活动剧情
逆光のレンズフレア
活动ID:119
第 1 话:次なる舞台は…
横浜
類:……ついに来たね
寧々:うん……
司:ここが、今回の映画のロケ地なのだな……!
スタッフ達:思ったより日差し強いから、 このシーン、カメラの向き考えたほうがいいな
スタッフ達:レフ板持ってきてもらっていいですか? 海のカットの試し撮りしておきたくて
えむ:わあ、もう準備始まってる! カメラも人も、ガヤガヤガヤ~ってしてるよ!
類:今回撮影する作品はミニシアター系だと聞いていたけれど それでも、こんなにたくさんのスタッフが動いているんだね
寧々:わたしも前に学校で映画を撮ったけど、 やっぱり本物の現場は全然違うな
寧々:当たり前だけど、もう空気から本格的っていうか…… ピリピリしてる感じがする
司:……俄然、楽しみになってきたな!
司:映画という新天地でも、未来のスターとして——
???:あ……。 天馬さん達も初日から現場入りなんですね
司:……! その声は……
歴:おはようございます。 えっと……お会いできて嬉しいです
えむ:あっ、獏野さんだ! こんにちわんだほーい!
司:この度はお誘いいただき、ありがとうございます!
司:獏野さん初の主演映画に華を添えられるよう、 オレ達も気合い十分で臨んでいきたいと思います!
寧々:わたし達はエキストラだし、参加も今日だけだけど…… 本格的な映画撮影に参加するチャンスなんて 今までなかったし、頑張りたいな
類:ああ、そうだね
類:本当に、声をかけていただいて感謝しています。 精一杯やりますので、よろしくお願いします
歴:そ、そんなにかしこまらないでください! 僕は皆さんにエキストラ募集をしていると話しただけですから
歴:それに……僕自身、今日皆さんがいてくれて助かりました。 正直、ものすごく緊張してたので……
司:たしかに初めての映画出演で、それも主演ともなると ものすごいプレッシャーがかかりそうですね
えむ:ドキドキわくわく~って感じだよね!
寧々:いや、プレッシャーってそういう感情じゃないと思うけど……
歴:あはは……。でも、鳳さんが言ってるような気持ちも ないわけじゃないですよ
歴:久しぶりの主役で緊張もありますが、 映像っていう媒体は初めてですし——
歴:いつもと違う演技を勉強するきっかけにもなりましたから
司:いつもと違う演技……
類:それは——
???:おい、カメラの調整終わったらリハ入るぞ! 各部あと10分で準備終わらせてくれ!
スタッフ達:『はい!』
寧々:そろそろ始まりそうだね
えむ:今の人って、今日撮る映画の監督さん……かなあ?
歴:はい。大原友己監督—— まだ30代半ばで、映画監督としてはお若いですが、 界隈で認められている実力者です
歴:まだ知名度は高くないようですが、 『きっかけさえあれば必ず出てくる監督』だと 言われているみたいですね
類:既存作品を何作か拝見しましたが、 たしかに登場人物の心情描写の繊細さは 目を見張るものがありましたね
司:ああ、『さよならに贈る音』や 『くじらの啼く夜に』はよかったな。 主人公達の生きざまに、非常に胸を打たれた!
寧々:内容もすごくよかったけど、 映像自体、綺麗な映画が多かったよね
司:ああいう映画を撮る監督の作品に 参加させてもらえるのは光栄だな!
歴:でも、えっと……ちょっと言いにくいんですけど、 大原監督は制作に対して、 熱くなりすぎてしまうところがあるようで……
寧々:熱くなりすぎる……?
歴:はい。役者やスタッフに無茶な要求をしたり、 結構乱暴な言いかたをしてしまったりすることが多いそうなので、 皆さんも心構えはしておいたほうがいいかもしれません
歴:でも、作品自体はいいものになるので 最後まで監督についていった人達からの信頼は とても厚いみたいですよ
寧々:そ、そうなんですね……
類:(いいものを作りたいという想いが いき過ぎてしまうタイプということか)
類:(……褒められたことではないけれど、 その気持ちは少しわかるな)
司:まあなんにせよ、オレ達はオレ達の全力を披露するまでだ!
寧々:……そうだね。 学べるところは学んで、次につなげていきたいな
えむ:あたしも『映画がどうやって作られてるのか』を いっぱい勉強したいな! おじいちゃんもライリーさんと映画作ってたし!
えむ:だから今日は、い~っぱい 自分へのお土産を持って帰るつもりでがんばるよ!
歴:皆さんの話を聞いてたら、 なんだか勇気づけられちゃいました
歴:僕も撮影、頑張ろうと思います。 ……そろそろ呼ばれると思うので、終わったらまた
類:はい。本番前で忙しい中 声をかけていただいてありがとうございました
寧々:……監督が言ってた時間から考えると、 あと5分くらいでリハ開始かも
えむ:じゃあ、あたし達もそろそろ準備しなくちゃかな!? でも、準備って何すれば——
スタッフ:では、シーン15に登場するエキストラの皆さん、 こちらに集まってください!
類:……ちょうどお呼びがかかったね
司:シーン15といえば、オレ達の登場する場面だ! ついにこの時がやってきたな!
司:いくぞ、みんな! 最高のエキストラとして映画史に名を残そうではないか!
えむ:わーい! 歴史に残っちゃお~っ!
寧々:いや、エキストラで歴史に残るって……
類:(……実際今日は、本当に今までにない、いい経験ができそうだ)
類:(なにせ、あれだけ繊細な作品を作る監督の演出が 間近で見られるかもしれないんだからね)
類:(それに、普段は舞台をメインにしている獏野さんの演技に どんな指示を出すのかも気になる)
類:(……演出家として、学べることがたくさんありそうだね)
第 2 话:クランクイン
横浜
司:気合いを入れて向かったはいいが、 シーン15の撮影は、まだだったな……
寧々:簡単な立ち位置の確認だけだったね
類:つい気持ちが急いてしまったね。 一度落ち着いて、僕達の出番に備えようか
類:それに……ほら。 いよいよ撮影が始まるみたいだよ
えむ:わ……ホントだ! 撮影の始まりの始まり……クランクインっていうやつだよね!
司:楽しみだな! あの話がどう映像になっていくのか…… 考えるだけでワクワクするぞ!
類:フフ、そうだね
類:今回の作品のタイトルは 『日陰に咲く花』……
類:人生に楽しみもなく、凡庸に生きていた主人公の克幸が 突然目の前に現れた『生き別れの姉』を名乗るはじめと出会い、 心に彩りを取り戻していく——
類:繊細な心情描写が必要とされる作品なだけに、 どう撮っていくのかが気になるね
えむ:うん! たしか、最初は主人公が家で ゴロゴロしてるシーンから始まるんだよね!
えむ:……あれ? でも、よく考えたら それってここじゃ撮れないような……?
スタッフ:それでは、クランクインです、張り切っていきましょう!
スタッフ:よーい……スタート!
克幸:『……はあ』
はじめ:『——待って!』
はじめ:『そんな風に海をのぞき込んだら危ないよ。 やめといたほうがいいんじゃない?』
克幸:『……誰……?』
えむ:やっぱりこのシーンって、お話の最初のとこじゃないよね? もう少し先のところから始まって——……って
えむ:そっか! 映画って最初っから撮らないんだっけ!
類:ああ、えむくんは撮影の順番が 台本どおりじゃないことに引っかかってたんだね
司:普通なら——というか、いつものオレ達ならば、 台本の頭から順番に芝居をやっていくからな
寧々:映画は、同じ場所のものはまとめて撮ることが多いもんね。 何度も役者のスケジュールをおさえるのも、 ロケ地の手配も大変だから
えむ:ってことは……今日撮るのは、 今あたし達がいる、横浜が舞台のシーンってことだよね?
類:そうだね。今、獏野さんがやっていた 姉を名乗る人物と初めて出会う『シーン7』と、 僕達が出演する予定の『シーン15』……
類:そして終盤、姉が姿を消したあとに主人公が探しにくる 『シーン72』の3シーンかな
寧々:そう考えると、映画の撮りかたって独特だよね。 一気にシーン7から72まで飛ぶなんて
司:ああ、前後関係なく、 シーンが序盤からクライマックスまで飛ぶことがある……
司:……となると、役者もシーンにあわせて 感情を調整しなくてはならないんだな……
類:そういうことになるね
類:例えば、今撮影していたシーン7…… 克幸は、突然現れた姉を名乗るはじめに対して 『警戒』『不信』の感情を持っているけれど……
類:おそらくこのあとに撮る72では はじめを『心配して探しに来ている』ほど仲を深めている状態だ
類:だから獏野さんは、各シーンで克幸がどんな状態なのかを 考えながら演じなくてはいけないし——
類:後日また別のシーンを撮る時は、 今日撮ったシーンと感情の食い違いが出ないように 演技する必要があるんだ
寧々:それって…… すごく難しいはずだよね……
司:……ああ。 想像以上に大変そうだな……
類:(……早速、ふたりにとってはいい刺激になったみたいだね)
類:(——いや、ふたりだけじゃない)
えむ:そっか……ロケ地とか役者さんのスケジュールとか、 考えることがいっぱいあるんだなあ……
類:(えむくんも……)
歴:……このシーンの克幸は、まだ人間として未熟で、 自分を省みるよりも世間を恨んでいる。 なら、予定通り話しかたは粗雑に……でもニュアンスは……
類:(獏野さんにとっても、今回は大きな挑戦だろう)
類:(……僕も、もっと積極的に学んでいかなくてはね)
数時間後
えむ:みんな、お疲れさま~っ!
類:お疲れさま。 あっという間だったけれど、実りのある1日になったね
類:光の当てかたひとつとっても、創意工夫があって面白かったよ
えむ:あたしも撮影の流れとか、 必要なスタッフの数とか教えてもらえて すっごく勉強になったよ!
えむ:それに、みんなもエキストラ、上手にできてたね!
司:……そうだな。 『みんなは』うまくやっていたな……
寧々:司ってば、まだ落ち込んでるの?
司:それはそうだろう! この日のために『しゃがんで花を愛でる青年A』を 何度も何度も練習してきたというのに……
司:いざ本番になったら虫がっ……虫がオレの手を這っていて、 ついビクッ!!となってしまい……!
司:オレのせいでリテイクになるなんて……一生の不覚! 今日のことは、この先決して忘れることはないだろう!
寧々:大袈裟なんだから
類:司くんの虫嫌いに拍車がかかりそうだねえ
類:(しかし……本当に1日だけでは もの足りないと思えるほど貴重な体験だったな)
類:(欲を言えば、 もう少し現場にいさせてもらいたかったけれど——)
歴:皆さん、お疲れさまでした
えむ:あ……獏野さん!
寧々:獏野さんも初日お疲れさまでした
寧々:シーン7と72の主人公—— 克幸がお姉さんに向ける表情、全然違ってて…… 本当にすごかったです
えむ:あたしも、最初あんなにズーンってしてた克幸くんが、 どうやってあんなに幸せな顔になっていくのかな~って、 この先がすっごく楽しみになっちゃいました!
歴:そう言ってもらえて安心しました。 最初は少し硬くなってしまっていたので不安だったんですけど……
類:でも監督に指摘されたあと、すぐに修正されてましたよね。 さすがの対応力だと思いました
寧々:わたし達も見習いたいねって話してたんです。 司も——
???:おやおや、主演俳優さまを囲んでここは何の集まりだ?
寧々:えっ……
司:こ、この声は……
類:大原監督……!
第 3 话:思いがけぬ提案
横浜
大原監督:なるほど……
大原監督:それじゃあ、そちらの皆さんは 夢のために今いろいろと修行して回ってて、 春名座で獏野と知り合ったんですね
類:はい、そうなんです。 それで、この映画のエキストラのことを教えていただいて……
えむ:今日参加させてもらえて、とってもいい経験になりましたっ! ありがとうございます!
大原監督:そうですか、ならよかった。 しかし——
大原監督:……ふーむ。 皆さんの話をお聞きして、ひとつ提案があるのですが……
大原監督:——もしよかったら、 この映画の制作スタッフとして参加してみませんか?
歴:えっ?
大原監督:実は恥ずかしい話、 つい最近、人手が足りなくなってしまいましてね
大原監督:役者の仕事というわけではないので申し訳ないのですが、 手伝っていただけたらありがたいなと思いまして。 もちろん、アルバイト代も出しますので
司:そ、それは…… オレ達にとっても学びの場所になるし、願ってもない話ですが……
類:本当にいいのでしょうか。 僕達、映像スタッフの経験はないので ご迷惑をおかけするかもしれませんが
大原監督:ああ、問題ないですよ。 やっていただくのは簡単な仕事ばかりですから
えむ:わあ……!
えむ:だったらあたし、やってみたいな! 映画がどうやってできるのかとか勉強できると思うし!
寧々:わたしも、参加させてもらえるならしたい。 もっと役者さん達の演技を近くで見たいし
類:……そうだね。 僕も映画の演出のことを学べるいい機会だし、 次の劇団に行くのも、まだ少し先だ
類:本当に、お言葉に甘えさせてもらっていいのでしょうか?
大原監督:ええ、もちろん! こちらとしても、ありがたい話ですから
大原監督:——では、明日の現場から入ってもらえますか? 詳細はスタッフから連絡するので、 あそこにいる制作部に連絡先を伝えておいていただけると
司:わかりました!
大原監督:それじゃあ、俺は今日撮った映像を 確認しないといけないので、これで。 明日からよろしくお願いしますね
大原監督:……獏野も、体よく休めとけよ。 喉も潮風にやられないようにな!
歴:あ、は、はい……
寧々:……まさか、こんなことになるなんてね
司:天がオレ達に味方しているようだな! この調子で、明日からさまざまなことを吸収していくぞ!
類:うん。せっかくの機会だ。 無駄にしないように気を引き締めたいね
ワンダーランドのセカイ
リン:わ~、すごいすご~い!
リン:この人が犯人だったんだね! リン、全然気づかなかったよ~!
ミク:ミクもびっくりしちゃった! あんなに仲良く話してたのにね!
リン:……あ、そっか! この人が犯人ってことは、 途中で主人公とニコニコ話してたのも、うそってことなんだ!
リン:——わあっ、リン、 あのシーンもう1回見たくなってきちゃったよ~
MEIKO:ふふっ、リンってば、 みんなが持ってきてくれた映画にすっかり夢中ね!
リン:だってだって、おもしろいんだもん!
リン:最後のほうの、犯人を車で追いかけるとことか! すっごい迫力でドキドキしちゃったよ!
類:あそこは実際に道路を封鎖して アクションを撮ったらしいね
リン:えっ、そうなの!? じゃあ、あのギュギュギュン!ってすごい運転も 本当にやってるってこと!?
司:ああ、CGを使う手法もあるが、 この作品はリアルだったらしいな
リン:そうなんだ……! ショーとは違う方法でお話を表現してるんだね……!
リン:そんな映画を撮るスタッフさんになるなんて、 みんな、すごいなあ……
MEIKO:本当よね。 前に寧々ちゃんが映画を作った時も驚いたけど!
寧々:あ、あれとは全然違うよ。 今回のは本物のプロの人達とやる感じだし……
寧々:機材とか、スタッフの人数とかも すごい規模だったから
レン:そうなんだ……!
リン:すっごく気になってきちゃった~! 本物の映画の撮影ってどんな感じなのかなあ?
類:フフ、そんなに興味があるなら、 こっそり見に来るのはどうだい?
リン:えっ、いいの!?
司:リン達にとっても、またとない機会だろうしな
えむ:でも、来る時は周りの人にバレちゃわないように シーッ、だよ!
リン:うんっ、ありがとう☆ じゃあ今度、こっそり見に行かせてもらうね!
KAITO:……それにしても、スタッフとして 参加させてもらうことになるなんて、本当にラッキーだったね
類:そうだね。 ……まだ、どういう仕事をするのかはわからないけれど
司:ご厚意で誘ってもらった以上、 半端な仕事はできないから頑張らねばな!
えむ:あたしもモリモリやるよ~! 力仕事は得意だから♪
ミク:みんな、がんばってね! ミクも応援してるよ☆
ルカ:完成するの、楽しみだわ~
類:ありがとう、みんな。 いい映画にできるよう、頑張ってくるよ
数週間後
都内レンタルスペース
類:……ふう。 スタンドはこの位置でよし、と……
類:(……僕達が手伝いを始めてから そろそろ2週間くらいになるかな)
類:(映画の制作自体は、順調に進んでいるけれど……)
大原監督:花のセット、もう終わったか!?
寧々:は——はい! 指定のところに置きました!
大原監督:……いや、この向きに置いたら 全然ライト映えないだろうが!
寧々:えっ……す、すみません!
大原監督:もういいから……、照明! 再セットしとけ!
照明スタッフ:わかりました!
寧々:……はあ……。 また怒られちゃった
類:お疲れさま
類:……獏野さんから聞いてはいたけれど、 監督の人使いの荒さは想像以上だね
司:『簡単な仕事』と聞いていたが、 大道具の運搬に、突然の撮影許可取りに—— わりとハードなことをさせられているな
寧々:……。 そうだね……
えむ:寧々ちゃん、どうかしたの?
寧々:いや……実はウワサで、 わたし達が誘われた日の前日に 何人かアルバイトが来なくなっちゃったって聞いて……
司:……なるほど。監督の人使いの荒さに 耐えられなくなったのかもしれないな
司:つまりオレ達は、 その穴埋めに呼ばれたということか……
類:……まあ、そうだろうねえ
えむ:えっ! 類くん、わかってたの!?
類:僕達を誘ってくれた時に監督が言った、 『つい最近、人手が足りなくなった』という言葉が 少し引っかかっていてね
類:制作の最中に人手が足りなくなるなんて、 おそらく何かトラブルがあったんだろうと思っていたんだよ
司:そ……それなら、なぜ最初に言ってくれなかったんだ!
類:確証はなかったからね
類:それに…… 僕達が誘いを断る理由はないと思ったんだよ
類:——みんなもこの数週間をとおして、 経験できたことがたくさんあるんじゃないかな
寧々:……たしかに、仕事は大変だけど 勉強になってることはかなりあるかも
司:間近で俳優達の演技や、 それに対する指導が見れるしな……
えむ:あたしも、スタッフさんに撮影の流れとか、 そもそも企画がどうやって立ち上がってるのかとか、 い~っぱい教えてもらったよ!
司:……そう考えれば、 この時間も、決して無駄ではないということか……
司:——よーし、そうとわかれば仕事に戻るぞ! 次のシーンの準備をしなくてはな!
えむ:そうだね! 寧々ちゃん、あたし達もお弁当チームのお手伝い行こっ!
寧々:うん。 ……それじゃあ、またあとでね、類
類:ああ、またね
類:(……さて、僕も持ち場に戻らないと)
類:(午後の撮影に使う小道具の確認……。 次のシーンが終わったら休憩だから、それまでに片づけておこう)
類:(早く終わらせておけば、 休憩の時に話を聞かせてもらう時間が作れるからね)
類:(……本当は、監督の隣について 演出について勉強したいところだけど……。 この状況で、そこまで望むのは贅沢かな)
大原監督:よし、次のシーンいくぞ——って
大原監督:おい、なんで旧版の台本がここにあるんだ? まぎらわしいだろうが
類:あ……
類:いえ、これが最新の台本です。 さっき僕が置かせていただきました
大原監督:いや、これじゃない。 午前の撮影でここのセリフ変えるって話しただろ
類:はい、なので—— 元の台本と一緒に綴じ直しています
類:前の演出と比べられると便利だと思いまして
大原監督:…………。 ……たしかに、入ってるな
類:不要でしたら、完全に新しいものだけにしますが——
大原監督:いや、これでいい。 サンキューな
類:はい。 それでは、僕はこれで
大原監督:…………
助監督:……彼ら、優秀ですよね。 監督がまたどこかから無理矢理引っ張ってきたので、 大丈夫かなって思ってたんですけど、よく働いてくれてます
大原監督:まあ、『夢のため』って話だし、 本気ならそれくらいやれるだろ
助監督:同じことを言いながら 監督の元から3日で去った人達の穴を埋めてるんですよ、彼らは
大原監督:…………
大原監督:……まあ、そりゃ一理あるな……
第 4 话:一歩先に
都内レンタルスペース
スタッフ:それでは、いったん休憩に入ります!
スタッフ:17時にシーン32から再開なので、 それまでに戻ってきてください!
類:(ふう、やっと休憩か。 予定より2時間くらいおしてるけど、 休憩を取る時間があるってことは順調なほうだね)
類:(さっき撮ったシーンは ただ買い物をするだけの場面だけれど、 演出によってかなり印象が変わったな)
類:(冒頭では薄暗く、陰気な雰囲気に見せていたスーパーを、 このシーンでは照明をすべて使って明るく描いていた)
類:(そうすることで、 『はじめと出会ったことで変わった克幸』が 前向きになっていることが画面から感じ取れる)
類:(……こんな風に登場人物の感情の変化を描くなんて、 さすがは大原監督だな)
類:(この期間中に、もっとこういう技術を 吸収していきたいけれど——)
大原監督:おい、神代だったか。 ちょっといいか
類:監督……? どうかされましたか
大原監督:……お前、演出を学ぶためにきてるって言ってたな
大原監督:だったら、撮ったもの見てみないか
類:え……
類:——はい、お願いします
大原監督:……ってのが、今撮れてるものだな
類:なるほど……
類:当たり前かもしれませんが 撮影現場で見ているのと、カメラをとおして見るのとでは だいぶ雰囲気が違いますね
類:カットによって視点が違うからでしょうか
大原監督:ああ、いいところに気がついたな
大原監督:舞台と映像で違うところはいろいろあると思うが…… 大きい部分でいうと、俺は視点の使いかただと思う
類:視点の使いかた……
大原監督:舞台の視点は観客の目だけ—— 舞台を正面にとらえる、1方向からのカメラだけだ
大原監督:たいして、映像は違う。 いくつものカメラを使って、 空間をあらゆる方向から、さまざまに見せられる
大原監督:……そのメリットはなんだと思う?
類:……映像は舞台よりも、 制作側で視点をコントロールしやすいということでしょうか
大原監督:そのとおりだ。 少なくともカメラが1方向の舞台よりは 見る側の印象を操りやすいのが映像って媒体だ
大原監督:今日撮ったシーンもそのひとつだな。 画面の明るさや、カットの数を変えることで 同じようなシーンでも登場人物の印象を操作できる
類:……たしかに……
大原監督:まあ、映像は映像で、舞台みたいに 『生身の人間』が持つ迫力っていうのを出すのは難しいって デメリットもあるんだが——
大原監督:こうやって視点をコントロールすることで 観客の心に迫っていけるのが面白いところだな
大原監督:……まあ、舞台演出家を目指してるお前には 実用性のない話かもしれないが
類:……いえ
類:むしろもっと、 具体的なテクニックを教えていただきたいです
大原監督:……へえ?
類:僕がやりたいのは、 誰もが垣根を越えて楽しめるショーです
類:その夢を実現するために、 あらゆる媒体の演出を知りたいと思っています
大原監督:……ほう
類:なので、発想や考えかたの引き出しは どんな分野のものでも吸収したいと思っています
類:監督の知っている手法を——すべて教えてください
大原監督:……ははっ! 『すべて』ときたか
類:…………
大原監督:……まあ、本気でやるっていうなら、 それくらいの気概がないとな
大原監督:骨のないやつばっかに会って、 いつの間にか若者の本気を信じられなくなってたが、 お前はそんなやつらとは少し違うみたいだ
大原監督:だから——そのデカい夢と、 その夢を追いかける根性を讃えて、教えてやるよ
類:……!
大原監督:明日から、俺の助手として横につけ。 ……言っておくが、今までの数倍厳しいから覚悟しておけよ
類:ありがとうございます。 精一杯、学ばせていただきます
リン:(こ~っそり様子を見に来たけど……)
リン:(なんだか類くん、監督さんと仲良くなってるみたい!)
リン:(すっごく順調だね! 明日からもみんなのこと、応援しにきちゃお~っと♪)
第 5 话:映画の手法
数日後
乃々木公園
助監督:それでは、いったん休憩です!
スタッフ達:『お疲れさまでした!』
大原監督:さてと……。 みんながメシ食ってるうちに、今のとこちょっと考えるか
類:僕も見せてもらってもいいでしょうか?
大原監督:うおっ、出たな神代! 別にいいが、またメシ食いっぱぐれるぞ
類:かまいません。 それより、演出を学ぶことのほうが重要なので
大原監督:まあ、お前はそういうやつだったな。 毎日毎日じーっと俺の横で見てて、よく飽きないと思うよ
大原監督:……じゃ、そのメンタルを買って 今日はちょっと課題を出してやるか
類:え……
大原監督:今撮ったシーン、もっといいものにする方法がある。 ……なんだと思う?
類:前に別のシーンで使っていた方法でもありますが…… 明暗、でしょうか
類:ここのシーンの克幸とはじめは 交流を始めた序盤で、まだ関係性は薄い……
類:とすると、はじめを逆光になる位置に立たせて、 克幸視点でまだ得体が知れないものではありつつ、 この先に光があることを暗示する、など……
大原監督:発想としては悪くないが、 光の演出だけじゃ一辺倒だろう
大原監督:もっと使えるものはある。 大道具や小道具だけじゃなく、この環境だって作品の一部だ
類:環境……。 天気やこの場所を使う——ということでしょうか?
類:たしかに、僕達がやっていたステージも屋外だったので、 それを活かした演出をつけたりはしていましたが、 映像にも適用するとなると……
大原監督:まあ、言葉で伝えるのも面倒だ、あとは見て盗め。 いいか? ここは『線』を効果的に使って——
司:……よかったな。 類がちゃんと演出の勉強をさせてもらえて
寧々:助手をすることになったなんて聞いて驚いたけど、 なんかすごくサマになってるみたい
えむ:監督さんと類くんのタッグで、 映画がも~っといいものになったらいいね!
類:(助手として監督の隣について、まだ日は浅いけれど…… それでもかなり、知識の幅が広がった実感がある)
類:(……やはり、実践に勝るものはないね)
類:(クランクアップまで、もうそんなに長くはない。 最後まで全力でやっていこう)
数週間後
空港
司:ついに……この日がやってきたな
司:クライマッッックスシーンの撮影が……!
リン:『わあ……! だからみんなキリッとしてて、いつもと違う感じなんだね☆』
類:今日の撮影は夜まであるようだし、 今までよりも長丁場になりそうだね
寧々:宿泊ありなのも初めてだもんね。 明日も早朝から海で撮影だし、結構ハードな2日間になりそう
司:しかし、メインはなんといっても 今日の午後一の撮影だな
リン:『空港での、主人公とお姉さんのお別れシーンだよね! リン、このシーンいっちばん楽しみだったんだ~☆』
えむ:いいシーンだよね! 最初の頃の克幸くんとここの克幸くん、本当に全然違ってて……
えむ:はじめちゃんのこと、 こんなに大好きになったんだ……って思うと、 胸がギュッてなっちゃうよ!
類:(そう、この作品の一番の盛り上がりは、 このクライマックスのシーンだ)
類:(物語冒頭、夢も希望もなく、ただ働き続けるだけの毎日に 主人公の克幸は生きる気力を失っていた)
類:(だが、そんな彼の前に生き別れた姉だと言って 自由奔放で明るい女性の『はじめ』が現れ、 ふたりは共同生活をすることになる)
類:(天真爛漫なはじめと交流することで、 克幸はやがて人生に楽しさを見出し始めるが——)
類:(突然、はじめが黙って克幸の元を去ろうとする。 それに気づいた克幸が追いかけてくるのがこの場面だ)
寧々:姉のはじめは、本当は病気で…… お医者さんにあと半年の命だって言われてるんだよね
司:ああ。だから残された時間でやり残したことをしたいと、 生き別れた弟の元を訪れたが——
司:思った以上に仲良くなってしまって、 離れがたくなってしまった……
えむ:……はじめちゃんは、 『自分がいなくなったら克幸くんが悲しむから』って 克幸くんに黙っていなくなることを決めたんだっけ
えむ:でも、克幸くんはそのことを知らなくて——
えむ:『なんで勝手にいなくなっちゃうの!?』って、 ケンカになっちゃうんだよね
類:……ああ。ここはふたりが積み上げてきた関係性が一気に崩れて、 克幸の心が大きく乱れる場面だ
類:それに、今まで彼が感じたことのない 『行かないでほしい』という感情が溢れ出す……
寧々:役者としてもかなり難しいシーンだよね。 克幸の繊細な感情をどう表現するのか……
類:(たしかに、ここは獏野さんの演技が楽しみだ)
類:(監督も、獏野さんに主演をオファーしたのは このシーンの演技が彼にあうと思ったからだと言っていたし)
スタッフ:カメラOKです! 準備お願いします!
司:お、そろそろ始まるようだな
類:それじゃあ、僕は監督のところへ行ってくるよ
えむ:うん! がんばってね、類くん!
スタッフ:それでは、シーン143、いきます!
えむ:獏野さん、すごく真剣だね
司:……ああ。 あの表情、すでに役に入っている感じだな
司:どんな演技を見せてくれるのか楽しみだが…… こっちまで緊張してきたぞ
スタッフ:それでは——
スタッフ:スタート!
類:(まずは、姉のはじめが搭乗ゲートに向かうカットだ。 歩いているはじめ……しかし、ふとハンカチを落とす)
類:(そこでまた別カット。 はじめがハンカチを拾うと、その視線の先に——)
はじめ:『克幸……?』
克幸:『…………』
はじめ:『知らせてないのに、わざわざ来たんだ。 ……あんたらしいね』
克幸:『……お前は、全然お前らしくないよ』
克幸:『どうして、何も言わずに消えようとするんだ? 俺はまだ、何も聞いてない……』
克幸:『お前がどうして俺の前に現れたのかも—— まだ聞いてないのに……!』
はじめ:『…………!』
はじめ:『……そんなの……。 そんなの、ただのきまぐれだよ』
はじめ:『だからもう——私のことは忘れて』
克幸:『な——』
克幸:『——んで……、そんな勝手なこと……。 勝手に現れて、勝手に人の心に踏み入って……』
克幸:『ホントは……どうだっていいんだ。 お前の事情なんかより、俺は——!』
寧々:(やっぱり、うまい…… このセリフをこんな風に演じてくるなんて)
司:(オレだったら、勝手に自分の前から消えた姉に対する 『怒り』の感情を強めに出して演技をしていたはずだ)
司:(けれど、今の獏野さんの演技からは、 克幸が抱いているのが『怒り』だけではないということが 伝わってくる……)
類:(……やはり、このシーンのために起用したというだけあって 獏野さんの演技は、役にとてもハマっている)
類:(けれど——)
はじめ:『……ごめんね』
克幸:『あっ……はじめ!』
克幸:『…………。 本当は、はじめって名前も違うのかもな』
克幸:『俺は、お前のこと何も知らない』
克幸:『本当に、何も……』
大原監督:…………
類:(……監督も感じているようだ)
類:(このシーン…… なにか、妙に引っかかる……)
スタッフ:カット!
大原監督:…………。 はっきり言って、違うな
大原監督:このシーンで伝えたい克幸の感情—— はじめと別れることへの耐えがたさや、 はじめという人間に執着している自分への戸惑い……
大原監督:そういう、濁流のように押し寄せる感情が、 見ている人間に伝わってこない
歴:濁流のような感情が……
大原監督:……獏野、お前演技を抑えてないか?
大原監督:今のお前の演技には、 俺が舞台で見て『この映画の主役はこいつだ!』と 思った時ほどのパワーがない
歴:……! それは——
類:(たしかに、今の獏野さんの演技には、 前に春名座で見た時のようなインパクトはない)
類:(けれど、それはきっと——)
歴:たしかに、僕は意図的にいつもと違う——、 舞台の時よりは抑えた演技をしています
歴:舞台の演技は、客席のうしろのほうまで届けるために 身振り手振りや声の出しかたが、少し大袈裟です
歴:だから、いつもどおりやってしまうと、 映像の演技としては浮いてしまうと思ったのですが……
歴:もう一度、やらせてください。 今の監督の話から、調整できるところは調整して——
歴:次は、きめられるようにしますので
司:獏野さん……
大原監督:……わかった。 それじゃあテイク2だ
大原監督:——スタート!
歴:……、これで、どうでしょうか……
大原監督:やっぱり、違うな。 さっき獏野が言ってたとおり、 今のは舞台演技すぎて映像作品として違和感がある
歴:っ……
歴:すみません。 それなら、もう一度調整して——
大原監督:……いや。 このシーンはこれで終わりにする
えむ:え……
大原監督:今のテイクでわかったが、 これは獏野の演技の微調整でどうにかなる問題じゃない。 何か俺のイメージにあわない、別の原因があるはずだ
大原監督:となると、その原因がわかってない以上 これ以上闇雲にテイクを重ねたって意味がない
歴:そ、それはそうかもしれませんが……
寧々:……どうにかならないのかな。 このままじゃ、このシーンは……
類:…………
大原監督:だから、明日改めて撮りなおす。 ……それまでに原因を突き止めてな
歴:明日……
類:(たしかに、それが賢明かもしれない)
類:(せっかくのクライマックスシーンを消化不良で終わらせるのは ここにいる誰ひとり、納得できないだろうし……)
類:(明日まで時間がもらえれば、 監督のイメージどおりの映像が撮れない原因を 突き止められるかもしれない)
大原監督:明日の香盤、調整できるか?
スタッフ:このあとの撮影が順調にいけば、 なんとかできると思います
大原監督:——んじゃ、いったんこのシーンは終わりだ。 切り替えて次の撮影にいくぞ
歴:……はい……
類:(……獏野さんも、この気持ちのまま 次の撮影に移るのはつらいだろうね)
類:(とはいえ監督の言うとおり、 このまま撮りなおしても解決する気がしない)
類:(タイムリミットは、明日か——)
大原監督:…………
類:(……僕も撮影の時間までに、原因を考えてみよう)
第 6 话:見えない出口
数時間後
海辺
スタッフ:それでは本日の撮影はこれで終了です! 明日は朝7時からですので、よろしくお願いします!
類:お疲れさまでした
寧々:ふう……。 後半はなんとか撮り切れたね
リン:『みんな、お疲れさま~! 海での撮影、すっごく順調だったね☆』
類:ああ、獏野さんもうまく切り替えてくれてよかった。 監督もいいものが撮れたと喜んでいたよ
司:そうだな! 今日は特に複雑な感情を表現するシーンが多かったが、 すぐにその場面に適応できていて、改めて演技力の高さを感じたぞ
えむ:さすが獏野さんだったよね! つながりのないシーンでも、ぴょーんって飛んで ぴったりな演技ができるなんて!
寧々:でも、まだ明日もあるから張り切っていかないとね
寧々:結構朝早くから集合だし、 午後には、例のシーンも撮りなおすから……
リン:『今日のお昼にやってた、クライマックスのとこだよね……』
リン:『すごく難しそうだったけど、 明日はうまくできるのかなあ……』
類:……そうだね……
歴:…………
司:お……。 ウワサをすれば、獏野さんではないか
歴:……ああ、皆さん。 今日もお疲れさまでした
類:いえ、獏野さんこそ、お疲れさまです。 かなり長丁場でしたが、大丈夫でしたか?
歴:ええ、全然大丈夫ですよ。 普段の稽古も朝から晩までやることが多いですし
歴:ただ—— やっぱり慣れない分、難しいですね
寧々:獏野さん……
類:……よかったら、少し気晴らししませんか? 僕達も食事がまだですし、差し支えなければご一緒に
えむ:わあっ、類くん、ナイスアイディアだよ~!
えむ:今日泊まるホテル、 ローストビーフがおいしいって書いてあったよ! あたし、楽しみにしてたんだ~♪
歴:へえ、それはいいですね!
歴:でも…… すみません、今日はやめておきます
歴:明日までに、演技の方向性を考えておきたくて
寧々:あ……
歴:皆さんはお食事楽しんできてください。 明日、感想とか聞かせてもらえると嬉しいです
歴:……それじゃあ、僕はそろそろ行きますね。 おやすみなさい
えむ:……行っちゃった
寧々:やっぱり、あのシーンのこと 気にしてるみたいだったね
司:根をつめすぎていないといいのだが……
類:(……僕もあれから考えてみたけれど、 まだしっくりくる答えにたどり着かない)
類:(監督と相談して 画角やカットを調整したりもしてみたけれど、 結局これだと思うものはなかった)
類:(他に考えられる原因があるとしたら、何が——)
スタッフ:あれ、監督夕飯食べないんですか?
大原監督:ああ、いらん。 今から例のシーン突貫で編集するから、 緊急の用事以外は電話かけてくるなよ
えむ:……監督さんも、ごはん食べないで あのシーンのこと考えるみたいだね
類:——すまない。 僕もちょっと行ってくるよ
寧々:えっ……
えむ:る、類く~ん!?
数十分後
空きスペース
大原監督:うーむ……
大原監督:いろいろといじってはみたが、 やっぱりカットの問題でもなさそうだな
類:そうですね……。どういうカットを挟んでも、 シーンの印象自体は変わらなそうです
大原監督:ああ。 それに、このシーンは下手に画面をいじりたくないんだよな……
類:……そうですね
類:ここは登場人物の感情が大きく動くシーンなので、 画面に情報を持たせず、役者の演技に集中させたほうがいいかと
大原監督:……ほう。 わかってきてるじゃないか
大原監督:というか、お前はさすがにもう帰れ。 明日もあるんだし、ホテルで夕飯食って——
???:お~、今日もまた、せっまいところでやってんねえ
類:え……
???:また低予算なの? 好きだねえ、ともみちゃんは低予算が
大原監督:いや、好きじゃねえわ! っていうか、お前またいきなり来たな! どっから情報仕入れてんだ
???:おたくのスタッフさんづてに、ちょっとね。 で、俺も近くで仕事あったから寄ってみたってわけ
類:(この人……監督の知り合いか……? ずいぶん親しいみたいだけれど……)
大原監督:あー、神代。 紹介したくないが……こいつは 俺の大学時代からの友人——っていうか、くされ縁だ
類:……そうだったんですね
類:はじめまして、神代類です。 監督の助手として、手伝いをさせてもらってます
大原監督:いろいろあって、今ちょっと面倒見てるんだ。 こいつも舞台の演出家なんだとさ
???:へー、そうなんだ。 若そうなのにすごいね
類:(こいつ“も”……?)
類:(この人も、舞台の演出をしているのか……?)
???:っていうか、これが今回撮ってる映画? またなんか地味そうなのやってるねえ
大原監督:うるせえな。 勝手に触るなよ
克幸:『——んで……、そんな勝手なこと……。 勝手に現れて、勝手に人の心に踏み入って……』
克幸:『ホントは……どうだっていいんだ。 お前の事情なんかより、俺は——!』
???:へー、獏野歴かあ。 おもしろい役者に目をつけたじゃん。 たしか映画初めてだよね?
大原監督:ちょ、勝手に再生しやがって、お前……
類:(……なかなか豪快な人だな)
類:(もっとも、こういう人じゃないと 監督とはつきあえないのかもしれないけれど)
はじめ:『……ごめんね』
克幸:『あっ……はじめ!』
類:(……え?)
克幸:『…………。 本当は、はじめって名前も違うのかもな』
克幸:『俺は、お前のこと何も知らない』
克幸:『本当に、何も……』
???:…………
類:(なんだ? 急に、表情が……)
???:このシーンは、これで完成?
大原監督:……いや、まだだ。 全然納得いってないからな
大原監督:最初は獏野の演技感の問題だと思ったんだが…… リテイク出してもピンとこないから、 今は演出いじる方向で考えてる
???:ふーん……
???:ま、そうだろうね。 ともみちゃんが、このまま出すと思えないし
類:…………
大原監督:下の名前で呼ぶなって何度も言ってんだろ
大原監督:……で? そう言うお前ならどう直す
???:んー、そうだねえ。 俺だったら……
???:もっと獏野歴にあわせて作るかな
類:(獏野さんに……あわせて作る?)
大原監督:はあ? この作品はそもそも獏野ありきだぞ。 そんなのは企画の時から——
大原監督:……いや、ちょっと待てよ。 もしかしたら、まだ——
???:まあまあ、そんな深刻にならないでよ。 これは俺個人の感想だからさ
???:それに、ともみちゃんのことだから、 クランクアップにはいいものになってるんじゃない?
大原監督:……また適当なこと言いやがって……
???:じゃ、俺はこのあと打ち上げあるからさ。また来るよ
大原監督:あっ、おい! せめて連絡してからにしろ!
類:……“獏野歴にあわせて作る”……
類:(さっき監督が言っていたとおり、 この映画は主役に獏野さんを指名している、 獏野さんありきの作品だ)
類:(だから、企画の段階から そういう風に作られているはずだけれど……)
類:(あの表情……。 何かに気づいていたような……)
類:(僕達もまだ気づけていない、“何か”に——)
第 7 话:最後の日
翌日
海辺
スタッフ:午前の撮影、以上になります! また午後からよろしくお願いします!
類:(……もう、午前の撮影は終わりか……)
類:(この休憩をはさんだら、例のシーンの撮影になってしまう)
???:もっと獏野歴にあわせて作るかな
類:(あの言葉が引っかかって、今までの映像を見直した)
類:(……今回の映画で撮影したものだけじゃない。 加藤さんにお願いして、 今まで獏野さんが出演した舞台の映像も送ってもらった)
類:(けれど—— まだ、明確な答えにはたどり着けていない)
類:(一体、何が足りないんだ? あの人が気づいていたことは……)
リン:『類くん、大丈夫?』
類:……リンくん。 どうしたんだい?
リン:『昨日から眠ってないみたいだから、大丈夫かな~って』
リン:『あっ、クマもすごい! やっぱり、ちゃんと寝たほうがいいよ~!』
類:……見られていたんだね
類:でも大丈夫だよ。 それよりも、今答えを出さなければ——
司:おお、類! それにリンも一緒にいたのか
類:みんな……
リン:『あれ? 司くん、なんかおっきな袋持ってるね?』
司:フッフッフ。 これはオレ達と——類のための弁当だ!
類:おや……僕のものも持ってきてくれたのかい?
寧々:休憩終わったら空港に移動して、例のシーンの撮影でしょ? なら、今のうちにちゃんと食べておかないと
えむ:いっぱい食べたら、 いいアイディアも浮かぶかもしれないしね!
司:というわけで、類にはボリューム満点焼肉弁当だ! 最後のひとつを取ってきたんだからな、ありがたく思え!
類:……たしかに、今僕に必要なのは栄養かもしれないね。 ありがとう、みんな
リン:『わあ、今日はみんな違う種類のお弁当なんだね!』
リン:『寧々ちゃんは和食で、えむちゃんは洋食で 司くんはサンドイッチだ!』
えむ:えへへ、こうやって 自分の好きなお弁当を選べるのって嬉しいよね!
司:たしかにな。普通に考えれば、 1種類の弁当を発注するだけでよさそうだが……
司:スタッフも多いから好き嫌いもあるだろうし、 それぞれの好みにあわせた弁当を選べるように 工夫されているのだろうな!
類:……それぞれの好みにあわせて……
えむ:あっ、あたし、いいこと思いついた!
えむ:お弁当の種類を選べるのも嬉しいけど、 も~っと細かく選べたら、も~っと嬉しいんじゃないかな!?
寧々:……どういうこと?
えむ:たとえば、類くんのボリューム満点焼肉弁当って、 お肉もだけど、野菜もモリモリモリ~って入ってるでしょ?
えむ:でも類くんは野菜食べられないから、 もし野菜抜きにできたら、 類くんにぴったりのお弁当になるな~って思って!
類:…………!
えむ:あたしは今野菜モリモリパクパクしたい気分だから、 お肉より野菜のほうがい~っぱいほしいな!
寧々:それじゃ焼肉弁当じゃなくなるでしょ。 っていうか、バイキングと変わらなくない?
類:(それぞれの好みにあわせて…… ぴったりのお弁当に……)
類:……そうか。 そういうことだったのか
えむ:類くん?
寧々:もしかして、何かわかったの?
類:……ああ。 例のシーンがうまくいかなかった理由…… やっと掴めた気がするよ
リン:『えっ?』
類:僕は監督と話をしてくる。 みんなはここで食べていてくれ
寧々:あ、ちょっと——
寧々:もう、しょうがないんだから
大原監督:——ってことで、 ここの演じかたを調整して……
歴:なるほど……
類:ふたりとも、お話中すみません
大原監督:なんだ、そんなに息を切らして。 何かトラブルでもあったか?
類:いえ、例のシーンのことです
類:どう調整すれば、監督のイメージに近づくか…… わかったかもしれません
歴:え……! 神代さんもですか?
類:“も”ということは——
大原監督:ああ。 今俺も、獏野にその話をしていたところだ
大原監督:昨日榊から話を聞いた時、ピンときたんだ。 『獏野歴にあわせて作る』—— そんなのは当たり前だと思ってたし、やってるつもりだった
大原監督:だが、あのあと編集で見せかたを変えても答えは出なかった。 つまり、問題は画のほうじゃないってことだ。 それなら——
類:問題は、『台本』にある……
大原監督:……同じ答えに辿りついたみたいだな
大原監督:この台本は原作に基づいて書かれている。 つまり、セリフもほとんどが原作から引っ張ってきたものだ
類:そうですね。特にこのクライマックスのシーンは 原作の雰囲気を壊さないように、 小説で描写されていたままのセリフが書いてあります
大原監督:ああ。でも、そのセリフは “小説という媒体の中で最大効果を発揮するセリフ”だ
大原監督:つまり—— 映像で表現する場合は、それが適切ではない可能性がある
類:はい。……とはいえ、セリフ自体が悪いわけではありません。 実際、このセリフでもシーンとして成立はしていました
類:もし、他の役者がやるのであれば、 このままでも問題なかったはずです。ただ——
類:『克幸役が獏野さんなら』…… もっといいものにする方法がある
大原監督:……ああ
類:なので、原作のイメージを大切にするならば、 ここはむしろ、獏野さんの表現力にあわせたセリフに——
類:獏野さんの表現力を最大限に発揮できるセリフに、 作り変える必要があると思っています
大原監督:ほう……
大原監督:……ははっ、そうか。 お前でも、そこまでだったか
歴:監督?
大原監督:ツメが甘いな、神代。 俺が考えてるのは、その一歩先だ
類:え……
大原監督:まあ、ここまでたどり着くのも 並大抵のやつじゃできないだろうし、 そこは誇っていいと思うぞ
大原監督:……それに、映像初心者のお前に 同じ答えを出されたら、俺も商売あがったりだしな
歴:え、えっと……
大原監督:——それじゃ、若者達に見せてやりますか
大原監督:映画監督、大原友己の演出ってやつをな
第 8 话:この先に進むために
空港
スタッフ:それではシーン143、よーい……
スタッフ:スタート!
えむ:(類くん……あのあと帰ってこなかったな)
寧々:(例のシーンを少し変更したって話は聞いたけど…… あれで、どうやって解決するつもりなんだろう)
司:(……わからないが、今は——)
司:(——監督と類を、信じるだけだ)
はじめ:『だったら、なおさら私は 克幸の側にいるわけにはいかないよ』
克幸:『な——』
克幸:『——んで……、そんな勝手なこと……。 勝手に現れて、勝手に人の心に踏み入って……』
克幸:『ホントは……どうだっていいんだ。 お前の事情なんかより、俺は——!』
寧々:(最初にやった時よりも感情が乗ってる……! それも舞台演技にならない程度に、自然に……)
寧々:(でも……シーンの印象が 大きく変わったって感じじゃない。やっぱり——)
寧々:(問題はこの先なんだ。 はじめが、克幸の言葉を受け止めて——)
はじめ:『っ……』
司:(ここだ! ここから先が、変更を加えられたところ——)
司:(『克幸のセリフをすべてなくした』ところだ)
類:(僕が考えついたのは台本のセリフを変えて、 獏野さんという役者にあうように 変更したほうがいいということだけだ)
類:(でも、監督はセリフを変えるのではなく—— セリフ自体をなくしてしまうという方法をとった)
類:(『本当は、はじめって名前も違うのかもな』 『俺は、お前のこと何も知らない』 『本当に、何も……』……)
類:(この3セリフは、本来なら必要なものだ)
類:(これがなければ克幸の心情が伝わらず、 見ている人達の共感を得られなくなってしまう)
類:(けれど……)
はじめ:『……ごめんね』
克幸:『あっ……はじめ!』
克幸:『…………っ』
えむ:…………!
えむ:すごい……克幸くんの表情……! セリフがないのに、あった時より胸がぎゅーってなる……!
寧々:うん……それに、表情だけじゃない
寧々:息の使いかた、肩の落としかた…… そういう繊細なところで、 克幸の悲しみとか、自分の感情への戸惑いも表現してる
司:……監督が『濁流のような感情』と言っていたのが とてもわかるシーンだな
司:この役は、本当に…… 獏野さんにしかできない
類:(まさか、こんな風に獏野さんという役者を 活かす方法があるなんて)
類:(やはり、大原監督はすごいな。 本当に……この期間で思い知らされた)
類:(この方法を思いつかなかったことは悔しいけれど—— 不思議と晴れやかな気持ちだ)
類:(演出というものは……やっぱり面白い)
類:(たくさんの手法がある。 僕の知らないことが、まだまだたくさん——)
類:(これからも、知っていきたいな。 僕には、まだ見えていない世界を……)
類:(……そういえば、あの人は何者だったんだろう)
類:(あの人の言葉がなければ、 監督も僕も解決法を思いつくことができなかった)
類:名前だけでも、聞いておけばよかったな……
数週間後
えむ:おもしろかったね、 みんなで作った映画っ!
寧々:まだ仮編集の状態ではあったけど…… 試写会より前に見せてもらえるなんて、 スタッフとして参加できてよかったな
司:今まで関わってきただけに、感動もひとしおだな!
類:このあと映画館で公開されるのが楽しみだね
リン:『リンも見れて嬉しかったなあ♪ みんな、連れてきてくれてありがと~!』
寧々:ふふ、リンもほぼ毎日見に来てくれてたから 思い入れがあるよね
類:リンくんには励まされたよ。 ……最後のほうは心配かけて、すまなかったね
リン:『ううん! それより、類くんが納得できるものができてよかった!』
リン:『……リンね、最初は“映画作るなんて楽しそう!”って思って、 それだけでみんなのこと、見にきてたんだ』
リン:『でも、みんながひとつひとつのシーンを 少しでもよくなるようにって一生懸命作ってるのを見て……』
リン:『映画作りって本当に大変なんだなあって…… 楽しいだけじゃないんだ、ってわかったの』
司:リン……
リン:『でも、大変だから こんなにおもしろいものが作れるんだよね』
リン:『そう考えたら…… ますます、映画ってすてきだなあって思ったよ!』
類:……僕達の働きを見て、そう思ってもらえたなら光栄だよ
リン:『えへへ……早くミク達にも見てもらいたいよね! いつみんなで見れるようになるのかな——』
歴:ああ、よかった、皆さんまだここにいた!
司:獏野さん……と監督!
大原監督:例のシーンのことについて、 獏野がお前に直接お礼を言いたいんだと
類:僕に……ですか?
類:お礼を言われるようなことは、何も……。 最後の演出を思いついたのも監督ですから
歴:いえ、神代さんは監督と一緒に 問題に本気で向き合ってくれました
歴:……正直、あの時おふたりから話をもらうまで、 本当に焦っていたんです。 僕のせいで、映画のクオリティが落ちるかもしれないって
歴:でも最終的に 僕の力を引き出すような演出をつけてもらえて、 本当に最高のシーンに仕上がったと思っています
歴:——本当に、ありがとうございました。 おかげで僕も、改めて自分の演技に向き合うことができたし、 成長する機会にもなりました
類:獏野さん……
類:こちらこそ、ありがとうございます。 僕も今回のことで、演出家として成長できました
類:それに——監督も。 僕にこのような機会をくれたこと、本当に感謝しています
類:本当に……お世話になりました
大原監督:……俺がお前に声をかけたのは、 お前の働きがよかったからだ
大原監督:時間があったら、いつでも手伝いにこい。 お前なら歓迎するよ
類:はい。 皆さん、本当にありがとうございました
類:あ、そういえば この前、突貫で編集をしている時に来ていたご友人は——
スタッフ:すみません、監督! 取材の件で電話が来てるのですが!
大原監督:ああ、そういや連絡くれってのが来てたな……。 今行く!
類:(……機会を逃してしまったな)
類:(彼の件は、また今度…… 連絡して聞いてみることにしよう)
数十分後
大原監督:……ふう。 これで今回の撮影も終わりか……
大原監督:だいたいいつも、 『二度とやるか!』って思うくらい忙しいんだが いざ撮り終わると、また次撮りたいって思っちまうんだよな……
大原監督:それに今回は、面白いヤツも見つけたし——
???:なに、そんなとこでたそがれちゃってんの
大原監督:うおっ!? お前、いつ来た!
???:ひどいねえ。 仮編集終わったから見にこいって言ったのは君のほうなのに
大原監督:おもいっきり集合時間ぶっちぎってんだろうが。 もう上映終わったぞ
???:あらら、そうなの?
???:まあでも、優しいともみちゃんなら わざわざ足を運んでくれた友達のために、 もう一度見せてくれるよね?
大原監督:…………。 もう会場の時間もないんだが
???:いいじゃ~ん! せめてこの前見たシーンがどうなったかだけ!
大原監督:……機材はもう返したから、俺のスマホでだ。 文句は受け付けないぞ
???:じゅうぶん、じゅうぶん。 どれどれ——
はじめ:『……ごめんね』
克幸:『あっ……はじめ!』
???:へえ、ここは変えてないのか。 だとしたら、どこで——
克幸:『…………っ』
???:……このシーン、セリフなくしたんだ?
大原監督:ああ。 そのほうが、イメージにあってたからな
大原監督:……悔しいが、お前の言葉がヒントになったよ
???:へえ、俺の言葉の意味考えてくれたってこと? なんだか悪いねえ
大原監督:本当にな。 いつも曖昧なこと言い残してさっさと帰りやがって
大原監督:……しかし、改めて考えてみても お前のあんな意味不明な言葉で 神代はよくあそこまでたどりついたな
???:……カミシロ?
大原監督:この前乗り込んできた時に、紹介しただろ。 俺の隣にいた、やたらデカい演出家の卵だよ
???:ああ…… そういえば、そんなのもいたような?
大原監督:お前……。 興味ないことはホントに覚えないよな……
???:——まあでも、今思い出したよ
???:その『カミシロくん』って子…… 俺の言葉を理解してくれてたんだ
大原監督:ああ。 基本的には舞台演出をやりたいらしいから——
大原監督:そっちの分野がメインのお前とは、 いずれどっかでぶつかるかもしれないな
???:へえ……
???:……そっか