活动剧情

Knowing the Unseen

活动ID:127

第 1 话:決めきれない想い

絵名の部屋
絵名:(……影の描き込みはこんな感じかな。 最後に、鉛筆の塗りムラを削って——)
絵名:……よし、1枚できた
絵名:(昨日よりも早く描けるようになった気がする。 でも、まだ立体感がうまく出せてないな……)
絵名:(……もう1枚描こう。 次はもっと本物に近い立体感が出るように、 線を丁寧に重ねて——)
奏:『みんな、もういる?』
瑞希:『いるよ~! えななんはログインしてるみたいだけど……』
奏:『ミュートになってるね。 ……今はいないのかな』
絵名:あ……ヤバ、もう25時?
絵名:『ごめん、作業始めるね!』
奏:『大丈夫? 何かやることあるなら、 無理しなくてもいいよ』
絵名:『今、一段落したところだから大丈夫。 昨日の続きからやるね』
絵名:(デッサンの練習、もう少ししたかったけど…… ニーゴの作業もちゃんとやりたいし)
絵名:(今日の分の作業が終わったら、さっきの続きをやろう)
絵名:(1枚でも多く——丁寧に描いて、うまくならないと)
絵名:(うまくなって——)
絵名:……ううん。今は、とにかく頑張らないと
数日後
絵画教室
雪平:——では、講評は以上です
絵名:……ふう
絵名:(今日の講評も散々だったな……。 実力足りてないんだから、酷評されるのも仕方ないんだけど)
二葉:絵名ちゃん、今日の静物画すごくよかったね
絵名:え……ホント?
二葉:うん、ガラスの質感がリアルだったし、 レモンの陰影もきれいで、立体感が出てるなって思ったよ
二葉:雪平先生も、そこの指摘はあんまりしなかったし
絵名:……そっか
絵名:(……よかった。デッサンは、前より描けるようになってきてる)
絵名:(ちょっとずつだけど……ちゃんと成長できてると思うし、 頑張らなきゃ)
雪平:——では最後に、皆さんにお知らせがあります
絵名:お知らせ……?
二葉:なんだろうね
雪平:——今年も例年と同じく、 美大受験のための実技指導コースを開設します
雪平:受験を検討している方は こちらのコースもあわせて受講することを奨励します
絵名:あ……
二葉:ついに、来たね
絵名:うん……
絵名:(美大受験に向けての、実技指導……)
絵名:(たしか、雪平先生がひとりひとりに デッサンとか油彩の指導をしてくれるんだよね)
絵名:…………
絵名:(毎年、この実技指導のおかげで合格してる人がたくさんいる)
絵名:(美大にいきたいのなら、このコースを受けて 雪平先生に教えてもらったほうが、絶対にいい)
絵名:(……でも……)
雪平:希望者は来月までに連絡をお願いします。 それでは、本日もお疲れさまでした
絵名:…………

第 2 话:遠い存在

東雲家 リビング
絵名:ただいまー……
母親:おかえり。 そろそろご飯できるわよ
絵名:うん……。 部屋で着替えてくる
絵名:(……受験、か)
絵名:(本当に、どうするかちゃんと決めないと)
絵名:(だけど……)
母親:——お父さん、次の個展の準備はどう?
父親:……ああ、順調だ
絵名:……!
母親:そうなのね、良かったわ。 期間中は私も行こうかしら
母親:今回は、昔の絵もたくさん展示するんでしょ?
父親:……まあ、そうだな
父親:俺にとって、半生を振り返るようなものになった
母親:ふふ、楽しみね。 きっとお客さんも喜んでくれるわ
絵名:(個展、やるんだ……)
絵名:(————遠い、な)
絵名:(描いた絵を評価されて、たくさんの人に見てもらえて、 ……それで、食べていけるなんて)
絵名:…………
絵名:(私も……あんな風に……)
絵名:(…………やっぱり、全然イメージできない)
絵名:(一歩ずつ進んでいこうって決めてから、 毎日描いてるけど……まだ、周りに全然追いつけてない)
絵名:(そもそも、美大にいくべき……なのかな)
絵名:(うまくなりたいなら—— 画家になりたいなら、いったほうがいいと思うけど)
絵名:(——こんな私が、本当に画家になれるの?)
絵名:(……こんな気持ちで、美大を受けていいの……?)
母親:絵名、どうしたの?
絵名:あ……なんでもない。 着替えてくる
父親:…………
翌日
絵画教室
絵名:(……うん、石膏像の奥行きは出せてる)
絵名:(でも、前に指摘されたバランスの悪さが 今回の絵にも出てる気がする)
絵名:(……パーツの長さに少しバラつきがあるから、 バランスがとれてないんだ)
絵名:(指摘されてから、結構練習してるのに……。 どうすればもっと自然に描けるようになるんだろ)
雪平:——今年も例年と同じく、 美大受験のための実技指導コースを開設します
絵名:(————遠い、な)
絵名:(——こんな私が、本当に画家になれるの?)
絵名:(……こんな気持ちで、美大を受けていいの……?)
絵名:…………っ
絵名:(……頭の中がぐちゃぐちゃで、集中できない……)
絵名:(——ダメだ、ちゃんと集中しなきゃ)
絵名:(描かなきゃ……!)
雪平:——東雲さん、石膏像の輪郭が曲がっていますよ。 集中できていますか?
絵名:あっ、す、すみません……!
絵名:(……ダメだ、集中しないと。 集中して——)
雪平:…………
数時間後
雪平:——ということで、本日の振り返りとしては モチーフをもっとよく見て描くこと。 これは基本中の基本です
雪平:今日は特に、その意識が欠けていたように思います。 基本を怠るとどれだけ技術を磨いても意味がありません
絵名:……はい……
雪平:…………
雪平:……途中、集中できていないようでしたが 何かありましたか?
絵名:あ……
絵名:…………
絵名:……実は、今……
絵名:美大を受けるかどうか、悩んでるんです
雪平:……なるほど
雪平:……東雲さんは、なぜ美大に進みたいんですか?
絵名:それは……
絵名:……もっと、うまくなりたい……からです
絵名:うまくなって、それで、画家に——
絵名:……画家、に……
雪平:…………
雪平:……なるほど、わかりました
絵名:…………っ
雪平:東雲さん、ひとつ提案があります
雪平:来週末——課外授業をしましょう
絵名:…………え?

第 3 话:個展って何?

誰もいないセカイ
瑞希:えっ、個展の手伝い?
絵名:うん、絵画教室の課外授業で
絵名:って言っても、行くのは雪平先生と私だけなんだけどね
まふゆ:そうなんだ
リン:ねえ、個展って何?
レン:えっと……美術館でやってるようなのとは違うの?
絵名:あー……よく美術館でやってる展覧会とかって、 テーマを決めて、それにあう作品を集めるようなのが多いんだけど
絵名:個展は個人が、自分の作品だけでやる展覧会のことなんだ
絵名:……ほら、こういうの
レン:絵がいっぱいある……。 すごいね
リン:絵じゃないのを飾ってるところもあるね
絵名:ああ、彫刻とかオブジェを飾る個展もあるよ。 その個展で何を表現したいのかによるけどね
レン:そうなんだ……
瑞希:作品の飾りかたで、その人の世界観とかも見えるって言うし おもしろそうだよね!
ミク:でも、手伝いって何するの?
絵名:んー、いろいろあるけど…… もう会場も展示するものも決まってるだろうし、 絵を搬入したり、作品や会場を飾り付けたりするくらいかな
奏:結構、体力がいりそうだね……
レン:でも、おもしろそう……
まふゆ:レン、興味あるの?
レン:う、うん……。 いろいろな絵がいっぱい飾られてるの、見てみたいな
リン:わたしも
リン:……ねえ、絵名。 見に行ってもいい?
絵名:えっ?
絵名:あー、まあ、いいけど……
瑞希:どうしたの?
絵名:別に、たいしたことじゃないんだけど……
絵名:あいつの——父親の個展だからさ
瑞希:え……
瑞希:それ、大丈夫なの?
絵名:……うん、気は進まないけどね
レン:……? えっと、お父さんの個展だと、だめなの……?
絵名:だめっていうか……まあ、昔いろいろあって
レン:そ、そうなの……?
レン:えっと……
絵名:大丈夫だってば。 そんなに心配しなくてもいいよ
絵名:まあ、思うところはあるけど……
絵名:先生も、何か意味があってこの授業をやろうって 言ってくれたんだと思うし……行こうと思う
瑞希:絵名……
瑞希:……そっか
奏:がんばってね、絵名
絵名:うん、ありがと
絵名:リンとレンも、当日は朝から準備してるし 適当に遊びに来てよ
レン:う……うんっ

第 4 话:憂鬱な朝

数日後
絵名:んん、あと5分……。 昨日遅くまでやってたんだから……
絵名:あーもう! うるさい!
絵名の部屋
絵名:ふあ……。 まだ6時じゃん
絵名:ねむ……
絵名:(雪平先生との待ち合わせは 8時半に会場前……)
絵名:………………
絵名:あいつの絵、か……
絵名:(最近見てないけど、相変わらずすごいんだろうな)
絵名:(見に来るお客さんもたくさんいるだろうし)
絵名:(やっぱり、憂鬱だな……)
リンの声:『——絵名』
絵名:……えっ?
絵名:わっ! ふたりとも、もう来たの?
リン:『朝から行くって言ってたから』
レン:『ご、ごめんね。まだ早かった……?』
絵名:……大丈夫。 おかげで、あとに引けなくなったしね
リン:『え?』
絵名:なんでもない。 じゃ、準備するからちょっと待ってて
個展会場前
絵名:……はあ、時間どおりついた
絵名:えっと、雪平先生は……
雪平:——東雲さん、おはようございます
絵名:あ……! おはようございます
絵名:今日はよろしくお願いします
雪平:はい、今回は東雲先生のご厚意で 個展の作業をさせていただけることになりました。 開場準備をしながら学んでいきましょう
雪平:それと、本日は東雲先生の娘さんとしてではなく、 あくまで私の一生徒として扱います。 東雲さんもそのつもりでいてください
絵名:……はい
絵名:……でも、大丈夫……ですか?
絵名:私が来るって知ったら、父はあまりいい顔しないんじゃ……
雪平:それは問題ありません。 事前に東雲さんを手伝わせてもらえるよう、話は通してあります
絵名:そう、なんですか……
絵名:(……あいつ、私が絵に関わるの嫌がりそうだけど……)
雪平:それでは、作業の前に……
雪平:東雲先生に挨拶に行きましょうか
絵名:……えっ!?
個展会場
父親:…………
スタッフ:東雲先生、絵に当たる照明の角度は 現状のイメージで大丈夫ですか?
父親:……ああ、問題ない。 そのまま進めてくれ
スタッフ:わかりました。 それでは失礼します
雪平の声:——東雲先生
父親:……ん?
雪平:本日は、突然のことにも関わらず 課外授業の実施を受け入れていただき、ありがとうございます
雪平:生徒共々、精一杯尽力させていただきますので よろしくお願いいたします
父親:……雪平。その話しかた、どうにかならないのか。 堅苦しくてむず痒くなる
雪平:私も仕事で来ていますので
雪平:では、改めて。 ——こちらが本日お世話になる東雲さんです
絵名:あ……っ、その、よろしくお願いします
父親:……ああ
父親:よろしく頼む
絵名:あっ……
絵名:(……相変わらず、何考えてるかよくわかんないな)
雪平:……東雲先生は相変わらずですね
雪平:まあ、いいでしょう。 では東雲さん、早速作業を始めますよ
雪平:あの奥に立っている方が展示スタッフのリーダーです。 今回私達は他のスタッフと同じように扱ってもらう予定なので、 まずは作業の指示をもらいに行きましょう
絵名:は、はい……
絵名:……っと、この絵はここかな。 キャプションもつけて、と……
絵名:(レイアウト表どおりに絵を飾る作業、か……。 絵も重いし、やっぱり体力使うな)
絵名:(それに——)
絵名:(……あいつの絵、久々に見るけど……)
絵名:(…………やっぱり、すごいな)
絵名:(——少し見ただけで、違うってわかる)
絵名:(モチーフが自然と目に飛び込んできて、 胸の中に入ってくる感じがする)
絵名:(色の使いかたもすごく綺麗で…… ううん、そういう技術的なことがどうでもよくなるくらい)
絵名:(目が、離せなくなる……)
絵名:(……やっぱり、見なきゃよかった……)
レン:『わ……。これが、絵名ちゃんのお父さんの絵?』
絵名:あ……ふたりとも……
絵名:……うん、そう
リン:『……きれいな絵だね』
絵名:…………まあ、プロの画家だしね
レン:『え……?』
レン:『絵名ちゃん……お父さんの絵、好きじゃないの?』
絵名:……そういうわけじゃないよ
絵名:昔は好きだったし、よく真似したりもしてた
絵名:でも、今は……
絵名:こうやって絵を見ると、思い知らされるから
絵名:(私は……“持ってない”側なんだって)
絵名:(……こんな私が……本当に……)
レン:『絵名ちゃん……』
???:——東雲さん
絵名:あ……!

第 5 话:向き合わなきゃ

雪平:——東雲さん、準備はどうですか?
絵名:あ……雪平先生
絵名:こっち側は設置できました。 あとは掃除をやれば終わりです
雪平:なるほど。 それでは、絵はどうでしたか?
絵名:え……?
雪平:東雲先生の絵から、何か学ぶことはありましたか
絵名:あ……
絵名:……えっと、すみません。 作業に集中してたので、あまり見れてなくて
雪平:……なるほど
雪平:では、一緒に見てみましょう
絵名:…………え?
雪平:そうですね……
雪平:では、この絵—— 何を描いているか、わかりますか?
絵名:それって……
絵名:……『夜に咲く牡丹』……
絵名:たしか、私が産まれた日の夜……。 病院の帰り道に咲いてた、一輪の牡丹を描いたって聞きました
雪平:……それだけですか?
絵名:え?
雪平:それは、東雲さんが“聞いた”絵の情報です
雪平:私が言っているのは、そういうことではありません。 東雲さんがこの絵を見て、何を感じ取ったかです
絵名:何を、感じ取ったか……
雪平:はい。 1枚1枚、自分自身の目で見て、感じ取ってください
雪平:その絵に何が描かれているのかを
絵名:自分の、目で……
雪平:……東雲さんの残りの仕事は、私がやっておきます
雪平:——では
レン:『絵名ちゃん……』
絵名:…………
絵名:(……正直、あいつの絵を見るのはやっぱり……嫌)
絵名:(自分がどれだけ遠いか、思い知らされるから)
絵名:(だけど……雪平先生が感じろって言うなら…… その先に何か、私にとって必要なものがあるのかもしれない)
絵名:(それなら——)
絵名:(見なくちゃ。 ちゃんと、あいつの絵を……)
絵名:……ごめんね、レン、リン。心配かけちゃって
絵名:ちゃんと、見ていくよ
レン:『……!』
レン:『で、でも……無理、しないでね』
絵名:うん、大丈夫
絵名:じゃあ、最初のほうから見ていこっかな。 向こうに行こうか
リン:『この絵も、きれいだね』
レン:『うん……。 それに、すごく迫力があるな……』
絵名:……うん
絵名:(……本当に、どの絵も……圧倒される)
絵名:(構図の切りかたも独創的だし、色の乗せかたも——)
レン:『あ……』
レン:『この、夜の川の絵……すごく不思議な感じがする。 ……現実じゃなくて、夢の中にあるみたいな……』
絵名:ああ、それ。……実は、うちの近くにある川なんだよね
レン:『え……そうなの?』
絵名:うん、でもこの絵と違って普通の場所なんだ。 私も昔1回描いたんだけど、つまんない絵になっちゃってさ
絵名:なのに、あいつが描くと……こうなるんだよね
リン:『そうなんだ……』
レン:『本当に、すごいね……』
絵名:うん……
絵名:でも……この絵を感じ取れって言われても、やっぱりわかんないな
絵名:構図を工夫して、川が大きく見えるようにしてるのは わかるけど……
レン:『感じる……』
レン:『……あ……』
リン:『どうしたの?』
レン:『えっと、なんとなく、なんだけど……』
レン:『……なんだか、暗い感じがする、かも』
絵名:暗い……
リン:『でも、他の絵もそんな感じがする』
レン:『たしかに、夜の絵が多いような気がするね……』
絵名:それは多分、この個展のテーマが『夜更け』だからだと思う。 だから、夜にまつわる絵が多いんじゃない?
リン:『そっか……』
絵名:でも……
レン:『どうしたの?』
絵名:あ……描いた時期によって、雰囲気が違ってるなって思って
絵名:最初のほうに見た絵は、夜っていっても、 月の光が印象的に描かれてたり 街の明かりで照らされてたり……
絵名:ほんの少しだけど、明るく感じるっていうか
絵名:でも……この壁——中期に描いたエリアの絵は違う気がする
レン:『どこが、違うの?』
絵名:んー……なんて言えばいいんだろ……。 私も、はっきりわかるわけじゃないんだけど、 もっと暗いっていうか——
リン:『もっと、暗い……』
リン:『……あの絵、とか?』
絵名:え? あ……
リン:『真っ暗な部屋に、空き缶と……絵の具がたくさん散らばってる』
レン:『絵を描くための……キャンバスっていうんだっけ。 あれも、倒れてるね……』
レン:『なんだか、怖いな……』
絵名:この絵……昔、小さい頃に見た……
リン:『そうなの?』
絵名:……うん。アトリエに置いてるのを見たんだ
絵名:でも、なんだかあいつがすごく嫌そうな顔してて……。 すぐ絵を片づけちゃったんだよね
リン:『絵名に、見せたくなかったのかな』
絵名:そうかもね。でも、なんで——
絵名:……あれ?
絵名:そういえば、なんだか、この絵…… いつもよりも、筆使いが荒い気がする
レン:『え?』
絵名:……あいつの絵って、もともと荒いっていうか、 筆跡が残るように描くタッチなんだけど……
絵名:この絵は、なんだろ……。 もっと乱雑になってるっていうか、投げやりな感じが——
絵名:焦ったり、苦しんでるような感じが……するのかな
リン:『焦ったり、苦しんでる……?』
絵名:うん、なんか……どうでもよくなってるっていうか
絵名:でも、描かなきゃって追い詰められてる、感じ……?
レン:『追い詰められてる……』
リン:『前の絵名みたいに?』
絵名:え……?
絵名:描かなきゃ……なんでもいいから描かなきゃ!
絵名:このまま描けなかったら私は本当に——
絵名:…………っ
絵名:……どうして?
絵名:どうして……描けないの……?
絵名:なんで描けないのよ……っ!!
絵名:(……そういえば……)
絵名:(私も、あの時はこういう絵を描いてた気がする)
絵名:(あいつに否定されて、 描いても描いても、いい絵だって思えなくて—— どうすればいいのか……わからなくなってた時)
絵名:(出来は全然違うけど、 こんな風に、荒いタッチになって……)
レン:『もしかして……』
レン:『絵名ちゃんのお父さん、絵を描くの、つらかったのかな』
絵名:え……?
絵名:(絵を描くのが、つらかった?)
絵名:(……あいつが?)
絵名:(でも……たしかにこの絵からは苦しさを感じる)
絵名:(……どうして?)
絵名:(こんなに……こっちが悔しくなるくらい描けるのに……)
絵名:(どうして……こんな、つらくて、苦しい絵を描いてるの……?)
リン:『あ……』
リン:『——絵名、次の絵……さっきの』
絵名:……!
絵名:(牡丹の絵……)
雪平:1枚1枚、自分自身の目で見て、感じ取ってください
雪平:その絵に何が描かれているのかを
絵名:(わかんない。わかんない、けど……)
絵名:(私の目で見て、感じてみよう。 思い込みとか、今までの記憶とか抜きで)
絵名:(そこに……答えが、あるのかもしれない)

第 6 话:夜更けの景色

絵名:(この牡丹の絵……)
絵名:(さっきまで見てた絵よりも、明るい気がする)
絵名:(さっきの絵は、影がすごく濃くて、 散らばった絵の具も、キャンバスも…… 全部、どうでもいいものみたいに見えた)
絵名:(でも、この絵は……少し違う)
絵名:(牡丹は、月の光に照らされて……まるで、生きてるみたい)
絵名:(だけど、牡丹の周りの、夜の風景——)
絵名:(そこは乱雑に塗られてる感じがする。 牡丹は、すごく丁寧に塗られてるのに)
リン:『……この絵、ちょっと変。 花はきれいだけど、それ以外はすごく暗い感じがする』
レン:『うん……不思議な絵だね』
レン:『……絵名ちゃんのお父さんは、 どんな気持ちでこの絵を描いたんだろ』
絵名:わかんない、けど……
絵名:この絵には、他の絵と違って 光……みたいなのがある、気がする
レン:『光……』
絵名:……うん。影と入り混じってるような感じもするけど…… 明確に光を描こうとしてるような……
絵名:でも……“光”を描きたいだけなら こういう絵にはならない気がするし……
絵名:(……何を思って、描いたんだろ……)
雪平の声:——東雲さん
絵名:あ……
雪平:どうですか。 この絵からは……何か感じ取れましたか?
絵名:…………
絵名:……なんだか、苦しい感じがしました
雪平:苦しい、ですか
絵名:……はい……
絵名:牡丹はすごく綺麗に見えるけど、 周りの景色が、乱雑に描かれてて、なんだか……
絵名:……あ……いや、でも……
雪平:……なんですか? 感じたまま、話してみてください
絵名:あ、はい。……えっと……
絵名:…………
絵名:……今までの絵を見てきて、思ったんです
絵名:どうしてかはわからないんですけど、この頃の絵って…… 全部、すごく苦しい感じがして……
絵名:苦しいけど、描くしかない。 なんとなく……そんな感じがしてたんですけど……
絵名:……ただ——
絵名:この絵は……その苦しさの中に、何かを……
絵名:多分……“救い”みたいなものを、描いてる…… そんな気がして……
雪平:…………
雪平:……なるほど、東雲さんはそう感じ取りましたか
絵名:え……?
雪平:——彼はある時期、大きな壁にぶつかっていました
雪平:その頃のことを、私はよく覚えています
雪平:彼は画家として人生を歩み始めたにも関わらず、 描いた絵は誰にも理解されず、見向きもされず
雪平:地を這いつくばるように、ひたすら描き続けていました
絵名:…………!
雪平:生活も苦しかったと聞きました。 奥さんに支えられて、どうにか食べていける…… そんな状態だったと
雪平:そんなある日—— 彼に、娘が産まれました
絵名:え……
雪平:彼は自分に問いかけました
雪平:“自分はこのままでいいのか” “画家を辞めたほうがいいのではないか”……と
雪平:そして、これで最後にしようと描いた絵が この『夜に咲く牡丹』だと聞いています
絵名:画家を、辞める……?
絵名:嘘でしょ? だって……
雪平:——そうですね。 東雲さんも知ってのとおり、彼は画家を辞められませんでした
雪平:彼がどう苦しみ、どう答えを見つけたか—— 私は、詳しく知りません
雪平:ただおそらく……
雪平:彼は、絵と共に生き続ける覚悟を決めたのだと思います
絵名:覚悟……
絵名:…………
雪平:……さて、もうそろそろ開場時間ですね。 このあたりで課外授業は終わりとしましょう
絵名:あ……は、はい
絵名:…………あの、先生
雪平:はい、なんでしょうか
絵名:…………もう少し、絵を見ていっていいですか?
絵名:もう一度……見たくて
雪平:かまいませんよ。 では——私はこれで失礼します
絵名:はい
絵名:……ありがとう、ございました

第 7 话:感じ取る想いは

個展会場
瑞希:とうちゃーく!
奏:ここが、絵名のお父さんの個展会場か……
奏:個展っていうと、もうちょっと小さいところで やるイメージあるけど…… やっぱり絵名のお父さんってすごいんだね
瑞希:だね! どんな絵があるんだろ!
まふゆ:……今回のテーマは“夜更け”みたいだから 夜に関係する絵が多そうだね
瑞希:え、そうなんだ! ていうか、まふゆ詳しいね?
まふゆ:奏が気になってたみたいだから、一緒に調べてた
奏:絵名のお父さんの絵は、昔からちょっと見てたから。 ……少し楽しみで
瑞希:あはは、それならちょうどよかったじゃん!
奏:うん……
まふゆ:……絵名、どこにいるんだろう
奏:あ、そうだね。 受付とかにいるのかなって思ってたけど……
奏:裏方の仕事もやるみたいだったし、 もしかしたら会うのは難しいかな……
瑞希:そっか……
瑞希:できれば、ちょっとだけ顔見たかったな
瑞希:(絵名にとって、“お父さん”は あんまり触れたくないとこだろうし)
瑞希:(……元気だと、いいな)
まふゆ:——あ……
まふゆ:ねえ、あそこ……
奏:え……?
瑞希:あ、絵名!
瑞希:って、あれ……?
絵名:…………
レン:『もしかして……』
レン:『絵名ちゃんのお父さん、絵を描くの、つらかったのかな』
雪平:彼は画家として人生を歩み始めたにも関わらず、 描いた絵は誰にも理解されず、見向きもされず
雪平:地を這いつくばるように、ひたすら描き続けていました
絵名:(……あの人が、誰にも……見向きされなかった?)
絵名:(画家を——辞めようと思ってた?)
絵名:(……信じられない……)
絵名:(でも……)
絵名:(もし、本当に、そうなら……)
父親:お前が画家になりたいのなら、 今のような苦悩がずっと続くことになる
父親:才能がない者が、才能ある者と 同じステージで渡りあっていくということは、 お前が思っている以上に辛いものだ
父親:絵を描き続ける限り—— お前が感じている苦しみは続くことになる
父親:納得できるものが描けない、何も生み出せないかもしれない。 その苦しみと、この先も向き合い続けることができるのか?
絵名:…………
絵名:(納得できるものが描けなくて、 何も生み出せないかもしれないって思いながら、苦しんで)
絵名:(悩んで、苦しんで描いても——誰にも、見向きされなくて)
絵名:(……それでも、描き続けようって思ったんだ)
絵名:(……私だったら——)
絵名:(私だって……)
絵名:(…………でも……)
客A:——さすが東雲先生ね。 どの絵も、本当に素晴らしいわ……!
客B:今回は“夜更け”というだけあって、 暗い作品が多いけれど……とても美しいですね
客A:ええ。 まさに現代の巨匠にふさわしい、 見事な技量が生み出した美の饗宴ですね
客A:特にこの代表作『夜に咲く牡丹』は、 とても美しくて——
絵名:(……私も、昔はこの絵を ただ——綺麗な絵だと思ってた)
絵名:(真っ暗な闇の中に咲いた牡丹が なんだか神秘的に見えて)
絵名:(だけど——)
雪平:——そうですね。 東雲さんも知ってのとおり、彼は画家を辞められませんでした
雪平:彼がどう苦しみ、どう答えを見つけたか—— 私は、詳しく知りません
雪平:ただおそらく……
雪平:彼は、絵と共に生き続ける覚悟を決めたのだと思います
絵名:……絵と共に、生き続ける覚悟……
絵名:(……どんな気持ちだったんだろう)
絵名:(どうしたら、そんな覚悟ができるの?)
絵名:…………
まふゆ:……絵名、真剣だね
奏:あの様子なら、心配しなくても大丈夫そうだね
瑞希:……うん、そっとしておいてあげよっか

第 8 话:絵と共に

個展会場前
スタッフ達:——東雲先生、お疲れさまでした。 すごい反響でしたね
スタッフ達:また明日もよろしくお願いいたします!
父親:……ああ
絵名:今日はありがとうございました
スタッフ達:こちらこそ! 東雲先生のお嬢さんも、頑張ってくださいね!
絵名:は、はい
父親:…………
絵名:あ、ちょっと!
絵名:……もう……
絵名:(……何これ、気まず……)
絵名:(ていうか、課外授業とはいえ個展を手伝った娘に何かないの? 不本意かもしれないけど……お礼とか言うでしょ、普通)
絵名:(はあ……やっぱり帰る時間ずらしたほうがよかったかな)
絵名:(でも……)
絵名:……あの、さ
父親:…………?
絵名:聞きたいことがあるの
父親:……なんだ
絵名:…………えっと
絵名:……私が産まれた時、絵を辞めようと思ったって……本当?
父親:…………
父親:……雪平か
絵名:先生に聞いたのもあるけど……
絵名:絵を見て……なんとなく、感じたの
絵名:いつもは、もっと自信たっぷりに絵を描いてるって思ってたのに 今日見た絵は……なんだか、苦しそうな感じがして
絵名:だから……
父親:……自信、か……
父親:そんなものを持ったことはない
絵名:え?
父親:……あの頃、俺は表現したいものを理解されず、 いつしか、求められるものばかりを描き続けていた
父親:そんな自分を許せず、 本当に描きたいものを追求しなければならないと筆をとり——
父親:それでもなお、理解されず……絶望した時もある
絵名:……だから、辞めようと思ったの?
父親:——いや、違う
絵名:え?
父親:……俺はあの時、画家ではなく ひとりの人間として生きようと思っていた
絵名:ひとりの、人間として……
父親:ああ
父親:あの頃の俺は、画家としても、男としても、 何もなし得ていなかった
父親:宙に浮いたまま燻り続けている—— どうしようもない男だった
父親:だが……そんな時に、お前が産まれた
父親:……それまでは、ずっと暗闇の中にいた感覚があった
父親:だが、この手にお前を抱いた時、 目の前が……光で滲んだ気がした
父親:——本当に、守らなければならないものがある。 そう感じた
父親:何も生み出せないのであれば、なし得ないのであれば—— ひとりの人間として、この命を守っていこうと思ったんだ
父親:だから……最後に1枚だけ描きたいものを描いて 画家人生を終わりにしようと決めた
絵名:…………
絵名:それが、あの牡丹の絵?
父親:……そうだ
父親:今も覚えている。 お前が産まれた日の夜、病院からの帰り道で あの花を見た
父親:暗がりの中で小さく咲いているあの花が…… さっきまで腕の中にいた赤ん坊のように見えた
父親:暗く寂しい画家人生を照らす、小さな光…… それが、俺の最後に相応しい絵かもしれない
父親:そう思って——俺のすべてを、その絵に乗せた
絵名:……そう、だったんだ……
父親:……だが、描き終えたあと その絵を見て——
父親:筆を折ることは、できないと思った
父親:……その絵は、正しく、俺のすべてだった
父親:絵を描く苦悩も、喜びも、愛しさも—— すべてがその絵に込められていた
父親:——なぜ、絵を捨てるなんて考えていたのだろう
父親:……捨てることなど、できるわけがないというのに
父親:その時……ようやく気づいたんだ
父親:俺は——逃げることができない
父親:絵のない人生を、歩むことができないのだと
絵名:絵のない、人生……
父親:——ああ
父親:……そうわかってから、嘘のように迷いが晴れた
絵名:え……
父親:絵を描かないならば、俺は生きることはできない。 そして、守りたいものを守ることもできない
父親:——離れられないのなら、抱えて生きるしかない
父親:……そう考えたら、覚悟が決まった
絵名:覚悟が……
絵名:(……もし、絵から、離れたら……)
絵名:(私は……どうなんだろう)
絵名:(ショッピングして、自撮りして、おしゃべりして…… なんとなく緩くて楽しい時間を過ごして、 ……簡単なイラストくらいは描くかもな)
絵名:(……でも……)
絵名:(そんな人生を、生きられるの?)
絵名:(……ううん、きっと無理)
絵名:(そんなの……)
絵名:(絵を描かない私なんて、私じゃないから)
絵名:(絵を捨てたら……私は、私のことを許せなくなる)
絵名:(だったら——)
絵名:……あ……
父親:——なぜ、絵を捨てるなんて考えていたのだろう
父親:……捨てることなど、できるわけがないというのに
絵名:(……そっか……)
絵名:(私も……そうなんだ)
絵名:(悩んでも、苦しんでも……きっと絵から離れられない)
絵名:(覚悟……か)
絵名:……ありがとう
父親:……ん?
絵名:おかげで、わかったの
絵名:私がこれから、どう生きていきたいのかが
父親:どう生きていきたいか……?
絵名:うん
絵名:私は——やっぱり、絵を描き続けたい
絵名:才能がないのだってわかってるし、 うまく描けないことばっかりだし、 今のままじゃ、どうにもならないって思ってる
絵名:でも……絵を描いてない私なんて、想像できないから
絵名:描いて、描いて、描き続けて——!
絵名:それで……画家になりたい
父親:…………!
父親:絵名……
父親:……だが、それは……
絵名:わかってる! 並大抵の努力じゃ『本当の天才』に敵わないことも、 もし画家になれたとしても、苦しむかもしれないってことも……!
絵名:まだ、本当にわかってないのかもしれないけど…… 今日のあんたの絵を見てたら、わかるよ……!
絵名:でも……私だって、絵を捨てられない
絵名:あんたの子供だからなのか、ずっと絵が側にあったからなのか、 もうわからないけど……でも、絵から離れられないの!
絵名:だから……これくらいは認めてよ
絵名:自分の責任は、自分で取るから
父親:…………
父親:……覚悟は、できているのか
絵名:……うん
父親:——好きにしろ
絵名:……ありがとう
絵名:(……この先、きっと苦しいことしかない)
絵名:(あいつみたいに……ううん、 あいつ以上にずっと苦しみながら描くことになる)
絵名:(けど……私は、絵から逃げられない)
絵名:(それなら、もう進むしかない)
絵名:(私も、絵と一緒に生き続ける)
絵名:(——私には、それしかないんだから)