活动剧情

Deeper and deeper

活动ID:172

第 1 话:思わぬチャンス

???
アナウンス:『——ようこそ。 誰もが特別な夢を見られる場所、東京アークランドへ』
司:おおお……!?
えむ:わあ~! 足元がキラキラ~ってしてる!
類:インタラクティブ・プロジェクションマッピングだね
類:センサーが入場者の動きを感知して、 双方向的な映像を投影しているんだ
寧々:あ、ほんとだ。 歩くと、光の形とか色が変わってく……
えむ:すごいすごい! ぴょぴょぴょーんってしたら、 光もぷわぷわ~ってするよ!
司:って、どこまで行く気だ!? 今回は遊びにきたわけではないぞ!
えむ:はっ!! そうだった~!
司:まったく……
寧々:それにしても……今までいろんなすごいところを回ってきたけど、 まさか、ここで修行ができるなんてね
類:ああ。アークランドは、ライリードリームパークと 肩を並べる世界有数のテーマパークだ
類:当然、簡単に門戸が開かれるものではない——
類:慶介さんと晶介さんに、感謝しなくてはいけないね
司:4つ目の修行先!?
慶介:ああ。 場所は君達も知っている、あのアークランドだ
寧々:えっ……!?
えむ:アークランドって、旭さん達がいるところだよね?
司:ああ……。 しかし、アークランドといえば 世界でもトップクラスのショーで有名だ
司:そんなところに、オレ達が? たしかに一度、合同公演をやらせてはもらったが……
晶介:一応、前々から打診はしてたんだ。 けど、前回みたいな文化交流じゃなく、 こっちが一方的に学ばせてくれって形だからな
晶介:なかなかオーケーが出ないままだったんだが、 最近になって先方から連絡が来たんだ
類:そうだったんですね。 しかしなぜ、このタイミングで……?
慶介:知っての通り、アークランドには 若く実力のある役者や演出家が集まっている
慶介:彼らの実力をさらに伸ばし、活躍の場を広げるために、 内部向けのワークショップが開催されることになったそうだ
えむ:ワークショップ……!?
司:もしや……そこにオレ達も 参加させてもらえる、ということでしょうか?
慶介:ああ。 先方からは、都合がつけば是非と言ってもらっている
類:内部向けということは、参加者は全員 アークランドのキャストや演出家達……
類:必然的に、ワークショップの内容も 相当レベルが高いものになりますね
晶介:まあ、そうだな。 だがお前達にとっては、かなりいい経験になると思うぞ
慶介:どうする? あとは君達の意向次第だ
司:——そんなもの、決まっています!
類:(以前誘いを断った時には…… またこうしてアークランドに 関わることになるなんて、想像もできなかったな)
えむ:寧々ちゃん、きょろきょろしてどうしたの?
寧々:あ……うん
寧々:案内人の人が迎えに来てくれるって話だったから、 そろそろかなって思ったんだけど……
???:——おーい!
司:噂をすれば、案内人が来たようだな!
???:みんな、お待たせ! 久しぶりだね
旭:ようこそ、東京アークランドへ!
司:あ……………………………………
えむ・寧々:『旭さん……!?』
類:案内役というのは、旭さんだったんですか?
旭:ああ! ワンダショのみんなが来るって聞いて、立候補したんだ!
旭:他のみんなも来たがってたけど…… さすがに全員だと目立つしね
旭:あ! もちろん、公平にじゃんけんで決めたんだよ?
司:じゃ、じゃんけんで……
寧々:……旭さん、変わらないね。 舞台だけじゃなくて、映画とかドラマでも ひっぱりだこで忙しいはずなのに
えむ:うん! にこにこ明るいお兄さんだね!
旭:今日は、ワークショップの全体説明会なんだ。 さっそくだけど、会場まで案内するよ
司:はい! よろしくお願いします!
えむ:わくわくワークショップ~♪ どんなことをやるのかなっ☆
旭:あはは。随分楽しみにしてくれてたみたいだね
司:はいっ! それはもう!
類:旭さんも、今回のワークショップに参加されるんですか?
旭:うん。仕事で予定が合わないところ以外は 全部参加するつもりだよ
旭:ワンダショのみんなと久しぶりに一緒にやれる機会だし—— 今回のワークショップは、内容が今までで一番充実してるんだ
司:というと?
旭:ワークショップの講師は、アークランドでも ベテランの役者や演出家が担当するんだけど——
旭:それだけじゃなくて、外部からも特別講師を呼んでるんだ
類:特別講師、ですか?
旭:ああ。 ……きっと、類くんも驚くんじゃないかな
類:(“僕も”……?)
旭:——着いたよ。ここが会場だ
旭:まずは初対面のみんなに、 ワンダーランズ×ショウタイムを紹介しないとね
旭:おーい、みんなー!
説明会 会場
ワークショップ主催者:——ここまで大規模なワークショップは、 アークランドでも初の試みとなります
ワークショップ主催者:通常の稽古や仕事の合間を縫ってとなるため、 参加者は皆、ハードなスケジュールとなるでしょう
ワークショップ主催者:それでも参加する意義があったと言ってもらえるよう、 私達も全力で運営とサポートに取り組んでいきます
類:(……旭さんが言っていたとおり、 かなり力が入っているようだね)
類:(役者と演出家、それぞれに専用のコースが用意されている)
類:(互いに協力し合う課題もあるということだから…… 演出家側が作ったショーを、 役者達に演じてもらう機会もありそうだ)
類:(フフ。想像するだけで楽しみだな)
ワークショップ主催者:ではここからは、ワークショップ期間中に 指導してくださる特別講師のご紹介です。 まずは役者コースから——
ワークショップ主催者:ナタリア・サンティ、グレン・バーキン、 そしてエリオ・桜井。この3名にご協力いただきます
司:んな…………っ!?
類:ナタリア・サンティ—— ミュージカル映画で、国際的な賞をいくつも取った名優だ
類:最近は後進の育成にも力を入れていると 聞いたことがあるけれど…… まさか、ここでその名前を聞くとは思わなかったよ
寧々:うん……。 グレン・バーキンは、ブロードウェイでも 活躍してる現役の役者だよね
寧々:主役を張るタイプじゃないけど、 個性的な役を演じるのがうまくて 演技力の評価がすごく高いって聞いたことがある……
えむ:ほえ~、みんなすごい人なんだ……!
司:ああ。エリオ・桜井は世界的なダンサーだな
司:たしか、ミュージカルダンスに特化した レッスンスタジオも経営していたはずだ
寧々:司、なんか詳しくない?
司:森ノ宮でバレエのレッスンを受けていたとき、 参考になりそうな動画を漁っていて たまたまエリオ氏の解説動画にたどり着いてな
司:バレエだけでなく、ジャズやシアターダンスの 動画もアップされていたが……そのどれもが、 時間を忘れて見入ってしまうほど素晴らしかった
類:ああ。各分野の一流プレイヤーが揃っているわけだね
えむ:会えるのが楽しみだな~!
類:(これだけのメンバーを集めてのワークショップだ。 単純に、資金力があれば実現できるというものじゃない)
類:(アークランドがそれだけ舞台に…… それを担うキャスト達の育成に 力を入れている証拠なんだろう)
ワークショップ主催者:では、続いて演出家コースの特別講師をご紹介します
えむ:……あ! 次は類くんが教えてもらう人達だね!
寧々:さっきのメンバーを聞いたあとだと、 なんだかドキドキするな……
類:ああ
類:(こんな場所で学べる機会は、恐らく二度とない)
類:(このチャンスを、きちんと生かさなくては)

第 2 话:憧れ

説明会 会場
ワークショップ主催者:演出家コースの特別講師は2名。 内1名は本日、この場に来てくださっています
ワークショップ主催者:榊さん、一言いただいてもよろしいですか?
榊:——はい
アークランドのキャストA:ねえ……。 “榊”って、まさか……
アークランドの演出家:あ、ああ……
榊:——どうも。 初めまして、の人が多いかな?
榊:ワークショップの講師を務めさせていただく、 榊黄龍です
司:榊黄龍……!!?
えむ:この人、テレビで見たことある! 有名な演出家さんだよね?
類:……そうだね
類:榊黄龍——史上最年少で菊川二郎演劇賞を受賞して、 一気に注目を浴びた名演出家だ
類:芸術性の高い演出が持ち味だけれど、 エンターテインメントの分野でも活躍していて…… 映画やテレビドラマも数多く手がけているね
司:ああ。話題作のクレジットでは、 必ずと言っていいほど名前を見かけるぞ
寧々:しかも、日本だけじゃなくて海外でも人気があるんだよね。 伝統のある劇場なんかからも声がかかったりとか
寧々:『いま日本で一番忙しい演出家』だって、 雑誌で特集されてた気がする……
えむ:ほえ~。どんな人なんだろ?
司:うむ。手がけた作品のイメージだと、 かなりの芸術家肌でこだわりが強いタイプだったり……
榊:僕は人に何かを教えられるような たいした人間じゃないんですが——
榊:アークランドさんにはいろいろ お世話になってるので、お断りするのも恐れ多くて
榊:まあ、僕の話は参考になりそうなところだけ つまむ感覚で聞いてください
榊:お互い、いい時間にしましょう
司:……思ったより、気さくな人のようだな
寧々:うん。ちょっと意外かも……
類:(……確かに、不思議な人だな)
類:(榊黄龍が手掛けた舞台は、そのどれもが唯一無二だ)
類:(難解な不条理演劇でも、娯楽要素が強いショーでも…… 彼が手掛けた作品には全て、独特な“色”がある)
類:(人の内面を鋭くえぐり出したうえで、 美しさと醜さを同時に成立させたような——強烈な魅力が)
類:……本当に、とんでもない人を連れてくるものだね
榊:…………へえ
類:(……? 今のは——)
寧々:類? どうしたの?
類:ああ、いや。なんでもないよ
類:(今、一瞬誰かに似ているなと思ったけれど……)
類:(……僕の気のせいかな)
ワークショップ主催者:榊さん、ありがとうございました
ワークショップ主催者:もう1名の講師の方については、スケジュールの関係により 海外からリモートでの参加となります
ワークショップ主催者:お名前は——
ワンダーランドのセカイ
MEIKO:へえ! そんなにすごいワークショップだったのね!
司:ああ! 今回は全体の概要説明だけだったが——
司:用意された環境も、講師陣もとにかく素晴らしかった!
寧々:想像の100倍くらい豪華で、 ずっと驚きっぱなしだったな……
えむ:寧々ちゃん、説明会が終わったあと ぐったりしてたもんね
ルカ:あら~。大丈夫?
寧々:平気。ちょっと圧倒されちゃったけど……
寧々:世界レベルのプロから教われるなんて、 今のわたし達にはとんでもなく貴重なチャンスだから
司:そうだな。 今までのように正面から挑んでいけば、 必ず大きく成長できる
司:全力で食らいついていくぞ!
えむ:お~~~!!
MEIKO:ふふ。みんな、やる気満々ね!
類:………………
ルカ:類くん、どうしたの? もしかして眠くなっちゃったかしら~?
類:え?
ルカ:さっきから、少しぼんやりしてるみたいだから
類:いいや、大丈夫だよ
類:ただ、なんというか……あまり実感が湧かなくてね
MEIKO:実感が湧かないって?
類:演出家向けのワークショップには、 外部からふたりの特別講師が参加する予定なんだ
類:ひとりは今の日本を代表する演出家・榊黄龍。 そして、もうひとりは——
演出家:『富める人、貧しい人、賢い人、愚かな人、 マジョリティ、マイノリティ——すべて関係ない』
演出家:『すべての人が、 共に笑い、泣き、怒り——』
演出家:『そうして見終わった瞬間には、 同じ感情でつながれる』
演出家:『そんなショーを作り続けていきたいと思っているんだ』
演出家:『すべての人がつながった先にはきっと——、 僕達のまだ見たことのない、素晴らしい世界が 広がっているだろうからね!』
幼い類:…………
類:——トム・グレイ
類:僕の、憧れの演出家なんだ
ルカ:じゃあ類くんは、 ずっと憧れてた人に演出を教われるのね?
類:そういうことになるね。 ……だからなのか、どうも地に足が ついていないような感じがするんだ
司:……わかるぞ、その戸惑い!
司:オレも、天満さんが舞台を見にきていると知ったときには 驚きのあまり夢を見ているのかと思ったからな!
類:フフ、そうだね。 まさか、自分の身にこんなことが 起こるとは思わなかったよ
類:子供の頃の僕が聞いたとしても、きっと信じないだろうな
MEIKO:……なるほど。 類くんにとっては、それくらい特別な人なのね
ルカ:ふふ。小さい頃の類くんに、教えてあげたいわね
ルカ:未来のあなたは、たくさんたくさん努力して——
ルカ:いつか、憧れの演出家さんに会えるのよ~って
司:類、せっかく掴んだ機会だ!
司:戸惑う気持ちもあるだろうが切り替えて、 思い切りぶつかってこい!
えむ:頑張ってね、類くん!
ルカ:すぅ……すぅ……
ルカ:……類くん、ファイト~♪……
MEIKO:ルカったら、ずいぶんはっきりした寝言ねえ
類:……フフ
類:ありがとう、みんな。 今の僕にできる全力で、学んでくるよ

第 3 话:“つまらない”

数日後
アークランド ワークショップ会場
ベテラン演出家:それではこれより、 演出家コースのワークショップをはじめます
榊:堅苦しいのは好きじゃないし、 ここからはざっくばらんにいかせてもらうよ
榊:ってわけで、早速もうひとりの講師にご登場願おうかな
トム:『——やあ。僕の声は聞こえてるかな?』
榊:『聞こえてるし、君の寝癖も しっかりスクリーンに映ってるよ。トム』
トム:『よし。それなら問題なしだね』
類:(世界的に活躍している演出家同士、 交流があるのは自然だけれど……)
類:(このふたりは、かなり親しいようだね)
榊:ああ、そうそう。 今回のワークショップは、基本的に 日本語も英語もごちゃ混ぜだから
榊:よっぽど専門的な単語は通訳するけど、 いつか海外で仕事するときの予行だと思って 頑張ってついてきて
榊:スマホとか、パソコンの翻訳機能を使ってもいいよ。 トムもそうしてるしね
トム:『皆さん、こんにちは。 抱えている仕事の関係で日本には行けないけれど、 このワークショップをすごく楽しみにしていたんだ』
トム:『僕達は講師って立場だけど、 君達からも教えてもらうことがきっとたくさんある』
トム:『全員で、実りのある時間にしていこう』
ベテラン演出家:ではここからは、 ワークショップの課題について説明していきます
ベテラン演出家:演出家コースの課題は、『一からショーを作り上げること』
ベテラン演出家:アークランドの舞台で上演する新しいショーを 手掛けるなら、という想定です
類:……アークランドで上演するということは、 世界的にも通用するようなレベル——
類:幅広い年齢層が楽しめる娯楽性と、 高い芸術性の両方が求められるということか
ベテラン演出家:それぞれのオリジナリティを見たいため、 既存の戯曲や映画からの翻案はなし。 オマージュ程度であれば問題ありません
ベテラン演出家:また出演者については、同じくワークショップに 参加している役者に声をかけてください
類:(……なるほど。となると僕の場合は、 司くん達に協力してもらうことになりそうだな)
榊:上演時間は、1時間を目安にまとめてね
榊:1カ月で仕上げたら、僕達の前でお披露目と講評タイムだ
榊:アークランドさんからビシバシしごいてほしいって 言われてるから。へこまないでね
若手演出家A:……笑顔なのが余計怖いな……
若手演出家B:まあ、厳しく言ってもらえるほうが勉強になるし。頑張ろうぜ
トム:『課題の説明は以上だよ。 いいものを見せてもらえたら嬉しいな』
榊:それじゃあ、これで解散——と言いたいところだけど……
榊:せっかくだ。本格的に課題に入る前に、 軽い腕試しをしよう
若手演出家A:腕試し、って……
トム:『みんな、身構えなくても大丈夫だよ。 一緒にワークショップをやっていくメンバーを 知るための宿題みたいなものさ』
トム:『というわけで、次回までに自己紹介を兼ねて 短いショーを作ってほしい』
類:自己紹介……?
榊:演出家なら、自分の演出で語るのが一番早いでしょ?
榊:テーマは“雨”。 アークランドの入口近くにあるアーケードで、 3分程度のショーをやる想定で作ってみて
榊:ただし実際に演じるのはこの会議室だから、 環境面は考慮すること
榊:役者は1名。 演出をフラットに見るために 今回はこちらで指定させてもらうよ
榊:君達もよく知っている、玄武旭だ
類:…………!
類:(なるほど。旭さんならどんな役柄にも対応できるから、 演出の力量差がわかりやすく出る)
類:(僕達の実力を、講師側が見極めるのにうってつけだ)
榊:脚本と演出プランは、次回のワークショップまでに 完成させてくること
榊:——期待してるよ?
類:ここが、上演を想定しているアーケードか
類:入口近くのアーケードでやるのであれば、 観客の年齢層はそれほど偏らない……
類:アークランドの世界観に馴染ませたうえで、 これから過ごす時間への期待が高まるような、 そんなショーにできると良さそうだ
類:(……しかし、トムに演出を見てもらえるなんて まるで夢のようだね)
類:(自己紹介を兼ねたショー……。 難しい課題だけれど、頑張ろう)
類:アークランドに合わせるのであれば、 魔法やファンタジー要素は相性がいいだろう
類:あとは……自己紹介として、 僕自身に関係のある題材を盛り込むのがいいかな
類:そうだ。昔、ゲリラショーをやっていた時の アイディアを使って——
1週間後
旭:『ああ、もう! なんでオレの大切な日には、いつも雨が降るんだ!!』
旭:『このままじゃ、姫との結婚式が台無しだ!』
旭:『——おや。ずいぶん濡れてしまったね』
旭:『よければ僕の家で休んでいかないかい? 温かいスープもあるよ』
類:(……興味深いな)
類:(同じテーマと条件を与えられている分、 それぞれの演出家の個性がはっきりと際立って、勉強になる)
類:(そして、何より——)
榊:最後のセリフに、“意味”をのせたほうがいいね
榊:今だと、単なる日常会話でしょ。 もっと印象に残る言い回しを意識してみて
若手演出家A:わかりました
トム:『構成の大胆さはよかったね。 観客の興味を引き付ける工夫がされていたよ』
ベテラン演出家:そうですね。 あとは小道具に頼りすぎている箇所を——
類:…………
類:(圧倒的な経験に基づいた、あらゆる角度からの分析—— 講師からの指摘は、どれも学びの宝庫だ)
類:(これを聞くだけでも、 ワークショップに参加した価値があるね)
ベテラン演出家:——次で最後ですね。神代くん
類:はい。 ……よろしくお願いします、旭さん
旭:ああ
旭:『——なあ、君は見たことがあるかい?』
旭:『何をって? 雨の日にだけ咲く特別な花さ!』
旭:『この辺りで見かけたって人がいて、探しにきたんだ』
ベテラン演出家:——雨の日にだけ咲く花を探して、 テーマパークに迷い込んだ植物学者
ベテラン演出家:花を探す道中で、雨の日にしかできない 特別な体験を観客にも共有する構成ですね
類:はい
トム:『全体的にあたたかい雰囲気で、 子供から大人まで幅広く楽しめそうだ』
トム:『ところで、違っていたら恥ずかしいんだけど…… 君は、“蜜蜂の声”を見てくれてたりする?』
類:『……はい』
類:『雨の中で、群衆の傘を無数の花に 見立てる演出が印象的でした』
トム:『ああ、やっぱり!』
トム:『すごいなあ。あの舞台の映像って、 古すぎてもう一般には出回ってないはずだけど』
類:(本人の前で、直接的な オマージュは避けたつもりだったけれど……)
類:(やっぱり、伝わってしまうものなんだな)
榊:…………
ベテラン演出家:——僕の所感は以上です。 榊さんはいかがですか?
榊:……そうですね
榊:よくまとまっていると思ったかな。 高校生とは思えないくらい、 テクニックと客観性がずば抜けてるよ
若手演出家C:……すごいな、彼
若手演出家B:ああ。今までの講評で榊さんが あそこまで褒めたの、初めてじゃないか……?
類:(違う。これは…………)
榊:——けど、それだけかな
榊:僕はファミリー向けの作品、結構好きなんだけどね。 単純に見えて奥深いでしょ、ああいうのって
榊:でも、君の脚本と演出はそうじゃない
榊:つまらないもの作るねえ——『カミシロくん』

第 4 话:埋まらぬ差

アークランド ワークショップ会場
ベテラン演出家:それでは、本日のワークショップを終了します
ベテラン演出家:このあとの予定ですが、希望者については——
類:………………
類:(……つまらない、か)
榊:君はきっと頭もいいし、かなり器用だ。 だから今のままでも、ある程度のところまではいけるよ
榊:求められるものに応えるのも才能だしね。 けど……君はもう少し違うタイプだと思うな
類:違うタイプ……
榊:——って言っても、これは僕の個人的な感想だから。 そこまで気にしなくていいよ
類:(他の受講生へのフィードバックを聞く限り、 彼の指摘はいつも本質を突いていた……)
類:(これは“個人の感想”で処理していい話ではない)
類:……幅広い客層に届くもの、という作り方自体が 間違っているわけではなさそうだった
類:だとすれば、題材の掘り下げ方に問題が? 一般的な方向に寄せすぎて、 オリジナリティが不足していたのかも——
司:——おい、類?
類:司くん……? どうしてここに?
えむ:あたし達もいるよ~!
寧々:こっちもワークショップが終わったから、迎えにきたの。 類も見学、行くでしょ?
類:見学……?
司:なんだ、説明されなかったのか?
司:この後、希望者は勉強の一環として THE CENTER THEATREで行われる ショーの稽古を見学させてもらえるそうだ!
えむ:しかもね、主役は旭さんなんだって!
類:ああ。そういえばさっき、 この後の予定について説明されていたような……
類:(考えに没頭しているうちに、聞き逃してしまったようだ)
類:(講評の件はきちんと考えるとして…… 今は切り替えなくては)
類:——迎えに来てくれてありがとう。 早速、見学させてもらおうか
THE CENTER THEATRE
えむ:ひゃ~……! すっごくきれいな劇場……!
寧々:さすが、国内最高峰の舞台だね……
類:THE CENTER THEATREで上演ができるのは、 アークランドの中でも特に優秀な 俳優だけだと聞いていたけれど……
類:劇場としても、設備面で かなりこだわった造りになっているようだね
舞台スタッフ:客席からだと大道具の陰になりそうなので、 このシーンの立ち位置が変更になっています
旭:わかりました。実際にやってみて違和感があったら、 また相談させてもらいます
舞台スタッフ:勿論です。あと、照明のタイミングなんですが——
司:旭さんだな。 今日は通し稽古だそうだから、事前の打ち合わせか?
類:そうみたいだね
類:今日は演出家のワークショップにも 協力してくれていたけれど…… 本当にタフで頭が下がるよ
舞台スタッフ:僕のほうからは以上ですね。 旭さんのほうで、何か気になるところはありますか?
旭:いえ、大丈夫です
旭:……あの、稽古が始まるまで、 少し席を外してもいいですか?
舞台スタッフ:いいですよ。 お腹が空いたからって、衣装のまま食事はなしですけど
旭:あはは、大丈夫です! ちょっと友人と話してくるだけなので
旭:——みんな! 見にきてくれたんだね
司:はい! 勉強の一環として、 運営の方から声をかけていただいたので
旭:そっか。よければ、あとで感想を聞かせてもらえると嬉しいよ
旭:今回のショーは、俺にとってもいろいろと特別だから
類:特別、というと?
旭:今回のショーは、トムの原案と演出なんだ
旭:事前情報がほとんど伏せられてるから、 まだ一般には公表されていないけどね
類:そうなんですか……!
類:それは……おめでとうございます
旭:ありがとう。役者の道に進んだら、どこかで道が交わることも あるかもしれないとは思っていたけど……
旭:今回の話を聞いた時は、うまく反応できなかったな。 なかなか実感がわかなくて
類:……その気持ちは、わかる気がします
舞台スタッフ:旭さーん! あと5分で稽古スタートです!
旭:おっと、そろそろ行かないとだ。 じゃあみんな、楽しんでいってくれ!
司:客席から応援しています!
えむ:がんばってください!
旭:『うわ、あちこち蜘蛛の巣が張ってる。 不気味な屋敷だな……』
旭:『まあ、いい。 さっさと掃除をして売り払ってしまおう』
旭:『……ん? 今、廊下の先を何かが横切ったような——』
役者A:『誰だ……? 屋敷に無断で立ち入る不届き者は…………』
旭:『うわあっ!?』
類:(——ショーの演目は、『グッバイ・ゴースト』)
類:(旭さんが演じる主人公のルークは、 幼い頃に家族を亡くした天涯孤独な青年だ)
類:(心根は優しいけれど、他人と関係を築くことが苦手なせいで 仕事も長続きせず、自暴自棄な生活を送っている)
類:(そんなルークが、ある日突然 遠い親戚の遺産だという古い屋敷を 相続したところから、物語が始まっていく)
旭:『——オーケー、理解した。 俺の遠い親戚はものすごく変人で、 わざわざ本物の幽霊屋敷を買って住んでたわけだ』
役者A:『変人とは失礼な……。我々にとってはよき同居人だったぞ』
役者B:『うん! ここは友達もいっぱいで楽しいんだ~♪』
旭:『……その“友達”は全部で何人いるんだ?』
役者C:『ゴーストの数を聞いているのなら、 ざっと100人はいますわね』
旭:『そんなに入るわけないだろ!! ……もしかして俺、いま誰か踏んでたりする!?』
寧々:ふふっ……
えむ:幽霊のお話だけど、あんまり怖くなくておもしろいね!
司:そうだな。コミカルなシーンも多いし、 これなら子供から大人まで安心して見られそうだ
類:…………
類:(屋敷に住み着くゴースト達は皆、気まぐれで自由奔放。 気に入らない入居者は、あの手この手で追い出してしまう)
類:(金銭的に余裕のないルークは、一刻も早く この屋敷を売ってしまいたいけれど…… このままでは安く買い叩かれる未来しか見えない)
類:(悩んだ末に、ルークはある計画を思いつく)
類:(ゴーストがこの世に留まるのは、未練のため。 だから——その未練を全て解消してやれば、 ゴーストは屋敷からいなくなる)
類:(悪戦苦闘しながらも、ルークはゴースト達の未練を聞き出し、 彼らの望みを次々と叶えていく……)
役者B:『ぼくがやりたいこと?』
旭:『思いつくものは全部言ってみてくれ。 できる限り叶えるから』
役者B:『うーん。いっぱいあるけど……』
役者B:『……おとうさんとおかあさんと、 手をつないでお出かけしたいな』
役者B:『ぼく、ずっと病気で、 ベッドで寝てるだけだったから……』
旭:『…………』
類:(もう一度、大切な人に会いたい。 喧嘩別れしてしまった友人に謝りたい)
類:(そんな風に、ゴースト達の願いはどれも切実でささやかだ)
類:(一見、恨みに憑りつかれているように見えても、 その奥底には——)
役者C:『——協力してくれて感謝します、ルーク。 おかげですっきりしたわ』
旭:『俺はただ、君の恋人だった男を 屋敷まで連れてきただけだけど…… 本当に、あれでよかったのか?』
役者C:『いいのよ。悪霊のふりをして脅かしてやったから、 100年の恋も冷めたでしょう』
役者C:『実際、悪霊のようなものよ。 ……わたくしを忘れられず、 泣き暮らすあの人を見るのは気分が良かったわ』
旭:『…………でも、それって悪いことなのか?』
旭:『誰だって、大切な人に忘れられたら……寂しいだろ』
役者C:『ええ。けれど、 それでもいいと思えるくらい——愛しているの』
寧々:……すごいね
司:……ああ。 旭さんが演じるルークは勿論だが——
司:舞台上では描かれていない、 ゴースト達の人生が目の前に浮かんでくるようだ
類:(幽霊達の表情は、仮面に覆われていて見えない)
類:(生者と死者の超えられない壁の表現であり、 表情を観客の想像にゆだねることで、 より感情移入しやすくなる…………)
類:(演出のテクニックについては、分析も理解もできる)
類:(けれど——)
旭:『とうとう俺達だけになっちゃったな』
役者A:『ああ……。 よくあれだけのゴーストの未練を晴らしたものだ』
旭:『あ、もしかしてこの酒って、そのご褒美? すごい高そうな年代物だったけど』
役者A:『いや。生前に隠しておいて、 そのまま飲む機会を失っただけだが……』
役者A:『お前のおかげで “友と親しく酒を飲みたい”という未練が晴れた。 私も、今夜で屋敷を去ろう』
類:(ゴースト達との賑やかな生活で、 孤独だったルークはこれまでにない安らぎを感じる)
類:(けれど、ゴーストを見送る度に、 自分がまたひとりになる未来も見えてきてしまう)
類:(そしてこれが、最後の別れ…… ストーリー上の最も重要な見せ場だ)
旭:『……寂しい、って言ったら笑う?』
役者A:『いいや。 そう惜しまれるのは良き別れだ』
旭:『そっか…………。 うん、そうだよな』
旭:『……ひとりでいた頃は、 寂しいなんて思わなかったのにな』
旭:『喉が詰まってるみたいに、苦しくて……。 泣きたくないのに、涙が止まらない』
旭:『でも……それでも、出会えてよかったよ。 お前にも、この幽霊屋敷にも』
旭:『——ありがとう』
榊:僕はファミリー向けの作品、結構好きなんだけどね。 単純に見えて奥深いでしょ、ああいうのって
類:(……ひとりまたひとり、ゴーストが消えていく度に、 賑やかだった舞台には空白が増え、 観客の心に寂しさの穴が開いていく)
類:(けれど、最後……この細いスポットライトに 照らし出された笑顔を見て、皆、実感する)
類:(これは出会いと別れ——人生そのものを描いた物語だと)
類:(そして、全ての別れの果てにすら、 確かに幸福が存在することを……全身で、心の底から感じられる)
類:(……脚本も演出も、その差は明らかだ)
類:(いくら彼の演出に影響を受けていて、技術を真似たとしても)
類:(世界の深さも、語られる言葉の重みも。 何もかもが…………)
類:……まだまだ、遠いな
類:(この差を埋めるためには、どうすればいいか……)
類:(まだ、見当もつかない。それでも——)

第 5 话:悪夢

類の部屋
類:(ショーの原案と脚本を考える前に…… まずは、前提を整理してみよう)
類:課題は、『一からショーを作ること』
類:アークランドで上演することを想定し、 完全なオリジナルであることが求められている
類:そして目指すのは、誰もが楽しめて、 見終わった後に心がひとつになるような……そんなショーだ
類:(そう。今日見た、『グッバイ・ゴースト』のような)
類:……自己紹介のショーでも、目指したものは同じだ
類:そして——“つまらない”という評価を受けた
類:事実、僕の作るものと『グッバイ・ゴースト』の間には 大きな隔たりがある……
類:(言葉にするのが難しいけれど…… トムの舞台には“深み”があった)
類:(問題は、どうすればそれを自分でも表現できるかだ)
類:テーマの深堀りに、演出上の視点の見直し……。 まずは、いろいろと試してみるしかなさそうだね
数学教師:この公式は、今後もよく使うから覚えておけよー。 テストにも出すからな
類:(深みのある描写をするには、 自分自身がその題材に深く精通している必要がある)
類:僕でいえば……機械の製作や 舞台、学生生活などは身近な題材かな
類:この中からいくつかの要素を組み合わせて……
数学教師:…………
数学教師:神代。教科書の応用問題3、解いてみろ
類:Xの2乗マイナス3です
数学教師:………………正解
類:(いくつか原案を練ってみたけれど、どれも決め手に欠けるな)
類:(ショーとしては成立しているけれど…… 既存作品の要素を切り貼りして、 無理やりまとめ上げたようにも見える)
類:(何より……僕自身が、面白いとは思えない)
類:——もう一度、やり直そう
数日後
スクランブル交差点
類:全員揃ったね。 では、アークランドへ向かおうか
司:ああ! しかし、お前……
寧々:類、最近ちゃんと寝てる?
類:え?
寧々:目の下。クマができてる
えむ:うん……それに、なんだか疲れてるみたい
司:演出家コースの課題で何をやるかは聞いたが、 かなりハードなスケジュールなのだろう?
司:多少の無理をしてでも食らいつきたい時があるのは、 オレも経験があるからわかる
司:だが……あまり自分を追い込みすぎるなよ
えむ:何か困ってたら、教えてね! ちょっとなら手伝えることがあるかもしれないし!
類:……ありがとう、みんな
類:確かに、課題について考えることが多くて 寝不足気味ではあるけれど、大丈夫だよ
類:超えるべき壁が見えたからね。 もう少しだけ、頑張ってみたいんだ
寧々:……わかった。 でも、あんまり無理しすぎないでよ
類:ああ
ワンダーランドのセカイ
類:(……環境を変えれば、何かアイディアが湧く きっかけになるかと思ったけれど)
類:(どうも、頭がうまく働いていないみたいだ)
類:……昼間は、みんなにも心配をかけてしまったな
類:(役者側のワークショップも、かなりハードなはずだ。 それにこの後は、僕の課題に協力してもらうことになる)
類:(原案と脚本が遅れれば、 その分だけ稽古に使える時間が減っていく)
類:(それだけは、絶対に避けたい……)
類:(……眠気のせいか、さっきから思考がまとまらない)
類:(少しだけ、仮眠を取ろう)
類:(————体が、重い)
類:(何かが、足に絡みついているみたいだ……)
???:『…………ねえ』
類:なんだ? 今、どこかから声が——
???:『ねえ。どうして目を逸らすんだい?』
類:目を……? 一体、何を言っているんだ?
???:『見ない振りをしても、消えはしないよ』
???:『だって、僕は——』
???:…………類くん
???:類くん、大丈夫?
ルカ:……ああ、よかった。目が覚めたのね
類:ルカさん……?
ルカ:起こしてしまってごめんなさい
ルカ:でも、眠っている類くんが、なんだか苦しそうだったから
類:眠って……
類:(ああ、そうか……。 さっきのは、夢だったのか)
類:——むしろ、起こしてもらえて助かったよ
類:でも、ルカさんはどうしてここに?
ルカ:ふふ、ぬいぐるみさん達と一緒に ステージで寝ようと思ったのよ~
ルカ:今度やるショーのために、カイトくんが ふわふわの雲みたいなクッションを いっぱい作ってくれたの
ルカ:ちょっとなら使ってもいいって言われたから、 みんなで寝てみましょうって
ルカ:なんだか、すてきな夢が見られそうでしょう?
類:なるほど。確かにいい夢が見られそうだね
ルカ:類くんは……怖い夢を見ていたの?
類:……どうかな。あまり覚えていないんだ
類:ただ、妙な生々しさがあって—— 目が覚めるまでは、あれが夢だと気づけなかったよ
ルカ:そうだったのね……
類:(だが、あの声……。 夢は一説に、深層心理の表れだと 言われることもあるけれど——)
類:(もしかすると、自分が思う以上に 追い詰められているのかもしれないな)
ルカ:——ねえ、類くん。 ちょっとなぞなぞをやってみない?
類:なぞなぞ……?
ルカ:ええ。きっと類くんなら簡単よ
ルカ:悪い夢を見ているのに、それが夢だと気づけない時……
ルカ:どうしたら、その人は目を覚ますことができるかしら?
類:…………
類:……誰か、他の人に起こしてもらう?
ルカ:ぴんぽん♪ 大正解~
類:まさに、さっきの僕と同じ状況だからね
ルカ:ふふ、言ったでしょう? 類くんには簡単だ、って
ルカ:自分だけじゃ気づけないことって、あると思うの。 誰か、他の人がいないと見えないものも
ルカ:だから今、類くんが楽しい夢を見られないくらいに 悩んでいるなら……
ルカ:今はきっと、起こしてくれる 誰かの力を借りる時なんじゃないかしら
ルカ:特に今回は、頼りになる人が身近にいるでしょう?
類:(……確かに、思いつく限りの方法は試した)
類:(それでも、解決の糸口すら見えないのなら——)
類:(僕がするべきことは、アプローチの方法を変えることだ)
類:そうだね。いつまでも悪夢にうなされているわけにもいかない
類:上手くいくかはわからないけれど…… できる限りの方法を試してみるよ
ルカ:ええ。頑張ってね、類くん

第 6 话:自分自身

数日後
アークランド 空き部屋
類:ヘッドセットとパソコンは……うん、問題なさそうだ
類:あとは約束の時間まで待機かな
類:(原案と脚本が未完成の状態で、 講師からのアドバイスをもらうことはできるか……)
類:(駄目で元々というつもりで、 ワークショップの運営に相談してみたけれど。 こんなに早く対応してもらえるとは)
類:(それに、まさか……)
類:——時間だね
類:『本日は、お時間をいただきありがとうございます』
トム:『いいや。むしろ、相談を持ち掛けてくれて嬉しかったよ』
類:『……正直に言うと、驚きました。 あなたが、アドバイザーに立候補してくださったと聞いて』
トム:『現地に行けない分、 なるべく君達とコミュニケーションを取りたいからね』
トム:『それと……君が自己紹介の時に見せてくれたショー。 あれが印象に残っていたのもある』
トム:『送ってもらった原案と、 脚本の草稿も読ませてもらったよ』
トム:『多くの人を楽しませたい、笑顔にしたい。 そんな気持ちと同時に——』
トム:『君が、何かを乗り越えようと 必死にもがいているのが伝わってきた』
類:『……はい。 ワークショップに参加して、 自分の課題が何かがはっきりと見えました』
類:『今日、ご相談の時間をいただいたのは、 それを乗り越える手掛かりを見つけるためです』
類:『少し、長い話になりますが——』
トム:『……なるほど。 もっと深みのあるショーを作りたい、か』
類:『はい。先日、“グッバイ・ゴースト”の通し稽古を 見学させていただきました』
類:『比べること自体が おこがましいのは承知の上ですが——』
類:『今の僕では、あそこまで人の心を 揺さぶるようなショーは作れない。そう痛感しました』
トム:『…………』
類:『あれから、演出方法や脚本の構成について 自分なりに分析して、取り入れられる部分があるか どうかも検討してみました』
類:『しかし結果は、参考作品を 切り貼りした歪なものにしかならなかった』
類:『何か考え方の方向性そのものに 誤りがあるのではないかと……そう思っています』
トム:『それで、講師から客観的な意見を聞こうと思ったわけだね』
類:『はい。漠然とした質問になってしまい、 申し訳ないのですが……』
類:『もし、何か気づかれたことがあれば、 率直な意見を聞かせていただけませんか?』
トム:『……そうだね。 君の原案や脚本、演出が悪いものだとは思わない』
トム:『さっきも言った通り、 観客を楽しませようという想いが伝わってくるし、 それを実現するだけの技術も情熱もある』
トム:『ただ、それでも“足りない”“深みがない”と 君が感じるのであれば——』
トム:『必要なのは、君自身の感情や経験だと思う』
類:『僕自身の……ですか?』
トム:『ああ。君はいつも、どんなことを考えて 演出をしているんだい?』
類:『………………』
類:『——僕は昔、あなたがインタビューを受けている 映像を見たことがあります』
類:『“富める人、貧しい人、賢い人、愚かな人、 マジョリティ、マイノリティ——すべて関係ない”』
類:『“すべての人が、 共に笑い、泣き、怒り——”』
類:『“そうして見終わった瞬間には、 同じ感情でつながれる”』
類:『そういうショーを、ずっと目指してきました』
トム:『うん』
類:『ショーを作る際、一番に考えるのは それを見終えた観客にどんな想いになってほしいかです』
類:『そのうえで、最も観客に響く演出は何か……』
類:『ショーを上演する場所や客層などから 題材を考えていくことが多いです』
トム:『なるほど。 君が一番に考えるのは、届けたい相手のことなんだね』
トム:『それ自体は、とても素晴らしいことだけれど……』
トム:『その過程で、自分自身を無意識に抑え込んではいないかい?』
類:『え……』
類:(自分自身を、抑え込む……?)
類:『どちらかといえば、僕は我が強い方だと思います』
類:『自分を曲げることができずに、 演出の仕方で周りと衝突することも多い』
類:『今所属している劇団に出会えるまでは、 ずっとひとりでショーをやり続けていました』
トム:『君が自分を曲げないのは、 より良いショーを作りたいからだろう?』
トム:『そして君が思う“良いショー”とは、 多くの観客に笑顔になってもらえるもののことだ』
トム:『つまり君は、演出において 必要以上に自分の感情を入れないようにしている』
トム:『そうすることで、誰もが共感できるショーを 生み出すことができるからね』
類:『…………』
トム:『もちろん、それが悪いわけではないよ。 むしろ演出家としては理想的な姿勢かもしれない』
トム:『ただ……時には、深い感情が必要なショーがある』
トム:『そんな時——ショーに深みを与えるのは、 演出家自身だと思うんだ』
トム:『想像や借りものではない、 自分の中から出てきた感情や経験』
トム:『勿論、やりすぎると単なる 自分語りになってしまうから注意が必要だけれど——』
トム:『自分でも触れるのを躊躇うほど、 生々しく強い感情や経験が……作品に深みを与える。 僕は、そう思っているんだ』
類:(……生々しいほど、強い感情や経験か)
幼い類:……ねえお母さん。 僕って、みんなと違うのかな?
幼い類:頑張って話しても、僕が楽しいって思うこと、 みんなに全然伝わらなくて……
幼い類:先生もクラスの子も、僕はみんなと違うって言うんだ
類:僕のアイディアを見て、『できたら面白いだろう』と言ってくれる 人も少しはいたんだ
類:でも、そういう人達すら、僕が新しいアイディアを持っていくと 段々煙たがるようになっていってね
類:そんなことを繰り返すうちに……、 気づいたらひとりになっていたんだ
類:(だけど——今回わかったことがひとつある)
類:(今僕は、自分で思う以上に、 みんなとショーをやっていたいんだ——)
類:(……そういったものなら、僕の中にもある)
類:(子供の頃に感じた孤独。 周りとうまくやっていけない無力感)
類:(ショーと、仲間と出会えた喜び。 そして、仲間と離れがたく思う葛藤。 そういったものが……たくさん)
類:(けれど——)
トム:『——何か、掴めないことがあるのかな?』
類:『いえ……仰ることはわかります。 ですが——』
類:『ひとつ、聞かせてください』
類:『あなたのショーにも……自分自身の感情や経験が 含まれていると思いますか?』
トム:『……そうだね。 にじみ出てしまっているところはあるんじゃないかな』
トム:『“グッバイ・ゴースト”の幽霊達には、 僕が今まで見送ってきた両親や、 友人達が紛れ込んでいる気がするしね』
トム:『どれも、他人に話すには少し重い話かもしれないけれど——』
トム:『彼らと過ごした日々や、貰ったものは、 今も舞台の上で生き続けている』
トム:『虚構ではあるけれど、嘘じゃない。 だからこそ、それを見た観客の心に、 何かを残せるんじゃないかな』
類:『そう、ですね——』
類:『……今までにも、自身の経験や感情を ショーに反映させたことはあります』
類:『けれど、今の話を聞いて…… 無意識のうちにブレーキをかけていたのかも しれないと思いました』
類:『自分の生々しい感情を入れたショーが、 観客に受け入れられることはない、と』
類:『だから——踏み込むことができなかった』
類:『けれど……』
類:(……自分の中から出てくるものでしか、 深みのある作品は作れない。それなら……)
類:『自分自身をもっと解放して、そのうえでたくさんの人を 楽しませるショーを作ることを目指す……』
類:『難題ですが、挑戦のし甲斐がありそうですね』
トム:『ああ。 ……どんなショーを見せてもらえるか、楽しみにしているよ』
類:(……おかげで、やるべきことは見えてきた。 ショーの中で何を描くべきなのかも)
類:(この感情は、ショーにするには ドロドロとしすぎているかもしれないけれど——)
類:(やってみよう。 ……自分の限界を、超えるために)

第 7 话:開幕

課題発表 当日
THE CENTER THEATRE 舞台裏
司:——ついに、この日がやってきたな
類:そうだね。改めてにはなるけれど…… みんな、僕の課題に協力してくれてありがとう
類:役者側のワークショップもある中で、 稽古をするのはかなり大変だったんじゃないかな
寧々:まあ、元々ハードな内容だっていうのは聞いてたし……
司:うむ! ワークショップで学んだことを、 実際のショーの中で活かしたいとも思っていたからな!
えむ:みんなに見てもらうの、ドキドキするね~!
類:ああ。今回のショーは、これまでのワークショップの 成果を披露する場だ
類:観客は同じく、ワークショップの参加者と講師だけ。 終わった後には、厳しい講評が待っている——
類:……けれど、今はそういったことは忘れよう。 僕達がやることは、いつもと変わらない
類:目の前の観客に向けて、全力でショーを届けるだけだ
えむ:うんっ!
司:それに、今回のショーがどんな評価を受けるかは、 オレ達も興味がある!
寧々:今までとは、かなり雰囲気が違う内容だしね
えむ:最初はちゃんとできるかな~?って思ったけど、 今は演じててすっごく楽しいよ!
類:フフ。 そう言ってもらえると、演出家冥利に尽きるね
司:類らしくもあり、同時に『こう来たか』と 思わされる脚本と演出だった
司:かなり悩んでいたようだが…… これが、お前の辿り着いた答えなんだな
類:——そうだね。 今の僕にできることは、全部詰め込んだつもりだ
司:よし。我らが演出家の—— そしてワンダーランズ×ショウタイムの新境地だ
司:全員で、最高のショーにするぞ
えむ・類・寧々:『おー!』 『ああ』
榊:『次は——ああ、カミシロくんね』
榊:『そういえばトム、この間何か相談受けてなかった?』
トム:『ああ、少しだけアドバイスをさせてもらったよ。 彼はとても可能性を感じる青年だね』
榊:『ええ? リップサービスとかじゃなくて?』
トム:『もちろん。 ——君にもすぐわかるんじゃないかな』
榊:……ま、少しは期待しておこうかな
御者:『ひっ……! た、助けてくれ……!!』
???:『ははは! なんだなんだ、もう泣き言か?』
怪物:『もっと速く走れるだろう? 俺を退屈させるな!』
御者:『か、怪物が馬車の上に……! う、うわあ……っ!?』
怪物:『……斜面を転がり落ちていったな。 ということは、駆けっこは俺の勝ちか』
怪物:『はあ……つまらないな。 せっかく暇つぶしの相手が現れたと思ったのに』
怪物:『そうだ! 人間に化けて、街にでも行ってみるか』
怪物:『何か、面白いものが見つかるかもしれない』
酒場の主人:『——はい、ご注文のエール。 お兄さん、見ない顔だけど旅の人かい?』
旅の青年?:『ああ、そんなところだ!』
酒場の主人:『それなら気を付けな。 この近くの森には、おっかない怪物が出るんだ』
旅の青年?:『へえ……。 その怪物は、どんな風に恐ろしいんだ?』
酒場の主人:『とにかく自分勝手で残酷なんだよ。 知恵もまわるし、力も足の速さも 人間よりずっと上だって言うんだから性質が悪い』
酒場の主人:『今日だって、馬車が面白半分に 追いかけ回されて大変な目に遭ったそうだ』
旅の青年?:『ほうほう。 きっと遊び相手に飢えていたんだろうな』
酒場の主人:『そんなことで追い回されちゃかなわないって! お兄さんも気を付けなよ』
怪物:『……やっぱり、人間とは話が合わないな』
怪物:『面白さ以上に大切なものなんて、 この世にあるのか?』
怪物:『はあ、酒場というのもつまらない——ん?』
???:『♪—————— ♪——————~~』
怪物:『……これは……』
吟遊詩人:『おや。もしかして、 吟遊詩人の歌を聴くのは初めてかな?』
怪物:『吟遊詩人……?』
吟遊詩人:『そうさ! 僕達は旅をしながら、 その土地のさまざまな伝説や出来事を 詩と曲にして歌い歩くんだ』
怪物:『へえ……! 面白いな』
怪物:『さっきの歌を聴いてる間は、退屈さを忘れられた』
怪物:『もし、自分で吟遊詩人の歌が歌えるようになれば——』
怪物:『なあ、俺にも歌い方を教えてくれ!』
吟遊詩人:『えっ? それって、弟子になるってこと!?』
吟遊詩人:『弟子かあ……! 憧れてたんだよな…… って、これじゃ師匠っぽくないか。オホン!』
吟遊詩人:『君、本当に弟子になりたいのかい?』
怪物:『弟子……? まあ、歌えるようになるならなんでもいい』
怪物:『俺を弟子にしてくれ!』
吟遊詩人:『う~ん。そんなにまっすぐな目で 言われちゃうとなあ……』
吟遊詩人:『いいよ、わかった。 今日から僕のことは、師匠って呼ぶんだよ』
怪物:『ああ、わかった!』
怪物:『♪—————— ♪——————』
吟遊詩人:『へえ。想像以上に筋がいいね』
吟遊詩人:『けど……その奇天烈な詩、どうにかならない? 酔っぱらいの見る悪夢みたいだよ』
怪物:『じゃあ、どんな詩ならいいんだ?』
吟遊詩人:『そりゃあ、もっと人の心に響くような詩だよ! たとえば——』
街の人間A:『兄ちゃん、吟遊詩人の弟子なんだろ? 何か1曲歌ってもらえないか?』
怪物:『断る。俺はお前達に聞かせるためにやってるわけじゃ——』
吟遊詩人:『コラーっ! そういう言い方はダメだって教えただろ?』
吟遊詩人:『それに吟遊詩人は、人に歌と物語を伝えるためにいるんだ。 そんなことを言うなら、もう教えないよ?』
怪物:『む……それは困るな。 わかった、1曲だけだぞ』
怪物:『♪———— ♪——————』
街の人間A:『おお……こいつは……』
街の人間B:『まあ、上手ねえ! ずっと聴いていたくなるよ』
怪物:『……なんだ。人間も、少しは見る目があるじゃないか』
街の人間A:『兄ちゃん、ありがとな! おかげで明日からも仕事を頑張れそうだ』
怪物:『ああ! 気が向いたら、また歌ってやる』
街の人間A:『ほんとか? じゃあ今度は、かみさんと聴きにくるぜ』
吟遊詩人:『……ふふ』
司:(怪物は、こうして少しずつ人間達の輪に溶け込んでいく)
司:(初めはただ、自分の求める“面白さ”のためだったが——)
吟遊詩人:『君の周りには、人の笑顔が集まるね』
吟遊詩人:『時々、びっくりするような 突拍子もないことをやったりもするけど……。 そこも含めて面白い』
吟遊詩人:『僕は、いい弟子を持ったよ』
類:(怪物の本質は、ずっと変わることがない。 無邪気で、面白いことだけを求めている)
類:(けれど——)
司:(心の奥底では、何かが芽生えている)
司:(自分でもまだ気づいていない、 その感情を表現するために……)
怪物:『…………そうか』
アークランドの演出家A:……上手いな、今の
アークランドの演出家B:ああ。抑えた演技だけど、間の取り方とか 照明の絞りのおかげで印象的になってる
えむ:(広い舞台だと、ちゃんとおっきく演技しないと お客さんに伝わらないけど——)
えむ:(司くんと類くんが何度も話し合って、 一番いい間の取り方とかを練習したんだよね)
司:(……今のところは順調だが、正念場はここからだ)
司:(怪物の暮らす街に、ある日、 ひとりの狩人がやってきたことで——状況は一変する)
狩人:『——皆さん、聞いてください。 この街には、恐ろしい怪物が紛れ込んでいます』
街の人間達:『こ、この街にって——』
狩人:『怪物は人間に化けて、皆さんの一員のように振舞っている。 しかし、その本性はどこまでも人間とは相いれません』
狩人:『享楽的で、無邪気で、残酷。 だからこそ怪物なのです』
狩人:『いずれ、誰かを傷つける前に…… 見つけ出し、狩らなくてはいけない』
街の人間達:『……怖い話ねえ』
街の人間達:『ああ。しかも、人間に化けてるっていうのが薄気味悪いな……』
吟遊詩人:『……なんだか、嫌な空気だね』
怪物:『ああ……』

第 8 话:この手に掴んだもの

司:(狩人の言葉をきっかけに、怪物は向き合うことになる)
司:(——自分という、異質な存在に)
狩人:『怪物は人間に化けて、皆さんの一員のように振舞っている。 しかし、その本性はどこまでも人間とは相いれません』
怪物:『……そうだな』
怪物:『俺は、面白いことが好きだ。 だから人間にとって危険なことでも、 傷つけるようなことでも……なんでもやる』
怪物:『今までも、ずっとそうだった。 見た目を人間に似せても、中身までは変わらない』
怪物:『だが……それが“俺”だ』
怪物:『そういう風に生まれたものを、 どうやって変えられる?』
怪物:『俺は…………』
怪物:『俺は、望んで“怪物”に生まれたわけじゃない』
榊:(普通なら、もっと激情に駆られるか それを抑えこんでる演技をしそうなものだけど……)
類:——この場面は、あえて感情を出さずに演じてみてほしいんだ
司:感情を出さずに、というと?
類:そうだね……。 この怪物は、自分自身に絶望しているんだ
類:自分の本質からは、絶対に逃げられない。 根本から変えることもできない
類:悲しんでも、声を荒げても——周りと同じにはなれない
類:それを、自分自身が一番深く理解しているんだよ
司:(わかり合える者がいない孤独。 怪物にとっては、ずっと傍にあったものだ)
司:(仕方がないことだと諦めているはずなのに…… それでも、ここでは躊躇ってしまう)
怪物:『……師匠や街の人間を傷つけるのも、 時間の問題だったからな』
怪物:『いっそのこと、この夜闇に紛れて街を離れるか?』
怪物:『だが…………』
???:『——待て』
怪物:『狩人か……。 こんな夜中まで怪物探しとは、精が出るな』
狩人:『……ああ、そうだ。 そして今、ようやく正体を突き止めた』
狩人:『月明かりもない夜に、 明かりも持たず歩ける人間はいないからな』
怪物:『…………』
狩人:『お前はここで殺す。 ……怪物によって傷つけられた、無辜の人々に誓って』
怪物:『……ははは、なるほど! それもいいかもしれないな』
怪物:『俺が死んで世界が平和に回るなら、安いものだ』
吟遊詩人:『——待ってくれ!』
怪物:『っ、師匠!? なぜここに……』
吟遊詩人:『なぜもなにも! 弟子の様子がおかしければ、心配するだろ!』
狩人:『……どいてください』
狩人:『それはあなたの弟子ではなく、 人の振りをしただけの怪物ですよ』
吟遊詩人:『怪物かもしれませんが、 この子は僕の大事な弟子です』
吟遊詩人:『そして、人々を笑顔にできる吟遊詩人の卵でもあります』
怪物:『……っ、俺は…………』
狩人:『世迷い事を』
狩人:『その怪物がもしもまた人を傷つけたら、 あなたにその責任が取れますか?』
吟遊詩人:『それは……っ!』
怪物:『……たしかに、普通の人間では俺を止められないだろうな』
怪物:『俺は、一度“楽しい”と思ったら止まらない。 自分の欲をどこまでも優先してしまう』
怪物:『だから、そうなったときは…………』
怪物:『お前が、俺を殺せばいい』
狩人:『……何?』
怪物:『俺は、どこまで行っても怪物だ。 それは変えられない』
怪物:『だが、それでも……』
怪物:『怪物だと知っても、 俺を認めてくれる者がいるなら』
怪物:『俺は…………まだ、ここに居たい』
怪物:『お前が言うように、俺は人間を傷つけた』
怪物:『どうせ分かり合えない存在に、興味はない。 だから何をしてもいいと思っていた。だが……』
怪物:『今は、俺の歌を聴いて笑う人間を見ると、 胸の辺りがあたたかくなる』
怪物:『次はもっと上手くなって、驚かせてやりたいと、 そう思うようになった』
怪物:『俺は……人間を愛おしいと思う』
狩人:『怪物風情が、何を——』
怪物:『信じられないだろうな。だが、俺は本気だ』
怪物:『信じてもらうためなら、なんでもする。 償いが必要なら、足でも目でもお前にやろう』
怪物:『だから……チャンスをくれないか』
吟遊詩人:『ぼ、僕からもお願いします!』
寧々:(……狩人にも、自分の信じる正義がある)
寧々:(そう簡単には引けない。だから——)
狩人:『認められませんね』
吟遊詩人:『っ、銃……!?』
狩人:『足や目をくれてやる? そんな程度で、償いになると思うのがおこがましい』
狩人:『——消えろ』
怪物:『ぐっ……!!』
狩人:『避けないのですか? 次は足ではなく、心臓を狙いますよ』
吟遊詩人:『や、やめて! 本当に死んじゃう……!!』
怪物:『…………いいんだ、師匠』
怪物:『信じてもらえるまで、何発でも受けよう』
狩人:『……っ!』
怪物:『殺してもいい。 俺が死ねば、平和になるというのはその通りだからな』
狩人:『お前は…………』
狩人:『……足を出しなさい。傷の手当てをします』
怪物:『え……』
狩人:『怪物に心があるのか、私は知りません。 お前がどれだけ本気で改心したのかも』
狩人:『ですから、暫くこの街に滞在することにします』
狩人:『その言葉が真実かどうか、 見極められるその時まで』
怪物・吟遊詩人:『…………!』
吟遊詩人:『♪———— ♪————』
吟遊詩人:『——これで、怪物の物語は終わり』
怪物:『変われない怪物が、その後も人に混じって 平和に暮らせたのかどうかは、誰も知らない』
怪物:『何もかもが解決して、めでたしめでたし、 とはならなかっただろう』
吟遊詩人:『それでも、ひとつだけ確かなのは——』
怪物:『孤独だった怪物は、もういないことだ』
ベテラン演出家:うーん、これはなかなか……予想外でしたね
榊:ええ。正直、もっとエンターテインメント ど真ん中の方向性で来るかと思ってました
トム:『方向性としては、大人も楽しめるおとぎ話だね』
トム:『孤独で身勝手だった怪物の成長や、 それを取り巻く人間達の善性が とてもリアルに描けていたと思うよ』
ベテラン演出家:そうですね。 しかし、これをアークランドで上演するとなると——
司:……む。どうやら講評が かなり盛り上がっているようだな
寧々:うん。何話してるかまでは聞こえないけど……
えむ:——あ! 今、おいでおいでってされたよ!
類:どうやら結論がまとまったようだね。 行ってくるよ
ベテラン演出家:えー、お待たせしました。 演出家コースの講評を始めます
類:よろしくお願いします
ベテラン演出家:まず今回のショーでは、心理描写の繊細さが 高く評価されました
ベテラン演出家:童話のような世界観でありながら、 不条理な現実と、そこから生まれる孤独や葛藤を 観客につきつけてくる——
ベテラン演出家:ここが、もっとも大きく評価の割れた点でした
類:……はい
榊:率直に言うと、アークランドで上演するには ちょっとばかり生々しい部分が目立つね
榊:題材自体は面白かったけど、料理の仕方がまだ甘い
類:はい
トム:『——確かに、いろいろとアンバランスではあったね』
トム:『だけど、僕は好きだよ。 真剣で、熱さがあって、とても面白かった』
類:『……ありがとうございます』
類:『このワークショップのおかげで、 本当にたくさんのことを学ぶことができました』
類:『今回は、観客の求めるものとのバランスを 取りきることができませんでしたが——』
類:『この経験は、必ず次のショーに活かします』
トム:『ふふ。焦らなくていいと思うよ』
トム:『君のショーは、君の長い人生が作るものだ』
トム:『そして今日のショーは、 君のこれまでの日々が詰まった素晴らしいものだった』
トム:『そしてこれから、さらに深みを増していくはずだ。 楽しみにしてるよ、ルイ』
類:『——はい。頑張ります』
司:あの表情を見るに、満足のいく結果だったようだな
寧々:……そうだね
榊:…………
???:その『カミシロくん』って子…… 俺の言葉を理解してくれてたんだ
大原監督:ああ。 基本的には舞台演出をやりたいらしいから——
大原監督:そっちの分野がメインのお前とは、 いずれどっかでぶつかるかもしれないな
榊:……いいじゃん、神代くん
榊:おかげで、面白くなりそうだ