活动剧情
純白の貴方へ、誓いの歌を!
活动ID:24
第 1 话:突然の代役
結婚式場
冬弥:——ここが会場か
彰人:……おい、冬弥。 本当にやる気か?
冬弥:ああ。こういったことに挑戦するのは初めてだが、 請け負ったからには全力でやるつもりだ
彰人:お前、生真面目にもほどがあんだろ。 あんな無茶な頼み、断ったところで……
彰人:……って言っても、どうせやるんだろうなお前は……
彰人:(ったく、朝の自主練が一段落したから、 メイコさんのカフェで一息つくところだったってのに)
彰人:(あの野郎、冬弥に面倒ごと押しつけやがって……)
彰人:よし。 そんじゃ、ここらで休憩するか
冬弥:そうだな。のどがかわいたから、飲み物でも買ってこよう
彰人:それなら、あっちに行くか? 新しいメニュー増やしたってメイコさんが言ってただろ。 ちょっと食ってみたいのがあるんだよな
冬弥:ああ、そういえばそうだったな。 たしか……エクストラホイップパンケーキだったか。 俺には少し甘そうだが——
冬弥:ん? 電話? ……咲希さんから?
彰人:咲希さん? 誰だ?
冬弥:司先輩の妹さんだ。 前に少し話したような気もするが……
彰人:ああ、そういやひな祭りの時に、 あいつの妹が開いたパーティーに行ってきたとか言ってたな
冬弥:しかし、咲希さんから電話がかかってくるなんて珍しいな。 何かあったんだろうか……
冬弥:もしもし、青柳です
咲希:『あっ、とーやくん!? よかったあ、つながって……』
冬弥:どうかされたんですか?
咲希:『実は、ちょっととーやくんに お願いしたいことがあって……』
冬弥:お願い?
咲希:『その……もし時間があったらなんだけど……』
咲希:お兄ちゃんの代わりに、アルバイトに 行ってもらえないかなって思って……!
冬弥:『アルバイト? というと……あの、フェニックスワンダーランドの アルバイトですか?』
咲希:あ、ううん! そっちじゃないの!
咲希:お兄ちゃんね、フェニックスワンダーランドが定休日の時、 たまにエキストラのアルバイトをやってるんだ。 スターになるなら場数を踏まねば!って
咲希:それで、今日がそのアルバイトの日だったんだけど……。 お兄ちゃんがね、体調崩しちゃったの
冬弥:体調を? 大丈夫なんですか?
咲希:『うん。病院に行ったらただの食あたりだって言われたみたい。 でもずっと痛がってるから、今日はお休みしたらって 言ってるんだけど——』
咲希:『スターたるものこの程度で仕事に穴をあけられるか!って 全然聞いてくれなくて。無理に出かけようとするの』
冬弥:それは……責任感が強い司先輩らしいですね
咲希:『でも今は、玄関の前でお腹が痛いー!って うずくまってるんだ……』
咲希:『エキストラの派遣会社の人に電話してみたら、 代わりの人がいれば大丈夫って言ってたから、 代わりが見つかったらお兄ちゃんも休んでくれるかなって……』
咲希:『あ、でも、すごく急なことだから、 無理なら断ってもらって全然大丈夫だよ!』
冬弥:……ですが、他に頼むあてはあるんですか?
咲希:『う……』
咲希:『頼めそうな人はあんまり……。 男性のキャストさんじゃないとダメなんだけど、 アタシ、男の子の知りあいあんまりいなくって……』
咲希:『とーやくんにかける前に、 お兄ちゃんと一緒にショーをやってくれてる人にも 電話してみたんだけど、全然つながらなくって……』
冬弥:……そうですか
咲希:『あ……! お兄ちゃん、無理して動いちゃダメだよ! 今代わりの人探してるから……』
冬弥:…………
彰人:どうした? 冬弥。 なんかあったのか?
冬弥:——すまない、彰人。 やることができてしまった
彰人:は?
冬弥:わかりました。 俺が代わりに行きます
咲希:え!? 本当に!?
咲希:ありがとう、とーやくん……! すっごくすっごく助かるよ!
冬弥:『いえ、司先輩にはいつもお世話になっていますから』
彰人:……おい冬弥。 代わりに行くってなんの話だ?
彰人:あと、今あいつの名前がチラっと出たような気が……
冬弥:今日なんだが、司先輩の代わりに、 エキストラのアルバイトに行くことにした
彰人:——は? エキストラのアルバイト?
彰人:いや、つーかなんであいつの代わりに 冬弥が行くことになるんだよ!?
冬弥:体調を崩されてしまったらしくてな。 咲希さんが代役を探しているんだ
冬弥:俺は司先輩に何度も助けてもらっているから、 これくらいの恩返しはしたい
彰人:つっても冬弥は芝居なんてしたことねえだろ。 それでエキストラなんて、本当にできんのか?
冬弥:……たしかに、俺では力不足かもしれない。 だが、それでもできる限りのことを精一杯やろうと思う
彰人:精一杯ってお前……
咲希:『あっ、とーやくん? お兄ちゃんが この礼は必ず!って叫んでたよ!』
冬弥:そうですか。では司先輩に、お大事にと お伝えください
咲希:『うん! あ、アルバイトの場所とか、やることについては、 お兄ちゃんからメールで送ってもらうね!』
冬弥:わかりました。 よろしくお願いします、咲希さん
彰人:おいおい……
冬弥:練習日にすまない彰人。 今日の遅れは、必ず後日取り戻す
彰人:ま、こうなったらお前はテコでも動かねえだろうからな……。 行ってこいよ
冬弥:ありがとう。 それじゃあ、行ってくる
彰人:……しっかし、本当にやれんのか? 結婚式のエキストラなんて
神山通り
類:カーボン抵抗器は、予備も入れてこれくらいかな。 ああ、圧着端子も買っておこうか
レン:『うわ~! すごいすごい!』
レン:『こういう部品が、類くんの舞台装置になるんだね。 おもしろいな~!』
類:フフ、だろう? よければレンくんも一緒に作ってみるかい?
レン:『え、いいの? やってみたい! あの空に飛ばすロケットみたいなの、作ってみたい!』
類:もちろんいいよ。一緒に作ろう
類:そうだ。せっかくだし、大きめの射出装置を作って 飛んでみるかい?
レン:『えっ! 飛ぶって、司くんみたいに……?』
類:ああ。きっと気持ちがいいと思うよ
レン:(司くん、いつもギャーって叫んでるけどなあ……)
類:さて、それじゃあセカイに行って組み立てをしようかな。 レンくん、スマホを使うからちょっとごめんね……あれ?
類:ずいぶん電話がきていたみたいだ。 買い物に夢中で気づかなかったな
類:電話は……司くんの妹さんと、司くんから……? おっと、司くんからだ
類:もしもし。……死霊のような重いうめき声が聞こえるけど、 司くんの声ではあるようだね。どうしたんだい?
類:……アルバイト? ああ、前に言っていた、エキストラのことかな
類:司くんの代わりに、青柳くんが?
類:——それじゃあ、お大事に。 たまには大人しく寝ているようにね
レン:『司くん、どうかしたの?』
類:今日行く予定だったエキストラのアルバイトに、 腹痛で行けなくなってしまったみたいなんだ
類:それで、司くんの妹さんが、青柳くんという、 司くんの後輩に代役を頼んでくれたみたいなんだけど……
類:司くんは、芝居の経験のない青柳くんが 困っていないか心配になったらしくてね
類:できれば様子を見に行って、 もし必要そうなら代役をしてほしいと言われたんだ
レン:『そうだったんだね……。 それで、類くんは見に行くの?』
類:まあ、司くんはできたらでいいと言っていたし、 文化祭で話した限り、青柳くんはしっかりしている子のようだ
類:それに、現場で演技指導をしてくれる人もいるみたいだから、 僕が行かなくとも問題はなさそうだけど……そうだ
類:——レンくん、結婚式を見たことはあるかい?
レン:『えっ? 結婚式?』
レン:『うーん、台本で読んだことはあるけど、 実際に見たことはないなぁ。でも、なんで急に……』
類:なら決まりだ。 一緒に行こうじゃないか、レンくん
類:きっと、ショー作りの参考になるはずだよ
第 2 话:困惑の式場
結婚式場
冬弥:すみません、本日エキストラとして参加する天馬の代理で来た、 青柳という者なんですが……
式場スタッフ:ああ、先ほどお電話くださったかたですね。 皆さん、あちらの控室にいらっしゃいます
式場スタッフ:衣装は用意してありますので、 着替えてからあちらにどうぞ
冬弥:あ、はい。ありがとうございます
冬弥:(そうか、衣装もあるのか。 当然といえば当然だが、ちゃんとしているな)
冬弥:(好きなサイズを選べてよかった。 それにしても……)
冬弥:(エキストラは20人ほどか。 こういうことは、あまりよくわからないが……)
冬弥:(わざわざこれだけ集めるということは、 きっと盛大な式にしたいんだろう)
冬弥:(司先輩の代わりに盛り上げられるように、頑張らなければ)
冬弥:さて、司先輩に転送してもらったメールの内容は 先ほどあらかた確認したが……
冬弥:『当日は、演出担当者が詳細を説明する』 とあったな
冬弥:……まだ、それらしい人物は見当たらないが……
式場スタッフ:エキストラの皆さん、お待たせしております
冬弥:あ……
式場スタッフ:只今、本日の演出担当のかたから連絡が入りました。 交通事情の関係で、少々遅れてしまうそうです
式場スタッフ:そのため、先に本日の流れを、 我々のほうから説明致します
冬弥:(なるほど。メールで流れを確認したとはいえ、 まだ状況を理解しきれていないから 説明してもらえるのは助かるな)
式場スタッフ:まず、今回の内容は、新婦さまから新郎さまへの サプライズとなりますので、他の出席者のかたに 内容を漏らすことのないようにお願い致します
式場スタッフ:事前にお知らせしたとおり、今回皆さんにやっていただくのは、 式内のフラッシュモブになります
冬弥:フラッシュモブ……
冬弥:(たしか、パフォーマーが通行人のふりをして、 突然路上で踊り始める……といったものだったか。 テレビで、プロポーズの際やっていたのを見たことがあるが……)
冬弥:(結婚式でフラッシュモブとなると、どんなものになるんだ?)
式場スタッフ:段取りとしては次のようになります
式場スタッフ:まず皆さんには、出席者のふりをしつつ、 屋外の人前式に参加していただきます
式場スタッフ:式の最後に、立会人代表である新郎さまのご友人が、おふたりに 『いかなる時も、互いに愛しあうことを誓いますか?』と 問います
式場スタッフ:新郎さまが誓い、続いて新婦さまが誓おうとする時、 男性役のかたに『ちょっと待った!』と声を上げていただきます
冬弥:ちょっと待った……?
式場スタッフ:男性役のかたは新婦さまの前に立ち、 『自分も彼女を愛している! 結婚しよう!』と その場で彼女にプロポーズをします
冬弥:ふむ……?
式場スタッフ:そこで新婦さまは、『私にはこの人しかいない』と 新郎さまを選びます。 皆さんはその場で『お幸せに』と言い——
式場スタッフ:そのセリフをきっかけにダンスと歌が始まり、 おふたりを祝福する、といった流れになります
冬弥:…………
冬弥:(わかるような、わからないような内容だな)
冬弥:(突然新婦に知らない男がプロポーズをしたら、 その場にいる全員が騒然としてしまうと思うが……)
冬弥:(いや、そういったところも含めて 楽しむものなのだろうか。難しいな……)
式場スタッフ:ダンスと歌については既に担当が振り分けられている ようなので、各自練習していただいて大丈夫です
式場スタッフ:その他の詳細については、演出の担当者が到着次第 指示があると思いますので、しばらくお待ち下さい
エキストラ達:そんなに難しくなくてよかったですね
エキストラ達:ですね。実は私、このエキストラ派遣会社に登録を したばっかりだったから、ちょっと緊張してたんです
エキストラ達:本当ですか? 実は私もまだ2回目で。 いつか芸能人と同じ現場とかに行ってみたいなぁ
冬弥:(……こういったものはプロのダンサーか、司先輩のような 経験者が集まると思っていたが……案外そうではないんだな)
冬弥:(さて……メールを見る限り、 俺は少し演技をしつつ歌を歌うチームのようだな)
冬弥:(歌詞と音源も添付されているようだし、 これなら開場の時間まで練習をすれば問題なさそうだ)
冬弥:(じゃあ、早速練習を……)
男性エキストラ:あの、よければ一緒に練習しませんか? みんなで歌いますし、そっちのほうがいいかなと思って
冬弥:ああ、それは助かります。 そうしたらこの辺りで——
ベテラン風のエキストラ:ちょっと邪魔だよ、もっとすみでやってくれないか? ダンスチームのほうが場所を使うんだ!
男性エキストラ:うわっ!
冬弥:大丈夫ですか? 今、ぶつかったんじゃ……
男性エキストラ:あ、はい……でも、少し肩が触れただけなので大丈夫です
ベテラン風のエキストラ:よし! じゃあ、ダンスチームの練習を始めましょう!
式場スタッフの声:え? 本当ですか!? どうしましょう……!
冬弥:ん?
男性エキストラ:なんだかスタッフさん、焦っているみたいですね。 どうしたんでしょう?
冬弥:……少し様子を見てきます
式場スタッフ:このあとの段取りはすべてお任せしていたんですが……。 代わりの人も難しい? そんな……!
冬弥:あの、どうかしたんですか?
式場スタッフ:あ……それが、演出の担当者が 後方の車に追突されてしまったようで……
冬弥:追突?
式場スタッフ:幸いケガはなかったようなんですが、車が動かないうえに 追突した人と口論になってしまったようで、 しばらく解放してもらえないらしいんです
式場スタッフ:あと3時間ほどで挙式が始まるので、 今から新しい人間を手配して演出をつけてもらうことも 難しいようですし……
式場スタッフ:……このままですと、中止の可能性もありえますので 一度、新婦さまに伝えてきます
式場スタッフ:申し訳ありませんが、 しばらく待機をしていただけるとありがたいです
冬弥:…………
エキストラ達:このまま中止になるんですかね……
エキストラ達:仕方ないんじゃないですか。 演出の人がいないんじゃ
冬弥:あの——
冬弥:俺達だけでやることはできないんでしょうか。 もしくは、ここにいるどなたかが演出をしてくれれば……
ベテラン風のエキストラ:……はぁ。演出をつけるのはそんなに簡単なことじゃない。 特にこの大人数だ
ベテラン風のエキストラ:全体の流れができてなきゃ見れたもんじゃない。 それくらい少し考えればわかるだろう
冬弥:……そうですか。 不勉強ですみません
レン:『うわ~! すごい! 結婚式場ってキレイだね! お城みたい!』
類:そうだねえ。 式場は撮影時も映えるように作られているから、 見ているだけでも楽しいね
類:ん? あれは……。 すまないレンくん、しばらく姿を隠していてくれるかい?
レン:『うん、わかった!』
冬弥:(……はぁ。 息苦しくて、外に出てきてしまった……)
冬弥:(このまま、中止になってしまうんだろうか)
冬弥:俺ではなく先輩がいれば、 なんとかなったのかもしれないな……
類の声:——白亜の式場を背に、憂える男がひとり
類の声:いいねえ。期待を掻き立てる画じゃないか
冬弥:この声は……
類:やあ。初めてのショーはどうだい? 青柳くん
冬弥:——神代先輩?
第 3 话:ためらいを捨てて
結婚式場前
冬弥:司先輩が俺のために、わざわざ神代先輩に連絡を……
冬弥:お気づかいありがとうございます。 とても助かります
類:いやいや。僕はただ見物に来ただけさ。 いい勉強になると思ってね
冬弥:勉強?
類:ああ。結婚式というものは——いわば一世一代のショーだ
類:特別な衣装を纏って、永遠の愛を誓うんだ。 ショー以上にショーらしいと言っても過言ではないだろう?
冬弥:……たしかに、そうですね
冬弥:ただ……せっかく来ていただいたんですが、 今日俺達の出番はないかもしれません
類:ん? それは、どういうことだい?
冬弥:実は——
類:なるほど、そんなことがあったんだね
類:他に、ここに演出ができそうな人はいないのかい?
冬弥:はい。そのようです。 ひとりベテランらしき人はいたんですが……
冬弥:その人にも、今から全体の動きを考えて 指導をするのは難しいだろうと言われました
類:……なるほどね。本番は何時からなんだい?
冬弥:2時からです。 今が11時なので、あと3時間ほどしかありません
類:3時間、か……
類:(……それなら、どうにかやれるだろうね)
類:(筋書きは単純明快なものだし、 役者も、衣装類も、すべてそろっている)
類:(ただ——)
冬弥:…………?
類:(……ここで僕の演出が必要とされるかというと、 どうだろうね)
類:……ん?
類:人がこの庭に集まってきているようだね。 一体どうしたんだろう?
冬弥:あ、あれはエキストラの人達と……
???:皆さん、今日は私達の式のためにお集まりいただき、 ありがとうございます
類:あの人が新婦かな
新婦:スタッフさんから、演出担当のかたが 来られなくなったと聞きました。 ……残念ですが、今日は取りやめにしようと思います
新婦:お約束していた分のお給料は払っていただけるように、 エキストラ会社にもお話する予定です
新婦:なので……せっかく集まっていただいたところすみませんが、 今日はもうお帰りいただいて大丈夫です。 皆さんありがとうございました
エキストラ達:……そういうことなら、帰りましょうか
エキストラ達:そうですね。 さすがに僕達だけではどうにもできませんし……
新婦:…………はぁ
冬弥:(あ……)
冬弥:(……無念だろうな。 この日のために、これだけの人数を集めたんだ)
冬弥:(もし俺が、それだけ思い入れのあるイベントを できなかったとしたら……)
類:青柳くん?
冬弥:あの——本当にいいんですか?
新婦:え? ああ……はい、こんな状況ですし……
冬弥:ですが、今日のためにわざわざ これだけの人数を集めたんですよね
冬弥:よほど、やりたい理由があったんじゃないですか?
新婦:それは…………。 はい。正直、やれないのはすごく残念です
新婦:実は、プロポーズの時に、彼がサプライズをしてくれたんです。 歌って踊って……指輪をくれて
新婦:私はずっと、そういうのは恥ずかしいと思ってたんですけど、 いつも真面目な彼が、私を喜ばせようと思って 頑張って考えてくれたのがすごく嬉しくて……
新婦:だから私も、同じように彼に笑ってほしいなって思ってたんです。 でも、仕方がないことですから……
類:(笑って……)
類:(馬鹿だね、僕は)
類:(彼らと一緒にショーを作っているのに、 少しでもためらってしまうなんて)
新婦:それじゃあ、私は支度があるのでこれで……
類:待ってください
冬弥:神代先輩?
新婦:あなたは……?
類:フェニックスワンダーランドのショーステージで 演出家兼役者を務めている、神代類という者です
新婦:フェニックスワンダーランド……あの遊園地の?
類:ええ。もしあなたさえよければ、このサプライズショー、 僕に演出させていただきたい
新婦:え? えっと、申し出ていただいて嬉しいんですけど、 式までそんなに時間もないですし、さすがに難しいんじゃ……
類:ご心配なく。 すべてお任せいただければ、完璧な形に仕上げてみせましょう
新婦:あ、ありがとうございます。 でも…………
類:——今日は素晴らしい快晴です。雲ひとつない。 まさに、人生の門出を祝うためにあるような日です
類:そんな日には、悲しい顔ではなく、笑顔でいてもらいたい。 新郎はもちろん、新婦、あなたにも
新婦:あ…………
新婦:…………ありがとうございます。 ……お願いしても、いいでしょうか?
類:ええ、もちろん。 今日は素晴らしい式にしましょう
新婦:はい! よろしくお願いします!
冬弥:……!
類:それではショーのために、あなたと新郎について いくつか質問をさせてください
新婦:え、私達の……? はい、わかりました!
新婦:……あ、スタッフさん! すみません、エキストラの皆さんに もう一度話をさせていただきたいんですが……
式場スタッフ:え? あ、わかりました。 どうぞこちらに……!
冬弥:……ありがとうございます、神代先輩!
類:おっと、感謝するのはまだ早いよ。 僕らの役目は、このショーを成功させることだ
類:さて。それでは、開演準備といこうじゃないか!
第 4 话:演出家の采配
結婚式場 控室
類:——というわけで本日、 代理で演出をつけることになった神代です
類:皆さん、よろしくお願いします。 今日はいい式にしていきましょう
エキストラ達:取りやめになったと思ったら、結局やるのか?
エキストラ達:あの子が代わりの演出家? 落ち着いてるけど、 まだ若そうだし、ちゃんとできるのかしら?
冬弥:(……やはり、まだ動揺が大きいな。 仕方がないといえば仕方がないが……)
類:——さあ皆さん、おしゃべりはここまでです
冬弥:……?
類:本番まで残り2時間と30分。 時がすぎれば、泣いても笑っても開演ベルが鳴ります
類:そのベルをどういった心境で聞くか——。 今なら、皆さん自身で決めることができます
エキストラ達:…………
冬弥:(……すごいな。 空気がガラリと変わった)
冬弥:(これが演出家というものなんだろうか……)
類:さあ、それでは練習を始めましょうか!
類:今回は時間も限られているので、『誓いの言葉を言おうとした 時に他の男性がプロポーズをする』という筋書きは当初のまま、 少々アレンジを加えていく形にしようと考えています
冬弥:アレンジ? どんなアレンジをするんですか?
類:じゃあここで問題だ、青柳くん。 この筋書きに足りないものはなんだろう?
冬弥:足りないもの……
冬弥:足りないかどうかはわからないですが……。 観客にどんな気持ちになってほしいのか、 その意図がよくわからないとは思いました
冬弥:他の男性が現れてプロポーズするだけでは、 みんな驚くだけでしょうし
類:そのとおり。いい回答だね
類:誓いの言葉の途中にそれを止める男が現れたら、 観客はどう思うか——
類:何人かは『もしかしたら新婦には別の恋人がいたのか?』と 驚くだろう
類:もちろん、古い映画になぞらえた余興だと すぐに気づく人もいるだろうけどね
類:さて——ではそれが実は芝居だったと明かされた時、 観客はどう思うかな?
冬弥:……『なんだ、芝居だったのか』と、 ほっとするんじゃないでしょうか
類:うん。『緊張の緩和』だ。 これが笑いを生む
類:ただ、これだけでは『騙された』と感じる人もいるし、 なにより見せ物としては味気ない。 そこで少しアレンジを加えるというわけさ
ベテラン風のエキストラ:あんまりもったいぶらないで、さっさと教えてくれないか。 時間がないんだろう?
類:ふふ、そうですね。 それでは話を進めましょうか
類:というわけで——『ちょっと待った』と言う男性役を 3人に増やします
ベテラン風のエキストラ:……はあ?
冬弥:なぜ3人にするんですか?
類:では考えてみよう。 男性役が増えた場合、どんな印象を持たれるだろうか?
冬弥:え? ええと……?
女性エキストラ:……もしかして新婦、すごくモテるのかも?
男性エキストラ:いや、何かサプライズが始まったと思われるんじゃないか?
類:ふふ、どちらも正解です
類:3人の男性がプロポーズをする。 まずはこれによって、新婦の魅力を強調することができます
類:まあ、竹取物語のかぐや姫みたいなものですね
類:一方、3人の男性が一斉にプロポーズをするなんてことは よほどのことがない限りはありえません。 そこで、観客は『これは見せ物だ』とすぐに気づける
類:つまり、こうすることで“ドッキリ”だったものが、 わかりやすい見せ物——“ショー”になるんです
冬弥:(なるほど)
冬弥:(たしかに、最初の筋書きを聞いた時は、 ただ驚くだけだし、下手をしたらトラブルになるんじゃないかと 思っていたが……)
冬弥:(次々にプロポーズをする人間が出てきたら、 何かの催しだということはすぐ気づきそうだし、 ここからどうなるのだろうと楽しむ余裕も生まれそうだ)
類:それでは、新婦にプロポーズをする、 栄えある3人の男性役をここで決めましょう!
類:というわけで、男性の皆さん。 皆さんの特技を教えてもらってもいいですか?
ベテラン風のエキストラ:特技? そんなの、ダンスに決まってるだろう
類:ふむ、あなたはダンス、と。 隣のかたは?
エキストラ達:僕は昔バスケやってたから、ドリブルが得意だよ
エキストラ達:似顔絵を描くのはうまいって言われるけど……
エキストラ達:えっと、折り紙ならかなり得意です
エキストラ達:私は——
類:ふむふむ。 じゃあ最後……青柳くんは?
冬弥:俺の特技は——
冬弥:(……一般的に見れば、 俺の特技はピアノやバイオリンだろう)
冬弥:(だがそれは、過去だ。 今の俺が胸を張って言えるのは——)
冬弥:——歌です
類:……そうか。 それじゃ、決まりだね
類:今、特技を、バスケのドリブル、折り紙、歌と言った3人。 君達が新婦にプロポーズをする男性の役だ! おめでとう!
冬弥:え……?
ベテラン風のエキストラ:なっ……! どうしてそうなる?
類:フフ。その理由は、本番になればわかりますよ
類:さて、役が与えられたからには、 君も立派な役者だ
類:最後までよろしく頼むよ、青柳くん
冬弥:はい。 よろしくお願いします、神代先輩
第 5 话:目の前のショーのために
結婚式場 控室
類:さて、役も決まったことですし、 次はダンスパートのセンターを——
ベテラン風のエキストラ:——なあ君、本当に大丈夫なのか?
類:はい? 大丈夫、とは一体なんのことでしょうか
ベテラン風のエキストラ:君の演出が、だ
ベテラン風のエキストラ:おかしいだろう。時間がないとは言え、演技も見ないで 特技だけで役を決めるなんて——
類:別に、演技を見る必要はありませんよ
ベテラン風のエキストラ:何?
類:男達の役は、今回の式にふさわしい人物を選びましたから
ベテラン風のエキストラ:それは君の主観だろう。 それに、彼らは——特にそこの彼は、 演技のことをよく知らないようだ
ベテラン風のエキストラ:俺は劇団員だし、場数もかなり踏んでいる。 役をやらせるなら、俺のように演技経験と 演技力がある人間のほうがいいだろう
類:演技力……ですか
類:正直申し上げて——ここにいる皆さんに、 大きな演技力の差はありません
ベテラン風のエキストラ:は?
類:もちろん、中には生まれつきの役者というものも存在します
類:普段のたたずまいや、存在感——。 彼らはそういったものからして違う
類:ですが、そんな人はほんの一握りです
ベテラン風のエキストラ:……なんなんだ君は、一体何が言いたい!
類:つまり僕は、ここにエース級のピッチャーがいないので、 特性を活かしてポジションを決めているだけということですよ
類:あなたがエース級でしたら、話は違いましたけどね?
ベテラン風のエキストラ:な……な、なんだと!? お前、大した経験もないくせによくそんなこと……!
類:そうですねえ、たしかに僕は若輩者ではありますが、 そんな僕でも、『経験がものを言うのは それ相応のレベルに達してから』ということは知っています
ベテラン風のエキストラ:な……!
類:すみませんが、あまり時間がありません。 そろそろ次に——
ベテラン風のエキストラ:……っこんな奴につきあってられるか! 帰らせてもらう!
冬弥:え……! 待ってください!
冬弥:……行ってしまった
類:……おやおや。これは困ったな
類:仮にも劇団員なら、こんなところで放りだしたりは しないだろうと思ったんだけどね
冬弥:いいんですか? メンバーがひとり欠けてしまいましたが……
類:……そうだね、本当なら……
類:……まあ、今回は仕方がない。 時間もないし話を進めていこう
類:ダンスパートのセンターは、ダンスだけじゃなくて、 歌も歌ってもらいたい。 誰か、立候補をする人はいないかな?
エキストラ達:…………
類:(おやおや、みんなさっきのやりとりで すっかり萎縮してしまったね)
類:(——ダンスパートのセンターも、 プロポーズをする男役と同様、かなり重要な役になる)
類:(照明や音響でフォローをしようにも、今日の式は屋外。 ある程度は基礎力がついているほうがいい)
類:(当初は、さっきの彼が第一候補ではあったけれど……。 あの性格では他のメンバーと衝突をおこしかねないから、 無理だったろうね)
類:……歌と踊りができる、 ステージ慣れした人間がいればいいんだけれどねえ
冬弥:歌って踊れる……
冬弥:神代先輩
類:ん? なんだい?
冬弥:ひとり、心当たりがいます
彰人:——で、なんでオレを呼ぶんだよ……
冬弥:彰人なら、ダンスパートのセンターができると思ったんだ
冬弥:頼む、彰人。協力してくれないか
彰人:……あのなぁ。 もしこれに協力するとして、オレになんのメリットがあるんだよ
彰人:とにかくだ、冬弥。オレは結婚式の出し物なんかのために 歌う気はねえ。他あたれ
冬弥:そうか……
類:…………
類:結婚式の出し物なんか、ねえ
類:そういう見かたしかできないのなら、 やめておいたほうがいいだろうね
彰人:……どういう意味すか
類:たしかに、君にとってこの結婚式は、 ただの興味のわかないステージだろう
類:けれど新郎新婦にとっては、一世一代の大舞台だ。 この舞台にかける想いの強さがわからないなら、 やめておいたほうが賢明さ
類:実際、君にこの役は重荷だろうしねえ
彰人:…………はっ
彰人:あんた、そうやって乗せようって魂胆だろ
彰人:気に食わねえな。 そういう風に人を動かそうって考えかたが
類:ああ、さすがにバレてしまったか。 これは失礼
彰人:ヘラヘラしやがって……。 本当に悪いと思ってんのか?
類:……本当に、と言われると、どうかな
彰人:おい、ケンカ売ってんのか?
類:今の僕にとっての最優先事項は、 この式のショーを成功させることだ
類:今、君を承諾させるためならどんな手でも使うよ。 君を怒らせても、悲しませてもね
類:僕はそれを悪いとは思わない
彰人:……開き直りかよ。 ますます気に食わねえな
彰人:何言われても、お前みたいなヤツとはやらねえぞ。 冬弥も、わかったか
冬弥:……そうだな。 すまない、彰人
冬弥:考えなしに誘ってしまって本当に悪かった
冬弥:後夜祭の時もそうだった。 つい彰人の厚意に甘えてしまった
彰人:それは別に…………
冬弥:ただ、これだけはわかってくれ
冬弥:神代先輩は、なんの利益もないのに 今回の演出を引き受けてくれたんだ
彰人:……どういうことだ?
冬弥:実は、今日来るはずだった演技指導の人間が、 トラブルで来られなくなったんだ。 そのせいで、この催しも一度は中止になるはずだった
冬弥:しかし、この催しを計画していた新婦は、 今日の式で新郎を喜ばせたいと強く願っているんだ
冬弥:それだけ思い入れのあるイベントならば、 ……俺なら絶対に成功させたいと思う
彰人:……冬弥
冬弥:神代先輩も、同じ気持ちだ
冬弥:新婦のために、何がなんでもこの式を 成功させたいと思ってくれているんだ。 それだけはわかってほしい
彰人:…………
冬弥:……急に呼びつけてこんなことを言ってしまって悪かった。 この穴埋めは必ず——
彰人:……チッ
彰人:で、どうすりゃいいんだよ
冬弥:え? どう、とは……?
彰人:オレは今から何すりゃいいんだって聞いてんだよ
冬弥:彰人……!
彰人:言っとくが、あんたのやりかたは気に食わねえ
彰人:だが、何がなんでも成功させてやろうって 気持ちだけはわかる
彰人:だから……今回だけは、冬弥の顔に免じて手伝ってやるよ
類:……そうかい。それはよかった
彰人:その代わり、ひとつ貸しだからな
類:ああ。 この借りはいつか返そう
類:そうと決まれば、早速練習といこうじゃないか。 青柳くん、今何時だい?
冬弥:12時半なので……本番まであと1時間半です!
彰人:は? 1時間半? おい、それマジで言ってんのか!?
類:マジも大マジさ! さあ、早く練習を始めようじゃないか、東雲くん! 衣装もそろっているよ!
類:ところで青柳くん、 空から颯爽と登場したい、と思ったことはないかい?
冬弥:そ、空から、ですか……!? それはちょっと……
彰人:おい! 冬弥に変なことやらせんじゃねえぞ!
類:フフ、冗談さ。 さあ、行こう!
第 6 话:信頼と理解
結婚式場 控室
類:皆さん、おまたせしました! ダンスチームのセンターが決まりました
エキストラ達:え? また、ずいぶん若い子だな
エキストラ達:しかも飛び入り参加って、大丈夫なのかな……
彰人:はじめまして。 今日皆さんと一緒に踊らせてもらいます、東雲彰人です
彰人:ステージでの経験を活かして、全力を尽くしていきます。 一緒にいい式にしていきましょう
エキストラ達:……なんだか、しっかりしたいい子ですね
エキストラ達:経験者みたいだし、いけるんじゃない?
冬弥:(……毎度のことだが、ああしているとまるで別人だな)
冬弥:(もしかすると、俺より彰人のほうが プロポーズをする男達の役をうまくやれるんじゃ……)
類:さて、それではこちらも練習を始めようか。 さあ、集まって!
冬弥:あ、はい!
類:今のセリフ、声が小さいよ! 口の中をもっと開く! 奥歯に爆弾が入っていて、閉じると頭ごと吹き飛ぶと 思ってしゃべるんだ!
エキストラA:ば、爆弾!?
類:君は、そこから正面に向けてもっと体を開いて! 肩からレーザービームを出して観客全員を薙ぎ払うようにね!
エキストラB:レーザービーム……!?
類:君、すぐ腰に手を置かない! 人間は多彩な動きができるんだ。 自分からロボットになるのはいただけないな。 まあ……ロボットになりたいなら、してあげないこともないけどね
エキストラC:よ、よくわからないけどちゃんと動きます!
冬弥:(……驚いた)
冬弥:(司先輩と一緒にいる時は、変わっているものの、 温和な雰囲気の人だと思っていたが……。 演出となると、まるで変わるな)
冬弥:(いや、こちらが普段どおりの神代先輩なんだろうか)
類:青柳くん、何をぼんやりしているんだい? 開演までもう時間がないよ
冬弥:あ……すみません!
彰人:今の、良かったですね。 最後ちょっとバタついたんで、そこだけ確認しましょう
女性エキストラ:ええ。それにしても、難しそうな振り付けなのに こんなに簡単に踊れちゃうなんて……君、すごいね
彰人:ああ……ありがとうございます
彰人:(ま、神代センパイが考えた振りを やってるだけなんだけどな)
類:——開演45分前か
類:そろそろ、ダンスチームと合わせてリハを……
類:…………
冬弥:どうしたんですか?
類:ああ、いや、なんでもない。 少し考えごとをしてしまってね
冬弥:…………?
類:……フフ、本番前に隠しごとをするのは、 あまりよくないかもしれないね
類:さっきのことを、少し反省していたんだよ
冬弥:さっきのこと……ですか?
類:東雲くんを誘った時のことさ
類:昔からよく言われていたんだ。 目的のためには手段を選ばない奴だ、ってね
類:実際、僕は一度ショーのことを考えだすと、 他のことはどうでもよくなってしまうんだ
類:それでやりたいことをやろうとして、 加減がきかなくなって、みんなが去っていってしまう
冬弥:…………
類:……自分のやりたいことができるように、 役者をおだてて演じてもらったこともあるけど……
類:結局、彼らは僕の演出でショーをやりたいわけじゃないし、 信頼関係が築けているわけでもないから、長くは続かなかった
類:その時のことを、少し思い出してしまってね
冬弥:信頼関係……ですか
冬弥:……たしかに、信頼関係は大事なものです
冬弥:ですが——神代先輩のやりかたも、少し理解できます
類:え?
冬弥:俺の身内にも、先輩と近い考えかたをする人がいます
冬弥:自分の大事なものに対して、絶対に妥協をしたくない。 ——そういう人が
類:…………
冬弥:そのやりかたを、俺は、はじめ理解できませんでした。 大切な人間を苦しめてまでするべきことなのかと
冬弥:ですが今は、少しわかります
冬弥:なりふりかまわず、 全力で走り抜けるからこそ見える景色がある
冬弥:そしてあの人は俺に——その景色を見せたかった
類:…………
冬弥:あ……俺の話ばかりになってしまってすみません。 だから、その……そのやりかたを、俺は理解できます
冬弥:きっと彰人も、先輩の考えにどこかで通じるものを感じたから、 参加してくれたんだと思います
冬弥:俺達にも——妥協できないものがあるので
類:……君達の妥協できないものって、なんなんだい?
冬弥:ある、伝説のイベントを超えることです
類:伝説のイベントを超える……
類:フフ。それはきっと素晴らしいショーなんだろうね
冬弥:ええ、きっと
彰人:おい、リハ始めんじゃねえのか? 時間ねえぞ
類:——さて、それではラストスパートといこうじゃないか!
類:うん、悪くない。 これならいい式にできるだろう
エキストラ達:やった……!
類:だが、君達とこのショーにはまだ伸びしろがある。 残り時間はわずかだけれど、素晴らしいショーにするために できるだけのことをしてほしい
エキストラ達:できるだけのことって?
エキストラ達:そういえば、最後のターンでよろけちゃったな……
彰人:最後なら、踏みこんでからターンしたほうが決まりますよ。 やって見せましょうか?
エキストラ達:そういえば、僕のセリフも聞こえづらかったかも……
冬弥:たしかに、少し小さかったかもしれません。 もう一度練習しましょうか
類:(……うん、本番前の雰囲気としては上々だ)
類:あとは、フィナーレの演出だね。 思い切り盛り上げたいけど、こうも時間がないと……
???:『類くん! 類くーん!』
類:ん? ああ、そうか
結婚式場前
類:すまない、レンくん。 式場の外観を見せたあと、ずいぶんほったらかしに してしまっていたね
レン:『ううん、大丈夫! こっそり話聞いてたしね!』
レン:『それより類くん、さっきフィナーレをどうしようかって 悩んでたでしょ?』
レン:『だったら、あれはどうかな?』
類:あれ?
レン:『ほら、買い物の時、射出装置の話をしてたでしょ?』
レン:『あれをちょっと変えてみたらどうかな? えっと……ほら! あそこにあるものを使うのはどう?』
類:……なるほど。 たしかに、それはいいね
類:ありがとう、レンくん。 おかげでいいフィナーレになりそうだ
レン:『本当? えへへ、よかった!』
レン:『今日、いい結婚式になるといいね!』
第 7 话:エクストラウェディングショー!
宮益坂
杏:これで父さんに頼まれてた買い物は全部かな。 時間できたし、メイコさんのカフェにでも……ん?
杏:あそこ、人が集まってるみたいだけど、 何かやってるのかな?
結婚式場
杏:んー……あ、結婚式があるんだ。 通りに面してるし、花嫁さんが見られるかも……ん?
男性エキストラ:すみません、こんな時にケガをしてしまうなんて……。 本番まであと30分しかないのに……
彰人:これじゃさすがに踊れないですね……。 座って休んでいてください
彰人:……はあ、どうすっかな。 誰か代わりに踊れるヤツがいりゃいいんだが
杏:え、彰人!? こんなところで何やってるわけ?
彰人:ん? その声は……杏か。 お前には関係ねえだろ。 今くっちゃべってる時間は………………
彰人:……いや、使えるな。 衣装がひとり分余ってたはずだ
杏:え? 何言ってんの?
彰人:よし、説明はあとでする。 まずは着替えてこい! 5分以内にだ!
杏:え、ちょっと、何言ってるかわかんないんだけど? ちょっとー!
杏:……で、何? この格好?
彰人:これから結婚式でショーみたいなもんをやるんだが、 ダンスチームのひとりがケガしちまったんだ
彰人:お前なら代わりに踊れるだろ。本番度胸もあるしな
杏:え! 私に、そのショーに出ろってこと? さすがに無茶振りすぎない? っていうか、なんでこんなことやってるわけ?
彰人:あー……オレも巻きこまれた側なんだよ。 まあ、そのへんはあいつに聞け
杏:え? 冬弥と、神代先輩!? どういう組みあわせ?
類:やあ白石くん。代役で入ってくれるんだってね。 さっき他のキャストから聞いたよ。ありがとう
類:ああ……今日は、少々風紀を乱しても許してほしいな。 無礼講の日だからね
杏:え、ま、まあ少しなら……?
類:さあ皆さん、間もなく本番です
類:今日、この少ない時間の中で、 皆さんは十分なパフォーマンスを身につけました
類:あとは、この晴れの日を盛大に祝いましょう!
エキストラ達:『はい!』
杏:……なーんかよくわかんないけど。 楽しそうだし、ここは一肌ぬいじゃおっかな!
彰人:お前のノリの良さはこういう時ありがてえな……。 んじゃ、時間もねえし最初の振りから練習するぞ
司会:それでは、立会人代表のかたはどうぞ前へ
冬弥:(——もうすぐ俺達の出番だ)
冬弥:(……いつものイベントとは違う緊張感だな)
冬弥:(参列者もかなりの数だ。 今日のためにわざわざ遠方から足を運んで来てるんだろう)
冬弥:(もしも失敗したら——)
類:……大丈夫さ、青柳くん。きっとできる。 迷った時は僕の指導を思い出してくれたら嬉しいな
冬弥:神代先輩……
類:僕はね、どんなショーでも、 あるひとつのことだけは共通していると思うんだ
類:つまり——楽しんだ者が勝ちということさ!
冬弥:……はい!
類:それじゃあ、いくよ!
立会人代表:それでは、 いかなる時も、互いに愛しあうことを誓いますか?
新郎:はい
新婦:は——
冬弥:その宣誓、待ってください!!
新郎:え?
出席者達:なんだ?
男A:そうだ! 待ってくれ!
男B:まだ私は納得しちゃいない!
冬弥:誓いの言葉を告げる前に、 もう一度、俺達にチャンスをください!
出席者達:な、なんだなんだ?
男A:どうか、これを見てから、もう一度考えてください! いきますっ!
出席者達:あれは……ドリブル!? なんてうまいんだ!! バスケットボール選手か!?
男A:いいや! 僕は小学生の時からドリブルばかりやっていた 通称ドリブルの長谷川! これくらいは朝飯前さ!
杏:いやいや! なんでここでドリブル!? たしかにメチャクチャうまいけど……
新婦:か……かっこいい!
新郎:えっ!?
男B:私は、あなたのためにこれを持ってきました! どうか受け取ってください!
杏:あれは……? 白い薔薇の花束に見えるけど……
新婦:これってもしかして……折り紙!? すごい、1本1本折ってあるなんて……!
新婦:手先が器用な人って憧れちゃう……
新郎:ええっ!?
彰人:そうかあ……?
杏:あ、もしかしてあれって……、 新婦が好きなことができる人達を集めたってこと? じゃあ、冬弥は……
類:どういう気持ちで演じればいいのかわからない?
冬弥:はい……。 芝居をしたことがないので、感覚がわからなくて
類:……そうだねえ。 じゃあ今、君の目の前に、君の一番欲しいものがあるとしよう
類:しかし、それは今まさに、名も知らぬ誰かに奪われようとしている
類:君が手に入れるための方法はただひとつ。 君の歌で、勝ち取るんだ
冬弥:俺の歌で、勝ち取る……
冬弥:……少し、わかった気がします
類:それはよかった。 それじゃあ、思う存分歌ってきてくれたまえ
冬弥:俺は——俺のすべてをこめて、 あなたのために歌います
冬弥:どうか、聴いてください
冬弥:……♪ ————————!!
出席者達:わ……!! すごい歌声……!!
出席者達:プロの歌手かな? 素敵……!
杏:さっすが冬弥!
彰人:……ま、当然の反応だな
冬弥:これからも、あなたのために歌い続けます。 だからどうか——俺の手を取ってください
新婦:…………
新郎:だ……ダメです!!
新郎:たしかに、僕はドリブルもできないし、不器用だし、 歌も音痴ですけど……っ! でも彼女は、僕にとってかけがえのない人なんです!
新郎:だから……その……
新婦:……皆さんは私の憧れるものを持っています。 とてもかっこいいと思いました
新婦:でもやっぱり、私はこの人がいいです。 何ができるとかできないとかは関係なくて……
新婦:ただ、この人と一緒にいたいなって思うんです
新婦:私は——この人とどんな時でも愛しあうことを誓います!
類:——よし! ダンスチーム、そろそろ出番が……ん?
通行人達:あそこ何やってるんだろう? ガーデンウェディングかな
通行人達:ブーケトスとかするのかな? お芝居みたいなのしてるし、楽しそう~!
類:あれは……そうだ!
類:東雲くん、白石くん! プランを少し変更する!
類:客席だけじゃなく、通行人を巻きこむんだ! 今ならみんな乗ってくれるはずだ!
彰人:は? さすがにそれは無茶じゃ……
杏:いいじゃんいいじゃん! せっかくやるならみんなで盛り上がったほうがいいもんね! 行くよ彰人!
彰人:あ、おい! クソ、しょうがねえな……!
通行人達:わ! 出席者が踊りだした! この人達も仕掛け人だったんだ……!
杏:あなた達もほら! 一緒にやろうよ!
通行人達:え、どういうこと!? 私達も混ざっていいの?
通行人達:なんかわかんないけど、混ざっちゃおうよ! 手拍子だけでも楽しそう!
類:うん。いい感じだ。 あとは、レンくんにアイディアをもらったあれを——
出席者達:わあ……! 花びらが雨みたいに……! こんなフラワーシャワーはじめて!
通行人達:綺麗~!!
冬弥:……ふふ
冬弥:——みんないい笑顔ですね。神代先輩
第 8 话:笑顔と夢と
翌日
神山高校 1年C組
冬弥:(先日はいろいろあったが、 無事に成功させることができてよかった)
冬弥:(彰人達にも礼を言わなければ……ん?)
彰人:はー……
杏:あはは、彰人、顔げっそりしすぎでしょ。 昨日はいきいき踊ってたくせにさ~
彰人:うるせえな……
冬弥:白石。どうしたんだ、彰人のクラスで
杏:え? ああ、昨日のショーがおもしろかったから、 その話しようと思って!
杏:でも、彰人がずーっとこんな調子なんだよねー
彰人:慣れねえことしたせいで 疲れが取れねえんだよ……
冬弥:……ふたりとも、昨日は本当に助かった
冬弥:俺の都合につきあわせてしまってすまなかった。 このお礼は必ず——
杏:そーゆーのはいいっていいって! ほら、持ちつ持たれつって言うでしょ?
彰人:まあな。 ……いや、食い損ねたパンケーキの分は礼してもらうぞ
杏:うわ、器ちっちゃ~
彰人:ああ?
冬弥:ふふ、そうか。 そうしたら、今日の放課後にでも食べに行くとしよう
???:——やあ、全員このクラスに集まっていたんだね
彰人:うおっ! いつの間に……
冬弥:神代先輩? どうされたんですか
類:昨日のお礼をしに来たんだよ
類:司くんも来たがっていたけど、委員会があるらしくてね。 そちらが終わり次第来ると言っていたよ
冬弥:ああ、司先輩からは昨晩も電話をもらいました。 回復されたようで何よりです
彰人:(あいつの場合は少し弱ってるぐらいのほうが ちょうどいい気がしなくもねえけどな……)
類:改めて——君達のおかげでとてもいいショーができたよ。 ありがとう
類:それに、あのショーのおかげで、 次のショーの構想もまとまってきたんだ。 とても助かったよ
冬弥:いえ、お役に立てたならよかったです
杏:なんだかんだ楽しかったしね。 先輩、また機会があったら手伝いますよ!
彰人:オレはやらねーぞ
類:フフ、東雲くんには借りがひとつあるしね。 むしろ僕が、君達を手伝う時がくるかもしれないね?
彰人:それはそれで嫌な予感しかしねえな……
冬弥:……もし、手伝ってもらえるのなら
冬弥:いつか、俺達の夢のために、 力を貸してもらえたら嬉しいです
類:夢——というと、昨日話していた、例のイベントのことかい?
冬弥:はい
類:……フフ。夢か。いいね
類:僕の専門はショーだけど、その時がきたら、 遠慮なく声をかけてほしい
類:素晴らしいイベントになるように、 僕の知識と経験を存分に貸そう
類:君達のイベントを見に来てくれるお客さんの、 笑顔のためにね
冬弥:ええ。その時は是非よろしくお願いします
類:それじゃあ僕はこれで。 ……ああ、そうそう
類:このあと、教室の窓は開けたままにしておくことを オススメするよ
冬弥:え……? あ、はい
杏:ねえ冬弥、神代先輩に、RAD WEEKENDの話したの?
冬弥:ああ。少しだがな。 きっと素晴らしいものになると言ってくれた
彰人:へえ……
杏:神代先輩、風紀委員の取り締まりの時くらいしか 話したことなかったけど、普通にいい人だよね
彰人:……ま、思ったよりはマシなヤツかもな
杏:あ、そろそろ昼休み終わりそうだね。 じゃ、私はこのへんで……
彰人:な、なんだ!?
杏:なんか爆発した!?
冬弥:どうしたんだ?
生徒の声:爆発……ってことはあれか? またあの先輩達か?
生徒の声:うわ! なんか花びらみたいなのが たくさん校庭に飛んでるよ!
教師の声:またあいつらか~!!!! どこだ天馬!! 神代!!
彰人:……マシかと思ったとたんにこれかよ
杏:あはは……これがなきゃ普通のいい人なんだけどねえ
生徒の声:……あ!
生徒の声:花びらが教室に入ってきたよ。キレイだね~
冬弥:……ふっ
冬弥:(これもまた、神代先輩なりの追求なのかもしれないな)
冬弥:(誰かを笑顔にすることに関して、 先輩は常に考え続けて——妥協をするつもりがないんだろう)
冬弥:……今回の経験はパフォーマンスというものを 見つめ直すいい機会になった
冬弥:俺はこれを糧に、パフォーマンスをさらに磨いていこうと思う
杏:お、なんか冬弥が燃えてる!
彰人:……ま、なんだかんだ、即興で客もわかせられたし、 悪い経験じゃなかったな
冬弥:ああ
冬弥:いつか俺達も、あんな風に——、 人の心を動かすイベントを作り上げていきたいものだな