活动剧情

Time to take off!

活动ID:154

第 1 话:旅立ちの前に

ストリートのセカイ
広場
こはね・杏:『————♪ ————♪』
彰人・冬弥:『——————……♪』
冬弥:(……心地いい熱さだ)
冬弥:(みんなの歌声から、伝わってくる)
冬弥:(これから新しい世界に飛び込んでいく、静かな興奮が——)
冬弥:♪————————————!
ミク:——いいね。 今のラストへの盛り上がり
リン:わかるー! わくわくドキドキして、体が勝手に動いちゃう感じ!
KAITO:みんな、明日に向けて気合十分ってところかな
杏:いよいよ明日はアメリカに出発だね!
彰人:ああ。 大河さん達が出るイベント、どんな感じなんだろうな
こはね:やっぱり、日本のフェスみたいなのとは雰囲気が違うのかな
冬弥:今回はそこも含めて、現地で学んでこよう
ルカ:ねえねえ、イベントの勉強もいいけど、せっかくなら 観光とかショッピングとかも楽しんじゃおうよ!
彰人:いや、遊びに行くわけじゃないんで
冬弥:そうですね。長期の休みとかぶっているとはいえ、 学校を休むことになるので……
MEIKO:あら、そうなの?
こはね:はい。帰ってきたら、その分 補習と課題を頑張るって約束なんです
リン:ひゃ~、大変そう……!!
彰人:けど、少しくらい無理してでも行く価値があるからな
杏:うん! 海外の音楽イベントを見に行くなんて、 なかなかできないしね!
杏:でも……ちょっと悔しいな
ミク:悔しいって、何が?
杏:今回の旅費って、大河おじさんが出してくれるんだ。 ホテルの手配とか、そういうのも全部やってもらっちゃったし
彰人:それに現地でも、大河さんと謙さんのマネージャーが 世話してくれるって話だったな
レン:へえ、そうなんだ!
リン:すっごくいいじゃん! どうしてそれが悔しいの?
杏:んー……。 大河おじさんは、『こっちが招待したんだから当然だろ』 って感じだったんだけど……
杏:でも、だからって いつまでも甘えてられないなって思うんだよね
杏:だって、私達はライバルでしょ? ——『世界を獲る』って夢の
リン・レン:『あ……!』
彰人:……だな。 謙さんと大河さんのチームも復活したわけだし
杏:うん。でもいまだに、全然対等になれてないっていうか……
杏:『チャンスをやるからもっと育てよ』って 言われてるみたいで、悔しいなー!って
こはね:今までもずっと、支えてもらってばかりだもんね
彰人:……そうだな
杏:だから、もっともっと成長したいんだ。 おじさん達がびっくりするくらい!
杏:で、出世払いで今回のお金もちゃんと返す!
冬弥:出世払いか……そうだな。 成長して、いつか世界へ羽ばたいて—— 必ず今までの恩を返そう
こはね:うん!
レン:ねえねえ! 向こう——ニューヨーク、だっけ?
レン:あっちに着いたらさ、 オレ達も時々、スマホから覗いてもいい?
彰人:ん? まあいつも通り、バレないならな
レン:やったー! この前、冬弥からいろいろ聞いたから見てみたかったんだ!
レン:ニューヨークって、すっごい大きくて おもしろいものがたくさんあるんだよね?
冬弥:ああ。ニューヨークは世界有数の大都市で—— 世界中のミュージシャンが集まり、新しい音楽が生まれる場所だ
冬弥:音楽だけじゃなく、エンターテイメントや政治、 経済、ファッション……様々な分野に大きな影響を与える、 世界の首都とも呼ばれている
リン:へ~! わたしも見に行っちゃおっと!
KAITO:ボクも行ってみたいなあ。 ニューヨークはDJの聖地らしいし!
ルカ:あっ! 私はこの前雑誌で見た、 グラフィティでいっぱいの街が気になるかも!
ミク:……これ、誰から見に行くか決めておかないと 一気に詰めかけて大変なことになるんじゃない?
MEIKO:そうねえ……。 あとで、じゃんけんでもしてもらおうかしら
冬弥:(父さんのコンサートや、伝統のある音楽祭…… これまでにも海外に行ったことはあるが、 普段と違う環境で触れた音色は、どれも美しかった)
冬弥:(今回はどんな音楽に出会えるのか、楽しみだ)
冬弥:(……そういえば……)
スレイド:それじゃあ——アメリカで、待ってるよ!
冬弥:(今考えれば……まるで俺達がアメリカに行くことを 知っていたかのような口ぶりだったな)
冬弥:(気になることはあるが…… まずは目の前のことに、ひとつひとつ向き合っていこう)
冬弥の部屋
冬弥:パスポート、航空券、財布…… あとはコンセントの変換アダプターか
冬弥:(着替えや洗面用品はトランクに詰めてある)
冬弥:(あとは、貴重品を機内持ち込みの鞄に——)
冬弥:……ん? メッセージか。 一体誰から——
冬弥:…………!

第 2 话:兄からの電話

空港
杏:はあ……やっと出国審査が終わったー!
こはね:手荷物検査とか、ちょっとドキドキしちゃったな……。 私だけ止められちゃったらどうしよう、って
杏:わかる! 機内に持ち込んじゃダメなものとか、 冬弥に聞いておいて良かったよ
冬弥:そうか。たいしたアドバイスはできなかったが、 役に立ったのならよかった
彰人:搭乗開始まで……あと1時間くらいか
冬弥:……そうだな。搭乗ゲートからあまり離れなければ、 アナウンスがあるまで自由に過ごしていて大丈夫だ
彰人:特に見て回りたいとこがあるわけじゃねえし、 とりあえずその辺の椅子に座っとくか
冬弥:あ、ああ——
杏:そうだ! それなら、ガイドブック見て、 行ってみたい場所とか話さない?
彰人:は? それなら前に——
杏:音楽関係だけじゃなくて、 おいしいカフェとか観光地とか、いろいろあるじゃん
杏:遊びに行くわけじゃないけど、楽しむところは楽しまなきゃ!
こはね:ふふ、そうだね。 移動の途中で寄ったりもできそうだし
こはね:あ……ここの通りとか、 有名なカフェがあるんだって。 青柳くん、コーヒー好きだし行ってみない?
冬弥:カフェか……そうだな、ありがとう
彰人:……そんじゃ、休憩がてら寄ってみるか
杏:あ、そこ行ったら次は——
冬弥:(海外には、家族としか行ったことがなかったから——)
冬弥:(こういう和気あいあいとした雰囲気で 飛行機を待つのは、初めてだな)
こはね:……青柳くん?
冬弥:……! すまない、何か聞き逃していたか?
こはね:ううん。 青柳くんも、気になる場所があれば教えてほしいなって
冬弥:気になる場所、か……
冬弥:(それなら……)
冬弥:——ここだ
こはね:『ニューヨーク音楽院』……?
彰人:ん? ニューヨーク音楽院って……
冬弥:俺の兄が通っている音楽学校だ
杏:そういえば冬弥のお兄さん達って……ひとりはプロで、 ひとりはニューヨークの音楽院に通ってるんだっけ
こはね:ニューヨーク音楽院って、すごく有名なところだよね……?
こはね:世界的に見ても、すごくレベルが高い学校だって テレビで紹介されてたのを見たことがあるよ
冬弥:ああ。その認識で間違いない
彰人:……なんで、そこに行きてえんだ? お前、兄貴達と仲がいいわけじゃねえだろ
冬弥:…………
冬弥:たしかに兄さん達とは、長い間疎遠だった
冬弥:ふたりとも以前から海外で生活しているし—— 俺がストリート音楽を始めたことも、 決して良くは思われていないからな
彰人:…………
冬弥:だが昨日の夜——
冬弥:2番目の兄から、連絡が来たんだ
冬弥:……ん? メッセージか。 一体誰から——
冬弥:…………!
冬弥:(秋志兄さんから——?)
冬弥:……『今から少し話せるか』?
冬弥:(メッセージではなく、通話でということだろうか)
冬弥:(しばらく連絡もとっていなかったのに、なぜ……)
冬弥:(あれこれ考えていても仕方がない。 まずは、メッセージを返そう)
冬弥:(! かかってきた)
冬弥:——はい
秋志:『久しぶりだな、冬弥』
冬弥:お久しぶりです、兄さん
秋志:『いきなり連絡してごめんな。 母さんから、お前がニューヨークに来るって聞いたんだ』
冬弥:そうだったんですね。 ……それで、連絡をくれたんですか?
秋志:『………………。 本当は、顔を合わせて直接話したかったんだけどな』
秋志:『今ちょうど他の州で演奏会があって、 お前がいる間に戻れそうにない』
秋志:『だからこの機会に…… ちゃんと伝えておきたいと思ったんだ』
冬弥:…………?
秋志:『昔、父さんのことを相談された時——』
秋志:『お前の話をちゃんと聞いてやれなくて、本当に悪かった』
冬弥:…………え……
冬弥:……どうして…………
秋志:『俺も、夏臣兄さんも……父さんを尊敬してる』
秋志:『子供の頃、お前も父さんのピアノに憧れただろう?』
冬弥:……はい
冬弥:いつか自分で、あんな美しい音を鳴らせたら…… そう思ったのをはっきりと覚えています
秋志:『俺もそうだったよ』
秋志:『あの音に近づくためなら、厳しい練習にも耐えられた』
秋志:『だから、お前がクラシックをやめて ストリート音楽を始めたって聞いた時に思ったんだ』
秋志:『絶対に、いつか後悔する。 ——逃げ出した自分のことが、許せなくなるって』
秋志:『……お前達が配信してる動画を見たよ。 Vivid BAD SQUAD、だったか?』
冬弥:え……
秋志:『いい歌だった』
秋志:『それでわかったんだ。 お前は逃げたんじゃなくて——』
秋志:『本当に進みたい道を、見つけただけだったんだって』
冬弥:…………!
冬弥:……そう言ってもらえて、とても嬉しいです
冬弥:ただ、俺がストリートで歌い始めたのは、 父さんへの反抗がきっかけでした
冬弥:だからあの時、兄さん達に甘いと言われたのも…… 当然だと思います
冬弥:けど、それからは……
冬弥:信頼できる仲間ができて、叶えたい夢を見つけて——
冬弥:必死にあがく中で、父さんとも以前より きちんと向き合えるようになりました
冬弥:そして今は、新しい——大きな夢を追いかけるために、 世界を見に行こうと思っています
秋志:『…………』
秋志:『……そうか。 もし何か困ったことがあったら、いつでも連絡しろよ』
秋志:『地元の美味いレストランとかなら紹介できるし…… できる限り力になるから』
冬弥:ありがとうございます、秋志兄さん
冬弥:本当に……嬉しいです
秋志:『……俺も嬉しかったよ』
秋志:『お前が音楽を続けてくれてて——よかった』
彰人:……いい兄貴だな
杏:今回会えないのはちょーっと残念だけど せっかくだから、ニューヨーク音楽院ものぞいてみよっか!
冬弥:ああ。もし時間があれば、そうできると嬉しい
冬弥:(クラシックとストリート。進む道こそ分かれたが……)
冬弥:(兄さんの想いがわかって、本当によかった)
冬弥:——そろそろ搭乗ゲートが開く時間だな
杏:もうすぐ飛行機だね! なんかワクワクしてきちゃった!
彰人:ん? そういや……
冬弥:どうした、彰人?
彰人:お前、高いところ苦手だろ? 今まで海外行く時、どうしてたんだ?
杏:あっ、そういえば……!
冬弥:問題ない。 離陸したら、到着まで目を閉じてやり過ごす
彰人:到着までって……10時間以上あるぞ?
冬弥:今までも、それで乗り切ってきた
冬弥:………………なんとかなる、はずだ

第 3 话:トラブルは突然に

アメリカ ニューヨーク州
ホテル エントランス前
マネージャー:どうぞ。足元にお気をつけください
こはね:あ、ありがとうございます
杏:うわっ、すごいホテル……!
こはね:エントランスがきらきらしてるね……
杏:おじさんってば、こんな豪華なとこ予約してくれたんだ……
マネージャー:チェックインの手続きをしてきます。 少々お待ちください
杏・こはね:『はーい!』 『わかりました』
彰人:……冬弥、大丈夫か?
冬弥:ああ……だいぶ良くなってきた……
杏:んー。飛行機に乗ってた時より、 顔色はよくなったかな
こはね:無理はしないでね、青柳くん
冬弥:心配をかけてすまない。 途中までは順調だったんだが——
冬弥:着陸前に、 気になってつい目を開けてしまったのがいけなかった
こはね:あはは……でもつい見たくなっちゃう気持ち、わかるな
彰人:まあな
彰人:しかし、こうやって実際に街中に立つと、なんつーか……
冬弥:——心が震えるな
冬弥:これまでも、いろいろな国に行ったが……
冬弥:やはり、その国の土を踏んで、 実際に景色を目の当たりにした時の感動は大きい
冬弥:人の流れ、聞こえてくる雑踏の音や言葉、 そして街を包む空気——その全てが、鮮やかに感じられる
彰人:ああ。こうやって街中に立ってるだけで、 すげえ量の情報を浴びてる感じがする
杏:あ、わかる! 『肌で感じる』ってこういうことなのかも?
こはね:うん。 私達……本当に、アメリカに来たんだね
杏:んー、なんかテンション上がってきちゃった!
杏:部屋に荷物置いたら、近くのお店とか——って、あれ?
冬弥:どうした? 白石
杏:……なんか、様子が変じゃない?
彰人:変って、何がだよ?
杏:ほら、ホテルのカウンターのところ
杏:マネージャーさんとホテルの人が、 すっごい難しい顔でしゃべってる
こはね:あ……本当だね。 何かトラブルでもあったのかな……?
冬弥:ここからだと、詳しい話の内容までは聞こえないが……
杏:あっ! マネージャーさんが頭抱えちゃった
彰人:……嫌な予感しかしねえが……。 お、こっちに戻ってくるな
マネージャー:……皆さん、すみません。 少しお話があります
冬弥:——ホテルの部屋が予約できていない?
マネージャー:はい……本当に申し訳ありません
マネージャー:大河さんが自分の行きつけのホテルを予約したのですが…… その際に、日付を1カ月間違えていたそうで……
彰人:マジか……
杏:……あ! そういえば大河おじさん、 昔旅行に行った時もこういうことあった!
杏:温泉旅館に泊まるはずが、 結局山の中でテント張ってサバイバルみたいなことになって……
彰人:いや、どういう状況だよ
杏:とにかく大変だったの! おじさん、昔からそういうところ大ざっぱっていうか……
こはね:えっと、他の部屋を借りたりはできないんでしょうか?
マネージャー:残念ながら満室だそうです
マネージャー:近隣にあるホテルも、すべて調べてみたのですが……
冬弥:もうすぐ大河さん達が出演するイベントがある
冬弥:俺達のように、国外からイベントを見に来る人も多いだろう。 今から宿泊先を探すのは、難しいかもしれないな
冬弥:(……あと数時間で日が暮れる。 夜の街をあてもなく動き回るのは避けるべきだ)
冬弥:(こんな時、一体どうすれば——)
秋志:『……そうか。 もし何か困ったことがあったら、いつでも連絡しろよ』
冬弥:…………
冬弥:(演奏会を控えた兄さんに、迷惑はかけたくない)
冬弥:(しかし……)
数時間後
ニューヨーク音楽院 門前
彰人:ここで待ってりゃいいのか?
冬弥:ああ。迎えが来てくれるそうだ
マネージャー:私は、皆さんが無事に迎えの方と 合流できたのを見届けたら、 一度引き上げようと思います
マネージャー:明日以降のホテルが見つかり次第、 ご連絡させていただきますので……
冬弥:はい。お手数をおかけします
杏:それにしても、ちゃんと屋根のある場所で寝れそうでよかった~!
こはね:うん! 青柳くんのおかげだね
冬弥:いや……俺は特に何もしていない。 手配をしてくれたのは兄さんだからな
彰人:つっても、お前が兄貴に連絡取らなきゃ、 そもそも詰んでただろ
杏:そうそう! お兄さんにも、お礼言っといてもらっていい?
冬弥:ああ、わかった。あとで伝えておく
こはね:あ、そういえば……
こはね:迎えに来てくれるのは、青柳くんのお兄さんじゃないんだよね?
冬弥:ああ。秋志兄さんは、演奏会でまだ他の州にいるからな
冬弥:『信頼できる人に案内を頼んだ』と メッセージには書いてあったが……
???:『——やあ、よく来たね』

第 4 话:意外な名前

ニューヨーク音楽院 門前
???:『シュウジから話は聞いてるよ。 日本からの長旅、お疲れさま』
杏:あ、ちょっとだけ聞き取れた! シュウジって……冬弥のお兄さんだよね?
こはね:うん。あと、日本からの長旅お疲れさま……って
杏:ってことは、この人が……?
冬弥:ああ、兄さんが頼んでくれた迎えの人だろう
冬弥:『初めまして、俺は青柳冬弥といいます。 今夜は仲間と一緒にお世話になります』
???:『トーヤ! いい名前だね』
冬弥:(……話しやすそうな人だな)
冬弥:(年齢は、父さんと同じくらいだろうか? どこかで顔を見たような気もするが……)
???:『ああ、僕も自己紹介をしなくっちゃね』
ロイド:『僕はロイド・ホッパー。 この学院で講師をしてるんだ』
彰人:……ロイド・ホッパー?
杏:なーんか聞き覚えある気が……
こはね:あっ……!
こはね:えっと、『ジャズ・キャット』って映画で 劇中曲の作曲と演奏をしてた人が、同じ名前だったような……
杏:えっ……! それって去年、有名な映画の賞取ったやつ!?
彰人:……思い出した。映画の中で使われた曲がすげえ流行って、 行く先々でかかってたな
ロイド:『おや。もしかしてあの映画を知ってるのかな?』
冬弥:『はい。 日本でも上映されて、ロングヒットになりましたから』
ロイド:『ふふ、そう言ってもらえると嬉しいね。 日本にいる友人は、全然感想をくれないんだよ』
冬弥:『……それは、少し寂しいですね』
冬弥:(ロイド・ホッパーといえば、 世界的に有名なジャズピアニストのひとりだ)
冬弥:(映画音楽の他にも、クラシックの名曲をジャズの文法で 解釈したアルバムが話題になっていた記憶がある)
冬弥:『ニューヨーク音楽院は、 教員も著名な音楽家ばかりだと聞いていましたが…… まさか、こんなところでお会いできるとは思いませんでした』
冬弥:『しかし、わざわざ迎えに来ていただくとは……』
ロイド:『あはは、気にしないで! それに君達は運がよかったよ』
こはね:『運がよかった?』
冬弥:ああ。そういえばまだ、詳しい説明ができていなかったな
冬弥:俺達が今夜泊めてもらうのは、 ホテルではなくて—— ニューヨーク音楽院の学生寮なんだ
杏:えっ……!?
彰人:なんで待ち合わせが、音楽院の前なんだとは思ってたが……
こはね:で、でも……お兄さんがいる青柳くんはともかく、 私達まで泊めてもらっちゃって大丈夫かな?
杏:身内が音楽院にいるわけじゃないし、完全な部外者だもんね
冬弥:そこは心配ないそうだ
冬弥:ニューヨーク音楽院は、 普段から寮の空き部屋を観光客向けに貸し出しているらしい
冬弥:つい最近、学生の引っ越しで空いたばかりの部屋があって…… 自分達で掃除をする代わりに、無料で借りられることになったんだ
彰人:なるほどな。タイミングがよかったってわけだ
杏:掃除くらい、全然するする!
冬弥:(……まさかこういう形で、 ニューヨーク音楽院に来ることになるとは思わなかったな)
ロイド:『…………』
ロイド:『やっぱりトーヤは、彼に似てるねえ』
冬弥:『……? 彼、というと——秋志兄さんのことでしょうか?』
ロイド:『うんうん。たしかにシュウジにも似てるね』
ロイド:『でも、どっちかっていうと——』
ロイド:『ハルミチの若い頃にそっくりだよ』
彰人:おい。今言ったハルミチって……お前の親父のことだよな?
冬弥:ああ……
こはね:もしかしてロイドさん、 青柳くんのお父さんの知り合いなのかな?
冬弥:どうだろう。俺は知らないが…… 仕事関係で会ったことがあるんだろうか?
冬弥:(だが……)
冬弥:(仕事上の知り合いにしては、 かなり親しげな口調に聞こえた)
ロイド:『ん? 僕、何か変なこと言ったかな?』
こはね:『い、いえ。そういうわけじゃないんですけど……』
杏:『ロイドさんは、冬弥のお父さんと——』
杏:あー、ダメだ単語が出てこない!
冬弥:『……ロイドさんは、俺の父と知り合いなんですか?』
ロイド:『そうだよ! 僕はこの学院の卒業生でね。 ハルミチは同級生だったんだ』
冬弥:『同級生……?』
ロイド:『うん。とは言っても、半年だけだけどね』
ロイド:『ハルミチはウィーンの音大から、 ここニューヨーク音楽院に留学してたんだ』

第 5 话:裏通りの音楽

翌朝
ニューヨーク音楽院 カフェテリア
杏・こはね:『いっただきまーす!』 『いただきます』
杏:んー!  このチキンサンド、バーベキューソースが利いてておいしい!
こはね:ふふ、こっちのソーセージサンドもおいしいよ
こはね:青柳くんと東雲くんは、何を頼んだの?
冬弥:俺はコーヒーとベーコンエッグだ
彰人:オレはカフェオレとパンケーキ
彰人:焼くのに少し時間がかかるって言われたが——お
カフェの店員:『ご注文のパンケーキです』
冬弥:……これは……
彰人:…………デカいな
杏:う、うん。なんか迫力があるっていうか……
こはね:し、東雲くん! 写真撮ってもいいかな?
彰人:いいぞ。つーか、オレも一応撮っとくか
???:『うわっ! すっごいおいしそう!』
冬弥:ん? 今の声は……
レン:『こんな大きいパンケーキ、初めて見たかも!』
冬弥:レン……いつの間に?
レン:『へへ。気になって遊びに来たんだ~!』
レン:『ニューヨークって、ほんとに大きくてすごいとこだね!』
彰人:大きいってそういう意味じゃ—— いや、ある意味合ってんのか?
ミク:『レン……興奮して騒がないようにって言ったのに』
KAITO:『あはは。けど、気持ちはわかるなあ』
冬弥:ミク、カイトさんも……
KAITO:『やっほー! レンが遊びに行くって言うから、ついてきたんだ』
ミク:『どう? アメリカ旅行は』
冬弥:……そうだな。 どこから話したらいいか——
ミク:『……なるほど。いろいろ大変だったみたいだね』
レン:『でも、寮に泊めてもらえるなんてラッキーじゃん! 普通はなかなかできないことなんでしょ?』
冬弥:そうだな。貴重な経験だったことは間違いない
彰人:なんだかんだ、部屋もけっこう広くて快適だったしな
ミク:『ぱっと見た感じ、学校の敷地自体もかなり広そうだね』
冬弥:ああ。ニューヨーク音楽院は クラシックやジャズだけでなく、 かなり幅広い学部課程があるからな
冬弥:ポップスやロック、ワールドミュージック—— 他にもダンスやミュージカルなども学べるらしい
レン:『ワールドミュージックって、 いろんな国の音楽ってことだよな?』
こはね:うん。ロイドさん—— さっき話した学院の先生に教えてもらったんだけど……
こはね:日本の琴とか、三味線とかを専攻してる人もいるんだって
ミク:『すごいね。ほんとに幅広いんだ』
冬弥:ああ。そしてどの分野でも、 一流と呼ばれる音楽家を輩出している
冬弥:だから、兄さんが進路として選んだ時も 特に疑問には思わなかったんだが……
ロイド:『ハルミチはウィーンの音大から、 ここニューヨーク音楽院に留学してたんだ』
冬弥:……まさか、父さんも通っていたとは思わなかった
杏:ね。あれはびっくりしちゃったなー
彰人:お前の親父、旅行前に何も言ってなかったのか? さすがに、行先がニューヨークだってことくらい知ってんだろ
冬弥:ああ。許可をもらうために話をしたが…… 特には何も言っていなかった
冬弥:ここに寄る予定もなかったし、 わざわざ言うまでもないと思ったのかもしれない
彰人:なるほどな……
冬弥:(……詳細はわからないが——)
冬弥:(学生時代の父さんも、こんな風にカフェに座って、 朝の風景を眺めたりしていたんだろうか?)
冬弥:(……どうも、うまく想像できないな)
冬弥:(父さんはここで、どんな風に過ごしていたんだろう)
彰人:…………
レン:『そういえば、このあとはどうする予定なの?』
杏:ロイドさんに、学院の中を案内してもらうんだ!
こはね:ただ、ロイドさんは午前中は授業をやってるから 終わるまで待たないといけなくて
こはね:だからそれまで、どこかで時間をつぶしてようかなって 思ってるんだけど……
杏:どうしよっか? マネージャーさんに頼めば、 車も出してもらえるみたいだよ
彰人:……この辺をぶらつく、でいいんじゃねえか?
杏:この辺りを?
彰人:ロイドさんが言ってただろ。 『散歩にちょうどいい通りがある』って
冬弥:(あ……)
ロイド:『もし興味があれば、学院裏の通りを歩いてみるといいよ』
ロイド:『ハルミチも昔、よく散歩に行ってたんだ』
杏:……たしかに! せっかくだから行ってみよっか
こはね:うん!
冬弥:それはありがたいが……本当にいいのか?
杏:うん! 私達も興味あるしね
彰人:昨日はバタついてて周りを見る余裕もなかったし、 ちょうどいいだろ
冬弥:……ありがとう
ニューヨーク音楽院 裏通り
KAITO:『うわあ……! キレイな通りだね!』
レン:『標識がぜんぶ英語だ!』
彰人:おい。声のボリューム下げねえと見つかるぞ
ミク:『うーん……でも、案外平気そうかも?』
こはね:すごくにぎやかだもんね。 路上で演奏してる人達がいっぱいいて……
杏:お客さんっぽい人も多いね。 あの辺りとか、手拍子してすっごい盛り上がってる!
彰人:つーか、どこ見ても全部バラバラだな
レン:『バラバラ? どれもいい演奏だと思うけど……』
彰人:ああ、そうじゃなくてジャンルのことだ
彰人:クラシックとかポップスとか…… あとたまに民族音楽っぽいのも聞こえてくるだろ
冬弥:楽器もチェロにトランペット、 ギター、アコーディオン……あっちはハープか
冬弥:(足を進める度に、いろいろな音が聞こえてくる)
冬弥:(……父さんが、こういう場所に通っていたというのは意外だな)
冬弥:(クラシック一筋だから、他の音楽には あまり興味がないと思いこんでしまっていたが……)
ミク:『あのおじいさんのギター、かっこいいね』
レン:『うん。なんか、ギターが語りかけてくるみたいだ』
杏:あっ! あの子達、お菓子の缶を叩いて演奏してる!
こはね:ふふ、ほんとだ。すっごく楽しそうだね
冬弥:…………
冬弥:(楽しそう、か)
冬弥:(目に映る景色も、演奏の内容も違う)
冬弥:(しかし、この通りは——)
冬弥:……少し、ビビッドストリートに似ているな
レン:『ビビッドストリートに?』
杏:あ、それ! 初めて来たのに、 なんかこの感じ知ってるなって気がしたんだよね
こはね:うん……! 雰囲気が似てるね!
彰人:だな。そこら中に音楽があって、 全員がそれを楽しんでるっつーか——
冬弥:人々のすぐ傍に、当たり前のように音楽がある。 そこが似ていると感じるのかもしれない
冬弥:——いい場所だな、ここは

第 6 话:昔の話

数時間後
ニューヨーク音楽院
ロイド:『——そうか。あの通りに行ってきたんだね』
ロイド:『どうだった? 感想は』
冬弥:『とても活気があって、いい刺激をもらえました』
ロイド:『それはよかった! 君達も音楽をやってるなら、きっと気に入ると思ったよ』
冬弥:(音楽……)
冬弥:『……あの通りは、父さんが留学していた頃から ああいう雰囲気だったんでしょうか?』
ロイド:『そうだよ。 音楽院の傍ってこともあって、自然とね』
ロイド:『——ふふ。 ハルミチのイメージからすると、意外だったかな?』
冬弥:『……はい。正直、少し驚きました』
冬弥:『俺の知る限り、父は昔からクラシック一筋だったので』
冬弥:『ああいう、様々な音楽が演奏されている場所には あまり興味がないのかと……』
ロイド:『……ふむ。そうだな』
ロイド:『よければちょっとだけ、昔話をしてもいいかい?』
冬弥:『昔話?』
ロイド:『うん。 昔、この音楽院にいたふたりの学生の話だよ』
冬弥:『——聞いてみたいです』
ロイド:『じゃあ、聞いてもらおうかな』
ロイド:『ゆっくり話すけど、 もし聞き取りづらいところがあれば教えてくれるかい?』
彰人:『……ありがとうございます』
杏:『リスニングの勉強にもなりそうだし、頑張ります!』
ロイド:『よし。 じゃあ君達からすれば、むかーし昔……』
ロイド:『このニューヨーク音楽院に、ひとりの留学生がやってきたんだ』
ロイド:『もともとこの学院にいるのは、音楽に人生を捧げた者ばかり』
ロイド:『誰もが日々の練習に没頭し、 ただただ上を目指して、演奏の腕を磨き続ける——』
ロイド:『そんな中でも、その留学生の奏でる音色は際立っていた』
冬弥:(……その留学生が、父さんか)
ロイド:『専攻であるクラシック以外の学部にまで、 留学生の噂は聞こえてくる』
ロイド:『噂を聞いた、ジャズピアニストの卵はこう思った』
ロイド:『——なんて面白そうなんだろう! 彼と音楽の話ができたら、きっと楽しいに違いない』
ロイド:『けれど、留学生と話すのはそう簡単ではなかったんだ』
冬弥:……?
ロイド:『留学生は、とてもストイックでね』
ロイド:『ほとんどの時間は練習室にこもってるか、 図書館でクラシックに関する本を読みふけってるかで……』
ロイド:『いくら話しかけても、 練習があるからと相手にしてもらえなかったんだ』
杏:『えっと、それは……』
こはね:『……仲良くなるのが難しそうですね』
ロイド:『そうなんだよ! まるで取りつく島がない、って感じだったな』
ロイド:『けど、ある日——』
ロイド:『なんと留学生が、 自分のほうからジャズピアニストに話しかけてきたんだ』
彰人:あー……話しかけてきた、って言ったか?
杏:そうだと思う。えっと…… 『なにか、きっかけがあったんですか?』
ロイド:『うん。ちょっとした思いつきだったんだけど……』
ロイド:『留学生が練習してたクラシックの曲を、 ジャズアレンジして弾いてみたんだ。 ほんのイタズラ心さ』
冬弥:…………!
冬弥の父:この曲は、作曲者が家族に贈った練習曲だ。 決して幸せではない渦中で、彼がどんな願いを込めたか…… その心情がわかっていれば、そんな弾きかたは選ばない
冬弥の父:冬弥、お前は楽譜を本当に読みこんだのか? そこには、別の楽章の旋律が同じ音型で引用されている。 その意図をよく考えるんだ。もう練習はいい、楽譜を読みなさい
冬弥:(父さんは楽曲分析を重視し、 作曲者が音楽にこめた純粋な意志を追求する人だ)
冬弥:(だからこそ、作曲者が意図しないアレンジや アドリブを嫌っていたはず……)
冬弥:『その留学生は……どんな反応をしたんですか?』
ロイド:『…………』
学生時代の春道:『……終盤の転調が特に美しかった』
学生時代の春道:『さっきの演奏について、詳しく話が聞きたい』
ロイド:『そこから少しずつ、雑談なんかもするようになってね』
ロイド:『それでようやくわかったんだ』
ロイド:『留学生——ハルミチは、クラシックに一途だけど、 他のジャンルの音楽も大好きなんだって』
冬弥:……!
彰人:は——?
冬弥:(父さんが……?)
冬弥:(いや、しかし……)
彰人:……信じられねえ。なんかの間違いじゃねえのか?
彰人:クラシック以外の音楽なんて眼中にねえって態度だから、 あれだけ冬弥と揉めたんじゃ……
こはね:し、東雲くん。日本語になっちゃってるよ
杏:でも、今のは聞かれなくて正解かも? ロイドさんは、冬弥のお父さんの友達なわけだし……
冬弥:『……俺が、ストリートで歌い始めた時……』
冬弥:『父さんからは、猛反対をされました』
冬弥:『あんなものは子供の遊びで、なんの価値もないと……』
ロイド:『…………。 僕達の時代、ストリート音楽は まだまだ新しい音楽だって印象が強かった』
ロイド:『粗削りで、未完成で……その分、熱量がある』
ロイド:『自分達の音を聞け!って感じで、 周りに噛みついていきそうな勢いがあってね』
ロイド:『実際、素晴らしい音楽も多かった。 逆に、そうではないものも同じくらい多かったけど』
ロイド:『そんな頃、ハルミチと一緒に街を歩いてた時…… ストリートで歌ってる人達に絡まれたことがあるんだ』
冬弥:『絡まれた?』
ロイド:『うん。彼らは、自分達以外の音楽を馬鹿にしていた』
ロイド:『自分達の音楽が一番で、それ以外は価値がない——』
ロイド:『特に、クラシックへの当たりは厳しかったな。 そんな古くさい音楽をやってて楽しいのか?ってね』
こはね:……そんな……
杏:自分達が一番、って……えっと、 『その人達、そんなにうまかったんですか?』
ロイド:『いや。残念ながら、お世辞にもそうは言えなかったな』
ロイド:『ハルミチは、すごく怒ってたよ。 ここからは僕の想像だけど——』
ロイド:『あの時の印象が強すぎて、 ストリート音楽をあまりよく思えないのかもしれない』
ロイド:『でも…… ハルミチがクラシック以外の音楽も好きだったのは、本当だよ』
冬弥:(……知らなかった。 そんなことがあったのも、父さんの考えも)
冬弥:(ずっと、父さんはクラシック以外 認めていないんだとばかり……)
冬弥:………………
冬弥:俺は——
冬弥:父さんについて、知らないことばかりだ

第 7 话:知りたいこと

ニューヨーク音楽院
彰人:……なんつーか、かなり意外だったな
冬弥:ああ。少し……驚いた
冬弥:『——ロイドさん』
冬弥:『ロイドさんの目から見た父は、どんな学生でしたか?』
ロイド:『どんな学生か……そうだなあ』
ロイド:『さっきも言ったみたいに、ストイックで真面目で——』
ロイド:『あと、ものすごい頑固者?』
杏:んー? 今の、なんて?
こはね:ふふ、頑固者だって
杏:『あー、ちょっとわかる!』
彰人:冬弥の話聞いてると、マジで頭固そうだからな
ロイド:『あはは。僕も人のことは言えないけどねえ』
ロイド:『音楽については、やっぱり譲れないこともあるし 頑固になっちゃうから』
ロイド:『だけど——』
ロイド:『ハルミチは、本当に尊敬できる音楽家だった。 一緒に演奏をしてると、学ぶところばかりだったよ』
冬弥:『一緒に演奏を……?』
ロイド:『そう。お互いのジャンルを交換したり、 たまに全然別のことをやったりね』
ロイド:『専攻と違うものをやることで、 普段の自分の演奏を客観視できたり——』
ロイド:『新しい表現方法を掴むきっかけになったりもするんだ』
冬弥:『……なるほど。 たしかに勉強になりそうですね』
冬弥:(とはいえ、簡単にできることじゃない)
冬弥:(俺がストリート音楽を始めた時も、 クラシックでついた癖に引っ張られてしまった)
冬弥:(父さん達のようにレベルの高い音楽家だからこそ できたことかもしれないな)
ロイド:『せっかくだから、トーヤ達も体験してみるかい?』
冬弥:え……?
こはね:体験してみる、って……
ロイド:『ほら。 ちょうど中庭でセッションをしようとしてる子達がいるんだ』
ロイド:『おーい!』
生徒A:『ん? ロイド先生が呼んでる?』
生徒B:『一緒にいるの、見学の子達かな?』
ロイド:『みんな、これからセッションかい?』
生徒A:『はい。午前の授業も終わったし、ちょっと息抜きに』
冬弥:(バイオリン、チェロ、サックス…… この辺りは一般的なセッションでもよく見かけるが——)
杏:……すごいね。見たことない楽器がたくさんある
こはね:うん……あの、銀色のお鍋みたいのはなんだろう?
冬弥:おそらく、スティールパンだ。 前に本で読んだことがある
冬弥:ドラム缶で作られた楽器で、 叩く位置によって音階が変わるらしい
杏:へえ……!
彰人:これ全部でセッションすんのか……? 想像つかねえな
冬弥:……ああ
冬弥:(しかもさっきロイドさんは、『体験してみるか』と言った)
冬弥:(つまり——)
ロイド:『よければ、この子達も交ぜてあげてくれないかな? 担当はボーカルで』
杏:えっ……!?
生徒B:『私達はいいですよ』
生徒C:『今日はボーカルいないし、ちょうどいいかも~』
杏:えっと、一緒にやるのは面白そうだけど……
彰人:……即興で合わせられるかっつーと……いけんのか?
冬弥:(たしかに、ストリートならともかく…… 今回はジャンルを越えた即興だ)
冬弥:(どんなパフォーマンスをするべきか、想像すら……)
ロイド:『……ハルミチも昔、 こういうセッションに参加したことがあるんだよ』
冬弥:『……! そうなんですか?』
ロイド:『うん。初めて会った時からずっと、真顔か ちょっと不機嫌そうな表情しか見たことがなかったんだけど』
ロイド:『セッションのあと、初めて—— 本当に楽しそうな笑顔を見せてくれたんだ』
冬弥:『父さんが……』
ロイド:『あれは、本当にびっくりしたな』
冬弥:(……それだけの何かが、 このセッションにはあるということか)
冬弥:(なら——)
冬弥:俺も、やってみたい
彰人:冬弥……
冬弥:……アメリカに来てわかった。 俺には、知らないことがたくさんある
冬弥:子供の頃に経験できなかったことだけではなく——
冬弥:ずっと憧れていた父さんの演奏…… その裏にあるものすら、 本当の意味では理解できていなかった
冬弥:だから、知りたい。 セッションを通して父さんが何を感じたのか……
冬弥:どんな風に、音楽と向き合っていたのかを
彰人:……いいんじゃねえか?
彰人:せっかくアメリカまで来たんだ。 やれそうなことは全部やらねえとな
杏:うん! これも絶対、いい経験になるよ!
こはね:やってみよう、青柳くん
冬弥:……ありがとう、みんな

第 8 话:きっと、同じ場所を目指して

冬弥:『——お待たせしました。 声出しが終わったので、いつでもいけます』
生徒A:『オッケー! じゃあ、まずは軽く歌ってみてくれるかな』
生徒A:『メロディーがわかったら、こっちも適当に入ってくから』
冬弥:『わかりました』
冬弥:(……ストリートで歌うのとは違う緊張感だ)
冬弥:(今までに身に付けてきたものが、通じるのかもわからない)
冬弥:(だが——)
こはね・彰人:『♪————————!』
冬弥・杏:『♪————!   ♪————~~!』
生徒達:『………………』
ロイド:『……へえ』
冬弥:(……! チェロとサックスの音が加わった)
彰人:(1回聴いただけで、 ここまで正確に合わせてくんのか……!?)
生徒C:『いいねえ~。バッチバチに熱くて、アガる感じ』
生徒B:『でも、もう少し肩の力抜いてもいいかも? ほら、こんな感じで——』
こはね:(どんどん他の楽器が入って、曲調も変わってく)
杏:(さっきまでジャズだったのに、今度はラテン調?)
杏:(これで即興って、嘘でしょ……!?)
冬弥:(ケーナ、アコーディオン、ニ胡にマンドリン)
冬弥:(ルーツの違う楽器達が、 ここまで違和感なくセッションできるのか)
冬弥:(しかも……)
彰人:(わけわかんねえくらい、歌いやすい)
彰人:(何も考えなくても、 いつの間にか演奏に乗せられてる)
こはね:(きっと……私達が歌いやすいように演奏してくれてるんだ)
こはね:(じゃあ——)
杏:(もっと、ギア上げなきゃね)
杏:(ここにいる全員を 最高な気分にさせちゃうくらい、もっと——!)
冬弥:♪——————!
冬弥:(……不思議だ)
冬弥:(だんだん、頭の中が白くなってくる)
冬弥:(自分とそれ以外の境目が溶けて、ただ音で満たされて——)
冬弥:(扉が、開いていく)
杏・こはね:『————~~♪  ——————♪』
冬弥・彰人:『♪——————!!』
生徒A:『あはは、今のリズムフェイク最高! それなら今度は——!』
冬弥:(……わかる)
冬弥:(相手のやりたいことが、伝わってくる)
こはね:(歌に乗せたら、応えてくれる)
こはね:(やりたい方向へ、一緒に走ろうって)
彰人:(正解かどうかなんて、考えんな)
杏:(全部、音が教えてくれる——!)
冬弥:はぁ……はぁ……
彰人:……今の……
杏:うん……うまく言えないけど……
こはね:……すごく……
こはね:すごく楽しかった……!
ロイド:『みんな、お疲れさま!』
ロイド:『すごいね。まさか初めてのセッションで、 ここまでの演奏が聴けるとは思わなかったよ』
冬弥:『ロイドさん……』
ロイド:『どうだった? トーヤ』
ロイド:『ハルミチが何を感じたか、わかったかな?』
冬弥:………………
冬弥:(先ほどセッションをしたメンバーのことを、 俺は何も知らない)
冬弥:(どんな気持ちで、彼らが音楽に向き合っているのかも)
冬弥:(それでも……不思議と、伝わってくるものがあった)
冬弥:(きっと、それは——)
冬弥:(クラシックとストリート。進む道こそ分かれたが……)
冬弥:(兄さんの想いがわかって、本当によかった)
冬弥:『俺はたぶん……無意識のうちに、 音楽をカテゴライズしていたんだと思います』
ロイド:『カテゴライズ?』
冬弥:『はい。 クラシックかストリートか……それ以外か』
冬弥:『クラシックとストリートには、たしかに違いがあります。 それ以外のジャンルの音楽にも、それぞれの技法や流儀がある』
冬弥:『けれど……』
冬弥:『音楽をやっている人間が目指すところは、 本当は一緒なんじゃないかと…… さっきのセッションを通して感じました』
冬弥:(セッション中に感じた、頭の中が白くなって、 音で満たされるような感覚——)
冬弥:(音楽だけで、すべてが通じ合うような—— あの感覚は、忘れられそうにない)
冬弥:『……父さんが同じことを感じたかどうかは、 わからないですが』
ロイド:『そっか。 じゃあ、いつかハルミチと答え合わせしてみるといいよ』
ロイド:『僕は多分、いい線行ってると思うけどね?』
生徒A:『最後のほうのアドリブ、めちゃめちゃよかったよ!』
生徒B:『ねえ、もう1回やらない? 今度は違う曲で!』
彰人:だいぶ早口だが……言われてる意味は、なんとなくわかる
こはね:ふふ、そうだね
杏:『みんなの演奏も、すっごくすっごーくよかったです!』
ロイド:『あはは、すっかり人気者だね』
ロイド:『みんなにとっても、いい刺激になると思うから。 もう少し付き合ってあげてもらえるかな』
冬弥:『はい、もちろんです』
生徒B:『やった~!』
冬弥:『あの……ロイドさん。 ひとつだけ、聞いてもいいですか?』
ロイド:『なんだい?』
冬弥:『初めて出会った時、ロイドさんは俺が 父さんの若い頃に似ていると言っていましたが……』
冬弥:『俺と父さんは、そこまで似ていますか?』
冬弥:『今まで周りから、あまり言われたことがなかったので……』
ロイド:『そうだねえ……』
ロイド:『すごく冷静そうで、 あんまり感情が表に出ないところとか——』
ロイド:『その奥に、音楽への愛があるところが、 すごく似てるなって思ったよ』
こはね:冷静そうだけど、音楽への愛がある、か……
こはね:ふふ、たしかに青柳くんだね
彰人:だな。そう言われると、間違いなく似てる
冬弥:『……ありがとうございます。ロイドさん』
冬弥:(父さんも兄さんも、そしてここにいるみんなも。 『音楽』という道の先で見つけたいものは、 同じなのかもしれない)
冬弥:(それに音楽は、きっと俺が考えていた以上に自由だ)
冬弥:(だから……クラシックやストリートだけじゃなく、 他の音楽の良さも学んで、取り入れていこう)
冬弥:(きっとそれが、俺の目指したいストリート音楽だから)