活动剧情

そしていま、リボンを結んで

活动ID:68

第 1 话:重なっていた歳月

深夜
瑞希の部屋
瑞希:んー……
瑞希:(……やっぱり、サビ前はテンポよく切り替えたほうが、 良さそうだな)
瑞希:(じゃあ、ここでそれぞれ違うカットに見えるように ワイプして切り抜いていって……)
瑞希:……よし! 絵コンテの初稿でーきた! いい感じ~♪
瑞希:(今回は曲的に動きのあるMVにしたかったから、 絵名が描いてくれたイメージのラフから 絵コンテを切るやりかたにしたけど、正解だったな!)
瑞希:早速みんなに確認してもらいたいけど……
瑞希:(まふゆ、まだいるかな?)
瑞希:(まふゆがお母さんにシンセ取り上げられちゃったから、 編曲はいったんお休みにして、 歌詞作るほうに専念してもらうことになったけど——)
瑞希:(最近、落ちるの早いんだよね)
瑞希:(フェニランに行った日は、最後までボク達といたから、 門限も破っちゃったみたいだし……。 やっぱり、お母さんに悪いって思ってるのかな……)
瑞希:(ちょっと心配だけど、でも、ボクから変に聞くのもな……)
まふゆの声:『……K、いる? 歌詞まとまったから、一度送るね』
奏の声:『うん、ありがとう』
瑞希:——あ、今日はまだいるみたい。よかった
瑞希:『みんな、お疲れ~! 絵コンテ完成したよ!』
まふゆ:『Amia……お疲れさま』
絵名:『お、早いじゃん。 どんな感じになったの?』
瑞希:『ふっふっふ、それは見てのお楽しみ~! ……今送ったよ!』
瑞希:『これからもっとブラッシュアップするから、 感想絶賛募集中でーす!』
絵名:『はいはい。どれどれ?』
奏:『……いいね。 曲のイメージを、Amiaらしく膨らませてるって感じた』
瑞希:『ホント? ありがと~! 根詰めて作った甲斐あったよ!』
瑞希:『ま、今回はえななんのビジュアルイメージのラフが すごく良かったから、 そのおかげでできたってところもあるけど——』
絵名:『ん~…………』
絵名:『——ねえ、サビのところ、もっと雰囲気ガラっと変えない?』
瑞希:『え?』
絵名:『その、曲をアップするのは遅くなっちゃうんだけど……』
絵名:『でもこの構成でいくなら、 私は絶対、サビ前にもっと迫力がほしいって思うわけ!』
瑞希:『迫力……。んー、ここは一枚絵を ワイプしたり反転したりするイメージだったけど……』
瑞希:『でもたしかにえななんが言ってくれた感じにしたほうが、 K達がのせた想いがもっと伝わりそうだな。 ……K、雪、そうしてもいいかな?』
奏:『うん。 もちろん、曲は早く出せたほうがいいけど……』
奏:『でも、えななん達の中にもっと良くできるイメージがあるなら やってほしいな』
瑞希:『——うん! ありがとう、K!』
絵名:『それじゃあ早速ラフを……って、もう4時半?』
瑞希:『あ、ホントだ! 時間経つの早いなぁ』
瑞希:『……そういえば、雪がこの時間まで作業してるの、 久しぶりだね』
絵名:『あ、たしかにね。 今日は早く寝なくて大丈夫なの?』
まふゆ:『……うん。 明日は予備校も休みだし、そこまで早起きしなくていいから』
奏:『そうなんだ。 でも、無理はしないでね』
まふゆ:『……うん』
まふゆ:『でも……来週からはまた予備校で忙しくなると思うし、 時間が取れる時にできる限りのことをやっておきたい』
まふゆ:『しばらくしたら、また模試もあるから』
瑞希:(模試……)
絵名:『……ねえ、雪。 最近、お母さんとはどうなの?』
まふゆ:『……お母さんは——』
まふゆ:『…………いつもどおりだよ。 私のこと、すごく心配してくれてる』
まふゆ:『模試の日の夜も、体調不良で受けられなかったって言ったら、 体が心配だから夜遅くまで勉強するのは しばらく控えたほうがいいって言われた』
瑞希:『あ、だから最近は早い時間に落ちてたんだね』
まふゆ:『……うん。 ……今日はお母さんが早く寝たからこの時間までいれたけど』
まふゆ:『……それ以外は、特に何も』
絵名:『——……そ。 まぁ、雪が平気ならいいけど』
絵名:『でも……またなんかあったら言いなさいよね』
まふゆ:『わかった』
まふゆ:『…………ありがとう』
瑞希:『——にしてもさ、この前はみんなで遊べて ホント楽しかったよね!』
奏:『うん。曲のコンセプトも見つけられたし、 いい気分転換になったな』
絵名:『だね。最初は誰かさんが青い顔で来たから どうなることかと思ったけど…… 楽しかったし、そのうちまたみんなで行ってもいいかもね』
まふゆ:『…………うん』
瑞希:『……ふふっ。 じゃあ今度は雪がゆっくり時間とれる日に——』
まふゆ:『……!』
奏:『……雪? どうかした?』
まふゆ:『今、廊下で物音がした気がして……』
まふゆ:『……お母さんが起きてきたのかも』
瑞希:『……!』
瑞希:『それってちょっとヤバいんじゃない?』
絵名:『……音楽やめさせたくてシンセまで取り上げたなら、 今作業してるって知ったら……』
まふゆ:『…………』
まふゆ:『…………ちょっと、見てくる』
まふゆ:『……今見てきたけど、誰もいない。 だから……気のせいだと思う』
絵名:『よ、よかった……』
まふゆ:『……けど——』
奏:『雪……もし心配なら、 ここに来る時間は減らしてもらって大丈夫だよ』
奏:『お母さんにバレたら大変なことになりそうだし……。 それに……勉強もしなくちゃいけないと思うから、 無理してほしくない』
まふゆ:『……無理はしてない。 それに——』
まふゆ:『……ここで作業してると、一番落ち着くから』
瑞希:あ……
ミク:まふゆは、奏達と曲を作ってる時は 安心した顔をしてるから
奏:『まふゆ……』
奏:『……わかった。 でも、本当に大変な時は、ちゃんと休んでね』
まふゆ:『……うん』
まふゆ:『それじゃあ——また、明日』
瑞希:『またね、雪!』
絵名:『……ねえ。 雪が自分から“ここにいると落ち着く”なんて言ったの、 初めてじゃない?』
奏:『そうだね。 ……雪が大変な時にこんなこと言うのは、 あんまりよくないのかもしれないけど……』
奏:『……少し、嬉しかったな』
瑞希:『うん……!』
瑞希:(……ボクも嬉しいな)
瑞希:(ボク達、まふゆにとって居心地のいい場所になれてる、 って思っても……いいのかもね)
絵名:『あ……そろそろ作業に戻らないとね。 ねえAmia、さっきのサビのところ、相談してもいい?』
瑞希:『あ、うん!』
奏:『あ——わたしは少し休憩しようと思うから、 いったん落ちるね』
絵名:『わかった。またね、K』
瑞希:『じゃあ、始めよっか! えっと……』
絵名:『——了解! それじゃあ今話した感じで絵コンテよろしくね』
瑞希:『うん! えななんはサビ以外のところのイラスト、 描き始めててくれると嬉しいな!』
絵名:『わかった。 ……そういえばちょっと思ったんだけど』
瑞希:『ん? 何?』
絵名:『この絵コンテ……最初に作ったやつに似てない?』
瑞希:『お! えななん気づいてくれたの!?』
瑞希:『今回の曲、あの時の曲と方向性が同じだったから、 セルフオマージュ的な感じでやってみたんだ! でも……こっそりやってたから、気づかれると思わなかったなぁ』
絵名:『ま、長いつきあいだからね。 最近はAmiaが何を表現したいのかーとかも、 なんとなくわかるようになってきたし』
瑞希:『あ……』
瑞希:(……長いつきあい、か)
瑞希:(たしかに、あの頃からのつきあいだもんね)
瑞希:(……あの頃は、 こんなに長いこと誰かと一緒にいるなんて、 想像つかなかったな)
瑞希:(たぶん、ボクも——)
まふゆ:『……ここで作業してると、一番落ち着くから』
瑞希:(……まふゆと同じなんだろうな)
絵名:『……Amia? どうしたの?』
瑞希:『あ、ううん! ただ、えななんがちゃ~んと、 ボクの動画見てくれてたんだなって思ってさ♪』
絵名:『は? 何それ。いつもちゃんと見てるし』
瑞希:『だからそれが嬉しいって話だよ! いつもありがとね、えななん!』
絵名:『……はいはい、どういたしまして。 それじゃ、早速作業入ろっか』
瑞希:『うん!』
翌日
瑞希:ふわ……。んー……?
瑞希:(……昨日、絵名といろいろ話してるうちに 寝落ちしちゃったのか……。あ~体痛い)
瑞希:今何時だろ……スマホは……。 あれ、お母さんからメッセージ来てる
瑞希の母:『おはよう、瑞希! 仕事行ってくるね! お昼ごはんはシーフードカレーを作ってあるから、 ちゃんと食べるようにね!』
瑞希:シーフードカレー!? やったー! お母さんってばわかってる~♪
瑞希の母:『あと、お姉ちゃんから荷物届いてたから、 リビングに置いておいたよ』
瑞希:え——
瑞希:……お姉ちゃんから?

第 2 话:姉からの贈り物

瑞希の部屋
瑞希:ふっふっふーん♪
瑞希:(すっごい大きな荷物だな! お姉ちゃん、何送ってくれたんだろう?)
瑞希:……うわ! すっごいたくさん服が入ってる!!
瑞希:これ、お姉ちゃんが作ったやつだよね!? わ~……こんな服まで作れるようになったんだ!
瑞希:さっすが、海外で活躍してる 若手デザイナーさんは違いますな~♪
瑞希:……ん? なんか奥にちっちゃな箱も入ってる。 なんだろ?
瑞希:わぁ……! 綺麗なリボン……!
瑞希:ん? メッセージカードもついてる……なになに?
メッセージカード:『世界で一番カワイイ瑞希へ』
瑞希:……えへへ、お姉ちゃんったら大げさだな~
瑞希:でも、せっかくだからつけちゃおーっと♪
瑞希:……うんうん、やっぱりボクはカワイイね~!
瑞希:(それに……このリボンも服も……。 お姉ちゃんのセンスがギュっと詰まってる)
瑞希:(……お姉ちゃん、 楽しそうにやってるみたいで、ホントよかったな)
瑞希:……お! お菓子も入ってた! こっちもカラフルでカワイイな~
瑞希:(あ、そういえば……。 前にミク達に飴あげたら、すごく嬉しそうだったな)
瑞希:うん! このお菓子もミク達にあげよっと! 海外のお菓子なら、珍しいからきっと喜んでくれるよね♪
瑞希:そうと決まれば、しゅっぱーつ!!
誰もいないセカイ
瑞希:さてさて、ミク達はーっと……
ルカ:じゃあ、いくわよミク
ミク:うん……!
ルカ:ジャンケンポン! あっち向いてホイ♪
ミク:ほい……あ……
ルカ:こっち向いてホイ♪
ミク:あ……あ……
ルカ:うふふ、やっぱりミクは指を向けた方向に 顔を振っちゃうのね
ミク:も、もう1回……!
瑞希:あはは……もう、ルカってばあいかわらず意地悪だなあ。 ——おーい!
ミク:あ、瑞希……
ルカ:あら、いらっしゃい。 今日はひとり?
瑞希:うん! ちょっと珍しいお菓子をもらったから、 みんなにおすそ分けしようと思ってね!
ミク:お菓子……。 リンとレンが喜びそう
ルカ:ふふっ、そうね。 ……あら?
ルカ:瑞希、そのリボンすごく素敵ね。 新しく買ったの?
瑞希:あ。これはこのお菓子と一緒に、 お姉ちゃんからもらったんだよ
ミク:お姉ちゃん……?
瑞希:うん。実はボク、ちょっと歳の離れたお姉ちゃんがいてさ。 まだ駆け出しだけど、ファッションデザイナーやってるんだ
瑞希:今は海外に住んでて、仕事も結構大変みたいだけど……。 でも、将来自分の店を持つためにがんばってるんだよ
ミク:そうだったんだ……
ルカ:海外で店を……志が高いのね。 もう長くいるの?
瑞希:んーと……お姉ちゃんは、ボクがニーゴに入ったタイミングで 海外に行ったから……まぁそこそこいるかな
ミク:……瑞希が、ニーゴに入ったタイミング……
ルカ:そういえば——
ルカ:この前は奏達に、ニーゴが結成した時の話を聞いたけれど、 瑞希と絵名が入った時の話は、まだ聞いていなかったわね
瑞希:あー、そういえばそうだね。 なんかタイミングもなかったし……
ルカ:よければ、聞かせてくれない? あっち向いてホイばかりしていても、 ミクがつまらないでしょうし
ミク:つまらなくないけど…… 瑞希達の話は、聞きたい
瑞希:え、ボクの話? 別にそんなにおもしろい話じゃないと思うけど……
瑞希:……あはは。 そんな顔されちゃったら、話すしかないね
瑞希:えっと……どういう順番で話そう。 中学3年くらいからがいいかな
瑞希:その頃、ボクはいろいろあって悩んでたんだけど——
瑞希:そんな時に奏の曲を聴いて、 それでMVを作りたいと思ったんだ
ミク:いろいろ、って?
瑞希:んーまぁ……ホントにいろいろだね~
瑞希:(あの時は——本当に苦しかったな)
約1年前
中学校 体育館
校長:『えー皆さん。おはようございます。 学校までの桜並木も満開になり、このような中で 新しい年度を迎えることができたこと、大変嬉しく思います』
瑞希:(……あーあ。始業式、つまらないな)
瑞希:(新しいクラスになるのも、 新しい1年が入ってくるのも、面倒だし)
生徒A:……ねえねえ、もしかしてあそこにいるのが例の人なのかな?
生徒B:かも。うちの兄ちゃんが言ってた感じと似てるし
瑞希:(……またか)
瑞希:(あーあ、先生に見つからなかったらサボれたのにな)
瑞希:(終わったら屋上でぼーっとしよ……。 類もきっと退屈してるだろうし——)
瑞希:あ……
瑞希:(……そっか、類、もう卒業したんだ)
校長:『——それでは、これで話を終わります。 皆さん、良い1年になるよう、全力を尽くしていきましょう』
生徒A:なあなあ、あの人に話しかけてみようよ!
生徒B:うん。なんかおもしろそうだもんね
瑞希:…………
屋上
瑞希:…………やっとひとりになれた
瑞希:やっぱりここは静かでいいな。 …………
瑞希:(静かで、いいはずなのに……)
類:——やあ、瑞希!
類:フフフ。今、とても素晴らしい演出を考えついてね。 ちょっと聞いていかないかい?
瑞希:…………
瑞希:……うるさいのも、悪くなかったのかもな……
瑞希:(……でも、類がここに来る前は、これが普通だったんだ)
瑞希:(なら別に……なんてことないよね)
瑞希:元に戻っただけなんだから
瑞希:はー……。 今日もダルかったな、学校
瑞希:また1年、やってかなくちゃいけないんだな……
瑞希:って、ぼやいても仕方ないんだけどねー
瑞希:……あ! そういえば今日はミラマジがある日だ! リアタイで見なくっちゃ
瑞希:(もうすぐ最終回だけど……終わってほしくないんだよなぁ)
瑞希:(夕方の子供向けアニメにしては妙に設定こってるし、 キャラもカワイイし、実況スレもおもしろくて……)
瑞希:(それになんてったって——主人公の敵でありライバルのミアが すっごくカワイイし!)
瑞希:……ふふっ。ラストどうなるんだろう。 楽しみだな!
瑞希:あ、そうだ。そういえば最終回盛り上げるために、 公式がいろいろキャンペーン打ってるって言ってたな
瑞希:……あったあった! 『ミラマジを応援しようキャンペーン!』
瑞希:へぇ、素材使って応援動画とかも作っていいんだ。 じゃあボクも作ってみようかな!
瑞希:PC立ち上げて……っと。 この前買ったエフェクトのプラグインも試してみよっと
瑞希:(……暇つぶしになんとなく始めたけど、 動画作りを始めたのは正解だったかもな)
瑞希:(音楽選んで、素材集めて、編集して、エフェクトつけて—— ボクの好きなものいっぱい詰めこめるし、 それに、作業中は、余計なことも考えなくてすむしね)
瑞希:(中学に入るまでは……服とかアクセも作ってたけど……)
瑞希:…………
瑞希:……さて、どんなのにしようかな。 これまでの激熱シーンをまとめてもいいし、 ミアの名シーンを集めてもいいし……
瑞希の姉の声:——瑞希ー。今ちょっといい?
瑞希:ん? ああ、大丈夫だよー
瑞希の姉:じゃ、入るね。 ……ん?
瑞希の姉:またミアマジの動画作ってたんだ。 瑞希、ホントこれ好きだねぇ
瑞希:お姉ちゃん、ミアマジじゃなくてミラマジね、ミラマジ! 『ミラクルマジックガール☆ララ』! 魔法少女ララが戦う、激熱アニメです!
瑞希:で、ミアは主人公の敵でライバルの女の子! 間違えないように!
瑞希の姉:あ、そうだったそうだった。 あはは、瑞希がいっつもミアちゃんの話するから 間違えちゃうんだよねぇ
瑞希:まぁ、たしかにまぎらわしいけど……。 っていうかお姉ちゃん、何か用があってきたんじゃないの?
瑞希の姉:ああ、荷造りついでに部屋の片づけしてたら、 昔作った服が結構出てきてさ。瑞希いる? この段ボールの服全部なんだけど
瑞希:え、ホント? 見てもいい!?
瑞希:……へ~! こんなのも作ってたんだ! お姉ちゃん、ホント服作るのうまいよね
瑞希の姉:ふふ、ありがと。 まぁ、こっちの専門学校じゃ全然ダメだって言われたけどね
瑞希:でも——フランスの学校では天才だ!って言われたんでしょ?
瑞希の姉:天才って……さすがにそこまでは言われてないってば。 でも——
瑞希の姉:こっちでは、先生に『先鋭的すぎる』って言われて デザイン画もろくに見てもらえなかったし、 就職の時も門前払い食らってばっかりだったから……
瑞希の姉:認めてくれる人達がいるってわかった時は、 本当に、嬉しかったな
瑞希:お姉ちゃん、すごくがんばってたもんね……。 ちゃんとわかってもらえて、ボクも嬉しいよ!
瑞希:——向こうに行ってもがんばってね、お姉ちゃん!
瑞希の姉:ふふ、ちょっと気が早いんじゃない? 出発は来月なんだから
瑞希の姉:でも、ありがとう。瑞希
瑞希の姉:…………。 瑞希は、最近どう?
瑞希:え? ……あー……
瑞希:まぁ、学校とかいろいろ面倒だなって思う時もあるけど……
瑞希:好きなアニメもあるし、動画作りも楽しいし、 まぁまぁ充実してるよ
瑞希の姉:…………そっか。 それならいいんだけど
瑞希の姉:——もし何かあったら、いつでも相談してね
瑞希の姉:こうやって話せることも、少なくなりそうだから
瑞希:……うん、そうだね
瑞希:ありがと、お姉ちゃん! でも心配しなくて大丈夫だよ
瑞希:ボクはボクなりに、ちゃんと今を楽しんでるからさ!
瑞希の姉:……そっか
瑞希の母の声:ふたりとも~、ケーキ買ってきたけど、食べる?
瑞希:え、ホント? 食べる食べる~! お姉ちゃん、行こう!
瑞希の姉:…………

第 3 话:緩やかに、沈む

宮益坂
瑞希:(……学校、めんどくさいな……ん?)
生徒A:なあなあ、今日の宿題やってきたか? オレ忘れちゃってさ、マジでヤバいんだよな~
生徒B:え、お前も? 実はオレもなんだよ……誰か写させてくれないかな……
瑞希:(あれって同じクラスの……)
生徒A:……あ。あそこにいるの暁山じゃね?
生徒A:へへ、暁山成績いいんだしノート写させてもらわね?
生徒B:え、でも暁山って…… お前わかってて言ってんだろー?
生徒A:バカお前、本人に聞こえるだろ〜
瑞希:…………はぁ
瑞希:(……これくらい今更、どうとも思わないけどさ)
瑞希:(……そろそろ、4限目終わる時間かな。 あ……まだあと30分もある)
瑞希:(……長いなぁ。 早く家帰って、動画作りたいよ……)
瑞希の部屋
瑞希:(動画の素材になりそうなシーンは……っと)
瑞希:(……あー、やっぱこの話いいなぁ。 ミアを好きになったのもこの回だったんだよね)
瑞希:(ずーっと敵だったミアが、主人公のララがやられそうな時、 どうしても見捨てられなくって助けてさ)
瑞希:(親玉に妹を人質にとられてるから、 どうしてもララを倒さなきゃいけないのに、 そうできないところにグっときちゃったなぁ)
瑞希:(苦しくてもがんばってる姿を応援してるうちに、 ミア推しになったんだっけ)
瑞希:(それで、SNSでミアの情報集め始めて…… アカウント名もミアからとってAmiaにしたんだよね。 ……今思うと、ちょーっと恥ずかしいけど)
瑞希:……来週で最終回か……
瑞希:どんなラストになるか楽しみだけど……。 ちょっと、寂しいな……
数日後
瑞希:(……ついに先生に、ちゃんと出席しろって怒られちゃったな)
瑞希:(授業受けてなくてもテストの点取れてるんだから、 ちょっとくらいサボってもいいじゃーんって感じだけど)
瑞希:(……ま、たぶん、勉強できるだけじゃダメなんだよね。 学校って)
瑞希:(ちゃんと——“みんなとうまくやる方法”を、 わかるようにならなくちゃいけないんだろうな)
瑞希:…………早く動画作りたいな
瑞希:今日は、シーンのつなぎにグリッチ入れてみよっかな。 1期のミアとララのラストバトルに入れたら、 すっごくかっこよくなりそうだし……
瑞希:学校、早く終わらないかな……
1週間後
瑞希:……よし、できた! ふぅ……最終回までに間にあってよかった!
瑞希:アップもこれで……完了っと。 ふふ、みんな楽しんでくれるといいな
瑞希:……最終回まであと30分か
瑞希:そういえば今日は実況スレ見るのどうしようかな……。 最終回は没頭して見たい気もするし……
瑞希:あっ、お菓子も用意しようっと!
瑞希:よし、見るぞ~! ふふ、どんなラストになるのかな!
瑞希:魔王をどうやって倒すのか全然わかんないんだよね。 せっかく集めたミラクルオーブも壊されちゃったし
瑞希:あ、ここにきてもう一段階変身して共闘するとか……!? だったらいいな! ミアの新衣装見たいし!
瑞希:——始まった!
瑞希:(……うんうん。やっぱこのままじゃ勝てないよね。 みんなできることはもうやったし……)
瑞希:(ホント、演出と音楽がニクいなぁ。 もうダメだーって感じ出すのすごくうまいし)
瑞希:あ! がんばれミア~!
瑞希:…………
瑞希:(それも今日で、終わっちゃうんだよね……)
瑞希:……ん~! いい最終回だったな! まさか、あんな展開になるなんてなぁ
瑞希:ミアもすっごい活躍してくれたし、よかったよかった!
瑞希:……さーてと
瑞希:——次は何見よっかな? ミラマジの枠は別のアニメになるみたいだけど、 微妙に趣味じゃないし
瑞希:えーっと、夏アニメで検索っと……
瑞希:お、新しいのいっぱい始まるな。 あ、これキャラデザすごくカワイイ! ……でも話は微妙そうかなー?
瑞希:ん~、やっぱボクにはミラマジが一番しっくりくるけど——
瑞希:でも、もう、終わっちゃったんだよね……
瑞希:…………って、ちょっと凹みすぎだなボク。アハハ
瑞希:あ、そうだ! お姉ちゃんが最終回の感想教えてって言ってたし、 話しに行こうっと!
瑞希の声:お姉ちゃーん! ……あれ? お母さん、お姉ちゃんは?
瑞希の声:あ……買い物か。 海外で使う用の変圧器とかいるって言ってたもんね。 うん、わかった
瑞希:…………
瑞希:(なんだろう。 なんか、今更実感するな)
瑞希:(お姉ちゃんも、もうちょっとしたら いなくなっちゃうんだよね)
瑞希:(時差もあるから、前みたいにダラダラ話すことも できなくなっちゃうし)
瑞希:(楽しかったこと話すのも 嫌だなって思ったこと話すのも——)
瑞希:……でも、うん。 大丈夫だよね
瑞希:(ミラマジが終わっても、お姉ちゃんが遠くに行っちゃっても、 自分で楽しいこと見つけていけば……)
瑞希:(見つけて、いけば……)
瑞希:(…………見つけられるのかな。 これから先、ずうっと)
瑞希:(アニメ見るのも、動画作るのも、ゲームするのも漫画読むのも、 全部全部楽しいって思ってたけど)
瑞希:(楽しめてるって——思ってたけど)
瑞希:(それもなんだか、よくわかんなくなってきちゃった)
瑞希:なんか……なんだろうな……
生徒A:なあなあ、あの人に話しかけてみようよ!
生徒B:うん。なんかおもしろそうだもんね
生徒B:え、でも暁山って…… お前わかってて言ってんだろー?
生徒A:バカお前、本人に聞こえるだろ〜
瑞希:別にもう……いいかな……
1週間後
瑞希の母の声:——瑞希~。私は仕事行くけど、 お昼ちゃんと食べるのよ!
瑞希:……うん。ごめん
瑞希の母の声:謝らなくて大丈夫! お父さんも学校は行きたくなったら行けばいいって言ってたから 気にしなくていいのよ。ゆっくりね
瑞希:…………ありがとう
瑞希:…………
瑞希:(お母さん……ああ言ってるけど、心配だろうな)
瑞希:あれ? お母さん?
瑞希の姉の声:私、私。 入っていい?
瑞希:あ……うん。散らかってるけど
瑞希の姉:じゃあ入るねー……って、 あはは、私の部屋よりは全然綺麗でしょ!
瑞希:……ふふ、そうかもね
瑞希の姉:あ、ねえ瑞希。これ見てよ。 片づけしてたら、昔の写真見つけたんだ
瑞希:へぇ……懐かしいね
瑞希の姉:ほら、この時のこと覚えてる? ふたりでおそろいのリボンつけたよね。 あの時の瑞希、すごくかわいかったな
瑞希:そうかな……ありがと
瑞希の姉:……瑞希……
瑞希の姉:……ねえ、一緒にお昼食べない? お母さん、今日フライドポテト揚げてくれたんだよ
瑞希:……ごめん。まだお腹すいてなくて
瑞希の姉:そっか……。 食べたくなったら声かけてね。温め直すから
瑞希:……うん。ありがと
瑞希の姉:…………じゃあ、何かあったら声かけてね
瑞希:…………
瑞希:(……ボク、すごく心配かけちゃってるな……)
瑞希:(安心させたいし、学校も行かなくちゃいけないけど……)
瑞希:……もう、疲れちゃったな……
瑞希:(……ミラマジ最終回の実況ログも、 もうすぐ見終わっちゃう)
瑞希:(そしたらもう、ホントにやりたいこともないな……)
瑞希:(あーあ……このままスーって消えちゃえたらいいのに)
瑞希:(そしたら……楽なのにな……)
瑞希:……ん?
瑞希:なんだろ、この動画……サムネが真っ黒
瑞希:概要欄見る限り……曲、なのかな?
瑞希:(なんかちょっとホラーっぽいけど……。 でも、暇つぶしになるし見てみよっかな)
瑞希:……?
瑞希:(……なんだろう、この曲……。 不思議な曲だな……)
瑞希:(聴いてるとなんだか苦しい感じがするのに……、 でも——すごく優しく感じる)
瑞希:(なんか……変な感覚だな……)
瑞希:(胸の辺りがギュってして、 でもそれが、ちょっと気持ちよくて……)
瑞希:……もう1回頭から聴いてみよう
瑞希:(……やっぱり、苦しいけど、優しい感じがする……)
瑞希:(なんだか、ボク自身のことを曲にされたみたいな……)
瑞希:この曲作った人、他にも曲作ってるのかな……? あ……アカウントあった
瑞希:わ、曲、すごいたくさんある。 ……しかもどれもサムネ真っ黒だ。今時珍しいな
瑞希:……もうちょっと聴いてみようかな
瑞希:(…………すごいな)
瑞希:(どの曲も、全然違った苦しさが描かれてて……。 その全部が、聴くだけで伝わってくる)
瑞希:(でも最後には絶対、ちゃんと、 ほんの少しだけ何かが——光みたいなものが見える)
瑞希:(こんな曲、作れる人がいるんだな……)
瑞希:この曲、誰が作ってるんだろう。 アカウント名は——
瑞希:……K?

第 4 话:ボク達をつないだ絵

瑞希の部屋
瑞希:(K……って、個人かな。 それともグループ?)
瑞希:(……ダメだ。 Kじゃ短すぎて、ほとんど検索に引っかからない)
瑞希:(たまにちょこちょこ感想があるけど、 それも『Kってすごい』とか『どんな人だろう』みたいな 内容ばっかりだし……)
瑞希:…………
瑞希:(ま……ちょっと気になっただけだしな。 誰が作ったかなんて別に……)
瑞希:あ——
瑞希:(このピクシェアの絵……もしかして、ファンアート?)
瑞希:(『Kの曲をイメージして』って添えてあるし、 たぶんそうだよね)
瑞希:(月の下で、女の子が泣いてる。 たぶん、森で迷ってるのかな。 どこに行けばいいかわからないって顔してて……)
瑞希:(なんだろう、この絵すごく——最初に聴いた曲に合ってる)
瑞希:(苦しくて…………優しい絵だ)
瑞希:(もう1回、あの曲聴いてみよう)
瑞希:……やっぱり、合うな。この絵
瑞希:(この曲作った人も、真っ黒のサムネつけるくらいなら こういう絵使ったらいいのに)
瑞希:(ボクだったら……この絵でどんな動画、作るかな)
瑞希:(イントロで、絵の真ん中の月が浮かび上がる感じにして……。 あ、最初はカラー補正してレトロ感出すとか……)
瑞希:(少し手間かかるけど、パーツわければ アニメーションも作れそうだな……あとは——)
瑞希:……ちょっとエフェクト乗っけてみようかな。 ちょっとだけ……
翌朝
瑞希:できた……!
瑞希:……いや、これすごくよくない? イントロからラストまで、曲の雰囲気も絵の雰囲気も 壊してないし……!
瑞希:苦しいのに優しいっていうあの感じだって すっごくよく出せてるし! それに——
瑞希:……って、ダメじゃん! 人の絵勝手に借りて作っちゃ!
瑞希:うわー……熱中してたとはいえ、 うっかり無断使用しちゃうなんてなぁ……。 そういう人、ホントにムカつくし嫌いなのに……
瑞希:(……アップしないで楽しんでる分には、 問題ないと思うけど……)
瑞希:せっかく作ったんだし、アップできたらいいな……
瑞希:(——ダメもとで、絵を描いた人に連絡してみよう)
瑞希:(えっと、あの絵を描いた人のアカウントは……)
瑞希:(——えななんさん、か。 名前見てなかったけど…… 絵の雰囲気と違って、結構ポップな名前だな)
瑞希:(DM、何から書こう。 ……とりあえず自己紹介からかな。ええと——)
瑞希:——それが、ボクが初めて作ったMVだったんだよね
ミク:そうだったんだ……
ルカ:瑞希が学校に行きたくなくなった時に出会ったのが、 奏達の曲と、絵名の絵だったのね
ミク:……瑞希はなんで、学校、行きたくなくなったの……?
瑞希:ん~、まぁ、そのへんもいろいろあってさ。 面倒だなってなっちゃったんだよねー
ミク:そう……
ルカ:それで? 絵名にメッセージを送って……どうなったの?
瑞希:えっと、送ったあとすぐに——
???:——あ、みんなこんなところにいたんだ
瑞希:え? あ……
ミク:絵名……いらっしゃい
瑞希:絵名がこんな時間に起きてるなんて珍しいね。 どうしたの?
絵名:今日は思ったよりスッキリ起きれたから、 絵の続き描いてたんだよね
絵名:でも、結構頑張ったせいで体バキバキだから、 ちょっと休憩しようと思って
ルカ:そうだったのね。 ふふ、これが噂をすればなんとやらね
絵名:噂? 私の話してたの?
瑞希:うん。まぁ正確には絵名の話っていうか、 ボク達がニーゴに入った頃の話だけどね
瑞希:ちょうど今、ボクが絵名の絵を勝手に借りて MV作っちゃった時の話をしてたんだ
絵名:ああ、あの時の……! DMもらった時はびっくりしたな
絵名:急に、『事後報告ですみません。あなたの絵でMV作りました。 よければアップしたいんですが、 許可いただけないでしょうか?』なんてメッセージが来たんだもん
瑞希:あはは。その節はご迷惑を~
ルカ:……絵名はそのメッセージをもらって、 どう思ったの?
絵名:え? そりゃすごくびっくりして……
絵名:でも……嬉しかったな
絵名:あの頃私、絵のことで結構いっぱいいっぱいだったから
ミク:いっぱいいっぱい……。 絵名も、大変だったの?
絵名:あ~、まぁちょっとね。 あの時はわりとメンタルギリギリだったっていうか……
ルカ:——ねえ、その時の絵名の話も聞かせてほしいわ。 絵名はどんな風に奏の曲と出会ったの?
瑞希:あ……たしかにボクも、一緒にやる前のことは あんまり聞いたことなかったな
絵名:それはそうだけど……えーっと……
ミク:あ……絵名が嫌なら、いい
絵名:あ、べ、別にそこまで深刻ってわけでもないから!
絵名:…………ま、いっか。 今更隠したってしょうがないしね
ミク:……本当に、大丈夫?
絵名:うん。けど、あんま楽しい話じゃないから、 そこは期待しないようにね?
ミク:うん……!
絵名:んー、話すならやっぱ、高校に入る前あたりからかな……
ルカ:高校……。 たしか絵名は、瑞希と同じ学校なのよね
絵名:うん。でも、私は夜間なんだ
絵名:……そこに入るまでにもいろいろあってさ。 ま、簡単に言うと——
絵名:……私は、どうしても入りたかった絵の学校に、 落ちちゃったんだよね……
約1年前
入試会場
絵名:…………
絵名:(……どうしよう)
絵名:(手が、ずっと震えてる……。 周りの人が全員、自分より描けるような気がして……)
絵名:……はぁ……
絵名:(……大丈夫。落ちついて。 ここまでずっと描いてきたんだから……)
絵名:(小さい頃からたくさん描いて……、 教室にだって、前までずっとずっと通って——)
父親:お前に、画家になれるほどの才能はない
雪平:……今の東雲さんに言うことは、何もありません
絵名:…………!
絵名:(……違う! そんなことない! 私はちゃんと……私は——)
試験監督:——開始時刻になりました
絵名:あ……!
試験監督:試験——始め!
絵名:(まずい、集中しきれてなかった……! 試験課題の紙は——これだ。内容は……)
絵名:(鉛筆デッサンのガラス瓶……! やった……! それなら得意なほう!)
絵名:(……完璧に仕上げて、絶対に、見返してやる……!)
絵名:(…………ダメだ)
絵名:(バランスがとれてない……。 もう1回……もう1回描かなくちゃ……!)
絵名:(嘘でしょ……なんでこんなに描けないの? 絵画教室に行ってた時は、ちゃんと描けてたのに……)
雪平:……今の東雲さんに言うことは、何もありません
絵名:(……やっぱりダメだ。 どうしよう……!)
父親:お前に、画家になれるほどの才能はない
絵名:(——私がちゃんとできてるって思ってただけで、 実は、全然……)
試験監督:——試験終了5分前です
絵名:……え?
絵名:(……嘘。嘘、嘘! なんでそんな時間たってるの!? 全然進んでないのに! そんなの絶対おかしいでしょ!!)
絵名:(っ……できないままより、このまま仕上げて……! で、でも、このままじゃもしかして……)
絵名:(嫌! そんなの絶対嫌! だって、落ちたら……落ちちゃったら——)
絵名:う……う……!
絵名:う————
父親:お前に、画家になれるほどの才能はない
絵名:——うるさい!!
絵名:うるさい……! うるさい! うるさい!! 黙れ!!
絵名:はぁ……はぁ……はぁ……
絵名:……夢……?
母親の声:——絵名!? 大丈夫!?
絵名:っ……大丈夫だから、ほっといて……!
母親の声:ケガがないならよかったけど……。 無理しないようにね。絵のことだって——
絵名:……っ、ほんとに大丈夫だから!
母親の声:……わかったわ。 ケーキ買ってあるから、落ちついたら食べましょうね
絵名:…………
絵名:(……お母さんに当たるなんて……最悪)
絵名:(——どうしてこうなっちゃったんだろ)
絵名:(ただ私は、絵を描いて…… 画家になりたかっただけなのに……)
絵名:画家に——
絵名:(なら……描かなくちゃ……)
絵名:描いて……あんたが言ったことは間違ってるって、 証明しなくちゃ……

第 5 话:苦しみの底、取った筆の先

絵名の部屋
絵名:……はぁ……はぁ……
絵名:(……なんで……?)
絵名:(描けば描くほど、わからなくなってくる……)
絵名:(私は、証明しなきゃいけないのに。 間違ってるってあいつに……認めさせなきゃいけないのに……)
絵名:(なのにもうずっと、受験の時から、1枚も描けてない……!)
絵名:(だめ……もう限界……。 頭が痛い……)
絵名:(横になって……それから頑張ろう……)
絵名:ん……今の……
絵名:——もしかして……ピクシェアの通知!?
絵名:(昔アップした絵にいいねがついたんじゃ——!)
絵名:(なんだ、オススメの投稿の通知か……)
絵名:(今まで描いた絵ほとんど上げてるのに、 いいね、全然つかないな……)
絵名:(……これまでは、ピクシェアを見てる人が 漫画とかアニメ系のイラストばっかり見てて、 絵のことわかってないからだって思ってた)
絵名:(でも……)
絵名:(………………もしかして、本当にただ良くなかったの?)
絵名:(私の絵は誰にも——いいねって思ってもらえないの……?)
絵名:……!
絵名:……今度は人気の投稿の通知!? ピクシェア、アップデートしてから変なのばっかり 通知してくるようになって——
絵名:(……何これ)
絵名:(ただ女子高生が自撮りしてるだけなのに、 300いいねって……)
絵名:(っていうか加工キツすぎ。涙袋ふくらませすぎだし。 これなら私のほうが100倍可愛いでしょ)
絵名:(……ほらやっぱり。あとは片目隠して加工すれば 300いいねくらい簡単に稼げるんだから)
絵名:ハッシュタグ付けて……投稿っと
絵名:……くだらな
絵名:うるさいから、マナーモードにして寝よ……
絵名:……う……
絵名:やば……。仮眠しようと思ったのに結構寝ちゃった
絵名:今何時だろ。 スマホスマホ……
絵名:……え? な……何この通知
絵名:700いいね……!?
コメント:『えーかわいい!!』 『めちゃかわ~』 『顔ちっちゃぃ! もっと見たい!』
絵名:え……ここまで反応あるなんて思ってなかったんだけど……
絵名:あ……また通知来た。 すご……これどこまで伸びるんだろ
絵名:……って、そんなこと気にしてもしょうがないよね。 たかが自撮りに……
絵名:……ふふっ
絵名:なんか、今ならいい絵描けそうな気がしてきちゃった。 朝ごはん食べたら、早速描こうっと!
絵名:(ダメだ……)
絵名:(変わらない……ていうか、悪化してる……?)
絵名:(全然イメージが形にならないし、 何描いても、進めていくほどダメになって……)
絵名:…………っ
絵名:……ちょっと休憩しよう
絵名:あ、まだ通知来てる……!
絵名:(……なんか、変な感じ。 私のこと、こんなにたくさんの人が見てくれてるなんて……)
コメント:『かわいい~!』 『もしかしてすっぴん!? 肌きれい~』
絵名:…………
絵名:……いやいや、こんなんで見てもらえても意味ないでしょ
絵名:はい、休憩終わり。 もう1回最初から、描かなくっちゃ……
絵名:……………………
絵名:……なんで……?
絵名:何が悪いのか……全然わかんない……!
絵名:……っ。 うるさいなぁ、もう……!
コメント:『メイク動画とかやってほしいな』 『これは元がいいんでしょ』 『顔いい子うらやま~』
絵名:…………
コメント:『もっと写真上げてほしい!』 『見たい!』
絵名:……写真……
絵名:(……別にいっか。 上半身の写真なら、人体描く時の資料にもなるし)
絵名:(……軽く色補正して……こんなんでいいかな)
絵名:……!
コメント:『まて、可愛すぎん?』 『まつげ長くてうらやまし~』
コメント:『髪まで綺麗』 『細いな~』
絵名:……すごい数……
絵名:私……こんなに……
絵名:——うん、画角はこっちがいいかも。 光源は……
絵名:(絵のほうは調子悪いし、もうちょっとだけなら……いいよね)
絵名:あ……1週間前に撮ったやつ、2000いいねいったんだ!
絵名:ヤバくない? そのへんのアイドルより多いでしょこれ
絵名:ふふっ。もしかして私、相当すごいんじゃないの?
絵名:気づいてなかっただけで、実はこういう才能が——
絵名:才能……が……
絵名:私……。 私、何してるんだろ……
絵名:私は……絵を……
絵名:こんなの……っ!!
絵名:こんな、の……
絵名:こんな風にうまくいったって……いいねって言われたって……!
絵名:描かなきゃ……なんでもいいから描かなきゃ!
絵名:このまま描けなかったら私は本当に——
絵名:…………っ
絵名:……どうして?
絵名:どうして……描けないの……?
絵名:なんで描けないのよ……っ!!
絵名:(……今、何時だろ……)
絵名:(…………何時でもいいか)
絵名:(このまま描けないなら……)
絵名:(描けないなら……もう、いっそいなくなっちゃおうかな)
絵名:(誰もいない、誰も知らない場所に行って、 それで……)
絵名:(ひとりで消えられたら——)
絵名:…………
絵名:(……馬鹿だな、私。 こんなので認められても意味ないって、わかってるのに)
絵名:(なのに、いいねって言ってほしくて——)
絵名:……?
コメント:『この曲すごく泣いた。 つらかった時助けてくれたみんな、ありがとう』
絵名:(……なんだ。オススメの投稿か……。 っていうか、曲の感想っぽい自分語りじゃん)
絵名:(こういうのよくあるよね。 作品の感想言って、あわよくば自分の感性とか解釈をいいねって 思ってもらいたい、みたいな……)
絵名:(みんな……自分のこと見てほしくてしょうがないんだろうな)
絵名:(だからこんな風に自分語って、写真上げて、いいね稼いで、 私を見てって叫んで……)
絵名:……馬鹿みたい……
絵名:(……? あれ……再生ボタン押しちゃった?)
絵名:あ…………
絵名:(……なんだろう、この曲……。 暗い感じの曲なのに、なんだか変な感じがする……)
絵名:(投稿者は……K……? 有名な人なのかな……)
絵名:あれ……?
絵名:なんで涙が……
絵名:(胸が、苦しい……。 これって——)
絵名:(……そっか。 ……苦しいんだ)
絵名:(この曲もつらくて、しんどくて、 もう消えちゃいたいって思うくらい……悲しくて)
絵名:(なのに——)
絵名:(『まだ消えないで』って言ってるみたい)
絵名:……そうだよ。 まだ、消えたくないよ……
絵名:描けなくたって……描いてたいよ……
絵名:(描きたい……! 描いてたい……!)
絵名:(思ったように描けないし、 何が描きたいかもわかんないけど、でも……!)
絵名:……っ
絵名:あ……
絵名:(暗闇の中の、光……?)
絵名:(なんだろう……イメージがわいてくる……)
絵名:(今はどこにも行けないけど……光を見てるみたいな……)
絵名:(真っ暗な森の中で、道がわからなくて、 でも月だけは見えて、とっても綺麗で……。 なんだか夢中で叫びだしたいような——)
絵名:(わかんない、わかんないけど……!)
絵名:(今はこのイメージで——描きたい!!)
絵名:できた……
絵名:ちゃんと……描ききれた……
絵名:……っ。 よかっ……よかった……
絵名:ありがとう……K……
絵名:……やば。手、真っ黒だ。 あとで鉛筆の粉おとさないと
絵名:でも、その前に——
絵名:(…………アップしてみたけど。 やっぱり、つかないな。いいね)
絵名:…………厳しいなぁ…………
翌朝
絵名:ふぁ……
絵名:なんか……気づいたら寝ちゃってたな。 体バキバキだし。 多分同じ姿勢でずっと描いてたからだろうな
絵名:……絵を……
絵名:……昨日みたいに、また、描けるのかな……
絵名:あ……通知……
絵名:(……ダメだ。 また見たら、戻っちゃう)
絵名:(戻っちゃうって、わかってるのに……)
絵名:……? あれ? 最後の通知、いいねじゃなくて……
絵名:——DM?
絵名:私の絵を、あの曲のMVに使った……?
絵名:…………よかった
絵名:……無駄じゃ、なかったんだ……

第 6 话:【K】との出会い

誰もいないセカイ
ルカ:そのメッセージが、瑞希からだったのね
絵名:うん
絵名:あの時は……嬉しかったな
絵名:私が必死で描き上げた絵を、MVにしてもらえて
瑞希:ふふ、そっか。 ならよかった
絵名:——奏の曲に出会って、 やっと少しだけ、絵に向きあえるようになって
絵名:あの時思ったの。 まだ、描けるって
絵名:それで……瑞希が作ったMVをアップしようって話したんだよね。 せっかく作ったんだから
瑞希:絵名はKに気づいてもらえたらいいなーって 言ってたけどね
絵名:ちょ……そういうのは言わなくていいから!
瑞希:あはは、ごめんごめん。 それですぐにアップしてさ
瑞希:それから——1週間後だったかな
瑞希:KからDMが来たんだ
瑞希:え……?
瑞希:これって……本物?
瑞希:……とりあえず見てみよう
メッセージ:『——Amiaさんへ』
メッセージ:『はじめまして、Kと言います。 突然ですが、先日アップされた動画を拝見しました』
メッセージ:『とてもすばらしい動画だと感じました』
メッセージ:『突然のお願いになってしまってすみませんが、 もしよければ次の曲のMVを作っていただけないでしょうか。 わずかばかりですが、お礼もさせていただこうと思います』
瑞希:……!
メッセージ:『よければお返事お待ちしています。Kより』
瑞希:Kが、ボクに、MVの依頼を……?
瑞希:…………。 ホントに本人かもしれないけど……
瑞希:『はじめまして、Amiaです。 あの動画を気に入ってもらえて、すごく嬉しいです』
瑞希:『そのうえ次の曲のMVを頼んでもらえるなんて……。 びっくりして信じられないくらいです。ただ——』
瑞希:(……このアカウント、アイコンも初期アイコンだし、 フォロワーもゼロだし……怪しいんだよね)
瑞希:『……失礼なんですけど、念のため確認させてください。 あなたが本当にKさんだという証拠はありますか?』
瑞希:……結構、こうやってタダ同然で動画とか絵を 作らせる人っているしね……
瑞希:あ、返ってきた
【K】:『返信、ありがとうございます』
【K】:『証拠になるかわかりませんが、 以前作った曲のデモをお送りします』
瑞希:わ……! めちゃくちゃファイル来た!
瑞希:ウイルスかも……って考えるのはさすがに警戒しすぎかな。 ……開いてみよう
瑞希:あ……これ、あの曲のラフだ。 ってことはやっぱり……
瑞希:すごいな……。 デモの時点でもう、Kの曲だってわかる
瑞希:(さすがにボクを騙すためだけに ここまでやるとは思えない)
瑞希:(っていうことは……これは、本物の……)
瑞希:……まさかKにMVをお願いされるなんてな……
瑞希:K……。 ……どんな人なんだろう
瑞希:(あんな、暗くてつらくて、でも優しい曲……。 どんな人が作ってるんだろう)
瑞希:(……でも、そういう興味本位で話を受けるのは、 ちょっと気が引けるし……)
瑞希:(だけど——)
瑞希:…………
瑞希:『疑ってしまってすみません。 デモを送ってくださってありがとうございます』
瑞希:『……できれば、 もう少し話の詳細を聞かせてもらえませんか?』
【K】:『わかりました。 ……Amiaさん、ナイトコードのアカウントはお持ちですか?』
瑞希:(ナイトコード……? 昔オンラインゲームやってた時によく使ってたけど)
瑞希:『はい、あります』
【K】:『よければ、そちらで通話しませんか。 話が早いと思うので』
瑞希:Kと通話……
瑞希:『わかりました』
【K】:『ありがとうございます。じゃあ、そちらで通話させてください。 できれば、今夜の25時だと嬉しいです』
瑞希:え? そんな遅く……?
【K】:『共作している人にも同席してもらいたいと思っています。 ただその人は、夜遅くの時間じゃないと難しくて……』
瑞希:(……共作してたんだ。 クレジットとかないからわからなかったけど……)
瑞希:『わかりました。その時間で大丈夫です』
【K】:『ありがとうございます』
【K】:『あ……それから、えななんさんにも連絡をしているので、 もしかしたら同じタイミングで通話になるかもしれません』
瑞希:(えななんさんにも、ちゃんと声かけてくれたんだ……!)
瑞希:(よかった。 えななんさん、Kの曲すごく好きだって言ってたから、 喜んでるだろうな)
瑞希:『わかりました。大丈夫です』
【K】:『はい。それではまた——』
【K】:『——25時、ナイトコードで』
25時
瑞希:……時間だ
瑞希:——よし。入ろう
瑞希:『……こんばんは。Amiaです』
【K】:『——あ、こんばんは。K……です。 ええと……今日は来てくれて、ありがとうございます』
瑞希:『いえ、こちらこそ。 びっくりしましたけど……すごく嬉しかったです』
【K】:『そっか……それならよかった』
瑞希:(……この人が、K……)
瑞希:(声の感じとか話しかたからすると、若い女の子みたいだな。 ……もしかしたら、ボクと同い年くらいかも)
瑞希:(10代であんな曲作れるなんて……すごいな)
【K】:『……あ。 えななんさんと、雪——共作してるメンバーも来たみたいです』
【えななん】:『……お、おじゃまします……』
【雪】:『こんばんは。遅くなってすみません』
瑞希:『あ、えっと……』
【雪】:『あ……すみません。先に自己紹介させてもらいますね。 私はKと一緒に曲を作っている、雪って言います』
【雪】:『一緒にといっても、私は編曲だけで、 ほとんどKが作ってるんですけど……。 おふたりとも、よろしくお願いします』
【えななん】:『あ、は、はい。えっと……』
【えななん】:『私は絵……えななんです。 その、よろしくお願いします』
瑞希:『あ……えななんさん、DMではやりとりしてましたけど、 直接話すのは初めてですね』
【えななん】:『え?』
瑞希:『はじめまして、Amiaです。 よろしくお願いします』
【えななん】:『あ、Amiaさん……! 来てたんですね!』
瑞希:『はい。この前は、絵の許可をありがとうございました』
【えななん】:『はい……! ……こうして話すのなんだか変な感じですね』
【えななん】:『あ、それでその……話を聞く前に、 Kさんに確認したいんですけど……』
【えななん】:『あの……Kさんは、本当に私の絵でよかったんですか?』
【K】:『え?』
【えななん】:『その……Kさん達に声をかけてもらって、 すごくすごく嬉しいんですけど……』
【えななん】:『冷静に考えたら、Kさんの曲になら、 もっと合ういい絵があるんじゃないかって……』
瑞希:(あ……。 この子……あんなにいい絵が描けるのに、自信がないんだ)
瑞希:(……K、どう答えるのかな。 下手に慰めみたいになっちゃうと嫌だろうし……)
【K】:『いえ——すごくいい絵でした』
【K】:『少なくとも、わたしはとてもいいと思いました』
【雪】:『……そうですね。私もKと同じ気持ちです』
【雪】:『激流みたいな強い想いが感じられて——でも悲しそうで。 ……すごく気持ちをこめて描いたんだろうなって感じました』
【えななん】:『あ……。 ありがとう、ございます……』
瑞希:『…………』
【K】:『わたしがふたりのMVを見かけたのは、 おとといの夜だったんですけど——』
【K】:『わたしが——わたし達が曲で表現したいと思っていたことを 丁寧にくみ取ってくれているなと感じて』
【K】:『その上、すごく強い……、 叫ぶような気持ちも伝わってきました』
瑞希:…………!
瑞希:(……ボクもあの絵を見た時、同じように感じた)
瑞希:(まだやれる、まだ歩きたい……って叫んでるみたいな、 そういう気持ち)
瑞希:(だからその気持ちがもっと伝わるようにって 動画にして……それから少し、ボクの気持ちも乗せたんだ)
瑞希:(なんだか……すごいな。 そこまで伝わるなんて)
【雪】:『AmiaさんとえななんさんのMVのおかげで、 私達の曲の再生数も伸びて、コメントもたくさんもらえるように なりました』
【雪】:『きっと、今まで以上にたくさんの人達に、 聴いてもらえているんだと思います。 本当に、ありがとうございます』
【えななん】:『え、そ、それは曲が良かったからで、その……!』
【えななん】:『でも……役に立ててたならよかったです』
【K】:『……わたしは、わたし達の作る曲を、 もっと多くの人に聴いてもらいたいと思っています』
【K】:『えななんさんとAmiaさんにMVを作ってもらえば それが叶えられるんじゃないかと—— そう思って声をかけさせてもらいました』
瑞希:『もっと多くの人に……ですか』
【K】:『——はい』
瑞希:(それって、プロになりたいってことなのかな……? でも、妙にピリっとした感じがするっていうか……)
【K】:『それで——次の曲のデモが、これです』
【K】:『まだ少し粗いんですけど。 よければ聴いてください』
【えななん】:『え、これって未発表の曲ってことですよね。 いいんですか?』
【K】:『はい。 この曲のMVを作ってもらいたいので』
瑞希:(……どんな曲なんだろう)
瑞希:……!
瑞希:(……何、この曲……今までのと全然違う! すごく激しくて、怖くて——)
瑞希:(でも……やっぱりちょっと優しい……)
瑞希:(他の曲もそうだったけど、 Kの曲は、絶対どこか優しいような気がする)
瑞希:(まるで——手を差し伸べてくれてるみたいに)
【えななん】:『……すご……』
【K】:『こっちからの要望は、特にありません。 Amiaさんとえななんさんがこの曲を聴いて感じたことを 率直に表現してもらえれば、問題ないです』
瑞希:『え……自由に作っていいってことですか?』
【K】:『はい』
瑞希:(……たったひとつMVを作っただけのボク達を、 どうしてそこまで信用できるんだろう?)
瑞希:(Kさんが何を考えてるか、まだよくわからないな……)
瑞希:(……でも……)
【雪】:『Amiaさんは……どうですか? まだ決めかねてるっていう話でしたけど』
【えななん】:『え? そうなんですか?』
瑞希:『あ……はい。 まずは詳しい話を聞いてから決めようと思って』
瑞希:『…………でも』
瑞希:『——話とデモを聞いて、やってみたいなって思いました』
【K】:『あ……。ありがとうございます』
【雪】:『よかったね、K。 Amiaさん、よろしくお願いします』
【えななん】:『よろしくね、Amiaさん!』
瑞希:『——はい。よろしくお願いします』
瑞希:(……わからないことはたくさんある。 でも……)
瑞希:(今は、やってみたい、って……そう思うんだ)

第 7 话:初めての共作

翌日
瑞希の部屋
瑞希:『それじゃあ始めましょうか。 えーっと……』
瑞希:『進めかたは、えななんさんに絵を描いてもらって、 それをボクが動画にするっていうやりかたでいいですか?』
【えななん】:『はい、大丈夫です!』
瑞希:『じゃあ、よろしくお願いします。 あ、でも、えななんさんが絵を描いてるあいだ ボクの手がちょっとあいちゃうから……』
瑞希:『よかったら最初にラフを描いてもらえませんか? それを元に、どういう動画にするか考えていこうかなって 思うので』
【えななん】:『ラフスケッチってことですよね。 わかりました』
瑞希:『あ……でも、悩んだら一緒に考えましょう! 好きにやっていいって言われたら、 ボクは結構悩んじゃいますし』
【えななん】:『ふふ、ありがとうございます。 でも、ちょっとだけイメージがわいてるから、 ラフならすぐ描けるかなって思います』
瑞希:『本当ですか? よかった』
瑞希:『じゃあ、できたら教えてください。 それまでボクも曲を聴いていろいろ考えておこうと思います』
【えななん】:『わかりました! じゃあ、できたら連絡しますね。 いったんミュートして作業します』
瑞希:(……ふぅ。 とりあえず、どう進めるか決められてよかった)
瑞希:(動画を作る時って、いつもひとりでやってたからな……。 なんかヘンな感じだ)
瑞希:(……よし、ラフができるまでは、 ボクもイメージを膨らませていこう)
瑞希:(……やっぱり、すごい曲だな)
瑞希:(K達の曲って、『苦しい』とか、『つらい』とか、 そういう……絶望的な気持ちの解像度がすごく高い気がする)
瑞希:…………つらくて声も出ない、って感じがするな
瑞希:激しいのに静かで、突き刺さるみたいな感じだ……
瑞希:これを動画にするなら、ボクは……うーん……
【えななん】:『——Amiaさん、ラフできました』
瑞希:……えっ? もう? あ、ミュート外さないと
瑞希:『早いですね。 こんなにすぐできるなんて思いませんでした』
【えななん】:『いつもはもっと詰まるっていうか、全然出ないんですけど…… Kさんの曲のおかげかもしれないです。 あ、今送りますね』
瑞希:(……どんな感じになったんだろう。 前の絵がすごくよかったから、期待しちゃうな)
瑞希:『あ……』
瑞希:(——女の子が叫んでる絵……)
瑞希:(そっか、こういう絵になったんだ……。 ボクのイメージとは結構違うけど……)
瑞希:(でも……いい絵だな。 訴えかけるものがあるって感じだ)
【えななん】:『……どうですか? もしかして、気になるところとか……』
瑞希:『あ、いえ! すごく良い絵だなと思いました』
【えななん】:『ほ、本当ですか? よかった……』
瑞希:『じゃあ早速、この絵のイメージで動画も考えていきますね。 えななんさんは、このまま詰めていってもらって大丈夫です』
【えななん】:『はい!』
瑞希:うん。Aメロはここでワイプさせたらいい感じになりそうだな。 あとは……
瑞希:……ん?
瑞希:なんだろう、Bメロとはあんまり合ってないような……。 どう見せればいいんだろ?
瑞希:エフェクト入れてみるとか? 乗せてみたら雰囲気変わるかも……
瑞希:(叫んでる女の子を、 上から黒く塗りつぶすエフェクトを入れて——)
瑞希:……ダメだな。 ここだけ別の素材入れるっていうのも手だけど、 そうすると、サビとも繋がらなさそうだし……
瑞希:…………。 それらしくは、なるんだけどな……
瑞希:(前みたいに気持ちが乗らない。 それこそ、絵の許可をもらうのを忘れちゃうくらい 没頭できたのに……)
瑞希:(これは何か……違う気がする)
瑞希:……えななんさんに話して……。 でも、本格的に描き始めてるだろうしな……
瑞希:(それに——)
???:あいつ、おかしいよな
瑞希:(……今までだってずっと、そうだった)
瑞希:(ボクの思ってることや、感じたことや、 したいことを言っても——)
【えななん】:『——あの。 Amiaさん、いますか?』
瑞希:え? あ……
瑞希:『はい、います。どうかしましたか?』
【えななん】:『えっと、その……。 ラフのことなんですけど……』
瑞希:『え?』
【えななん】:『だからその……さっきAmiaさん、ラフを見せた時に 一瞬間があったじゃないですか』
【えななん】:『もしかして、あれって…… 私の絵に納得してなかったからじゃないですか?』
瑞希:『え……』
【えななん】:『小さい頃から描いてたから、ちょっとはわかるんです。 なんか違うなっていう……そういう反応』
【えななん】:『さっきは気にし過ぎかもって思ったんですけど……、 でもなんか……多分そうなんじゃないかなって』
瑞希:『それは……その……。 納得してないっていうか……』
瑞希:『ボクは絵のことは全然わからないですし——』
【えななん】:『別にわからなくてもいいんです。 私は、Amiaさんがこの絵をどう感じたか聞きたいんです』
瑞希:『ボクが、どう感じたか……』
瑞希:『……ボクは……』
【えななん】:『——っていうか、いいって思わないならそうだって ハッキリ言ってくれませんか?』
【えななん】:『もちろん全然ダメって言われるのは死ぬほど嫌ですけど、 でも……!』
【えななん】:『ダメなのにお世辞でいいって言われるのは、 もっと嫌なんです!』
瑞希:『あ……』
瑞希:(……そんなに言うなら、 正直に言ったほうがいいのかな)
瑞希:(……この曲を聴いて感じたことを、 わかってくれるかどうかはわからないけど)
瑞希:(……本当にたまに、 ボクの苦しさをわかってくれる人もいたから——)
瑞希:『——これは、ただのボクの感想なんですけど……』
瑞希:『この子が叫んでることに、 ちょっと、違和感があったんです』
【えななん】:『……なんでですか?』
瑞希:『その……ボクがこの曲で感じたのは……』
瑞希:『“叫ぶことすらできない苦しみ”、みたいな、 そういうものだったから……』
【えななん】:『叫ぶことすらできない苦しみ……』
瑞希:『だからボクは、この女の子は叫んでるより、 無理して笑ってるような子にしたほうが、 いいかなって思ってて……』
【えななん】:『無理して笑って……』
【えななん】:『…………なんか、ピンとこないな』
瑞希:(……やっぱり、そうだよね)
瑞希:『すみません、今の話は忘れて——』
【えななん】:『Amiaさんはなんでそう思ったんですか?』
瑞希:『え?』
【えななん】:『だって、苦しい時って——痛いじゃないですか』
【えななん】:『痛くて痛くて……この痛みをどうにかしたいから必死で動いて。 でもどうにもならないから……叫ぶしかない』
【えななん】:『私は、この曲がこんなに激しいのは、 そういう理由だと思ったんです』
瑞希:『……なるほど』
瑞希:『その感じは……たしかに、わかるかも』
瑞希:(……ボクも、そういう時があったな)
瑞希:(傷つけられるたびに、どうしてボクがこんな目に 遭わなきゃならないんだって……心の中でずっと叫んでた)
瑞希:(えななんさんも、きっと、 そういう苦しみを抱えてるんだな……)
瑞希:『……でも』
瑞希:『痛くても叫べない時も、あると思うんです』
【えななん】:『え?』
瑞希:『ずっとずっと痛いと、もう全部どうでもいいやって、 そういう気持ちになることもあるなって』
瑞希:『それで、痛みを忘れるために楽しいことに逃げて…… でも痛くて』
瑞希:『そんなだから、叫ぶ力なんて……残ってない』
【えななん】:『…………』
瑞希:(……あ。 余計なことまで話しちゃったな……)
【えななん】:『楽しいことに逃げて……でも痛い……か』
瑞希:『その、すみません。 今のは完全にボクの主観だから——』
【えななん】:『……その感じも、ちょっとわかるかも』
瑞希:『え?』
【えななん】:『でもそれなら、この激しい曲調はどう解釈したの? 私は、叫び声だって思ったんだけど』
瑞希:『あ、えっと……。 これは——心の中の嵐みたいだなって思ったんだ』
瑞希:『本当は言いたいこともあるし、それこそ叫び出したいのに、 誰もきっとわかってくれないって諦めちゃって』
瑞希:『でもそれでも消せない……。 そんな自分の中の想いなのかなって』
【えななん】:『…………。 なるほど、そういう受け取りかたもあるんだ……』
【えななん】:『たしかにそれもイメージつくな……。 でも、最初に描いたのとは全然変わるし……』
瑞希:(わかってくれるんだ……)
瑞希:(……そういえばボクもさっき、 えななんさんの感じてることを、 ぴったりとじゃないけど理解できた)
瑞希:(でも……なんでだろ。 ボクとえななんさんの感じたことは違ったのに)
瑞希:(あ——そうか)
瑞希:(ボク達は、どっちが正しいわけでも、 間違ってるわけでもないんだ)
瑞希:(ボクとえななんさんは、 今まで感じてきたものが違うから K達の曲の受け取りかたも違う)
瑞希:(でも……多分えななんさんも、 ボクと同じようにすごく苦しい時があって……)
瑞希:(だから本質的には、すごく近いのかもしれない)
瑞希:(それなら——)
瑞希:『…………お互いが感じたことをどう表現するか、 一緒に考えてみない?』
【えななん】:『え? ……一緒に?』
瑞希:『はい、えっと……MVって、 曲に絵を1枚合わせるだけでも作れるし、 歌詞をそれっぽく動かすだけでもできちゃうけど——』
瑞希:『ボク達がKの曲を聴いて感じたことは、 きっともっと複雑で…… Kの曲を聴いたから生まれた気持ちもあって、だからその……』
瑞希:『うまく言えないんだけど…… ボク達ふたりがちゃんと考えてることを合わせないと、 MVがチグハグになっちゃう気がしたんだ』
瑞希:『っていうかシンプルに、そこも一緒に話しあって考えたほうが、 いいものができるんじゃないかなって』
【えななん】:『いいものが……』
【えななん】:『……うん、そうだね。 誘ってくれたKのためにも——いいMVにしなくちゃね』
瑞希:『うん。 ……あ』
瑞希:『なんか、いつの間にかタメ口になっちゃってましたね。 すみません』
【えななん】:『あ、そういえば……。 でも、もうこのままでいいんじゃない?』
瑞希:『そうだね、このままでいっか!』
瑞希:『じゃあ——表現したいことは、これで大丈夫?』
【えななん】:『“静かな叫び”……だね。 うん、それならイメージできる』
【えななん】:『……そうすると表情から全部変えていかなきゃな。 これじゃ気持ちが強く出すぎてるし』
瑞希:『うん……悪いけど、もう一度ラフからお願いできる?』
【えななん】:『オッケー。 ……っていうか、全然悪くないでしょ』
瑞希:『え?』
【えななん】:『いいもの作りたいって思って、 最初から作り直すのは、別に悪いことじゃなくない?』
瑞希:『……うん。そうだね』
瑞希:『あ……ならラフを描いてもらう前に、 ひとつ決めておいたほうがいいかもね』
【えななん】:『え? 何を?』
瑞希:『この子の、静かに叫ぶほどの苦しみを、 どういう形で表現していくかっていうこと』
瑞希:『もちろん、えななんの絵1枚で表現してもらうのもいいけど…… でも動画なら動かすこともできるから、 少し物語仕立てにしたMVにして表現することもできるし』
【えななん】:『そっか……。たしかにそうだね』
【えななん】:『……さっき、方向性を話してる時に思ったんだ。 多分私とAmiaの感じてることは違うけど……』
【えななん】:『でも何か……“大切なものを否定される”、みたいな、 そういうところは同じなんじゃないかなって』
【えななん】:『だからそういうのをうまく表現できたら、 もっと良くなるんじゃないかなって思ったの。 モチーフになるものとか……』
【えななん】:『……そうだ! この女の子に、箱を持たせるのなんてどう?』
瑞希:『箱?』
【えななん】:『うん。その箱が“大切なもの”なの』
【えななん】:『それで、その大切にしてる箱をね、誰かにとられたり、 踏みつぶされたり、価値がないって言われたりしちゃうの』
瑞希:『あ……なるほど……! それで箱の中身は、見る人に想像させるんだね!』
【えななん】:『そうそう! そういうこと!』
瑞希:『そのアイディアすごくいいよ! “大切なもの”を否定されたことがある人なら、 気持ちを重ねやすいし……あ……』
【えななん】:『ん? どうかした?』
瑞希:『あ……えっと、ちょっとしたアイディアなんだけど。 その箱に——リボンをかけてみるのはどうかな』
【えななん】:『リボン?』
瑞希:『うん。その箱がすごく大切なものだってことがわかるように』
瑞希:『それに……そのほうがカワイイでしょ?』
瑞希:『って、これはボクの個人的な感想だけどね?』
【えななん】:『リボン、リボンね……』
【えななん】:『——うん。いいと思う!』
【えななん】:『じゃあえっと……ラフを描くけど、 もしかしてこれ動きも一緒に考える必要あるのかな』
瑞希:『そうだね。ラフを元に、ボクが絵コンテを切って……、 それから絵を本格的に描いてもらうのがいいかも』
【えななん】:『なるほど……。 じゃあ、ちょっとやってみよっか』
瑞希:『ありがとう。 それじゃ、ラフお願いね』
瑞希:(……Kの曲の苦しさと、優しさ。 ボク達がMVとして表現するなら——)
瑞希の姉の声:……あれ? 瑞希の部屋、ドアが開いてる
瑞希の姉の声:瑞希……
翌週
瑞希:『……どう、ですか?』
【K】:『……まさか、こんな風に形にしてくれるなんて思わなかったな』
【K】:『すごく——いいと思いました。 前のものも良かったですけど、それよりもっと』
瑞希・【えななん】:『……!』
【えななん】:『よ……よかったです! やったね、Amia!』
瑞希:『ううん、えななんのおかげだよ! 何回も描いてくれてありがとう!』
【雪】:『ふふっ。 おふたりとも、すごく仲良くなられたんですね』
【えななん】:『あ……。まぁ、作ってたらいつの間にか……』
瑞希:『そういえば、調整入れたい場所とかってないですか? 色調とか、まだ変えられますけど……』
【K】:『いえ、大丈夫です。 このMVからは、おふたりが曲を聴いて感じたことを、 全力で表現してくれたんだと……そう感じました』
瑞希:『……ありがとうございます』
【雪】:『——ねえ、K』
【K】:『……うん。 それで……実は、もうひとつ話したいことがあるんです』
瑞希:『……?』
【K】:『Amiaさん、えななんさん』
【K】:『これからもわたし達と一緒に、作っていきませんか?』
瑞希・【えななん】:『……え!?』

第 8 话:ボクが進みたい道は

瑞希の部屋
【えななん】:『一緒に——ってそれ、 この4人で活動する……ってことですか?』
【K】:『はい。 今回のMVを見て、確信しました』
【K】:『おふたりは、わたし達の伝えたいことを感じ取って、 そのうえで他の人には簡単に出せないような、 強い想いを乗せてくれるって』
【K】:『だから、お願いします』
【K】:『ふたりの作ってくれたこのMVがあれば、 もっとたくさんの人に曲を聴いてもらえる』
【K】:『そうすれば……誰かを救うことができるかもしれない』
【K】:『——えななんさんの絵も、Amiaさんの動画も、 わたし達の曲を広く聴いてもらうために必要なんです』
【えななん】:『必要……。 私の、絵が……』
【えななん】:『……私、やりたいです』
【えななん】:『絶対に……いい絵を描きます……!』
【K】:『よかった……!』
【雪】:『嬉しいです……! これからよろしくお願いします、えななんさん』
瑞希:『…………』
【K】:『Amiaさんは……どうかな?』
瑞希:『ボクは……』
瑞希:『……少し、考えさせてください……』
【えななん】:『え……』
【K】:『……わかりました。 決めたら、いつでも連絡してください』
【K】:『それから……その……』
瑞希:『……? なんですか?』
【K】:『……わたし達の曲を、たくさんの人に聴いてもらうために、 っていう考えは変わっていないんですけど』
【K】:『ただわたしは……もう一度Amiaさんの作るものを 見てみたいと思っています』
【K】:『Amiaさんの作るものは、 すごく苦しくて——優しいから』
瑞希:『……!』
【K】:『だから、待ってます』
瑞希:…………
瑞希:(……MV作るの、楽しかったな)
瑞希:(それに——)
【K】:『……わたし達の曲を、たくさんの人に聴いてもらうために、 っていう考えは変わっていないんですけど』
【K】:『ただわたしは……もう一度Amiaさんの作るものを 見てみたいと思っています』
【K】:『Amiaさんの作るものは、 すごく苦しくて——優しいから』
瑞希:…………ああいうことサラっと言えちゃうの、すごいよな
瑞希:(……学校にも行ってないから、 時間は嫌ってほどある)
瑞希:(ああやって、いろんなこと話して何かを作るのも、 すごくおもしろかった)
瑞希:(でも……)
???:変なの
類:——瑞希
瑞希:……キツいんだよなぁ
瑞希:(変なのって拒絶されるのも、 一緒にいられたらいいなって思ったヤツが……離れるのも)
瑞希の姉の声:——瑞希? 今、平気?
瑞希:あ……うん。 入っていいよ
瑞希の姉:ありがと! 実はトランクに荷物が入りきらなくてさ、 ちょっと手伝ってほしいなーって
瑞希:入りきらないって……出発は明日の朝なのに そんなんで大丈夫なの?
瑞希の姉:ま、なんとかなるでしょ。 あと、いくつか渡したいものがあって……
瑞希の姉:……あれ?
瑞希の姉:その動画、この前作ってたミラマジっていうアニメの動画?
瑞希:(あ……流しっぱなしにしちゃってた)
瑞希:……ううん。これは、違うやつ。 ネットの人達と一緒に作ったんだ
瑞希の姉:ネットの?
瑞希:うん。いろいろあって、作ってもらえないかってお願いされてさ。 それで曲のデモもらって、絵を描く子と一緒に作ってたんだ
瑞希:誰かと一緒に動画作るのって初めてだったから いろいろ大変だったけど……でも、いいものが作れてよかったな
瑞希の姉:そっか……。 それで瑞希、最近ちょっと楽しそうだったんだね
瑞希:楽しい……
瑞希:——そうだね。楽しかったよ。 自分の考えてることとか、いつも感じてることとか話して、 それをわかってもらえて……いいものが作れて
瑞希:すごく……居心地がよかったんだ
瑞希:……だけど……
瑞希:本当にそこに居ていいのか、わからないんだ
瑞希:なんでなのか、わかんないんだけど……
瑞希の姉:…………そっか
瑞希の姉:でもね、瑞希。 居ちゃいけない場所なんて——ないんだよ
瑞希の姉:どこに居てもいいし、どこに行ってもいい。 いっそ、どこにも行かなくてもいいかもしれない
瑞希の姉:瑞希が、そう願うのなら
瑞希:…………
瑞希の姉:ねえ——瑞希は、どうしたい?
瑞希:え?
瑞希の姉:私はさ、瑞希が、瑞希の気持ちを大事にできたら 嬉しいなって、ずっと思ってる
瑞希の姉:周りがどうだって……瑞希の気持ちが、一番大事なんだ。 だから、それを聞きたいなって
瑞希:ボクは……
瑞希:ボクの……気持ちは……。 ……………………
瑞希の姉:…………
瑞希の姉:……ふふっ
瑞希の姉:こんなこと言うのはよくないのかもしれないんだけどさ、 私、瑞希が今悩んでるの、ちょっとだけ嬉しいな
瑞希:え?
瑞希の姉:ちょっと前まで瑞希は、全部諦めた顔になっちゃってたから
瑞希の姉:お気に入りのリボンをつけなくなった時と同じで、 全部どうでもいいやって顔してた
瑞希の姉:でも今は、そうじゃない。 諦めないでちゃんと、悩んでる
瑞希の姉:私はそれが、本当に嬉しいんだ
瑞希:…………
瑞希の姉:瑞希の好きなようにして、いいんだよ。 きっとどこかに、絶対、わかってくれる人がいるって、私は思う
瑞希の姉:だって、こんなにカワイイ瑞希なんだから!
瑞希の姉:だから、行きたい場所に—— 居心地のいい場所に行って、いいんだよ
瑞希:…………
瑞希:でも……
瑞希:怖いんだ……
瑞希の姉:…………そうだね
瑞希の姉:瑞希は、これまで、自分が大事にしてるものを わかってもらえないことがいっぱいあったもんね
瑞希の姉:これ以上傷つくのは、怖いよね……
瑞希:…………
瑞希の姉:——そろそろ支度しなきゃ。 あ、それでね
瑞希の姉:このトルソーを瑞希にあげたくて
瑞希:え?
瑞希の姉:さすがに大きくて持っていけないからさ。 私だと思って、瑞希の部屋に置いておいてよ!
瑞希の姉:——また前みたいに服を作りたいなって思ったら、 使ってもいいし
瑞希:…………
瑞希の姉:あと……はい、これ
瑞希:……リボン?
瑞希の姉:うん。一番お気に入りの生地で作ったの。 カワイイでしょ?
瑞希の姉:いつかまた、必要になった時のためにね
瑞希:でも……ボクは……
瑞希の姉:大丈夫だよ、瑞希
瑞希の姉:自分の好きを、無理に捨てなくていいんだよ
瑞希の姉:今まで話したことがなかったけど、 私もね、何度も夢を捨てようと思ったの
瑞希の姉:でも、私の作った服やリボンに瑞希が喜んでくれてたこと 思い出して……捨てずにすんだんだ
瑞希:……お姉ちゃん……
瑞希の姉:いろんな人に、いろんなこと言われるかもしれない。 でも——
瑞希の姉:忘れないで。 何があっても、私は瑞希の味方だよ
瑞希の姉:瑞希が進みたい道を歩いていけるように、 ずっと応援してるよ
瑞希:……っ
瑞希:(ボクの——)
瑞希:(ボクの、進みたい道は——)
瑞希:……ありがとう、お姉ちゃん
瑞希:まだ怖い……怖いけど、でも…………
瑞希:ボク……ちょっとだけ、頑張ってみるよ
瑞希の姉:——うん。頑張れ、瑞希
瑞希:……へへ、お姉ちゃんもね!
瑞希:(もしかしたら、またダメかもしれない)
瑞希:(やっぱり全部どうでもよくなって、 もう消えたほうがいいって思うようになるかもしれない)
瑞希:(でも——)
瑞希:(せめてどうにもならなくなるまでは——もがいてみよう)
瑞希:『……こんばんは。 返事、遅くなってすみません』
【雪】:『あ……Amiaさん、来てくれたんですね。よかったです』
【雪】:『それで……その……』
【えななん】:『…………もう決めたの?』
【えななん】:『私はできれば、 またやりたいなって、思うんだけど……』
【K】:『……どう、かな?』
瑞希:『いろいろ考えたけど……』
瑞希:『——よろしくお願いします』
ミク:……そんなことがあったんだ
絵名:瑞希のお姉さんが背中を押してくれたっていうのは、 私も初めて聞いたかも
絵名:でも……なんでそんなに入るかどうかで悩んでたの?
瑞希:まあその時は——ボクも、お年頃だったからさ♪
絵名:ふーん……? まあいいけど……
絵名:そういえば……あの時は言い忘れちゃったんだけど、 ——ありがとね
瑞希:え? 何が?
絵名:最初。瑞希が私の絵を使ってくれなかったら、 今みたいにはなってなかったなって思って
絵名:だから……ありがと!
瑞希:……あはは! もう、絵名ってば今更すぎでしょ~!
瑞希:でも——どういたしまして!
瑞希:あれ? 奏! まふゆ! ふたりそろって来るなんて珍しいね!
まふゆ:……少し作業時間がとれたから。 そしたら、奏が次のデモに意見をくれないかって
奏:うん。 瑞希達にも、さっきメッセージを送ったよ
瑞希:あ、ホントだ! 話しこんでて気づかなかったな……
絵名:ていうかもう次のできたの? 奏は本当、すごいスピードで作るよね……
奏:そうかな……。 それより、みんなは何してたの?
瑞希:昔話だよ! ボクと絵名がニーゴにどうやって入ったのかっていう話
ミク:うん。 みんなのこともっと知れて、よかった
奏:そっか。 懐かしいな。ふたりが入った時のことか……
奏:あの時誘うの、すごく緊張したな……
瑞希:え? そうだったの? なんかすっごい落ち着いてるーって思ってたけど
奏:そ、そうかな? できるだけ嘘のないようにと思って話してはいたけど……
瑞希:あ……だからああいう率直な感想だったんだね。 なんか奏らしいな~
まふゆ:……そういえば、そんな時もあったね
絵名:ちょっと、ホントにちゃんと覚えてるわけ?
まふゆ:多分
絵名:多分って何? 多分って。 っていうか、あんた最初の時いい絵って言ってたけど、 もしかしてあれも、全然思ってもなかったのに言ったんじゃ——
奏:え、絵名、落ち着いて……
ミク:みんな……仲良く……
瑞希:……あははっ! 絵名、どうどう~!
瑞希:はぁ。気づいたらこんな時間になっちゃった
瑞希:……ホントに懐かしい話、しちゃったなあ
瑞希:いいことも悪いことも、いろいろ思い出しちゃったけど、 でも、今ボクは——
瑞希:ん? ……あ。お姉ちゃんだ!
瑞希:——もしもし? お姉ちゃん? 荷物ありがとう!
瑞希:新作すっごくカワイかったよ! リボンもすぐにつけちゃった!
瑞希:お菓子もね、同じサークルの子達にあげたんだ。 みんな喜んでたよ。ありがとう
瑞希:……え? 最近、どうかって?
瑞希:——楽しいよ、すごく
25時
瑞希の部屋
瑞希:ん~! よーし、今日もがんばるぞっと……ん?
瑞希:あ、ファイルだ。 絵名、もう仕上げてきたんだ。早いなぁ
瑞希:……あ! 絵名もボクにかぶせて最初のMV意識して作ってる!
瑞希:……ふふ、すごくいいな、この感じ! エフェクトかけたらもっとよくなりそう!
瑞希:よーし……それじゃ、今日もがんばりますか!
瑞希:(奏達の曲を、ボク達のMVで——たくさんの人に届けよう!)
瑞希:『——みんな! お疲れ~!』