活动剧情

鳴らせビューティフルサウンド!

活动ID:139

第 1 话:シブヤ楽器DAY

ビビッドストリート
冬弥:……ふむ。11時か……
冬弥:(練習は午後からだというのに、 うっかり早めに家を出てしまったな)
冬弥:(しばらく『RAD BLAST』に向けて 朝早く集合していたからか、つい早く来る癖がついてしまった)
冬弥:(——今は、一度しっかり休息を挟んで、 体制を整えてから世界に挑もうという話になったが……)
冬弥:(やはり、体に染みついた癖はなかなか抜けないな)
冬弥:しかし——
冬弥:こういった自由な時間がある時にこそ、 普段しないことをやってみてもいいかもしれない
冬弥:(以前キャンプに行った時も、 新しい経験をすることで歌の幅が広がった)
冬弥:(せっかくの機会だ。 有意義に過ごせるよう何か探して——)
冬弥:……ん? あれは——
冬弥:(白石……? それと、一緒にいるのは——)
男性:どうかな、杏ちゃん。 もしいいツテとかあったら、紹介してもらいたいんだが……
杏:うーん……。 そうだなあ……
冬弥:(あれは……よくイベントの機材のことで お世話になっているショップの店長だな)
冬弥:(何か悩んでいるようだが……?)
杏:——ん? あれ、冬弥!
杏:もうこっち来てたんだ! 早いね!
冬弥:ああ、つい早く家を出てしまってな
冬弥:ところで、何の話をしていたんだ? どうも悩んでいるようだったが……
杏:あー、実は店長に、『手伝いできそうな人がいないか』って 相談されてたの
冬弥:手伝い……?
楽器屋の店長:実は今度、駅前のホールで『シブヤ楽器DAY』っていう イベントがあるんだが……少々人手が足りないんだ
冬弥:『シブヤ楽器DAY』……。 聞いたことのないイベントですが、それは……
楽器屋の店長:簡単に言うと、いろんなメーカーや楽器店が集まってやる、 楽器の即売会だな
冬弥:楽器の即売会ですか……
楽器屋の店長:ああ。ギターとかピアノはもちろん、バグパイプとか三味線とか ちょっとそこらの楽器屋じゃ買えないような、 幅広いジャンルのものが揃うところが売りだな
楽器屋の店長:あとは楽器初心者も楽しめるように体験コーナーがあったり、 すぐ隣のコンサートホールで演奏会があったり…… ま、そういう楽器全般を扱ったイベントだ
冬弥:なるほど……。 それは楽しそうですね
楽器屋の店長:はは、だろ?
楽器屋の店長:俺はこのイベントの、『音楽をもっと身近に』って コンセプトが結構気に入ってな それでうちの店も出店することにしたんだが……
杏:いつも働いてるスタッフさん達が急な用事で イベントに来れなくなっちゃったんだ
冬弥:ああ、だから人を探していたのか
楽器屋の店長:ひとりは杏ちゃんが手伝ってくれることになったんだが……、 準備や接客のことを考えると、もうひとり必要そうでな
楽器屋の店長:それで、ツテがないか聞いていたんだが……ん?
楽器屋の店長:そうだ! 青柳くん、手伝ってくれないか!?
冬弥:え……? 俺、ですか?
楽器屋の店長:ああ! 杏ちゃんからいつも、 真面目で頼りになるって聞いてるしな!
楽器屋の店長:あ……もちろん、時間があれば、なんだが……
杏:あはは、それなんだよね~
杏:最初はみんなを誘おうかなーって考えたんだけど、 こはねは家族と旅行してたり、彰人は溜めてた宿題やってたりで あんまり時間なさそうだし……
杏:冬弥も、他に何かやりたいこととかあるんだったら、 無理に誘っちゃうのはアレかな~って思っててさ
冬弥:ふむ……
冬弥:(楽器のイベント、か)
冬弥:(楽器は扱いも難しいし、物によってはかなりの重量がある。 俺に対応しきれるかはわからないが……)
冬弥:(しかし、白石と店長だけでは準備も大変だろう。 他に人を探すのも難しそうだ)
冬弥:(だったら——)
冬弥:——わかりました
杏:え? いいの?
楽器屋の店長:ほ、本当か!?
冬弥:ええ。店長にはいつも機材のことでお世話になっていますし
冬弥:それに——ちょうど、いつもとは 違うことをしてみたいと思っていたんです
杏:そっか……! それならよかった!
冬弥:あ、ただ……接客の経験はないので、 足を引っ張ってしまうかもしれないんですが……
楽器屋の店長:いやいや、そこは俺達でフォローするよ!
杏:そうそう! 接客なら私もサポートできるし!
冬弥:そうか……。 ならぜひ、手伝わせてもらいたいです
楽器屋の店長:そうか……! ありがとう!
杏:ありがとう冬弥! それじゃあ、よろしくね!
冬弥:ああ
冬弥:ところで……店長はイベントで どういう機材を出されるんですか?
冬弥:できれば、その機材のことを勉強しておきたいと思うんですが
杏:おお~。 さすが冬弥、真面目だね~!
楽器屋の店長:そうだ、言ってなかったな
楽器屋の店長:俺は今回、ライブ用の機材じゃなくて トランペットやサックスを持って行く予定なんだ
冬弥:え? 管楽器なんですか?
冬弥:少し意外ですね。 てっきりライブ機材で参加するのかと……
杏:お店ではこの辺りの需要に合わせてライブ機材売ってるけど、 店長はもともと、管楽器が大好きなんだって!
楽器屋の店長:ああ。 だから、今回は念願叶っての出店ってやつだ!
冬弥:……そうだったんですね
冬弥:(念願……か。 それなら一層気合いを入れて手伝わなければな)
冬弥:(俺は、管楽器の扱いには慣れていないし、 接客に不安はあるが……)
冬弥:(いいイベントになるよう、頑張ろう)

第 2 话:接客特訓!

ストリートのセカイ
crase cafe
こはね:『シブヤ楽器DAY』?
彰人:そのイベントに、ふたりで参加するのか?
冬弥:ああ。臨時の手伝いとしてな
杏:いつも機材貸してくれる店の店長さんが出店するんだけど、 スタッフさんに急な用事が入って 人手が足りないらしくてさ
杏:それで、私と冬弥が手伝うことになったんだ!
レン:楽器のイベントの手伝いか……! なんだかおもしろそうだね!
MEIKO:ええ。……でも、少し大変そうね。 お客さんに売るなら、楽器の知識も必要でしょうし
冬弥:はい。なので前もって店長からいろいろと教えてもらいつつ、 自分でも勉強しようと思っています
こはね:ふふ、青柳くんならすぐに覚えられちゃいそうだね
彰人:つーか、杏のほうが説明できんのかって感じだけどな
杏:私だって勉強するから大丈夫だってば! ……多分
リン:ねえねえ、そのシブヤ楽器DAYって どんな感じのイベントなの?
杏:えっと、実際に楽器に触れて、買ったりできるイベントなんだけど たしかホームページがあって……
杏:——あ、この去年の写真がわかりやすいかも! こんな感じでいろんなブースが並ぶみたい!
レン:うわぁ! トランペットとかギターとか、たくさんある!
MEIKO:本当ね……! それに、同じ楽器でもすごくいろいろな種類があるのね
冬弥:作るメーカーによっても、材質によっても、 吹き心地や音色がかなり変わってくるので、 様々なものを取り揃えているようです
リン:でも、こんなに種類があると 選ぶだけでも大変そうだな~
杏:だからこそ、自分にぴったりのものが見つけられた時、 すっごく嬉しいんじゃない?
MEIKO:なるほどね。 楽器っていう相棒を見つける……みたいな感じかしら?
リン:相棒……! えへへ、そう考えるとすっごく楽しそう!
冬弥:たしかに、誰かの相棒探しを手伝うと思うと、 やりがいがあるな
冬弥:(……しかし……)
彰人:どうかしたか?
冬弥:あ……いや、大したことではないんだが……
冬弥:ちゃんとした接客ができるか、少し不安でな
こはね:え?
冬弥:当日は楽器の搬入などもあるが、 主な仕事は、来場者への接客と販売だ
冬弥:だが、俺は接客をしたことがない。 ……果たして、来てくれるお客さん達に 満足してもらえるかどうか……
MEIKO:たしかに、慣れないと緊張するわよね。 それはわかるわ
杏:んー、そうだよね~……
杏:——あ、そうだ! それなら、接客の練習してみようよ!
冬弥:接客の練習?
杏:うん。私、接客は結構得意だから、教えられると思うし!
杏:で、代わりに冬弥は、楽器の勉強に付き合ってよ! それでトントンってことで!
彰人:トントンかはわかんねえが…… 実際お互いできること教えんのは効率的だな
杏:ま、私が教えられるのはカフェでの接客だから、 どこまで今回のに活かせるかはわかんないけどね~
MEIKO:でも、杏ちゃんが教えてくれるなら いい練習になりそうだわ
冬弥:たしかにそうですね……
冬弥:……白石の時間をもらってしまって申し訳ないが…… そうしたら、お願いしてもいいだろうか?
杏:うん、オッケー!
こはね:私もお客さん役とか、できることがあったら協力するから、 いつでも言ってね
冬弥:ああ。ありがとう
MEIKO:——そうだわ。よければここで練習していったら? 接客するにはぴったりだしね
冬弥:本当ですか?
杏:ありがとうございます、メイコさん! ——よ~しそれじゃあ、早速特訓だね!
冬弥:ああ!
杏:——ありがとうございました! またのご来店、お待ちしております!
杏:……とまあ、接客の流れはこんな感じかな。 どう? なんとなくわかった?
冬弥:……実際にできるかはわからないが、 いったん流れは把握した
杏:それなら十分! じゃあ早速、やりながら覚えていこ!
杏:ってわけで——レンくん、リンちゃん、おねがーい!
レン・リンの声:『はーい!』
レンの声:おお~っ! なあリン、こんなところにカッコイイカフェがあるぞ~!
リンの声:うんうん! 入ってみようよレン~!
彰人:あいつら、ただの客の役なのに 妙に気合い入ってんな……
リン:こんにちは~っ! わたし達、お客さんで~っす!
杏:ほら、お客さんが来たよ冬弥! レッツゴー!
冬弥:ああ、わかった……!!
冬弥:白石のように背筋を伸ばして、 軽やかに——
こはね:な、なんだかちょっとギクシャクしてるっていうか、 動きが硬いような……?
彰人:緊張してんだろうが……さすがに緊張しすぎだろ
冬弥:(はっきりと、聞こえる声で、滑舌よく……!)
冬弥:——いらっしゃいませ……!
レン:い……! いらっしゃいました……!
杏:…………ぷっ
杏:あははは! 冬弥、レンくん達怖がっちゃってるじゃん!
杏:もっとリラックスリラックス! 自然体で大丈夫だから!
冬弥:わ、わかった。 もう一度やってみる……
リン:び、びっくりした~! 急にすごいズイってくるんだもん!
冬弥:すまない。 どうもしっかりやろうと意識すると 肩に力が入ってしまうようだ……
MEIKO:繰り返し練習すれば、きっと慣れていくわ。 焦らずゆっくり覚えていきましょう
数日後
冬弥:——ありがとうございました。 またのご来店、お待ちしております
杏:……うん! 今のすっごくいい感じ!
杏:あとは、まだちょっと肩に力入ってる感じがするから、 もうちょっとリラックスできたら完璧かな?
冬弥:リラックス……。 たしかにそうだな
レン:でもホントに冬弥、すごくうまくなったね!
リン:ね! 『いらっしゃいませ』の挨拶も 最初あんなにズゴゴーって感じだったのに!
冬弥:そうか……そう言ってもらえてよかった
MEIKO:ふふ、お疲れさま。 一段落したことだし、少し休憩しましょうか
冬弥:はい
杏:あ、冬弥。休憩のあと楽器のこと教えてくれない? イエローブラスとゴールドブラス?の違いまでは覚えたんだけど、 まだよくわかんないところがいっぱいあってさ
冬弥:ああ、わかった
冬弥:あとは……これも少し練習するか
MEIKO:あら? それってもしかして、トランペットのマウスピース?
冬弥:はい。俺が個人的にやっていることなんですが——
冬弥:これで、音を出せるようになろうと思っているんです
レン:え? わざわざそこまでやるの?
冬弥:俺も吹けるようになれば、 初めて管楽器を吹く人にコツを説明できるからな
冬弥:体験コーナーは基本的に対応しなくてもいいと 言われているから、必要ないかもしれないが……。 自分にできることは全てやっておきたい
杏:こういうとこ、さすが冬弥だよね! なんでも全力って感じでさ
リン:やる!って決めたことはちゃーんとやる感じ、カッコイイよね!
レン:——イベント、うまくいくといいな! オレも冬弥のこと応援してるよ!
冬弥:……ああ、ありがとう
宮益坂
奏:……えっと、 お風呂の洗剤は望月さんが買ってきてくれたから……
奏:——これで、必要なものは全部買えたかな
まふゆ:……そう。 それじゃあ帰ろう
奏:うん。ありがとう、まふゆ。 日用品の買い出しにつきあってくれて
まふゆ:別に。 私も使ってるものだし
奏:そっか
奏:……あれ?
店員:ただ今、対象店舗でお買い上げいただいた方限定! 福引大会やってまーす!
店員:商品券や旅行券、イベントチケットなど 豪華景品が当たるチャンスですよー!
奏:へえ……。福引、か……
店員:あ、そこのお嬢さん達、レシートがあれば 福引できますよ! よければどうですか?
奏:え? あ、えっと……
まふゆ:……やってみる?
奏:……そうだね。 せっかくだし、ちょっとやっていこうか
店員:対象店舗のレシートで、今日の日付……。 はい、確認しました! ではこちらを回してみてください!
奏:ありがとうございます。 それじゃあ……
まふゆ:……玉が出た
奏:えっと、赤いけど、これって何等なのかな……?
店員:——あっ!
店員:おめでとうございま~す!! こちらシブヤ区賞で~す!!
奏:え? シブヤ区賞?
店員:はい! シブヤ区からの景品がもらえる賞でして—— 今回は『シブヤ楽器DAY』の入場ペアチケットになります!
店員:今週末、駅前のホールで開かれる楽器の即売会なんですが、 プロの楽団を呼んでの演奏会もあって そちらに無料でご参加いただけます!
奏:演奏会……
奏:(そういえば最近、 生音での演奏って、あんまり聴いてないな)
奏:(それに、まふゆにとっても、 いい気分転換になるかもしれないし……)
奏:……せっかく当たったし、よかったら行ってみない?
まふゆ:…………
まふゆ:……今週末は予定もないし、 奏が行きたいなら
奏:そっか。 じゃあ、行ってみよう
まふゆ:うん

第 3 话:好きだという気持ち

シブヤ楽器DAY 前日
冬弥:——白石、ホルンのケースはここに置けばいいか?
杏:うん、お願い! サックスはここにまとめて……っと
楽器屋の店長:——よし、これで楽器の整理は終わったな
杏:明日はついにイベントだね! あ、集合時間とか、前送ってくれたのから変わってないよね?
楽器屋の店長:ああ! 杏ちゃんも青柳くんも、明日はよろしく頼む!
冬弥:はい。こちらこそよろしくお願いします
スクランブル交差点
冬弥:ふう……
冬弥:……いよいよ明日だな
冬弥:(事前の搬入経路や注意点についても確認が終わった。 量は多いが、白石とふたりでやれば 開場時間前に終わるだろう)
冬弥:(管楽器についても、ある程度なら説明できる。 そうなるとあとは……)
冬弥:……接客、か
冬弥:(基本的な接客については 白石達のおかげで、できるようになってきたが——)
冬弥:(どうも、しっかりやろうと思えば思うほど、 力が入って不自然になってしまう)
冬弥:…………
冬弥:(……少し、練習してみよう。 普段と同じように、リラックスをして……)
冬弥:……だめだ、どうも強ばっているように感じるな。 家に帰ったらもう一度、練習をしておかなければ……
???:——あれ? もしかしてそこにいるの、とーやくん!?
冬弥:ん? 今の声は——
冬弥:……! 咲希さん!
咲希:やっぱり、とーやくんだ! こんな時間に会うなんて、珍しいね!
冬弥:ええ、俺も驚きました。 咲希さんは、練習の帰りですか?
咲希:うん! 打ち合わせとかしてたらちょっと遅くなっちゃって。 とーやくんは?
冬弥:俺は、『シブヤ楽器DAY』というイベントの手伝いとして 準備をしていました
咲希:シブヤ楽器DAY……。 あ、それって明日駅前のホールでやるイベントだよね?
咲希:先週、お母さんと行こうかな~って話してたんだ! まあ、結局用事ができて行けなくなっちゃったんだけど……
冬弥:そうだったんですね。少し残念ですが…… 咲希さん達の分も、会場の空気を感じてこようと思います
咲希:えへへ、ありがと! でも、どうしてお手伝いすることになったの?
冬弥:お世話になっている楽器店が出店するのですが、 当日のスタッフが足りなくなってしまったので 代わりに、という感じですね
咲希:へえ、そうだったんだ!
咲希:店員さんのとーやくん、見てみたかったなぁ
冬弥:そう言ってもらえるのは、ありがたいですが……
冬弥:俺の接客は、 あまり人に見せられるものではないと思います
咲希:えっ、そうなの?
冬弥:はい。慣れないのもあってか、 どうしても硬くなってしまって
咲希:そっか……
咲希:たしかにとーやくんって、初めてのことをやる時は よく、カチ!ってなっちゃってたよね
冬弥:……はい
咲希:——でも、大丈夫だよ!
冬弥:え?
咲希:明日やるのって楽器の紹介とかなんでしょ? それなら絶対大丈夫!
冬弥:……ええと、 それは、なぜそのように……?
咲希:だってとーやくん、 音楽とか楽器がすっごく好きだから!
咲希:ほら、昔初めてうちにきた時も、 とーやくんすっごく緊張してたけど——
咲希:お兄ちゃんが『リサイタルだ!』ってピアノ弾き始めたら、 ススス~って近づいてって、 キラキラした目で見てたでしょ?
咲希:あの時のとーやくん、音楽が大好きだ~って感じがして、 見てるアタシまで楽しくなっちゃったんだ
咲希:だから……とーやくんが接客したら、 お客さんにも音楽と楽器の楽しさが伝わると思うの!
冬弥:あ……
冬弥:(……あの頃ピアノには、つらい記憶が多かった)
冬弥:(けれど、咲希さんと司先輩の家でピアノに触れている時は、 楽器に触れるのが純粋に楽しく——嬉しかった)
冬弥:(……そうか)
冬弥:(しっかり接客しようと気負うのではなく、 あの時の気持ちを思い出せばいいのかもしれないな)
冬弥:(楽器が——音楽が好きだという気持ちを)
冬弥:……ありがとうございます、咲希さん。 俺は少し難しく考え過ぎていたようです
咲希:あはは、そういう一生懸命考えるところも とーやくんらしいなって思うよ♪
咲希:あれ? お兄ちゃんから……?
咲希:『今日は帰りが遅いが大丈夫か? 夕飯は野菜ゴロゴロカレー だから早く帰ってくるんだぞ!』だって! もう、心配性なんだから
冬弥:ふふ、司先輩らしいですね。 咲希さんのことをいつも大事に考えていて
咲希:えへへ……。 アタシもそう思う!
咲希:それじゃあとーやくん、またね! 明日、がんばってね~!
冬弥:はい! ありがとうございました!
シブヤ楽器DAY 当日
杏:こっちにも椅子を置いて……っと。 うん、準備できたよ!
楽器屋の店長:よし、これで体験コーナーの設営はバッチリだな!
楽器屋の店長:そろそろ開場の時間だが……。 杏ちゃん、青柳くん、用意はできているか?
冬弥:はい、いつでも大丈夫です
楽器屋の店長:そうかそうか! 頼もしいな
楽器屋の店長:さて、俺は登録証を提出しに行ってくる。 すぐ戻ってくるから大丈夫だとは思うが、 何かあったら携帯に連絡をくれ
杏:はーい! いってらっしゃい!
杏:……楽器の即売会っていうと もうちょっとカチっとした感じかなって思ってたけど、 意外と可愛い感じの会場だね!
冬弥:たしかに、そうだな。 海をモチーフにしているのか、青で統一されているのも美しい
杏:ね! テンション上がるな~!
杏:ていうか冬弥、思ったより緊張してなさそうじゃん! もっと心配してるかもな~って思ったけど
冬弥:ん? ああ——
冬弥:昨日、大事なことを教えてもらってな。 そのおかげだと思う
杏:大事なこと?
冬弥:そうだ。 音楽を楽しむ心……それこそが必要なものだと
杏:……ん~、なんかよくわかんないけど…… ま、冬弥がスッキリしてるならいっか!
???:『冬弥くーん! 杏ちゃーん!』
リン:『やっほー! 遊びに来たよ!』
レン:『準備はどう? 順調?』
杏:いらっしゃい、リンちゃん、レンくん! 今、ちょうど準備が終わったところだよ! ほら!
リン:『わ、本当に楽器がいっぱいだ! すごーい! ねえねえ、ちょっと見ててもいい?』
冬弥:ああ。 こっそりとであれば好きに見てくれてかまわない
レン:『うん、わかった! ちゃーんと気をつけるから、安心して接客してて!』
リン:『がんばってね、ふたりとも!』
杏:うん! レンくんもリンちゃんも、ありがと!
楽器屋の店長:おーい! 待たせて悪かったな! もうすぐ開場だ!
冬弥:……ちょうどいいタイミングで戻ってきてもらえたな
杏:だね!
杏:——よーし! 今日は頑張ろっか!
冬弥:ああ!
若い男性:お姉さん、すみませーん! ちょっと聞きたいんですけど、いいですか?
杏:はーい! 今行きます!
杏:お待たせしました。 どちらの楽器についてでしょうか?
若い男性:トロンボーンとか気になるなーって思ってるんですけど、 この管が細いやつと太いやつって、何か違うんですか?
杏:はい!
杏:管が細い方が、音色が明るくて高音が出しやすくて、 太い方が、息の量は必要となるんですけど、 音色・音量ともに華やかになる……って感じですね!
杏:もしよかったら、試しに吹いてみますか? 音出してみないとわかりづらいと思いますし!
若い男性:えっ、いいんですか? じゃあそうしようかな
杏:はーい! 今、準備しますね!
レン:『おお~! すごいな杏、初めてなのにベテランの人みたいだね!』
冬弥:ああ。 俺も見習わなければ
冬弥:(……まだ少し、緊張はある。 だが——)
咲希:とーやくんが接客したら、 お客さんにも音楽と楽器の楽しさが伝わると思うの!
冬弥:(きっと、大丈夫だ)
おじいさん:あ、そこのお兄さん。 ちょっと聞いてもいいかね?
冬弥:あ……! はい!
冬弥:——いらっしゃいませ。 本日は、どんな楽器をお探しですか?
おじいさん:それが、決めていなくてね……。 ここには初心者でも 吹けるような楽器なんてあるかい?
おばあさん:実は、老後の趣味として夫と一緒に 何か演奏できるようになろうと思っているの
おばあさん:私は少しピアノが弾けるんだけれど、 夫は楽器がまるでできなくて…… おすすめの楽器を教えてもらえないかしら
おじいさん:できればカッコイイ音が鳴ると嬉しいなあ
冬弥:初心者におすすめの、かっこいい音が鳴る楽器……ですか
冬弥:——そういうことでしたら、サックスはどうでしょうか。 管楽器の中では、比較的簡単に始められますよ
おばあさん:そうなの? なんだか難しそうに見えるけど……
冬弥:お気持ちはわかります。 サックスはキーが多いですし、 吹くためにリードも必要ですしね
冬弥:私も、初めてサックスを見た時は、 『なんて複雑そうな楽器なんだ』と思っていました
おじいさん:おや、お兄さんもそうだったのかい?
冬弥:ええ。子供の頃なんですが……たくさんのキーを 押さえながら息も入れなくてはならないと考えると、 自分にはそう簡単にできないだろうなと
冬弥:ですが——
冬弥:実は、運指はそこまで複雑ではないんです。 ここのキーを押さえるだけで、サックスの『ド』の音が出ます
おじいさん:へえ、案外シンプルなんだなあ
冬弥:そうですよね。 あ、よければ持ってみますか?
おじいさん:いいのかい? それじゃあ……。 ふむ、たしかに意外と持ちやすいなあ
おばあさん:結構重そうだけれど、大丈夫なの?
冬弥:アルトサックスが2.5㎏程度なので少し重くはありますが、 ストラップをつかえば補助ができるので そこまで重くはないと思いますよ
おじいさん:それに、サックスは音がいいしねえ。 吹けるようになったら、妻も惚れ直してくれるかもしれん
おばあさん:まあ……! もう、あなたったら!
冬弥:ふふ、おふたりはとても仲がいいんですね
冬弥:——よければ、このまま試奏してみませんか?
冬弥:もちろん初めての方は、なかなか音は鳴りませんが…… それだけに、音が鳴った時の感動もひとしおだと思いますよ
おじいさん:なるほど……。 それならちょっと試してみようかね!
冬弥:では——店長。 こちらのご夫婦がサックスの試奏をされたいということなので、 案内をお願いしてもいいでしょうか?
楽器屋の店長:ああ、ありがとう青柳くん! お客様、こちらの椅子にどうぞ!
おばあさん:——お兄さん、ありがとう。 説明、とってもわかりやすかったわ
おじいさん:ああ。それにお兄さんが楽しそうに話すから、 やってみたくなったよ!
冬弥:……! ありがとうございます!
レン:『——見てたよ、冬弥!』
リン:『お客さん、喜んでくれてよかったね!』
冬弥:……ああ
冬弥:あのご夫婦がサックスの楽しさを知るきっかけになれたのなら、 嬉しいな
リン:『えへへ、きっとなれたよ!』
レン:『そうだよ! この調子でいっぱい……あ!』
若い女性:すみませーん、この楽器なんですけどー
冬弥:——はい! 今向かいます!
杏:(——よかった。 楽しく接客できてるみたいで)
杏:(頑張れ、冬弥!)

第 4 话:少年とトランペット

シブヤ楽器DAY 当日
館内アナウンス:『——以上で演奏会は終了となります。 お足元、お忘れ物に気をつけてご退場ください』
奏:ふぅ……。 いい演奏会だったね
奏:まさか10組も登場するとは思わなかったけど…… 和楽器のバンドとか、世界の民族楽器のバンドとか 普段あんまり聴けないような演奏が聴けてよかったな
まふゆ:……奏、楽しそうだね
奏:あ……。 久しぶりに生演奏が聴けたから、つい……
奏:まふゆはどうだった?
まふゆ:……よかったと思う
奏:そっか……
奏:(少しは気分転換になったみたいで、よかったな)
奏:それじゃあ……このあとはどうしよっか。 まだ楽器のブースとかはやってるみたいだけど……
奏:——わっ!
まふゆ:奏……、大丈夫?
奏:う、うん。 でも今、何かがぶつかって——
少年:あ……。 ご、ごめんなさい……
奏:あ……こっちこそごめんね。 周りを見てなくて……
少年:い、いえ……僕の方こそ……
少年:…………っ
奏:(……どうしたんだろう。 なんだか泣きそうな顔してるけど……)
奏:だ……大丈夫? もしかして、今ぶつかったせいでどこかケガしてたり……
少年:ち、違うんです。 ごめんなさい……そうじゃなくて……
奏:え? ど、どうしたの?
少年:その……。 ……………………
奏:……え、えっと……
奏:(だ、黙っちゃった……。 でも、このまま放っておくのも……)
奏:と……とりあえず、あっちのベンチに座って休むとか……
まふゆ:……うん。 そのほうが、落ち着けるかも
奏:ど……どうかな?
少年:…………はい
少年:ありがとう、ございます……
奏:そっか……。 それじゃあ、行こうか
少年:……本当にごめんなさい。 お姉ちゃん達に迷惑かけちゃって……
奏:ううん、大丈夫
奏:でも、どうしたの? もしかして、迷子になったとか……?
少年:あ、違うんです! そうじゃなくて……
少年:その……
少年:……すごく、悔しくて……
まふゆ:悔しい……?
少年:——僕、マーチングバンドで、トランペットを担当してるんです
少年:でも、いつも変な音しか鳴らなくて……。 そのせいで、合奏にも、僕だけ参加させてもらえなくて……
少年:それで、今日の演奏会で、 トランペットがすごくかっこよく鳴ってるのを見たら——
少年:いいなあって……。 どうして僕はこんなに下手なんだろうって、 悔しくなっちゃったんです……
奏:そうだったんだ……
少年:…………どうしてなんだろう
少年:僕もあんな風に……綺麗な音を出してみたいのに……
奏:…………
奏:(……『あんな風に』か……)
奏:(その気持ちは、なんとなくわかるな)
奏:(わたしもお父さんみたいにって、思ってたから)
奏:(……何か、この子のためにできることが あればいいんだけど)
奏:(でも、わたしもトランペットは吹けないし、 どうすれば……)
まふゆ:……そういえば、管楽器のブースで、 楽器体験コーナーがあったね
まふゆ:あそこなら、綺麗な吹き方のコツを 教えてもらえるかも
少年:え……?
奏:あ、そっか。 ブースに先生みたいな人がいたもんね
奏:えっと……今は時間ある? もしかしてそろそろ帰らないとダメかな
少年:あ、いえ……。 イベントの終わりまでは自由に見て回っていいって言われてます
奏:そっか。 じゃあ……行ってみない? その体験ブース
少年:あ……
少年:で、でも……きっと吹けないと思います。 いろいろやってみても駄目だったし……
奏:……たしかに、そうかもしれない
奏:でも……今はできなくても、続けたら いつかはできるようになるかもしれないよ
奏:だから……嫌じゃなかったらだけど、 挑戦してみてもいいんじゃないかな
まふゆ:…………
まふゆ:……ひとりじゃ不安だったら、私達もついていくよ
少年:…………
少年:ありがとうございます……。 僕、やってみます……!
奏:……!
奏:うん! それじゃあ、行こうか
少年:はい!!

第 5 话:みんなで挑戦!

管楽器ブース
冬弥:——ご来店、ありがとうございました
杏:お疲れさま、冬弥! いい感じに接客できてるね!
冬弥:そうだな。だいぶ感覚を掴めてきた気がする
杏:ふふ、それならよかった! 最後まで、この調子で頑張ろーうっ!
冬弥:ああ。 引き続き、よろしく頼む
???:——すみません、少しいいですか?
杏:あ、お客さんだ!
杏:——はーい! 今行きまーす!
杏:おまたせしましたー! 今日は何を——って、あれ?
杏:あ、えっと……! たしか、宵崎さんと朝比奈さん、ですよね?
まふゆ:ふたりは白石さんと青柳くん、だよね? こんなところで会うなんてすごい偶然だね
杏:はいっ! シブフェス以来ですね! お久しぶりです!
杏:おふたりは楽器を見に来たんですか?
奏:あ……えっと、実は今日は このイベントでやってた演奏会を見に来たんだ
奏:それでちょっといろいろあって…… この子に、トランペットを吹かせてあげたいなって思って
少年:こ、こんにちは……
冬弥:ああ、こんにちは
冬弥:君は、トランペットが好きなのか?
少年:は、はい。 でも……綺麗な音が出せなくて……
少年:ここなら、トランペットを教えてもらえるかもって お姉ちゃん達から聞いたから……
冬弥:なるほど、そういうことか
杏:……んーでも、どうしようかなあ……
奏:え?
杏:実は、ちゃんと教えられるのは店長だけなんですけど、 今別のお客さんの接客をしていて——
杏:そろそろイベントの終了時間も近いから、 間に合うかなって思って……
奏:あ……
少年:…………そう、ですか
少年:——それなら大丈夫です。 迷惑かけちゃって、すみませんでした
少年:お姉ちゃん、お兄ちゃん。ありがとうございました。 ……僕、みんなの所に戻ります
冬弥:…………
冬弥:——安定して音を出す、というところまでであれば、 教えられるかもしれない
杏:え? あ、そっか……!
冬弥:俺は、演奏することはできないんだが—— つい先日、しっかりと音を出すことはできるようになったんだ
冬弥:だから、君の目標が『しっかりと音を出す』ことなら 教えられると思う。 ……どうだろうか?
少年:……! いいんですか!?
少年:僕、教えてほしいです! ちゃんと鳴らせるようになりたいから……!
冬弥:そうか。 それなら、一緒に頑張ろう
まふゆ:……ありがとうございます
杏:ふふっ、それじゃあ早速 チャレンジしてみよっか!
杏:椅子持ってくるから、 ちょっと待ってて!
冬弥:——よし。 それではまず、自分なりに吹いてみてくれないか?
少年:は、はい!
奏:(あ……。 たしかに音は鳴ってるけど……)
まふゆ:(あんまり綺麗な音じゃないな……)
少年:……どうしても、いつもこうなっちゃうんです。 調子はずれになったり、スカスカな音になったり……
冬弥:ふむ、そうなると……
冬弥:まずは、唇の振動がしっかりできているか 確認する必要があるな
奏:唇の振動……
冬弥:はい。 基本的にトランペットは、 唇を振動させるイメージで息を吹くと——
少年:わ……! 音が出た……!
冬弥:このように音が鳴ります
杏:冬弥、うまいね! やるじゃん!
少年:唇を、っていうのは、 先生にも言われたからやってみてるんだけど……
少年:……やっぱり、うまく鳴らない……
冬弥:となると……。 一度マウスピースだけで練習してみるのがいいかもしれない
少年:マウスピースだけで、ですか?
冬弥:ああ。 マウスピースで安定した音が出せるようになれば、 トランペットでも同じように音が出るらしい
少年:わ、わかりました……!
奏:……なんだか、大変そうだね。 唇を震わせる、っていうのも難しそうだし……
杏:…………
杏:宵崎さん、朝比奈さん! よければ一緒にやってみませんか!?
奏:え? わ、わたし達も?
杏:はい! せっかくの機会ですし! あの子も一緒にやる人がいれば心強いかなって!
奏:たしかに……そばでじっと見られてるよりは、 そっちのほうがいいかもね
まふゆ:じゃあ、やってみようか
杏:了解です! じゃあ……他の体験用トランペットは使っちゃってるんで、 おふたりはトランペット用のマウスピースをどうぞ!
杏:……っていうか、私も鳴らしたことないので、 一緒にやってみてもいいですか?
奏:うん、わかった
杏:ありがとうございます! えっと、冬弥がやってたみたいに唇を閉じて——
杏:……あれ? ぜ、全然鳴らない……!
奏:本当だ……。 思ったよりも難しいな……
まふゆ:……多分これ、 唇のあいだを息が通る時に、唇が振動して音が鳴るから……
奏:あ! 今少しだけ鳴った……!
杏:わあ……! 朝比奈さん、すごいですね! 今どうやったんですか?
まふゆ:もしかしたら、唇の間を狭くしすぎて 息の通り道がなくなってるのかなって思って 少しリラックスして吹くようにしてみたんだ
杏:へえ! じゃあ、私も……
杏:あ……! ちょっとだけだけど、鳴りました!
奏:……すごいな、ふたりとも
奏:わたしも……
奏:あ……あれ? な、鳴らない……。 もう一度……
奏:……っ! 唇を震わせる感じが足りないのかな……えっと……
奏:…………っ。はぁ、はぁ……。 だめだ、全然音が出ない……
奏:み、みんなと何が違うんだろう……?
少年:…………。 ……ダメだ、やっぱりちゃんと鳴らない……
冬弥:大丈夫だ。焦らずやっていこう
冬弥:もう少し、口の形を意識するといいかもしれないな。 唇が振動しやすくなるよう、 少しだけ突き出すようにしてみるのはどうだろうか
冬弥:それから、顎の下に空気が入らないようにするのも大事だ。 下顎はそのまま、唇の力を緩めて……
少年:少しだけ突き出して……下顎はそのままで……
少年:やっぱり、ダメだ……
杏:……苦戦してるみたいですね
まふゆ:実際、コツを掴まないと難しいしね……
館内アナウンス:『——本日は、当イベントにご来場いただき、 誠にありがとうございます』
館内アナウンス:『本イベントの終了時刻まで、残り30分となりました。 お買い物をご検討のお客様は、お早めに——』
杏:え……! もうそんな時間なの……!?
冬弥:…………

第 6 话:音楽はいつか

管楽器ブース
杏:どうしよう。 もうすぐイベントが終わっちゃう……!
少年:…………
少年:……どうして、ちゃんと音が出ないんだろう……
冬弥:……俺も少し練習しただけなので、 断言はできないが……
冬弥:見ている限り、息の量が多すぎたり、 唇の形が間違っている……という感じはない
冬弥:だから、他に原因があるはずだ。 それが何なのか、わかればいいんだが……
まふゆ:……いろいろ試して 原因を探ってみるしかなさそうだね
杏:じゃあ、時間いっぱいまで頑張ってみよう! 私も一緒に吹いて考えるよ!
少年:……ううん
少年:きっとダメだと思います……
杏:え?
少年:……こんなに教えてもらってるのに…… 全然うまくならないですし……
少年:僕……やっぱり、向いてないんだと思います……
冬弥:……!
少年:……挑戦できただけでもよかったです。 ありがとうございました……
杏:で、でも……!
冬弥:——待ってくれないか
少年:え……
冬弥:……諦めてしまいたくなる気持ちは、よくわかる
冬弥:だが、だからこそ——ここで諦めてほしくない。 ……これは、俺の勝手な気持ちなんだが
杏:冬弥……
少年:…………
冬弥:先ほど君は、 何度やっても音が出なかったと言ったが——
冬弥:実は俺も、そうだったんだ
少年:え……。 そうなんですか?
冬弥:ああ。 俺がやっていたのはトランペットではなく、 ピアノとヴァイオリンだったが……
冬弥:君と同じように、ずっと『思うような音を出すこと』が できなかった
冬弥:理想とする……奏でてみたいと思う音色には、 全く届かなかったんだ
冬弥:……君も感じているとおり、 理想の音が出せないことは、とてももどかしい。 自分の力不足を思い知らされて、泣きたくなる
冬弥:何度逃げ出したいと思ったかわからない
少年:…………
冬弥:だが——1年、2年と練習し続けるうちに、 音は少しずつ変わっていった
冬弥:本当にわずかではあるが…… 理想の音に近づいていったんだ
少年:そう、なの?
冬弥:ああ。 本当にわずかだけどな
冬弥:俺はそれがとても嬉しくて…… 苦しい練習に耐えながら、夢中で弾いた
冬弥:そして俺が努力する度に音楽は応えてくれた
冬弥:思いがけないほど美しい音を、聴かせてくれたんだ
冬弥:だから——
冬弥:君が美しい音を奏でたいという想いを持っているなら、 どうか、諦めないでほしい
冬弥:音楽はきっといつか……応えてくれる
冬弥:少なくとも俺は、そう信じている
少年:…………
少年:……わかりました
少年:僕もう少しだけ、がんばってみます……!
冬弥:……! ……ああ、一緒に頑張ろう
奏:(美しい音を、奏でたいという想い——)
奏:(あ、もしかしたら……)
冬弥:——それじゃあ、もう一度やってみよう。 もう一度、唇がどう震えているか見せてもらってもいいか?
少年:はい!
杏:……あれ?
まふゆ:今の音って——
奏:な、鳴った……!!
杏:宵崎さん……!?
奏:よかった……!
奏:今、『美しい音を奏でたいという想い』って聞いて、 昔教えてもらったことを、ちょっと思い出したんだ
奏:イメージが大事なんだって
まふゆ:イメージ?
奏:うん。技術に問題がなくても それに意識が向きすぎるせいで、 うまくいかなくなっちゃうことがあるんだ
奏:だからそういう時は、一度頭を空っぽにして—— 自分が出したい音だけをイメージするといいって
冬弥:出したい音……か
冬弥:たしかに——そうですね。 俺もそうでした
冬弥:(技巧を追求しようとする時よりも、 『父さんのような音を出したい』と…… その想いが強い時ほど、いい音が出たように思う)
杏:じゃあ、宵崎さんみたいにイメージを膨らませていけば、 音が鳴るかもしれない……ってこと?
冬弥:ああ! ——さっそく試してみよう!
少年:はい!

第 7 话:美しい音

管楽器ブース
冬弥:これは……!
少年:お……音がちょっと安定してきました!
冬弥:いいぞ、この調子だ。 もう一度やってみよう
少年:は、はい!
少年:……僕、ちゃんと吹かなきゃ、吹きたい、 ってばっかり思ってたから、うまくいかなかったんですね……
まふゆ:そうみたいだね……。 でも今はもうそれがわかってるから、きっとできるよ
奏:頑張って……!
少年:はい……!
少年:すぅ……
少年:あ……!
杏:今の、すごくいいんじゃない!?
少年:えへへ……! も、もう1回——
少年:やった……! マウスピース、ちゃんと鳴らせるようになったよ!
冬弥:……このくらい音が出るなら、 トランペットにつけても大丈夫だろう
少年:え……本当ですか?
冬弥:ああ。今の感覚を忘れなければ、しっかりと鳴らせると思う。 ……やってみないか?
少年:や、やる……! やってみたいです!
冬弥:わかった。 じゃあ、マウスピースをトランペットに取り付けて……
少年:……っ
冬弥:——今の君なら、鳴らせるはずだ
冬弥:力を入れる必要はない。 これまでの自分を信じて——
冬弥:『この音が好きだ』という気持ちを胸に、 吹いてみてほしい
少年:は、はい……!
少年:すぅ……はぁ……
少年:……鳴らすんだ。 あの音を——
少年:あ……! い、今、聴こえましたか!?
冬弥:ああ……! 聴こえた!
冬弥:——とても美しい音だった
少年:僕……本当に……!!
少年:ありがとうございます!
少年:本当に……本当にありがとう! お兄ちゃん!
杏:すごいよ! ちゃーんとかっこよく鳴らせたじゃん!
まふゆ:おめでとう。 綺麗な音だったよ
奏:——うん
奏:トランペット、吹けてよかったね
少年:はいっ! お姉ちゃん達もありがとうございました! 連れてきてもらわなかったら、 絶対、できなかったと思うし……!
少年:僕、今日のこと絶対忘れません!
少年:いっぱいがんばって…… いつか、演奏会に出ます!
冬弥:……ああ
冬弥:その日を楽しみにしている
マーチングバンドの少年達:——おーい! もう自由時間終わるぞ~!
少年:あっ! みんな! ねぇねぇ、僕、今トランペット上手に吹けたよ!
マーチングバンドの少年達:え? 今吹いてたのお前なの!? すげーじゃん!
少年:えへへ……。 次の合奏は絶対みんなと出るからね!
少年:それじゃあ、お兄ちゃん、お姉ちゃん! 本当にありがとうございました!
冬弥:ああ
杏:どうなるかと思ったけど……。 一件落着だね!
冬弥:そうだな
冬弥:……あの子の力になれて、本当によかった
奏:ふたりとも、今日は本当にありがとう。 すごく助かったよ
奏:あ、それと…… 何も買わないのに、試奏だけいっぱいさせてもらっちゃって ごめんね
冬弥:いえ。 このイベントの目的は楽器に興味を持ってもらうことですし、 連れてきてもらえてありがたかったです
冬弥:それに——今日は素晴らしい機会をありがとうございました
冬弥:……あの子がトランペットを上手に吹けた時、 本当に嬉しかったんです
奏:え?
冬弥:あの子の笑顔を見た時、思い出しました
冬弥:初めてピアノに触れた時の喜び——
冬弥:初めてこの手で、美しい音を奏でた時の喜びを
奏:……そっか
奏:その気持ち、わたしもわかるな
冬弥:宵崎さんもですか?
奏:うん
奏:わたしも、お父さんのキーボードを初めて鳴らした時、 すごくドキドキしたから
奏:あの時の音は……今でも覚えてる
奏:音がキラキラ、輝いてるみたいで——
奏:……あの子にとっても、 今日がそんな思い出の日になってるといいな
冬弥:ええ——そうですね
館内アナウンス:『——シブヤ楽器DAYにお越しの皆さまへ お知らせいたします。 本イベントは、まもなく終了いたします』
館内アナウンス:『本日はご来場いただき、誠にありがとうございました。 お忘れ物などなさいませんよう——』
杏:あ、もうこんな時間なんだ! そろそろ撤収作業に入らないと
まふゆ:そっか、ふたりはまだここから作業があるんだもんね
まふゆ:それじゃあ、私達はこれで。 今日は本当にありがとう
冬弥:いえ。 おふたりとお話できてよかったです
冬弥:機会があれば——またどこかで
奏:うん
杏:それじゃあ、お疲れさまでした! 気を付けて帰ってくださいね!

第 8 话:憧れと喜び

ビビッドストリート
杏:いただきまーす! ……はふ、はふ……!
杏:う~、熱いけど、たこ焼き美味しい~!
冬弥:白石、あまり急いで食べると火傷するぞ。 たこ焼きは半分に割って、少し冷ましてから食べるといいと 暁山も言っていた
杏:もう、わかってないなあ瑞希は! 熱いー!って言いながら食べるのが美味しいのに!
杏:冬弥も早く食べなよ! せっかく店長がお礼にって、 バイト代とは別におごってくれたんだしさ
冬弥:……たしかにそうだな。 頂いたものは美味しいうちに食べなければ
冬弥:路上で、というのが少し気が引けるが…… いただきます
杏:ふふ、それが特別な感じがして美味しいんじゃん!
杏:それにしても、今日は大盛況だったね~!
冬弥:ああ。 思ったよりも忙しい1日になったな
杏:ホントにね! お客さんもたっくさん来てくれたし……。 でも、大きなトラブルもなく終わってよかったな
冬弥:ああ
冬弥:…………
杏:ん? どうしたの?
冬弥:いや……。 やっているあいだは必死で、振り返る余裕がなかったんだが……
冬弥:結局俺は、しっかりと接客できていただろうか……と思ってな
杏:——あはは! ホントに冬弥は真面目だなあ
杏:もう、バッチリもバッチリ! お客さんもすっごく喜んでたよ!
冬弥:そうか……。 それならよかった
冬弥:これも、白石達が練習につきあってくれたおかげだな
杏:いやいや、冬弥が頑張ったからだって!
杏:——実際、今日の冬弥の接客見てて、 すごくいい接客だなーって思ったんだ
杏:楽器の知識がサッと出ちゃうとこはもちろんだけどさ、 冬弥は真剣に……楽しそうに喋ってくれるでしょ?
杏:『音楽の良さを知ってほしいんだ』って気持ちが 伝わってくる感じがして……すっごくよかったよ!
冬弥:……そうか
レン:『——杏、冬弥! お疲れさま!』
杏:あ、リンちゃん、レンくん!
レン:『見てたよ! あの男の子、トランペット上手に鳴らせてよかったね!』
リン:『うんうんっ! ブー!って鳴った時、わたしも嬉しくなっちゃった!』
リン:『あと、男の子と一緒に来た人達も 喜んでくれてよかったね!』
冬弥:宵崎さん達か。 ……おふたりにも感謝しなければな
冬弥:宵崎さん達があの子を連れてきてくれたおかげで、 俺は、大切なことをもう一度思い出せたからな
レン:大切なこと?
冬弥:ああ。 俺が音楽を始めた時の気持ち——
冬弥:音楽への憧れと、美しい音を出せた時の喜びをな
冬弥:……この気持ちは、この先も大切にしようと思う
冬弥:——世界を目指す以上、これからも…… いや、これまで以上の苦しみが待っているだろう
冬弥:だが、この気持ちさえ忘れなければきっと、 その苦しみを乗り越えることができる
冬弥:……そう思う
杏:冬弥……
冬弥:この気持ちを思い出すことができただけでも、 このイベントに参加できて本当に良かったと思う
冬弥:改めてになるが、白石。 そして、練習につきあってくれたリン、レン。 本当にありがとう
杏:——ふふ、どういたしまして!
リン:『また困ったことがあったら手伝うから、 いつでも言ってよね!』
レン:『そうそう! オレ達は——仲間なんだからさ!』
冬弥:(——そうだな)
冬弥:(音楽への憧れ、喜び。 ……俺にあるのはそれだけじゃない)
冬弥:(今の俺には、共に高め合える仲間がいる)
冬弥:(世界すら目指せるような仲間が)
冬弥:……ふふ、頼もしいな
杏:ん? 店長からメッセージ……?
杏:あ! 冬弥冬弥! 店長が『今日は本当に助かったから、 今度焼肉をおごらせてほしい』って言ってるよ!
冬弥:何? しかし、さすがにそこまでしていただくわけには……
杏:もう、向こうがおごりたいって言ってくれてるんだから そこは気にしなくていいでしょ!
冬弥:そうか……せっかくの厚意だしな。 では、ありがたく受け取っておくとしよう
杏:ふふっ、そしたら今度、特上カルビ頼んじゃおうっと!
冬弥:俺は、ミスジを食べたいところだな
杏:え? ミスジってどこのお肉?
冬弥:牛の肩甲骨の下から腕の部分にある肉で、 いわゆる希少部位と呼ばれているんだが——