活动剧情

The Vivid Old Tale

活动ID:64

第 1 话:ヒントを探そう!

ストリートのセカイ
crase cafe
杏:っは~! 疲れた~! やっと休憩できるよ~……
こはね:たくさん歌ったから、もうヘトヘトだね……。 いつもより早く公園に行ったのに、気づいたら夕方だったし……
MEIKO:みんなお疲れさま。 はい、ご注文のレモネードよ
彰人:あざす……
MEIKO:冬弥くんのは甘さ控えめよ
冬弥:ありがとうございます。 ……ふぅ、レモンの酸味が体に染みわたる……
ルカ:あはは! なんだかみんなマラソンしたあとみたいだね~
ミク:ふふ、ここまでバテてるのって珍しいよね
リン:やっほー! メイコ、遊びに来たよ~!って……
レン:みんなどうしたの!? ずいぶんぐったりしてるけど……
杏:あー、ごめんね心配かけちゃって。 さっきまで合同練習してたからバテちゃってさ~
リン:合同練習?
杏:うん。次のイベントに向けてね! 今、新達と企画してるイベントがあるんだけど、せっかくだから 時間の合う日は一緒に練習しようってことになってさ
こはね:それで、今日初めてやってみたんだけど……。 みんなとってもすごくて……
彰人:三田なんてぶっ倒れるまでやってたな
冬弥:ともかく、みんな相当気合いが入っていたな。 おかげでとてもいい練習になった
レン:へ~! 大変そうだけど、すっごく楽しそうじゃん!
MEIKO:そうね。 新しい仲間とも、同じ気持ちで頑張れてるみたいでよかったわ
冬弥:はい。あのイベントで、少しだけ RAD WEEKENDの空気に近づけた気がします
冬弥:これも彰人がヒントを出してくれたおかげだな
レン:さっすが彰人! ヒューヒュー!
彰人:なんだよその盛り上げかた……
彰人:つーか、まだ全然追いつけちゃいねえ。 あの夜に追いついて超えるには、足りねえところばっかりだ
MEIKO:足りないものが何かを ちゃんと理解する必要があるから、そこも大変よね
ルカ:この前『空気』がヒントになったみたいに、 また何かヒントを見つけられたりするといいんだけどねー
リン:……ヒント……。 う~むむむ
リン:——あっ!
こはね:どうしたの? リンちゃん
リン:わたし、ひらめいちゃったっ!
リン:そのヒントって、 RAD WEEKENDの映像を見てたら見つかったんだよね?
リン:なら、もう1回見たら 他にもヒントが見つかるんじゃない!?
こはね:え?
リン:ほら、彰人くんは映像を見て、 イベントの空気が違うってことに気づいたから ヒントを見つけられたんでしょ?
リン:ならそれと同じように、もっと歌とかパフォーマンス以外に 注目してみたら、何か新しい発見ができるかも!
リン:……うんっ! わたしってば名推理しちゃった!
レン:ん~、でもみんなは今まで何回も見てるんでしょ? 今更見つかるのかな?
冬弥:可能性は低いかもしれないが……。 しかし、試してみる価値はあると思う
レン:え、そう?
冬弥:俺も、あの映像を何度か見ているが……。 いつも歌唱技術やパフォーマンスに 圧倒されてしまっていたからな
冬弥:リンの言うように、意識して 『RAD WEEKENDは普通のイベントと何が違うのか』 を確認することで、何か新しい発見があるかもしれない
レン:なるほど~! なんか、冬弥が言うと説得力あるな!
リン:ちょっとレン~? それどういう意味~?
レン:わ! 冗談だってば冗談!
杏:ふふっ。 ほら、ふたりとも仲良く仲良く!
杏:それじゃあ——改めてみんなで見よっか! ミク達も一緒にどう?
ルカ:えーいいの? 見せてもらうタイミング逃しちゃってたから嬉しいな~
KAITO:うんうん! レンもリンも『とにかくすごい』しか言わないから、 よくわかんなかったしね~
MEIKO:そういうことなら、鑑賞会にしましょうか。 ええと……前のイベントで使ったスクリーンがあるから、 それに映すのがよさそうね
リン:やったー! みんな、一緒に準備しよう!
ミク:それじゃ——再生するよ
凪の声:♪————————っ!!
ルカ:……うっわ~! すっごい歌……!
KAITO:パワフルだね~! 圧倒されるっていうか、引きこまれるなぁ
レン:でしょでしょ!? オレも最初聴いた時、びっくりしちゃったよ!
KAITO:うんうん。まさか、こんなにすごいなんてね……! 体がウズウズしちゃうよ!
リン:も~、みんな、シー!
レン・ルカ・KAITO:『はーい』
MEIKO:まったく……。 みんな、いつでも賑やかなんだから
ミク:ふふ、そうだね
ミク:それに比べて、こはね達は——
こはね:(いつも、歌ばっかり注目しちゃってたけど……。 今日はセトリを意識して見てみようかな)
こはね:(——最初の1曲の、たったワンフレーズで ライブハウス全体の空気がガラッと変わって、 そこからはもうグイグイ引きこまれていくんだよね)
こはね:(……お客さんをちょっとでも飽きさせないように、 曲の繋ぎもすごくスムーズで……)
こはね:(でも……やっぱり……)
こはね:(……この、凪さんっていう人から、 目が離せないな……)
彰人:(……ライティングもすげえな。 これのおかげで、さして大きくないハコが とんでもなく雰囲気のあるステージになってやがる)
彰人:(そんで、その中心にいるのは——)
冬弥:(この人の、観客を惹きつける力の正体は……歌唱力なのか? いや……だが、それ以外にも何か関係しているような気もする)
冬弥:(彼女を中心に、熱狂と……何か、他の感情が 渦を巻いているような……。 これは、もしかすると——)
杏:(ヒント……ヒント……)
杏:(あ——ダメダメ。見入っちゃう。 今は冷静にヒントを探さなきゃいけないのに)
杏:(にしても……RAD WEEKENDは、本当にすごいな)
杏:(何回も見てるはずなのに、見てるだけでドキドキして……。 気づいたら、もう虜になってる)
杏:…………ふふっ
杏:やっぱり、すごいな……
彰人:……で、どうだ? 何か気づいたことはあったか?
リン:うん! えーっとえーっと…… すっごくかっこよかった!
レン:あのなー、ヒント探しはどうしたんだよ
リン:うっ! だ、だって気づいたら夢中になっちゃってたんだもん!
杏:あはは! リンちゃんらしいな~
こはね:でも、その気持ちわかるな。 私も最初見た時そうだったし
ミク:だからこそ、伝説のイベントなわけだしね
冬弥:——ヒント、と言えるかはわからないが、 ひとつ感じたことがある
杏:お、なになに!?
冬弥:気のせいかもしれないが……。 参加者全員の歌声の中にどこか—— 寂しさを感じたような気がした
彰人:寂しさ……?
冬弥:ああ。 ……なんとなくだがな
リン:えー? みんなすっごく盛り上がってたのに?
杏:……もしかしたら、父さん達がこのあと解散したからかな
杏:あの日、ステージに立ってた人達は、 これが父さん達の最後のイベントだって みんな知ってたのかもしれないな
レン:あ、RADderの最後のイベントだから、 すっごく気合い入れて歌ってくれたってこと?
冬弥:……そういうことなんだろうか……
彰人:まあ、最後だから必死に歌ってたってのは ありそうだが……
冬弥:ただ、それだけであそこまでのイベントができたかと言うと……。 まだわからないな
こはね:必死に歌ってたって言えば……。 最初にソロで歌ってた凪さんがすごく印象的だったな
こはね:それで、なんとなくだけど……。 このイベントの中心にいるのは、 大河さんの妹さん——凪さんなのかなって思ったよ
杏:あ、こはねも? 実は私もちょっとそう思ってたんだ
彰人:……たしかにな。 それはオレも感じた
彰人:RAD WEEKENDの空気は、 1曲目から他のイベントと違う。 つまり……あの空気を作ったのは、あの凪って人なんだろうな
冬弥:……そうだな
冬弥:この前のイベントで、俺達全員でどうにか作り出したあの空気を、 凪さんという人はたったひとりで—— しかもイベントの一発目の曲で、生み出していたようにも見えた
杏:うん。しかもそれだけじゃなくって、 凪さんが周りの人をいい感じにやる気にさせてる みたいに見えたんだよね
杏:うちの父さんと大河おじさんも、 登場した時は力入った顔してたけど、 凪さんが声かけたら、少し肩の力抜けてたみたいだしさ
杏:あの凪さんのパワーは本当にすごかったよね! いつ見てもかっこいいなって思うよ
リン:あ……そういえば杏ちゃんって、 その凪さんっていう人と知りあいなんだよね?
杏:うん。そうだよ。 私がすごく小さい頃から面倒見てくれてたんだ
杏:父さんや大河おじさんと一緒に、 よく歌の練習を見てくれたりして……。 あの頃は本当に楽しかったな
こはね:……ねえ杏ちゃん。 よかったら、その時の話、もうちょっと聞かせてくれない?
杏:え? 凪さんと練習してた時のこと?
こはね:うん。凪さんのことがもっとわかったら、 RAD WEEKENDのことももっと深く わかるんじゃないかなって思って
冬弥:そうだな。俺からも頼みたい
冬弥:凪さんという人がRAD WEEKENDの 中心人物だとしたら—— 知ることには、とても大きな意味があると思う
彰人:だな。 それに……
彰人:あれだけの歌を歌えて、謙さんや大河さんと肩を並べてた人が どんな人なのか……個人的にも興味がある
ミク:——うん。 私もそこは、興味あるな
リン:聞きたい聞きたーい!
杏:凪さんについて……か。 んー、話すのはいいけど、どこから話そうかな……
杏:あ、それじゃあ、あの時のこととかどうかな
杏:凪さんは——本当に、いつだってかっこよかったんだよ

第 2 话:古瀧凪という人

数年前
土曜日 朝
幼い杏:よしっ! 今日もがんばるぞー!
幼い杏:♪————!
ライブハウス新人スタッフ:ん? うわ……! なんだあの子、小さいのに歌うまいなぁ……!
ライブハウス店長:ん? どうしたんだ?
ライブハウス新人スタッフ:あ、店長。今掃除してたんですけど、 あそこにすごく歌のうまい子がいて……
ライブハウス店長:ああ、お前は入ったばっかりだからまだ知らなかったか
ライブハウス店長:あれはRADderのKENの娘——杏だ
ライブハウス新人スタッフ:え? KENの……!?
幼い杏:♪————!
住人達:お! もう杏ちゃんが歌い出す時間か
住人達:みたいだな。 杏ちゃんはいつも練習しててえらいな!
住人達:杏ちゃん、頑張ってね!
幼い杏:うんっ! これで練習曲はおしまい! えーと次は……
セクシーなお姉さん:あ! 杏ちゃーん! 今日も朝からえらいね~
幼い杏:あ、お姉さんおはよ! 今お仕事終わったの?
セクシーなお姉さん:ええ。もうクタクタだけど…… 杏ちゃんの歌で元気になれちゃったわ♪ ありがとう♪
幼い杏:えへへ、どういたしまして! いつでも聴きにきてねー!
幼い杏:……あ! レコード屋のお兄さん、おはよー! 今日もピアスいっぱいでカッコイイね!
くせっ毛のレコード屋店員:あ……ありがとう……。 杏ちゃんも、元気そうだね……
幼い杏:うん! あ、前にお兄さんが教えてくれた曲、今練習してるんだよ!
くせっ毛のレコード屋店員:ほ、本当? 嬉しいな……
ライブハウス新人スタッフ:へぇ……なんだかすごく元気で明るい子ですね
ライブハウス店長:ああ。歌えるうえに愛嬌もあるときた。 あれは血もあるんだろうが……おーい! 杏ちゃん!
幼い杏:ん? あ、おじさーん! おはよ! 元気?
ライブハウス店長:おう! 元気すぎるくらいだ! 杏ちゃんは今日もいつものアレか? 謙達が言っていた……
幼い杏:うん! 『歌の練習ならこの通りでするのが一番』だからね!
幼い杏:……本当は朝からお父さんに見てもらうはずだったんだけど、 忙しくって、まだ来れないんだー
ライブハウス店長:そうか……まあ、あいつは人気者だからな
幼い杏:ね! ほんとみんな、お父さん達の大ファンなんだから!
幼い杏:……あれ? そこにいるのって新しいスタッフさん?
ライブハウス新人スタッフ:あ、う、うん。 先週から働いてるんだ。よろしくね
ライブハウス店長:こいつはな、杏ちゃんの親父さんのファンなんだぞ
幼い杏:え? そうなのー!?
ライブハウス新人スタッフ:あ、ちょ……店長!
幼い杏:そうだよね~。うちのお父さん、カッコイイもんね! お兄さん、見る目あるよ! なんちゃってー♪
幼い杏:あ、でも私、お父さんよりすごいミュージシャンになるから! その時は私のイベントも見に来てね!
ライブハウス新人スタッフ:あ、うん!
幼い杏:それじゃあ練習戻るね! またね!
幼い杏:♪————!
ライブハウス店長:……ま、ああいう子だ。 しっかりしてるだろ?
ライブハウス新人スタッフ:本当ですね。 さすがKENの娘さんだなぁ……
幼い杏:♪————!
幼い杏:ふー。いっぱい歌ったなぁ……
幼い杏:(新しい曲も歌えるようになったし、 ラップもいい感じにできるようになったし、順調順調!)
幼い杏:(それにしても……お父さん来ないな。 もうお昼になっちゃうよ)
幼い杏:(今日は練習見てくれるって言ってたのに……)
???:おーい! 杏ー!
幼い杏:あ……この声……!
幼い杏:凪さん! 大河おじさん!
凪:やっほー! 杏、今日も朝練?
幼い杏:うん! もう3時間くらいやってるんだ! ふたりは、お父さんに会いに来たの?
凪:そうだよ。今日のイベントの準備もあるしね。 張り切って歌っちゃうから、楽しみにしててよ!
幼い杏:うんっ! えへへ……楽しみだな~!
大河:はは、杏は本当に凪になついてるな
大河:で、謙はまだ家か?
幼い杏:ううん! お父さん、誰かから電話かかってきてどこか行っちゃったんだ。 練習見てほしかったのに……
凪:ああ……そういえば、メジャーデビュー前の子達に いろいろ相談したいって言われてたから、それかな
大河:謙のことを頼りにするやつらが多いんだよな。 俺と違って面倒見がいいから
凪:とかなんとか言って、大河だって 案外助けちゃうほうじゃーん?
幼い杏:そういえばこの前も、 アイス落として泣いてる子なぐさめてた!
大河:そりゃほっとくわけにもいかねえだろ。 俺はアイス落としたら世界の終わりだって思うからな
幼い杏:たしかに、私も1日中落ちこんじゃうかも……!
凪:あはは、ふたりとも大げさだなぁ、もう
大河:……お。謙から連絡来たぞ
幼い杏:え! 本当!?
大河:……あー、まだ来れないとよ。 となるとどっかで時間潰さないとな
幼い杏:むー! お父さんめー!
幼い杏:あ、それじゃあ凪さん、おじさん! 私の歌聴いてくれない?
幼い杏:いっぱい練習したから、いい感じに仕上がってるよ!
凪:お、それじゃ聴かせてもらおっかな!
大河:半端な歌だったら寝ちまうからな?
幼い杏:大丈夫だってば! 昨日お父さんもいい出来だって言ってくれたし!
凪:へー、謙が? それなら期待しちゃおっかな♪
幼い杏:うん! それじゃ、いくよー!!
幼い杏:♪————! ♪————! ♪—————……
凪:うんうん! いい感じじゃない?
幼い杏:♪————————!!
凪:おーっと、ストップ!
幼い杏:え?
凪:今のとこ、裏声に逃げないでパーンって出せたら もっとかっこよくなるよ。こんな感じ
凪:♪————————っ!!
幼い杏:わ……! ねえねえ! 今の、どうやるの?
凪:お腹の底から頭のてっぺんに向かって、 声を当てる感じでやってごらん。 最初は音外していいから
幼い杏:うん! えっと……
幼い杏:♪~~~~!
凪:うん、いい感じ! 次は喉を締めずに出してみて。肩の力抜いて……はい!
幼い杏:♪————————っ!!
幼い杏:……! できた! やったー!! ありがとう凪さんっ!!
凪:あはは、杏は飲みこみが早いから教え甲斐あるな。 はい、じゃあグータッチ! イェーイ!
幼い杏:イェーイ!
大河:ふっ。 相変わらずお前らは姉妹みたいだな。……ん?
ラッパーの少年A:おいお前、ふざけんなよ!
ラッパーの少年B:やんのか? 表出ろ!
野次馬達:お前らやめろって! おい!
大河:ん? ありゃあもしかすると……
幼い杏:——ケンカ!?

第 3 话:ストリートの日常

ビビッドストリート
ライブハウススタッフ:お前らやめろ!
ラッパーの少年A:うるせえ!
ラッパーの少年B:邪魔すんな! ぶっとばすぞ!!
野次馬達:おい、ふたりとも落ちつけって!
幼い杏:うわ! どっちもすごい怒ってる……!
大河:おーおー。 こんな時間から元気だな
凪:ここらじゃ見ない顔だね。 ずいぶん若い子みたいだし
凪:あ、そういえば、今日は新しいMCバトルイベントやるって 誰か言ってたような……
ラッパーの少年A:おい! さっき言ったこと取り消せよ!
ラッパーの少年B:お前みたいなヘタクソにヘタクソって言って何が悪い!
幼い杏:わっ! だ、大丈夫かな……!?
大河:あの調子じゃ、いつ殴り合いになってもおかしくねえな
凪:……だけど、あの子達体格いいし、 スタッフが止めるのは大変そうかも
凪:ちょっと私、行ってくるよ
大河:おう
幼い杏:えっ、どうするの!? 凪さーん!
凪:みんなちょっとごめんねー。 通らせてもらうよ
野次馬達:ん? あれって……凪さん!?
凪:——昼から喧嘩なんて元気だね。 何かあったの?
ラッパーの少年A:なんだババア! 邪魔すんな!
凪:んー、ラッパーならもうちょっと言いかたあるんじゃない? “ババア”と“邪魔”なんて韻踏めるんだしさ
ラッパーの少年A:は? お前、舐めてんのか?
幼い杏:おじさん、凪さん大丈夫かな……!? あの人達凪さんよりずっと大きいよ
大河:ま、あれくらいなら問題ねえだろ
ラッパーの少年B:関係ないなら引っこんでろよ!
凪:それが結構関係あるんだよね。 私の大事な教え子がここで歌ってるから、 あんまり騒がれると困っちゃってさ
凪:で? 見たところ、バトルのジャッジに納得いかなくて、 ステージの外で喧嘩するっていうダサいことしてるっぽいけど、 実際どうなの?
ラッパーの少年A:ぐ……!
凪:お、当たりっぽいね。 ん~……絡んだのはそっちのキャップの子から?
ラッパーの少年A:絡んだんじゃねえ! ジャッジがおかしかったんだよ!
ラッパーの少年A:あんなクソみたいなフロウに負けたなんて認められるか!
ラッパーの少年B:なんだと!?
凪:まーまー。 ……って言っても落ちつけるほど頭冷えてはないよねぇ……
凪:——じゃあ、ここでもう1回勝負したら?
ラッパーの少年A・B:『は?』
凪:もう、何ポカンとしてるの。 ラッパーならラップで戦うもんでしょ
凪:今度は私とここにいるみんなでジャッジしてあげる。 ——みんなも、聴きたいよね!!
凪:どう? ……まさか、こんなにギャラリーがいるのに 逃げるなんてダサいこと——しないよね?
ラッパーの少年A・B:『……!』
ラッパーの少年A:当たり前だ! 舐めんじゃねえぞ!
ラッパーの少年B:ここでもう1回ボコボコにしてやるよ!
凪:よーし! そしたら始めよっか! 曲の準備はいい?
ライブハウススタッフ:あ……はい!
凪:それじゃ——思いっきり沸かせてよね!!
ラッパーの少年A:クソ……! 絶対にぶっ倒す!
ラッパーの少年B:こっちの台詞だ!
幼い杏:あははっ! どっちもがんばれー!
大河:おい凪、ほどほどにしとけよ。 ま……この時間なら警察もこねえだろうけどな
凪:わかってるって!
ラッパーの少年A:♪——! ——! ——————!
凪:お! いいバースだね! 喧嘩の時はいまいちだったけど、 こっちなら言葉の引き出しかなりあるじゃん!
幼い杏:いいねー! ま、凪さんほどじゃないけど♪
ラッパーの少年B:次はオレだ! いくぞ!
ラッパーの少年A・B:『ハア、ハア、ハア……』
凪:ふたりとも、なかなかいいじゃん! でも、今はドローって感じかな
凪:このままじゃ納得できないだろうし、 もう1回やってみる?
ラッパーの少年A:す、少し休憩させろ……!
野次馬A:じゃあ、そのあいだにオレ達が戦おうぜ!
野次馬B:お、いいな。やるか!
幼い杏:ねえねえ凪さん、私もやってみたい!
凪:じゃ、私とやってみる?
幼い杏:いいの!? やった~!
大河:まったく……すぐバカ騒ぎして仕方ねえ連中だな。 ま、ゆっくり見物させてもらうか
杏の父:ん? あそこにある人だかりは——
凪:一番沸かせたのは——大河~!
幼い杏:やっぱりおじさんは強いな~! カッコイイ!
凪:さっきまで見物とか言ってたくせに、 勝負ごとになるとこれなんだから
大河:勝負に華を添えてやっただけだ。 まあ、ちょっとばかし添え過ぎた気もするけどな
ラッパーの少年A:つーかそこのおっさん、ラップうますぎだろ!! どうなってんだ!?
ラッパーの少年B:つーか急に入ってきたギャラリーのヤツらもヤベえし……! あんなガキまでレベル高いなんておかしいだろ!
大河:あのなぁ、ここをどこだと思ってるんだ? ビビッドストリートだぞ? ここじゃ、ラップも歌も挨拶がわりだ
大河:まあ、これに懲りたら くだらねえ喧嘩なんかしてねえで、腕磨くんだな
凪:そうそう。 沸かせれば誰だって勝てる!
凪:——あなた達だって、そういうところが好きで やってるんじゃないの?
ラッパーの少年A:そ、それは……
ラッパーの少年B:まぁ……そうだけどよ
杏の父:(あいつら……また喧嘩の仲裁に入ったのか。 まったく、毎度よくやるな。 まあ——)
幼い杏:ねえねえ、もう1回やろうよ! さっきよりもいい勝負ができそうな気がするの!
凪:オッケー! じゃあ一緒にやろっか!
幼い杏:うんっ! じゃあ私からいくよ!
幼い杏:♪——! ————!
杏の父:(杏が嬉しそうにしているなら、問題ないか)
杏の父:——おい! 凪、大河!
幼い杏:あ、お父さーん!
凪:お、やっと来たか。 あんまり遅いからイベントひとつ終わっちゃったじゃん
杏の父:悪かった。 しかし、イベントの前にイベントをやってるとは思わなかったな
幼い杏:いいじゃん! RADderのラップを聴けるなんて めったにないんだし!
ラッパーの少年A:え? RADderって……まさか、あのRADderか!?
ラッパーの少年B:す……すみません!! 俺達、全然気づかなくて生意気な口叩いて……!!
大河:謝るなら、俺達じゃなくて、ライブハウスの連中と 参加者にすることだな
ラッパーの少年A:あ……。 そう、ですね……。謝りに行こうと思います……
ラッパーの少年B:本当に、迷惑かけてすみませんでした……
凪:うん。ガツガツいくのは大事なことだけど、 ちゃんと冷静さも持ってないとね
凪:でも——真面目な話、どっちも筋は悪くなかったよ。 喧嘩するくらいには、真剣にやってるみたいだし
凪:っていうわけで、ふたりともこれから頑張るように! 期待してるよ!
ラッパーの少年A・B:『あ……はい!!』
幼い杏:えへへっ。 ちゃんとケンカが終わってよかったー!
杏の父:ああ。 そういえば、杏もだいぶラップがうまくなったな。 毎日練習した成果が出てるぞ
幼い杏:でしょでしょ! ……って、そうじゃなくて!
幼い杏:お父さん遅いよ! 朝の練習見てもらいたかったのに、 もうお昼になっちゃったじゃ~ん!
杏の父:そうだな……悪かった。 いろいろと話が長引いてな
杏の父:代わりに明日の朝練習を見よう。 日曜だから、昼までみっちり見れるぞ
幼い杏:えっ、本当?
杏の父:ああ。あとはお詫びと言っちゃなんだが—— 今日のイベントはVIP席で見ていいぞ
幼い杏:え~! いいの!?
杏の父:ああ。一席あいたらしくてな。 店長が、座ってもらうなら杏がいいとのご指名だ
幼い杏:やったー!! ありがとう、お父さん!
杏の父:おう。それじゃ、そろそろ行くか

第 4 话:大人の事情

ビビッドストリート
幼い杏:やったー! 一発で3匹も倒しちゃった!
凪:うう……! この銃で撃つゲーム、何回やっても慣れないっていうか……!
杏の父:ふっ……
杏の父:さて、もうだいぶ日も落ちてきたし、 ふたりのゲームが一段落したら帰るとするか
大河:だな。 にしても、杏はあれだけ練習したくせに元気だな
凪:あ! 杏、その武器取らないでってば!
幼い杏:早いもの勝ちだよー! 回復も取っちゃおっと
凪:あー! 私の回復アイテムがー!
凪:う、またやられた……
凪:杏、もう1回もう1回! 今のは納得いかない!
幼い杏:もー、凪さんってば負けず嫌いだな~♪ でも、その負けん気は嫌いじゃないよ!
凪:くっ……その余裕しゃくしゃくな態度、一体誰に似たわけ?
杏の父:ま、凪の真似をしてるんだろうな
凪:あちゃー、お手本になっちゃったか~
大河:ちなみにそのゲーム、俺は強いぞ
凪:あーうるさい! とにかく、再戦を申しこむから! 次はキャラクターを変えて——
ライブハウススタッフ:あ……皆さん! 今ちょっといいですか?
凪:ん? ああ、『Ultramarine』の木村さんじゃん。 そんなに慌ててどうしたの?
ライブハウススタッフ:実はちょっとトラブルが起きてしまって……
杏の父:トラブル?
幼い杏:……?
幼い杏:(んー……。 みんな難しい顔してる……)
幼い杏:(まだ終わらないのかなぁ……)
大河:そうか……それは面倒なことになったな
凪:……そういうことなら私が行ってくるよ。 ふたりは杏と一緒にいてあげて
幼い杏:え……! 凪さん、行っちゃうの!?
凪:……大丈夫だよ、杏。 またすぐ一緒に遊べるから
幼い杏:でも……もう1回やりたい……
凪:ふふ、そうだね。 私も負けっぱなしは性に合わないし
凪:でも……今は、いつも使わせてもらってるライブハウスの人が 困ってるから、力を貸したいんだ
凪:杏も、目の前で困ってる人がいたら、 助けてあげるでしょ?
幼い杏:……うん!
凪:ふふっ、さすが杏だね! かっこいいよ!
凪:それじゃ……ちょっと行ってくるね。 また明日いっぱい遊ぼうね、杏!
幼い杏:あ……。 行っちゃった……
翌日
乃々木公園
凪:それじゃいくよ! ——スリーポイントシュート!
幼い杏:……わ! すごーい! あんなに遠いのに入っちゃった!
凪:ふふ、バスケは得意だからね。 杏もやってみる?
幼い杏:うん! ボール貸して!
凪:まずは、あのカゴの奥のボードを狙って投げてごらん? つま先を真っ直ぐ向けて、ボールは 力を入れずに支える感じで……
神山通り
幼い杏:あーおもしろかった! バスケって楽しいねー!
幼い杏:あ、ねえねえ凪さん、おじさん! 今日はうちでご飯食べてくよね?
大河:お、いいのか? ご馳走になって
杏の父:ああ。この前相談に乗ったチームから、 お礼にいい肉をもらってな。 ステーキにでもしようと思ってたんだ
凪:へー! そういうことならお邪魔しちゃおっかな!
幼い杏:やったー! あのね、お母さんステーキ焼くのはとっても上手なんだよ!
幼い杏:……あれ?
幼い杏:ここ、おっきな建物作ってるみたい! 何かビルができるのかな?
凪:あ、この看板に書いてある。 えーと……『都立神山高等学校』……高校の校舎みたいだね
幼い杏:へー! 学校なんだ! ちょっと探検してみたいな~♪
杏の父:杏、工事現場は危ないから、 あんまり近寄るんじゃないぞ
幼い杏:は~い
凪:もう、お手本みたいな生返事だなぁ。 でも——本当に危ないから、近づかないようにね?
幼い杏:わかってるって! まぁ……ちょっと気になるけど?
大河:そういや俺達も、昔は夜の学校に忍びこんだりしたもんだな
幼い杏:えっ? そうなの?
凪:あっ、ちょっと大河! それ今言わなくていいでしょ!
杏の父:忍びこんだというか忍びこまされたというか……。 凪があんなことをしなきゃな……
幼い杏:なになに? 凪さん何したの? どうして忍びこんだの?
凪:あーもう、その話禁止ーっ!
幼い杏:むー……教えてくれたっていいのに……
凪:杏がもうちょっと大きくなったらね! それより、ほらほら、もうすぐ家だよ!
幼い杏:うん!
幼い杏:(帰ったら、みんなでステーキ食べて、 歌の練習して、一緒にゲームして……楽しみだな!)
若いミュージシャン:あ、あの……! すみません、急に。 今、少しいいでしょうか?
杏の父:ん?
凪:……あ。あなた前にイベントで会ったことあるよね。 4人組のチームで……『Riot Party』だったっけ
若いミュージシャン:……! はい! 覚えててもらえて嬉しいです!
若いミュージシャン:それで、その……突然で申し訳ないんですが、 RADderの皆さんに力を貸してもらいたくて……
大河:……そういう切り出されかたする時は、 あんまりいい話は聞かねえが……
杏の父:とりあえず、どんな用件か教えてもらってもいいか?
若いミュージシャン:……俺達、とあるレーベルと契約するんですけど、 今日書面の条件を確認したら、 権利関係の問題が発生しそうな内容になっていて……
若いミュージシャン:おかしいんじゃないかと抗議をしたら、 納得いかないなら契約はしない、 今日中に決めろと言われてしまったんです
若いミュージシャン:それで困っていたら、この街の人に、RADderの皆さんなら そういう時の交渉にも詳しいと聞いて……。 よければお話を伺いたいんですが……
凪:今日中に……か。 また酷いこと言ってくるね
大河:そんなレーベルと契約すんのか? やめればいいだろ
若いミュージシャン:そうも思ったんですが……。 チームメンバーのひとりが、今年契約までにいかなければ 活動を辞めると言っていて……
凪:……なるほどね。 そういうことなら私達で聞こうか、大河
大河:こういう交渉ごとは謙が一番うまいが…… 揉めそうなやつなら俺達のほうが適任だろうな
凪:それじゃ私まで荒事担当みたいじゃない。 ま、いいけど
杏の父:悪いな……。助かる
幼い杏:……凪さん達、帰っちゃうの?
凪:…………
凪:ごめんね、杏。 私も行きたかったけど……ちょっとだけ手伝ってくるよ
凪:また今度、美味しいステーキ一緒に食べようね
幼い杏:……うん……
凪:——じゃあ、行ってくるね!
幼い杏:あ……
幼い杏:(……また行っちゃった……)
杏の父:……なに、またすぐ遊べるからな。 そうだ、帰る前に歌の練習していくか?
幼い杏:え? いいの?
杏の父:ああ。今日はとことんしごいてやるぞ
幼い杏:……! やったー!!

第 5 话:すれ違いのストリート

1週間後
ビビッドストリート
幼い杏:ええー! 練習見てくれないの!? いつもお休みの日は見てくれるのに!
杏の父:……すまない。 少しトラブルが起きてな
幼い杏:トラブルって……もしかして、 また誰かが相談しにきたの?
杏の父:『VIOLET』……あの角のライブハウスの店長が倒れてな
幼い杏:え、あそこの店長さんが……!? 大丈夫!?
杏の父:早めに病院に運ばれたからピンピンしてる。 ただ、明日からあるイベントで店の切り盛りが大変だから、 手伝ってほしいと頼まれたってわけだ
幼い杏:……そっか……
幼い杏:(でも……それなら他の人でもできるんだし、 お父さん達が手伝いに行かなくても……)
杏の父:前も言ったとおり、練習は街でするといい。 みんなが見ていてくれるからな
幼い杏:あ……
幼い杏:(もしかして、お父さん達……)
杏の父:……杏? どうした?
幼い杏:…………ねえ、お父さん
幼い杏:お父さん達、街のみんなに呼ばれたらすぐそっちに行っちゃうし いつも、通りで歌うといいって言うけど……
幼い杏:もしかしてそれって、私の練習見たりするのが めんどくさいから……?
杏の父:……悪かったな。そんな風に思わせて
杏の父:だがな杏。俺はもちろん、凪も大河も、 いつだって杏のそばにいたいと思ってる。 面倒くさいなんてわけあるか
幼い杏:…………
杏の父:それに、この通りで歌うように勧めてるのも、 ただ意味なく言ってるわけじゃない
杏の父:ここで歌うことは、絶対に杏の力になると思っているから、 そう言っているんだ
幼い杏:私の力に……?
杏の父:ああ。俺も凪も大河も、 この街のおかげで、ここまで成長できた
杏の父:本当に——いろいろな面でな。 きっといつか、杏にもわかる時がくる
幼い杏:……?
杏の父:おっと……すまん。 そろそろ打ち合わせの時間だ
幼い杏:あ……
杏の父:——次の日曜の昼には、必ず練習を見よう
杏の父:午前中には用事があるが、それ以降なら問題ない。 それに、凪も大河も空いてると言ってたからな
幼い杏:……本当?
杏の父:ああ、約束だ。 それじゃあ——行ってくる
幼い杏:……うん。いってらっしゃい
幼い杏:(……行っちゃった)
幼い杏:(お母さんもお仕事だし、 今日はほんとにひとりだな……)
幼い杏:(……でも、お父さん達は、 ここで歌って歌が上手になったって言ってたし……)
幼い杏:……練習、しよう……
幼い杏:♪————!!
幼い杏:♪————~~……
ライブハウス店長:お! また今日も朝から練習して……ん? なんか元気ないみたいだけど、どうした?
幼い杏:え? あ……ううん、なんでもないよ!
幼い杏:(……元気ないように聴こえちゃってるのかな。 なら、もっとがんばらないと……)
幼い杏:♪————~~……
セクシーなお姉さん:あら、杏ちゃん! 今日もとっても上手ね!
幼い杏:お姉さん……
幼い杏:……全然上手なんかじゃないよ。 高い声が出ないし……
セクシーなお姉さん:ええ? そんなことないわよ! 大人顔負けじゃない!
幼い杏:…………そんなことないよ
くせっ毛のレコード屋店員:……杏ちゃん、今日元気ないけど、大丈夫? 喉の調子、悪い?
ライブハウス店長:もしかして……親父さんが忙しくて 練習見てもらえないのか?
幼い杏:……うん……
くせっ毛のレコード屋店員:そっか……
セクシーなお姉さん:大丈夫よ、杏ちゃん。 時間ができたら、きっと——ううん絶対、練習見てくれるわよ
幼い杏:……うん
幼い杏:(……そうだよね。 次の日曜日になったら、お父さん達は来てくれるから……)
幼い杏:(それまで、練習がんばろう……!)
日曜日
幼い杏:行ってきまーす!!
幼い杏:(やっと日曜日……! お昼になったら、お父さん達と練習できる!)
幼い杏:お昼まであと2時間……! よーし、声出しがんばるぞー!
神山通り
大河:あー……長い話だったな
杏の父:しかし、ようやく海外レーベルと契約できたな。 時間はかかったが、ようやく次のステップに進めた
凪:いろいろ交渉してくれてありがとう、謙。 日本の大手だけじゃできないこと、 たくさんしていきたいね
杏の父:ああ。 ——杏にも、これからいろんな世界を見せてやりたいな
凪:あ、そういえばそろそろ約束の時間だね! 杏のところに行こう!
凪:今週は忙しくて、全然練習見てあげられなかったしね。 はりきって教えなくちゃ!
杏の父:ああ。杏も朝から準備していたからな、 きっと今頃待ちくたびれて——
ライブハウス店長:おーい、謙! みんな!
杏の父:……あれ、店長さん? それに、たしか新しく入った——
ライブハウス新人スタッフ:はい! あの、本当に本当に申し訳ないんですが……
ライブハウス店長:今日やる予定だったイベントのメインゲストが 来られなくなってしまったんだ。 すまないが助けてくれないか……!?
凪:え? メインが?
杏の父:たしか今日のイベントは…… あの『WIRED』が来るとか言ってたな
大河:WIREDって……アメリカの人気チームじゃねえか。 また結構な大物を呼んだんだな
ライブハウス新人スタッフ:はい……。うちのオーナーがファンで、 出演をお願いしたんです
ライブハウス店長:ああ。前々から準備して、他のミュージシャンも 彼らが出るならって集まってくれたんだよ。だが——
ライブハウス店長:入国審査であらぬ疑いをかけられて、 足止めを食らってしまっているらしいんだ。 いつ来れるかは、まるで見当もつかなくて……
ライブハウス店長:メインがいないとなると、中止するしかないんだが……。 彼らのために遠方から前日入りまでして 来てくれている人もいて……
ライブハウス新人スタッフ:でも、WIREDと同じレベルで メインを張れるチームとなると——
大河:なるほどな。そこで俺達を呼びたいってことか
凪:たしかにこの辺で、WIREDに並ぶレベルの ミュージシャンが他にいるかっていうと……
杏の父:…………
凪:……謙
杏の父:…………こういった話は、ライブハウスの信用問題に関わる
杏の父:前日入りまでした客を失望させることになるからな
杏の父:——行くぞ、凪。大河
杏の父:あのWIREDの埋めあわせとなりゃ、 俺達3人で行く他ない
凪:…………
大河:……ああ。 お前の判断は、間違っちゃねえ
凪:…………
ライブハウス店長:本当に申し訳ない……! 早速だが、一緒に来てほしい
杏の父:わかった。だが、その前に 杏に連絡させてくれ
杏の父:……やっぱり出ないか。 あいつは朝から出かけてるし……
ライブハウス店長:杏ちゃん……
ライブハウス新人スタッフ:それなら僕が杏ちゃんを探します! 店長達は、先に店へ行っていてください!
杏の父:——ああ、頼んだ
杏の父:杏が見つかったら伝えてくれ。 ……約束が守れなくてすまない。 次こそ必ず、1日中一緒にいるってな
杏の父:いつも歌っている、ビビッドストリートの中腹にいるはずだ
ライブハウス新人スタッフ:はい!! 任せてください!
杏の父:……よし。 会場に向かおう
大河:……おう
凪:……ごめんね、杏……
幼い杏:んー……。 お父さん達、遅いなあ
幼い杏:(たしか、通りの外のほうで打ちあわせしてるって言ってたっけ。 見に行ってみよう!)
ライブハウス新人スタッフ:ええと、杏ちゃんはこの辺りにいるはずだけど…… どうしよう、見当たらないな
ライブハウス新人スタッフ:でもきっと、この通りのどこかにいるはずだ……! 早く見つけないと……!
幼い杏:んー、いないなぁ。 打ちあわせの場所、この辺りじゃなかったのかな?
幼い杏:でもみんな、いっつもこの道とおって 練習場所に来てくれるし……
幼い杏:(うん! 今日はここで待ってよう! いっつもこっちから来るもんね)
幼い杏:早く来ないかな~

第 6 话:冷たい雨

幼い杏:…………
幼い杏:(お父さん達、どうしたんだろう……)
幼い杏:(家に帰って電話かけてもつながらないし……)
幼い杏:(……私との約束、忘れちゃったのかな……)
ライブハウス新人スタッフ:はぁ……はぁ……。 見つけた……!!
幼い杏:え? あ、ライブハウスの……
ライブハウス新人スタッフ:ごめんね、遅くなって。 お父さん達から伝言があるんだ
幼い杏:え、お父さん達から!? なんて!?
ライブハウス新人スタッフ:実は——
幼い杏:え……
ライブハウス新人スタッフ:……そういうわけで、今お父さん達には、 うちのイベントに出演してもらっているんだ
ライブハウス新人スタッフ:それで伝言なんだけど、お父さんは、 『約束が守れなくてすまない。次こそ必ず——』
幼い杏:……なんで?
幼い杏:お父さん、日曜日は絶対に 練習見てくれるって言ったのに……
幼い杏:約束、したのに……
ライブハウス新人スタッフ:あ……
幼い杏:みんなも酷いよ……。 大人なのに、いっつもお父さん達に頼って、 連れてっちゃって……!
ライブハウス新人スタッフ:ごめんね杏ちゃん……その……
幼い杏:もう、知らない!!
幼い杏:お父さん達も……街のみんなも……大っ嫌い!!
ライブハウス新人スタッフ:あ! 杏ちゃん……!!
幼い杏:うっ、うっ……!
幼い杏:(みんな、嫌い……!)
幼い杏:はぁ……はぁ……はぁ……
幼い杏:(……お父さんは、私よりみんなのほうが大事なんだ)
幼い杏:(だって……私のこと大事にしてたら、 約束破らないもん……)
幼い杏:(それも……1回だけじゃなくて、 何回も破って……!)
幼い杏:(私は今日のこと、すっごくすっごく、 1週間前から楽しみにしてたのに!)
幼い杏:……もういい! お父さんが私のことどうでもいいって思ってるなら——
幼い杏:もう、絶対家に帰んない!
幼い杏:(お父さん達が慌てて探しに来たって、知らないんだから!)
数時間後
幼い杏:わー……!
幼い杏:(夜になると、すっごくキラキラしてるな……! 夜はいっつもすぐ帰りなさいって言われちゃうから、 あんまり見れなかったんだよね)
幼い杏:ふふっ、家出して大正解かも!
幼い杏:……あ……
ストリートミュージシャン:♪————!
幼い杏:あの人、ちゃんとお腹から声出てない……
警察官:——おや。 君、もしかして迷子かな?
幼い杏:えっ!? あ、お、おまわりさん?
警察官:ご家族は近くにいるかな? お父さんとお母さんは?
幼い杏:えっと、その、あっちのほうで待ちあわせしてて……! ——さよなら!
警察官:あ、君!!
幼い杏:(どうしよう! 駅の前にいるとおまわりさんに見つかっちゃう……!)
幼い杏:(どこか、見つからないようなところに行かないと!)
幼い杏:はぁ……この辺なら大丈夫かな……
幼い杏:……あれ?
幼い杏:もしかして……雨!? どうしよう!!
幼い杏:あ! あそこの工事現場……
幼い杏:ここ、おっきな建物作ってるみたい! 何かビルができるのかな?
凪:あ、この看板に書いてある。 えーと……都立神山高等学校……高校の校舎みたいだね
幼い杏:へー! 学校なんだ! ちょっと探検してみたいな~♪
杏の父:杏、工事現場は危ないから、 あんまり近寄るんじゃないぞ
幼い杏:は~い
幼い杏:(あそこなら屋根もあるし、 おまわりさんにも見つからなさそう)
幼い杏:お父さんは、危ないって言ってたけど……
幼い杏:(……お父さんだって、約束守らないんだから 私だって……)
幼い杏:……行ってみよう!
幼い杏:……あ、ここの隙間から入れそう
幼い杏:おじゃましまーす……
工事現場
幼い杏:(……よかった! ライトとか全部消えちゃってるけど、 誰もいないみたいだし……ここなら朝までいられそう!)
幼い杏:(えへへ、せっかくだから探検しちゃおっかな!)
幼い杏:よーし、レッツゴー!
幼い杏:わぁ……広いな~
幼い杏:暗くてよく見えないけど……ここが教室かな? あ、壁にいろんなコードがある! ここに電気つけるのかな
幼い杏:学校になる前の学校っておもしろーい!
幼い杏:……ん?
幼い杏:今何か、音がしたような……
幼い杏:(……誰か、いる?)
幼い杏:(ど、どうしよう! 見つかったら追い出されちゃう……!)
幼い杏:(ど、どこかに隠れないと……!)
幼い杏:(……あれ? 止まった?)
幼い杏:(な……なんだろう。 でも今、絶対誰かいた気がするし……)
幼い杏:(階段のほうからだったよね……。 ちょっと覗いてみようかな……)
幼い杏:(……えいっ!)
幼い杏:(あれ……誰もいない……? あっちの廊下にも……)
幼い杏:(じゃあ、今の足音っていったい——)
幼い杏:(も、もしかして……オバケ……?)
幼い杏:(でもオバケなんているはずないし……! あんなの、大人が怖がらせようとしてるだけで——)
幼い杏:(でも……足音がしたのに、 姿は見えないっていうことは……)
幼い杏:(や……やっぱり……)
幼い杏:(……!!)
幼い杏:(ま、また音がする……!?)
幼い杏:(どうしよう……! オバケだったら、私……食べられちゃったり……!?)
幼い杏:に……逃げなくっちゃ……!!
現場作業員:……ん? 今何か聞こえたような……猫か?
現場作業員:あ、あった、スマホ! ふう、見つかってよかった
現場作業員:さて、帰るとするか。 それにしても、足音が反響しておっかないなぁ……
幼い杏:う……
幼い杏:(どうしよう……。 ここから出たいけど、雨が降ってるし……)
幼い杏:(それにもしウロウロして、 オバケに見つかっちゃったら……)
幼い杏:あ……
幼い杏:(お腹減った……)
幼い杏:(お父さん、今日、 いつものカレーにしてくれるって言ってたな……)
幼い杏:(……お父さんのカレー、お肉ごろごろしてて、 からいけど、りんごが入ってるから甘くって……)
幼い杏:(お母さんが何回もおかわりするから、 お父さんが何回もよそってくれるんだよね……)
幼い杏:(凪さんと大河おじさんも、 美味しい美味しいって……)
幼い杏:(帰りたいな……)
幼い杏:(みんなでカレー食べて、お風呂に入って、 おふとんで寝たい……)
幼い杏:でも……
杏の父:——次の日曜の昼には、必ず練習を見よう
幼い杏:お父さんの嘘つき……
幼い杏:……!!
幼い杏:(ま、また足音がする……!)
幼い杏:(隠れなくちゃ……! でも、どこに……!)
幼い杏:助けて……っ!!

第 7 话:私は、この街が

幼い杏:……っ!
???:——やっぱりここにいた
幼い杏:……え?
幼い杏:な……凪さん……!?
幼い杏:ど……どうして、ここにいるの?
凪:それはもちろん、杏のことが心配だったからだよ
幼い杏:でも……でも、なんでここにいるってわかったの? 私、誰にも言ってないのに……!
凪:ちょっと考えたんだ。 杏ならきっと、こういう時誰かに頼ったりしないし、 雨が降ったら、誰にも見つからない場所に行きそうだなって
凪:それにほら、前に言ってたでしょ? 『探検してみたい』って
凪:ふふ、杏とした話は、 凪さんぜーんぶ覚えてるんだよ?
幼い杏:……凪さーん!!
凪:もう大丈夫だよ、杏
幼い杏:う……う……怖かったよぅ、凪さん……!!
幼い杏:はぁ……
凪:ふふ、落ちついたみたいでよかった
凪:雨もあがったみたいだし……一緒に帰ろうか。 謙達も心配してるよ
幼い杏:……!
幼い杏:——やだ! 私、絶対に帰らないもん!
幼い杏:お父さん、私の練習見るって言ったのに、 来てくれなくて……!
幼い杏:それに、街のみんなが、 お父さん達のこといつも連れてっちゃうんだもん……!
凪:杏……
幼い杏:だから……だから……お父さんも街のみんなも嫌い! 絶対帰らないもん!
凪:…………。 杏が怒るのは、当然だね
凪:……まずは、私に謝らせて。 今日は行けなくて……謙も行かせてあげられなくて、 本当にごめんね
凪:……謙はね、杏のところに行きたいって すごく思ってたよ
幼い杏:…………
凪:ただ……昔からお世話になってるライブハウスが、 大変なことになっちゃって。 どうしても3人で行かないといけなくなっちゃって……
凪:謙は、ステージに上がる直前までずっと、 杏にちゃんと伝言が届いたのか、 泣いてないかって……気にしてた
凪:それで、杏が飛び出して行っちゃったって聞いて、 もう顔真っ青にして、すごい勢いで走って行ったんだ
凪:謙は、本当に本当に、杏のことが大事で、大好きなんだ。 それだけはわかってあげてほしいな
幼い杏:…………
幼い杏:でも…… 本当に大事で大好きなら……約束だって破らないんじゃないの?
幼い杏:一緒に、いてくれるんじゃないの……?
凪:……うん……
凪:……大切なものが多いんだろうね。私達は
幼い杏:……え?
凪:もちろん、みんな杏が一番大好きだよ。 だけど……
凪:私達は、この街のみんなも、大好きなんだ
幼い杏:…………
幼い杏:……どうして凪さんもお父さんも大河おじさんも、 街のみんながそんなに好きなの?
凪:ふふ。 それはね……
凪:——私、小さい頃からよくこの街で歌ってたんだ。 杏みたいにね
幼い杏:凪さんも?
凪:うん。昔っから音楽好きな連中が多くてさ。 歌ってると、頑張れーとか、こうしたほうがいいとか、 いろいろ言われて……最初は鬱陶しかったんだけど
凪:でもそのおかげで、ずいぶん成長できたんだよ
凪:杏に教えてた、あの高音の出しかたあるでしょ? あれも通りの人に教えてもらったんだよ
幼い杏:そうだったの?
凪:最初は全然できなくて大変だったけど、 みんな頑張れ頑張れって励ましてくれて。 できるようになったら、一緒に喜んでくれたりしてさ
凪:たまにヘタクソ!なんて言ってくる人もいたけど、 そういう時は、見返してやる!って思えて頑張れたんだ
凪:そういう支えがあったから、 私はここまでこれたんだと思ってる
幼い杏:あ……
杏の父:ああ。俺も凪も大河も、 この街のおかげで、ここまで成長できた
幼い杏:……お父さんが言ってたのは、 そういうことだったのかな……?
凪:それから——謙と出会ったのもこの街だったんだよ。 謙と大河は最初、反りがあわなくて 大変だったんだよねー
幼い杏:え? お父さんとおじさんが?
凪:うん。ちょっと意外でしょ? でも歌の方向性とか、持ってる才能とかが全然違う ふたりだったからね。よく喧嘩もしたんだよ
幼い杏:ケンカって……この前のラッパーの人達みたいに?
凪:あはは。まあ、そういう時もあったね
凪:でも……街のみんなが、 ふたりはいいライバルだって思ってくれて、 喧嘩とか止めてくれたから、だんだん距離が近づいていってさ
凪:……街のみんながいなかったら、 今頃チームを組めてなかったんじゃないかな
幼い杏:……街のみんなが……
幼い杏:(……みんなのおかげで、お父さん達はチームを組めて、 こんなにかっこよく歌えるようになったんだ……)
凪:そういうことがいっぱいあったから、 私は、この街が大好きなんだよ
幼い杏:そうなんだ……
凪:……それにね、この街のみんなは、 杏のことが大好きなんだよ?
幼い杏:え……?
凪:ほら、杏が練習してるといつも声かけてくれる、 近所のライブハウスの店長いるじゃん?
幼い杏:店長さん? あ……
幼い杏:ん? あ、おじさーん! おはよ! 元気?
ライブハウス店長:おう! 元気すぎるくらいだ!
凪:あの人ね、杏がお母さんのお腹にいる頃から、 産まれるのをすっごく楽しみにしてくれてたんだよ
凪:妊娠中の杏のお母さんのために、 病院に行く時車出してくれたりさ
凪:杏が産まれた時なんて、いっちばん泣いてたんだよ! それこそ、謙がびっくりするくらいね!
幼い杏:おじさんが……そうだったんだ……
凪:あとは……3歳ぐらいの時、迷子になったこと覚えてる?
幼い杏:あ……。私は覚えてないけど、 お父さんとお母さんがたまに話してたような……
凪:その時はもうみんなで街中探したんだけど…… ピアスバチバチの不良っぽい子が見つけてくれてさ。 手をつないで連れてきてくれたんだ
幼い杏:ピアス……それってもしかして、レコード屋のお兄さん?
凪:ふふ、そうそう。 今はレコード屋で働いてるあの子だよ
凪:あと、いつも朝帰りしてる女の子いるでしょ。 あの子昔は荒れてたんだけど、杏が、キラキラした爪が綺麗! ってなついてから子供が好きになったみたいでさ
凪:それで今は保育士になるために勉強してるんだよ。 そのためにお金稼いでるんだって
凪:今の仕事も気に入ってるけど、 杏ちゃんみたいな子のお世話ができたら幸せだなって言って、 頑張ってるんだよ
幼い杏:私みたいな……
凪:他にも、いっぱいいっぱい——本当にたくさんの人が、 杏のことを大事に思ってくれてるんだよ
凪:だから杏には、この街の人を嫌いになってほしくないんだ。 ……勝手な、私の気持ちだけどね
幼い杏:…………
ライブハウス店長:杏ちゃん! 今日も練習がんばれよ!
セクシーなお姉さん:杏ちゃんの歌、大好きなの♪
くせっ毛のレコード屋店員:……おすすめの曲あるんだ。聴かない?
幼い杏:(……そうだ。 みんないつも、声をかけてくれて……)
くせっ毛のレコード屋店員:……杏ちゃん、今日元気ないけど、大丈夫? 喉の調子、悪い?
ライブハウス店長:もしかして……親父さんが忙しくて 練習見てもらえないのか?
セクシーなお姉さん:大丈夫よ、杏ちゃん。 時間ができたら、きっと――ううん絶対、練習見てくれるわよ
幼い杏:(心配してくれたり、歌を聴いてくれたり……)
幼い杏:(とっても……優しいんだよね……)
幼い杏:(きっとみんなが私に優しくしてくれるから、 お父さん達も、みんなに優しくしたい、 助けたいって思ってて……)
幼い杏:(なのに、私は……)
???:杏ー!!
???:杏ちゃーん!!
幼い杏:……あれ? 誰か、呼んでる?
凪:ふふ。着いたみたいだね
幼い杏:え、着いたって……
凪:行けばわかるよ。行こう!
幼い杏:わっ……!
凪:おーい! みんな、こっちだよー!!
幼い杏:え……!? 夜なのに、なんでこんなにいっぱい……!!
杏の父:——杏!!
幼い杏:わっ!!
杏の父:よかった……。 無事で、本当によかった……!
幼い杏:……お父さん……
幼い杏:(お父さん、びしょびしょだ……)
幼い杏:(私のこと、雨の中、ずっと探してたのかな……)
杏の父:——杏。約束を破って、本当に悪かった。 ……このとおりだ
幼い杏:あ……
幼い杏:(お父さんのこんな顔……初めて見た……)
ライブハウス店長:杏ちゃん! ほんっとうに悪かった! 俺が事情も知らず、謙達にヘルプを頼んだばっかりに……
ライブハウス新人スタッフ:それより、僕が杏ちゃんをすぐに見つけられなかったから……! 本当にごめん!
セクシーなお姉さん:でも、見つかってよかった~! みんなすっごく心配してたんだよ!
くせっ毛のレコード屋店員:あ……そういえば、大河さんは?
ライブハウス新人スタッフ:杏ちゃんのお母さんを呼びに行ってます! もうすぐ一緒に来るみたいです
くせっ毛のレコード屋店員:そっか……連絡とれてるならよかった……
住人達:うちの家族にも連絡しなくちゃな。 まだ探してると思うし
住人達:あ、お母さん? 杏ちゃん見つかったって! うん、もう大丈夫!
幼い杏:みんな……
凪:——ね?
凪:この街の人達はみんな、杏のことが大好きなんだよ
幼い杏:(私は……私はみんなのこと、 大嫌いなんて思っちゃったのに……)
幼い杏:(みんな、こんなに……)
幼い杏:——みんな!
幼い杏:心配かけちゃって、本当に……本当にごめんなさい!!
幼い杏:それから——
幼い杏:探してくれて、ありがとう
幼い杏:みんな……大好きだよ!
ライブハウス店長:う……! 杏ちゃん……ありがとう……!
ライブハウス新人スタッフ:店長、すごい顔になってますよ! ハンカチハンカチ……
セクシーなお姉さん:私も、杏ちゃんのことが大好きよ~!
くせっ毛のレコード屋店員:うん……。僕達もだよ
杏の父:……凪、助かった。 見つけてくれたことも……それ以外も。本当にありがとう
凪:ふふ、お礼なら、ちゃんと私の話を聞いてくれた 杏に言うんだね
杏の父:ああ——そうだな
幼い杏:あ……お父さん!
杏の父:ん? どうした、杏
幼い杏:えっと……えっとね
幼い杏:私、街のみんなのこと大切にしてるお父さんのことも、 かっこよくって、大好きだよ!
杏の父:——ありがとう、杏。 その言葉で父さんは、いくらでも頑張れるぞ
幼い杏:えへへ……お腹すいちゃった。 お父さんのカレー食べたいな!
杏の父:じゃ、そろそろ帰るか。 うまいカレー、期待してろよ
幼い杏:——うん!!

第 8 话:街の灯

ストリートのセカイ
crase cafe
杏:——っていうことがあったんだよ
リン・こはね:『へぇ~!』
リン:凪さん、カッコイイ~! 工事現場まで来て見つけてくれたなんて、ヒーローみたい!
こはね:うん……! 頼りになる、素敵な人だったんだね……!
冬弥:そうだな。 話してもらったおかげで、だいぶ人物像を掴めた気がする
彰人:ああ。さすが謙さんや大河さんと一緒に歌うだけあって、 人間ができてんだな
KAITO:にしても……その時の杏ちゃんは、 忍びこんだ学校に入学するとは思いもしなかっただろうね~
ルカ:そういえば、杏ちゃんはオバケとかが苦手って 聞いたことあったけど、 それってもしかして、この時に……
杏:あー、まあまあそれはいいから!
ルカ:ふふ、ま、そうだね~。 この話は今度じっくり!
杏:じっくりしなくていいってば! もう……
ミク:なんにしても、凪さんがどんな人なのか知れてよかったね
ミク:なんとなく、杏に似た人なんだなってわかったし
杏:えっ、私に!?
杏:そ、そうかな……? 凪さんは私より、もっとかっこいいと思うけど……
ミク:少なくとも、杏に影響は与えてるんじゃない? 実際、私はそう感じたしね
杏:影響か……たしかにね
杏:凪さんみたいにかっこよくなりたいっていう想いが、 今の私につながってるような気もするし——
杏:何より、街のみんなが大好きだっていう気持ちは、 凪さんのおかげでちゃんと気づけた気がするな
杏:それに……この街をもっと好きになりたいって思えたし
彰人:街のことを……
彰人:街——か
冬弥:あ……
こはね:ふたりとも、どうかしたの?
彰人:いや……前に遠野と話した時にも、 その言葉が出たと思ってな
杏:その言葉、って……?
冬弥:遠野さんは、大河さんとの勝負に負けた時、 言われたらしいんだ
冬弥:『街を見ろ』——と
レン:街を見ろ……? それって、どういう意味?
彰人:それが遠野にもわからねえらしい。 オレ達も考えたが……さっぱりだ
杏:大河おじさん、新にそんなこと言ってたんだ! 街……街かぁ……
こはね:あ……! そういえば大河さん、 私との練習でも街を見たほうがいいって言ってた……!
彰人:そうなのか?
こはね:うん。それで実際にビビッドストリートをあちこち 歩いてみたりしたんだ
冬弥:なるほど……。少なくとも大河さんは、 RAD WEEKENDを超えるためには、 街を見ることが必要不可欠だと考えているようだな
彰人:にしても……街の何を見ればいいんだ? ただ漠然と見ればいいっつー話でもなさそうだしな
MEIKO:そうね。みんなの話を聞いていると、 ただ見るだけじゃ足りないような気がするわ
リン:んー、でも街にあるものって言ったら、 ライブハウスとかレコード屋さんだよね? それ以外って何があるんだろ?
杏:それ以外にあるとしたら……あとは……人、かな
杏:私だからそう思うのかもしれないけど、 ビビッドストリートはみんな人情深くて、音楽が大好きで……
杏:街の人達が今とは全然違う人達だったら、 また違う街になってると思うんだ
彰人:たしかに……杏の話を聞いてると、そんな感じがするな
レン:でも、街の人達を見ることと歌に、 なんの関係があるの?
こはね:わからないけど……でも、大河さんはよくそういう練習するから、 きっと何か歌に関係あるんじゃないかな
リン:あ! 街のみんなをお客さんにしてイベントをすればいい とか、そういうことじゃない?
ルカ:でも前のイベントでも、街の人は来てくれたんでしょー?
冬弥:そうですね。外部の人もいましたが、 半数以上はビビッドストリートの住人か、 ここで活動しているミュージシャンでした
リン:ん~、じゃあそれも違うのか~
杏:でも……『街を見ろ』っていうのは、 大事なことのような気がするね
杏:……凪さんもすごく、街の人を大事にしてたから
冬弥:……そうだな。 これが何を意味するのかは……もう少し考えていくことにしよう
杏・こはね:『うん!』
ビビッドストリート
杏:ん~! いろいろ考えてたら、結構遅くなっちゃったね
冬弥:ああ。さすがに急いで帰らないと怒られてしまいそうだな
彰人:つっても、杏みたいに警官に声かけられはしないだろうけどな
杏:一言多いんだけど~?
こはね:ふふっ。 あ——
ライブハウス店長:——お! 杏ちゃん、お疲れさん!
ベテランスタッフ:ああ、杏ちゃん達おかえり。 この前のビビバスのイベント、大盛況だったって聞いたよ。 さすがだね!
杏:ふふ、今度はふたりとも見に来てよ! あ、それとも今度は、ここでやらせてもらっちゃおっかなー♪
ライブハウス店長:そりゃいいな! うちで新しい伝説作ってくれや!
こはね:……ふふっ
こはね:(杏ちゃんは、本当に街の人に愛されてるんだな)
こはね:……あ! ごめんね、そろそろお父さんが心配するから、先に帰るね!
冬弥:そうだな。俺達も解散するとするか
彰人:おう。 そんじゃ、またな
杏:うん! みんなバイバーイ! おじさん達もまたね!
ライブハウス店長:ああ! また明日!
WEEKEND GARAGE
杏:ただいま~!
杏の父:おう、おかえり。今日は遅かったな
杏:うん! 練習だけじゃなくて 次のイベントの打ちあわせしたり、 いろいろ話しあってたから時間かかっちゃった
杏:あ——今日ね、こはね達に凪さんの話をしたんだよ
杏の父:凪の?
杏:うん。みんな、RAD WEEKENDの中心人物は、 凪さんなんじゃないかーって思ってるみたいでさ
杏:あはは、もちろん父さん達3人が中心だって思ってるけどね。 トップバッターの凪さんがすごい迫力だから、 みんな印象に残ったみたいでさ
杏:実際私も、頭の1曲はすっごい痺れたし!
杏の父:……そうか
杏:それでいろいろ聞かれて、凪さんの話をしてたんだ
杏:ほら、私が小学生の時、家出したことがあったでしょ? あの時凪さんが見つけてくれたこととか話したの!
杏の父:そうか……。 そんなこともあったな
杏:ふふっ、あの時の父さんの心配した顔、 ちょっと嬉しかったな~
杏:父さんって、何かあってもいーっつも平気そうにしてるから、 あの顔はすっごくレアだと思うんだよね!
杏の父:おいおい。 オレだって人並みには慌てるんだぞ?
杏:えー? あれ以来、そういうとこ全然見たことないけどな~
杏:あ……そういえばさ
杏:みんなに凪さんの話をしたら、凪さんと私が似てるって 言われたんだけど……。 どうかな? 似てるかな?
杏:私も凪さんみたいになれたらなって思ってたから ちょっとでも近づけてたら嬉しいなーって思うんだけど!
杏の父:杏が、凪に……か
杏の父:——ああ、似ているな
杏:本当? えへへ、父さんにそう言われると嬉しいな!
杏:よーし! RAD WEEKENDを超えるためにも、 もっと頑張って、凪さんに近づかなくっちゃね!
杏の父:……あそこまで奔放になられると、 少し困るけどな
杏の父:——杏。今日はもう客もいないから、 そろそろ閉めてくれないか?
杏:あ、うん! じゃあ、クローズにしておくね!
杏:——プレートはこれでよし、と
杏:あ……今日は星が綺麗! よく見えるな
杏:(でも……)
杏:(なんでかな。 私には、この街の灯りが一番綺麗に見えるんだよね)
杏:(ここに住んでない人からしてみたら、 ちょっと怖そうな街の、ギラギラした通りって感じだろうけど)
凪:この街の人達はみんな、杏のことが大好きなんだよ
杏:(街のみんながここにいる、 ここで頑張ってるって——感じられるからなのかも)
杏:……あーあ。 凪さん、今頃アメリカでどうしてるんだろう? 連絡くらいくれればいいのに
杏:あ! 今度メッセージ送ってみよ! 凪さん驚くかなー?
杏:みんなのことも紹介したいし、 イベントにも呼びたいし……報告することいっぱいだな!
杏:よーし! 凪さんをあっと言わせるためにも、 次のイベント、頑張るぞ~!!
杏の父:…………
杏:みんな、RAD WEEKENDの中心人物は、 凪さんなんじゃないかーって思ってるみたいでさ
杏の父:…………
杏の父:(ついに話す時が、 近づいているのかもしれないな——)