活动剧情
Choices for the future
活动ID:164
第 1 话:心躍る舞台
森ノ宮歌劇団 劇場
剣士:『この剣さばき……! 貴様、単なる鬼ではないな!?』
鬼:『——はっ、過去などとうに忘れたな!』
えむ:(うわわわわ……! 刀がシュパパパーってしてる!)
えむ:(ひらひら踊ってるみたいなのに、 ずしーんって感じもして——)
司:(……凄まじい迫力だな)
司:(三日月組で殺陣を経験したからこそ、わかる。 この速さで正確に打ち合うのが、どれだけ難しいか)
類:(この躍動感は、演出の力も大きいだろうな)
類:(衣装の翻り方まで、完璧に計算されているのがわかる)
寧々:(歌もすごいな。女性だけの『鈴蘭組』は 華やかさが魅力だけど……こっちは、すごく力強い)
寧々:(男性だけで構成されてるっていうのもあるだろうけど、 それだけじゃない。全体のレベルがものすごく高くて……)
えむ:(すごい……)
えむ:(これが『桔梗組』の舞台なんだ……!!)
えむ:わああああ~~……
司:……素晴らしい舞台だったな……
寧々:うん……最後に剣士と鬼が桜の下で別れるところ。 切ないけど、またどこかで会えそうな感じもあってよかったな
類:ああ。観客の中には泣いている人もいたね
類:はじめは憎み合い、死闘を繰り広げていたふたり…… 苛烈な戦いの場面を見事に表現したからこそ、 あのラストが胸を打つんだろう
えむ:うんっ! 剣士さんと鬼さんの気持ちが、お客さんにも届いたんだね!
えむ:(……でも……)
えむ:(なんでだろ? お客さんが少なかったような……)
えむ:(こんなにいい舞台なのに、もったいないな)
司:……む。つい話が弾んでしまったが、 いつまでも居座っているわけにはいかんな
司:しかし、まだまだ話し足りん。 このあとはどこか店に入って、感想会をするのはどうだ?
えむ:さんせーいっ!
類:それなら、駅前のファミレスはどうだろう?
寧々:いいんじゃない? ちょうどお腹もすいたし
司:よし。では……移動するとするか!
ファミリーレストラン
司:ふぅ……。 思う存分、心ゆくまで語れたな
えむ:うん! みんなの好きなシーンとか、 いっぱい聞けて楽しかった~!
寧々:わたしも。 ……なんか、こういう時間って久しぶりだな
司:うむ! オレと類は男子部、寧々は女子部、 そしてえむは運営——修行中は別行動だからな
寧々:そういえば、男子部は今何やってるの?
類:最近まではタップダンスをやっていたね。 今度のレッスンは日本舞踊だそうだよ
えむ:おお~! かっこいい!
えむ:ほんとにいろんなことを勉強させてもらえるんだね!
類:そうだね。ただ……
えむ:ただ?
類:なんというか……少し周りが慌ただしい気がしてね
類:レッスンを担当してくれる人が、 よく入れ替わるようになったんだ
えむ:そうなんだ……
寧々:こっちはそういうことはないんだけど…… なんでだろう?
司:理由はわからんが…… オレはいろいろな人から教われて嬉しく思うぞ
司:同じことでも、教える人によって 大切にしているものが違うからな。 さまざまな観点から学べるだろう?
寧々:あ……たしかに、それはプラスかも
えむ:たい焼きも、お店によって ちょっとずつ味が違って全部おいしいもんね!
類:フフ、そういうことだね
寧々:えむのほうは? 舞台の制作進行とか企画とか、 聞くたびにやってることが違うけど
えむ:えっとね、最近は運営にかかるお金のことを 教えてもらってるんだ
えむ:働いてくれてる人へのお給料とか、 施設をメンテナンスするためのお金がいるのは フェニックスワンダーランドと同じだけど——
えむ:森ノ宮の舞台は、お客さんに“非日常”を体験して ほしいから、舞台道具とか衣装にもすっごく力を入れてるんだって
司:なるほど……。 企業として大事にしたいことによって、 その辺りの割合が変わってくるわけだな
えむ:うん。難しいけど、おもしろいよ!
類:運営での勉強は、得るものが多いみたいだね
えむ:えへへ。森ノ宮でも、フェニックスワンダーランドでも…… キラキラな笑顔を作るために、 たくさんの人が頑張ってるんだなって
えむ:えーい!って飛び越えなきゃいけないこととか、 むむむって悩んじゃう問題もあるけど……
えむ:そういうのを一緒に考えて、 解決できる人になりたいから
えむ:今、すっごくやりがいがあるんだ!
寧々:そっか……
えむ:えへへ、あとねあとね!
えむ:経営のお仕事についても教えてもらってるんだけど、 この前——あ
寧々:……? どうしたの?
えむ:えっと……。 経営のお仕事、で思い出したんだけど——
えむ:この前、不思議な子がいたの!!
司:不思議な子……って、どういうことだ?
えむ:えっとね、経営者の人達が大事なお話をする 会議室があるんだけど……
えむ:そこから、あたし達と同い年くらいの女の子が出てきたんだよ!
司:会議室から?
寧々:それって……その子も会議に参加してたってこと?
司:しかし、オレ達と同い年くらいで経営に関わるなんて、 できるのか?
類:えむくんのような例もあるだろうけれど、 そんな人がいれば、もう少し話題になっていていい気もするね
類:……森ノ宮の生徒であれば もう少し詳しく事情を知っているのかな
寧々:……ちょうどいいタイミングかも
えむ:ほえ?
寧々:えっと……実はみんなに紹介したい人がいるんだ
寧々:女子部の生徒で、 わたし達の劇団に興味を持ってくれてるみたいで……
寧々:もしかしたら、その子の話も聞けるかもだし。どうかな?
第 2 话:謎が解けるとき
数日後
フェニックスワンダーランド
司:おお! 類、どうやらオレ達が一番乗りのようだな!
類:そうだね。待ち合わせの時間まで、あと——
えむの声:とーーーーーーーーうっ!!
えむ:司くん、類くん、お待たせっ☆
類:やあ、えむくん。お疲れさま
司:待て待て待てーい! なぜ木の上から飛び降りてくる!?
えむ:えへへ♪ 学級委員のお仕事で ちょっと遅れちゃいそうだったから、近道してきたんだ!
司:木の上はそもそも道ではない!! まったく……
司:そこまで急がずとも、寧々達もまだ来ていないぞ
類:フフ。待ち合わせまでまだ10分ほどあるからね
えむ:そっか! 間に合ってよかった~!
えむ:寧々ちゃんが紹介してくれるお友達、どんな子かなあ
司:たしか……白虎町、だったか? このワンダーランズ×ショウタイムに興味を持つとは、 なかなか見る目があるな!
類:とても勉強熱心な人ではあるみたいだね
類:今回、顔合わせの場所に フェニックスワンダーランドを希望したのは、 後学のためにナイトショーを見てみたいからだそうだし
えむ:えへへ☆ ナイトショー、楽しんでもらえるといいなあ!
えむ:——あ!
寧々:みんな、お待たせ!
???:——やあ。君達が、草薙さんの仲間だね
白虎町:はじめまして。私は白虎町涼という者だ。 今日は貴重な機会をありがとう
白虎町:草薙さんからワンダーランズ×ショウタイムの話を いろいろと聞かせてもらってね。 ぜひ一度、会ってみたいと思っていたんだ
えむ:…………あ
寧々:え?
えむ:この子だーーーーーーーーーー!!!!
白虎町:な、なんだ……?
白虎町:——なるほど。 会議室から出てきた私を見かけた、と……
えむ:うんっ! 遠くからだったけど、背筋が綺麗にピシーッてしてたんだ!
えむ:あれって、涼ちゃんだよね?
白虎町:…………涼ちゃん
寧々:え、えむ。いきなりその呼び方は……
白虎町:いや、かまわない。少し驚いただけだよ。 普段私をそんな風に呼ぶ人はいないから
白虎町:名字でも名前でも、鳳さんの好きに呼んでくれ
えむ:ありがとう、涼ちゃん!
白虎町:ああ、話の腰を折ってすまない。 さっきの話の続きだが……
白虎町:たしかに鳳さんが見かけたのは、私で間違いない。 日付が、経営会議に参加していた日と一致しているからね
白虎町:しかし……
白虎町:——できれば、このことは なるべく内密にしてもらえると助かるよ
白虎町:学園では役者として、先入観なく接してほしいからね
寧々:う、うん。わかった……!
類:それにしても、学生の身で 森ノ宮の経営に関わるなんて……すごいですね
白虎町:そうだね。 おじい様には、とても貴重な機会をもらっていると思う
寧々:おじい様?
白虎町:ああ。森ノ宮歌劇団の理事長は——私の祖父なんだ
寧々:えっ——
えむ・司:『理事長さん!?』 『理事長!?』
類:森ノ宮の現理事長というと…… たしか元は、著名な実業家だったね
類:さまざまな大企業の社長や取締役を経て、 森ノ宮の理事長に就任した……と本で読んだことがあるよ
白虎町:その通り。 若い頃は経営の鬼と恐れられるくらい、厳しい人だったそうだ
白虎町:けれどそんな祖父も、理事長職に就く前から ずっと森ノ宮のファンでね
白虎町:私も子供の頃から、祖父に連れられて、 一緒に舞台を見に行っていたんだ
えむ:おじいちゃんと……
白虎町:……森ノ宮の舞台を見て、そのまぶしさに憧れて。 あの光の中に立ちたいと思った
白虎町:家族はどちらかというと、 私を経営の道に進ませたがっていたけれど…… 祖父だけは『両方やってみればいい』と言ってくれたんだ
白虎町:最初はただ会議の場に同席して聞いているだけだったが、 少しずつ企画や広告について 意見をさせてもらうことも増えてきた
司:そういえば最近、森ノ宮のSNSでチケット購入と 連動したキャンペーンが話題になっていたが……
白虎町:ああ、あれは私が提案させてもらったものなんだ。 若者が森ノ宮の舞台に興味を持ってくれるには、 どうしたらいいかと考えてね
えむ:す……………………
えむ:すごいよ、涼ちゃん!!!
白虎町:えっ?
えむ:あのね、あたしも今、経営のことを勉強してるの!
えむ:フェニックスワンダーランドは、 おじいちゃんが作った遊園地なんだけど……
えむ:この場所をお客さんの笑顔でいっぱいにするには、 どうしたらいいんだろうって!
白虎町:おじい様が……? ということは、やはり『鳳』という名字は——
寧々:うん。わたし達も時々忘れそうになるけど……。 えむは鳳グループのお嬢様なんだ
白虎町:——そうだったのか。 だから君も、経営の勉強を……
えむ:うんっ!
えむ:でも、あたしのアイディアはお兄ちゃん達に 『現実的じゃない』って言われちゃうことも多いんだ
えむ:前にフェニックスワンダーランドのお客さんが 減っちゃって、なんとかしなくちゃってときも、 うまく考えられなくて……
えむ:だからね——
えむ:森ノ宮の人達と一緒に、ちゃんと夢と現実の 両方を考えられる涼ちゃんのこと、 とってもとってもすごいって思う!
えむ:あたしも早く、そんな風になれるように がんばらなくちゃ!って思ったよ
白虎町:私のように、か……
えむ:……涼ちゃん?
白虎町:……いや。なんでもないよ
来園者:パパー! ナイトショー始まっちゃうよー!
寧々:あ……
類:随分と立ち話をしてしまったね。 そろそろ、ショーが見やすい位置に移動しようか
司:うむ、そうだな!
白虎町:私達も行こうか、鳳さん
えむ:あ……うん……
えむ:(さっきの……)
えむ:(涼ちゃん、ちょっとだけ……悲しそうだった……?)
第 3 话:思わぬ問題
翌日
森ノ宮歌劇団 廊下
運営社員:ありがとうございます、鳳さん。 備品の片づけまで手伝っていただいて……
運営社員:かなり量があったので、おかげで助かりました
えむ:大丈夫です! あたしも総務のお仕事の勉強になったので!
えむ:他にもお手伝いできることがあったら、 なんでも言ってくださいっ!
運営社員:あら……ふふ。 なんだか、いつにも増してやる気いっぱいですね
運営社員:今日はもうあがっていただく時間ですが、 また明日、よろしくお願いします
えむ:わかりましたっ! お先に失礼しまーす!
運営社員:はい、お疲れ様でした
えむ:(総務のお仕事って、本当にいろいろあるんだなあ)
えむ:(会議のお手伝いとか、施設の備品の管理とか、 会社によっても違うみたいだけど……)
えむ:(よーし、家に帰ったら、今日メモしたことを もう一回読み直そうっと!)
えむ:(……涼ちゃんは、どんな風に経営の勉強をしたんだろう)
えむ:(今度会ったら、聞いてみようかな)
えむ:………………あれ?
えむ:さっき、こんなところ通ったっけ……?
えむ:あれ? あれれれ?
えむ:あたし、どっちから来たんだっけ??
えむ:……どうしよう。 いろいろ考えながら歩いてたから、 道を間違っちゃったのかも……!!
えむ:ええええっと、じゃあこっちの道は——
えむ:(あれ? あそこにいるのって……)
白虎町:本日はお時間をいただき、ありがとうございました
役員:ああ、構わないよ。それにしても……
役員:桔梗組の解体の件は、残念だったね
えむ:(え…………?)
白虎町:…………
役員:あまり気を落とさずに。 組織を長く運営していく中では、こういうこともあるさ
白虎町:お心遣い、ありがとうございます
役員:また何か相談に乗れることがあれば言ってくれ。 では、私はこれで
白虎町:はい
白虎町:こういうこともある、か……
えむ:(………………桔梗組が、解体って…………)
えむ:(どどどどういうことだろう!? あたし達、この前公演を見に行ったばっかりだし……)
えむ:(でも……)
えむ:——涼ちゃん
白虎町:…………!
白虎町:鳳さん? どうしてここに……
えむ:えっとね、備品の片づけしてたら、 迷子になっちゃって
えむ:それでね、さっきの……! えっと……
白虎町:……少し、場所を変えようか
白虎町:ちょうど今の時間、ここのレッスンルームは使われていないんだ
白虎町:それで……鳳さんには、先ほどの会話が聞こえていたんだね?
えむ:ごめんなさい!!
えむ:立ち聞きするつもりはなかったんだけど……
えむ:でも——桔梗組が解体されちゃうって、本当?
白虎町:ああ。先日、上層部の会議でそう決定された
白虎町:——まだ正式な通達はされていないんだ。 だからこのことは他言無用でお願いしたい
えむ:どうして……? 桔梗組の舞台は、あんなにキラキラしてるのに……
白虎町:そうか。鳳さんは、桔梗組の舞台を見に行ったんだったね
白虎町:それなら、何か気になることはなかったかい?
えむ:気になること?
白虎町:ああ。たとえば——空席の多さだ
えむ:あ……
えむ:……うん
えむ:こんなにおもしろい舞台なのに、 どうしてだろう?って思ったよ
白虎町:……説明するには、まず桔梗組の成り立ちから 話したほうがわかりやすいかもしれないね
白虎町:少し長くなるが、大丈夫かな?
えむ:うんっ! よろしくお願いします!
白虎町:森ノ宮——そして鈴蘭組には100年にわたる歴史がある
白虎町:長い年月をかけて磨き上げてきた、 森ノ宮の舞台に対する信頼は非常に厚いが——
白虎町:一方で、客層が固定化しているという問題があるんだ
えむ:えっと、ファンになった人はいっぱい来てくれるけど…… 新しいお客さんは増えてない、ってこと?
白虎町:その通り。 今はまだ大きな問題は起きていないが、 このままでは緩やかに衰退していくのは避けられない
白虎町:その危機的な状況を打破するために、 2年前に立ち上げられたのが——桔梗組だ
白虎町:男性のみで構成された桔梗組は、 森ノ宮に新しい風を吹かせ、 新規の客層を獲得する目的で作られたんだ
えむ:そうだったんだ……
白虎町:ただ、桔梗組は歴史が浅い分、団員も若手が多い
白虎町:鈴蘭組に比べた時、完成度で劣る…… 舞台ファンの間でそういった評判が出回り、 収益が伸び悩んでいる
えむ:あ……
白虎町:……期待した収益が出せないのであれば、 事業を続けることはできない
白虎町:そして、さらに悪いことに——
白虎町:桔梗組から、主演をつとめられるような エース級の役者が次々に抜けてしまったんだ
えむ:えっ!? な、なんで……
白虎町:こういった状況だ、辞めたくなるのも当然だろう
白虎町:厳しい練習を乗り越えても、客席は埋まらない。 そして鈴蘭組と比べられて、嫌味を言われることもある。 そういったことにうんざりした人もいたはずだ
白虎町:人材不足のこの状況で、桔梗組の評価を上げるのは難しい。 よって——収益が改善する見込みもない。 上層部が桔梗組の解体を決断したのは、正しい判断ではあるんだ
白虎町:……私も、それは理解している。けれど……
えむ:それでも涼ちゃんは——
えむ:桔梗組を、諦めたくないんだよね?
白虎町:……ああ。 この桔梗組の存在は、森ノ宮にとって必要だと思っている
白虎町:粗削りな部分も魅力として、若年層に支持されている。 新しい客層にアプローチするという意味では、 一定の成果を上げられているんだ
白虎町:それに残った桔梗組の団員も、 男子組の学生達も皆、とても熱量が高い
白虎町:だからこそ、残る可能性を探したいと思っているんだが……
えむ:………………
えむ:(守りたいものとか、目指したいところがあるのに、 うまくいかない……)
えむ:(ちょっとだけ、昔のフェニックスワンダーランドと似てるかも)
えむ:——涼ちゃん!!
白虎町:わっ……!?
えむ:あたしも、お手伝いしていいかな!!?
白虎町:え……
えむ:えっと……あたしも、桔梗組を残したいっていう 涼ちゃんの気持ちはすごくわかるんだ
えむ:桔梗組の舞台はすごい迫力で、鈴蘭組とも全然違ってて……
えむ:空席もあったけど、見にきてるお客さん達は みんなすごく楽しんでるなって思ったの!
えむ:あ……! 森ノ宮のことなのに、 あたしがこんなこと言っちゃってごめんね
えむ:でも——
えむ:フェニックスワンダーランドでも、 昔、同じようなことがあったんだ
えむ:お客さんが減っちゃって…… いろんな新しいことをしたけど、すぐには結果が出なくて
白虎町:……………………
えむ:それにね、あたしも経営とか、 運営のこととか勉強してるから……
えむ:ちょっとでも、涼ちゃんの役に立てたらって思うんだ
えむ:だから……お手伝い、させてもらえないかな?
白虎町:鳳さん……
白虎町:……仲間がいるというのは、心強いな
白虎町:ありがとう。こちらこそ、よろしく頼むよ
えむ:……! うんっ!
第 4 话:進む足を止めるもの
数日後
ワンダーランドのセカイ
えむ:(……どうしたら、桔梗組を残せるんだろう?)
えむ:(解体のことをみんなに発表するのは、3週間後だったよね。 それまでに考えなくちゃ)
えむ:(えっと……役者さんが減っちゃった分は、 ネネロボちゃんみたいに ロボットにお願いするのはどうかな?)
えむ:(すっごく高いジャンプとか、 ぴゅぴゅーんって移動したりとかもできるし——)
えむ:(……でも、それだと森ノ宮の舞台には合わないよね……)
えむ:(あれから、ずーっと考えてるけど……。 全然、これ!って思えるアイディアが思いつかない……)
えむ:うう~~! 頭をふにゃふにゃポポポポーンにしたいよ~~!!!
???:……ふ、ふにゃふにゃ?
えむ:——え?
えむ:カイトお兄さん……
KAITO:ベンチで丸くなっていたから、もしかして 体調が悪いのかなって心配していたんだけど……
KAITO:どうやら、そういうことじゃないみたいだね
えむ:あ、えっと……
KAITO:……もしかして、何か悩み事かな?
えむ:あ……
KAITO:僕でよければ、話を聞くよ。 もちろんえむちゃんが話したければ、だけど
えむ:……ありがとう、カイトお兄さん。 あのね——
KAITO:……なるほど。 それで桔梗組を解体せずにすむ方法を探しているんだね
えむ:うん……。 最初は、鈴蘭組を好きな人達に お客さんになってもらえないかな?って思ったんだ
えむ:舞台が好きな人達なら、 桔梗組のことも好きになってくれるんじゃないかなって
えむ:でも……
えむ:桔梗組と鈴蘭組は、同じ劇場を分けっこして公演してるんだって
えむ:だから桔梗組ができてから、 鈴蘭組の公演はちょっと減っちゃって……
えむ:それで、鈴蘭組のファンの人は がっかりしたり悲しい思いをしてるみたい
KAITO:そっか……
KAITO:鈴蘭組のファンの中には、桔梗組をあまりよく思っていない人も いるかもしれないんだね
えむ:うん……
えむ:それとね、他にも いっぱいいっぱい考えないといけないことがあって——
えむ:みんながにこにこになれるようなアイディア、 本当に見つかるのかなって
えむ:——でもね! あたし、桔梗組になくなってほしくない!
KAITO:……!
えむ:……桔梗組の舞台は、ほんとにすごかったんだ
えむ:見終わった後も、胸がドキドキして…… まだまだ終わってほしくないって思うくらい
えむ:桔梗組の舞台は、これから もっとたくさんの人を笑顔にできると思う
えむ:だから……
えむ:難しいことがたくさんあるけど、がんばりたいんだ
KAITO:——えむちゃんの気持ちは、ちゃんと決まっているみたいだね
えむ:えへへ、うん!
えむ:ずっとモヤモヤ~ってしてたけど、 カイトお兄さんに聞いてもらったら、 なんだかすっきりしちゃった!
KAITO:それならよかったよ
KAITO:……僕にできるのは、話を聞くことくらいだけど。 応援しているよ、えむちゃん
えむ:うんっ! ありがとう、カイトお兄さん!
翌日
森ノ宮音楽学園 中庭
白虎町:…………
白虎町:……驚いたな。 これだけの量のアイディアを、こんな短期間で?
えむ:うん……! 思いついたこと、全部書いてみようって思って!
えむ:もう涼ちゃんが考えてたのもあるかもしれないけど…… ちょっとでも使えそうなアイディア、あるかな?
白虎町:…………
白虎町:ひとつひとつの案は独創的で面白いが、 予算や時間の問題で実現が難しいと思う
えむ:……そうだよね……
白虎町:……すまない。 せっかく考えてもらったのに、こんな言い方をして
えむ:ううん! ちゃんとダメって言ってもらえたほうが嬉しいよ!
えむ:でも……難しいな。 早くなんとかしないと、桔梗組がなくなっちゃうのに……
白虎町:ああ。一度解体が公表されてしまえば、撤回は難しい
白虎町:……しかし、私も考えているがまだ決め手に欠けているんだ。 桔梗組を支持する若者に訴求するのが 一番効果的なのは間違いないが……
えむ:あ……はいはい! 涼ちゃん先生、質問です! 桔梗組は、若い人達に人気があるんだよね?
えむ:それなら、チケットの値段をさげるのはダメかな?
えむ:今は鈴蘭組と同じ値段だけど…… 学生さんとかにも買ってもらえるようにするなら、 もう少し値段を下げたほうがいいんじゃないかなって
えむ:そうしたら、お友達にも紹介しやすくなるかも!
白虎町:……その案は、私も考えたことがある。 上層部に提案したこともあるが、答えはノーだった
白虎町:リピーターや新規客が見込めない状態で、 チケットの価格を下げれば、その分だけ収益が下がってしまう
白虎町:そうなれば、舞台にかけられる金額も減って…… 今度は舞台の質が落ちる。 それは、森ノ宮として容認できないそうだ
白虎町:『観客に最高の体験を』。 その信念を100年守り続けたからこそ、 今の森ノ宮があるのだからと
えむ:そっか……
えむ:(森ノ宮のえらい人達が大切にしたいことも、 わかる気がする)
えむ:(でも……)
えむ:……お金がなくても、最高の体験は作れるんじゃないかな?
白虎町:え……
えむ:ワンダーステージも、昔は予算が全然なくて…… みんなでいろんなものを手作りしたりしてたんだ
えむ:古くなった客席とかは、自分達で修理したりとか
えむ:そんなふうに、お客さんに楽しんでもらうために みんなで工夫したら——
えむ:最高の体験を作ることと、 チケットの値段を下げること、 両方できたりしないかな……?
白虎町:…………
白虎町:理論上は、可能かもしれない
えむ:じゃあ……!
白虎町:だが、あくまで理論上はの話だ。 実際にやってみて、どんな反応がくるかは……わからない
えむ:それは……そうかもしれないけど……
えむ:でもでも、可能性があるなら、いろいろ考えてみようよ
えむ:もうちょっとちゃんとアイディアを練って、 それでもう一回提案したら、うまくいくかもしれないよ!
白虎町:……そうだな。頭ではわかっている
白虎町:でも、それでも——
白虎町:私は、怖いんだ
えむ:え……
白虎町:変化なしに、森ノ宮の未来を守ることはできない
白虎町:桔梗組を立ち上げる改革を支持した—— そのことを、後悔はしていないんだ
白虎町:ただ……
白虎町:その結果として、これまでのファンの一部を悲しませてしまった
えむ:(あ……)
えむ:それってもしかして、劇場を分けっこしたとき—— 鈴蘭組のファンの人ががっかりしてたこと?
白虎町:ああ。あれは私にとって、想定外のことだった
白虎町:……考えが甘かったんだ
白虎町:……駄目だな、私は。 100パーセント支持される改革などないというのに
白虎町:けれど——前よりもさらに多くの人を 悲しませる結果になってしまったら……
白虎町:そんな考えが頭から離れなくて…… 臆病になってしまっているのかもしれない
えむ:…………
えむ:(……そうだよね)
えむ:(前に進むことで、今まで森ノ宮を 応援してくれた人が傷つくかもしれないんだ……)
KAITO:『…………』
第 5 话:選んだ道
ワンダーランドのセカイ
港
えむ:………………
ぬいぐるみ達:『………………』
ぬいぐるみ達:ネエ。エムチャン、何カアッタノカシラ?
ぬいぐるみ達:ウン。ズーットベンチに座ッテ、ボンヤリシテルネ
ぬいぐるみ達:チョット心配ネ。 声をカケテミヨウカシラ——アラ?
KAITO:——えむちゃん。ここにいたんだね
えむ:カイトお兄さん……。 どうしてここに?
KAITO:えむちゃんを探してたんだ
KAITO:あの後、どうなったかなと思って。 えむちゃんのスマホから様子を見てたんだけど……
えむ:あ……
KAITO:隣、座ってもいいかな?
えむ:うん、どうぞ!
KAITO:白虎町さんとの話、勝手に聞いてしまってごめんね
えむ:ううん。 心配して来てくれて、ありがとう
KAITO:……大丈夫かい?
えむ:…………
えむ:……涼ちゃん、怖いって言ってたんだ
えむ:あたし……涼ちゃんの気持ち、ちょっとわかるなって思ったの。 フェニックスワンダーランドのときも、同じだったから
KAITO:…………
えむ:昔からあるアトラクションを壊して、 どんどん新しいのができて……
えむ:思い出のアトラクションがなくなっちゃったお客さんは、 みんな、寂しそうだったんだ
えむ:ずっと好きでいてくれた人を悲しませちゃうのは…… すごく怖かった
KAITO:……そうだね
KAITO:変えることも、守ることも。 どちらを選ぶのも、きっと怖いことだと思う
えむ:うん……
KAITO:……えむちゃん。そういうときは、同じような体験をした人に 話を聞いてみるのはどうかな?
えむ:同じような体験をした人?
KAITO:うん。フェニックスワンダーランドの問題について——
KAITO:一番はじめに、状況を変えようと行動していた人達がいただろう?
えむ:それって……
KAITO:その人達は——
KAITO:今の白虎町さんが抱えるような“怖さ”を、 乗り越えてきたんじゃないかな?
えむ:あ……
鳳家 リビング
慶介:フェニックスワンダーランドの立て直しのとき、 何を考えていたか?
えむ:うん……! その時の気持ちを、教えてほしいの!
えむ:いろんなことを変えちゃうの、怖いなって思わなかった?
えむ:変えたことで悲しんじゃう人がいるかもとか、 ほんとにこの道でいいのかなとか…… 悩んだりしなかったのかなって
晶介:はあ? なんでいきなり、そんなこと——
晶介:……まあ、そうだな。 あのときは周りからの反対意見も多かった
晶介:悩まなかったわけでも、まったく怖さがなかったわけでもねえよ
えむ:……そうなんだ……
慶介:ああ。そもそも遊園地ではなく、別の施設として 再建するべきだという声もあがっていたんだ
慶介:フェニックスワンダーランドには、 それまで築いてきた歴史がある
慶介:長年に渡り染みついてきたイメージがある中で、 新しい顧客層に訴求するのは、難易度が高い
晶介:要するに、いっそ全部新しくしちまったほうが楽、ってわけだな
えむ:…………
慶介:だが、俺達はそうしたくなかった。 たとえ以前と大きく形が変わったとしても、 『フェニックスワンダーランド』という遊園地を残したい——
慶介:そのために、考えうる限り最善の選択をしてきたつもりだ
えむ:お兄ちゃん達は…… どうして、怖くても動こうって思えたの?
晶介:怖かろうが不安だろうが、 無理やりでも選んで動くしかねえ
晶介:現実なんて、こっちの準備が完璧になるまで 待っちゃくれねえんだよ
慶介:ああ。実際、悠長にしていられる時間はなかった
慶介:限られた時間の中で、あらゆる道を模索し…… 俺達は選び続けた
慶介:選んだ道が正解かどうかは、誰にもわからない。 それでも——
慶介:結局は、決めた道を正解にするしかなかったからな
えむ:決めた道を、正解にする……
晶介:って言っても……
晶介:お前らが途中で別の道を見つけてくれたおかげで、 思ってたのとは全然違うほうに進んだんだがな
慶介:そうだな。ただ、もしあのままライリー社との 提携を進めていたとしても……
慶介:俺達は、それを正解にすると決めていた
えむ:あ……
慶介:そういう覚悟を持っていれば、 たとえ怖くても選択できる——
慶介:問題は、その覚悟を決められるかどうかだ
えむ:……そっか……
晶介:……ま、お前が何を悩んでんのかは知らねえがな
晶介:ただ、俺からひとつだけ言えることがあるなら——
晶介:えむ。お前ならなんとかなる
えむ:えっ?
慶介:——ああ、そうだな
慶介:今のフェニックスワンダーランドがあるのは、 お前達の力のおかげだと思っている
慶介:誰もが笑顔になれるような道を、見つけ出せるはずだ
えむ:…………!
えむ:慶介お兄ちゃん、晶介お兄ちゃん……
えむ:ありがと!
数日後
森ノ宮歌劇団 中庭
えむ:——これでどうかな?
白虎町:なるほど……
白虎町:たしかにその方法なら、 チケットの価格と人材、舞台の質の問題を一気に解決できる
えむ:ほんと!?
白虎町:ああ。かなり大胆だとは思うが、 きちんと細部の現実性を詰めれば 経営会議で提案できるレベルだ
えむ:やった~!!
白虎町:……ただ……
白虎町:森ノ宮のファン達が納得するかは、まだ読めない。 今まで以上に大きな反発を招く可能性はある……
えむ:あ……
えむ:涼ちゃんの気持ち、わかるよ
えむ:今まで好きでいてくれた人を悲しませちゃうのは、 すごく怖いって思う
えむ:でも——
えむ:変わらないために、ずっと立ち止まってたら…… 一番大事にしたいものまで、いつかなくなっちゃう
えむ:だからみんな……怖くっても、進もうとするんじゃないかな
えむ:どの道が正解かはわかんないけど——
えむ:選んだ道を、正解にするって……自分で決めることはできるから
白虎町:…………
白虎町:『選んだ道を正解にする』か……。いい言葉だね
えむ:うんっ! お兄ちゃん達が教えてくれたんだ
白虎町:——ありがとう、鳳さん
白虎町:あともう少しだけ、付き合ってもらえるかな?
えむ:え?
白虎町:経営会議で先ほどの案を提出するには、 事前に理事長の承認を得る必要がある
白虎町:祖父を説得するために詳細を詰めたいんだ
えむ:うん、もちろんっ!
第 6 话:掴んだチャンス
数日後
ホテルのカフェ
理事長:——やあ。涼からお茶の誘いなんて嬉しいねえ
白虎町:……お忙しいところ、 お時間をいただきありがとうございます。おじい様
えむ:ありがとうございますっ!
理事長:ははは。そうかしこまらずに
理事長:そうだ、もう何か注文はしたのかい?
理事長:この店は季節のパフェが絶品でおすすめだよ。 私はこれに目がなくてね
えむ:パフェ……
白虎町:……おじい様。甘いものの食べすぎは 主治医に止められているのでは?
理事長:そうなんだよ。 たまにしか食べてないつもりなんだけどねえ……
えむ:(この人が、涼ちゃんのおじいさん……)
えむ:(想像してたよりずっと、ふわふわで優しそう?)
理事長:えむさんは森ノ宮で、運営の勉強をしているんだったね
えむ:……! は、はい。 あたしのこと、知ってるんですか?
理事長:もちろん。鳳家の御子息も御息女も、 みんな勉強熱心で素晴らしいと感心していたんだ
理事長:森ノ宮を学びの場として選んでくれたことを、 とても嬉しいと思っているよ
理事長:それで……今日は桔梗組の件についてだったね
白虎町:——はい。 まずはこちらの資料に目を通していただけますか
理事長:ふむ……
理事長:この内容は、涼とえむさんで考えたのかい?
白虎町:はい。ベースは鳳さんのアイディアで、 ふたりで話し合いながら細部を詰めました
理事長:ほう。なるほど……
えむ:…………!
えむ:(優しい目だけど…… じーっと見られるとピリピリってする)
えむ:(……目をそらしちゃダメだ)
えむ:(あたしも涼ちゃんも、本気だってわかってもらうんだ……!)
理事長:………………
理事長:……ふふ、面白いねえ。 うまく化けると大物になりそうだ
えむ:ほえ?
理事長:いやいや、こっちの話さ。 ざっと目を通したが、私はなかなかいい案だと思ったよ
白虎町:……! では——
理事長:ああ。ちょうど1週間後に経営陣が集まる会議がある。 その場で、ふたりでプレゼンをしてみなさい
理事長:そこでみんなを納得させられれば、採用しよう
えむ:あ……
えむ:ありがとうございますっ!!
理事長:ただし、私が口添えするのはそこまでだ。 あとは自分達の力で、うちの役員達を納得させなきゃいけない
白虎町:はい、わかっています
白虎町:——あの、おじい様
理事長:なんだい?
白虎町:私は、森ノ宮を愛しています。 この先の100年も、森ノ宮が最高の劇団であってほしい
白虎町:その想いは皆さんと……おじい様と同じです。 ですから——
白虎町:必ず、皆を納得させてみせます
理事長:…………
理事長:ああ。期待しているよ
えむ:(役員の人達の前で、プレゼン……)
えむ:(あたし達が考えたことを、みんなの前で説明して 認めてもらわないといけないんだ)
鬼島:君は、考えていることを、 なかなか人に理解してもらえなかったことはないか?
えむ:(……一生懸命話すだけじゃ、きっと足りない)
えむ:(だから……)
えむ:(思ってることを伝えられるように、練習しなきゃ!)
鳳家 リビング
晶介:…………今、なんつった?
えむ:あたしに、プレゼンの仕方を教えてほしいの!
えむ:ちゃんと、お仕事でやるみたいに プレゼンできるようになりたくて!
晶介:仕事でやるみたいにってなあ……。 だいたい本番はいつだよ?
えむ:1週間後!
晶介:いっ……!? お前、そんな短期間で……!
えむ:絶対、できるようにならなきゃいけないの!
えむ:喋り方とか、動き方とか…… 相手がどう感じるかを考えてやらないと、 正しく伝わらないって思うから
えむ:すっごく大変で、難しいだろうなって思うけど……
えむ:でも、夢を現実に変えるために必要だって思うから、 ちゃんとできるようになりたい!!
慶介:えむ……
晶介:……はあ。どうやら本気みてえだな
えむ:……!
慶介:それだけ意欲があるのなら、学んでおいて損はない
晶介:だな。いい機会だ
晶介:どんな逆境だろうが、絶対に相手を説得できる プレゼンの仕方を叩き込んでやるよ
えむ:本当……!?
慶介:ああ。さっそく今から始めるか
えむ:うん! お願いしますっ!
第 7 话:届けたい想い
1週間後
森ノ宮歌劇団 中庭
えむ:すー、はー……すー、はー……
えむ:もうすぐプレゼンだね、涼ちゃん
白虎町:ああ。……緊張しているかい?
えむ:うん! 心臓がバクバクってしてて、 口から逃げちゃいそう!
白虎町:ふふ。その気持ちはわかるな
白虎町:自分が主演する舞台でも、 ここまで緊張したことはなかったかもしれない
えむ:涼ちゃんでも?
白虎町:ああ。けれど、不思議と嫌な感じではないんだ
白虎町:私達は、やれるだけのことをしてきた。 それに……もう覚悟が決まっているからかな
白虎町:自分の選んだ道を正解にする、という覚悟が
白虎町:——必ず成功させよう。このプレゼンを
えむ:うんっ!
白虎町:そろそろ会議が始まる時間だ。 私は普段通りに出席するから、 鳳さんはプレゼンの時間になったら入ってきてくれ
えむ:は~い! またあとでね!
えむ:(……1週間、あっという間だったな)
えむ:(お兄ちゃん達にプレゼンの仕方を教えてもらって、 涼ちゃんと一緒に練習して)
えむ:(——大丈夫。絶対に、できる)
えむ:……よし!
会議室
役員達:——それでは、本日の議題は以上となります
白虎町:理事長。事前に申請していたプレゼンに 移らせていただいてもよろしいでしょうか?
理事長:ああ。この後の進行は任せるよ
白虎町:ありがとうございます
役員達:プレゼンというと、桔梗組の件か
役員達:ええ。白虎町さんともうひとりの学生が、 事業継続に関する提案をしたいんだとか……
白虎町:(役員達の様子は予想通りだな)
白虎町:(強い反発がないのは、 学生の意見だからと真剣には受け取られていない証拠だ)
白虎町:(しかし……)
白虎町:——鳳さん。どうぞ
えむの声:失礼します
えむ:初めまして、鳳えむと申します
えむ:本日はお忙しいところ、 このような場を設けていただきありがとうございます
役員達:鳳……?
役員達:もしかして、鳳財閥の……
えむ:はい。今はご縁があって、森ノ宮歌劇団で、 運営について学ばせていただいています
白虎町:(練習で見た時も驚いたが……まるで別人のようだな)
白虎町:(何より——)
白虎町:(鳳さんの凛とした振る舞いで、役員達の空気も変わった)
えむ:本日は私達から、桔梗組の再建案について プレゼンテーションをさせていただきます
えむ:現在、桔梗組は収益や人材の面で 厳しい状況に置かれていますが——
えむ:設立当初の目的である、新規顧客の開拓という面では 優れた成果をあげています
白虎町:まずは、お手元にお配りした資料とスライドをご覧ください
役員達:これは……鈴蘭組と桔梗組の顧客層のデータ?
えむ:はい。皆様もご存じかと思いますが、 桔梗組は鈴蘭組に比べて、 圧倒的に若い世代から支持を受けています
えむ:鈴蘭組に比べて役者の年齢層が若いこと、 粗削りではありますがその分、勢いと熱量があることが理由です
えむ:ですが、チケット代金の高さが足枷となり、 リピーターや新規来場者が伸び悩んでいる状況です
えむ:私達はまず、この状況を改善すべきだと考えました
役員達:改善といっても……仮に、チケット代を下げれば さらに収益が落ち込むだけだろう
役員達:そうね……。ただでさえエース級の役者が抜けた今、 ハードルを下げても来場者が増えるとは思えないわ
えむ:その通りです。ですが——
えむ:いっそこの状況を活かすのはどうでしょうか
役員達:活かす……? どういうことだね?
えむ:はい。具体的には——
えむ:劇団員が抜けた分は、 学生の中から優秀な人材を選抜して補完します
えむ:男子組のトップ層の実力は、現役の劇団員と ほぼ遜色がない……
えむ:つまり、舞台の質を大きく落とすことはありません
役員達:大きく……と言っても、やはり完全に同じとはいかないだろう?
白虎町:はい。しかし将来的に、その差は埋まっていきます
白虎町:実際の舞台に立てるというのは、 モチベーションアップにもつながりますから
白虎町:本番の経験を積むことで、生徒達が 大きく成長するきっかけになるでしょう
役員達:森ノ宮の学生とはいえ、さすがにそれは……
役員達:顧客が納得するとは思えない! 求めているのは、プロの舞台なんだぞ?
えむ:はい。ですから、事前に大々的なプロモーションを行います
えむ:『優秀な学生を起用した、新しい試みの舞台』だと
白虎町:実験的な試みのため、チケット料金はこれまでより下げる。 これなら顧客の負担は増えることはなく、 質の高い舞台を提供できます
白虎町:あくまで『実験』であると理解してもらえれば、 森ノ宮のブランドを捨て去るとは思われないはずです
役員達:む……
白虎町:桔梗組のコアファンは若年層であり、 これまでは高額なチケット代がネックとなって リピートが難しくなっていましたが……
白虎町:価格を下げることにより、 そのハードルを同時に下げることができる
白虎町:今まで森ノ宮の舞台に触れてこなかったような 若年層がリピーターとして定着すれば——
白虎町:森ノ宮の客層を広げる、未来への投資にもなります
役員達:……とても面白い案だとは思うわ。 でも、実際にそう上手くいくかしら
役員達:今、桔梗組の評判はいいとは言えない。 いくら新しいことをしても、 先行するイメージに引っ張られる可能性が高いわ
役員達:ああ。たしかにブランディングの面での 懸念は少ないだろうが——
役員達:それでも受け入れられないファンは一定数いるだろう
白虎町:それは……
えむ:(絶対にうまくいく、なんて言えない)
えむ:(でも……)
えむ:それでも、挑戦するだけの価値があると思います
白虎町:…………!
えむ:——正解はありません
えむ:けれど、変わらずに居続けることもできません
えむ:だから、選ぶ必要があります。 これまでにない、新しい道を
白虎町:桔梗組のファンは、可能性を応援したい…… 一緒に役者の成長を感じることに喜びを見出しています
白虎町:顧客にとっても、決して不利益にはならないはずです
えむ:どうかもう少しだけ、時間をください。 よろしくお願いします……!
役員達:そうは言っても、やはり学生を舞台に立たせるのは イメージ戦略上容認できん!
役員達:……そうですね。 それにリピーターや新規顧客が増えても、 収益面にまだ不安が——
えむ:っ……!
えむ:(……やっぱり、そんなに簡単じゃないんだ)
白虎町:(けれど、まだだ。ここで諦めるわけには——)
役員達:いや……しかし、メリットも大きいんじゃないでしょうか
役員達:……そうね。少なくとも今すぐに解体するには、 惜しいと感じたわ
役員達:ええ。新しい試みとして話題を集められそうですし——
えむ:(あ……)
白虎町:真剣に検討してくれているみたいだ
白虎町:……どうやら、私達の言葉はちゃんと届いたようだね
えむ:っ、うん……!
第 8 话:最後まで
2カ月後
森ノ宮歌劇団 劇場
生徒A:『——なあ。オレと一緒に舞台をやってみないか?』
生徒B:『は……? なんで僕が?』
生徒A:『オレ達の未来は、生まれた時に決まってる。 貴族に生まれるっていうのはそういうことだ』
生徒A:『でもな。だからって、ずっと縛られ続けるのは、 つまらないって思わないか?』
生徒B:『……それは……』
生徒A:『舞台の上なら、オレ達はなんにだってなれる! お前なら、きっとその楽しさがわかるはずだ』
観客達:…………ねえ。 この役者さん達って、もしかして学生さん?
観客達:たぶんそうだね。今まで見たことないし……
観客達:そっか……
観客達:————なんか、すっごい引き込まれるな
えむ:…………!
教師:『こら、お前達!! 消灯時間はとっくに過ぎているぞ!』
生徒A:『うわ、しまった! みんな、逃げるぞ!!』
生徒B:『だからこんな深夜に稽古なんて やめようって言ったのに!』
教師:『おい、待たんか!』
観客達:へえ……あの役者さん、 こんなコミカルな演技もできるんだな
観客達:ふふ、ほんとね。 これまでとイメージは違うけど、私は好きだな
生徒B:『——ついに初公演だな』
生徒A:『ああ。ようやくここまで漕ぎつけた』
生徒B:『さすがの君でも緊張してるか?』
生徒A:『まさか! むしろ今までで一番ワクワクしてるよ』
生徒A:『誰の記憶にも残る、最高の舞台にしてやろう、って』
えむ:(これで……舞台は終わり)
えむ:(お客さん達は——)
えむ:…………!
白虎町:……すごいな。熱烈なスタンディングオベーションだ
えむ:……っ、うん……!
アナウンス:『——当公演はこれで終了となります。 お帰りの際は、お手回り品にご注意ください』
森ノ宮歌劇団 中庭
司:これが桔梗組の新しい舞台……! 素晴らしかったな!
類:貴族の子弟ばかりが通う学園で、 落ちこぼれの生徒達が劇団を結成する——
類:団員達の中で一番演技が下手だと思われていた主人公が、 実は身分を隠して通っていた隣国の王子だった…… という展開が面白かったね
司:ああ! それに、役者達の熱演に心を打たれた
寧々:うん……。ベテランの劇団の人達は、 やっぱりすごかったけど……
寧々:学生の人達も、全然負けてなかったね
類:そうだね。もちろん、技術面で粗削りな部分は あるかもしれないけれど——
類:そこも含めて、観客達に『応援したい』と思わせる 魅力になっていたんじゃないかな
司:そうだな! オレもいい刺激をもらえた!
寧々:…………
類:寧々?
寧々:あ……
寧々:えっと、どうせならえむと白虎町さんにも 感想を伝えたいなって思って……
司:おお、そうだな! 関係者席に座っていたはずだが、今どこに——
えむの声:みんな~!
白虎町:やあ、久しぶりだね
えむ:桔梗組の新しい舞台、どうだった!?
司:とんでもなくよかったぞ!!
司:以前の桔梗組の舞台は、重厚な世界観をたしかな技術に支えられた アクションや演技、歌唱力で表現していたが……
司:今回の舞台は、そこに収まらない熱さが感じられた
類:うん。実力のある劇団員達が、 納得感のある演技で世界観をしっかりと支えている一方で—— 学生達の勢いのある熱演が、観客の目を強くひきつける
類:お互いのよさが溶け合って、より魅力的な 舞台を作り上げている……そんな印象だったよ
寧々:なんていうか、目の前でどんどん 成長していってる感じがあって……すごく見ごたえがあったな
えむ:…………!
えむ:……よかった……!
司:それにしても……森ノ宮での修行中から、 えむが何やら忙しそうにしているのは気づいていたが
司:まさか、ここまで大掛かりな 企画に関わっていたとはな
えむ:えへへ、言ってなくてごめんね
えむ:(経営会議で、あたし達のプレゼンが通ってから……。 今日まで、ずーっとドキドキだったな)
えむ:(でも——)
観客達:面白かった~! なんていうかもう、全員推したい!!
観客達:わかる! 学生さんであれだけレベル高いってすごいよね
観客達:ね! しかもどんどん成長していきそうだし…… チケットも買えない値段じゃないから、また見に来ちゃおうかな
えむ:お客さん達、みんなニコニコしてるね
白虎町:——ああ
白虎町:先ほど聞いた報告によると、 チケットは千秋楽まですべて完売しそうだ
えむ:本当っ!?
白虎町:ああ。それに、舞台を見た人の感想が拡散された結果——
白虎町:鈴蘭組のファンの間でも、 桔梗組に興味を持ってくれる人が少しずつ増えてきているそうだ
白虎町:鈴蘭組と比べるのではなく、 また違った魅力を持った劇団として
えむ:……! そうなんだ!
えむ:森ノ宮をもとから好きな人も、 新しく好きになってくれた人も……
えむ:どっちにも喜んでもらえたって思っていいのかな?
白虎町:そう考えていいと思う。 ただ……まだまだ問題も多い
白虎町:上層部の中には、物珍しさで話題になっているだけだと 懐疑的な見方もある
白虎町:今回の成功を一時的なもので終わらせないように、 努力し続けていかなければ
えむ:えへへ、涼ちゃんやる気いっぱいだね☆
えむ:そんな涼ちゃんに、もっともーっとがんばれる おまじないを教えてあげる!
白虎町:おまじない?
えむ:うん! いくよ——
えむ:わんわんわんだほーーい!!
白虎町:鳳さん、今のは……?
えむ:これをやると、元気が出たり、 大変なときもがんばるぞ!って気持ちになれちゃうんだ
えむ:これからもいっぱいいっぱい、 越えていかなきゃいけないことがあるだろうけど——
えむ:でもね、涼ちゃんならきっと大丈夫!
白虎町:——やっぱり君はとても面白いね
白虎町:今後君がどんな夢を描いて、実現していくのか楽しみだよ
司:えむはうちの劇団の夢担当だからな!
寧々:ちょっと。なんであんたがドヤ顔なの
類:そういう寧々も、顔が緩んでいるけれどね
寧々:う……。 ……だって仲間が褒められたら、普通に嬉しいでしょ
えむ:(涼ちゃんも、司くん達も、お客さんも…… みんなニコニコだな)
えむ:(……あたし、やっぱりこの景色が大好き)
えむ:(みんなが楽しそうで、きらきら笑顔でいてくれるこの景色が)
えむ:(みんなが笑顔になるには、今回みたいにたくさん 乗り越えなきゃいけないこともあって……)
えむ:(きっとまた、もうダメかもしれないって思うときも くるかもしれない)
えむ:(それでも……)
えむ:——最後まで、諦めない人でいたいな
司:ん? えむ、今何か言ったか?
えむ:ううん☆ なんでもない!