活动剧情

The first concerto

活动ID:125

第 1 话:すべてを乗せた曲

冬弥の部屋
冬弥:……違う。この音でもない
冬弥:(こんな曲では、 あの夜の熱気には到底届かない)
冬弥:(もっとだ)
冬弥:(もっと研ぎ澄ませて——熱くしろ)
冬弥:(RAD WEEKENDを超えるための曲を、作るんだ……!)
数カ月前
WEEKEND GARAGE
謙:もし実力がついたとしても、 これまでのように ただイベントをやるだけじゃあ、難しいと思っている
謙:一度消えかかった火をもう一度燃え上がらせるのは困難だ。 チャンスもそう何度もないだろう
謙:そこで……役割分担をしよう
彰人:え?
謙:RAD WEEKENDを超えるイベントをやるための、 壮大な下準備だ
謙:まずは——彰人、お前はオーディエンスに火をつけてこい
彰人:……オーディエンスに……?
冬弥:(……なるほど。 RAD WEEKEND超えに必要なことを ひとつひとつクリアしていくということか)
冬弥:(オーディエンスに火をつける……彰人にぴったりの役割だ。 きっと、やりとげてくれる)
謙:次に——冬弥だな
冬弥:……はい!
謙:お前の役割は——『トラックメイカー』だ
冬弥:……え?
謙:RAD WEEKENDを超える時、お前達が歌う曲。 そのすべてを、お前ひとりで作ってもらう
冬弥:……すべての曲を、俺が……ですか?
謙:ああ、そうだ
謙:当然だが、いいイベントにはいい曲が欠かせねえ。 その上お前達はRAD WEEKENDを超えようってんだ。 相応のクオリティが求められる
杏:た、たしかに冬弥の曲はすごくいいけど…… でも全部ひとりでなんて、さすがに大変なんじゃ……
謙:——なぜ冬弥にすべて任せるのか。 それは順を追って説明していこう
謙:まずは、RAD WEEKENDをやった時、 オレ達が作った曲について話すとするか
謙:あの時の曲は、オレ達3人で作った。 ——これまでの想いをすべて込めてな
冬弥:これまでの想いを、すべて……
謙:ああ。 凪の、最期のイベントで歌う曲だからな
謙:オレ達が乗せられるもんは、全部乗せた
謙:その甲斐あってわかすことができたってわけだ。 ……オレ達も経験したことないほどのレベルでな
謙:だから、お前達がRAD WEEKENDを超えようと思うなら、 そういう曲を用意する必要がある
謙:『お前達のすべてを乗せた曲』をな
冬弥:…………
謙:そういう曲が作れなきゃ、 どれだけいいパフォーマンスができたとしても、 あの熱狂は超えられねえ。絶対にな
冬弥:(……たしかに、それは理解できる)
冬弥:(あの日の熱狂は、謙さん達の歌声だけで生まれたわけじゃない。 ……あの胸揺さぶる曲があったからこそ、沸いたんだ。 それは映像で見ただけでも十分に伝わった)
冬弥:(だが……)
冬弥:…………俺に、できるんでしょうか
冬弥:たしかに俺達には、強い想いがあります
冬弥:凪さん、謙さん、大河さん、昔から街にいる皆さん…… そのすべての想いを知った上で、 背負って夢の先へ進むという覚悟をしました
冬弥:その、俺達の想いの強さは—— きっと謙さん達にだって負けていません
冬弥:ただ……俺がそんな想いをまとめ上げ 曲にできるのかというと……
謙:——オレは、お前になら可能性があると思っている
冬弥:え……
謙:以前、お前達が今まで作った曲をすべて聴かせてもらったが……
謙:冬弥の曲は、何かが違う。歌詞を聴かなくても、 音から伝わってくるものが多い……そんな感覚がある
謙:これはオレの推測だが——
謙:子供の頃から、 他の人間とは違う特別な形で、音楽に触れてきたからだろう
謙:その経験が、 こういった曲につながっている……オレはそう見た
冬弥:あ……
冬弥の父:——決して漫然と弾くな
冬弥の父:作曲した人間の背景、意図、その感情まで想像して演奏しろ
謙:もちろん、冬弥だけじゃない。 各々曲に想いを込めることはできている
謙:だが冬弥なら、お前達全員の想いを—— 例えそれがとてつもなく大きく複雑なものだったとしても、 ひとつの音楽としてまとめられる可能性が高い
こはね:……たしかに、前に青柳くんの曲を聴いた時も、 いろんな想いを感じられた気がするね……
杏:そうだね。私達が今まで作った曲でやれないのは やっぱちょっと残念だけど——
杏:冬弥の曲なら思いっきり、 私達の想いを届けられると思う!
謙:……しかし、無茶をやろうとしてることに変わりはねえ
謙:厳しい課題になるが……やれるか?
冬弥:…………やります
冬弥:謙さん達が作った曲を超える—— 俺が作ることでその可能性が生まれるなら……やるしかない。 そう思います
彰人:お互い、苦しい戦いになりそうだな。 だが——
彰人:任せたぞ、冬弥!
こはね:頑張って、青柳くん!
冬弥:ああ!

第 2 话:冬弥のノート

ストリートのセカイ
crase cafe
杏:——っていうのが、これまでの私の想いかな!
冬弥:……なるほど。 白石はそんなことを考えていたのか
杏:うん。まあ『凪さんとみんなを会わせたい』っていうのは、 結局叶わなかったけど……
杏:でも今は、天国まで響くように歌おう!って思ってるよ。 みんなと一緒にね!
冬弥:……そうか
冬弥:改めて、白石の想いがよくわかった。 ありがとう
杏:どういたしまして! ドーンと曲作りに活かしてよ!
冬弥:ああ。 ——最後は、小豆沢の話を聞いてもいいか?
こはね:うん!
MEIKO:みんな精が出るわね。 飲み物のおかわりは大丈夫?
こはね:あ、メイコさん!
彰人:わざわざありがとうございます。 結構長い時間居座ってすみません
MEIKO:いいのよ。 みんなが頑張ってる姿を見れるのは嬉しいもの
KAITO:メイコ~! 来たよ~! 今日の日替わりデザートは何アイス……あれ?
KAITO:お~! 今日はみんな勢ぞろいだね! タイミングよかったな!
冬弥:カイトさん。 お邪魔しています
KAITO:あれ? なんだかノートにいろいろ書いてるけど……何やってるの?
冬弥:ええと、実は——
KAITO:ええ~!? じゃあ冬弥くんが、曲を全部作ることになったの!?
冬弥:はい。正直、まだ不安はありますが……
冬弥:できることはすべてやろうと思い、 まずはみんなの話を聞かせてもらっているんです
KAITO:みんなの話を?
MEIKO:ええ。みんながこれまで、どんな想いでやってきたのかを聞いて 曲に込めたいんですって。 真面目な冬弥くんらしいわよね
KAITO:なるほどな~! たしかに、冬弥くんらしいや!
KAITO:ちなみに……そのノートって、見せてもらえたりする?
冬弥:俺は大丈夫だが……
杏:うん、私も大丈夫!
彰人:……まあ、カイトさんだしな。問題ないだろ
KAITO:ありがとう! えーっと……
KAITO:……わ! これ、年表みたいになってるんだね!
冬弥:今のところ、それが一番みんなの『これまでの想い』を うまくまとめられると思ったんです
冬弥:……いつ、何がきっかけで歌おうと思ったのか。 RAD WEEKENDに出会ってから、どんな気持ちで、 どんな行動をしてきたのか……
冬弥:改めて整理していくといろいろな発見があって、 とても参考になりました
KAITO:なるほどなるほど~。 えーっと、彰人くんは……
KAITO:『中学時代。歌を始めようと決めてからは 動画サイトを参考に……』
彰人:おい、そこまで書かなくていいって言っただろ
冬弥:すまない。 詳細があったほうがイメージがわきやすいと思って……
こはね:ふふっ。 こういうところも、すごく青柳くんらしいよね
彰人:まあ……それはたしかにな。 なんでも本気で向き合うっつーか
冬弥:……本気で向き合わなければいけないと思うんだ
冬弥:みんなの想いを曲に込める必要があると知った時…… 俺は、『誰かの想いを、自分の想いのように感じ、 曲に込めることができるのだろうか』と思った
冬弥:自分のものではない想いを表現するのは、 どうしたって難しい
冬弥:みんなの想いを、自分のものとして感じられるように—— 話を聞いて、自分なりにまとめていこうと思ったんだ
杏:冬弥……そんなことまで考えてたんだ……!
彰人:……本当に、冬弥らしいな
KAITO:これならきっと、大丈夫だね
冬弥:え?
KAITO:さっき、『正直まだ不安』って言ってたけど 不安に思う必要なんてないよ
KAITO:冬弥くんはこんなにみんなの想いを大事にしようって思って、 ちゃーんと行動できてるんだからさ!
KAITO:曲作るならボクも相談乗れると思うからさ、 いつでもバンバン聞いてほしいな! 頼れるアドバイザーだと思ってね!
冬弥:はい。 ぜひ、よろしくお願いします
冬弥:あ……そろそろ話の続きに戻らないとな。 小豆沢、いいか?
こはね:うん! 私は杏ちゃん達と違って、 音楽について話せることは少ないけど——
冬弥:いや、そんなことは決してないと思う。 さっきも言ったが、どんな小さな想いも、 今の小豆沢につながっているんだ
冬弥:だから、なんでも話してほしい。 これまでの小豆沢の想いを
こはね:わかった、ありがとう! それじゃあ——
冬弥の部屋
冬弥:(……RAD WEEKENDに出会った時の、 衝撃と興奮)
冬弥:(『あの夜を超えてみせる』と胸に誓った時の高揚感。 その過程で何度も挫折して生まれた、自責の念)
冬弥:(……音楽という、新しい世界に飛び込んでいった時の、 期待と不安)
冬弥:(そして——)
冬弥:(必ず超える、夢の先に行くという……決意)
冬弥:(……よし。 みんなの想いをどう音にしていくか、構想はまとまった。 あとは実際に作っていくだけだ)
冬弥:(だが……難しいのはここからだ)
冬弥:(以前颯真さんにいろいろなことを教えてもらったが……、 それでも俺にはまだまだ、作曲の知識も技術も足りていない)
冬弥:(そこについても、勉強しながら作っていかなくてはな。 練習もあるから、時間が足りず大変だが……)
冬弥:……あ。 そうか、知識ならば……
冬弥:(……使えそうな作曲の本は、これぐらいだろうか。 読んだらすぐ父さんの書斎に戻しておかなくては)
冬弥:(……ストリート音楽とクラシック音楽の作りかたは、 だいぶ違うものだが……)
冬弥:(それでも何か参考になるはずだ。 クラシックによって培われた感性も、 今の曲作りに役立っているのだからな)
冬弥:(部屋に戻って読むとするか。 ……しかし、これは徹夜になりそうだな)
冬弥の父:…………

第 3 话:誇り

冬弥の部屋
冬弥:(……ここは、音をもっと厚くしたい)
冬弥:(RAD WEEKENDを初めて見た時の感動のような—— 大きな衝撃を感じてもらいたいからな)
冬弥:……ふぅ。 どうにか1曲目が形になった
冬弥:よし、頭からとおして聴いてみよう
冬弥:(……悪くはない。 込めたい想いも表現できていると思う)
冬弥:(だが……どうにも、もの足りなさを感じる)
冬弥:(RAD WEEKENDの曲は、どの曲も俺達の胸を熱くした)
冬弥:(全身から熱気がわいてくるような…… そんな感覚すら覚えた)
冬弥:(しかし、今作った俺の曲では、 その感覚からは程遠い)
冬弥:(どこか軽いというか…… 熱く押し寄せてくるものがない。 無難なものになってしまっている)
冬弥:(以前、颯真さんにトラックメイクを教えてもらった時に、 力強い音の作りかた——この大切な想いの込めかたは、 掴めたと思っていたが……)
冬弥:(……どうする。 これを調整していくという手もあるが……)
冬弥:……いや、作り直そう。 この曲では、RAD WEEKENDは超えられない
冬弥:最初からやり直しだ
1週間後
冬弥:…………
冬弥:(……あれからアプローチを変えて 何曲も作ってみたが……)
冬弥:(どれも足りない。 あの時のような熱気を感じない)
冬弥:(……一体、何が原因なんだ?)
冬弥:……本当に、俺にできるのだろうか
冬弥:1曲目からこの調子では、 すべての曲を作ることなんて——
冬弥:……いや。そんな弱気でどうする
冬弥:謙さんもみんなも、俺に期待をしてくれているんだ。 なんとしても作り上げなければ
冬弥の父の声:——帰ったぞ
冬弥:……! 父さん……
冬弥:(いつもより遅かったな。 ……そういえば、今度ホールでコンサートをやると言っていたか)
冬弥:(となると、その準備で忙しいのかもしれない。 父さんの曲も演奏すると言っていたし、その調整も——)
冬弥:……あ
冬弥:(……父さんなら、 この曲をどう感じるだろうか)
冬弥:(父さん自身、演奏家であると共に作曲家だ。 もしかしたら、作り手として この曲の問題点を見抜いてくれる可能性が——)
冬弥:(いや……)
冬弥:(父さんはまだ、 俺達の音楽を良く思ってはいないだろう。 聴いてくれるかどうか……)
冬弥:(そもそも、父さんに聴いてもらうほどの 曲になっているかというと……)
冬弥:(——いや。 駄目でもともとだ)
冬弥:(今は手段を選んでいる場合じゃない)
冬弥:父さん。 帰宅して早々すみません。今、少しいいでしょうか?
冬弥の父:……なんだ。 明日の準備があるから手短に話せ
冬弥:俺が作った曲を聴いてもらいたいんです
冬弥の父:……お前の曲を?
冬弥:はい。 実は、今イベントの曲を——
冬弥の父:断る
冬弥:……っ
冬弥の父:お前は、私と違う道を進むと決めたのだろう。 今更意見を求めてどうする
冬弥:……そう言われるとは、思っていました
冬弥:ですが、それでも聴いてほしいんです。 俺は……ひとりの表現者として、父さんがどう感じるか、 意見が聞きたいんです
冬弥の父:…………
冬弥:今、俺は……俺達は、 とても大事なイベントの準備をしています
冬弥:これがうまくいかなければ夢が叶わなくなるかもしれない。 そういう、全員の人生において大事なイベントです
冬弥:……そんなイベントで、 みんなが俺に、曲作りを任せてくれました
冬弥:だから俺は、この曲を なんとしてもいいものにしなければならない
冬弥:——お願いします! 一言でもいいので、意見をください!
冬弥の父:お前の曲ならば、すでに聴いている
冬弥:え?
冬弥の父:何度か部屋のスピーカーで流していただろう。 ……家の中で聴きなれない音が流れているのに、 私が気づかないと思うか?
冬弥:あ……。 ……すみません
冬弥:それでその……曲は、どうでしたか
冬弥の父:……評価するに値しない
冬弥:え……
冬弥の父:お前の曲からは、誇りを感じない
冬弥:……っ
冬弥の父:以上だ
冬弥:あ……! 父さん……!
冬弥:誇り、か……
冬弥:(たしかに一度、袂を分かっておきながら教えを乞う姿は、 父さんにとって誇りのないものに見えただろう)
冬弥:(もしかすると…… そういう、自分の曲に自信が持てないという感情が、 曲にも表れてしまったのかもしれないな)
冬弥:(いや、落ち込んでいる場合ではない)
冬弥:(あの熱さを生むためにできることはないか…… もう一度、一から探っていこう)

第 4 话:俺はもう二度と

彰人:あの熱さに届かない……か
冬弥:ああ
冬弥:みんなの想いを乗せ切ることができれば、 あの熱さに届くのではないかと思って試行錯誤しているんだが…… どうにもうまくいかない
杏:んー……。 今でも十分、いい曲だけどなあ……
冬弥:そうか……ありがとう
冬弥:だが、今のままではまだ軽い印象がある気がするんだ
冬弥:この曲では、俺達の『覚悟』を感じてもらいたい。 だからもっと力強さを出したいんだが……
杏:あ、それならサビ前に、段々上がってくような フレーズ入れるのはどう?
冬弥:なるほど……たしかにその手はあるな
彰人:あとは、Aメロからテンポ上げちまうのもいいかもな。 前半は勢いつけて、調子あげてく感じにして——
KAITO:…………
KAITO:曲全体のクオリティはかなり上がってきてるし、 冬弥くんが表現したいことも伝わってはくる……
KAITO:でもやっぱり、RAD WEEKENDの曲と比べると まだ聴く人を突き動かすような熱さが足りないかもね
冬弥:やはりカイトさんもそう感じますか……
冬弥:そうすると……まずはRAD WEEKENDの曲を 分析してみるのがいいかもしれないな……
冬弥:分析して、謙さん達の曲の強みがわかれば、 自分の曲にも活かせるかもしれない
KAITO:お、そういうことならボクも手伝うよ!
冬弥:え……本当ですか? ありがとうございます
冬弥:(……音をいちから変えても駄目だったか)
冬弥:(思い浮かぶ手はもう……。 しかし……)
彰人:——おい、冬弥。話聞いてるか?
冬弥:……あ、すまない。 なんの話だ?
彰人:なんでもねえよ。ただの雑談だ お前があんまり思いつめた顔してるからな
冬弥:そうだったのか……。 気をつかってくれたのにすまない
彰人:気にすんな。 今は全員そういう時だしな
彰人:オレも正直、行き詰まってるっつーか…… 突破口が見えねえ
冬弥:……そうか……
彰人:だが……やるしかねえ
彰人:どんなに先が見えなくても進むしかねえんだ。 ……そうだろ
冬弥:……ああ。 そうだな
1カ月後
冬弥:…………
冬弥:(『あの熱さに届かない』。 ……その原因がなんなのか、いろいろな角度から考えた)
冬弥:(テンポも、音の配置も、何通りも試してみた。 音源に問題があるのかもしれないと、素材の見直しもした。 加えてクラシック以外の作曲技法も勉強した)
冬弥:(いや……付け焼刃の知識で作っているからか? だが……技術的な面は、カイトさんも見てくれて、 それが大きく誤っているとも思えない……)
冬弥:(……俺がみんなの想いを、背負っているというのに)
冬弥:(なぜ届かない。 一体、何が原因なんだ?)
冬弥:(……まるで、暗闇の中だ。 手を伸ばしても、どこにも手ごたえがない)
冬弥:(このままでは…………)
冬弥:(……応えることができない)
冬弥:(俺に曲作りを任せてくれた、みんなの想いに応えることが)
冬弥:(……もしそうなってしまったら……)
中学生の冬弥:……もう無理だ
中学生の冬弥:俺には……できない
中学生の冬弥:父さん達の期待に応えることは——できないんだ……!!
冬弥:…………っ
冬弥:……そんなことには、しない
冬弥:もう二度と、逃げはしない……!
冬弥:なんとしてもみんなの期待に応え、 作り上げてみせる……!
冬弥:(原因がわからないなら、 もっと深くまで探ればいい)
冬弥:(あらゆる可能性を考えろ……! 必ず、まだ試していないことがあるはずだ……!!)
1カ月後
冬弥の父:……もう1杯もらえるか
冬弥の母:ええ、コーヒーですね。 少し待っていてください
冬弥の父:…………。 冬弥はまだ寝ているのか
冬弥の母:あ……。 冬弥さんなら、今朝早くに朝食を持って部屋にこもっていて……
冬弥の父:部屋で食べているのか? 行儀が悪いな
冬弥の母:それもそうなんですけど…… 最近曲を作っているとかですごく疲れているみたいで、 心配なんです
冬弥の母:朝くらいゆっくり食べたらどうかしらって言っても、 今はどうしても難しいって……
冬弥:…………。 おはようございます、父さん
冬弥の父:……冬弥、お前、寝ていないのか?
冬弥:……いえ。寝てはいます。 パフォーマンスに影響が出るので……
冬弥:——母さん、ミネラルウォーターのペットボトルはあるだろうか? 飲み物を取りに来る時間がもったいなくて
冬弥の母:ええ、あるけれど……。 本当に大丈夫なの?
冬弥:ああ。 心配をかけてしまって申し訳ないが……
冬弥:ただ、今はどうしても……やらないといけないんだ
冬弥の母:……無理はしないでちょうだいね
冬弥:…………わかった
冬弥の母:……冬弥さん……大丈夫かしら……
冬弥の父:……………………

第 5 话:書かれていない想い

???:(……もう一度……)
???:(もう一度、最初からだ)
???:(できるまでやり続けるんだ)
???:(そうでなければ——失望させてしまう)
???:(父さんを……母さんを……。 期待してくれた、たくさんの人を……)
???:(……だが……)
???:(いつまで続けなければならないんだ?)
???:(いつまで続ければ——期待に応えられるようになるんだ?)
???:(俺には……)
???:(俺には……できないんじゃないか?)
???:…………
???:——その程度か、お前は
冬弥:……っ!
冬弥:……夢……か……
冬弥:(……最近、こんな夢ばかりだ)
冬弥:(まるであの時に戻ったような…… 生々しい感情まで蘇ってくる)
冬弥:(……いいや。 今はそんなことを考えている暇はない)
冬弥:(やらなければ……。 せめて、1曲だけでも完成させないと……)
冬弥の母の声:……冬弥さん?
冬弥:あ、母さん……
冬弥:どうかしたのか?
冬弥の母:……やっぱり、今日も早起きしてたのね
冬弥の母:最近夜更かししているようだから、 ちゃんと眠れているのか気になってしまって
冬弥:あ……ありがとう、母さん。 だが、今は——
冬弥の母:冬弥さんが大事なことをやっているのは、 わかっているつもりよ
冬弥の母:でも……体を壊したら元も子もないでしょう? 少しは休憩したほうが……
冬弥:だが……
冬弥:……いや、そうだな。 休憩がてら、散歩に行ってこようと思う
冬弥の母:そう……。 気をつけて行ってくるのよ
冬弥:ああ
冬弥:(……心配をかけてしまって、申し訳ないな)
冬弥:(だが今は、一分一秒が惜しい。 できる限り曲のことを考えていたい)
冬弥:(家で作業できないなら、やはり——)
ストリートのセカイ
冬弥:……よし
冬弥:(メイコさんのカフェで作業の続きをしよう。 もしかしたら、カイトさんもいるかもしれない——)
冬弥:う……
冬弥:……まずい。 寝不足のせいで、めまいが……
冬弥:……駄目だ。 こんなところで休んでいるわけには……
???:——冬弥くん?
冬弥:この声は……
冬弥:メイコさん……
MEIKO:しゃがみ込んでどうしたの? もしかして、具合が悪いんじゃ——
冬弥:いえ……大したことはありません。 少し休んでいれば……、……っ
MEIKO:——駄目よ。 そんなフラフラなのに見過ごせないわ
MEIKO:ここに座っていて。 今、お店から飲み物を持ってくるから
冬弥:そんな、わざわざ——
MEIKO:冬弥くん、言うことを聞いてちょうだい
冬弥:…………はい。わかりました
冬弥:……ふぅ
冬弥:ありがとうございます。 メイコさんのお菓子と紅茶のおかげで、大分落ち着きました
MEIKO:よかったわ。 やっぱり、寝不足だったみたいね
MEIKO:落ち着いたら、一度戻ってちゃんと寝るといいわ。 回復したら、またお店に来てちょうだいね
冬弥:はい。 重ね重ね、ご迷惑をかけてしまってすみません
MEIKO:いいのよ、これくらい
MEIKO:でも……そんな風になるまで根を詰めるのは 感心しないわね
MEIKO:やっぱり……曲のことで悩んでいるの?
冬弥:……はい
冬弥:今度こそうまくできたと思っても、 謙さん達の曲と比べると、熱さが足りないと感じてしまって
冬弥:その原因がなんなのか、考えても考えても、 わからない……
MEIKO:…………
MEIKO:そういう時は、スタート地点に戻ってみるのはどうかしら?
冬弥:スタート地点……ですか?
MEIKO:そう。 曲を作り始めた、最初の時の気持ちに戻ってみるの
MEIKO:たしか冬弥くんは、みんなの想いをノートにまとめていたわよね
冬弥:あ……はい。 今も、ここにあります
MEIKO:じゃあそれを、もう一度見てみるのはどうかしら?
MEIKO:答えが見つからなくて焦る時こそ、 原点に立ち返ることって大事だと思うの
冬弥:……なるほど
冬弥:(たしかに、最近はずっと、 『あの熱さに届かない理由はなんなのか』『何が足りないのか』 ということばかり考えていた)
冬弥:(しかし、こうして一度視点を戻すことで、 新たな発見もできるかもしれない)
冬弥:わかりました。 やってみようと思います
MEIKO:ねえ、冬弥くん。 もしよかったら、私も見せてもらってもいいかしら
冬弥:え?
MEIKO:カイトが見せてもらっていたでしょ? ……実は私も、ちょっと見たいなって思ってたの
冬弥:ええ、もちろんです。 メイコさんならみんなもきっと、大丈夫だと言うでしょうから
MEIKO:……へえ、2回目のSTAY GOLDの時、 こはねちゃんは、『自分を信じてくれる杏ちゃんを信じよう』 って思っていたのね
冬弥:はい。それがとても記憶に残っているようで…… なので、その時の想いを曲に込めようと思ったんです
MEIKO:ふふ、どんな音につながるのか、今からとっても気になるわ
MEIKO:それにしても……このノートには、 本当にたくさん、みんなの想いがつまっているのね
冬弥:はい。なので、このノートの内容を取り込めば いい曲ができると思っていたんですが……
冬弥:……どうにも、うまくいかなくて……
MEIKO:……ねえ、冬弥くん
MEIKO:このノート、こはねちゃんの想いも、 杏ちゃんの想いも、彰人くんの想いも とても丁寧に書いてあるけれど——
MEIKO:冬弥くんの分は、ほとんど書いてないのね
冬弥:え? ああ……たしかにそうですね
冬弥:ですが、俺の想いは、もう自分でわかっているものですし、 わざわざ書き出すほどでは……
MEIKO:そうかしら? 冬弥くんの想いだって、曲に込める大事な想いでしょう?
MEIKO:なら、みんなと同じように、冬弥くんのこれまでの想いも 書き出してみたほうがいいんじゃないかしら
冬弥:俺の……これまでの想いを……
???:(俺には……)
???:(俺には……できないんじゃないか?)
冬弥:……っ
MEIKO:冬弥くん?
冬弥:あ……いえ。 なんでもありません
MEIKO:本当に? また体調が悪くなったんじゃ……
冬弥:いえ、そういったわけではありません。 ……その……
冬弥:これまでの自分を振り返ると、 どうしても、いろいろと思い出してしまって
MEIKO:いろいろと……?
冬弥:はい……。 ……胸を張って話せるようなことではないんですが……
MEIKO:……そういったことについても、振り返ってみたら?
冬弥:え?
MEIKO:誰かに話すことが難しい、 冬弥くんの想い——
MEIKO:もしかしたら、 それが曲作りに関係しているかもしれないわ
冬弥:たしかに……。 想いを込めようと思うなら、 自分自身の想いも振り返ったほうがいいですね……
冬弥:……ありがとうございます、メイコさん
冬弥:その方法、今日これから試してみようと思います
MEIKO:ええ、頑張って。冬弥くん!
MEIKO:でも、またフラフラするかもしれないから、 振り返る前にちゃんと寝るのよ?
冬弥:はい。 心配してくださって、ありがとうございます

第 6 话:消えない負い目

冬弥の部屋
MEIKO:誰かに話すことが難しい、 冬弥くんの想い——
MEIKO:もしかしたら、 それが曲作りに関係しているかもしれないわ
冬弥:(……振り返るんだ。これまでの日々を)
冬弥:(この曲を、作り上げるためにも)
冬弥:(——3歳の時、 初めてピアノに触れた)
冬弥:(記憶はおぼろげだ。 けれど……あの時の音は覚えている)
冬弥:(俺が鍵盤を押すと、ただ平坦な音がした。 けれど父さんが、ひとつ優しく押すと——)
冬弥:(……生涯忘れられないような、美しい音がした。 静かに輝く木漏れ日のような、穏やかに吹く風のような……)
冬弥:(……あの時は、どうしてなのか不思議に思ったものだ。 同じものに触れているのに、 なぜこんなにも違う音がするのだろうと)
冬弥:(とても不思議で—— この楽器にもっと触れてみたいと思ったんだ)
冬弥:(そしていつか父さんのように、 美しい音を弾いてみようと——)
冬弥:(それが、俺と音楽との出会いだった)
冬弥:(そしてこの日から……苦難の日々も始まった)
冬弥の父:——違う。 もう一度だ。……できるまで寝られると思うな
冬弥:(父さんは本当に厳しい人だった)
冬弥:(兄さん達の練習風景も覗き見していたから、 わかってはいたことだったが——)
冬弥:(父さんの厳しさは想像以上だった。 ピアノの前に立つと、今もあの時の緊張感が蘇ってくる)
冬弥:(……けれど……)
冬弥の父:——冬弥
冬弥の父:今日の演奏は、悪くなかった
幼い冬弥:……!
冬弥の父:しかしこの程度で満足するな
冬弥の父:音楽とは、お前が思う以上に深く広く——果てなどない
冬弥の父:だがお前ならいつかは、その真髄がわかるかもしれんな
冬弥:(…………嬉しかった)
冬弥:(父さんに初めて、悪くないと言われて。 『お前ならいずれはわかるかもしれない』と言われて)
冬弥:(だから俺は、その期待に応えたかった)
冬弥:(本当に……応えたかったんだ……)
冬弥:(けれど、そう思えば思うほど、 指は重くなっていった)
冬弥:(終わりの見えない練習の日々。 強いプレッシャーに押しつぶされそうになるコンクール。 そして……)
冬弥:(ついに——限界がきた)
冬弥の父:……もうできない、だと?
冬弥の父:何を馬鹿なことを言っている
中学生の冬弥:…………無理です…………
中学生の冬弥:俺はもう……この生活に、耐え切れません
中学生の冬弥:毎日、毎日…… 何もかもを手放して、同じ部屋で、ひたすら弾き続けて——
中学生の冬弥:……父さんが期待してくれていることはわかっています。 期待してくれているからこそ、高い要求をしていることも
中学生の冬弥:ですが…… ですが、俺はもう……!
冬弥の父:……その程度か、お前は
中学生の冬弥:え……
冬弥の父:そんなくだらない理由で、お前はすべてを投げ出すのか
中学生の冬弥:……っ
中学生の冬弥:……父さんに…… 父さんに俺の何がわかるっていうんだ!!
中学生の冬弥:俺は、俺の人生を生きたいだけだ!
中学生の冬弥:普通の人達と同じように、 まだ触れたことのない多くのことを経験したい……! ただ、それだけなのに——
中学生の冬弥:……縛られて生きるのは、もう嫌なんだ!!
冬弥の父:冬弥——!!
冬弥:(俺は……逃げた)
冬弥:(父さん達の期待を裏切って…………逃げたんだ)
冬弥:(……逃げたと思う必要はないと、 そう言ってもらったこともある)
冬弥:(クラシックのことも今はもう、 肯定的に思えると思っていた)
冬弥:(だが、あの時の痛みは今もたしかに、 俺の胸に残って——)
冬弥:……そのせいなのか?
冬弥:この負い目があるから、俺は——
冬弥:『敵わない』と思ってしまっているのか?
冬弥:大切なものを捨てて、逃げて、 諦めてしまった自分では——謙さん達の覚悟に、敵わないと……
冬弥:そう……無意識に思ってしまっている……?
冬弥:……そう考えると、父さんの言葉の意味も——わかる
冬弥の父:お前の曲からは、誇りを感じない
冬弥:(…………当然だ)
冬弥:(俺は……俺自身を逃げた人間だと思っている。 誇ることができていない)
冬弥:(いい曲になど、なるはずがない……)
冬弥:(謙さん達のように、覚悟を持って曲を作ることが できないのだから……)
冬弥:(……いや! いや、だがそれでも——)
冬弥:(それでも俺は、作らなければならないんだ……! みんなと、RAD WEEKENDを超えるために)
冬弥:(けれど、どうすればいい?)
冬弥:(過去を変えることはできない)
冬弥:(ならばどうあがいても、 俺の中からこの負い目がなくなることはない……)
冬弥:(負い目が消えない限り、俺は——)
冬弥:……っ、どうして……!
冬弥:どうして俺は……あの日、逃げてしまったんだ!!
冬弥:俺は…………!!
???:——どうした。 大声をあげて
冬弥:……!
???:——入るぞ
冬弥:…………父さん…………

第 7 话:変わらない過去こそが

冬弥:どうして……
冬弥の父:ドアはしっかり閉めろ。 声が漏れていたぞ
冬弥:……すみません
冬弥の父:……まあ、いい
冬弥の父:…………部屋も荒れているな。 少しくらい片づけたらどうだ
冬弥:……はい……
冬弥:(……どうして父さんが、俺の部屋に…………)
冬弥:(クラシックを辞めてから、 父さんが俺の部屋に来ることはほとんどなかった)
冬弥:(なのに、どうして今……)
冬弥:(…………いや)
冬弥:(これは——チャンスかもしれない)
冬弥:……父さん
冬弥の父:なんだ
冬弥:もう一度お願いします
冬弥:父さん、俺の曲に意見をください
冬弥の父:あれから、少しはましになったのか?
冬弥:…………いえ。 試行錯誤はしてきましたが……
冬弥の父:無為に時間を過ごしたというわけか
冬弥:……っ
冬弥:無為に過ごしたわけではありません
冬弥:どうにかしようと、あらゆる可能性を考えました。 そして今……うまくいかない原因もわかりつつあります
冬弥の父:ならばその原因とやらから 考えればいいだけだろう
冬弥:……考えました。 けれど……どうしても行き詰まってしまって……
冬弥:だから、父さんに聴いてもらいたいんです
冬弥:俺にはもう、それ以外、他の方法が思い浮かばない……
冬弥の父:呆れたな
冬弥の父:それはただの思考の放棄だろう
冬弥:……放棄なんて、していない
冬弥:俺は——どんな手を使っても、 仲間の期待に応えたいだけです……!
冬弥:もう嫌なんです……。 あの時のように逃げるのは……!
冬弥:そう思っているのに…… 俺に付きまとう負い目が、道を阻んでしまう
冬弥:『一度音楽から逃げた自分では 仲間の覚悟を背負うにふさわしくない』と そう思ってしまう……!!
冬弥の父:……冬弥……
冬弥:その想いが……負い目が、 どこまでもついてきて……
冬弥:どれだけ曲を作り直しても、 謙さん達の曲に届かない……!
冬弥の父:……謙さん達?
冬弥:……俺達が超えようと思っているイベントを作った人達です
冬弥:謙さん達は、大切な仲間が病気でこの世を去ることを知って…… その仲間の最期の意志を残すために仲間を集め、 曲を作り、イベントを開きました
冬弥:その歌は——そしてその曲は…… どこまでも熱く、俺達の胸を打ちました
冬弥:……それを超えるような曲を、俺は作らなければいけないんです
冬弥:作れなければ、俺達の夢は、 もうここで終わってしまうかもしれない……!
冬弥:だから、どんなことでもいいんです! 意見をください! 父さんの意見を——!
冬弥の父:…………負い目がついてくる、か
冬弥の父:だからあの曲から、誇りを感じなかったというわけか
冬弥:…………
冬弥の父:……問題なのは、お前のその認識かもしれないな
冬弥:……え?
冬弥の父:たしかに、お前は逃げた
冬弥の父:それは事実だ。 そして、過去を変えることはできない
冬弥の父:だが——
冬弥の父:私は、お前が持っていないとは思わない
冬弥:……持って……?
冬弥の父:そうだ
冬弥の父:その、謙さん達とやらに匹敵する武器を、 お前が持っていないとは思わない、と言っているんだ
冬弥:それは……買いかぶりです。 父さんは謙さん達を知らないから——
冬弥の父:だとしても、お前が後れを取るとは思わん
冬弥:……それは……どうして……
冬弥の父:お前は捧げてきただろう
冬弥の父:クラシックに、お前の人生における最も大切な時間を
冬弥の父:——12年間だ
冬弥の父:お前は12年間を、 クラシックと共に生きてきた
冬弥の父:朝から晩まで、 遊ぶ間も、寝る間もなく
冬弥:あ…………
冬弥:けれど、それは……
冬弥の父:そうだな。 お前が望んだ生活ではなかったかもしれない
冬弥の父:いつかお前が吐き捨てたように、 『普通』の生活とは言えないものだからな
冬弥の父:だがそれでも、かつてのお前は、 クラシックという音楽に人生を捧げていた
冬弥の父:ただ、真剣に
冬弥:(人生を……)
冬弥:(そうだ……たしかに、俺は……)
冬弥の父:違う。もう一度
幼い冬弥:ごめんなさい……
冬弥の父:もう一度だ
幼い冬弥:でも、もう指が……
冬弥の父:ダメだ。もう一度。できるまでだ
幼い冬弥:……はい
幼い冬弥:……はぁ……
冬弥の父:……ようやくできるようになったか
冬弥の父:今日のレッスンはここまでだ。 夕飯を食べに行くぞ
幼い冬弥:あ……でも……
冬弥の父:どうした?
幼い冬弥:……たしかに、今、最後まで弾くことはできました
幼い冬弥:でも、今のは思ったような綺麗な音じゃなくて…… だから、その……
幼い冬弥:——もう1回、弾かせてもらってもいいですか
冬弥の父:……いいだろう
冬弥:(俺は、あの生活の中でたしかに——)
冬弥:(ただ、音楽と向き合っていた)
冬弥の父:だというのに、なぜだ?
冬弥の父:なぜお前は、逃げたことばかりに目を向けて卑屈になる
冬弥:それは……
冬弥の父:……その程度か、お前は
冬弥:……それは、俺が……
冬弥:俺が、父さん達の期待を…… 裏切って……
冬弥の父:……たしかに私は、お前に期待していた
冬弥の父:お前の演奏を聴き、いつか音楽の真髄に触れるかもしれないと 思ったこともある
冬弥の父:そしてお前が違う道を選んだ時…… 失望に似た感情も、たしかに芽生えた
冬弥:…………
冬弥の父:だが、お前にとっては、本当にそれがすべてだったのか?
冬弥の父:お前にとってクラシックと共に歩んだ日々は、 ただ苦痛と裏切りだけでできたものだったのか?
冬弥:それは……
幼い冬弥:わぁ……!
冬弥:それは…………
冬弥の父:私は——
冬弥の父:クラシックに人生を捧げてきたお前の日々を、 美しく、誇らしいものだと思っている
冬弥:……え……
冬弥の父:あの日々は、どんな結末を迎えたとしても、 決してうしろ暗いものではない
冬弥の父:いや、逆だ。 あの日々は——
冬弥の父:失われることのない、お前だけの誇りだ
冬弥:……!
冬弥の父:相手がどんな人間だろうが、 どれだけ音楽に人生を捧げていようが—— お前は戦える
冬弥の父:それだけの過去を持っている
冬弥の父:……私は、そう思っている
冬弥の父:……少し、長居しすぎたかもしれないな
冬弥の父:——私は戻る。 部屋は片づけておけ
冬弥:…………
冬弥:……戦える……
冬弥:俺は……
冬弥:俺は本当に…………
冬弥:(……ずっと、思っていた)
冬弥:(この過去は——期待を裏切り、逃げた過去は消せないと)
冬弥:(けれど……)
冬弥:(この過去は、恥ずべきものではなかったのか)
冬弥:(——昼も夜もなく、ただひたすら音楽と向き合った)
冬弥:(高熱を出した時も、腱鞘炎になった時も、 頭の中で何度も弾いた)
冬弥:(音楽のことを考えなかった日はない。 そう断言できるほど、ずっと考え続けた)
冬弥:(俺は……幼い頃から人生を賭けて、 音楽と本気で向き合っていたんだ)
冬弥:(……この過去だけは決して変わらない)
冬弥:(そして、この過去があるなら……俺は戦える)
冬弥:謙さん達の覚悟にだって——渡り合ってみせる

第 8 话:この曲で

1カ月後
ビビッドストリート
街の若いミュージシャン達:——おい! お前らあの話聞いたか? Vivid BAD SQUADが次のイベントで RAD WEEKEND超えるって!
街の若いミュージシャン達:聞いたけど……あれって本気なのか? さすがに無理なんじゃ……
街の若いミュージシャン達:いや、あれはマジでやれるって! 俺、偶然東雲の歌聴いたんだけどよ、 ヤベえくらい盛り上がってて——
杏:……よし。プレイヤーの準備、できたよ
冬弥:ありがとう白石。 ……みんなも準備はいいか?
こはね:う、うん。 ……どんな曲なんだろう……
冬弥:今はまだ、完成しているのはこの1曲だけだが……
冬弥:俺の——俺達のすべてを込めた曲だ。 そう言い切れる
彰人:……そうか。 んじゃ、こっちも本気で聴かねえとな
謙:聴かせてくれ。冬弥
冬弥:はい。 では——流します
彰人:……!
こはね:音が——
洸太郎:すげえ……頭っからブワっと広がって……
杏:あ……!
杏:……あの時だ……
杏:RAD WEEKENDを初めて見た時の…… あの感じがする……!
杏:心臓がギュって掴まれたみたいになって、 思いっきり声出したくなる……あの感じ!
彰人:ああ……!
彰人:オレを熱くするもんが間違いなくここにある—— そう思わされる……
こはね:うん……! 肌が、ピリピリするくらい……!
洸太郎:冬弥お前、よく……よくこんなすげえもん作ったな……!
謙:……ああ。 本当に、よくここまで仕上げた
謙:ここまでのものにするには、 相当苦労しただろう
冬弥:……はい。 正直、無理なのではないかと何度も思いました
冬弥:ですが、逃げ出しそうになった自分を、 つなぎとめてくれたものがあります
こはね:つなぎとめたもの?
冬弥:ああ
冬弥:過去の——必死に音楽と向き合った、自分だ
冬弥:どんなに苦しくても音楽と——クラシックと向き合い続けた日々が 俺に、力をくれたんだ
冬弥:この曲を作っていて改めて感じた。 これまでの俺のすべては、無駄ではなかったんだと
彰人:……そうか
彰人:よく頑張ったな、冬弥
こはね:……私、この曲なら絶対、 RAD WEEKENDに負けないって思う
こはね:……ううん。 私達がRAD WEEKENDに挑む曲は、 絶対これだって思う!!
杏:私もそう思うよ、冬弥!
杏:この曲は、私達の最強の武器になるよ!
冬弥:……ありがとう、みんな
冬弥:その顔を見ることができて、俺は本当に——
冬弥:……心から、嬉しく思う
病院
颯真:…………
颯真:(今日も、連絡はないか……)
颯真:……当たり前か。 あいつはもう…………
新:とにかく俺はもう、この夢から降りるよ
颯真:……自由になったんだからな
颯真:……?
冬弥:お久しぶりです、颯真さん
颯真:あ……青柳くん!
颯真:いらっしゃい! また来てくれて嬉しいよ! 座って座って!
冬弥:ありがとうございます。 では、失礼します
颯真:その後、調子はどう? 前に諦めないでやっていくって話してたけど——
冬弥:今日はそのことについて、話があるんです
颯真:え?
冬弥:俺達は——次のイベントで RAD WEEKENDを超えます
颯真:……え? つ、次のイベントでって……
冬弥:謙さんが力を貸してくれることになったんです
冬弥:その後しばらく特訓を重ねて…… さまざまなことを学んで、俺達は進んできました
冬弥:今ならきっと、RAD WEEKENDも超えられる
冬弥:それで——
冬弥:よければ、この曲を聴いてもらえませんか
颯真:それ……もしかして、青柳くんが……?
冬弥:はい。 RAD WEEKENDを超えるために作りました
颯真:……聴かせてもらいたいな
颯真:…………!
颯真:これは…………
冬弥:颯真さん……
颯真:あ……。 ごめん、みっともないところ見せて……
颯真:……なんだろう、うまく言えないんだけど……
颯真:あいつと約束した日のことを……思い出して……
冬弥:……見に来てください、颯真さん
冬弥:俺達は——次のイベントで 必ずRAD WEEKENDを超えます
冬弥:すべての想いを背負って
颯真:…………ああ
颯真:必ず見に行くよ
スクランブル交差点
???:——どうだった? 冬弥
冬弥:あ……
冬弥:……わざわざ待っていてくれたんだな
こはね:うん、私達も気になったから
冬弥:まだ、颯真さんと遠野さんがどうなるか、 はっきりとしたことはわからない
冬弥:しかし——
冬弥:俺達の想いは伝わったと思う
彰人:……んじゃ、問題はねえな
彰人:あとは進むだけだ
冬弥:ああ
冬弥:すべての過去を糧として、 ただまっすぐに進もう
冬弥:あの壁を——超えるために
彰人・杏・こはね:『おう!』 『うん!』