活动剧情

Overcome one's limits

活动ID:187

第 1 话:現実の壁

昼休み
神山高校
彰人:(学生で短期ってなると…… イベントスタッフとか飲食系が多いな)
彰人:(見た感じ、そこそこ時給がいいやつもあるが——)
彰人:……やっぱ、全然足りねえか
クラスメイトA:ため息ついてると、幸せ逃げるぞ~
クラスメイトB:何見てんのかと思ったら、バイトの求人? あ、服買いすぎて金欠とか!?
彰人:通りすがりに、人のスマホ覗いてんじゃねえよ
彰人:あと別に服のためでもねえ
クラスメイトB:へえ……じゃあ、何に使うんだ?
彰人:……夢のため、だな。 目指してるもののために、必要なんだよ
クラスメイトB:おお~! なんか大変そうだな……!
クラスメイトB:バイト探してるなら、俺が働いてるラーメン屋はどうだ? 賄いが美味くて最高だぞ!
クラスメイトA:ラーメン屋で働く彰人か……。 結構さまになりそうだな
彰人:さまになりそうってなんだよ
彰人:つうか、普通のバイトだと目標の金額を貯めるまでに かなり時間かかるからな。 なるべく時給がいいのを探してんだが……
クラスメイトA:なるほど……。 うちのファミレスも、時給は普通だから向いてなさそうだな
クラスメイトB:難しそー! でも、何かいいやつ見つけたら教えるな!
彰人:おう
冬弥:——彰人、待たせてすまない。 授業が思ったより長引いてしまった
彰人:そこまで待ってねえよ。 ちょうどクラスのヤツとしゃべってたしな
冬弥:ああ、少しだけ聞こえてきた。 たしか、ファミレスがどうとか……
彰人:スマホで求人見てたら、 あいつらのバイト先紹介されたんだよ
冬弥:……なるほど
冬弥:紹介してもらえるのはありがたいが、 俺達には時間の問題もあるからな
彰人:ああ……
彰人:(RUSH BEATSで優勝して、世界への切符をもぎ取る)
彰人:(世界を獲るための道が、やっと見えてきたってのに——)
数週間前
こはね:RUSH BEATSに出場するために、 クリアしなくちゃいけないこと——
こはね:まずは、学校のことだよね
冬弥:ああ。 大会中は、アメリカと日本を頻繁に行き来することになる
冬弥:出席日数を最低限確保するのは前提だが…… 足りない分は、この前のように 補習と課題をやらせてもらうことになるだろうな
杏:補習と課題かあ……
こはね:わ、私も手伝うから、一緒に頑張ろう?
杏:こはね~……! ありがと!
彰人:まあ、これに関してはどうにかなりそうだな
彰人:一番の問題は—— アメリカで活動していくための資金だ
杏:だよね……ここをクリアしないと、前に進めないし
彰人:さっき冬弥も言ってたが、 大会中は、日本とアメリカを行き来しなきゃならねえ
冬弥:飛行機代や、あちらで活動するのに必要な額を考えると——
冬弥:おおよそだが、最低でもこれぐらいは必要だな
杏:お年玉とかお小遣い全部使っても、全然無理……!
杏:海外で活動するのって、こんなにかかるの!?
こはね:たぶん、アメリカだからっていうのもあるんじゃないかな
こはね:私も少し調べてみたんだけど…… 世界でも、ニューヨークはかなり物価が高い方みたいなんだ
こはね:一時期はホテル料金の平均が、 6万円を超えたって記事もあったりして
杏:6万!? 1泊で!!?
彰人:とんでもねえな……
こはね:えっと、平均だから もっと安いところもあると思うんだけど……!
冬弥:しかし、宿泊費を極端に削るのは現実的とは言えない
冬弥:治安の問題もあるし、安心して体を休められるかどうかが 大会中のコンディションにも直結してくるはずだ
杏:…………そうだよね……
冬弥:俺達が、動画や音楽配信サイトで 今までに得た収益を計算してみたんだが……
冬弥:これを見てくれ
彰人:……へえ。思ったより収益があるんだな
杏:最近は、固定で聴きに来てくれる人も結構いるっぽいしね
杏:だけど……
冬弥:ああ。これでもまだ足りていない
冬弥:この不足分を、どうにかして補う必要がある
彰人:(改めて見ると……今すぐどうこうできる額じゃねえな)
彰人:(親父に土下座して借りれば、 オレの分くらいはどうにかなるかもしれねえが——)
彰人:(それじゃ意味がねえ。自分達でどうにかしねえと)
こはね:……私達、たくさん助けてもらってたんだね
こはね:遠くのライブハウスに行くときは、謙さんが送ってくれて……
こはね:アメリカでのイベントも、 大河さんが招待してくれなかったら 行く前に諦めなきゃいけなかったかもしれないんだ
杏:こはね……
冬弥:……そうだな。 たくさんの人の支えのおかげで、 俺達はただ歌うことだけに集中できていた
冬弥:だがこれからは、自分達で道を作っていく必要がある
彰人:——やらなきゃならねえことはわかった。 だが、問題はその先だな
彰人:短期のバイトで稼ぐって手もあるが、 本気でやろうと思ったら、練習時間が取れなくなる
杏:大会で優勝を目指すんなら、 一秒でも多く練習しなきゃだしね
彰人:ああ。だからこれは、最後の手段だ
彰人:まずは別の道を探すぞ。 オレ達に使える手は、全部使ってどうにかする
こはね:うん……! エレナさん達とも、 全力で戦おうって約束したもんね
杏:いざとなったら、父さん達にも話してみるよ。 相談には乗るって言ってくれてたし
冬弥:そうだな。俺のほうでも、いろいろ調べてみる
彰人:(あれから全員で、心当たりをあたってみてるが……)
彰人:(わかってた通り、簡単にどうにかなる問題じゃねえ。 短期のバイトも視野に入ってきてる……)
彰人:(資金を稼ぐために練習時間が取れなくなったら 元も子もねえが——)
彰人:(このままじゃ、RUSH BEATSで戦うどころか スタートラインにすら立てない)
彰人:……こんなとこで、止まってる場合じゃねえってのにな
冬弥:彰人——
杏:——彰人、冬弥! やっと見つけた!
彰人:は?
冬弥:白石……? 随分と慌てているが、何かあったのか?
杏:ちょっと……急いで話したいことがあって……!
杏:今すぐ、セカイに来て! こはねも呼んでるから
杏:父さんから、連絡があったの
彰人:謙さんから……?

第 2 话:No.9レコード

ストリートのセカイ
crase cafe
彰人:——アメリカでの活動資金を援助?
杏:してもらえるかも、って話!
ミク:へえ……いきなりすごい話がきたね
レン:やったじゃん! これで、RUSH BEATSに出られるかもってことだろ?
こはね:で、でも、援助って……一体誰が?
冬弥:そう簡単に出せる金額ではないし、たしかに気になるな
杏:あ、だよね! ごめん、ちゃんと最初から説明するよ。えっと……
杏:ちょっと前に、父さんに電話で相談してみたんだよね。 『すっごい賞金がもらえるような 音楽イベントとかない!?』って
彰人:相談の仕方が雑すぎんだろ
杏:もー、細かいことはいいの!
杏:……どうしても難しかったら、父さんと大河おじさんが 費用を出してくれるって話も出たんだ
杏:でも、やっぱりギリギリまで 自分達で頑張りたいって言ったら—— 『それなら心当たりを紹介する』って
こはね:心当たり?
杏:うん。大河おじさんとか業界の人に いろいろ聞いてくれるのかな?って思ってたんだけど……
杏:今日、このメッセージが送られてきたんだ
謙のメッセージ:『お前達のチームに、興味を持ってるレーベルがある』
謙のメッセージ:『オレと大河が契約してるレーベルの系列で、 “No.9レコード”ってとこなんだが 社長がお前達の歌を気に入っていてな』
彰人:No.9レコード……
こはね:聞いたことがあるような……?
杏:アメリカのレーベルなんだけど、 契約してるアーティストが みんな個性的で面白いんだよね!
杏:ストリートミュージックが中心で、 私達と似た方向性のチームもいるし
冬弥:……世界で活動すると決めた時、 海外のレーベルと組むことも視野に入れて いくつか候補を調べていたが——
冬弥:その中のひとつとして、名前が挙がっていたところだな
彰人:ってことは、レーベルの方向性もオレ達に合ってるってことか
杏:うん、それに——
謙のメッセージ:『社長には、お前達の事情を話してある』
謙のメッセージ:『RUSH BEATSに出場するなら、 先行投資も兼ねて援助できるかもしれないそうだ』
謙のメッセージ:『他にも同じような枠で候補のアーティストがいるから、 契約できるかは賭けだが——』
謙のメッセージ:『その気があるなら、話だけでも聞いてみたらどうだ?』
冬弥:これは……
こはね:ほ、本当に……?
杏:びっくりするよね!? 私も最初、これって夢かな?って思っちゃったし!
彰人:…………
彰人:(謙さんの紹介なら、受けたとしても おかしなことにはならねえはずだ)
彰人:(けど、なんか……)
彰人:——なんでだ?
MEIKO:彰人くん、どうしたの?
彰人:……今のオレ達は、アメリカでの知名度はまったくないんで
彰人:いきなり先行投資とか、契約の話まで出るのは、 こっちに都合がよすぎるっつうか……
彰人:謙さんが口をきいてくれたにしても、 なんでそこまでしてくれるのかが気になって
こはね:あ……
杏:それ、私も気になったんだけど……
杏:その社長さん、私達の歌を聴きに来てくれたことがあるんだって
冬弥:俺達の歌を?
杏:うん。RAD BLASTの会場にいたみたい
彰人:っ、あのイベントに……?
杏:大河おじさんが日本で、 若いミュージシャンを育ててるって噂を聞いて、 個人的に見に来たんだって
杏:そのあとから、私達が配信してる曲なんかも 聴いてくれてたみたいでさ
レン:そうだったんだ……!
ミク:——それなら、納得だな
MEIKO:そうね。 あの時、あの会場にいた人なら、きっと感じたはずだもの
MEIKO:会場の熱気も、歌に込められたみんなの想いも
彰人:(……そうか)
彰人:(あのイベントで、オレ達に興味を持ってくれたのか)
彰人:(なら——)
彰人:正直、まだわかんねえことはいろいろあるが……
彰人:できるだけ早く話を聞かねえとな
レン:それじゃあ……!
杏:お金のことがなんとかなれば、 練習に集中できるし、すっごい助かるもんね
冬弥:俺も賛成だ
こはね:うん、私もいいと思う!
杏:オッケー! じゃあ父さんに連絡しとくね!
彰人:ああ、頼んだ
彰人:(結局、また謙さんに借りを作っちまったが……)
彰人:(今は、なりふり構ってる場合じゃねえ)
彰人:(チャンスがあるなら、全力で掴んでやる)
数日後 早朝
WEEKEND GARAGE
彰人:……っし、椅子の位置はこんなもんでいいか?
冬弥:これだけ机から離せば、全員がカメラに映るはずだ。 小豆沢、白石、試してみてくれるか?
こはね:うん、やってみるね
杏:あ、大丈夫そう! 声もちゃんとマイクに入ってるし!
彰人:よし。じゃあこれで、ひと通りの準備は終わったな
こはね:そうだね。あとは、約束の時間まで待つだけだけど……
杏:まさか、こんなに早く社長さんと面談するなんて 思ってなかったよね
杏:ちょっと緊張してきたかも。ちゃんと英語で答えられるかな~
彰人:オレも、聞かれそうなとこは一応準備してきたが…… それ以外のこと聞かれたら、自信ねえな
こはね:大丈夫だよ! 私と青柳くんもいるし……!
冬弥:それに今日は、契約条件のような 難しい話はしないと言っていただろう
冬弥:俺達の人となりを伝えるなら、 なるべくリラックスして普段通りに話したほうがいい
杏:そ、そうだよね。リラックスしなきゃ!
杏:レーベルのこともちゃんと調べてきたし、きっと大丈夫!
彰人:ああ……
彰人:(社長についても調べてみたが…… 表に出てる情報がほとんどなかったな)
彰人:(謙さんに聞いても、 『冷静で頭が切れるやつ』としか言ってなかった)
彰人:(余計な先入観なしで話したほうがいいってこと なのかもしれねえが——)
彰人:(この面談で、これからのことが決まるかもしれねえんだ)
彰人:(……あれこれ考えるより、集中しろ)
冬弥:そろそろ、約束の時間だな
こはね:画面、繋げるね

第 3 话:面談

杏:あ……! 映った!
冬弥:映像と音声は……問題なさそうだな
こはね:『は、はじめまして。Vivid BAD SQUADです』
???:『————……』
社長:『はじめまして。 僕はアラン・カーティス』
彰人:(この人が社長……想像してたより、若いな。 20代くらいか?)
彰人:(しかも……)
冬弥:『本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます』
社長:『そこまでかしこまらなくていい』
社長:『KEN達から事情も聞いている。 余計な前置きも不要だ』
彰人:(……表情が全然変わらねえ。 不機嫌だとか、そういう感じでもねえが——)
彰人:(何考えてんのか読めなくて、少しやりづれえな)
社長:『——まずは、伝えたいことがある』
彰人:…………っ
社長:『……RAD BLASTは、実に素晴らしいイベントだった』
彰人:え……
杏:『あ……ありがとうございます!』
冬弥:『……謙さんから聞きました。 あの時、俺達のイベントを見てくださったと』
社長:『ああ。最初は、あのWALKERが 目をかけているチームがいると知って興味を持った』
社長:『そして実際に、現地で君達の歌を聴いて——』
社長:『その熱に、圧倒された。 あそこまで心が揺さぶられたのは、久しぶりだ』
こはね:『そう言ってもらえて、すごく嬉しいです』
こはね:『あのイベントは、私達だけじゃなくて…… 本当にたくさんの人の想いでできたものだったので』
社長:『ああ。観客の熱狂も、他のミュージシャンの気迫も 並大抵のものではなかった』
社長:『そして——その中心にいたのが君達だ』
彰人:『……それが、オレ達を契約の候補にしてくれた理由ですか?』
社長:『その通りだ。 しかし、実際に契約の話をする前に見極めておきたい』
社長:『君達がどんな人間で—— どんな想いで音楽に向き合い、歌っているのかを』
杏:どんな想いで、音楽に向き合ってるか——
彰人:たしかに、オレ達を知ってもらうってんなら それが一番手っ取り早いかもな
こはね:うん……!
冬弥:——最初は、俺から話させてもらってもいいだろうか?
彰人:ああ。任せた
冬弥:ありがとう
冬弥:『では、俺が音楽を始めた理由ですが——』
社長:『——最後は君だ。アキト』
社長:『君はどんな想いで、歌と向き合っている?』
彰人:『オレは……最初はただ、 真剣になれるものが欲しかったんです』
彰人:『何やっても中途半端な自分が嫌で、腹が立って……』
彰人:『そんな時に、RAD WEEKENDを見て—— そこから、世界が変わったんです』
彰人:『絶対に、これを超えたいって思いました』
彰人:『そのためなら、全部……自分の全部を使って、 犠牲にしてもいいって』
彰人:『だから…………、っ』
彰人:(——クソ、もどかしいな)
彰人:(英語だと、喋りたいことに言葉が全然ついてこねえ)
彰人:(けど……伝えねえと。 オレが思ってることは、全部)
彰人:『オレは…………歌に、人生懸けてます』
彰人:『どんなに苦しくても、目指すもんが遠くても——』
彰人:『心臓が動く限り、歌いたいと思ってます』
社長:『…………』
社長:『——君達の想いはわかった』
社長:『ビジネス面でも、個人的にも、 君達の今後の活動を応援したいと思う』
こはね:『それって……』
社長:『本格的に契約を検討したい、ということだ』
彰人:…………!
杏:やった……!
冬弥:『ありがとうございます』
社長:『ただ、その前に——アキト』
社長:『君とは、もう少し話をしてみたい』
彰人:『……オレと?』
冬弥:『彰人だけ、このまま面談を続けるということですか?』
社長:『いいや。できれば——直接会って話をしたい』
社長:『可能なら、アメリカへ来てくれないか? 勿論、費用は全てこちらで出す』
彰人:な——
杏:アメリカに来て、って言ってたよね?
こはね:ど、どうして東雲くんだけ……?
彰人:…………
彰人:(なんでオレだけが呼ばれんのか、全然見当もつかねえが……)
彰人:(冗談とか、気まぐれで言ってるわけじゃねえのはわかる)
彰人:(それに、これで契約を前向きに考えてもらえるなら……)
彰人:『——行きます』
冬弥:彰人……
社長:『ありがとう。スケジュールについてはまた別途連絡しよう。 では、また』
こはね:え、あ、あの……! …………切れちゃった……
杏:とりあえず、契約は考えてもらえそうでよかったけど……
杏:最後のあれ、どういうこと?
彰人:さあな。向こうで話聞けばわかるだろ
冬弥:……本当にひとりで行くつもりなのか?
彰人:ああ
彰人:あっちも先行投資込みで 契約するなら、納得いくまで見極めてえだろうしな
杏:もー……だからって、即決しすぎでしょ
冬弥:すぐに戻ってこられるといいが…… 学校を休むようなら、その間の授業は俺が解説しよう
彰人:あー……。 助かるけど、程々でいいからな
杏:あはは! 冬弥、ビシビシやっちゃえ!
こはね:わからないところがあったら、私も手伝うよ、東雲くん
冬弥:一緒に行けないのは、もどかしいが……
冬弥:気をつけて行ってきてくれ、彰人
彰人:——ああ。行ってくる
数日後
アメリカ 空港
彰人:——っし。スーツケースも回収できたし、行くか
彰人:(意外と、ひとりでもなんとかなるもんだな)
彰人:(けど……ここからが本番だ)
彰人:まずはNo.9レコードに行って、アランさんと面会だったな
社長:『いいや。できれば——直接会って話をしたい』
彰人:(どんなことを聞かれるかわからねえが…… これで、契約できるかが決まるかもしれねえ)
彰人:(——オレも、気合い入れていかねえと)
No.9レコード オフィス
彰人:『失礼します』
社長:『アキト、よく来てくれた。無事に到着できて何よりだ』
彰人:『はい。空港までの迎えも、あー……』
彰人:『準備、手配……?してもらえたんで。助かりました』
社長:『こちらが無理を言ったのだから、当然だ』
社長:ああ、それと……会話は日本語で構わない
彰人:……日本語、わかるんですか?
社長:KEN達もそうだが……日本人アーティストとの交遊もあるし、 日本の音楽シーンには注目しているんだ。 ビジネス上でも話せるほうが有利でね
社長:面談は、最低限の英語力があるか確認するために 英語でやらせてもらったが—— ここからは、君が楽なほうでいい
彰人:……じゃあ、日本語でお願いできるとありがたいです
彰人:こっちのほうが、本音で話しやすいんで
社長:わかった。では改めて——アキト
社長:君は、僕が直接会いたいと申し出た時、 ほとんど迷わず頷いたな
社長:アメリカへ単独で来ることに、抵抗はなかったのか?
彰人:それは——
彰人:……なんでオレだけなのかは、気になりました
彰人:けど、オレ達は何がなんでもRUSH BEATSに出たい。 協力してもらうために必要なら、迷う理由はないです
社長:……良い目だ。 音楽への情熱も、本物だと感じる
社長:————今は
彰人:(今は……?)
彰人:それって……
社長:僕も昔、音楽をやっていた。 そちらの方面では芽が出なかったが、聴く力には自信がある
社長:アキト。君は、RAD BLASTの後——
社長:自分の歌が、熱を失ったと感じたことはないか?
彰人:…………っ

第 4 话:証明してみせる

No.9レコード オフィス
彰人:熱を……
社長:僕の思い違いなら、謝罪する
社長:だが、あのイベントの後…… 君達が配信する歌を聴いていて、かすかな違和感があった
社長:君も恐らく、自覚があったんじゃないか?
彰人:……燃え尽きちまったのか……?
スレイド:なんで、何も言わないんだよ
スレイド:手加減なしって言ったじゃないか。ちゃんと歌ってくれよ。 あのイベントで歌ってたキミの歌は、 そんなんじゃなかっただろ……?
彰人:…………っ
彰人:(面と向かって言われたのは……これで2度目だな)
彰人:……たしかに、そういう時期はありました
彰人:世界を獲るって決めて、 そのために走り続けなきゃならねえのに……
彰人:いくら歌っても、前みたいに熱くなれなくて——
彰人:なんでこうなってんのか、自分でもわかんねえまま…… 燻ってたことがあります
社長:……プロのアーティストやスポーツ選手でも、 そういったことは起きる
社長:目指すもののために、 ストイックに自分自身を追い込み続けて—— ある日突然、燃え尽きてしまうことが
社長:その状態から回復できず、 そのままキャリアが絶たれてしまうことも少なくない
彰人:…………
彰人:……たぶんオレも、そうなりかけました
彰人:けど、今は違います。 本気で世界を目指してる
彰人:前以上に、熱くなれてる——そう思います
社長:そうか……
社長:その言葉を信じたいが——それなら、証明してもらえないか?
社長:君が燃え尽きてはいないことを
彰人:(——だから、オレだけが呼ばれたのか)
社長:君が本当に、世界を獲るだけの熱を持っているか——
社長:僕の目の前で、その炎を見せてくれ
彰人:炎を……
彰人:(……自分が蒔いた種だ)
彰人:(ここで、絶対に証明してみせる)
彰人:——オレは、何をすればいいですか?
???
彰人:ここは……
彰人:(オフィスがあった辺りとは、だいぶ雰囲気が違う)
彰人:(グラフィティアートが多いし…… なんとなく、ビビッドストリートにも似てんな)
ミュージシャンA:♪————! ♪————!
ミュージシャンB:♪——! ♪———! ♪————————!
社長:ここは昔から、音楽好きが集まる場所だ
社長:街の中心ほど人通りが多くない代わりに、 耳の肥えたオーディエンスが多い
彰人:へえ……
彰人:(たしかに、今歌ってるチームだけでも かなりレベルが高いな。けど——)
彰人:(オーディエンスがめちゃくちゃ 盛り上がってるってわけでもねえ)
彰人:(……これが、この辺りの『普通』ってことか)
社長:アキト。君には、今からここで歌ってほしい
社長:オーディエンスをどれだけわかせられるか、見せてくれ
彰人:……わかりました
社長:車から機材を持ってくる。少し待っていてくれ
彰人:…………
彰人:(——腹の底が、熱い)
彰人:(あの時……全力で歌えなくて、 それをわかってんのにどうにもできねえで……)
彰人:(そういう自分に、死ぬほどムカつく)
彰人:(けど——)
彰人:(この悔しさも、熱さも、全部歌に込めろ)
彰人:(覚悟を見せるには、それしかねえ)
彰人:——やってやる

第 5 话:メッセージ

ミュージシャンA:♪——————……
ミュージシャンA:『はあ、さすがにちょっと休憩するか……って、ん?』
ミュージシャンB:『どうした?』
ミュージシャンA:『いや……あそこ。見ない顔がいるなと思ってさ』
ミュージシャンB:『ほんとだな。 マイク持ってるってことは……これから歌うのか?』
彰人:(ステージみたいに注目されてるわけでも、 知名度があるわけでもない)
彰人:(なら——)
彰人:(最初から、全力でかますしかねえ!)
彰人:♪——————————!!
ミュージシャンA:『うおっ!?』
ミュージシャンB:『……すげえ。いきなりぶちかましてきたな』
彰人:♪————! ♪————!!
彰人:(——よし、何人かは掴んだ)
彰人:(このまま、もっとあげろ——!)
彰人:♪——————————————~~~!!
社長:………………
社長:『なるほど。たしかに、勢いは以前見た時と変わっていない』
社長:『いや、それ以上か。しかも……』
通行人A:『あれ、誰だろ?』
通行人B:『さあ? でも……』
通行人B:『なんか、熱くていいな』
彰人:……っ、はあ……はあ……
社長:お疲れ様、アキト
彰人:あ……
社長:感情の乗った、良いパフォーマンスだったと思う
社長:オーディエンスも、想定以上に足を止めていた
彰人:……ありがとう、ございます
彰人:(……たしかに、初見にしては オーディエンスの反応もあったほうだ)
彰人:(けど……)
社長:納得がいかない、という顔だな
彰人:………………
彰人:なんか、うまく噛み合ってねえっていうか……
彰人:全力で歌ってるつもりでも、 なんかが引っ掛かってる感じがして
彰人:(この感じ、前もどこかで——)
杏:英語だと、やっぱり感情を うまく乗せきれてない感じがしたし——
彰人:(……そうか)
彰人:——すみません。もう1回、歌わせてもらえますか
彰人:(…………やっぱりそうだ。 英語で歌ってると、微妙に“引っかかる”)
彰人:♪————! ♪————!!
彰人:(アメリカで、他のチームの歌を聴いてわかった)
彰人:(発音とリズムの取り方が、オレ達とは全然違う)
彰人:(けど、そっちを意識しすぎると…… 今度は音だけが上滑りする)
彰人:♪——————————!!
社長:…………
彰人:……っ、はあ……
彰人:(——駄目だ。あれから何回もやってるが……)
彰人:(考えすぎて、歌が硬くなってる)
彰人:(それに……)
ミュージシャンC:♪——————! ♪——————! ♪——————! ♪——————!
ミュージシャンD:♪——————————! ♪————————————~~!
彰人:(……観客は、上手いチームのほうに行く。当たり前だ)
彰人:…………全然、足りてねえ
彰人:だが、足りねえなら——
社長:そろそろ休んだ方がいい。 それ以上はオーバーワークだ
彰人:大丈夫です。体力はあるほうなんで
社長:自覚はなくても、 長時間のフライトで疲労も溜まっているだろう
社長:たしかに君は、もっと“やれる”。 だが、それと無理をすることとは別だ
彰人:……わかってます。けど——
彰人:オレは周りのヤツに比べて、何もかも足りてない
彰人:感情が乗ってたとか、想定よりよかったとか…… そんなんじゃ——証明できねえ
彰人:オレが、オレ自身の力で世界を獲るだけの熱を生み出せる—— それを証明しねえと、契約してほしいなんて絶対に言えない
彰人:だから——!
社長:………………
社長:……そこまで言うのなら、納得いくまでやってみればいい。 ただし、休憩はきちんと取ってもらう
彰人:……ありがとうございます
社長:それと、期限も決めさせてもらう。 あまり長くアメリカにいては、君も学業に支障があるだろう
彰人:……いつまでですか?
社長:2週間だ。それまでに……
社長:ここにいるオーディエンスを、どのチームよりわかせてくれ
数時間後
彰人:——すみません。夜まで付き合わせた上に、 ホテルまで送ってもらって
社長:気にしなくていい。 君は、自分の歌のほうに集中してくれ
社長:では、また明日迎えに来る
彰人:(……なんつうか、よくわかんねえ人だよな)
彰人:(相変わらず表情は変わんねえけど、 面倒見はいいっつうか——ん?)
彰人:…………うわ。すげえ数の通知
彰人:(そういや、アメリカ着いてから バタバタしてて全然スマホ見てなかったな)
彰人:(留守にするって連絡はしてきたし、 そこまで急ぎの要件はねえと思うが——)
彰人:……チームのグループチャットに、なんか上がってんな。 動画か?
杏の声:『やっほー、彰人! ちゃんとアメリカ着いた?』
こはね:『えっと……お疲れ様、東雲くん』
こはね:『時差もあって、なかなか電話もできないだろうから…… みんなでメッセージを送ることにしたんだ』
杏:『彰人、また財布すられたりしてないよね?』
杏:『今回はひとりなんだから、気をつけてよ。 あと、なんかあったらすぐ連絡すること!』
こはね:『ひとりだと、いろいろ大変かもしれないけど…… 休めるときにしっかり休んでね』
杏:『私達からはこんなとこかな! 冬弥は?』
冬弥:『大体のことは、小豆沢と白石が 言ってくれたような気もするが——』
冬弥:『彰人のことだから、正直あまり心配はしていない』
冬弥:『だが……もし何か力になれそうなことがあったら、 遠慮せずいつでも頼ってくれ』
冬弥:『——応援している』
彰人:あいつら……
レン:『やっほー!』
彰人:うおっ! レン……!?
レン:『へへっ、びっくりさせてごめん!』
レン:『彰人に送ったメッセージが、なかなか既読にならないって みんながちょっと心配してたからさ』
レン:『オレが代表して、様子を見に来たんだ!』
彰人:悪いな。 やっと落ち着いたから、ちょうど今スマホ見てたとこだ
レン:『そっか! じゃあ、みんなからのメッセージは見たんだね』
レン:『オレも、彰人の元気そうな顔が見れてよかったよ!』
彰人:ああ。あいつらにも、早めに返信しとく
レン:『オッケー! みんなにも伝えとくね』
彰人:おう、頼んだ
レン:『ねえねえ、彰人』
彰人:ん? なんだ、まだなんか用か?
レン:『用っていうか、オレも彰人に伝えたいことがあるんだ!』
彰人:伝えたいこと?
レン:『うん! あのね……』
レン:『冬弥達だけじゃなくて、オレ達もみんな、彰人を応援してるよ』
レン:『だから——いつでも頼っていいからね!』
彰人:わかった。なんかあったら、頼らせてもらう
レン:『あ、言ったなー? 絶対だよ!』
彰人:ああ
レン:『へへ、約束だからね!』
レン:『じゃあ、オレはそろそろ行くけど…… 頑張ってね、彰人!』
彰人:おう、ありがとな
彰人:……おかげで、気合いが入った
彰人:(期限までにオーディエンスをわかせて—— 絶対に、結果を出してやる)
彰人:(あいつらに、胸張って報告するためにも)

第 6 话:目的地へ

翌日
彰人:♪————! ♪——————!
観客達:『お。昨日いたあいつ、また歌ってるな』
観客達:『ちょっと聴いてくか? ——あ、けどあっちでHANDSが歌うってよ!』
観客達:『マジ!? 行こうぜ!』
彰人:♪——————~~~!
彰人:(前より、足を止めて聴いてくれる客も増えたが……)
彰人:(まだ、他のチームに持っていかれてる)
彰人:——っ、もう1回……!
数日後
彰人:♪————! ♪————————!!
観客達:『お。あいつ、今日もいるぞ』
観客達:『ほんとだ。 今日のは……英語じゃねえな。日本語の歌か?』
社長:…………
彰人:(ここ何日か、あれこれ試してみたが——)
彰人:(英語より、日本語で歌うほうが反応がいい)
彰人:(発音とかリズムの取り方に慣れてる分、 感情を乗せやすいからか?)
彰人:(ただ——)
観客達:『あの人の歌ってた曲、ノりやすくてよかったね!』
観客達:『だな。あの歌、何語だろ?』
観客達:『わかんなーい! なんかリズムは面白かったけど~』
彰人:(……やっぱり、刺さりきらねえか)
彰人:(そうだよな……。 知らない曲を、歌詞が伝わらねえ状態で聴くんだ)
彰人:(それでも観客をわかせるには、どうしたらいい?)
彰人:(もっと感情を強調してみるか? けど、やりすぎるとバランスが崩れちまうし……)
彰人:——もう一度だ
数時間後
彰人:♪————! ♪————!
彰人:♪————————……っ!
彰人:ぜぇ、はぁ、はぁ……ゲホッ……!
彰人:(クソ……さっきから、全然良くなってる感じがしねえ)
彰人:(英語でも、日本語でも…… どっかで躓いて、先へ進めなくなる)
社長:——水だ。そろそろ休んだほうがいい
彰人:あ……ありがとうございます
社長:そこのグローサリーでサンドイッチを買ってきた。 これは君の分だ
彰人:いや、オレはまだ——
社長:朝から歌いっぱなしだろう。 食べなくとも、30分は休んでもらう
彰人:……わかりました
彰人:じゃあ……いただきます
社長:ああ
彰人:………………
彰人:(この人……オレが歌ってる間は、 ほとんど付きっきりなんだよな)
彰人:(スマホとかパソコンで 仕事の連絡してるとこは見かけるが——)
彰人:あの……食事とか、明日からは自分で買いに行きます
社長:なぜ?
彰人:なぜ、って——
彰人:忙しいと思いますし、まだ契約してるわけでもないのに あれこれしてもらうのも申し訳ないんで
社長:気にすることはない
彰人:いや、でも……
社長:いいんだ。僕は、真剣に音楽をやる人間を支えたくて、 この仕事をやっているのだから
社長:何か、おかしなことを言ったか?
彰人:あ、いや…… そういう話、初めて聞いた気がしたんで
彰人:(そういえば……)
彰人:(オレ達のことは面談で話したが…… この人のことは、ほとんど知らねえな)
彰人:この仕事を始めようと思ったきっかけとか、 何かあるんですか?
社長:……特に聞いても楽しいものではないと思うが
社長:ただ……そうだな。 君にも少し、関係はあるかもしれない
彰人:オレに……?
社長:前に少し話したかもしれないが—— 僕も昔、音楽をやっていたんだ
社長:そして同じチームの中に、 とんでもなく才能のある男がいてね
彰人:そんなにすごい人だったんですか?
社長:ああ。僕は元々、彼の影響で歌い始めたんだ
社長:音楽への情熱と向上心がずば抜けていて…… 一緒に歌っていると、自分ももっと上手くなりたいと思わされた
社長:このままいけば、きっと彼は世界レベルのアーティストになる。 ……そのはずだったんだ
社長:けれど、上を目指すあまりに——彼は、自分を追い詰めすぎた
彰人:……喉を壊した、とかですか?
社長:いいや。体ではなく、先に心が限界を迎えてしまってね
社長:ある日突然、歌えなくなった。 まるで、すっかり燃え尽きてしまったように——
社長:長く苦しんだあと、彼は音楽の道を離れたよ。 その時、僕は初めて知ったんだ
社長:真剣に音楽に向き合えば、 こうなってしまう可能性は——誰にでもあるんだと
彰人:…………
社長:ただ……そうだな。 君にも少し、関係はあるかもしれない
彰人:……関係あるっていうのは、 その人が、オレと似てるからですか?
彰人:RAD BLASTの後、前みたいに歌えなくなったオレと
社長:……ああ、そうだ
社長:だから、危ういと思った。 今は歌えていても、同じ道をたどるかもしれないと
彰人:けど——その人とオレは、別の人間です
彰人:どれだけ似てても、オレはその人と同じにはなりません
社長:…………
彰人:オレは一度、全力で走れなくなりました。 ……自分でも情けねえって思ったし、仲間にも心配かけた
彰人:それでも、オレは—— 歌をやめるなんて、思ったことはない
彰人:……歌に出会って、誓ったんです
彰人:絶対に、この夢を手放したりしねえ。 バカにされたり、才能がねえって言われても関係ない
彰人:何があっても、仲間と夢を叶えるって——そう決めた
彰人:この気持ちは、絶対に変わりません
社長:——ああ。 君の歌には、それだけの覚悟が宿っている
社長:ただひとつ、伝えておきたいのは…… 情熱の火は、人をどこまでも突き動かす。とても強い力だ
社長:扱いを間違えれば、本人の身を滅ぼしてしまうほどに
彰人:それは……そうですね
彰人:けど、オレは——
社長:——だからこそ僕は、そうならないように アーティスト達をサポートしたい
彰人:え……
社長:——これが、君を気に掛ける理由だ。 たとえ契約をしていなくとも、ね
彰人:……あの、それなら……
彰人:ひとつ、相談してもいいですか?
社長:勿論
彰人:実は、今——
社長:……なるほど。言語の壁の問題か
彰人:はい。英語で歌うと、感情が乗り切らねえし、 日本語で歌うとリリックの意味が通じなくなる……
彰人:何度やっても、よくなってる感じがしないんです
社長:ふむ……。 英語に限らず、母国語以外を短期間で 完璧にマスターするのは難しい
社長:そして、意味の通じない日本語のリリックで 観客の足を止めさせるのも、難易度が高い
彰人:……ですよね
社長:ただ——君が目指すのは、 どちらかのハードルを飛び越えることだろうか?
彰人:え……
社長:大事なのは、目的地にたどり着くことだと僕は思う
彰人:目的地……
社長:——すまない、取引先からの電話だ。少し席を外す
彰人:(目的地にたどり着く……)
彰人:(どういう意味だ……?)
彰人:(オレが目指してんのは、 オーディエンスを最高に盛り上げること……)
彰人:(そのために、英語を完璧にするか 日本語で感情を押し出すかで悩んで—— どっちの道も、今は難しいってわかった)
彰人:(けど……)
社長:ただ——君が目指すのは、 どちらかのハードルを飛び越えることだろうか?
彰人:(……この考え方が、そもそも違うってことか?)
彰人:(何か、別の方法で目的地に行けたら——)
彰人:そうか。もしかしたら——!

第 7 话:自分の戦い方

数日後
crase cafe
レン:あ……! 彰人だ!
彰人:よう。冬弥、来てるか?
ミク:奥に座ってるよ。あと、杏とこはねもね
彰人:は? 冬弥しか呼んでねえぞ?
冬弥:俺が声をかけたんだ。 ふたりとも、彰人の様子を気にしていたからな
杏:もー、元気ならちゃんと連絡返してよね! こはねだって、ずっと心配してたんだから!
こはね:あ……ええと。 きっと忙しいんだろうなって思ってたんだけど
こはね:スタンプとかも返ってこないから、 大丈夫かなってみんなで話してて……
彰人:あー……悪い。 集中してやりてえことがあったんだよ
MEIKO:やりたいこと?
彰人:はい
彰人:……冬弥、これ
冬弥:このディスクは……?
彰人:オレが作った曲の音源。 ほとんどイメージだけでかなり荒いんだが
彰人:この曲の仕上げを、お前に頼みたい
冬弥:仕上げるのは構わないが……
杏:いきなり新曲って、アメリカで何かあったの?
彰人:いろいろな。 ——つっても、さすがに今回は説明しとく
彰人:その曲にも関係する話だ
冬弥:——なるほど。英語と日本語、両方を武器として活かす曲か
彰人:ああ。英語で完璧に感情乗せて歌うのも、 日本語の曲を歌唱力だけでゴリ押しするのも無理だった
彰人:だから……考え方を変える
彰人:日本語のほうが自然にリズムが取れるし、 感情も乗せやすい
彰人:そこにピンポイントで英語を混ぜて、 音とリズムでノれる曲にしたつもりだ
こはね:ピンポイントで、英語を……?
杏:でも、今までの私達の曲でも同じようなことはやってない?
彰人:まあな。けど、英語で歌うパートは限られてるだろ
彰人:それにリリックを書く時も、まずは日本語で考えてる
彰人:今回はそうじゃなくて……最初から日本語と英語の 両方を使う前提で作るんだよ
冬弥:……わかってきた気がする
冬弥:ふたつの言語を絶えず行き来しながら、 その『音』や『リズム』の面白さを押し出すわけか
こはね:あ……! そっか。 知ってる単語がたくさん出てきたら、 なんとなく歌詞の意味がわかるし、聴きやすくなるもんね
杏:切り替えながら歌うのは難しそうだけど、 決まったらめちゃめちゃかっこよくなりそう!
ミク:面白いね。どんな感じの曲になるのか、気になるな
彰人:ああ……。 このやり方が正しいのかは、正直わかんねえけどな
彰人:けど、今はそれに賭けるしかない。 本当は、実力だけでわかせたかったが……
レン:彰人……
彰人:——それでも、やらねえと
彰人:世界で戦うなら、どうせまた 同じような壁にぶつかるだろうしな
冬弥:……そうだな。そもそも、RUSH BEATSで 世界への切符を手にできるのは一組だけだ
冬弥:俺達は、俺達にしかできない戦い方をする必要がある
冬弥:もしかすると、これはその最初の一歩になるかもしれない
彰人:冬弥……
冬弥:任せてくれ
冬弥:彰人がこの歌に込めた想いも含めて、 最高の曲に仕上げてみせる
杏:正しい発音とかは、あんまり自信ないけど…… 練習するなら付き合うからね!
こはね:うん、私も一緒に歌うよ!
こはね:だから、東雲くん——頑張ってね
彰人:……おう
レン:彰人もそうだけど——みんな、頼もしくなったね
MEIKO:ふふ、そうね。 誰かが壁に挑むのを、信じて見守ったり…… 必要なときは仲間を頼ったり
MEIKO:お互いを強く信頼しているからこそ、できることね
ミク:だね。きっとこの先も、 たくさん壁にぶつかるだろうけど——
ミク:きっとこうやって、全員で突き進んでいくんだろうな
レン:うん……
レン:——なんか、かっこいいな

第 8 话:スタートライン

数日後
ミュージシャンB:『お、あいつ……』
ミュージシャンA:『ああ! ちょっと前、朝から晩まで ずっとひとりで歌ってたヤツだな』
ミュージシャンB:『だな。最近見なかったけど、また来たのか』
社長:今日で、約束の2週間だ
彰人:……はい
社長:帰りの飛行機の時間を考えると、あまり余裕はない。 心残りのないように
彰人:わかりました
彰人:(——どっちにしろ、一発勝負だ)
彰人:(冬弥に特急でアレンジ仕上げてもらって、 あいつらと練習して……やれるだけのことはやった)
彰人:(他のチーム目当てで来てるやつも、 ただぶらついてるやつも……)
彰人:(…………全員、わかせる。オレの歌で)
彰人:♪————! ♪——————……
観客達:『……ん? なんか、変わったリズムの歌だな』
観客達:『何このリリック、面白すぎ!』
彰人:♪———! ♪————! ♪——————! ♪————!
社長:『…………ほう』
社長:(上手いな。物珍しさで、何人かが足を止めた)
社長:(ふたつの言語が頻繁に入れ替わりながら 混ざることで、独特のリズムと響きを生んでいる)
彰人:♪——————————!
彰人:♪————! ♪————!
彰人:(……少しずつ、周りの温度が上がってる)
彰人:(けど、まだだ。 誰よりもわかせたって言うには、全然足りねえ)
彰人:(もっとだ。もっと——)
彰人:(全部、燃やせ!!)
彰人:♪——————————————!!!
社長:『…………っ!』
観客達:『うわ。今、ガツンってきた……!』
観客達:『ひゅー、サイッコー!!』
社長:(…………驚いた)
社長:(リズムに同調して、少しずつ観客達の空気が—— 熱が、彼に集中していっている)
彰人:♪————————————!!
彰人:(言葉がろくに通じなくて、名前すら知られてなくても—— そんなもん、関係ねえ)
彰人:(這いつくばってでも、できることは全部やる)
彰人:(必要なもんをかき集めて、超えてやる)
彰人:(………………いけ)
彰人:(いけ————!)
彰人:♪————————————!!!
彰人:はあ……はあ……
彰人:(——集中しすぎて、途中から周り見る余裕がなかったな)
彰人:(今までよりも、わいてる感触はあったが……)
ミュージシャンA:『おいおい、めちゃくちゃ化けたじゃねえか!』
ミュージシャンB:『思わず聴き入っちゃったよ。 すごかったな!』
彰人:あ……
彰人:『ありがとう、ございます』
観客達:『なあ、もっと歌ってくれないか!?』
観客達:『っていうかキミ、アーティスト名は? 曲とか出してる!?』
彰人:(やべえ。早口だとほとんど聞き取れねえ……)
彰人:『えっと……いつもは Vivid BAD SQUADってチームで歌ってます』
彰人:『他の曲を歌うのは……あー……』
社長:『——すまないが、もう時間なんだ。 だが、きっとまた聴く機会はある』
彰人:アランさん……
社長:どのチームより観客達をわかせる—— 文句なく、達成だ。おめでとう
彰人:——本当に、ありがとうございました
社長:大事なのは、目的地にたどり着くこと……。 それを、こんな形で達成するとは驚いた
彰人:……チームメンバーのおかげです
彰人:あと、今回は曲のインパクトに頼っちまったので。 二度目はないと思ってます
社長:たしかに、予想外の方向からのアプローチだった
社長:けれど、単にインパクト勝負であれば あんな風に最後まで盛り上がることはないよ
社長:観客の心に、君のひたむきな熱が届いたはずだ
彰人:次は、実力だけでわかせてみせます
彰人:英語も……もっと勉強しとくんで
社長:そうか。なら、まずは契約に関する英語を学んでもらおう
彰人:あの、それって……
社長:正式な申し込みは、チーム全員がいる場にとっておくが——
社長:Vivid BAD SQUADと契約したい。 ……君達の未来を、特等席で見てみたくなったよ
彰人:——よろしくお願いします
彰人:(これで——RUSH BEATSに出場できる)
彰人:(あいつらにも心配かけたが……胸張って報告できそうだ)
彰人:(それに——)
彰人:(これでやっと、スタートラインだな)
彰人:(RUSH BEATSで勝ち進めなきゃ、世界には届かねえ)
彰人:(ここからが——勝負だ)