活动剧情
perspective for smile
活动ID:131
第 1 话:座長現る!
スクランブル交差点
えむ:みんな~~~っ! もにもに~~ぐっもーにーんぐ!!
えむ:今日も1日——がんばろわんだほいしようねっ!!
寧々:ちょ……もう、朝からテンション高すぎでしょ
類:おはよう、えむくん。 今日も絶好調だね
えむ:だってだって、今日は~~!
えむ:——次の劇団に行けちゃう日なんだもんっ!
司:ああ、そうだな……!
司:新天地での修行……とても心が躍る! オレも昨日は、眠るまで10分もかかってしまった!
寧々:いや、それくらい普通にあるでしょ
類:フフ。とにかく、楽しみにしているのは全員同じということかな
えむ:うんっ! ……春名座の人達とバイバイになっちゃったのは ちょっとさびしいけど……
えむ:でも、いっぱいいろんなこと覚えられてよかったな!
類:そうだね。公演だけじゃなくて、 映画の撮影にも関われて……貴重な経験ができたよ
寧々:帰る時も、すごく丁寧に送り出してくれたよね——
司・えむ・寧々・類:『——お世話になりました!』
春名座演出家:……はい、お疲れさまでした。 今日でお別れと思うと、少し寂しいですね
春名座演出家:——しかし、わずかな期間ではありましたが、 皆さんの成長には目を見張るものがありました
春名座演出家:特に、天馬さん
司:……!
春名座演出家:まだまだ鍛えるべきところはありますが—— 自分自身に役を落とし込むことに関して、 とても高い能力を持っていると感じました
春名座演出家:その力は、必ずあなたの武器になるはずです
司:あ、ありがとうございます……!
春名座演出家:それでは、また。 皆さんが立つ舞台を楽しみにしています
司:——はい! 本当に、ありがとうございました!
司:……皆、とてもいい人達だったな
司:獏野さんとも、最後に話せてよかった
類:いつかまた、同じ舞台に立とうと言ってくれたね
寧々:……そのためにも、もっと実力をつけなくちゃ
司:ああ! 今日から世話になる『劇団三日月組』でも、 多くを学ばせてもらおうではないか!
えむ:うんっ!
えむ:(……あたしも、 たっくさんがんばらなくっちゃ!)
えむ:(お芝居のことも、劇団のことも、 いっぱいいっぱい勉強して——)
えむ:(フェニックスワンダーランドを…… 世界中のみんなを、笑顔でいっぱいにするんだ!)
司:しかし……三日月組ではどんな稽古をするのだろうな
類:三日月組と言えば、『エンターテインメント時代劇』 を中心に活動している劇団だからねえ
類:殺陣やアクションに特に力を入れているようだし、 きっと稽古も、体を使うハードなものが多いんじゃないかな
寧々:う……そうだよね。 ついていけるように頑張らないと
司:しかし、アクションと殺陣を本格的に学べるというのは、 ありがたいな……!
司:昔、ワークショップでも習ったことがあるが、 さらに踏み込んだ勉強をしたいものだ!
えむ:うんうんっ! いっぱい『カキーン!』とか 『アチョー!』とかやってみたいな!
えむ:あ、それと——
えむ:三日月組って、今の座長さんが大学生の時に 立ちあげた劇団なんだって!
えむ:だから座長さんに、劇団を作った時のお話とか、 運営のお話とかもいっぱい聞いてみたいな~!
司:おお、よいことではないか! 演技の特訓だけが、修行ではないからな!
えむ:えへへ、会えるのが楽しみ——
配達員:——う、うわああ!
寧々:え、なに?
司:はっ……あれを見ろ! 坂道の上……配達員が!
配達員:だ、台車が転がって……!
配達員:誰かに当たったりしたら大変だ! それに、このままじゃ大切な荷物に傷が~!
司:い、いかん……! 止めなくては!
???:——俺に任せろ!
えむ:え?
???:とーう!
???:——はああああああ!
寧々:す、すごい……! あんな勢いがついた台車を、ひとりで……!
???:……ふう、止まってくれたか
配達員:あ、ありがとうございます! 助かりました!
???:いやいや、気にするな! これくらいなんともないさ
???:この俺の……筋肉をもってすればな!
司:……あの身のこなし、ただものではないな……
寧々:う、うん……。 なんか変なテンションだけど……
寧々:っていうかあの人、どこかで——
???:それでは、さらばだ! 待ち人がいるのでな
えむ:あ! こっちに来るよ!
???:……君達が、ワンダーランズ×ショウタイムだな!
司:は、はい。あなたは、もしや……
鬼島:俺は、鬼島大吾! 劇団三日月組の座長だ!
司:……! まさか座長自ら、迎えに来てくださるとは……!
司:失礼しました! 天馬司と申します。 この度は、急なお願いを聞いてくださりありがとうございます!
鬼島:はっはっは! そう固くならなくても大丈夫だ
鬼島:君達のことは晶介から聞いている。 演劇をもっと学びたい——その想いで、劇団を巡っていると
えむ:え!? 晶介お兄ちゃんと知り合いなんですか?
鬼島:ん? 聞いてなかったのか?
鬼島:晶介とは大学が同じでな。 学部は違ったが、1年の時授業が同じで知り合ったんだ
鬼島:あいつが頭を下げてお願いしてきた時は驚いたぞ。 『どうしても手伝ってやりたいやつらがいる。 手を貸してやってくれないか』とな
司:そう、だったのですね……
えむ:晶介お兄ちゃん……
えむ:——あの、よろしくお願いします!
えむ:あたし達、いっぱいい~っぱい勉強して、 絶対夢を叶えたいんです!
えむ:迷惑かけちゃうかもしれませんけど…… たくさんがんばるので、よろしくお願いします!
鬼島:——もちろんだ!
鬼島:晶介の頼みだから、というわけではない。 俺もひとりの役者として、劇団を率いるものとして、 君達のような若い役者の成長を応援している
鬼島:そのために、できることがあるならいくらでも力を貸すぞ!
えむ:鬼島さん……
えむ:えへへ、ありがとうございます!
鬼島:——よし! では、俺についてこい!
寧々:え?
鬼島:あの太陽に向かって走るぞ! その先に、俺達三日月組の稽古場がある!
類:あっという間にいなくなってしまったね
司:……って、どんどん離れていくぞ! いかん……! オレ達も走らねば!
寧々:ま、まさか、いきなり走ることになるなんて……!
類:フフ。これも体力作りの一環ということなのかな
司:なるほど……。 さすが三日月組……もう修行は始まっているということか!
えむ:えへへ。よ~し、それじゃあ——
えむ:新しい場所でも……いっぱい、い~っぱい がんばろうのわんだほい!
司:ああ!
第 2 话:託された役
劇団三日月組 稽古場
えむ:わあ~……! おっきい! 体育館みたい!
類:こちらが三日月組の稽古場なんですね
鬼島:ああ。といっても、ここはレンタルスペースで 自前の稽古場というわけではないんだがな
司:そうなのですか?
鬼島:うちは小さい劇団だからな。 春名座さんのように自前の劇場は持ってないんだ。 公演をする時は、あちこちの劇場を借りてやってる
鬼島:メンバーも、役者だけでいったら 今日ここにいるメンバーでほとんど全員だ
鬼島:お前らー! ワンダーランズ×ショウタイムの みんなが来てくれたぞ!
司:——ワンダーランズ×ショウタイムと申します。 本日から、お世話になります。 よろしくお願いします!
えむ・類・寧々:『——よろしくお願いします!』
三日月組の座員達:お! ついに来たのか! 短いあいだだけど、よろしくなっ!
三日月組の座員達:修行であっちこっちの劇団回ってるんでしょ? 武者修行って感じで、かっこいいな~! いろいろ話聞かせてね!
類:皆さん……とてもフレンドリーな方達なんですね
鬼島:ああ! みんな気のいい奴らだからな! 君達もそんなに緊張せず、肩の力を抜いてくれ
司:あ……は、はい! ありがとうございます!
寧々:なんか……春名座とは全然違うね
えむ:いろんな劇団があっておもしろいね~!
鬼島:——さて、各々の紹介はまたこのあとにするとして…… その前に、これから君達に やってもらいたいことについて話しておこう
鬼島:君達には、これからひと月を使って、 ひとつの演目に挑んでもらいたいと思っている
えむ:ひと月、ですか?
鬼島:ああ。……実は今、俺達は次の公演に向けて準備を進めている
鬼島:だがその公演は、 まだ演目も配役も決まってない段階だ
鬼島:だから、ひと月後に君達が見せてくれる芝居の出来…… それによって、君達に次の公演に一緒に出てもらうかどうか 決めようと考えているんだ
えむ:え……!
司:……なるほど。 ひと月後の芝居で、 オレ達の実力を見極める、ということですか
鬼島:そういうことだ
えむ:(……実力を見極める……)
えむ:(じゃあ……ひと月後のお芝居で、 あたし達が三日月組の人達と 次の舞台に出れるかどうかが決まっちゃうんだ……!)
えむ:(そんなの——出たいに決まってる! みんなもきっと、そう思ってるよね)
えむ:(なら……絶対いいお芝居にしなくっちゃ——!)
鬼島:無論、結果が悪かったとしても いきなり放り出すことなどはしない。 俺達は、君達の力になりたいからな
鬼島:ただ、実際の公演に出せるかとなると話は別だ
鬼島:お客さんに見てもらう以上、常に最高の公演をしたいと思ってる。 そこで妥協するわけにはいかない。 ——そこは、わかってもらえると嬉しい
司:はい、もちろんです
鬼島:そうか! ——では、これが課題の台本だ。 配役は君達で自由に決めてもらっていい。 足りない役は、うちのが手伝おう
鬼島:読み終わったら、殺陣の基礎と、今回の立ち回りについて うちのメンバーからレクチャーさせてもらう
鬼島:それと、今日の稽古の最後に、 それぞれの役の山場となるシーンを披露してもらおうと思ってる
鬼島:大変だろうが……いいものが見れるのを期待しているぞ。 頑張れよ!
えむ:はいっ!
数十分後
えむ:……はぁ~! このお話、おもしろいね~!
司:うむ! 時代劇というから、もっとかしこまったものだと思っていたが 実に痛快だ!
類:そうだね。やはり——牛若丸を題材にした戯曲は、面白いねえ
寧々:牛若丸って……源義経のことだよね?
類:ああ、牛若丸は彼の幼名だね。 彼の人生は非常にドラマティックだったから、 そこに脚色を加えた物語が、今でもとても人気があるんだ
類:今回の台本も、その伝説をもとに作られているようだね
えむ:へえ~! そうなんだ!
えむ:天狗と一緒に山の中を飛び回ったり、 おっきな弁慶を倒すところ、すっごくかっこいいよね!
司:そうだな! 小さな体で敵を圧倒する牛若丸……。 時を超えて英雄視されるのも、わかる話だ
寧々:それで、配役はどうしよっか
類:そうだね……
類:——僕は、牛若丸はえむくんがいいと思うな
えむ:ほえ?
えむ:じゃ、じゃあ、あたしが主役……!?
類:ああ。僕達の中で誰よりも えむくんが、牛若丸の役を掴みやすいんじゃないかと思ったんだ
寧々:……たしかに。 正直、この牛若丸は掴むのが難しいよね。 自由奔放で、何考えてるのかわかりにくいっていうか……
寧々:でも、純粋なところとか『楽しいことが好き』っていうところは えむと似てるし、えむなら演じやすいかも
えむ:そっか……!
えむ:でも……いいの? 司くんや寧々ちゃんだって、主役をやりたいんじゃ……
司:……そうだな。無論、主演を望む
司:だが……類。 今回は役に適した者を選ぶ理由があったんだろう
類:ああ。今回の劇は、 僕達が次の公演に参加できるかどうかもかかっているからね
類:それにもうひとつ——今回は、今までにはない課題もある
寧々:……殺陣のことだよね
寧々:わたしも、今回は殺陣に集中するために、 それぞれ合った役をしたほうがいいって思う
寧々:役を掴むのと殺陣を覚えるの、 どっちもやって劇が中途半端なものに なっちゃったら一番ダメだろうし
司:…………。 たしかにな
司:絶対に失敗できない以上、 それが一番いい方法ではある
類:……すまない、司くん。だがここは、 確実にクオリティを出せる配役にしたほうがいいと思うんだ
類:三日月組の方々と一緒に、本番の舞台に立つことができれば、 より学ぶ機会も増えるからね。 ——どうだろうか
司:……そうだな。 オレも、ふたりの意見はもっともだと思う
司:二兎を追い、どちらも中途半端な結果に終わるのは避けたい。 それに——えむならばきっと、演じ切ってくれるだろう
えむ:それじゃあ……
司:——えむ! この牛若丸、お前に託したぞ!
えむ:……うんっ!
えむ:任せて! 牛若丸、絶対キラーンってかっこよくやってみせるから!
司:ああ、頼りにしているぞ!
類:それじゃあ……残りの役も決めていこうか。 まず、弁慶の役は……
えむ:(あたしが主役なんだ……)
えむ:(……本当は司くんだって寧々ちゃんだって、 やりたかったはずだよね)
えむ:(でも、あたしに任せてくれたんだ。 それが一番、いい劇になるって思ったから)
えむ:(なら——がんばらなくちゃ!)
えむ:(それで絶対、 このお芝居を、大成功させるんだ……!)
第 3 话:足りないもの
数時間後
劇団三日月組 稽古場
三日月組の座員A:——よし、じゃあ五条大橋の弁慶との対決のシーン、 もう1回やってみようか!
司:はい! ……えむ、準備はいいか?
えむ:いつでもいいよ! 弁慶の攻撃、ぜ~んぶ避けちゃうから!
司:言ってくれるな! では、全力でいくぞ!
司:——ハアッ!
えむ:(来た——!)
えむ:(……最初は司くんが斜めにズバってくるから、 しゃがんで避けて……そのあと、うしろにピョンって離れる!)
司:——!
えむ:(そしたら今度はビシビシ~って突きが来るから、 体を右にひねって——)
三日月組の座員A:——そこまで!
三日月組の座員A:うん、ふたりともいい感じ。 立ち回りはだいたい覚えたね
三日月組の座員A:あとは細かいところだけど…… 天馬くんは薙刀を腕だけで振ってるから、 足の動きを意識するともっとよくなるよ!
司:はい! 足さばき、ですね
三日月組の座員A:他には——
鬼島:——調子はどうだ?
えむ:あ、鬼島さん! ……と、寧々ちゃんと類くん?
類:向こうで稽古してたのを呼ばれたんだ。 そろそろ、今日の成果を確認させてほしいと言われてね
鬼島:鳳くん達、やれるか?
三日月組の座員達:大丈夫ですよ。 ふたりとも、もうひととおりの動きは バッチリ覚えてくれましたから
鬼島:そうかそうか! 頼もしいな。 では、準備ができた者から始めてくれ
寧々:あ……じゃあ、わたしからいいかな。 動き忘れないうちにやりたくて
えむ:うん、がんばって寧々ちゃん!
三日月組の座員達:『——時は今を遡ること800年以上前。 源義朝は平清盛に敗れ、その子供達もまた命を狙われていた』
えむ:(寧々ちゃんの役は——牛若丸のお母さんの、 常盤御前さん!)
えむ:(自分の子供を守るために、 追いかけてくる平家の人達と戦う、 とっても勇気のあるお母さんなんだよね)
寧々:『はあ……はあ……はあ……。 平家の追手が、もうここまで』
寧々:『せめて、この子供達の命だけは……。 この子らはいずれ源氏を継ぐもの達。 ここで失うわけには……』
三日月組の座員達:『いたぞー! あそこだ、追えー!』
寧々:『……かくなる上は……!』
寧々:『私とて武家の女。この子達の命のためならば 刀を振るうことになっても——!』
寧々:『はあっ——!』
三日月組の座員達:『その意気や見事! しかし、源氏の血を残すわけにはいかぬ。 覚悟——!』
類:『——はっ!』
司:なんとも軽快な動きだ……! 牛若丸の師ともなった、鞍馬天狗の強さが感じられるな
寧々:わたしが教わった刀の振りかたと違う……。 そっか、天狗と人間じゃ戦いかたも違うもんね
えむ:すごーい! 類くん、飛んでるみたい!
三日月組の座員達:『……う、これが鞍馬の天狗の力……。 ひ、退け! 退けえええ!』
類:『人間風情が……。 土足で山に入るから……』
類:——ありがとうございました
鬼島:お疲れ! では……最後は——
えむ:はい! あたしと司くんです!
司:五条大橋で対峙する、牛若丸と弁慶のシーンになります!
鬼島:そうか、この芝居の中でも一番の見せ場だな。 ……では、好きなタイミングで始めてくれ!
えむ:(……大丈夫! 牛若丸のイメージはバッチリできてる!)
えむ:(このお話の牛若丸は、楽しいことが大好きで…… ワクワクするものを見つけると、他のことは忘れちゃうくらい、 夢中になっちゃう子なんだよね)
えむ:(なら、あとは——思いっきり演技しよう……!)
三日月組の座員達:『やがて、時は過ぎ……15となった牛若丸は、 もはやすでに立派な若武者となっていた。 けれど彼はまだ、自らの進む先を決めかねていた——』
三日月組の座員達:『時を同じくし京の都。 ここでは、怪僧弁慶なるものが、 夜な夜な人を襲ってはその刀を奪っていた』
三日月組の座員達:『そして今宵……弁慶が待ち受ける大橋に 通りかかるものがひとり——』
類:(始まったね。 ふたりとも、どんな動きを見せてくれるかな)
寧々:(……たしか、弁慶の攻撃を、 牛若丸は避け続けるんだよね)
寧々:(それで、その身のこなしに感服して、 敵わないって思った弁慶が、牛若丸の家臣になる……)
寧々:(ただ役の演技をするだけじゃない。 見てる人が納得できるような、 立ち回りをしなくちゃいけないんだけど——)
司:『——千本の刀を集めるまで、残りひと振り! 今宵、我が誓いも果たされる……!』
司:『その太刀を置いて立ち去れ! さすれば、命までは取らぬ!』
えむ:『やれやれ、風情がないなあ。 君も、そんな物騒なものはしまって空を見てごらんよ』
えむ:『ほら、こんなに月が綺麗な夜じゃないか』
司:『何をくだらん御託をべらべらと! かくなる上は……我が薙刀の一撃、受けてみよ!』
司:『——はあああああ!』
えむ:『おっと』
寧々:(——す、すごい動き……。 司もだけど、えむも……あんなに高く後ろに飛んで——)
三日月組の座員達:へえ、なかなかやるな! あの子達
鬼島:……ああ
鬼島:(だが……)
司:『貴様、ふざけているのか!? 子供とはいえ、武士ならば…… その太刀、抜いて戦う覚悟を見せよ!』
えむ:『そう言われると、ますます相手をする気がなくなるものだね。 ——よっ、ほっ……よっと』
司:『貴様ーっ!』
類:(司くんの真上を飛び越えた……!)
司:『なっ——!?』
えむ:『——よっ……っと』
類:(後ろに回り込んだ牛若丸が、扇を突き付け…… 弁慶は驚き膝をつく。決着のシーンだ)
類:(ふたりの攻防が目玉となるシーンだったけれど……、 短時間でここまで形にするとはね)
類:(やはり、えむくんを牛若丸に選んでよかった。 自由奔放な牛若丸の役を、しっかり掴んで演じ切っている)
類:(けれど……)
類:(……なんだろう。 この、小さな違和感は——)
司:——以上です! ありがとうございました!
えむ:(……うんっ……! 今日一番うまくできた気がする!)
えむ:(練習したおっきいジャンプのところも、 ちゃんと決まってよかった!)
えむ:(これなら、きっと鬼島さん達も——)
鬼島:……うん! いい芝居だった!
鬼島:まさか初回でこれほどのものを見せてもらえるとはな。 もちろん、今後ゆっくり教えていきたいところもあるが…… 今日のところは十分だろう!
鬼島:特に、最後の牛若丸と弁慶の立ちまわりはよかったな。 鳳くんの跳躍はとても迫力があった!
えむ:ほんとですか……!? えへへ。ありがとうございます!
鬼島:——ただ、そうだな
鬼島:まだまだ大味ではあったな
えむ:え?
えむ:あ、そ、それって、 殺陣の動きがまだまだできてないってことですか?
鬼島:……いや、そうじゃない。 もちろん、迫力のある殺陣というのは大事だ。 そのために、まだまだ身につけられることはあるだろう
鬼島:だが……それよりも今の君達の演技には足りないところがある
えむ:足りないところ……
鬼島:そうだな……
鬼島:……直接演じてみせるのが、一番わかりやすいかもしれないな
第 4 话:演じるということ
劇団三日月組 稽古場
えむ:鬼島さんが、牛若丸をやってくれるんですか?
鬼島:ああ。……やるならやっぱり五条大橋のシーンだな。 天馬くん、相手役を頼めるか?
司:あ……は、はい!
えむ:(あたしの演技に足りなかったこと……)
えむ:(ちゃんと見て、勉強しなきゃ……!)
鬼島:よし、では……中盤の、このセリフから頼む
司:『——千本の刀を集めるまで、残りひと振り! 今宵、我が誓いも果たされる……!』
司:『その太刀を置いて立ち去れ! さすれば、命までは取らぬ!』
えむ:(……え?)
寧々:(なに……? ただ歩いてるだけなのに、 えむの時と全然違う)
寧々:(歩いてるだけなのに—— えむの時よりずっと“牛若丸らしい”って思う……)
寧々:(でも、なんで……?)
類:(これは……)
鬼島:『やれやれ、風情がないなあ。 君も、そんな物騒なものはしまって空を見てごらんよ』
鬼島:『ほら、こんなに月が綺麗な夜じゃないか』
司:『——な、何をくだらん御託をべらべらと! かくなる上は……我が薙刀の一撃、受けてみよ!』
司:『——はあああああ!』
鬼島:『おっと』
えむ:(あ……)
えむ:(きれい……! なんだか、踊ってるみたい……!)
えむ:(それに……)
えむ:(——すっごく楽しそう……!)
寧々:すごい……
類:ああ、役の感情が流れこんでくるようだね。 月の光に照らされ、橋の上で舞い踊る、 牛若丸の高揚した気持ちが——
鬼島:——こんなところか。 動きは十分見せられたしな
鬼島:さて、どうだったかな?
えむ:あ……
えむ:すごかったです! 牛若丸の気持ちが、いっぱい伝わってきました!
鬼島:そうかそうか! うまくいったようでよかった!
鬼島:ここで下手な演技を見せていたら、 かっこ悪いなんてところじゃなかったからな! はっはっはっは!
鬼島:だが……これで、俺が言った『大味』 ということの意味が伝わったかな?
えむ:あ、それは……
えむ:ご——ごめんなさいっ! 『すごい』ってことしかわからなくて、 なんですごいのかは……
鬼島:……そうか。 だが、神代くん。君は何か気づいたんじゃないか?
類:……そうですね
類:先ほどのえむくんは、自由奔放で気まぐれ、 捉えどころのない牛若丸の役をよく掴んでいました
類:えむくんの中で、牛若丸のイメージが はっきりと持てていたからでしょう。 けれど——
類:それを、動きに完全に反映できていたかと言うと…… まだまだ足りていないと言えるなと
えむ:動き、に?
えむ:んーと……牛若丸っぽく動けてないってこと? それって、どのあたりが——
類:……いや、どの部分が、ということじゃないよ。 もっと根本的に、鬼島さんと僕達の演技では 体の動かしかたがまったく違うんだ
司:それは、どういう——
鬼島:たとえば……こうやって——
鬼島:木刀とはいえ、武器を向けられれば人間の体は強張るものだ。 けど、牛若丸ならどう感じると思う?
えむ:え? それは……
えむ:あ……
えむ:えっと……全然気にしないのかも……?
鬼島:そうだな。牛若丸は普通の人間とは違う。 武芸の天才的なセンスを持ってるし、精神力も並じゃない
鬼島:だからきっと、どんな武器を突きつけられても、 平常心でいられるだろう
司:平常心……
司:……そうか。そういうことか……!
えむ:司くん、わかったの!?
司:ああ。鬼島さんの演じた牛若丸を見た時に感じた、 あの底知れなさ……
司:あれは……全身が常にリラックスしていたから、そう感じたのだ!
寧々:え……どういうこと?
司:オレは、直接対面していたからよくわかる
司:何度も薙刀を振るい、襲い掛かったにもかかわらず、 鬼島さんはピクリとも体を強張らせなかった
司:眉間のすぐ先に薙刀の突きが繰り出されても、 額のしわひとつ動かさなかったのだ……!
鬼島:はっはっは! どうだ、すごいだろう!
寧々:すごいっていうか……可能なの?
えむ:あたし、司くんの薙刀が来た時、 いっぱい『ギュッ』ってなっちゃってたよ!
鬼島:無論、初めからできたわけじゃない。 だが……俺達は役者だ
鬼島:——これくらいは、やってみせなければな
えむ:…………!
えむ:(牛若丸は、薙刀がビュンッてきても気にしないから、 自分も反応しない……)
えむ:(そんな風に動くなんて……全然思いつかなかったな。 だって、木刀が前に来ちゃったら、 どうしてもビクッてなっちゃうもん)
えむ:(でも……)
えむ:(それができたら—— あんな風に、すてきな牛若丸が演じられるんだ……!)
鬼島:無論、中にはこういったことを意識しないでできる者もいる。 いわゆる、役を憑依させるタイプの役者だな
鬼島:そういう役者は、いちいち考えなくても 指の先、瞼の動かしかたの細部まで、その役の動きになるものだ
鬼島:だが……たいていの人間はそうじゃない
鬼島:だからその分、訓練する必要がある
えむ:訓練、ですか?
鬼島:ああ。役を掴むだけでは足りない。 君達が掴んだ役のイメージを、 完全に表現しきれるようになるまで、訓練する
鬼島:全身のありとあらゆる筋肉を、 演技のために使いこなせるようにするんだ
えむ:演技のために……
えむ:——わかりましたっ!
えむ:あたし、やります。 あたしのイメージする牛若丸を完璧に演じられるように、 あたしの体の全部、使いこなせるよう特訓します!
えむ:それで、ひと月後には——
えむ:絶対、鬼島さん達を驚かせるお芝居をしてみせます!
鬼島:……ほう、楽しみだな
鬼島:では……そんな君達に、ひとつ俺から スペシャルなプレゼントをしよう
寧々:す、スペシャル……?
鬼島:今言った、 肉体を細部に至るまでコントロールできるようになるための、 スペシャル特訓メニューだ
鬼島:名付けて、『鬼島スペシャル』!
鬼島:もしよかったら、今からでも教えてやるぞ。 稽古で疲れ切った体には少しばかり厳しいと思うが……やるか?
えむ:はい! やらせてください!
司:オレからも、よろしくお願いします!
寧々:わ、わたしも……。 必ずついていってみせます……!
鬼島:よし、わかった! では……いくぞ!
鬼島:鬼島スペシャル、ひとつ目! 太陽に向かって、全力ダッシュだ!
えむ・司・寧々・類:『はいっ!』
第 5 话:特訓!特訓!特訓!
乃々木公園
鬼島:肉体を細部までコントロールする…… そのためにまず必要なのは—— 意識を、全身に張り巡らせることだ
えむ:——はい!
えむ:意識を、巡らせる……むむむむむ~!
鬼島:それには瞑想が効果的だ。 目をつむり、体中の神経に集中する——
鬼島:そして、頭の先からつま先まで…… 体中のあらゆる感覚という感覚を感じ取れるようになれ
鬼島:空気が肌を撫でる感覚……。 その内側にある肉体を意識し、完璧に操れるようにするんだ!
鬼島:意識も大切だが、それを動かすのは1に筋肉、2に筋肉…… 3、4どころか100まで筋肉!
鬼島:さあ、ついてこい! このタイヤを引きずって公園を10周するぞ!
寧々:う……は、はい……!
鬼島:意識と筋肉、それが細部までのコントロールに不可欠なものだ。 次は、そのどちらも鍛える特訓だ!
鬼島:腕を伸ばし、腰をゆっくりと下げる。 ……よし、その姿勢だ! その姿勢のまま10分!
鬼島:このトレーニングには、筋肉を鍛えるだけじゃない。 同じ姿勢を保つよう、体を意識してコントロールする意味もある。 さあ、踏ん張りどころだぞ!
えむ:う、うう~……あ、足がプルプルするよ~
司:頑張れえむ! 踏ん張るんだー!
鬼島:役を想え! 演じる時、苦しいからと姿勢を崩すのか?
鬼島:できるはずだ! 君達の肉体はすべてそのためにあるんだからな!
えむ・司・類・寧々:『はい!』
数日後
ワンダーランドのセカイ
レン:こ、こう——!?
えむ:わあ、みんな上手! ——腕をピンって伸ばして、腰を落としたまま、動かないでね
ミク:い、いたた~! 足がプルプルするよ~
レン:でも、あとちょっと……!
えむ:がんばって……! あと30秒!
えむ:……29、30! はい、おしまい!
レン:っはあ~! 苦しかった~!
リン:もう足に力入らないよ~
ミク:えむちゃん達、いつもこんな特訓してるんだよね
えむ:うんっ! 今のはね、太ももと、 体幹を鍛えるためのトレーニングなんだ!
えむ:お芝居でどんな姿勢を取ることになっても、 体がプルプルしちゃわないように……って!
ルカ:みんな、すごいわね~。 他にはどんな特訓をしてるのかしら~?
類:そうだね、例えば——
類:瞑想をしたり、タイヤを引いたりしたかな
寧々:他にも、変わったのだと…… あやとりとか、耳を動かす特訓なんてのもあったよね
寧々:耳って訓練すれば動かせるんだって。 わたし、まだできてないけど……
司:筋トレや体力作りも大事だが、スペシャル特訓の本道は 『体を細部までコントロールできるようにすること』だからな
司:細かな指の動きや、普段はなかなか意識できない筋肉を 意識できるようにする特訓が多かった
レン:そっか! 大変そうだけど……でも、面白そう! あとで特訓の内容、ボク達にも教えてほしいな
寧々:うん
MEIKO:新しい劇団でも、さっそく いろんなことを教えてもらえてよかったわね
MEIKO:春名座とも違ったタイプの劇団みたいで、 いろいろ発見も多そうだし!
レン:えむちゃんも、なんだか今回は特別張り切ってるみたいだね!
ルカ:やっぱり、主役を任されたからかしら~?
えむ:うんっ! それに——
えむ:このお芝居を絶対成功させて、 みんなで三日月組の次の公演に出たいんだ!
えむ:きっと、そうやっていろんな人達と一緒に 舞台を作るのが、一番勉強になるって思うから!
司:……たしかにそうだな
司:春名座の時も思ったが、実力ある役者と一緒に舞台に立つと、 様々な発見がある
寧々:うん。青龍院さん、旭さん、獏野さん……。 ああいう人達と共演した時は、 いつもいろんなことが勉強できたしね
類:ああ。それにやはり…… 本番の舞台に立つことが、一番身になると思う
類:僕達の夢のためにも、まずはこの牛若丸の課題—— 必ずクリアしようじゃないか
えむ:うんっ!
えむ:よ~し、それじゃあ今からもう1回、 みんなでトレーニングしよう!
えむ:『鬼島スペシャル』最初のメニュー、全力ダッシュ! いっくよ~!
レン:あ、待ってえむちゃん! ボクもいくよ!
司:オレ達も続くとするか! 待ってろよ、えむ!
ルカ:あら~、みんな元気ね~
MEIKO:やる気があっていいわね! せっかくだし、みんなで走りましょうか!
第 6 话:弱点
劇団三日月組 稽古場
えむ:とうちゃ~っく!
えむ:今日の練習も、 やる気まんまん気合まんてん!でがんばるぞ~!
えむ:って……およよ?
えむ:誰もいない……。 もしかして……一番乗りのわんだほい!?
えむ:じゃあ……そうだ! みんなが来る前に、牛若丸の演技、確認しておこうっと!
えむ:メモ帳、おっけー! スマホも、おっけー! あとはスマホを動画モードにして……
えむ:(こうやって動画で撮っておくと、 演技を見返せてすっごく便利なんだよね!)
えむ:うん、準備よし! やるぞ~っ!!
えむ:『やれやれ、風情がないなあ。 君も、そんな物騒なものはしまって空を見てごらんよ』
えむ:『ほら、こんなに月が綺麗な夜じゃないか』
えむ:(——このあと、おっきな薙刀が目の前にブン!ってくる。 でも……)
えむ:(牛若丸は、全然怖がらない)
えむ:(牛若丸は、つよーい天狗さんに戦いかたを教わったし、 それに——)
えむ:(今夜は、川に映ってゆらゆらしてる月が すっごくきれいで、るんるんした気持ちだから)
えむ:(だから、硬くなったりしない。 体の力をぜーんぶ抜いて、リラックスして——)
えむ:(こんな風に、ふわふわって飛び回るんだ。 それを、ちゃんと体と動きで表現できるように……)
えむ:(手と足の位置、指の動き、首の角度…… 全部、ちゃんとイメージのとおりに——!)
えむ:よ~し、映像確認してみよう!
えむ:どれどれ~……
えむ:うん! 前より、思ったとおりに動けてる!
えむ:(あ……でも、まだ指に力が入っちゃってるなあ。 もっともーっとリラックスしなきゃ!)
えむ:(まぶたも、今は開けてられてるけど…… 本当に薙刀がきたら、ギュッてなっちゃうかも。 もっと司くんと一緒に練習しないと)
えむ:(あとは……)
えむ:(——なんだろう。 前より、ずっとよくなってるけど……)
えむ:(あの時の鬼島さんの演技のほうが、 牛若丸の気持ちがまっすぐ伝わってきた気がするなあ)
えむ:(でも……何が違うんだろ? まだ、ちゃんとイメージを動きにできてないのかな)
えむ:(それとも、もっと別の——)
???:——はっはっは! 悩んでいるな!
えむ:ひゃあ!
えむ:鬼島さん! 来てたんですか?
鬼島:ああ! 15分前にな!
鬼島:君の演技も見ていたぞ! さっきの牛若丸——
鬼島:とてもよかったぞ! 最初に見た時よりも、はるかに成長していた!
鬼島:さすがだな!
えむ:ほんとですか!? えへへ……ありがとうございますっ!!
えむ:あ、でも……
鬼島:ん? どうかしたのか?
えむ:えっと、その……。 今、まだまだよくできるんじゃないかって思ったんです
鬼島:ほう……?
えむ:あの時見せてもらった牛若丸と あたしの牛若丸は何か違ってる気がして……
えむ:鬼島さんの牛若丸のほうが、 もっと楽しい気持ちが伝わってくるなあって
えむ:——あの! あたしの牛若丸の演技、 どうしたらもっとよくなると思いますか?
鬼島:ふむ……そうだな……
鬼島:——もっと『視点』を意識してみるといいかもしれないな
えむ:視点……?
鬼島:ああ。前に話したとおり、 鳳くんの持っている牛若丸のイメージは間違ってはいない
鬼島:君は役を直感的に掴み、イメージするのが得意なんだろう。 人の感情の機微に聡い、とも言うかもしれないな
鬼島:だが……君には弱点もある
えむ:——弱点、ですか?
鬼島:君は、役や人の気持ちを掴むのはうまい。 一方で、自分の感じたことを人に伝えるのは苦手なんじゃないか?
えむ:え?
鬼島:たとえば、そうだな——
鬼島:君は、考えていることを、 なかなか人に理解してもらえなかったことはないか?
えむ:あ——
えむ:えっとね、一番上のお兄ちゃんはズゴゴゴビシーってしてて、 二番目のお兄ちゃんはチクチクギューンってしてるの!
えむ:それでお姉ちゃんはポヨヨヨヨ~ンってしてるんだよー♪
司:ううむ……わかりそうでギリギリわからんな……
鬼島:間違っていたらすまない。 だが、君の演技を見ていてそう感じた
鬼島:何度も言うように、君のイメージしているものは間違っていない。 けれど演技とは、観客に自分の想像している役の感情を 伝えるということでもある
えむ:……伝える……
鬼島:君の思う牛若丸、それを演じ切るためには、 ただ君のイメージする姿を完璧に演じ切れるようになる、 というだけではダメだ
鬼島:君の牛若丸を、見ている観客すべてに、 届けられるようにしないといけない
鬼島:そのためには—— 他人の『視点』を自分のものにすることが必要なんだ
えむ:…………
えむ:(……自分の考えてることを伝える……)
えむ:(あ——)
えむ:(それに……)
えむ:(——すっごく楽しそう……!)
えむ:(あの時、鬼島さんの牛若丸からは、 まっすぐ気持ちが伝わってきた……)
えむ:(あれは……鬼島さんが自分のイメージを “見てるみんなに伝わるように”いっぱい工夫してたからなんだ)
えむ:——あの! それじゃあ、 どうやったらそれができるようになりますか!?
鬼島:やりかたはひとつじゃない。いろいろあるだろう。 ただ、俺の場合は……
鬼島:とにかく、たくさんの人に自分の演技を見てもらったな
鬼島:そのために、昔あちこちで公演を行った
えむ:あちこちって……
鬼島:日本全国……すべての都道府県だ!
えむ:ほえ!? 日本全国……ですか!?
鬼島:ああ。大学の時に、当時の仲間達と旅をしながら、 とにかくいろんな場所で公演をしたんだ
鬼島:無論、チケットを売るような大掛かりな公演じゃない。 子供会や老人ホーム、地域のお祭り——
鬼島:観客がいるところならどこへでも行って、 同じ劇を日本全国あらゆる場所でおこなった
鬼島:そこでの舞台の様子を撮影し、 その時の自分の演技と観客の様子をひたすら見比べ——
鬼島:俺のイメージする役の感情、それが伝わっているか確認し、 問題があったら修正し、次の公演に活かす
鬼島:ひたすらそれを繰り返し、自分の中に、 様々な人の視点や考えかたをストックしたんだ
えむ:……そう、なんですね……
えむ:(すごいなあ……! そこまでしちゃうなんて……!)
えむ:(でも……だからあんなにすごい演技ができるんだ……!)
えむ:(……なら、あたしもやらなくちゃだよね——!)
えむ:——ありがとうございます! 今のあたしに必要なことがなんなのか、わかりました
えむ:みんなの視点のこと、もっと掴めるようにしてみせます!
えむ:鬼島さんと同じ方法は難しいかもですけど……考えます! それで絶対、今よりすっごい牛若丸を演じてみせます!
鬼島:……ああ。楽しみにしているぞ
第 7 话:みんなの『視点』
えむの部屋
えむ:(たくさんの視点を取り入れる……)
えむ:(そうしたら、牛若丸の演技をもっとよくできるんだ)
えむ:(でも……あたし達の実力を見極める日まで もうあんまり時間がないから…… 鬼島さんと同じ方法じゃダメだよね)
えむ:(なら——)
えむ:(考えなくっちゃ。あとちょっとの期間で、 もっとたくさん、みんなに伝わる演技ができるように——!)
???:『えむちゃん!』
えむ:ほえ? 今、声が——
???:『ここだよ、えむちゃん!』
えむ:あっ、レンくん! どうしたの?
レン:『あのね、このあいだえむちゃんに教えてもらった 空気椅子の特訓が上手になったから、 一緒にやりたいなって思って——』
レン:『って……あれ?』
レン:『もしかして、今何か考えごとしてた?』
えむ:え? なんでわかったの?
レン:『だってえむちゃん、 眉のあいだが、いつもよりギュッてしてるから』
レン:『何か困ったことでもあったの? ボクでよければ相談に乗るよ!』
えむ:あ……
えむ:えへへ、ありがとうレンくん! それじゃあ、ちょっぴり相談させてもらうね!
えむ:実は今日、鬼島さんにね——
レン:『……視点を意識する、か』
えむ:うん。でも、どうやったらあとちょっとの時間で、 できるようになるかなって考えてたんだ……
レン:『そっか……』
レン:『……でも、それなら簡単だよ!』
えむ:え?
レン:『ボクが協力する!』
レン:『何回でも、何十回でも、何百回でも、 えむちゃんが満足するまで、えむちゃんの演技を見て、 思ったことを言うよ!』
えむ:レンくん……
レン:『それに、きっとボクだけじゃないよ。 カイトやミク達みんな……それに司くん達——』
レン:『ううん、それだけじゃない。 えむちゃんの力になってくれる人達は きっと他にもたくさんいるよ』
レン:『そんなみんなにお願いして、 ちょっとだけでいいからえむちゃんの演技を見てもらって 意見をもらったら……』
レン:『きっと、鬼島さんのやってた特訓に近づけるはずだよ!』
えむ:あ……
えむ:(……えへへ、そっか)
えむ:(あたしには——みんながいてくれるんだもんね!)
えむ:……うん! みんなに力を貸してもらったら、 きっと、ズゴゴゴゴ~ってパワーアップできちゃうよね!
えむ:よ~し、みんなにお願いしてみる!
えむ:ねえねえレンくん、早速だけど、 あたしの演技、見てもらっていい?
レン:『うん、わかった!』
慶介:それでは、いってくる
ひなた:うん、いってらっしゃい。 あ、今日は夕飯までに帰ってこれそ——
えむ:おーにーいーちゃーん!
晶介:うおっ、朝からうるせえな。 今日はどうした?
えむ:あのね、時間がある時でいいんだけど…… お兄ちゃん達にお願いがあるの!
ひなた:お願い?
晶介:遅刻しちまうから、手短に話せよ
えむ:ありがとう! えっと、実はね——
えむ:『どれ、少し世をからかってやるとしようか』
えむ:——こんな感じ! どうかな?
穂波:やっぱり、すごく上手だね!
穂波:演技のことはあんまり詳しくないけど…… 思ったことを言えばいいんだよね?
えむ:うんっ! お願いしますっ!
穂波:それなら——
リン:『えっとね、リンはもっとぴょんぴょん飛び回ったほうが、 牛若丸の気持ちが伝わるかな~って思ったよ!』
リン:『牛若丸は、弁慶と戦ってる時も、 楽しい~!って思ってるんだよね? だったらもっと、元気に動き回るんじゃないかなあって』
MEIKO:『んー、でもそれだと、牛若丸の余裕な態度みたいなのは 薄まっちゃうんじゃないかしら?』
寧々:わたしもそう思う。この時の牛若丸は、 『楽しい』って思ってるとは思うんだけど、 それだけじゃなくて——
男の子:…………
司:むっ! あの子供、こっちを見ていないか!? すまん、みんないったん隠れてくれ!
類:——やあ、どうしたんだい? お母さんかお父さんは一緒じゃないのかな?
男の子:お母さん達は、あっちにいるよ。 それより、ボール……
えむ:ボール? あ、これだね!
寧々:わたし達の近くに落ちちゃってたんだ。 ごめんね。気がつかなくて
男の子:ううん。 それよりお姉ちゃん達、何してたの?
男の子:さっき、やー!って動き回ってたけど……
えむ:お芝居の練習だよ! 牛若丸っていう昔のすごい人のお話なんだ!
男の子:お芝居……
えむ:あ……ねえねえ、もしかして興味あるの!?
男の子:……うん。ちょっとだけ
えむ:そうなんだ! ……あ、それなら——!
えむ:ねえねえ、あたし達のお芝居、見ていかない!?
男の子:え、いいの?
えむ:うん! ……みんなも、いいかな? ちょっと人数が足りないから、工夫しなくちゃいけないけど……
類:フフ、僕は構わないよ。 それに、より多くの人の視点を得る、 という意味でも一石二鳥だろうしね
司:たしかにな! それでは、ワンダーランズ×ショウタイム、 ゲリラ公演といくか!
寧々:その前に……あっちのお母さん達に話してこないと。 勝手にこの子の前でお芝居するわけにもいかないし
類:せっかくなら、ご両親にも劇を見てもらえないか聞いてみようか。 見る人の視点は、ひとりでも多いほうがいいからね
えむ:うんっ!
えむ:(……よしっ! スマホにバッチリ録画できてる!)
えむ:(今日のあたしの演技、みんなにはどう見えてたか、 ちゃんと確認しなきゃ!)
えむの声:『——よっ』
えむ:(最後の、弁慶との戦いのシーン……)
えむ:(ここはいっぱい牛若丸の『楽しい』って気持ちを伝えなくちゃ。 月がきれいで踊りたくなるくらい楽しい気持ち、それに……)
えむ:(戦ってると、だんだん弁慶をからかうのが おもしろくなってきちゃうんだよね)
えむ:(そんないたずら好きな牛若丸の気持ちを ちゃんと表現しなくちゃ——)
えむ:(……あれ? でも……みんな、真剣に見てる……?)
えむ:(……なんだろう、そうじゃなくて……)
えむ:(ここは……本当は、 クスクスってなっちゃう場面のはずだよね)
えむ:(……あ、そっか! なら、ここはもっと——)
第 8 话:気持ちを伝えるために
劇団三日月組 稽古場
鬼島:君達がここに来てちょうどひと月——今日が約束の日だ
鬼島:ワンダーランズ×ショウタイムの、 今日までの練習の成果を見せてもらおう!
鬼島:では、準備ができ次第、よろしく頼むぞ!
えむ:はい!
司:今回は最初から最後まで通しでの芝居だ。 みんな、気合いを入れていくぞ!
えむ:まずは寧々ちゃんのシーンからだよね。 がんばってね!
寧々:うん……!
三日月組の座員達:『その意気や見事! しかし、源氏の血を残すわけにはいかぬ。 覚悟——!』
寧々:(——大丈夫。ちゃんと特訓の成果を出せてる……!)
寧々:(前より筋肉がついたのかな。 ぶつかられても、体幹がぶれずにすんでる)
寧々:(源氏の妻としての使命感、 子を守りたい母親の気持ち……)
寧々:(ちゃんと表現できるよう、前に——!)
司:『その太刀を置いて立ち去れ! さすれば、命までは取らぬ!』
寧々:始まったね、クライマックスのシーン
寧々:えむが考えたあの演技……鬼島さんに認めてもらえるかな
類:……演技に絶対の正解はないよ。 けれど——
類:えむくんが、たくさん考えて出したやりかただ。 それを信じよう
司:『何をくだらん御託をべらべらと! かくなる上は……我が薙刀の一撃、受けてみよ!』
司:『——はあああああ!』
えむ:(……まずは、弁慶の攻撃を避ける——)
えむ:『おっと』
えむ:(——うんっ! いっぱい練習したから、 あの時の鬼島さんみたいに、ちゃんとリラックスして動けてる!)
えむ:(こうやって踊るみたいに動いて、 牛若丸の楽しいって気持ちを表現するんだ)
えむ:(でも——)
えむ:(これだけじゃまだ足りない……!)
えむ:(ここは……本当は、 クスクスってなっちゃう場面のはずだよね)
えむ:(あたしが伝えたい、牛若丸の気持ち——)
えむ:(それを、もっとちゃんとみんなに伝わるようにしなくちゃ!)
司:『貴様、ふざけているのか!? 子供とはいえ、武士ならば…… その太刀、抜いて戦う覚悟を見せよ!』
えむ:『そう言われると、ますます相手をする気がなくなるものだね。 ——よっ、ほっ……よっと』
リン:からかってる気持ち? そうなの? リン、てっきり牛若丸は弁慶と戦うのが 楽しいのかなって思ってたよ~
慶介:たしかに……もっとわかりやすくてもいいかもしれないな。 相手の様子を伺う間を入れるとかはどうだろうか
えむ:(……みんなの感じること、みんなの視点をもっと意識するんだ。 それで——!)
えむ:(——薙刀を避けたら、弁慶とちょっと離れる)
えむ:(そうしたら弁慶がもう一度、 えいっ!って大きく切りかかってくる)
司:『貴様ーっ!』
えむ:(鬼島さんはこの時——すっごくリラックスしてた。 全然平気だよって感じで)
えむ:(でも、あたしは——)
鬼島:(……? 笑って——)
司:『せいっ!!』
鬼島:(……! 紙一重で、避けた……!)
鬼島:(いや——あと数センチズレれば当たるかもしれないぞ。 なぜあそこまでギリギリの距離で——)
司:『く……!』
鬼島:……そうか……
えむ:(——ギリギリで避けて、 避ける時も、目を弁慶のほうに向ける)
えむ:(弁慶は、牛若丸が自分をバカにしてるって気づいて、 どんどん切りかかるスピードが上がってく)
えむ:(それでも牛若丸は、ギリギリまで引き付けて ひょいって避ける。だって——)
えむ:(弁慶がムキになって切りかかってくるのが、 すーっごく楽しいから!)
司:『ええい……! ちょこまかと……!』
えむ:(こうやってからかってるうちに、 牛若丸はどんどん楽しくなっちゃう。 だから、あとは——)
えむ:『——よっ』
えむ:(弁慶の後ろに回って……こう——!)
えむ:『……やれやれ、骨が折れる……。 けれど、君のような暴れん坊をからかうのは、 なかなかおもしろいね』
えむ:『……どうかな? もっと大きな相手をからかったら ますますおもしろいとは思わないかい?』
司:『——な、何を言っている?』
えむ:『源氏の再興に興味はないけれど、 君のように威張っている奴らをからかうのは興が乗った、 ということだよ』
えむ:『どれ、少し世をからかってやるとしようか』
えむ:『……弁慶と言ったかな。君も来るかい? きっと楽しい景色を見せてあげるよ』
鬼島:(……なるほどな)
鬼島:(……これが、鳳くんの出したやりかたか)
鬼島:——うむ、お疲れさま!
鬼島:前よりも格段に進歩していたな。 修行の成果が出ていたぞ!
司:ありがとうございます!
えむ:あ、あの……!
えむ:どうでしたか? 牛若丸の気持ち……ちゃんと伝わってましたか!?
鬼島:……そうだな
鬼島:ああ、バッチリだ!
鬼島:いたずら好きの牛若丸の気持ち、よく感じられたぞ!
えむ:わあ……ありがとうございます!
寧々:……よかったね、えむ
えむ:うん!
えむ:(あたし——ちゃんと、伝えられたんだ)
えむ:(あたしのイメージする、牛若丸の気持ち……!)
えむ:(それに……なんだか、前よりも 見てくれてる人達の考えてることが、わかった気がする)
えむ:(ショーを見に来るお客さんが、どんな視点で劇を見てるのか。 どんな時に喜んだり、悲しんだり、笑ったりするのか——)
鬼島:——よし、では……ワンダーランズ×ショウタイムの諸君、 牛若丸の芝居はここまでだな!
鬼島:これからは、同じ公演に向けて共に頑張ろう!
司:それは——
鬼島:ああ、君達の実力は申し分ない! このひと月、本当によく頑張ってくれた!
司:——やったな、えむ!
えむ:……う、うん! よかった~!
類:フフ、今回は特に……えむくんが頑張ってくれたおかげだね
寧々:あの……次の公演の内容って、もう決まってるんですか?
鬼島:いや、演目はまだだ。 だが……場所はすでに決まっている
鬼島:はっはっは! 聞いて驚け——
鬼島:我々三日月組、そしてワンダーランズ×ショウタイム が次に目指すのは……
鬼島:時代劇村だ!
司:じ、じ、じ……
司:時代劇村だと~~~~!!!