活动剧情
いつか、絶望の底から
活动ID:47
第 1 话:振り返る月日
深夜
奏の部屋
奏:……3小節後に転調して——
奏:……うん。 この調子なら、明日には完成しそう
絵名:『あ、K。ちょっとサビのイラストで悩んでて 意見もらいたいんだけど、見てもらっていい?』
奏:『うん、わかった。 …………』
絵名:『どう? 気になるところあった?』
奏:『……全体的な方向はいいと思う』
奏:『ただ、色が暗すぎるかな。 この曲は、暗闇の中にいるっていうより、霧の中にいるような イメージだから、それに合わせてほしい』
絵名:『そっか……。じゃあ構図はそのままで 色使いを見直してみようかな……』
瑞希:『お疲れー。 遅くなってごめんね、みんな順調?』
奏:『お疲れAmia。 曲のほうはもうすぐ完成すると思う』
絵名:『私のほうはまだかかりそう。 悪いけど、もうちょっと待ってて』
瑞希:『うん、了解! じゃあもうちょっと新しい素材探してよっかな』
まふゆ:『……おまたせ』
瑞希:『おっ、雪じゃん。お疲れー。 学校の課題終わったの?』
まふゆ:『うん。……K。 今から歌詞の調整をしたいんだけど、いける?』
奏:『うん、いけるよ』
瑞希:『あっ、じゃあボク達はチャットで相談してるね』
絵名:『何かあったら、チャット飛ばしてくれる?』
奏:『うん。またあとで』
まふゆ:『……じゃあK、ここの歌詞なんだけど……』
奏:『うん』
まふゆ:『——わかった。 じゃあ今言った箇所は言い回しを調整してみる』
奏:『うん、お願い。 調整はいつ頃終わりそう?』
まふゆ:『……明日は予備校も部活もないから、 集中すれば、あさっての夜には上げられると思う』
奏:『わかった』
まふゆ:『ただ……来週から期末テストだから、 そこから月末まではあまりログインできないかも』
奏:『そっか……。 じゃあ、来週以降にログインできる日があったら 連絡くれると嬉しい』
まふゆ:『うん。それじゃあ、私も作業に戻るね』
奏:……期末テストか……
奏:(もうそんな時期なんだな)
奏:(そういえば、お父さんが倒れたのも これくらいの時期だっけ)
奏:(……お父さん……)
奏の父:奏はこれからも、奏の音楽を作り続けるんだよ
奏:…………
奏:あれからもう、2年たったんだ……
翌日
宵崎家 キッチン
穂波:じゃあ今日は、掃除とお夕飯の作り置きをしていきますね
穂波:寒くなってきたので、 今夜の分はあったかいシチューにしますね!
奏:うん、ありがとう
奏:わたしは部屋で作業してるから、 よろしくね、望月さん
穂波:はい!
奏:……ふう。完成した
奏:あ、キッチンからいい匂いがする。 ……今日はシチューなんだっけ
奏:ちょっと見に行ってみようかな
穂波:お疲れさまです、宵崎さん。 今、ちょうどシチューができあがったところですよ
奏:ありがとう。すごくいい匂い。 今日の夜食にさせてもらうから——
穂波:ふふっ、よかったら今食べませんか? できたてですから、あったかくて美味しいと思いますよ
奏:……うん、そうだね。 それじゃあせっかくだし、もらおうかな
穂波:はい。じゃあ今よそいますね。 あ、熱いから気をつけてくださいね
奏:…………
奏:……そういえば、初めて望月さんがうちに来た時、 作ってくれたのもシチューだったね
穂波:あっ、たしかにそうでしたね
穂波:ふふっ。あの頃の宵崎さんとは 本当に全然お話してなかったですよね
穂波:シチューを作ったって伝えに行った時も、 曲作りに集中してて全然気づいてもらえなかったですし
奏:あ……そういえばそういうこともあったね
奏:(……たしかにあの頃のわたしは、 全然望月さんと会話してなかったな……)
奏:(今思うと、ものすごく不愛想だっただろうな)
穂波:……宵崎さんと会ってから、 もう2年も経つんですね
奏:……2年……
奏:(あの頃はずっと必死だったな。 ひたすら曲を作ってアップして、その繰り返し)
奏:(ご飯だって、ロクなもの食べてなかったし。 そう考えると……)
奏:——昔に比べると、 ゆったりした気持ちになれてる気がするな
奏:それに、昔より落ち着けるようになった気がする
穂波:落ち着ける……ですか
穂波:言われてみるとたしかに、 宵崎さんは段々穏やかな雰囲気になってる気がします
穂波:きっと、一緒に曲を作られている皆さんが とてもいい人達なんでしょうね
奏:え?
穂波:ほら、気持ちを打ち明けられる人達が近くにいてくれると、 穏やかになれませんか?
奏:気持ちを……
奏:……たしかに、そうだね
誰もいないセカイ
ルカ:……退屈だわ
ルカ:あの子達、新しい曲を作ってるから 忙しいのかしら
ルカ:ねえミク、ひとりでいた頃は すごく退屈だったんじゃない?
ミク:……ちょっと。 でも……
ミク:まふゆ達がここに来る時は、 寂しい気持ちの時もあるから。 だから、いっぱい来なくても大丈夫
ミク:今は元気なのかなって、思うから
ルカ:あら。——ふふ、たしかに そんな考えかたもあるわね
ルカ:でも、ここに来る時に寂しそうなら——、 私達のほうから様子を見に行けば、 楽しそうなあの子達に会えるんじゃないかしら?
ミク:……楽しそうな……
ミク:そういう風に考えたこと、なかった
ルカ:でしょう? ……そうだわ、今から一緒に会いに行かない?
ミク:……え?
ルカ:ふふ、我ながらとってもいいアイディアだわ。 さあ、行きましょうミク!
ミク:え……わわわ……
第 2 话:追憶、あの日の暗闇へ
深夜
奏の部屋
奏:『——それで、 2年前とはずいぶん変わったっていう話をしてたんだ』
瑞希:『へー! お手伝いさんとそんな話したんだ!』
絵名:『たしかに、一緒に作り始めてからもう結構経ったし、 いろいろ変わったよね』
絵名:『セカイに行くようになってからは特に いろんなことがガラっと変わったし』
まふゆ:『……変わった、か』
奏:『——雪は、どう思う?』
まふゆ:『……たしかに2年前とは違うと思う』
奏:『そっか』
奏:『変わったっていえば……わたし達の話しかたも変わったよね。 最初の頃は、雪とも敬語でしゃべってたし』
まふゆ:『ああ……そうだね』
絵名:『最初って……まだKと雪のふたりでやってた時のこと?』
奏:『うん、そう』
瑞希:『始めはKと雪がふたりで 活動してたんだよね』
瑞希:『なんか4人でやるのが当たり前になってるから、 ふたりだけでやってた頃って、 あんまりイメージできないな』
絵名:『たしかに、それはあるかも……』
瑞希:『ねえねえ。最初の頃のニーゴって、 どんな感じだったの?』
瑞希:『Kと雪がふたりで作ってた頃のこと、なんとなくしか 聞いたことないし、ちゃんと聞いてみたいな~』
奏:『最初の頃か……』
???:『あら。なんだか面白そうな話をしているじゃない』
奏:『……? この声……』
絵名:『えっ!? ミクと……それに、ルカも!? なんでパソコンのモニターに……?』
ルカ:『ふふっ、突然お邪魔しちゃってごめんなさいね。 みんなが最近、なかなかセカイに来ないから、 退屈していたの』
瑞希:『あはは、そっか。 ミクも退屈してたの?』
ミク:『……わたしは、ルカに無理矢理連れてこられた』
まふゆ:『そうなんだ……』
ルカ:『ところで、今の話、私もすごく興味があるわ』
ルカ:『よかったら私達にも、奏達が一緒に曲を作り始めた時のことを 聞かせてもらえないかしら?』
奏:『うん、わたしはいいよ。 ……雪、話してもいい?』
まふゆ:『うん。……私も、思い出してみる』
奏:『……2年前の今頃、わたしのお父さんが倒れて——』
奏:『わたしは、お父さんみたいに誰かを救えるような曲を 作らなくちゃいけないって思うようになった』
奏:『それから毎日曲を作るようになって——』
中学生の奏:……だめ
中学生の奏:これじゃ全然だめ……。 こんな音じゃ、誰も救えない……!
中学生の奏:もっとベースの音を強くして……。 ううん、これだけじゃ足りない……
中学生の奏:もっと聴いた人の心を救いあげる音を——
中学生の奏:……うるさい! 一体何の……
中学生の奏:……? 動画サイトからの通知?
中学生の奏:(ああ……曲についたコメントも曲作りのヒントに なるかもって思って、昨日新曲を上げた時、 通知を入れっぱなしにしてたんだ)
中学生の奏:(……どんなコメントがきてるんだろう)
コメント:『これ、本当にひとりで作ってるの?』
コメント:『毎回クオリティがヤバくて笑うしかない。 作者何者なんだ』
中学生の奏:あ……
コメント:『こんなに音楽に共感できたのは初めてです。 救われた気持ちになりました』
中学生の奏:……救われた……
中学生の奏:(……よかった。 この人だけでも、救えたんだ……)
中学生の奏:(……でも……まだ、足りない)
中学生の奏:(もっと、作り続けなきゃ。 作って、作って、作り続けて……。 もっとたくさんの人を、救わなきゃ)
中学生の奏:そうしなきゃ……
中学生の奏:わたしに、生きてる資格なんてないんだから——
第 3 话:淀んだ絶望の底で
奏の部屋
中学生の奏:(……マスタリングできた。 これで投稿ができる)
中学生の奏:(投稿したら、早く次の曲を作らなきゃ。 たしか、昨日楽譜にメモしてたと思うけど……)
中学生の奏:…………はぁ、また電話か
中学生の奏:(最近、放っておいてもずっと鳴ってるし……。 出るしかないか)
中学生の奏:……もしもし
奏の祖母:『ああ、奏ちゃん!』
奏の祖母:『出てくれてよかったわ。ここのところ何度電話をかけても つながらなかったから、何かあったかと……』
中学生の奏:……大丈夫、ちゃんとやってるよ。 それで、何かあったの?
奏の祖母:『奏ちゃんがひとりでちゃんと 暮らせてるか心配でねえ……』
奏の祖母:『本当はおばあちゃんが奏ちゃんと一緒に暮らせたら よかったんだけど、また検査入院になって……。 ごめんねえ』
中学生の奏:(おばあちゃん、まだ調子わるいんだ……)
中学生の奏:……ううん、気にしないで。 おばあちゃんはおばあちゃんの体のこと、大事にして
中学生の奏:わたしのほうは大丈夫。 何も問題ないから
奏の祖母:『奏ちゃん……ごめんね』
中学生の奏:……話はそれで終わり? 悪いけど、わたしやることがあるから——
奏の祖母:『あ……それだけじゃないのよ』
奏の祖母:『おばあちゃんね、そっちの家に、 お手伝いさんをお願いしようと思うの』
中学生の奏:お手伝いさん?
奏の祖母:『そうなの。 春から通信制高校にかようって言ってたでしょう?』
奏の祖母:『通信制っていっても、勉強しながら家事をするのは 大変でしょうから、お手伝いさんに部屋のお掃除をしてもらったり ご飯を作ってもらえるようにしたらいいんじゃないかって——』
中学生の奏:ううん、いらない
奏の祖母:『え?』
中学生の奏:わたしは、ひとりでも生活していける
中学生の奏:それにわたしは——曲を作らなくちゃいけないの
奏の祖母:『奏ちゃん……』
中学生の奏:……何かあったら、こっちから連絡する
中学生の奏:それじゃあ
中学生の奏:……はぁ
中学生の奏:晩ご飯は……ゼリーでいいか。 最近お腹もすかないし
中学生の奏:……早く、次の曲を作らないと
1カ月後
宮益坂女子学園中等部 中庭
クラスメイトA:まふゆーっ! こっち向いて!
中学生のまふゆ:え……?
中学生のまふゆ:あっ! ……もう。 急に撮るから、びっくりしたよ
クラスメイトA:あははっ。だって、せっかくの卒業式じゃん。 記念に撮っときたかったの!
クラスメイトB:あんたね……。記念にって言っても、 みんなこのまま高校に上がるでしょ
クラスメイトA:まーね。 外部から入ってくる子もそんなに多くないみたいだし、 なんだか代わり映えしなさそうだよね~
中学生のまふゆ:ふふっ、そうだね
中学生のまふゆ:でも私は、またみんなと一緒にいられるから嬉しいな
クラスメイトA:ま……まふゆ~!! まふゆはホントにいい子だね~! よしよし!
中学生のまふゆ:もう、ふざけないでよね
中学生のまふゆ:ふたりとも、高校でもよろしくね
クラスメイトB:もちろん!
クラスメイトA:これからもよろしくね、まふゆ。 あっ、ねえ。今度は3人で写真撮ろうよ!
宮益坂
クラスメイトB:じゃあまたね、まふゆ! 新学期に会おうね
中学生のまふゆ:うん。またね
中学生のまふゆ:…………
中学生のまふゆ:……代わり映えしない、か……
朝比奈家 リビング
中学生のまふゆ:ただいま、お母さん
まふゆの母:おかえり、まふゆ
まふゆの母:今日はとってもいい卒業式だったわね。 まふゆの答辞も立派で、お母さん感動しちゃったわ
中学生のまふゆ:そう? ……ふふ、よかった。 練習した甲斐があったな
まふゆの母:そうだわ。 卒業のお祝いに好きな物を買ってあげる。 何がいいかしら?
中学生のまふゆ:好きな……物……
まふゆの母:ええ。万年筆とか、本とか……。 まふゆが欲しい物を選んでいいのよ
中学生のまふゆ:本当? ありがとう! んー、何にしようかな
中学生のまふゆ:…………ちょっと、考えてみるね
まふゆの部屋
中学生のまふゆ:……欲しい物、か
中学生のまふゆ:そんな物、ひとつもないのに
中学生のまふゆ:(…………このまま、ずっと変わらないの?)
中学生のまふゆ:(何がおもしろいのか、何がほしいのか、 わからないままなの?)
中学生のまふゆ:(高校生になっても、大学にいっても。 このまま、ずっと——)
中学生のまふゆ:…………
翌日
中学生のまふゆ:……予備校の課題、全部終わっちゃった
中学生のまふゆ:次は、何しよう……
中学生のまふゆ:……? メッセージ?
クラスメイトA:『ねえねえ、これ聴いて! すごくいい曲見つけちゃった!』
クラスメイトB:『本当だ! 歌詞がじーんとくる……』
中学生のまふゆ:……曲?
クラスメイトA:『まふゆも聴いてみて! 絶対グッとくると思うから!』
中学生のまふゆ:グッと……
中学生のまふゆ:(……友達の勧めてくれる曲は、聴かなきゃな)
中学生のまふゆ:(…………耳触りのいい歌詞、明るいメロディー。 これがいい曲、なんだ)
中学生のまふゆ:——本当だ。すごくいい曲だね、っと……
中学生のまふゆ:…………
中学生のまふゆ:——ん? おすすめ欄にある動画、なんだろう。 曲みたいだけど、なんだか雰囲気が違う……
中学生のまふゆ:(きっと、聴いても何も感じないだろうけど……)
中学生のまふゆ:……っ!
中学生のまふゆ:(……なに? この感じ……)
中学生のまふゆ:(心臓を掴まれて、ゆさぶられてるみたい)
中学生のまふゆ:(この曲は一体——)
中学生のまふゆ:…………
まふゆの母の声:まふゆー。晩御飯できたわよ
中学生のまふゆ:あ……。 はーい。ありがとう、お母さん
中学生のまふゆ:……もう、夜か。 そんなに長い時間、ずっと聴いていたんだ
中学生のまふゆ:(……聴けば聴くほど、呑みこまれそうになる)
中学生のまふゆ:(痛くて苦しい。 なのに、聴くのをやめられない)
中学生のまふゆ:(何を見ても、何を聴いても、 何も感じられなかったのに、どうして……)
中学生のまふゆ:(——そういえば、 この曲を作ったのは誰なんだろう)
中学生のまふゆ:(名前は——)
中学生のまふゆ:……K……
第 4 话:揺り動かされた心
奏の部屋
中学生の奏:……昨日上げた曲、1500再生いったんだ
中学生の奏:(前よりたくさんの人に聴いてもらえてる)
中学生の奏:(でも——)
中学生の奏:(この曲で救われてる人は、 どれくらいいるんだろう)
中学生の奏:(止まっちゃだめだ)
中学生の奏:(もっとたくさん作って、 もっとたくさんの人を……救わなくちゃ)
中学生の奏:……だめ。こんな音じゃ、全然だめ
中学生の奏:メロディーも納得できないし、音もぼやけてる……。 これじゃ、全然……
中学生の奏:……っ
中学生の奏:……頭がクラクラする。 前に寝たの……いつだっけ?
中学生の奏:それに、お腹も気持ち悪い……
中学生の奏:……どうして、お腹がすいたり、 眠くなったりするんだろう……
中学生の奏:……作らなくちゃ……
まふゆの部屋
中学生のまふゆ:…………
中学生のまふゆ:(いろんな曲を聴いてみたけど、 やっぱり——この人の曲だけ違う)
中学生のまふゆ:(Kの曲は、どれも暗くて冷たい曲なのに、 聴いていると何かが動く感じがする)
中学生のまふゆ:……どうして、Kの曲だけこんな風に感じるんだろう
中学生のまふゆ:他の音楽には何も感じないのに。 どうして……
中学生のまふゆ:(……わからない。 わかるわけない)
中学生のまふゆ:(きっとこんなこと、誰に聞いたって……)
中学生のまふゆ:あ……
中学生のまふゆ:(この曲を作った人なら——?)
中学生のまふゆ:(動画にコメント欄もある。 もしかしたら……)
中学生のまふゆ:(でも……なんて?)
中学生のまふゆ:(——どうしてあなたの曲は私を揺さぶるんですか、って?)
中学生のまふゆ:(そんなこと聞くなんて馬鹿げてる。 それに……答えが返ってくるとも限らない)
中学生のまふゆ:やっと何かがわかりそうだったのに
中学生のまふゆ:結局また——行き止まり
1カ月後
宮益坂女子学園高等部 入学式
生徒達:おはよう! クラス分け、見た? 同じクラスだったよ!
生徒達:本当? やったー!
まふゆ:(……また、始まっちゃったな)
まふゆ:(きっと、これからもこうなんだろうな)
まふゆ:(何も感じないまま、何かを感じてるふりをして、 幸せそうなふりをして生きていくしか……)
まふゆ:(それなら、いっそ——)
教師:あら! おはよう、朝比奈さん!
まふゆ:あ……おはようございます、先生
まふゆ:……あれ? 先生、担当は中等部じゃ……。 高等部に異動になられたんですか?
教師:ええ。高等部の音楽の先生が産休に入ったから、 代わりに私が受け持つことになったの
まふゆ:じゃあ、また先生に教えて頂けるんですね。 嬉しいです
教師:ふふっ。優秀な朝比奈さんに私が教えられることは あんまりないかもしれないけど、 音楽のことだったらなんでも聞いてね
まふゆ:いえ、私は全然——
まふゆ:(あ……)
まふゆ:(『音楽のことだったら』?)
まふゆ:あの……ひとつ聞いてもいいですか?
教師:え? ええ、もちろん
まふゆ:……私最近、ある曲を聴いて、すごく衝撃を受けたんです
まふゆ:その曲を聴いてると、胸が動かされるというか……。 今までにない感覚を味わうことができたんです
まふゆ:でも、どうしてその曲を聴いてそうなったのか、 よくわからなくて……
まふゆ:だから、その曲についてもっといろいろ知りたいなと思って。 そういう時って、先生はどうしますか?
教師:曲について……そうねえ……
教師:曲がクラシックなら、作曲家についての本がたくさんあるから、 調べてみるっていう手があるけど……。 朝比奈さんが聴いた曲は、どんな曲なの?
まふゆ:動画サイトにアップされていた、個人制作の曲です
まふゆ:作曲者についても検索してみたんですけど、 そんなに有名じゃないみたいで、 くわしいことは全然わからなくて……
教師:そうなのね……。 それだとたしかに調べようがないわね
まふゆ:(……やっぱり、わかるはずないか……)
教師:あ……いっそ真似をして作ってみるっていうのは どうかしら?
まふゆ:え?
教師:実際に作ってみれば、いろいろ発見できるかもしれないわ。 どうしてこういう風に音を入れているのか、とか 意図がわかってね
教師:そう簡単にできることじゃないでしょうけど、 音楽なら私も少しは教えられるかもしれないし
教師:なんでもできちゃう朝比奈さんなら、 そういう方法もありかもしれないわよ
まふゆ:自分で……
まふゆ:……ありがとうございます。 少し、考えてみようと思います
教師:ええ。 それじゃあ、また授業でね
まふゆ:はい
まふゆ:(……自分で作ってみるなんて、 想像もしなかったな)
まふゆ:(でも、まだ行き止まりじゃないなら——)
朝比奈家 リビング
まふゆ:(たしか、このクローゼットの奥のほうに……)
まふゆ:……あった、シンセサイザー
まふゆ:(昔お父さんが買ってきたって言ってたの、 覚えててよかった)
まふゆ:(説明書もちゃんとある)
まふゆ:……パソコンにつなげてソフトをインストールしたら 打ちこんだ譜面を録音して、曲が作れる……
まふゆ:(ピアノは昔少しだけ習ってたし、 弾けば思いだせるかな)
まふゆの母:まふゆ? 何をしているの?
まふゆ:あ……お母さん
まふゆの母:ひょっとして、このあいだ買ってきた 医学部受験の本を探しているのかしら? それなら、まふゆの部屋に置いておいたわよ
まふゆ:……そうだったんだね。 ありがとう、お母さん
まふゆの母:ふふっ、いいのよ。 それじゃあお母さん、洗濯物を干してくるわね。 勉強、頑張ってね
まふゆ:…………
まふゆ:今のうちに、部屋に持って行こう
深夜
まふゆ:(もうすぐ1時か……)
まふゆ:(お父さんもお母さんも寝てるし、 今なら邪魔されずに曲を作れそう)
まふゆ:(シンセサイザーとパソコンをつないで……)
まふゆ:(——うん。音は出る。よかった)
まふゆ:(ソフトはダウンロードしたから、 あとは実際に作るだけだけど……)
まふゆ:(どこから作ればいいんだろう)
まふゆ:(……もう一度、あの曲を聴いてみようかな)
まふゆ:…………
まふゆ:——本当に、どうしてこんなに胸をえぐられるんだろう……
まふゆ:(……やっぱり知りたい)
まふゆ:(この曲の何が——私を揺り動かすのか)
まふゆ:……メロディーから真似して、作ってみよう
第 5 话:同じ絶望の音色
奏の部屋
奏:(……このままじゃ、音が軽すぎる)
奏:(このフレーズをもっと印象づけるには——)
まふゆの部屋
まふゆ:(……どうして音が濁るのに、 この音を入れたんだろう)
まふゆ:(もしかして、全体の中でも特に印象づけるために……?)
奏:(……うん。代理コードを入れたら際立った)
奏:(もっと研ぎ澄まして……鋭くしていかないと)
まふゆ:(……鋭い、突き刺さりそうな音)
まふゆ:(でもこの音は……私を強く揺さぶる)
まふゆ:(どうしてそう感じるのかはよくわからないけど)
まふゆ:(この音がもっと響くように……ベースの音を変えて、 曲の速さも、もう少し落として——)
数週間後
まふゆ:……曲が、できた……
まふゆ:(あの曲を真似しながら、 変えてみたいところを勝手に変えただけだけど……)
まふゆ:これは……あの曲のアレンジっていうことになるのかな
まふゆ:(……この曲を作った作者がどんな気持ちなのかも、 なんとなくわかった気がする)
まふゆ:(多分、どうしようもない苦しさを抱えてる)
まふゆ:(光の届かない——絶望を)
まふゆ:(だけど……)
まふゆ:……それだけじゃ、結局、何もわからない
まふゆ:(私は何を感じたのか。 どうしてこんなに胸が熱くなったのか)
まふゆ:(これからどうすればいいのか)
まふゆ:…………
まふゆ:(また同じだ)
まふゆ:(今度こそって期待して行動しても、 結局また、行き止まり)
まふゆ:(もがいたって、結局……)
翌日
朝比奈家 リビング
まふゆの母:お疲れさま。 お休みなのに朝早くから勉強して、偉いわね
まふゆの母:今日は、まふゆの大好きなシチューよ
まふゆ:……わあ、いい匂い
まふゆ:ありがとう、お母さん。 テーブルに食器運ぶの、手伝うね
まふゆの母:あ、そうそう、まふゆ。 卒業祝いのプレゼント、決められたかしら?
まふゆの母:ふふ、決められないまま入学式も終わっちゃったから、 卒業祝い兼入学祝いになるわね。 奮発するわよ
まふゆ:あ……
まふゆ:ごめんね。まだ考え中なんだ。 何がいいか、いろいろ悩んじゃって
まふゆの母:好きな物を選んでいいって言ったのに。 でも、まふゆらしいわね
まふゆの母:お母さんね。まふゆにあげるプレゼントを選ぶために、 お友達からカタログをもらって、調べていたの
まふゆの母:もし、まだまふゆが迷っているなら、 この腕時計なんてどうかしら?
まふゆ:腕時計……
まふゆの母:ええ。まふゆも高校生になったし、 これからもっと忙しくなるでしょう?
まふゆの母:時間を意識して、今までよりも 1日を有効活用できるようにならないと、って思うの
まふゆ:…………
まふゆの母:ほら、このデザインはどう?
まふゆの母:上品で女の子らしいし……。 大切に使えばお医者さんになっても着けられるわよ
まふゆ:……ありがとう、お母さん。 すごく嬉しい
まふゆ:じゃあ、お母さんが選んでくれた、その革の腕時計がいいな
まふゆの母:ふふっ、わかったわ。 注文しておくわね
まふゆ:うん。ありがとう
まふゆ:…………
まふゆ:お医者さんになっても……
まふゆ:(……体の中にある何かが、 ゆっくり冷えて、固まっていくみたいに感じる)
まふゆ:(……あの曲を聴いた時とは、まるで逆)
まふゆ:(あの曲は、凍りつきそうなくらい冷たいくせに、 それだけじゃなくて——)
まふゆ:(……もう一度……聴きたい)
まふゆ:(あ…………新曲が、上がってる)
まふゆ:……っ
まふゆ:(この人の作る曲は、冷たくて、苦しくて 胸が痛くなるほどの絶望がある)
まふゆ:(でも……感じる)
まふゆ:(この人はどうしようもないくらい消えたくて、 でも——消えたくないって思ってる)
まふゆ:……消えたく、ない……
まふゆ:あの曲のアレンジ……マスタリングして、 エンコード……投稿処理して……
まふゆ:(……私、何してるんだろう)
まふゆ:(もがいたって、どうせまた失望するだけなのに、 どうして曲をアップしようとしてるんだろう)
まふゆ:(作曲者……Kっていう人に、 何かを感じている?)
まふゆ:(でも、どうして……)
まふゆ:あ……投稿するのに名前がいるんだ
まふゆ:空欄じゃ……だめなんだ
まふゆ:…………あ
まふゆ:外……雪、降ってる。 もう春なのに……
まふゆ:…………
まふゆ:雪……。静かで、何もない……
まふゆ:——『雪』で、いいか
奏:(……これで20曲目)
奏:(……次……)
奏:(投稿処理してるあいだに、早く次の曲を……)
奏:……っ……!
奏:はぁ……ズキズキする……
奏:(……最近、頭痛が多い……)
奏:(手足も痺れるし、 1日中耳鳴りがして集中できない……)
奏:(少し休まないと……)
奏:(……ううん……だめ。 立ち止まっている暇なんて……わたしにはない)
奏:(頭痛薬を飲めば、まだ……)
奏:(……? 新しいコメント……?)
奏:……URLだけ書かれてる。 リンク先は……曲の動画?
奏:投稿者は——“雪”? 知らない人だな……
奏:……これって、わたしの曲のアレンジ……?
奏:……っ
奏:(なに、このアレンジ……)
奏:(アレンジとしてはすごく拙い。 なのに——見える)
奏:(絶望しかない……ううん。 もう何も存在しない、そんな世界が見える)
奏:(それに、この曲、 音の使いかたが独特で……)
奏:(……あ、そっか。 サビをこう展開させれば全然印象が違う……)
奏:(エフェクトをかけるだけで、空間の広がりができて……、 いろんな景色が自然と頭に浮かんでくる)
奏:(すごい……。 この曲を聴いてると、 新しい曲のイメージがどんどんわいてくる——)
奏:……早く曲にしなくちゃ
奏:全部、曲に——
奏:……できた
奏:(今まで作った曲とは、少し違う形になったかもしれない。 でも……)
奏:(あの世界に、少しだけ、 光を届けられた……)
奏:(……雪、か)
奏:もしかしたら、この人となら、 わたしは今よりも——
奏:……っ!
奏:……あ、れ……
奏:(目の前が、ぼやける……。 それに、汗がとまらない……)
奏:(水……水、飲まないと……)
奏:水……だけでも……
奏:あ……
奏:(力が、入ら……)
第 6 话:もうひとつの出会い
病院
奏:……う……。 あれ? ここは……?
中学生の穂波:あっ……!
家事代行センターの女性:宵崎さん! 奏さん、気がつかれましたよ!
奏の祖母:奏ちゃん!? ああ、よかった……!
奏:おばあ、ちゃん……? ……なんで……?
奏:それに……その人達は……?
奏の祖母:この人達はね、おばあちゃんが頼んだ 家事代行センターの人達よ
奏の祖母:電話では、奏ちゃんには心配いらないって言われたけど、 やっぱり不安になってねえ……。 勝手なんだけど、奏ちゃんの家に行ってもらうようお願いしたの
奏:……そうだったんだ……。 でも、どうして病院に……?
家事代行センターの女性:宵崎さんの家にお伺いした時、 インターホンを何度鳴らしてもお出にならなかったんです
家事代行センターの女性:それでお留守かと思って帰ろうとした時に、 穂波ちゃんが、宵崎さんが倒れているのを見つけてくれたんです
中学生の穂波:すみません。 何か倒れたような音がしたので……
奏の祖母:そんなこと謝らなくていいのよ。 あなたのおかげで奏ちゃんは助かったんだもの。 本当にありがとうね
奏の祖母:それにしても、今時はあなたみたいな若い子も 家事代行をしてらっしゃるのねえ
中学生の穂波:あ、いえ。わたしはまだ働いてないんです
中学生の穂波:高校に上がったらアルバイト始めたいなっていう話を 家族としていたら、人づてで家事代行の職場体験を させてもらえることになっただけで……
奏の祖母:あら、そうだったのね
家事代行センターの女性:ともかく穂波ちゃんが見つけてくれたから、 すぐに救急車を呼べたんですよ。 それで大家さんに鍵を開けてもらって
奏:……そう……
奏:ありがとうございます
中学生の穂波:いえ。大事にならなくて、本当によかったです
奏の祖母:……奏ちゃん
奏の祖母:どうしてもひとりで曲を作り続けたいっていう気持ちは、 おばあちゃんもわかったわ
奏の祖母:でも、倒れちゃったら、曲も作れなくなっちゃうわ。 ……お父さんみたいにね
奏:…………
奏の祖母:それにお父さんが、あんなことになって、 そのうえ、奏ちゃんにまで何かあったら——
奏の祖母:おばあちゃん……もうどうしたらいいか……
奏:あ…………
奏の祖母:だから奏ちゃん、お願い
奏の祖母:これからは、おばあちゃんが頼んだお手伝いさんに、 お料理やお掃除をしてもらってほしいの
奏の祖母:……どうかしら?
奏:……おばあちゃん……
奏:(……お父さんが倒れたのは、わたしのせいだ)
奏:(だからわたしは、お父さんみたいに、 誰かを救う曲を作り続けなくちゃならない。 正直、家事代行の人に対応してる時間だって惜しい)
奏:(でも……)
奏:(今みたいな生活を続けてたら、 曲作り自体が進まなくなる……)
奏:……わかった。やってもらうよ
奏の祖母:本当!? ああ、よかった……!
家事代行センターの女性:それじゃあ、お手伝いを始める時期と 頻度については、のちほど相談させてくださいね
奏:……はい
奏の祖母:あ……そうだわ。 穂波ちゃんが高校生になったら、 お手伝いに来てもらうのもいいかもしれないわね
中学生の穂波:え?
奏の祖母:せっかくこうやって縁ができたんだもの。 奏ちゃんさえよければ、ですけど
奏:わたしは別に……
中学生の穂波:……! じゃあ、もしご縁があったら、よろしくお願いします
奏:あ、うん……
中学生の穂波:今日は帰ったら、しっかり寝て、 ゆっくり休んでくださいね。宵崎さん
奏:……うん。 ありがとう
奏の部屋
奏:……やっと帰ってこれた
奏:早く、次の曲を作らないと……あ
奏:そうだ。 倒れる前に作ってた曲、まだアップロードできてない
奏:早くアップしよう。 きっとこの曲ならたくさんの人を——
奏:たくさんの人を……
奏:…………
奏:(あの時……あのアレンジ曲を聴いた時——)
奏:(……あ、そっか。 サビをこう展開させれば全然印象が違う……)
奏:(エフェクトをかけるだけで、空間の広がりができて……、 いろんな景色が自然と頭に浮かんでくる)
奏:(すごい……。 この曲を聴いてると、 新しい曲のイメージがどんどんわいてくる——)
奏:(曲のイメージが、びっくりするほどたくさん降りてきた)
奏:(生々しい絶望と消えたくないっていう気持ちが、 触れそうなくらい近くにあった)
奏:(もしかしたら、あの、雪っていう人の力を借りればもっと——)
奏:(連絡をとってみよう)
奏:(……SNSのアカウントを作って、 DMに連絡がほしいって送れば——)
まふゆの部屋
まふゆ:…………
まふゆ:(……何もする気がおきない)
まふゆ:(でも、やらなくちゃ。 やらなかったら私は……)
まふゆ:(私、は……)
まふゆ:……?
まふゆ:……アップした動画に、コメントが来てる……?
まふゆ:一体誰が……
まふゆ:…………え? これって……
奏:……来た。雪さんからの返事……
奏:(……『共同での楽曲制作、ぜひよろしくお願いします』、か。 よかった)
奏:『ありがとうございます』……と
奏:(……そしたら、どうやって作っていこう。 メールでアレンジの方向性とファイルを送るか……)
奏:(でも文章だけだと細かいニュアンスが 伝わらないかもしれないし……)
奏:(そうだ。チャットツールを使ってみようかな)
奏:音楽ファイルをやりとりするのに便利なツールがあるって、 どこかのサイトに書いてあった気がする
奏:ええと……そうだ。 『ナイトコード』だ
奏:(雪さんに、ナイトコードでやり取りができないか聞いてみよう。 アプリのURLは……)
数日後
まふゆ:……ログインできた。 あとは、時間まで待てばいいのかな
まふゆ:(……ひとりで曲を作ってみても、結局何も変わらなかった)
まふゆ:(でも、もしかしたら。 私の心を揺さぶったあの人と曲を作れば)
まふゆ:(今度こそ、何かが変わるかもしれない)
まふゆ:…………
まふゆ:(また——行き止まりかもしれないけど)
まふゆ:(……来た)
???:『あ……』
???:『あの……雪さん、ですか?』
まふゆ:(……か細くて、けど、芯のある声)
まふゆ:(この人が、K——)
まふゆ:(あの曲を作った、私の心を揺り動かした人なんだ)
第 7 话:そして、巡り会う
奏の部屋
【雪】:『——はじめまして。雪です』
奏:『あ……』
奏:『……はじめまして、雪さん。 K、です……』
奏:『……えっと……』
【雪】:『メッセージありがとうございます。 Kさんと一緒に作れるなんて、とても光栄です』
奏:『あ、いえ。こちらこそ……。 あの……曲作り、承諾してくれて、 ありがとうございます』
【雪】:『いえ。 …………』
奏:『えっと…………』
奏:(……どうしよう、ちょっと気まずいな)
奏:(他人と一緒に曲を作ったことなんてないから、 どう話を進めていけばいいのか、よくわからない……)
【雪】:『——私、ずっと前からKさんの曲を聴いていたんです』
奏:『え……。そうなんですか?』
【雪】:『はい。どれも、素敵な曲だなって思って……。 だから、一緒に曲を作らないかって メッセージをいただけて、本当に嬉しかったです』
奏:『……そうなんだ。 ……よかった』
【雪】:『それで、Kさんはどうして私に 共同制作の依頼をしてくださったんですか?』
奏:『あ……』
奏:『……あの。雪さんが作ったアレンジを 聴かせてもらったんです。それで……』
奏:『すごく強い想いを感じたから、です』
【雪】:『強い……想い?』
奏:『はい。 あのアレンジ曲を聴いて、 見えたような気がしたんです』
奏:『深い——絶望の底みたいな世界を』
奏:『でも、そんな中にも、 小さな光が見えるような気がしました』
奏:『わたしも、そういう曲を作りたいんです』
奏:『……光も届かない絶望の底に、小さな光を灯す。 そういう曲を作りたい』
奏:『だから……この感覚を音で表現できるあなたとなら、 もっと自分の作りたい曲が作れるんじゃないか、って。 そう、思ったんです』
【雪】:『…………』
まふゆ:(この人は、やっぱり感じてるんだ。 深い絶望を)
まふゆ:(そんな中にいて、それでも光を灯そうとしてる)
まふゆ:(……この人となら、もしかして……)
奏:『あの……雪さん?』
【雪】:『あ……ごめんなさい』
【雪】:『そんな風に思っていただけていたなんて、 思っていなくて……』
【雪】:『すごく嬉しいです。 改めて、これからよろしくお願いします』
奏:『あ……はい、よろしくお願いします』
奏:『それじゃあ早速、 どうやって曲を作っていくか、話しましょうか』
【雪】:『……じゃあ、私はKさんの曲のミックスをすれば いいんですね』
奏:『はい。 ……ゆくゆくは歌を入れた曲も作りたいんですけど、 まずはその形でいきましょう』
【雪】:『わかりました。いい作品が作れるように、 頑張りますね』
奏:『ええと、あとは……。あ、そうだ。 基本的に作業中はすぐにやり取りしたいので、ボイスチャットに ログインしたままの状態にしてもらっていいですか?』
【雪】:『大丈夫ですよ。……あ』
奏:『……? どうかしましたか』
【雪】:『……ごめんなさい。私、家の都合で 夜の1時以降でないと、作業ができなくて……』
奏:『そうなんですか?』
【雪】:『はい。……両親が寝るのが、その時間なんです』
奏:『なるほど……』
奏:『……じゃあ、25時になったら、 ナイトコードに集まることにしませんか? 都合が悪ければ連絡をください』
【雪】:『わかりました』
奏:『じゃあ、今日はここまでにしましょうか。 作り始めるのは明日からで』
【雪】:『はい。 明日は——25時、ナイトコードで、ですね』
翌日
奏:『——じゃあ、これからよろしくお願いします』
【雪】:『はい。新しい曲のミックスを進めていきますね。 何かあったら声をかけてください』
奏:『はい』
奏:『…………』
奏:(……とりあえずこのやりかたで進めてみてるけど、 これで本当にいいのかな)
奏:(雪さんが集中してやりたい人だったら、 ファイルのやりとりだけで完結してもいい気はするし……)
【雪】:『…………』
奏:(……ううん。まずは1曲ミックスしてもらおう)
奏:(雪さんがどうやってあの曲を作り上げたのか、 近くで見ておきたい)
奏:(……よし、1サビまでのラフができた)
奏:(だけど……イントロの印象が弱いかも。 もう少し惹きつけられるようにしたい)
奏:(雪さんに印象を聞いてみようかな。 でも……)
【雪】:『…………』
奏:(作業に集中してるみたいだし、またあとに——)
【雪】:『Kさん、どうかしましたか?』
奏:『え……!』
【雪】:『あ、驚かせてすみません。 ミュートを解除してるみたいだったので、 何か話したいのかなと思って』
奏:『あ……そう、ですか』
奏:『ちょうど、次の曲のラフを聴いてもらおうかなと 思ってたので……お願いしてもいいですか?』
【雪】:『はい、もちろんいいですよ』
奏:(……不思議な人だな)
奏:(何も話してないのに、気配を読んだみたいだった)
【雪】:『……やっぱり、Kさんの曲はどれも素晴らしいですね』
奏:『あ、どうも……』
まふゆ:(本当に——すごく揺さぶられる曲)
まふゆ:(一音一音が胸の中に染みこんで、 内側から私を揺らす)
まふゆ:(でも……もしこれが、もっと——)
【雪】:『……あえて言うなら、 淀みが足りないような気がしました』
奏:『淀み?』
【雪】:『何かに追い詰められるような切迫感は ちゃんとあるんですけど』
【雪】:『——どこにも行けないし、何にもなれない』
【雪】:『ただ自分の手足がゆっくりと腐り落ちていくのを 黙って見ることしかできないような……。 そんな淀んだ雰囲気があるといいかもしれないなと思いました』
まふゆ:(そうしたらこの曲はきっと、 揺さぶってくれるような気がするから)
奏:『——どこにも行けないし、何にもなれない、か』
奏:『……ありがとうございます、参考にして考えてみます』
奏:(……淀み……。 たしかに今のままだと、どこかシンプルな印象がある)
奏:(落ちサビでその要素を出してみたらどうなるか、 試してみよう)
【雪】:『…………。 Kさんは、曲を作り始めて長いんですか?』
奏:『え? えっと……』
奏:『すごく簡単なものを作ったのは4歳の頃ですけど……。 DTMを始めたのは10歳頃だから、5年くらいかな』
【雪】:『5年? もうそんなに長いあいだ作られているんですね』
【雪】:『あ……。4歳から11年っていうことは、 Kさんは15歳なんですか?』
奏:『はい』
【雪】:『じゃあ、私と同い年なんですね。 私も同じ、15歳なんですよ』
奏:『え……そうだったんですか』
奏:『しゃべりかたがしっかりしてるから、 年上の人かと思ってました』
【雪】:『しっかりなんて、そんなことないですよ』
【雪】:『それに実は、チャットがつながってから ずっと緊張してたんですよ?』
奏:『え? ……ふふ。 わたしだけじゃなくて、雪さんも緊張してたんですね』
【雪】:『もちろんですよ。 こんな風に、顔も知らない人と話すのも初めてですし』
奏:『わたしも初めてだな。 曲はずっとお父さんと作ってたし——』
【雪】:『お父さん? お父さんも曲を作ってるんですか?』
奏:『……あ……。 ……はい』
【雪】:『……ごめんなさい、脱線しちゃって。 作業に戻りましょうか』
奏:『……そうですね』
【雪】:『あ、でもその前にひとつ——』
【雪】:『私のことは、雪さんじゃなくて、雪で大丈夫ですよ。 同い年ですし』
奏:『……うん。わかった』
奏:『わたしも、Kでいいよ。 堅苦しいのは好きじゃないし』
【雪】:『……じゃあ、K。 またあとで』
奏:(やっぱり……不思議な人だな)
奏:(曲作り以外のことを話してても、 あんまり嫌な気がしない)
奏:(全部そのまま受け止めてくれて、 でも触れられたくないところは、 そっと避けてくれるような……)
奏:(年齢は一緒だけど、雪はすごく大人……なのかな)
奏:(だけど、アレンジで聴いたあの音はすごく——)
奏:……ううん。 集中しなくちゃ
奏:わたしは、曲を作り続けなくちゃいけないんだから——
第 8 话:微かな光のほうへ
数週間後
奏の部屋
奏・【雪】:『…………』
奏:『……うん、これで完成』
【雪】:『本当? じゃあこれでアップできるんだね。嬉しいな』
奏:『……ありがとう。雪』
奏:『わたしだけじゃ表現しきれてなかったものが、 雪のおかげで描けるようになったと思う』
【雪】:『……そっか。 それならよかった』
【雪】:『——ねえK。聞いてもいい?』
奏:『え? うん、いいけど……何?』
【雪】:『その、Kだけじゃ表現しきれてなかったものって、何?』
奏:『……そうだな。 うまく言えないけど……』
奏:『真っ白な絶望——かな』
【雪】:『真っ白な……?』
奏:『うん。前に雪は淀みが足りないって言ってたけど、 それに近いのかもしれない』
奏:『激しい絶望じゃなくて……降り積もる静かな絶望』
奏:『……そんな感じかな』
【雪】:『……そっか』
奏:『エンコードとアップロード作業は わたしのほうでしておくよ』
奏:『今日も夜遅くまでありがとう。 お疲れ、雪』
【雪】:『うん、お疲れさま。 また新曲のラフができたら、教えてね』
まふゆ:…………
まふゆ:(……Kと曲を作りあげて、わかった)
まふゆ:(Kは強い意志で、光を灯そうとしてる。 どんな深い絶望の底にも)
まふゆ:(……結局、自分が何を好きなのかも、 本当の自分がどんなものなのかも、まだよくわからないけど)
まふゆ:(でも、いつか——)
奏:……うん。アップできた
奏:(雪のミックス……すごく良かったな)
奏:(音楽を始めたのは最近だって言ってたし、 アレンジの技術自体はまだまだだけど——)
奏:(曲のテーマを理解して、それを深めるセンスが 飛びぬけてる)
奏:(それに、“あの感覚”を、雪は理解してくれる)
奏:(絶望の底にただひとりいる時の、あの感覚を)
奏:(あの感覚をわかってくれる雪がいればいつか——)
まふゆ:(Kの曲が私を——)
奏:(誰かを救う曲を——)
奏・まふゆ:『作れるかもしれない』 『救ってくれるかもしれない』
瑞希:『へえ~っ! 最初の頃のふたりって、 そんな感じだったんだね!』
絵名:『昔ざっくり聞いてたけど、今聞くとかなり印象違うなぁ。 結構お互いのこと、いろいろ考えてたんだね』
奏:『……あの頃から、ずいぶん時間が経ったな』
まふゆ:『うん』
まふゆ:『……あの時は、 まさか今みたいな関係になるとは思わなかった』
奏:『そうだね。あのあと、Amiaとえななんが来て、 セカイに行ってミク達にも出会って——』
奏:『……大変なこともあったけど、 今みたいに話せるようになれて、よかったな』
まふゆ:『…………』
ミク:(……まふゆ、ちょっぴり優しい顔してる)
ミク:(まふゆも、奏と同じ気持ちなのかな)
ミク:『……ふたりの話、聞けてよかった』
ルカ:『ふふっ、そうね。とても興味深い話だったわ』
ミク:『うん』
ルカ:(……ミクがこんな表情するなんて)
ルカ:(本当に、この子達が好きなのね)
ルカ:『——絵名と瑞希は、ふたりが曲を作るようになって しばらくしてから合流したのかしら?』
奏:『うん。雪と曲を作るようになったあと、 えななんとAmiaが曲をイメージしたMVを アップしてくれて——』
絵名:『あの時は本当にびっくりしちゃったな。 まさかKから直接連絡がくるなんて』
瑞希:『うん、Kに見つけてもらった時は驚いたよ』
ルカ:『絵名と瑞希が入った頃は、 どんな雰囲気だったの?』
奏:『……ふたりが入った頃?』
ミク:『わたしも、聞きたい。 教えてくれる?』
瑞希:『えぇ~? ホントに聞きたい~?』
瑞希:『昔のえななんは今よりもずーっとイライラしてたから、 聞いたらみんな、ひぇーってなっちゃうかもよー?』
ミク:『絵名……そんなにイライラしてたの?』
絵名:『あ、ちょっとAmia! ミクが信じちゃってるでしょ!』
瑞希:『信じるも何も、本当のことじゃーん?』
ルカ:『それで? 実際のところはどうなの? 奏』
奏:『ふふ。そうだね。 その話もしたいけど……』
奏:『長くなると思うから、 また今度時間がある時に話そうか』
まふゆ:『そうだね。もう朝になるし』
絵名:『えっ!? うわ、もう6時じゃん! やばっ、空がちょっと明るい……』
瑞希:『あ。さてはえななん、話聞いてばっかで 全然作業進めてなかったな?』
絵名:『うるさい! そういうAmiaこそどうなの?』
瑞希:『へっへーん。ボクはもう1時間前には 作業終わらせてあるもんねー!』
瑞希:『あっ、K! MVの調整後のデータ、 共有フォルダに上げてあるから。 あとで時間がある時に、確認してもらえると嬉しいな!』
奏:『わかった。ありがとう』
絵名:『う……ったく、要領いいんだから……』
絵名:『あーあ、こうなったらもういったん寝ちゃおうかな。 色塗り行き詰まってきたし……』
瑞希:『じゃあ、ボクもそろそろ落ちようかな。 雪はどうする?』
まふゆ:『私はこのまま起きてる。 もうすぐお母さんが起きてくるから』
瑞希:『……日中ちゃんと、どこかで仮眠取ってね、雪』
まふゆ:『……そうする』
奏:『わたしは仮眠しようかな。 そのあと、作業に戻ろうと思う』
ルカ:『なら、今日はこのあたりでお開きかしら。 私達も、セカイに戻るわね』
ミク:『うん。今日は、楽しかった』
瑞希:『ミクもルカもおやすみー』
絵名:『また明日ね』
奏:『それじゃあ、わたしも——』
まふゆ:『……K』
奏:『ん? 何?』
まふゆ:『…………』
まふゆ:『……私は、あの時。 Kの誘いを受けて——』
まふゆ:『よかったと思う』
奏:『…………!』
まふゆ:『それじゃあ』
奏:『あ……うん』
奏:……そっか
奏:(わたし達の背負っている絶望は……。 まだ消えたわけじゃない)
奏:(でも……)
奏:(——あの頃に比べたら、 わたし達はきっと、少しずつ前に進めている)
奏:だから……
奏:これからも、わたしは作り続けていこう
奏:いつか……まふゆを。 みんなを救う曲を、作るために