活动剧情
空白のキャンバスに描く私は
活动ID:53
第 1 话:置いていかれる恐怖
絵名の部屋
絵名:……違う
絵名:(この絵じゃ、奏とまふゆが作った曲に合わない気がする)
絵名:(……今度は色が明るすぎるかも。 もう1回描き直そう)
絵名:…………
絵名:(……最近、描いてて『何か違う』って思うこと、 増えてきたな)
絵名:(まふゆが前と違う雰囲気の歌詞書くようになってから、 この感じが段々強くなってる気がする)
絵名:(——なんだろう、この感覚。 前にもこんなことがあった気がする……)
奏:『お疲れ、みんないる?』
まふゆ:『……いるよ』
絵名:あ、もうこんな時間? ミュート切って……と
絵名:『お疲れさま。ちゃんといるよ』
瑞希:『お、今日はみんな時間ぴったりだね!』
奏:『それじゃあ、作業始めようか』
絵名:『あ……その前にちょっといい?』
奏:『どうしたの、えななん』
絵名:『その、次の曲のラフ画、ちょっと行き詰まってて。 見てもらってもいい?』
瑞希:『うん、ボクはいーよ!』
奏:『わたしも。 ナイトコードに送ってくれる?』
絵名:『……はい。今送った』
瑞希:『どれどれ~?』
絵名:『…………どう?』
奏:『……悪くないと思う』
奏:『今回の曲のテーマをしっかりおさえてくれてるし、 音色にも合ってる』
奏:『ただ……全体的にぼやけてるような気はするかな』
瑞希:『んー、その感じはわかるかも。 迷ってる……みたいな?』
絵名:『迷ってる……』
奏:『雪はどう思う?』
まふゆ:『…………』
まふゆ:『……雰囲気は嫌じゃない』
まふゆ:『Kの曲のイメージからもズレてはない、と、思う。 ただ——』
絵名:『……ただ?』
まふゆ:『これで、全部なの?』
絵名:『え?』
まふゆ:『言いたいことがあるのに、うまく言えない—— みたいな感じがする』
まふゆ:——『絵名が言いたいことは、これで全部なの?』
絵名:『私が、言いたいこと……』
絵名:(——奏の曲を聴いて、まふゆの歌詞を見て感じたこと、 私が伝えたいと思ったこと)
絵名:(……たしかに、表現しきれてない)
???:今の東雲さんからは、成長も 成長しようとする姿勢も感じられません
絵名:…………っ
奏:『えななん、大丈夫?』
絵名:『——……うん、なんでもない』
奏:『そう……?』
瑞希:『まあ、まだ時間はあるし。 一緒に考えていこうよ』
瑞希:『ボクも、もっといいコンテ考えてみるからさ!』
絵名:『——うん、ありがと』
絵名:(——そっか)
絵名:(この感覚、あの時と同じなんだ)
絵名:(まふゆの歌詞もだけど……奏の曲もそう。 みんなはどんどん表現できる幅が広がってるのに、 私は、それに追いつけてない——)
絵名:(もしこのまま、私だけ、置いていかれたら……)
絵名:(奏達の曲を、表現できなくなったら——)
絵名:(……嫌だ)
絵名:(……もっともっと、描けるようにならなきゃ)
絵名:(構図も、色も、表現技法も—— もっと勉強して、奏達の曲を表現できるようにならなくちゃ)
絵名:(でも……)
絵名:(——そんな簡単じゃないことは、わかってる。 ずっと……あそこにいたんだから)
絵名:(2年もサボってたヤツがすぐ描けるようになるほど…… 絵は簡単なものじゃない)
数年前
絵画教室
中学生の絵名:……よし、いい感じ
中学生の絵名:(今日のデッサンはかなりいいんじゃない? これなら、雪平先生も褒めてくれるかも)
雪平:そこまで。では講評をしていきます。 全員前に絵を出してください
雪平:それでは端からいきましょう。 こちらのデッサンは?
???:は、はい、私です! よろしくお願いします、雪平先生
雪平:夏野二葉さんですか。 ふむ……これは酷いですね
二葉:!
雪平:奥行きをまるで意識できていません。 この時間、何を見ていたんでしょうか
二葉:あ……えっと……!
生徒達:『…………』
雪平:石膏像の台座にまで注目を。基本です。 奥行きを出す場合は、こういった箇所の——
中学生の絵名:(相変わらずキツい言いかた……。 みんな、すっかり萎縮しちゃってる)
中学生の絵名:(でも、私はこれくらいじゃへこたれないんだから)
雪平:次にいきましょうか。 こちらは?
中学生の絵名:はい! お願いします
雪平:東雲さんですね。 それでは始めましょう
雪平:——構図は悪くないですね。 見せ場となるモチーフもわかりやすく描けています
中学生の絵名:……! ありがとうございます!
中学生の絵名:(ほ、褒められた……! あの雪平先生に……)
雪平:ですが、質感に関しては0点です。 これでは石膏像というより銅像に見えます
中学生の絵名:え……
雪平:次回は中間色の使いかたを意識しましょう。 では、次
生徒:よ、よろしくお願いします!
中学生の絵名:…………
雪平:では、今日はここまで。 お疲れさまでした
生徒達:『ありがとうございました!』
中学生の絵名:ああもう……中間色くらいわかってるってば……! もう5年以上ここに通ってるんだから
中学生の絵名:(雪平先生、かなり厳しい人だってお父さんが言ってたけど、 ほんっとうに全然褒めてくれないよね……)
中学生の絵名:(有名な賞をいくつも受賞してる先生だし、 あの東美……東京美術大学を目指す人達が通ってる教室だから レベルが高いのはわかるけど……)
中学生の絵名:(でも、いつも全然褒めない先生が、 今日は『構図は悪くない』って言ってくれた。 他の人には、そんなこと全然言わないのに)
中学生の絵名:(やっぱりそうだよね。 だって私は、お父さんみたいな画家になるんだから——)
第 2 话:見えていなかったのは
数日後
絵画教室
雪平:——今回は花のデッサンです。 立体感、質感について意識することを忘れないように
雪平:駄目です。モチーフ固有の色を出せていません 塗り幅が小さいとすべて同じ素材でできているように 見えてしまいますよ
生徒:はい……
中学生の絵名:っていうことは、もっと細かく塗りわけて——
雪平:やり直しです。見て、感じ取って、描く。 その感覚を体に叩きこんでください
中学生の絵名:見て、感じ取る……
授業後
???:わぁ……! 絵名ちゃんの絵、すごいね……! 濃淡のつけかた、私も参考にしよう
中学生の絵名:ふふん、でしょ? 二葉は課題、どう?
二葉:私はまだ全然。 同じ時期に入ったのに、差をつけられちゃったなぁ……
中学生の絵名:別に、そんなの気にすることないでしょ。 たしかに絵にはセンスが必要だけど、 努力すれば、その分ちゃんと伸びるんだから
二葉:ふふっ。そうだね!
二葉:そういえば、そろそろ受験シーズンだけど……。 絵名ちゃんはもうどうするか考えてるの?
中学生の絵名:うん! 高校も美術を専門に勉強できるところに 行こうと思ってるんだ
中学生の絵名:まだ具体的なところまでは考えてないから、 もうちょっと調べてからお父さんに相談してみるつもり
二葉:そっか、東雲先生に……。 私も、絵を描き続けたいなら、 進路をちゃんと考えなくっちゃなぁ……
中学生の絵名:うん、それがいいと思うよ。 人生は1回だけなんだし、好きなことができるように したほうがいいもん
数日後
東雲家 リビング
中学生の絵名:ねえ、お父さーん
中学生の絵名:受験する高校なんだけど、どっちがいいかな。 どっちも美術科があるから 本格的に学べるとは思うんだけど
父親:美術科?
中学生の絵名:うん。だってほら、私、画家目指してるし
中学生の絵名:早いうちから、ちゃんと勉強できるほうが——
父親:やめておけ
中学生の絵名:えっ?
父親:お前に、画家になれるほどの才能はない
中学生の絵名:なっ——、なに、言って……。 え、なんかの冗談? やめてよね、つまんないから
父親:冗談ではない。 お前に絵の才能はない
中学生の絵名:……そんなわけないじゃない。 だって、私、小さい頃から描いてるし、 中学アートコンクールだって特別賞もらったのに……
父親:ああ、知ってる。 だがプロになりたい人間は、ごまんといる
父親:それこそ、コンクールで大賞を取れないレベルでは 誰にも見向きされないだろう
中学生の絵名:……なんで?
中学生の絵名:なんで、急にそんなこと言うの? 今までそんなこと言わなかったじゃん
中学生の絵名:私、本気なのに、どうして……!
父親:——絵名
父親:お前は、お前が目指すような画家にはなれない
父親:……覚悟に足る才能があれば、違うのかもしれないがな
中学生の絵名:……何、それ
中学生の絵名:じゃあ、私が今までずっと絵を描いてきたのも、 全部無駄だったってこと?
中学生の絵名:才能がないから、努力しても意味がないってこと!?
父親:……そうだ。 少なくとも、この世界はそういう世界だ
父親:今のお前に、可能性はない
中学生の絵名:……っ!
中学生の絵名:……そんなの、決めないでよ……
中学生の絵名:私の未来を、勝手に決めないでよ!!
翌日
二葉:……あれ? もうすぐ授業始まるのに、絵名ちゃん来てないな。 どうしたんだろう……?
二葉:あ、絵名ちゃん! ……あれ?
中学生の絵名:(…………私に、才能がない……?)
中学生の絵名:(そんなわけ、ないじゃない。 私はずっと……ずっと描いてきた。 それに先生だって、私の絵を褒めてくれたし——)
雪平:お待たせしました。 本日から外部のかたも交えた冬季講習ですね。 皆さん、よろしくお願いします
中学生の絵名:(私には、才能が、あるはずなんだから……!)
雪平:それでは講評を始めましょう。 まずはこちらから
中学生の絵名:はい、お願いします!
中学生の絵名:(今回の絵……結構うまく描けたと思う。 これならきっと、雪平先生もまた——)
雪平:これは、森と道ですね。 ふむ……
中学生の絵名:…………
雪平:——目が散ります。 見せ場のはずの、奥の大きな樹木に視線が向きません
雪平:この構図は、0点です
中学生の絵名:……え?
中学生の絵名:で、でも先生、この前は構図を褒めてくれましたよね……? あの時『良い』って言ってくれたニュアンスは ちゃんと今回も活かしてます!
中学生の絵名:それに、今回はどっちかっていうと 描きこみのほうに……!
雪平:この前とは全体の描きこみ量も、描くものも違いますよ。 それを理解した上で構図を切らなければいけません
雪平:一度褒められたからそれで良い、ではなく どうすればさらに良くなるのかを日々突き詰めて 描き続けなければ意味はありません。わかりますか?
中学生の絵名:そ、それは……わかっています。けど……!
雪平:——なるほど。どうやら東雲さんには、 もっとストレートに言わなければ伝わらないようですね
雪平:東雲さんは、自分の実力を過信しています
中学生の絵名:——!!
雪平:ただ褒められる絵を描きたいのであれば、 この教室に来る必要はないでしょう
雪平:今の東雲さんからは、成長も 成長しようとする姿勢も感じられません
中学生の絵名:え…………えっ……?
中学生の絵名:(嫌……なに、この、沈黙……)
二葉:え、絵名ちゃん……
雪平:では、次のかたにいきましょう
雪平:……どこが見せ場であるのかわかりにくいですね。 目を細めた時でも全体像から何が描かれているのか わかるように意識するといいでしょう。ただ——
雪平:全体の描きこみはよくできています
中学生の絵名:……!
中学生の絵名:(先生が、褒めた——? どうして? めったに褒めないのに……)
中学生の絵名:(もしかして、外部生がいるから……?)
雪平:次は……夏野さんですか?
二葉:は、はい!
雪平:ふむ……
二葉:…………
雪平:——良いですね。 ガラスに映りこんだ歪みの美しさをよく描けています
雪平:前回、課題だった奥行きの幅についても改善されていますね。 全体に広がりが感じられます
二葉:あ……!
二葉:ありがとうございます!!
中学生の絵名:……あ…………
中学生の絵名:(違う、わざわざ褒めてるんじゃない……)
中学生の絵名:(さっきの絵も、二葉の絵も——いい絵、だ。 構図も色使いも……私のよりも、全然……)
中学生の絵名:(私の絵は……私の、絵は——)
中学生の絵名:(それなら、私は本当に…………)
数日後
中学生の絵名:…………
雪平:最後の自由制作のテーマは——『自分』です。 各々自由に描いてください
中学生の絵名:(……『自分』?)
中学生の絵名:(自分……自分、か。自分って、なんだっけ?)
中学生の絵名:(私は——画家の娘で、小さい頃から絵を描き続けてて、 それで、周りからも絵がうまいって言われてて……)
雪平:今の東雲さんからは、成長も 成長しようとする姿勢も感じられません
父親:お前に、画家になれるほどの才能はない
中学生の絵名:(私は——)
雪平:それでは、講評を始めます
中学生の絵名:(…………全然、描けなかった)
中学生の絵名:(二葉の絵、こんなにすごかったっけ……。 迫力があって表情も生き生きしてて——)
中学生の絵名:(いつの間に、こんなに描けるようになったんだろ……)
中学生の絵名:(……違う。私が、ちゃんと見てなかっただけだ。 二葉だけじゃない。 この教室にいるみんなの絵は、私よりずっと……)
雪平:まず……こちらは、東雲さんの絵ですね
中学生の絵名:(…………嫌だ)
中学生の絵名:(やめて。評価しないで)
中学生の絵名:(もし価値がないって、才能がないって 先生にまで言われたら、私は——)
雪平:これは——
雪平:……今の東雲さんに言うことは、何もありません
中学生の絵名:あ…………
二葉:——名ちゃん、絵名ちゃん
二葉:絵名ちゃん、大丈夫……?
中学生の絵名:……あ、え、何?
二葉:えっと、講評終わったから……
中学生の絵名:あ、そうなんだ。 ごめんね、ぼーっとしちゃって
中学生の絵名:——じゃあ私、帰るから
二葉:あ、ま、待って! 絵名ちゃん!
雪平:…………
第 3 话:あの時の気持ちを
絵名の部屋
絵名:(——絵画教室は、あの日が最後)
絵名:(挨拶もなしに辞めたから、 お母さんにすごく怒られたな)
雪平:……今の東雲さんに言うことは、何もありません
絵名:…………
絵名:(ううん、もう関係ない。 えっと……たしかこの辺りに参考書があったような……)
絵名:——あ、あった。 懐かしいなぁ、これ何回も見て勉強したっけ
絵名:……あれ? このハガキ……
絵名:(『絵画教室雪平 春期集中講座のお知らせ』……)
メッセージ:『東雲さん、またいつでも来てください』
絵名:……あ……
絵名:そういえば、辞めてから一度だけ 連絡もらってたんだっけ
絵名:あんな辞めかたしたから、 行く気にはなれなかったけど……
絵名:(……春期講習の時期、か)
絵名:(またあの教室に行けば——もっとうまくなれるかもしれない)
絵名:(雪平先生はすごい先生だし、あの教室から 東美に受かる人もたくさんいたから……)
絵名:(……でも……)
絵名:(……周りのレベルだって、絶対上がってる。 きっと、前とは比べものにならないくらい)
絵名:(急に辞めたから、みんなにも変な目で見られて——)
絵名:…………っ
絵名:(ダメ、想像するだけで……気持ち悪い)
絵名:…………
絵名:(行ったほうがいいのはわかってる。 わかってるけど…………)
絵名:惨めすぎるよ……そんなの…………
翌日
絵名:はあ……
絵名:(そろそろ新曲のラフのパターン、出さないと。 だいぶ待たせちゃってるし)
絵名:(でも、今の私が描いたってきっと……)
絵名:…………
絵名:(……やっぱり、描けない。 むしろ、描けば描くほどイメージから遠くなって……)
絵名:……頭、冷やそう
瑞希:『やっほー! えななんいる?』
絵名:あ——。 『うん、いるけど何?』
瑞希:『進捗どうかなーって思って。 まだ詰まってる感じ?』
絵名:『……うん、まぁ。 いろいろ悩んじゃって』
瑞希:『…………?』
瑞希:『ねぇえななん、何かあった?』
絵名:『え? な、なに急に』
瑞希:『ほら、この前悩んでたみたいだからさ。 今日もちょっと声が暗いし、何かあったのかなーって思って』
絵名:『それは……』
瑞希:『……あ。 もちろん、言いたくなかったら言わなくていいよ』
瑞希:『えななんだって、ボクにそう言ってくれたしね』
瑞希:『でも、もし話したほうが楽になることなら、 いつでも話していいからさ!』
絵名:『瑞希……』
絵名:(……そうだね)
絵名:(……友達だからいつか話してほしいって言ったくせに 自分は黙っちゃうなんて、筋がとおってないよね)
絵名:(なら——)
絵名:『じゃあ……ちょっと聞いてもらっていい?』
瑞希:『……! うん!』
瑞希:『——え? 実力が追いついてない?』
絵名:『うん、最近ニーゴのイラストを描いてて実感するの』
絵名:『Kや雪は、どんどん表現の幅が広がってて……。 私だけ、追いついてないって』
瑞希:『えななん……』
絵名:『このままだと、K達の曲を表現できなくなるかもしれない。 だから……』
絵名:『……本当はもう1回、ちゃんと絵の勉強したほうが いいんだろうなって』
瑞希:『んー……。 そこまで思い詰めなくてもいいとは思うけどな』
瑞希:『ボクもみんなも、えななんの絵が好きなんだからさ』
絵名:『…………』
絵名:『……ありがとう。 でも、ニーゴの足を引っ張るのだけは本当に嫌だから。 できることはやりたいの』
絵名:『それで……昔通ってた絵画教室のことを ちょっと思い出したの』
絵名:『すごい先生が教えてる教室だから、 行ったら勉強になると思うんだけど……。 あんまりいい思い出がなくって』
絵名:『それに行ったところで、どうせ…… 2年分周りと差がついたってことを思い知らされるだけだし』
瑞希:『…………』
絵名:『……だけど……本当に、それでいいのかなって……』
瑞希:『…………そっかぁ』
瑞希:『……キツいよね。 向きあわなきゃならないことに向きあうのって』
瑞希:『考えてるうちに頭グチャグチャになって、 あーもーなんでもいいかーみたいになっちゃったりね』
絵名:『あはは、まさにそんな感じ。 それで考えるのダルくなって、休憩ばっかしちゃって……』
絵名:『こんなことばっかりだな、私』
瑞希:『…………』
瑞希:『っていうかさー、 えななんが絵画教室行ってたなんて意外だったなー!』
絵名:『は? どういう意味?』
瑞希:『あはは、ごめんごめん。なんかこう、 絵画教室で絵の勉強してるイメージなかったからさ~。 いつから行ってたの?』
絵名:『始めたのは小2で、辞めたのは中3かな。 そのあいだは毎週行ってたんだ』
絵名:『うちの父親の友達が、絵画教室をやってて……。 その人の個展に行った時に、綺麗な絵だって言ったら、 よかったら教室に行ってみるかって話になったの』
瑞希:『へー! じゃあお父さんの友達に習ってたんだね』
絵名:『うん。すごくストレートに講評するから、 いつも教室はピリピリしてたけどね』
絵名:『デッサンから勉強していって、 水彩とか油彩とかも教えてもらったな。あ、粘土とかもね』
瑞希:『粘土? 絵の教室なのに?』
絵名:『立体をとらえるのに使えるの。 そこから彫刻とかに興味持つ子もいるし』
瑞希:『へぇ~! おもしろ~い! ボクもちょっとやってみたいなぁ』
瑞希:『昔のえななんって、どんな絵描いてたの? やっぱ今ニーゴで描いてるみたいなやつ?』
絵名:『どんなって……。 いろいろ描いたから一概には言えないけど——』
絵名:『Kの曲に出会う前も、聴いた曲にインスピレーションもらって 描いたりはしてたな』
絵名:『……そういう時って、ただ漠然と描くんじゃなくて、 その曲のどこに惹かれたのか、とか考えると いいものができるんだよね』
瑞希:『なんかわかるような気がするなぁ。 ボクもニーゴのMV作る時はそう考えたりするし』
絵名:『うん。そのあたりは、 私もニーゴで活かされてるなって感じる』
絵名:『あとは……“好きなもの”を集めたスクラップブックを 1冊作ってみるとかやったなぁ』
瑞希:『あ、ボクも昔そういうのやった! 好きな雑誌のページとか、映画のチラシとか 切り抜いたりしてさ。おもしろいよね!』
瑞希:『えななんはどんなもの集めてたの?』
絵名:『え? えーっと……。 好きな美術展のフライヤー貼ったり、 おもしろい形の建物を模写したり……』
絵名:『雑誌はよく使ったな。 あとは彰人の持ってるCDのジャケットで 気になったのがあったら、それも写して——』
絵名:『あ。好きなコスメ切り抜いてったら、先生に“東雲さんらしい” って言われたの、未だに腑に落ちないんだよね。 そこまでガッツリメイクしてたわけじゃないのに……』
瑞希:『まー、先生の気持ちちょっとわかるけどねー。 それでスクラップブックを作ったら、そこからどうするの?』
絵名:『スクラップブックはあくまで自分の“軸”を作るための ヒントだから、それをどうこうするってことはないかな。 あ、でもそのあと作った作品で先生に——』
瑞希:『……ふふっ』
絵名:『ちょっと、何笑ってんの?』
瑞希:『ごめんごめん! でも、なんだか楽しそうだな~って』
絵名:『……楽しそう?』
瑞希:『うん、あんまりいい思い出ないって言ってたけど、 学校の授業じゃできないようなことも たくさんやってたみたいだし』
絵名:『……まあ、たしかにそういう時も——』
絵名:(あ——)
絵名:(そっか。楽しんでやれてた時も、あったんだ)
絵名:『…………』
瑞希:『おーい、えななん? 急に黙りこんじゃってどうしたの?』
絵名:『あ、ううん。なんでもない』
絵名:(……なんだろう。少しだけ、 あの時のことを思い出しても苦しくなくなった気がする)
絵名:…………
絵名:(デッサンも、粘土も、スクラップブックも—— 今は全然触ってないし、苦しいのは本当に嫌だけど……)
絵名:『……瑞希』
瑞希:『うん?』
絵名:『——ありがとう』
瑞希:『いえいえ。困った時はお互いさま、だからね♪』
第 4 话:もう一度、あの場所へ
3日後
絵名の部屋
絵名:(……春期講習の〆切まで、あと3時間……)
絵名:(電話、かけよう)
絵名:たしか……ハガキに番号が書いてあったはず
絵名:…………
絵名:(やっぱり怖い……胸が、すごいドキドキしてる……)
雪平:『はい。絵画教室雪平です』
絵名:あ……! あの、も、もしもし……
雪平:『! ——東雲さん、ですか?』
絵名:えっ……!? あ、え、えっと……その……!
絵名:はい……お久しぶりです……東雲です。 ……東雲絵名です
25時
瑞希の部屋
瑞希:『おつー! みんないるー?』
奏:『——うん。 もう作業入ってるよ』
まふゆ:『私も。 ……えななんはまだ』
瑞希:『あ……そっかぁ』
瑞希:(絵名、大丈夫かな……)
絵名:『お疲れさま。待たせてごめん』
瑞希:『えななん! 大丈夫だったの?』
奏:『大丈夫って……?』
瑞希:『あ! ほら、ラフ画で結構悩んでるみたいだから ちょっと気になっててさー! それでえっと……どんな感じ?』
絵名:『そのことなんだけど……。 ごめん。もう少し待ってもらうことになると思う』
瑞希:『え?』
まふゆ:『まだ、納得できないの?』
絵名:『……それもそうだけど……』
絵名:『私、絵の勉強をしてこようと思う』
奏:『勉強?』
絵名:『うん。昔通ってた絵画教室のハガキを見つけて……。 また、行ってこようと思うの』
絵名:『今のままじゃ、今回のラフだけじゃなくてこの先も—— 納得できるような絵は描けないと思うから』
絵名:『もちろん、ラフは描くよ。 みんなに迷惑かけるようなことはしないつもり』
瑞希:『……! うん! 全然大丈夫だよ!』
瑞希:『あ、えっと、ボクは大丈夫だけど……。 Kと雪は大丈夫?』
奏:『それがえななんにとって必要なことなら、 わたしは大丈夫』
まふゆ:『……曲のためになるなら、別にいい』
絵名:『雪のは、ちょーっと引っかかる言いかただけど……。 ……ありがとう、みんな』
絵名:『Kと雪が作ってくれた曲のイメージを描き起こせるように、 勉強してくるから』
奏:『わかった。頑張ってね、えななん』
絵名:『うん、ありがと』
数日後
宮益坂
絵名:……はあ……
絵名:(覚悟したはずなのに——足が、重い)
絵名:(もう教室は目の前なのに、すごく遠く感じる)
絵名:(……あの時、教室に一緒にいたみんなは、まだいるんだろうな)
絵名:(あれからも、2年間、この教室に通って……。 ずっと絵を描き続けて……)
絵名:…………っ
絵名:(……気持ち、悪い…………)
???:あれ? そこにいるのって……絵名ちゃん?
絵名:え? あ……
二葉:わぁ……! 絵名ちゃんの絵、すごいね……!
絵名:……二葉?
二葉:やっぱり絵名ちゃんだ。 ひさしぶりだね!
二葉:あ……それ、教室用のバッグだよね。 もしかして、今日から始まる春期講習に出るの?
絵名:え、えっと……まあ、そんな感じ……
二葉:本当!? また絵名ちゃんが来てくれるなんて、嬉しいな……!
二葉:あ、だったら一緒に行こう。 久しぶりだから、教室もちょっと入りかた変わってるしね
絵名:え。あー……その……
二葉:ほら、こっちだよ。絵名ちゃん!
第 5 话:遠のいた距離
第 6 话:止まった筆
第 7 话:逃げたくない
絵名の部屋
リン:(……来ちゃった)
リン:(急に部屋に来たら、そんなに心配してるの?って からかわれるかもしれないけど……)
リン:『あ……』
リン:『絵名?』
絵名:駄目……。 こんなんじゃ、全然……
絵名:もっと色を足して—— 違う、ここは暗くしなきゃ……
絵名:……ああもう、色が濁ってきた……。 描き直さないと……
リン:(絵名……苦しそう……)
リン:(……どうしよう……)
リン:(何か、絵名のために、できること——)
リン:『……♪————』
絵名:——あれ……
絵名:リン……?
リン:(……よかった。 ちょっと、元気になったみたい)
リン:『……絵名、大丈夫?』
絵名:…………
絵名:大丈夫……じゃ、ないかな
絵名:駄目なんだよね。描いても、描いても、 全然描けなくて——
リン:『…………』
絵名:みんなに追いつくために、ニーゴに合う絵を描くために 成長しなきゃいけないのに……
絵名:苦しい……
絵名:やらなきゃいけないのは、わかってる。 でも、絵と向き合うと苦しくなって——頭がぼーっとするの
リン:『絵名……』
絵名:あ……メッセージ? 誰から……
瑞希のメッセージ:『えななん、もしよかったらちょっと話せない?』
絵名:…………
リン:『……瑞希達、絵名のこと心配してた。 力になりたいって』
絵名:……そっか。 ありがと、リン
誰もいないセカイ
絵名:……ごめん瑞希、遅くなった……って……
絵名:奏とまふゆも一緒だったの?
奏:うん、いろいろあって
瑞希:そっちこそ、リンも一緒だったんだ?
リン:……いろいろあって
絵名:ていうか、みんなごめん。 ラフは描くって言ったくせに、全然進まなくて……
奏:別にいいよ。 絵名が頑張って描いてることは知ってるから
奏:それと……悪いと思ったんだけど、 絵画教室のこと、瑞希から聞いた
絵名:あ……
絵名:…………
奏:ごめん、わたし達に追いつけなくなるって—— 絵名がそこまで悩んでるって、気づけなくて
絵名:別に、奏のせいじゃないから。 私が……全然描けないせいで……
絵名:あそこに行って、サボってた時間の長さを実感しちゃった
絵名:周りの子達は、自分の描きたい物を 自分の力で表現してて——
絵名:私は、基本レベルのこともできなくなってて、 周りに追いつけなくて……
絵名:それなら、今から必死に頑張ればいいってことも、 頭ではわかってる
絵名:でも……体が、ついてこない。 本当は、あの場所に行くのがすごく怖くって、ずっと震えてる
絵名:周りの子達よりも描けないし、酷評されるのがわかってるし、 ——なにより、私が私を許してくれなくって
絵名:なんであの時、逃げ出しちゃったんだろう……って、ずっと
リン:絵名……
絵名:……だけど、ニーゴのみんなに 置いていかれるのはもっと嫌。だから……描きたい
絵名:そう、思ってはいるんだけど
奏:…………
奏:絵名は、逃げてたわけじゃないんじゃないかな
絵名:……え?
奏:たしかに、ニーゴでイラストを描いてても、 何かの勉強になったり、技術を伸ばしたりは できなかったかもしれない
奏:でも絵名の絵は、出会った時よりずっと良くなってる。 わたしとまふゆの曲を聴いてイメージしたものを 絶対に表現しきろうっていう気持ちが伝わってくるよ
絵名:…………
瑞希:ボクもね、最近の絵名の絵を見ると思うんだ。 絵名は絵が大好きで、表現したいものが たくさんたくさんあるんだろうなぁって
絵名:……でも、気持ちがあるだけじゃ、 どうにもならないでしょ
絵名:今のまま——成長できなかったら、私は……
まふゆ:…………
まふゆ:成長してるのかは、よくわからないけど……
まふゆ:昔の絵名の絵は、 わざわざ汚い色を使ったり、歪んだ線を引いたり 何を表現したいのかわからないことがあった
絵名:は? だから、あれはあえてだって……!
絵名:(……でも、今考えると……。 あれも、もっといい表現の仕方があったのかも)
まふゆ:——だけど、今は少し違う
絵名:え……?
まふゆ:伝えたいことが見えない時はあるけど、 昔よりはわかるから
絵名:…………
奏:——絵名
奏:ごめん、いろいろ言っちゃったけど。 ……この2年間を、無駄なんて思ってほしくない
奏:わたしは、——ニーゴは、 絵名のイラストに助けられてきたから
絵名:……奏……
絵名:(私にとって……この2年は——)
絵名:(ニーゴと出会って、逃げてた絵に、少し触れるようになった)
絵名:(それから……みんなとセカイで会って、 コンクールで落選して、立ち直れなくなりそうに なったりもしたけど……)
絵名:(でも——またニーゴのために 絵を描こうって思えるようになった)
絵名:…………
瑞希:絵名、これ見てよ。 ニーゴの動画!
絵名:え?
瑞希:ほら、奏がバンバン曲作るから すっごい数になってるでしょ
奏:ごめん。誰かを救う曲を、って思ってたら、 いつの間にか……
まふゆ:謝ることじゃないよ。 奏にはこれからも曲を作ってもらわないといけないんだから
奏:……そうだね
絵名:……あ、これ懐かしい
瑞希:ボク、初期のちょっと荒っぽい絵も結構好きなんだよね! 曲のエッジきいた感じと合ってるでしょ?
瑞希:こっちも懐かしいよね! 全然絵が上がってこないから一緒に考えたヤツ!
絵名:モチーフで詰まって何度も描き直ししたんだよね。 すっごい時間かかったな
リン:…………
リン:わたし、この絵好き
絵名:え? これって……この前アップした動画?
リン:うん。昔の絵もいいけど、今の絵はもっと好き。 ドロドロな色が、絵名って感じする
絵名:それ、褒めてる?
リン:褒めてる
絵名:へっ?
リン:わたし、絵のことはよくわからないけど——
リン:本当に絵名が逃げてるのなら、 こんなにたくさん描けないと思う
絵名:あ……
絵名:……私は……
絵名:(そう、なのかな)
絵名:(わからない——ううん。私は間違いなく、2年前に逃げた。 それは……本当)
絵名:(でも……)
絵名:(……この絵達を描いてきたのも、本当なんだ)
絵名:(ニーゴのみんなと、一緒に——)
絵名:…………
絵名:……ありがと、みんな
絵名:私——もうちょっとだけ頑張ってみようと思う
リン:……!
リン:——うん。 がんばって、絵名
第 8 话:キャンバスに描く私は
翌日
宮益坂
絵名:……ふぅ
絵名:うん。行こう
絵画教室
二葉:あ……絵名ちゃん! 具合は大丈夫?
絵名:二葉……
絵名:うん……昨日は心配かけてごめん。 でももう、大丈夫だから
絵名:今日が最終日だし、……後悔のないようにしなきゃ
二葉:……! うん! 自由制作、頑張ろうね
雪平:皆さん、おはようございます。 全員そろっているようなので、 早速、本日の自由制作課題をお伝えします
雪平:デッサンで、制作時間は6時間。 テーマは——『自分』です
絵名:……!!
中学生の絵名:(……『自分』?)
中学生の絵名:(自分……自分、か。自分って、なんだっけ?)
絵名:(あの時と—— 私が、絵から逃げた時と同じ課題だ)
雪平:それでは、始めてください
絵名:(……あの時の私は、『画家の娘で、絵の才能がある自分』が 自分だって思ってた)
絵名:(でも、今は……今は、違う)
絵名:(私にとっての『自分』は、どうしようもなくて 悩んでばっかで、かっこ悪いけど——)
絵名:(それが今の——私だ。だから……!)
雪平:…………
雪平:残り5分です
絵名:(……最後の仕上げに入ろう)
絵名:(光源は……大丈夫。 影のつけかたもイメージどおり。 あとは時間いっぱいまで、影を描きこもう)
雪平:時間です。 それでは、すぐ講評に入ります
絵名:(……なんとか、描ききれた……)
雪平:それでは、端から——夏野さんの絵から見ていきましょう
二葉:はい! 私は……自分の手を描きました
絵名:……!
絵名:(この絵……すごくあたたかい。 優しくて、まっすぐで……。 絵が好きなんだって気持ちが伝わってくる)
絵名:(まふゆが言ってるあたたかいって感じも、 こういうものなのかな……)
雪平:……なるほど。構図、モチーフともによくあるものでは ありますが……夏野さんらしさがよく出ていますね
雪平:最も身近にある、最も大事で、必要なもの。 それを、実に繊細な筆致で描けています
二葉:……ありがとうございます!
絵名:(……先生の言うとおり。 奇をてらわないで、正面からまっすぐ 自分を描いてて……すごく、二葉らしい絵だな)
生徒A:ありがとうございました!
雪平:それでは最後は……東雲さんですね
絵名:……はい。お願いします
雪平:この絵は……背中、ですか
絵名:はい。 夜、液タブに向かって絵を描いてる、私です
絵名:(この2年。 絵に向き合いきれなくて、それでも絵を描き続けた私)
絵名:(みんなと一緒に居続けたからここにいる——私)
雪平:…………
雪平:……なるほど。 では、ひとつずつ見ていきましょうか
雪平:まず、この絵からは伝えたいものが見えてきません
絵名:……はい
雪平:絵と向き合う姿の描画が甘く、この人物の心情が見えてこない。 どこに視線を向けてほしいのかも意識できていない
雪平:夜を表現するため影の描きこみをしたのでしょうが、 結果として全体が見えづらくなっています。 アイディアに頼らず見せかたをもっと考えてください
絵名:……はい
雪平:——以上です
絵名:…………
絵名:(……全部、間違ってない。 先生が言ってることは、正しい)
絵名:(私は、今、描けない。 自分の描きたいものを、伝えられるように描ききれない)
絵名:(……だけど、今回は逃げなかった。 ちゃんと自分と向き合って、描ききれたから)
絵名:(ここからだ……まずは、ここからなんだ)
雪平:皆さん、3日間お疲れさまでした。 外部生のかたで今後も受講したいというかたは——
絵名:…………
絵名:(終わった……)
絵名:(すごく苦しかったけど……。 最後に、あの絵を描ききれて……)
絵名:(……来てよかった、かな)
雪平:——東雲さん
絵名:えっ!? あ、雪平先生……! ど、どうしたんですか?
雪平:3日間、お疲れさまです。 作品についてお話させていただいてもよろしいですか?
絵名:は、はい……!
二葉:絵名ちゃん……
雪平:まず、1日目のデッサンから。 大まかな内容は講評でお伝えしたとおりですが、 全体的に客観視する力が衰えているように感じます
雪平:そのため、アゴが曲がっていることにも気づけず 濃淡の付けかたも甘くなってしまったのでしょう
絵名:……はい……
雪平:ですが基礎を学び直せば問題はありません。 可能なら1日1枚、毎日描いてください
絵名:え……
雪平:では次、2日目の油彩ですが ムラが酷く見られたものではありません。 油絵具の使いかたから学び直したほうがいいですね
絵名:は、はい……
雪平:しかし、構図の切りかたは良かったです。 ムラがなければ、モチーフが際立っていて 目を引く作品になっていたかもしれません
雪平:だからこそ残念です。 先程の客観視する力に結びつきますが——
絵名:…………
絵名:(先生の言葉、すごく厳しい。 心に突き刺さるみたい、だけど——)
中学生の絵名:先生、今回の絵はうまく描けたと思うんですけど……!
雪平:——東雲さんが表現したいものは伝わります。 しかし一部分のみで、全体を見るとまだ甘いです
雪平:もう少し全体を見る力を養ってください。 その上で、モチーフを活かすためにはどの色を使えばいいか、 どう構図を切るかを考えてください
中学生の絵名:……色も構図も、自信あったのに……
雪平:……ただ褒めてほしいのであれば、私は何も言いません
雪平:しかし、それは成長を止めてしまうことになります。 講師として、ひとりの画家として、 私は講評を続けます
中学生の絵名:……わかりました……
絵名:(……そうだ。昔から先生は、教室が終わったあとに こうやって時間を作って教えてくれてたっけ)
絵名:…………
雪平:——最後に、今日の作品ですが
絵名:あ……
雪平:絵から伝えたいものが見えてこない原因は、 描画力と表現力の乏しさにあります
雪平:モチーフと影の描きこみのバランス、 この絵を見た人にどんな印象を与えたいのか—— それらを絵に落としこむことができれば、良くなるでしょう
雪平:少なくとも以前、東雲さんが描いた作品とは違って “知りたい”と思わせるものにはなっていました
絵名:先生……。 私の絵、覚えててくれたんですか?
雪平:ええ、あのあと東雲さんは帰ってしまったので お伝えできませんでしたが、課題点はメモしてあります。 今日の帰りにお渡ししましょう
絵名:……あ、ありがとうございます
絵名:——先生は、今日の絵……どう思いましたか?
雪平:お伝えしたとおりです。 基礎ができていないことで、見るに耐えない出来になっています
雪平:しかし東雲さんの、絵と向きあう意志は感じ取れました
絵名:…………っ
絵名:私……まだ、うまくなれますか?
絵名:ずっと——もう、間にあわないんじゃないかって……。 絵から逃げてきたこと、後悔してて……、 でも……
雪平:……うまくなれるかどうかは、私にはわかりません
雪平:しかし、向きあおうとする意志がある限り、 可能性は消えません
絵名:…………!
雪平:また、いつでも来てください。 お待ちしています
絵名:ありがとう、ございます……
絵名の部屋
絵名:(昔の私は、あの教室で 褒められることばっかり考えてた)
絵名:(今の私は、酷評されるのが嫌で、 惨めな思いをしたくなくて——)
絵名:(——でも……)
雪平:講師として、ひとりの画家として、 私は講評を続けます
雪平:少なくとも以前、東雲さんが描いた作品とは違って “知りたい”と思わせるものにはなっていました
絵名:(私にまだ、可能性が—— 成長できる未来が、あるなら……)
絵名:(ううん、なくてもいい。 そんなの関係ない——!)
絵名:……もう一度、通おう
絵名:(——もう、逃げない。 苦しくても、キツくても…… どんなに時間がかかっても、きっと——)
絵名:(いつか絶対に……ニーゴにふさわしい、 私の絵を描けるようになってみせる!)