
司:この声は……どわーっ!!!!!
司:メ、メイコ! なんだそれは!!
MEIKO:何って、オート三輪よ? 昭和初期にはいっぱい走ってたって、司くんも知ってるでしょう?
司:それはそうだが、そういうことではなく……!
うさぎのぬいぐるみ:ツカサクン! コンバンハ!
司:おお、お前もいたのか! 影になっていて気づかなかったぞ
うさぎのぬいぐるみ:オート三輪、トッテモ楽シイ! ツカサクンも、一緒にノロウ!
司:それはいいんだが……。 これは一体どうしたんだ?
MEIKO:ほら、今みんな、昭和を舞台にしたお芝居の練習を しているでしょう?
MEIKO:私達もみんなと同じ時代を舞台にしたショーをやったら、 ちょっと理解が深まるんじゃないかって思ってね
MEIKO:それで、その辺りに散らばってる道具を使って、 似たものを作ってみたのよ!
司:つ、作っただと……!? これを……!?
司:……まあ、空飛ぶ汽車まであるセカイだから、 それぐらいのことはできるのかもしれんな
司:だがまあ、楽しそうで何よりだ。 そういう姿を見ると、オレも元気が出るというものだ
MEIKO:え? なになに? 司くん、元気じゃなかったの?
司:元気じゃないというほどではないが……。 まあ、また難題にぶつかって、あれこれと悩んでいてな
うさぎのぬいぐるみ:ツカサクン……
うさぎのぬいぐるみ:——ソレジャア、一緒にショーをヤロウヨ!
司:む、む!? それはまた急な提案だな!
うさぎのぬいぐるみ:ダッテ、ツカサクン、 チョットションボリシテルカラ……
うさぎのぬいぐるみ:ツカサクン、昔、『うさぎの大冒険』ッテイウ、 オリジナルのショーを考エテクレタコト、 覚エテル?
司:うさぎの……。 ああ、そういえばそんなこともあったな
MEIKO:『うさぎの大冒険』?
うさぎのぬいぐるみ:ウン!
うさぎのぬいぐるみ:ワタシが主役のオ話をイッパイ作ッテクレタノ! アノ時、トッテモ嬉シカッタヨ!
MEIKO:へえ! あなたが主役だったのね! それってどんなお話なの?
司:フッフッフ! それはそれはロマンあふれる大活劇だ!
司:仲間と共に荒海を超え、怪物の住む島に辿り着き、 そうして財宝を——
司:財宝を……
MEIKO:どうしたの? 司くん
司:…………そうだ
司:(オレはかつて、このうさぎのぬいぐるみを主人公にして、 即興で話を作っていった)
司:(……その数も質も、 獏野さんとは比べものにはならないだろうが——)
司:(獏野さんが道行く人達に物語を与えたように 考えていたのだ)
司:(そして、それができたのは…… このうさぎの人生そのものを—— このうさぎを『主役として』考えていたからで……)
司:……そうか! 主役だと思って考えればいいのか!
MEIKO:え?
司:オレはずっと、話の内容や時代背景に沿って、 人物の設定を考えていた
司:だが——『それだけ』だから、 生き生きとしてこなかったんだ
司:オレは中山を、脇役と—— 言ってしまえば、物語を動かすための 舞台装置のような感覚で見ていた
司:けれど、そうではないのだ。 脇役にも人生がある。中山の人生では中山が主役のはずだ
司:そう考えれば、『おはよう』という台詞すら変わっていく。 中山の人生の、どこの部分の切り取りかで、 演じかたは変わるからだ
司:つまりオレは—— 『中山が主役となる物語』を、考えてみればいいのだ!
司:『台詞が3つしかない脇役』を、 『別の物語の主人公』として考える……
司:それならば、獏野さんのように細部まで考えられる気がする……! よし、早速実行だ!!
MEIKO:えーっと、なんだかよくわからないけど……
うさぎのぬいぐるみ:オテガラ?
第 7 话:みんなで紡ぐ物語
乃々木公園
えむ:えーっとえーっと、それじゃあ次は——
えむ:『実は宇宙からやってきて、 地球のことを調べてる中山さん』はどうかな!?
寧々:それはさすがに突飛すぎでしょ……
類:そろそろいいアイディアを出すのも難しくなってきたねえ
えむ:う~ん。 獏野さん、まだかな~?
司:おそらく、もうすぐだろう。 先ほど駅の辺りにいると言っていたから——あ!
司:獏野さーん! こっちです!!
歴:あ、天馬さん——
歴:あれ? ワンダーランズ×ショウタイムの皆さんも……?
えむ:獏野さん、こんにちは~っ!
類:急にお呼びたてしたにも関わらず、 来てくださって本当にありがとうございます
歴:あ、いえ、そんな大したことは……! たまたまこの公園がランニングコースだったから来れただけなので
歴:それで、えっと……電話では、 『役作りを手伝ってほしい』と聞いたんですが……
司:はい! ズバリ——
司:編集者・中山が主役の物語を、 一緒に作っていただきたいのです!
歴:え?
寧々:ちょっと司。 いきなりそんなこと言われてもよくわからないでしょ。 ちゃんとイチから説明しないと
司:む、たしかにそれはそうだな。 実はですね——
歴:脇役を、主役に……
司:はい! それがオレの役作りには必要なことだと考えているんです!
司:ただ、獏野さんから伺ったことを参考に、 何本か中山の人生の物語を作ってみたのですが どれもあまりしっくりこなくて……
歴:……ちなみにそれ、 見せてもらってもいいですか?
司:はい! こちらです!
歴:え……。 ルーズリーフがこんなに……
歴:これ……何本くらい書いたんですか?
司:ざっと50本です!
司:あ、ただオレだけで書いたわけではなく、 類達にも手伝ってもらいました。 オレはまだまだ人間に対する想像力がないので
司:それで、数はたくさん出たんですが…… どれもいまいちピンとこず
司:ぜひとも、役の人生を想像するプロの獏野さんに ご意見を伺いたいと思ったんです!
歴:ぷ、プロって…… そんな大したものじゃないですよ……!
類:ちなみに、今までの中で最もしっくりくるのは、 この1本です
えむ:え~っとこれは……
えむ:『本の知識にすっごく自信があったのに、 日野さんはもっと詳しくて有名な作家さんの担当をしてるから、 勝手にライバルだと思ってる中山さん』だよね!
司:ああ。その前提を持つと、 あの3つのセリフの言いかたや動作も大分変わったな
司:『おはよう』 『またあの作家か?』 『仕方がないな』……となる!
歴:あ……
歴:すごい……! 稽古の時とはグッと変わって、おもしろいですね!
歴:中山が日野をライバル視してるってことは、 何か、コンプレックスがあるんですかね? もしかしたら、日野とは同期で比べられてきたとか……
歴:あ、仕事で出しぬかれたとか、 因縁があったりして……!
司:あ……出しぬかれる展開は、 この中山の物語の中盤にくるイメージでした!
司:彼は、さる作家の担当になりたいと願うのですが、 それも日野にとられてしまいます
司:失意に暮れる中山……! だがそんな時! 彼は少女向け漫画雑誌の編集にならないかと声をかけられます!
司:中山は文芸誌の編集としては花開かないものの、 思い切って転身、駆け出しの女性漫画家を担当し、 少女漫画の編集として大活躍するのです!
歴:なるほど……! すごくいいですね……!
歴:あ、でもせっかくならやっぱり、 そこに至るまでの確執はもっと見たいな……。 たとえばですけど——
歴:中山の持つコンプレックスを変えてみるのはどうでしょう? 例えば、自分でも小説を書いていたが編集する側に回ったとか、 その昔、恋敵になったことがあったとか……
歴:思い切って年齢を上げてみるのもおもしろいかもしれません。 年上ならなおさら、年下の活躍にプライドを刺激されそうですし
司:たしかに……! ちょっとしたことひとつで、 日野への対応はかなり変わってきそうだ……!
えむ:すご~い! アイディアがどんどん出てくるね!!
類:なるほど……。 これはたしかに、すごい想像力だねえ
歴:……でも、これもいくつもある可能性のひとつにすぎないから…… もうちょっとアイディアを持っておくといいかもしれません
司:なるほど……ならば——!
司:『かつて中山は日野の指導者的ポジションだった』 という設定はどうでしょうか? 最初は、初めてできた後輩を可愛がっていたとか——
歴:ああ、いいですね! あとは——
えむ:……えへへっ! ふたりとも、す~っごく楽しそうだねっ♪
類:ああ……
類:これは——いいものができあがりそうだねえ
数時間後
司:『——日野』
司:『どうだった。 俺が編集を務めた少女漫画は』
歴:『……あなたが私に感想を聞くとは思いませんでした』
司:『聞きたいんだ。 お前からの率直な意見を』
歴:『……私は、 こういったものはあまり読んでこなかったのですが……』
歴:『少女漫画というものは、 おもしろいものですね』
司:『…………!』
類:——うん! いいシーンだったよ
類:司くん自身が、 中山という男にしっかりと自分を重ねることができていた。 それに、日野との掛け合いもとても自然だった
司:ほ、本当か!?
えむ:うんうんっ! バッチリだったよ司くんっ!
寧々:中山の努力が実ってよかった……って こっちも思えたしね
司:や……やったぞーーーー!!
司:獏野さん! ありがとうございます! おかげで納得のいく中山の物語を作れました! あとはこれを体に叩き込んで、中山をものにしていきます!
歴:……うん、どういたしまして。 …………
司:ん? 獏野さん、どうかしましたか?
歴:あ……ううん。 ただちょっと——
歴:こんなに楽しいのは久しぶりだったな……って思って
司:獏野さんも笑顔になれたのなら、 オレも嬉しいです!!
歴:……あはは、そんなにまっすぐ言われると、照れちゃいますね
えむ:えへへっ! 獏野さん、ニコニコだね!
類:ああ、そうだね
歴:天馬さん。 それに……ワンダーランズ×ショウタイムの皆さん
歴:本番まで、一緒に頑張りましょう!
司・寧々・えむ・類:『はい!』
第 8 话:役に“なる”瞬間
本番当日
春名座 アトリエ
えむ:わ~……! お客さん、いつもと全然違う感じだね……!
類:ああ。 ご年配の方や、ひとりで来てる人が特に多いね。 これも春名座ならではの——
類:おっと……。 ふたりとも、もうすっかり集中しているね
類:えむくん、僕達も頑張ろう。 この舞台をいいものにするためにね
えむ:うんっ!
寧々:……よし。 ちゃんとイメージできたから、大丈夫
寧々:頑張らなくちゃ。 ——司に負けてられないしね
司:……………………
司:(中山は——日野よりも3つ年上の28歳だ)
司:(博多出身で、高校では一番の学力。 人気者で爽やかだが、プライドが高く負けん気が強い)
司:(大正15年に入社し、文芸誌『白波』の編集者として働き出す。 ……クールで仕事のできる後輩の日野にライバル心がある——)
司:(……この“物語”は、体に繰り返し叩き込んだ)
司:(——集中しろ)
司:(これから、中山の人生の物語の1ページを見せるんだ)
春名座座員A:『——客間にある古びた蓄音機から、懐かしい音がしました』
春名座座員A:『そしてその華やかで美しい音色を聴いた時、 私は、自分の生を、ここで終わりにしようと思ったのです』
類:(……始まったね)
類:(司くんの出番は、前半すぐだ)
類:(岸との会話のあと、日野が編集部に戻って来る)
日野:『……はぁ、どうしたものか。 ともあれ、報告しなければ』
日野:『——おはようございます』
類:(そんな日野に対して、中山は——)
中山:『おはよう』
春名座座員F:『日野くん、ずいぶん遅かったじゃないか』
中山:『……ああ、またあの作家か?』
日野:『ああ。 ……編集長、彼がまた締め切りの延長を申し出てきました。 今度こそギリギリかもしれません』
春名座座員F:『まったく……しょうがない男だな』
春名座座員F:『彼を使うのは、今月で終わりだ。 “白波”に彼のような作家は必要ない』
日野:『……わかりました』
類:(司くん、もしかすると——)
中山:(……いい気味だ)
中山:(淡路先生の担当に選ばれて、 調子に乗っているからこういう目に遭うんだ)
中山:(……せいぜい、あの神経衰弱気味の作家に振り回されて、 苦しめばいい)
中山:『——仕方がないな』
類:(やはり……! 通し稽古とはまるで違う……!)
類:(あの表情や動きは台本にあるものじゃない)
類:(中山として気持ちが動いたからこそ、生まれたものだ)
類:(司くんは今……中山に“なっている”んだ)
類:(……だが、あれは……)
日野:『……印刷所に行ってきます』
公演後
春名座演出家:——皆さん、 この度はお疲れさまでした
全員:『お疲れさまでした』
春名座演出家:皆さんにはそれぞれ、 今回の課題をお伝えしていたかと思いますが——
春名座演出家:それについて、私なりの評価を お伝えしたいと思います
春名座演出家:まず岸役の矢田くんですが——
春名座演出家:次に、百合子役の草薙さん。 『動作が小さくならないよう気をつけつつ 演技を自然に見せる』という課題はクリアできましたね
春名座演出家:ただし、油断すると小さくまとまろうとしてしまうので、 引き続き、観客を意識して動くことを大事にしていってください
寧々:は、はい……! ありがとうございます!
春名座演出家:そして最後に——中山役の天馬さん
司:は、はいっ!!
春名座演出家:天馬さんは——
春名座演出家:芝居の中で、存在が浮いていました
司:……!!
類:(……加藤さんの指摘は正しい)
類:(今回司くんは、 中山という役をリアルに演じることに集中していた。 そしてその代償として——)
類:(必要以上に役が立ってしまった)
類:(……役者は、ただ役に没頭すればいいというものではない)
類:(芝居全体の流れをとらえて、 シーンで見せるべきものを見せるため、 時には存在感を抑える……そういった選択をする必要もある)
類:(練習の中で、何回かその話はしていた。 実際司くんも、練習ではバランスをとっていた)
類:(だが今日は…………入り込み過ぎてしまっていた)
春名座演出家:あの瞬間の天馬さんは、 確実に、岸よりも目立っていました
司:…………っ
司:(…………たしかに、そうだ)
司:(オレは演じ切ることばかりに気を取られて、 本来必要な、芝居全体を見せるという役割を 蔑ろにしてしまっていた……)
春名座演出家:しかし——
春名座演出家:あの短いシーンの中で、 私は彼の人生を感じ取ることができました
司:え……
春名座演出家:なので、今回の課題はクリアです。 次は、演技の熱量を落とさず、芝居全体の流れを読んで動く—— それを両立することに挑戦してください
春名座演出家:簡単なことではないですが……。 頑張ってくださいね
司:あ…………
司:ありがとうございます!
えむ:司くん、おっめでと~!! パパパンパンっ!!
司:おめでとう……と言ってもらえるほどの出来ではなかったがな。 結局、オレの演技は芝居から浮いてしまっていたわけだし……
寧々:でも……ちゃんと一歩は進めたんだから、 それは受け止めていいんじゃない?
類:ああ。 司くんは、自分の殻をやぶることはできていたよ
司:お前達…………!
歴:天馬さん! 皆さん!
司:あ……獏野さん! お疲れさまです!
歴:……お疲れさまです。 今回の公演、皆さんのおかげでとても楽しかったです。 それから——
歴:ありがとうございました
司:え? お礼を言うのはこちらのほうであって……
歴:そんなことないです。 天馬さんと出会って僕は——
歴:主役をやってみようって思えました
司:え……?
歴:……僕は、前にお話ししたとおり、ずっと 『日陰にいる彼らにもっと光を当てたい』と思って演じてきました
歴:でも——天馬さんとやりとりをしてるうちに、思ったんです
歴:主役とか、脇役とか、 そんなこと……どうだっていいんじゃないかって
歴:僕はただ役と—— 彼らの人生と向き合って演じるのが楽しかったんじゃないかって
歴:それに、それぞれの人生を生きている彼らを、 主役だとか、脇役だとか言って区別してしまうのは それぞれの人生を生きる彼らにも、失礼なんじゃないかって思って
司:獏野さん……
歴:だから、一度は断ってしまったんですけど…… ——こちらからお願いして、 映画の主演をやらせてもらうことにしました
司:え……! 本当ですか!?
歴:はい。 天馬さんのおかげで、決めることができました
歴:だから——ありがとうございます
司:獏野さんの力になれて、光栄です!!
司:(……今回は助けてもらうばかりで、 役者として、舞台上で成果を出すことはできなかったが……)
司:(またひとつ、前に進むために必要なものを 得ることができた)
司:(それに——)
司:(獏野さんを、笑顔にできてよかった)
司:(——うむ! この経験を糧として……また一歩、前進していこうではないか!)
歴:あ、そういえば……
類:どうかされましたか?
歴:僕が今度出る映画のキャストは、 春名座から何人か出ているんですけど……
歴:ちょうど今、エキストラも募集をしているんです。 なので、もしよければ—— 皆さんも、応募をしてみてはどうでしょうか?
えむ・寧々:『えっ?』
司・類:『映画に……!?』