活动剧情

Walk on and on

活动ID:71

第 1 话:イベントに向けて

センター街
冬弥:♪————!
冬弥:(……あの人、また聴いてくれているな。 この前のイベントにも足を運んでくれていた)
冬弥:(……今日は、いつもより道を行く人の顔が気になる。 いまいち集中し切れていないようだ……)
冬弥:(なかなか調子がでないな。 昨日、遅くまで起きていたせいだろうか……)
青柳家 リビング
冬弥の母:あら、冬弥さん。おかえりなさい
冬弥:ただいま、母さん
冬弥:……ん? そのCDは——
冬弥の母:ああ、レコード会社から見本盤が届いていたのよ。 お父様が、オーケストラ用に曲を書いていたから
冬弥:父さんが……
冬弥:(そういえば父さん、 先月はしばらく部屋にこもっていたな……)
冬弥:(……作曲、か)
冬弥:……母さん、そのCD—— 少し貸してもらえないだろうか
冬弥の部屋
冬弥:(相変わらず、父さんの曲はすごいな)
冬弥:(今は違うジャンルにいるが、それでも—— 父さんが監修した、オーケストラの端から端まで 完璧に調和のとれた音色は参考になる)
冬弥:(それに、緻密なだけじゃない。 奏でられる旋律が持つ寂しさは、胸が痛くなるようだ)
冬弥:(俺達の——Vivid BAD SQUADの曲は、 今は彰人と白石が作ってくれている)
冬弥:(だが、俺も——いつかは Vivid BAD SQUADで歌える曲を作りたい)
冬弥:(——BAD DOGSを組んだ頃、彰人が、俺の曲を 綺麗に整っていると言ってくれたことがあった。 だが……俺達が目指している音楽はそういうものじゃない)
冬弥:(会場全体を熱狂させられる、力強い—— 心が震えるような曲であるべきだ)
冬弥:(彰人達が書く曲も、観客をわかせる力がある。 観客の目も耳も俺達に引き付けて離さない、という力強さが)
冬弥:しかし、俺の曲は——
冬弥:音のまとまりは悪くない。だが、物足りなく感じる。 彰人達が持っている力強さやグルーヴ感には、まだ——
冬弥:(あれからも遅くまでいじってみたが、 結局、納得のいく曲にすることはできなかった……)
冬弥:帰ったらまた、昨日の続きを——
???:——あれ? 冬弥くん
冬弥:え……?
病院
新:颯真、元気?
颯真:おう、新。また来たのかよ。 いつも悪いな
颯真:って……
冬弥:失礼します、颯真さん
颯真:え、ええ! 青柳くん!? 来てくれたのか!?
新:あはは、感謝してよ。 練習してたところを見かけたから、つかまえてきちゃったんだ
颯真:はぁ!? なにしてんだよ、お前!? 青柳くん、迷惑じゃなかったか?
冬弥:いえ、迷惑どころか、ついさっきまで俺の練習に つきあってもらっていて—— ひとりでするよりもいい練習ができました
冬弥:そのあとに遠野さんが、颯真さんのお見舞いに誘ってくれたので、 俺もご一緒させていただいたんです
颯真:本当か? ならよかったけど……
颯真:あ、そういえば! 前のイベント、すごい評判らしいな。 オレも嬉しいよ!
新:なんで颯真が嬉しがるんだよ
颯真:はあ? そりゃ嬉しいだろ! お前が誰かと組むって聞いた時はびっくりしたけど、 うまくいってるみたいだし安心してんだよ!
颯真:——青柳くん達のおかげで、 新がRAD WEEKENDに近づけたみたいだしな。 本当にありがとう!
冬弥:あ……
冬弥:いえ、俺も遠野さんには とても助けられていますから
颯真:はは、だってさ! よかったな、新
颯真:次のイベントも、マジで楽しみにしてるからな! もしなんか決まったら、教えてくれよ
冬弥:(RAD WEEKENDを超えるためにも、 そして颯真さんの期待に応えるためにも——)
冬弥:(次のイベントに向けて、もっと頑張らないとな……)
シブヤの公園
杏:♪————!!
こはね:杏ちゃん、すごい……!
冬弥:ああ、普段とまるで勢いが違う
新:何があったのか知らないけど、すごい気合いだね
杏:♪————! ♪————!
杏:(凪さんのことが大好きで、ずっと憧れてた。 だけど——)
杏:(憧れてるだけじゃ超えられない)
杏:(RAD WEEKENDを超えるために、 私は凪さんも……凪さんのことも超えていくんだ!)
杏:♪————! ♪————!!
彰人:あの歌いかた……
冬弥:ああ。RAD WEEKENDの映像で見た凪さんに似た迫力がある。 ……きっと、思い出して歌っているんだろう
彰人:あいつにとって、それだけ大きな存在みたいだしな。 ……オレ達も負けてられねえ
彰人・冬弥:『♪————! ♪————!!』
こはね:(みんなすごいな。だけど、私も……!)
こはね:(——私も、みんなみたいに……ううん。 みんなにだって負けないくらい頑張りたい……!)
こはね:♪————~~!!
洸太郎:……なんて迫力だよ。 こいつら、またうまくなってる
新:——俺達も続こうか
杏:はぁっ、はぁ……! 気持ちよかった~!
冬弥:……ふぅ、白石に引っ張られて いつも以上の調子で歌えたな
達也:——ったく、お前らまた化けやがって
こはね:あ、ありがとうございます。 この勢いのままイベント本番まで頑張りたいですね
洸太郎:おう! 本番まで突っ走ろうぜ!
洸太郎:……けど、その前に休憩しないか? さっきのでちょっと飛ばしすぎた……
彰人:しょうがねえな。 んじゃ、ちょっとクールダウンするか
冬弥:ふう……。水が美味しい
新:あれ、冬弥くんも飲み物買いに来てたんだ?
冬弥:あ、遠野さん。お疲れさまです
新:うん。お疲れさま。 この調子だと、次のイベントもいい感じになりそうだね
冬弥:そうですね。みんなすごく気合いが入っているようですし、 この勢いを落とさず走っていきたいです
新:あ、そうだ。 冬弥くん、このあいだはついてきてくれてありがとね
冬弥:いえ、むしろ途中で帰ってしまって、すみませんでした
新:いやいや、次の予定もあったのに つきあってくれて嬉しかったよ
新:あいつもさ、冬弥くんが帰ったあともすごく喜んでたんだよ。 『お前が来るより青柳くんが来てくれたほうが嬉しい』なんて 言っちゃってさ
冬弥:俺も楽しかったです。 昔、俺がここで活動を始めるずっと前から 活躍していたチームについても教えてくれて——
冬弥:ライブハウス『RED』のオープンイベントにRUSTを呼んだら お客さんが入りきらなくて大変だった、とか。 まさかあのハコにそんな歴史があったとは知りませんでした
新:あはは、あいつは昔から音楽好きだったからな。 ああいう話は、俺もしょっちゅう聞かされたよ
新:そうだ。冬弥くんならいい話相手になってくれそうだし、 いつでもいいから、また行ってやってくれないかな?
冬弥:はい、俺でよければ。 ぜひ、また伺いたいと思います
杏:あ、ふたりとも戻ってきた。おかえりー
新:遅くなってごめんね。 それにしても……みんなで集まってどうしたの?
こはね:休憩中に、少し次のイベントの話をしてて——
こはね:もっとRAD WEEKENDに近づくために 何か新しい挑戦をしたいねって、 みんなで話しあってたんです
冬弥:新しい挑戦?
彰人:ああ。前のイベントでは大きな手応えも達成感もあったが、 RAD WEEKENDの熱狂まではまだ全然遠いからな
彰人:どうやったらこの距離が縮まるかっつーのは、 考えていく必要がある
冬弥:……なるほど。 俺達も、前に集まって話していたな
冬弥:(それで、凪さんの話を 白石から聞こうということになったんだったな)
洸太郎:んー。足りないってことはわかるけど、 どうしたら近付けるかっていうと……難しいよなぁ
新:……そうだね。 俺もこの前のイベントのあと、みんなと同じことを考えてたよ
新:それで思いついたことがあるんだけど——
新:次のイベントでは、ひとつのテーマを元に それぞれで新曲を作るっていうのはどうかな?
洸太郎:はあ!? 新曲って…… イベントまで、あと1カ月しかないのにか?
杏:ちなみに、なんで新曲なの?
新:俺達は、前のイベントで相乗効果を生み出すことはできた。 ――さっきの練習みたいにね
新:でも、RAD WEEKENDに比べれば、 『イベント全体の一体感』ってところでは まったく届いてなかったと思う
新:だから、みんなが同じテーマで曲を作って歌えば 一体感が生まれるんじゃないかって考えたんだ
達也:なるほどな……。一体感を作るのに有効かどうか、 いい切り口じゃないか?
彰人:ああ。イベントが近づけば練習もハードになるし、 そのなかで今から新曲を仕上げていくってのはきついが…… やってみる価値は十分にあると思う
洸太郎:……そうだな。 わかった、オレもやるよ!
冬弥:だが、肝心のテーマはどうしようか
新:そうだね……。 できれば、みんなが具体的にイメージできるものがいいんだけど
こはね:みんながイメージできるもの、か……
杏:……RAD WEEKENDに近づけるような……
杏:——そうだ。RAD WEEKENDで……
新:え?
杏:RAD WEEKENDで、凪さんが最初に歌い出した瞬間って、 それまで静かだったのに、 一気に熱量が上がって、本当にすごかったなって……
杏:だから私達で挑戦するなら、あの瞬間みたいな、 一瞬で胸が熱くなって—— 気持ちがあふれちゃいそうになるものがいいと思う!
杏:だから、そうだなー……。 テーマとしては『静と動』とかはどうかな?
新:——いいね。俺も、今でもよく覚えてるよ。 凪さんが歌い出した瞬間から、会場の空気が変わっていったのを
達也:俺達からも異論なしだ。 あんな感覚は、後にも先にもあの瞬間にしかなかった
彰人:じゃ、それで決定だな
彰人:——そうだ。テーマに合わせて曲を作るんなら、 話しあいを挟んでやっていかねえか?
新:うん。もしみんな似たような曲作っちゃっても困るし、 すり合わせはしておきたいな
杏:自分じゃ気づかない案とかもらえたら もっといいものにできそうだし、いいんじゃない?
達也:ああ、それでいこう。 で、この中でトラックメイクできるヤツは誰だ?
杏:——ええっと……EVERからは達也、それに新と、洸太郎だね
達也:Vivid BAD SQUADは東雲と白石がやっていたんだな
杏:うん。私は結構前から 凪さんや父さんに教えてもらってたんだ
彰人:オレはRAD WEEKENDを見たあとからだな。 本気でやんなら、やっぱ曲も自分で作るべきだと思ったし
彰人:4人で組むようになってからは オレか杏が考えついたらデモを作ってきて、 出来がよければ使うって方法を取ってる
新:へえ。……なんか、ちょっと意外だね
新:まだ音楽を始めて間もないこはねちゃんはともかく、 冬弥くんなら、俺達のイベントでも 使えるクオリティの曲を作れると思ってたんだけど
冬弥:俺は——
冬弥:……一応、作曲自体はできるんですが、 まだ、自分の曲に納得ができていなくて
新:納得ができない?
冬弥:はい。いくら作ってみても、俺の曲で 彰人や白石、小豆沢が歌っている姿が想像できないんです
冬弥:俺自身がまだストリートミュージックの文化に 慣れきっていないことも、一因としてあるかもしれませんが……
彰人:冬弥が作るトラックは、クオリティは申し分ない。 音のまとまりだって、文句のつけようがねえと思う
杏:うん。私達もたまに聴かせてもらうけど、 冬弥の曲ってすごく安定してるんだ
杏:……だけど、冬弥が言いたいこともちょっとわかるんだよね
冬弥:…………
冬弥:(今回の『静と動』というテーマ……。 最終的にはあの瞬間——『動』のためのものだ。 『動』がなければ『静』があっても活かしきれない)
冬弥:(片方のイメージだけなら持てたとしても……。 彰人達には悪いが、俺にはまだ作りきれないだろう……)
冬弥:(歌うことについては、 自分の殻を少し破れた気がしていたが……難しいものだな)
彰人:——まあ、そこまで気にすることじゃねえよ。 簡単に解決できるなら、お前も苦労してねえだろ
彰人:冬弥が納得できるまで作ってみりゃいい。いくらでも待つ。 いつかお前の曲で歌えんの、オレは楽しみにしてんだ
冬弥:……ありがとう、彰人
彰人:っつーことで、今回の新曲なんだが——
杏:あー……私の場合、ビビっと思いつかないと全然書けないから、 来月までに絶対作れる!って言いきれないや……
彰人:ま、今回はいつもと違って、 1カ月後に間に合わせるのが大前提だからな
彰人:となると、杏からアイディアをもらいつつ、 メインはオレで進めていくほうがよさそうだな
杏:了解! アイディア出しは任せて
新:今はまだ大まかでいいから、今日のうちに それぞれのトラックの方向性なんかも話しておきたいな
洸太郎:んじゃ、軽く詰めるか!
冬弥:(できることなら、俺も曲作りに参加したい。だが……)
冬弥:(あの瞬間のような—— 心が震える曲を作るために、俺はどうしたら……)

第 2 话:未完成のトラック

彰人:——だいたいだが、曲の方向性は見えてきたな
洸太郎:よっしゃ! 絶対いい曲にしてやるからなー!
新:うん。楽しみにしてるよ
彰人:お前は余裕そうだな……
杏:あはは。でも、新の曲がどんな風になるか楽しみだな~
達也:たしかにな。遠野の曲は自然と乗せられるというか、 パフォーマンスだけじゃなくて、 トラックからして、俺達の中でも頭一つ抜けてる感じがする
新:ありがとね。 そう言ってもらえると嬉しいよ
冬弥:——遠野さんは、いつから作曲をしているんですか?
新:んー……4、5年前ってところかな。 でも、本格的にやり始めたのは3年前だよ。アメリカでね
こはね:アメリカで……!
洸太郎:へぇ! すげぇなー!
新:ありがとう。でも、別にすごくはないよ。 音楽に関してはすごく影響を受けたし、 かなりいいトラックもたくさん聴けたけどね
冬弥:いいトラック……
冬弥:あの、遠野さんが一番いいと思うトラックって、 どんなものなんですか?
新:そうだな……。 心を動かされたものなら、いろいろあるけど……
新:歌ってる時に、『このトラックじゃないと、 こんなにいいパフォーマンスはできないな』って 思わせてくれる曲かな
こはね:このトラックじゃないと、ですか?
新:うん。なんて言うのかな……聴く人だけじゃなくて プレイヤーの心を震わせて、気持ちを引き出してくれるんだよね
新:絶対にこの曲で歌いたい、 俺にはこの曲しかないって、そう信じさせてくれるんだ
彰人:お前がそこまで言うなんて気になるな。 それ、なんていう曲なんだ?
新:名前はないんだ。世に出回ってる曲でもないしね
新:……ま、みんなになら聴いてもらってもいいかな
新:——この曲なんだけど
冬弥:…………!
冬弥:(……なんだ? 心をグッと掴まれるような——)
冬弥:(すごく自由で疾走感がある。 それでいて激しいだけじゃない、切実な優しさを感じる)
冬弥:(——本当に、とてもいい曲だな。 俺も、こんな曲を書けたら……)
冬弥:——え?
新:どう、すごいでしょ?
冬弥:あの……遠野さん。途中からフレーズが消えたような……
新:ああ、未完成の曲だからね。 残念だけど、ここまでしかないんだ
彰人:一体誰が作ったんだ? 相当クオリティ高かったが
新:俺の相棒だよ
冬弥:颯真さんが……
彰人:……だから、未完成なのか
新:——でも、いい曲だったでしょ? みんなに聴いてもらえて嬉しいよ
冬弥:(……本当に、良いトラックだった。 颯真さんは、あんな曲を作れたのか……)
杏:うーん、疲れたね~!
こはね:杏ちゃん、朝から思いっきり歌ってたもんね
杏:あはは。つい張り切っちゃってさ
杏:でも、疲れたなんて言ってらんないなー。 次のイベントも全力でやりたいし!
彰人:どんな曲にするかも、さっそく考えていかねえとな
杏:うん。私も、何かいいアイディアが思いついたら連絡するよ
こはね:ふたりとも、ありがとう……! 私も、楽しみにしてるね
彰人:っと、もうこんな時間か。 そろそろバイト行かねえと
杏:あ、私も父さんの手伝いしなくちゃいけないんだった!
こはね:そういえば、練習ちょっと長引いちゃってたね
杏:あはは。このまま新曲のことも考えたかったんだけど…… お店のあと片づけをしてからになっちゃうな
彰人:オレも、バイトの帰りにでも考えてみるか
こはね:あの、私も……何か手伝えないかな?
杏:え?
こはね:私、トラックメイクもできないし、 青柳くんみたいに綺麗に調整することもできないけど……。 でも、みんなの力になりたいんだ
冬弥:小豆沢……
彰人:トラックメイクのことなら気にすんな。 それより、お前はパフォーマンスに集中しろ
こはね:え……
彰人:お前は前よりパフォーマンスがよくなったし、 すげえ歌を歌えるようになってる
彰人:だが、場数を踏めばもっとよくなる。 お前が成長すれば、それだけオレ達の力にもなるんだ
彰人:——お前には、お前にしか歌えない歌を歌ってほしい
こはね:東雲くん……
杏:私達がRAD WEEKENDを超えるためには、 こはねのパフォーマンスが絶対に必要だからさ
杏:だから、今回のことは私達に任せて! ……ね?
こはね:杏ちゃん……
こはね:……うん、わかった
こはね:ありがとう、私も頑張るよ!
冬弥:(……俺も、いつまでも迷っているわけにはいかないな)
冬弥:(今は、俺にできることをやろう)
翌日
センター街
冬弥:————♪
冬弥:……どうにも集中できないな。 少し休憩しよう
冬弥:(考えたところで仕方ないとわかってはいても、 昨日のことを、ずっと気にしてしまっているな……)
冬弥:(まだ心の震える音を作る方法は見つからない。それに…… 今回の新曲のことは、もう彰人と白石に任せたんだ)
冬弥:(今の俺がやるべきことは、ふたりが作ってくれる新曲に 最高のパフォーマンスで応えることだ)
冬弥:(そのためにも、せめて練習量を増やさなければ。 みんなの力になるために)
冬弥:それにしても—— いつもの練習場所が工事中だったのは想定外だったが、 馴染みのない場所での練習は新鮮だったな
冬弥:たまにはこういう練習も、刺激になっていいかもしれない
冬弥:……ん? そういえば、この辺りは颯真さんの病院が近かったな
新:冬弥くんならいい話相手になってくれそうだし、 いつでもいいから、また行ってやってくれないかな?
冬弥:颯真さんも次のイベントの話を 聞きたがっていたし——話しに行こう
病院
颯真:へえ、みんな同じテーマで新曲を作るのか! また面白そうなこと考えたな~!
冬弥:はい。一体感を生むためにはどういう曲にすればいいのか、 みんなで話して、すり合わせていく予定です
颯真:楽しそうだな! 肝心のテーマは、何にするかもう決めたのか?
冬弥:『静と動』でいこう、となりました
冬弥:もし俺達で挑戦するなら、 RAD WEEKENDで凪さんが歌った時のような——
冬弥:一瞬で胸が熱くなって、 気持ちがあふれてしまいそうな曲がいい、ということで
颯真:なるほどな。RAD WEEKENDの凪さん、 1曲目から最強にかっこよかったんだよな!
颯真:歌い出して一瞬で空気が変わったもんだから、 あの瞬間、まるで会場中が一つになったみたいでさ……!
冬弥:……ふふ。やっぱり、特別な思い出なんですね
颯真:当たり前だよ! あの時の感動は今でも忘れらんないって!
颯真:そういうことなら、みんな熱い曲になりそうだな。 Vivid BAD SQUADは誰がトラックを作るんだ?
冬弥:トラックは——彰人と白石が作ります
颯真:お、青柳くんはやらないんだな。 音楽に詳しそうだし、できると思ったんだけど
冬弥:遠野さんからも似たことを言われました。 でも理屈的には音を並べられても、 俺が目指しているような響きにならなくて
颯真:……もしかしてサンプリングしないで、 全部打ち込みで作ってるの? すげえじゃん!
冬弥:いえ、もともとクラシックをやっていたこともあり、 ストリート文化特有のサンプリングを なかなか噛み砕けないだけなんです
冬弥:それで、一から打ち込みをしているんですが、 自分でも『これだ』と思える音にならなくて……
颯真:なるほどな……。参考までに聞きたいんだけど、 青柳くんはどんな曲を目指してるんだ?
冬弥:そうですね、なんて言えばいいんでしょうか
冬弥:グルーヴ感——といえばいいのか、 聴く人の心を震わせる力強さがあるような……
颯真:んー……。 グルーヴ感、力強さ、か……
冬弥:さっきのテーマでいうと、『静』のイメージはできるんです
冬弥:きっと自分なら、少ない音数を丁寧に、綺麗に重ねて、 そのなかで楽器の調和は印象的に描く—— おそらく、そういう工夫をすると思います
冬弥:ですが『動』の……聴いた人の心を激しく震わせられるような、 熱くて、力強い音のイメージが俺にはつかない……
冬弥:RAD WEEKENDを超えるために 必要なのは、この『動』の音だと思うんです。 だから俺の課題は、この力強さの作りかたを掴むことにあります
颯真:なるほど。イメージはわかった! でも、具体的にどんな曲が『動』になるんだろうな
冬弥:あ……。颯真さんが作ったという、未完成のトラックは 俺のイメージにとても近いと思いました
颯真:えっ、オレの?
冬弥:はい。新曲のこともあって、 遠野さん達とみんなでトラックの話をしたんです
冬弥:颯真さんのトラックには疾走感があって、自由な感じがして——
冬弥:激しい中に優しい音色があって、聴く人の手を引いてくれる…… とても心に響くトラックでした
冬弥:聴いていて、憧れてしまうくらいに
颯真:なんか、照れるな。褒めすぎだって
冬弥:いえ、遠野さんも『本当に優れたトラック』と話していました。 この曲で歌いたい、そう信じさせてくれる、と
颯真:新、そんなこと言ってたの?
冬弥:はい。とても大事にしているようでした。 俺も、聴かせてもらえてよかったです
冬弥:…………
冬弥:……あの、颯真さん
冬弥:あのトラックは、どんな作りかたをしていたんですか? もしよかったら、トラックメイクについて アドバイスをいただきたいんです
冬弥:あんな風に、俺も—— 心を震わせられる曲が書けるようになりたくて
颯真:……あー、作曲か
颯真:悪いけど、教えられるようなことはないと思うよ。 作曲はほとんど新にやってもらってたからさ
冬弥:え? でも遠野さんは、 あの曲は颯真さんが作った曲だと……
颯真:……正確には、新とはふたりで曲を作ってたんだ
颯真:オレはサンプリングとか、 これすげえイケてるじゃん!ってフレーズは思いつけても、 曲としてまとめるのは苦手でさ。そこを新に任せてた
颯真:だから、オレの作曲能力は中途半端なんだ。 青柳くんが知りたいようなことを教えられる自信はないな
冬弥:そうですか……。 無理を言ってしまい、すみません
冬弥:(……残念だな。あの曲のようなグルーヴ感を掴めたら、 俺もみんなの力になれるかもしれないと思ったが——)
冬弥:(しかし、次のイベントのためにも 気を抜いてはいられない)
冬弥:(俺は、俺のできることをやらないと——)
颯真:……本当に一生懸命だな
冬弥:え?
颯真:そうだなあ。うまく青柳くんの助けになれるかはわからないけど、 サンプリングのアドバイスくらいならできるかもしれない
冬弥:サンプリング……
冬弥:(それで目指す音に近づけるかはわからない。 だが……もしかしたら、ヒントになるかもしれない)
冬弥:ぜひ、お願いします
颯真:そこまでかしこまらなくてもいいって。 ま、よろしくね
颯真:——あ、でももう遅いから、 やってみるのはまた今度にしない?
冬弥:あ……そうですね。 こんな時間まですみません
颯真:気にしなくていいよ。 教えるのはいつでもできるし、 青柳くんの都合がいい日に来てよ
冬弥:ありがとうございます。 それでは——練習の帰りに、また寄らせてもらいます
颯真:おう。いつでも待ってるよ
颯真:…………まさか、サンプリングを教えることになるなんてな
颯真:……でも、青柳くんに教えることで 新の役に立つことにつながるだろうし
颯真:オレは、今のオレにできることをやるしかないんだ

第 3 话:サンプリング講座!

数日後
病院
冬弥:颯真さん、今日からよろしくお願いします
颯真:はは。サンプリング教えるだけなんだし、 そんなかしこまらなくてもいいのに。真面目だな~
冬弥:いえ、自分のために時間を割いてもらう以上、 きちんとしたほうがいいと思いまして
颯真:気持ちはわかるけど、もうちょい肩の力抜いていいからな。 じゃ、さっそく始めていこうか!
颯真:ところで青柳くんって、 サンプリングが何かってことは知ってるんだよな?
冬弥:あ、はい。一応ですが
冬弥:ある楽曲から一部の音やフレーズを切り出して、 楽曲に使用する、という制作手法ですよね
颯真:うん。そうそう。細かいことを言うなら、 すでにある曲だけじゃなくて、自然の音、人の声、機械の音…… 世の中にある、あらゆる音がサンプリングのネタになるんだ
颯真:まあ、ストリートミュージックの文化としては、 青柳くんが言ったような意味で使われるほうが一般的だよな
冬弥:颯真さんは、最初からこういう曲作りをしていたんですか?
颯真:うん。オレはストリートの音楽で 初めて作曲に手をつけたからね
颯真:ストリートならではの文化にならいたかったし、 サンプリングも積極的にやってたよ
颯真:……あ。文化っていえば、青柳くん、 このあいだちょっと気になること言ってたよな?
冬弥:気になること、ですか?
颯真:うん。たしか『クラシックをやってたから ストリート文化のサンプリングがわからない』って言ってただろ
颯真:どうしてクラシックやってると サンプリングがわからなくなるんだ?
冬弥:……そうですね。 少し体感的な話になってしまうんですが
冬弥:クラシックをやっていた頃、 俺が父に教わったのは、楽譜を何よりも尊重することで——
冬弥:作曲者の意図をどれだけ正しく読み取り、 忠実に再現していくか、ということを求められました
冬弥:でも、サンプリングでは曲の一部だけを取って加工する。 俺にはそれが、作曲者の意図を壊しているようで…… わからないというか、抵抗感が生まれてしまうんです
冬弥:以前父に教わった——例えば、ショパンがやったように 他の楽章からそっくり引用するのなら、まだわかるんですが……
颯真:なるほどな。たしかにそれなら、 曲の一部を取ってきて手を加えるプロセスは難しく感じそうだ
颯真:でも、オレからしてみると、 サンプリングだって似たようなものだと思うんだけどな
冬弥:え、どういうことですか?
颯真:サンプリングっていうのは、 根っこのところにはリスペクトの気持ちがあるんだよ
颯真:その曲を良いと思うから音を借りるんだ。 だって、元の音源の良さを引き出せないなら、 音を借りたって意味ないしな
颯真:良いなって思ったものから受けた影響を隠さないで、 むしろ堂々とさらして、 自分なりの音楽を新しく作っていくことだと思うんだ
冬弥:……なるほど。そういう考えかたもあるんですね
颯真:ああ。曲作りにも、いろんな考えがあって面白いよな
颯真:——にしても、青柳くんって かなり本格的にクラシックやってたんだな!
冬弥:あ……はい。親がクラシックのピアニストで、 作曲家でもあるので……
颯真:え、マジ!? すごいじゃん!
冬弥:かなり厳しく教えられたので、大変でしたが……
冬弥:でも、颯真さんのおかげで、 クラシックとストリートの繋がりを 見つけることができてよかったです
颯真:……さて、青柳くんの苦手意識も少しは薄れただろうし、 実際にやってるところを見てもらおうかな
冬弥:そのノートPCで作曲してたんですか?
颯真:そうそう。 新と組んでた頃は、こいつを使ってたんだ
颯真:4年前まで集めてたやつなんだけど、 サンプリング用の音源データは だいたいこのフォルダにまとめてある
冬弥:! すごい量のデータですね。 タイトルが……『雑踏』? こっちは『高架下』?
颯真:うん。オレの場合は、さっきも言ったように 音楽から取りこむだけじゃなくて、 自然の音も取りこんじゃうんだ
冬弥:なるほど……。 他にもいろいろありますね。 卵を割る音とか、スリッパの音みたいな日常的なものまで……
颯真:あはは。なんて言うか、 身の周りの音ってなんでも音楽に使えると思うんだよ
颯真:それに、こうやって身近な音を使ってると、 生活と音楽がつながってる気がして好きなんだ
冬弥:……ふふ。 とても素敵な考えかたですね
颯真:だろ? じゃ、素敵ついでに、 実際に作曲してるところを見てもらおうかな!
颯真:——と、意気込んではみたものの……
颯真:片手しか動かないから、パソコンいじるのも一苦労でさ……。 操作をお願いしちゃってごめんな
冬弥:いえ、教えてもらっているんですから、 このくらいはさせてください
颯真:じゃあ、まずビートを決めていこうか
冬弥:はい。トラックメイクの基礎ですね
颯真:元になる音は……どうするかな
颯真:あ、そうだ。 昔、学校に行く時によく聴いてた曲があるんだ。 そのイントロをループかけて、ビートに使おう
颯真:これ、『どんなに気持ちが沈んでても、 明日にはいいことあるよ』って前向きな曲でさ。 オレも聴くたびに元気もらえてたんだよな
冬弥:颯真さんにとって、思い入れのある曲なんですね
颯真:そうなんだよ。 朝に聴くと、今日も頑張ろう!って気持ちになれてさ
颯真:だから、朝をイメージするような明るい音にして…… そこにドラムとベースを打ちこんだら、フレーズに移ろう
颯真:ジャズっぽくサックスとか使えばおしゃれになるだろうし、 それか、あえてアコギの音色を使ってみるのも面白いかもな
颯真:でも、ここはマジで好きなように表現していいんだよ。 音源を聴いた時に感じたこととか、思い出のイメージとか 個人的なことでもさ
冬弥:個人的なこと……。じゃあ、颯真さんならここで、 さっきの日常的な音を入れたりするんですか?
颯真:おっ、察しがいいな。 たとえばアクセントとして、 食器の音とか鳥の鳴き声とか、日常の音を合わせてみたりね
颯真:……ま、そんなことしてたらだいたい、 『他の音と喧嘩してる』って新に注意されんだけどさ
冬弥:なるほど……ためになります
颯真:……なあ、ところでさ、青柳くん
颯真:青柳くんはどうしてそんなに、 自分で作ることにこだわるんだ?
颯真:オレの経験になっちゃうけど、 客を一番わかせるのはやっぱりパフォーマンスだよ
颯真:だからそこまでトラックメイクに固執することないし、 東雲くんができるなら、そこは適材適所でいいと思うんだけど
冬弥:それは……
冬弥:…………
颯真:青柳くん?
冬弥:……彰人は、俺に『納得いくまでやっていい』と言ってくれます
冬弥:いつか俺の曲で歌いたいと、待ってくれている
冬弥:それなのに、いつまでも待たせているわけにはいかない
冬弥:小豆沢は、まだ音楽を始めてそれほど経っていないのに、 すごい速度で成長しています。 歌もセンスが良くて、一緒に活動していると本当に驚かされる
冬弥:白石は肝が据わっていて、客を巻きこんでいく力がある。 この街のミュージシャンや、お客さんから愛されています
冬弥:そして彰人は、ステージでは誰よりも視野が広い。 自分のパフォーマンスを損なわずに、 常に俺達をサポートしてくれている
颯真:……うん。 Vivid BAD SQUADのことは、新から聞いてるよ。 みんなパワフルで、すごく仲間を想い合ってるって
冬弥:……そうですね。みんな、本当に頼もしい
冬弥:大切な仲間だからこそ—— 俺を待ってくれているなら、それに応えたい
冬弥:俺は……もっとみんなの力になりたい……
冬弥:歌やパフォーマンスについては、 横に並べている自信は——持てるようになったんです。 それでも……
冬弥:自分にできないことがあると、やはり気になってしまう。 ……俺は、欲張りなのでしょうか?
颯真:…………
颯真:——いや、いいんじゃないか? そういうものだろ
冬弥:そう…………ですか
颯真:……力になりたい……か。 そうか、青柳くんも……
看護師:宮田さーん、失礼します
颯真・冬弥:『え?』
看護師:あら、お友達が来てたんですね
看護師:申し訳ないけど、これから検査の時間で……。 宮田さん、一緒に来てもらえます?
颯真:あ、ああっ! そうだった、今日検査が入ってたんだった!
颯真:ごめん青柳くん、ちょっと行ってくる! 30分もかかんないはずだから!
冬弥:あ、は、はい。えっと……
颯真:あー、待ってるあいだ暇だよな……。 そうだ、他にもデータならあるから、好きに聴いててくれ!
颯真:一番上のフォルダの中に入ってると思うから!
看護師:はいはい。もう行きますよ~
颯真:じゃあ、そういうことで! ホントごめん!
冬弥:あ……
冬弥:……検査があったのか。 なんだか、申し訳ないことをしてしまったな
冬弥:しかし……どうしようか。暇になってしまった
冬弥:颯真さん、一番上のフォルダにデータがあると言っていたが、 ……この、最新のフォルダのことだろうか
冬弥:ん? 更新日時が昨日? この作曲ツール、最近もいじっているみたいだ
冬弥:好きに聴いていいと言っていたが…… いや、ここはお言葉に甘えよう
冬弥:! この曲は……
颯真:悪い、青柳くん! 思ったより早く終わったよ
颯真:——って、その曲……
冬弥:……あ、颯真さん
冬弥:この曲、遠野さんが持っていた——未完成の曲ですよね。 もしかしてまだ、作り続けていたんですか?
颯真:あー……そっか、一番上って……。 まあ、バレちゃったらしょうがないよな
颯真:……実はそうなんだ
颯真:青柳くん、さっき『みんなの力になりたい』って 言ってただろ? オレも同じ気持ちでさ
颯真:オレも、少しでも新の力になりたくて、 事故の直前まで書いてたトラックを完成させようと思ってるんだ
冬弥:遠野さんのために…… そうだったんですね
冬弥:あの、颯真さん……
颯真:……どうしたの?
冬弥:新しく制作しているところも、すごく良かったです。 自由で、疾走感があって、激しくて、でも優しい
冬弥:颯真さんが持つ力強さや 繊細なところが音に乗っかっているようで……
冬弥:もしこのトラックで歌えるなら、 その人をとても羨ましいと思います
颯真:え……
颯真:——あー……はは。 なんか、青柳くんと話してると気が抜けるな
颯真:ああいや、あんまりまっすぐに言ってくれるから、 ひとりで気まずくなってたのがばかばかしくって……
颯真:そんな風に正直に感想を伝えられると さすがにちょっと照れるけど、でも嬉しいよ。ありがとな!
颯真:まあ、なかなか進まなくって、 この調子じゃいつ終わるかもわかんないけど
冬弥:もしかして、難航しているんですか?
颯真:まあ、体が動かないせいっていうのもあるんだけど……
颯真:前に『昔は新とふたりで曲を作ってた』って話しただろ?
冬弥:あ、はい。そう話していましたね
颯真:オレは感覚で作ってたけど、逆に新は フレーズを考えるのは苦手でも、理詰めで整えるのに向いててさ
颯真:だから昔のオレ達は、 ふたりで曲を作らないと完成しなかったんだ
冬弥:……ああ、 それで遠野さんはあの曲のことを、『颯真さんが作った』と——
颯真:……ま、あいつは今じゃ、 ひとりでなんだってこなせるみたいだけどさ
颯真:本当はオレもひとりで作れたらいいんだけど……
颯真:——なあ、悪いんだけど青柳くん
颯真:もし青柳くんがよかったら、たまにでいいから さっきみたいに感想を聞かせてくれないか?
冬弥:……もちろん構いませんが、そんなことでいいんですか?
颯真:十分だよ。昔は、新と一緒に作りながら、 『この音でいこう』ってあいつが言ったら安心できたんだ
颯真:でも、こうやってひとりでやってると、やっぱ自分の曲って よくわかんないもんでさ。さっきみたいに感想をもらえたら、 自分がちゃんと前に進めてるかどうか、確認できるから
冬弥:俺は構いませんが……
冬弥:……でも、どうして俺なんですか? それこそ遠野さんとまた一緒に作れば――
颯真:いや……このことは、新には黙っててほしいんだ
冬弥:え?
颯真:新のためにも、この曲はどうしても完成させたいんだ。 でも、ちゃんとできるかわからないし—— 作り切れなくて、あいつを失望させたくない
颯真:だから、新にだけは絶対知られたくないんだよ。 できれば、念のために誰にも話さないでくれるとありがたい
冬弥:——わかりました。 遠野さんにも、彰人達にも話しません
颯真:……ありがとう。悪いな、助かるよ
冬弥:いえ、そんな。 ですが——それほど、その曲を大切に作ってきたんですね
颯真:うん。いつか完成させて、あいつに渡したいんだ
冬弥:(いつか渡したい……か)
冬弥:俺にも仲間がいるので、颯真さんの気持ちがよくわかります
冬弥:仲間のために、力になりたいという気持ちは——
颯真:青柳くん……
冬弥:あの、颯真さん。感想を伝えるだけでいいと言われましたが、 もっと手伝わせてもらえませんか?
冬弥:俺はあまりいいフレーズを思いつくことはできませんが—— 音を整えたり、まとめたりすることなら きっと力になれるんじゃないかと思うんです
颯真:……いや、そこまで時間をもらうわけにいかないよ。 青柳くんにはイベントがあるだろ?
颯真:みんながどれだけ真剣にやってるかは知ってる。 オレのせいで迷惑かけるのは絶対に避けたい
冬弥:いえ、迷惑とは思いません。 颯真さんの手伝いをさせてもらうことは、 俺にも意味があると思うんです
颯真:……意味?
冬弥:はい。『習うより慣れよ』とも言いますし、 そばで作業を見せてもらいながら、俺自身が手伝うことで、 きっと勉強になると思うんです
冬弥:俺も、少しでも前に進みたい。 そのために、颯真さんの力を貸してもらえませんか?
颯真:……力を貸してくれ、か。 そう来るとは思わなかったな
颯真:——わかった。 それじゃ、青柳くんに協力してもらおうかな
冬弥:……! ありがとうございます
颯真:ああ。でも、そうだな……。 手伝ってもらうのは、今度のイベントの直前までにしよう
冬弥:——え? ですが……
颯真:完成する見通しがつかない以上、 いつまでも付き合わせるのはやっぱり気が引けるしさ
颯真:オレはオレのトラックメイクを手伝ってもらう。 代わりにオレも、青柳くんのトラックメイクの勉強を手伝う。 それなら、貸し借りないと思わないか?
冬弥:……そうですね。わかりました。 次のイベントまで、颯真さんの作曲を手伝わせてください
颯真:おう。それじゃ、助手としてよろしくな、青柳くん!
冬弥:はい。改めてよろしくお願いします

第 4 话:一緒に作曲をしよう!

シブヤの公園
冬弥:♪——! ♪————!
冬弥:(颯真さんの作曲を手伝いながら、そばで見て勉強する。 その方針は決まったが……)
冬弥:(パフォーマンスを おろそかにしてしまうわけにはいかない。 いつも以上に集中しなければ)
こはね:(私も、杏ちゃん達を引っ張っていくんだ! 新曲のことで力になれない分、頑張らなきゃ……!)
こはね:♪————! ♪————!
彰人:よし、ちょっと早いが、 今日の合同練習はここまでだな
洸太郎:今日の冬弥と小豆沢、なんかいつも以上に 気合いが入ってなかったか!?
冬弥:新曲を彰人と白石に任せている分、 俺は、自分にできることでチームを支えたいからな
こはね:青柳くんがリードしてくれるから、私も思いっきり歌えたよ
杏:ふたりともほんとすごかったよ! 私も負けてられないなって思っちゃった
彰人:ああ。この調子でイベント本番まで仕上げていくぞ!
新:そういえばみんな、トラックの進捗はどう?
達也:俺達は順調だな。 今回はメロウを織り交ぜてみた
冬弥:メロウ? めずらしいですね
彰人:前に冬弥が『RAD WEEKENDの参加者の 歌声には寂しさがある』って言ってただろ。 あれを岡崎さん達にも伝えたんだよ
彰人:その寂しさってとこに、 『静』の表現につながるヒントがあると思ってな
達也:ああ。礼を言うよ、青柳。 この曲を力強く歌い上げれば、俺達の熱さもより際立つはずだ。 今までの曲より難しいが、必ずやりきってやる
冬弥:——とても楽しみです。 EVERの新境地という感じで話題になりそうですね
洸太郎:オレも、半分ぐらいできたし、 イベントには絶対に間に合わせるぜ!
彰人:三田はどんな曲にするんだ?
洸太郎:とにかく客をわかせて、盛り上げられる曲だな
洸太郎:RAD WEEKENDを見た時と同じくらい—— オレも、目の前にいる人達をわかせてやりてえ!って思ったんだ
新:いいね。洸太郎くんは客へのアプローチがうまいから、 いい曲になりそうだ
洸太郎:おう。任せとけ! EVERが作った空気を オレが一気にぶち上げて、遠野まで渡してやるからな!
新:楽しみだな。じゃあ俺も、気合い入れて受け止めないと
杏:そう言う新はどうなの?
新:俺はまあまあって感じかな。そっちは?
彰人:大まかな軸は定まってきたが、まだ詰める必要はあるな。 特に、ドラムの音はもっと作りこめそうだ
杏:うん。それだけで全体がビシッとするからこだわりたいよね。 もっとビリビリする音にできそうなんだけどなあ……
新:なるほどね。まあ、イベントまでまだ時間もあるし、 じっくりやっていければいいんじゃないかな
杏:そうだね。本番までたっぷり時間つかって、 みんなで熱いイベントに仕上げよ!
杏:みんなお疲れ~! 久しぶりにメイコさんのカフェでゆっくりしない?
こはね:うん。私も行きたいな
冬弥:——あ、すまない。 俺は行くところがあるから、先に帰らせてもらう
杏:あれ、そうなの?
冬弥:……ああ。これから用事があるんだ
冬弥:(秘密にすると約束したから、 颯真さんの作曲を手伝ってくる、とは言えないが……)
彰人:……おい、冬弥
冬弥:ん?
彰人:お前、最近忙しそうだろ。 また家のこととかでトラブってねえだろうな
冬弥:いや、大丈夫だ。 心配をかけてしまったのならすまなかった
冬弥:だが、本当に用事があるだけだ。 練習に支障がでない程度のものだから、安心してほしい
彰人:……そうか。 あんま根詰めねえようにしろよ
冬弥:ああ。気にかけてくれてありがとう
冬弥:(さすが彰人だ、鋭いな。 ……それとも、俺が隠せてないだけなんだろうか)
ストリートのセカイ
crase cafe
MEIKO:え? 冬弥くんが?
彰人:ああ。あいつ自身は大丈夫だって言ってるんだが、 最近、コソコソなんかやってるっつーか……
杏:冬弥、隠しごとはあんまり得意じゃないからねー
KAITO:そっかぁ。なかなか冬弥くんと会えてない気がするのは そういうことだったんだ
杏:でも、そのわりに今日の冬弥はすごかったよね
彰人:……そうだな。すげえ気合いが入ってた
杏:そうそう! もちろん、こはねのパフォーマンスもすごかったよ!
こはね:ありがとう、杏ちゃん。 ……今は、パフォーマンスに集中するって決めたから
杏:その意気だよ、こはね! よーし、私達も頑張らなくっちゃ!
彰人:ああ、そうだな
彰人:……ま、冬弥のことも心配いらねえか。 あいつもパフォーマンスに集中してるみてえだし、 前より自分のこと話してくれるようにもなったしな
彰人:それより、曲作りは任せろってあいつに言ったんだ。 いいトラックを作らねえと
こはね:私も、ふたりが作る新曲楽しみにしてるね
杏:うん! ありがとうこはね~!
杏:今日も帰ったらさっそく考えないとね。 サクッと打ち合わせちゃおうよ
彰人:だな。もっと良い音にできそうなんだが……
杏:あ、もうこんな時間! そろそろ帰ろっか
こはね:あ……私、もうちょっとだけ残っていくね
杏:え、そうなの? じゃあ私も一緒に……って、 お店の手伝いがあるんだった~!
こはね:ふふっ。また夜連絡するよ。 お手伝い頑張ってね、杏ちゃん
KAITO:あれ? こはねちゃんは帰らないの?
こはね:あ、カイトさん、リンちゃん。 それにメイコさんも……
こはね:えっと……。 実はみんなに、相談したいことがあるんだ
リン:相談したいこと?
こはね:うん、あのね……。 私、トラックメイクができるようになりたいんだ
こはね:だから——もしわかるなら、みんなにコツを教えてもらいたくて
こはね:今ね、次のイベントの曲を杏ちゃんと東雲くんが 作ってくれてるんだけど、手伝えないのが悔しくて——
こはね:作曲よりもパフォーマンスを頑張るべきだってことも わかってるんだけど、でも……
こはね:私も作曲ができたら、みんなの力になれるのになって 思っちゃうんだ
リン:そっか……
こはね:うん。自分でもいろいろ調べながら さわってみたりもしてたんだけど、やっぱり難しくて……
リン:ん~……ねえ、カイト! そういうコツとか、何かわかんない?
KAITO:そうだなぁ……
KAITO:ボクは作曲をしたことないんだけど、 DJとして、たくさんの音楽に触れて感じたのは——
KAITO:作曲者って、 すっごくこだわりの強い人達だなぁってことかな
リン:こだわり?
KAITO:うん。使う音ひとつ取っても、すごくこだわってるんだ。 なんていうか……
KAITO:……あ、メイコの料理と似てるかもね!
MEIKO:え? 私の?
KAITO:うん。メイコは、食材にも作りかたにも すっごくこだわるでしょ? それって曲作りと似てると思うんだよね
KAITO:どんな食材を使って、どんな作りかたをすれば美味しくなるのかを ちゃんと知ってるって言うか
KAITO:それを知ってないと、 美味しいものを作るのって難しいと思うしね
MEIKO:なるほど、そういうことね
リン:……あ! じゃあもしかして、すごくかっこいい曲とか かわいい曲を聴いてみて、どんなこだわりや工夫があるのかを 調べてみるのがいいんじゃないかな!?
こはね:どんなこだわりや工夫があるのか……
こはね:……うん。私、やってみるよ
KAITO:いいね、ボクも協力するよ!
こはね:本当ですか? ありがとうございます!
KAITO:じゃあ、さっそくやってみようか! 曲は……こはねちゃんが好きなものを選んでみるのはどうかな?
こはね:え? 私の好きなものでいいんですか?
KAITO:うん。そのほうが絶対、 こはねちゃんらしいものができると思うからね
リン:いいなー! わたしも一緒にやっていい? こはねちゃんのトラック聴いてみたい!
こはね:うん。もちろん! ……ふたりとも、よろしくお願いします!
MEIKO:ふふっ、みんな頑張ってね
病院
颯真:——昨日パッと思いついて、自分で入力してみたんだ。 ストリングスの音でメロディーをつけてみたくなってさ
颯真:ちょっと生楽器っぽいアナログな響きなんだけど……。 結構いいフレーズだと思わない?
冬弥:……! こんな繊細なフレーズも作れるんですね
冬弥:(音を整えるのが苦手だと言っていたのに、すごいな。 高音域と低音域のバランスも良いし、定位にも違和感がない。 颯真さんは、これを感覚でやっているのか……)
颯真:ただ、作りながらちょっと気分が盛り上がっちゃって……。 気づいたら音がかなり分厚くなってたから、心配でさ
颯真:もしできるなら、このフレーズをサビに入れたいんだけど。 やっぱごちゃつくかな?
冬弥:サビですか……。 たしかに、もしこの音がサビで聴こえてきたら、 かなり耳に残ると思いますが——
冬弥:……そうですね
冬弥:組み合わせようとすると響きが濁ってしまいますし、 どちらかにするしかないと思います
颯真:うーん、そっか。 せっかくいいフレーズができたと思ったんだけどなぁ~!
冬弥:でも……こんなにいい音なのに、勿体ない気もしますね
颯真:まあ、しょうがないよ。 こういう時もあるさ
冬弥:…………
冬弥:(各音域のボリュームをいじれば……。 それとも、定位を変えて楽器の配置を工夫すれば、 使えるようにならないか……?)
冬弥:(いや、仮にそれで使えたとしても、 それは颯真さんのイメージする音から離れてしまうはずだ……)
颯真:——って、青柳くん? どうしたの?
冬弥:……あ、いえ、すみません。 さっきのフレーズが使えるかどうか考えていたんですが——
颯真:はは、そんなに真剣に考えてくれてたのか。 別にいいって、無理なら無理で諦めるからさ
冬弥:……そう、ですね。わかりました
颯真:そんなに気にしなくていいのに。 青柳くんのおかげで、音を崩さずに済んだんだしさ
颯真:どんなにいいフレーズを考えたって、 全体のバランスが崩れちゃ意味がないんだ。 だから、青柳くんは気にしなくていいんだよ
冬弥:……そう言っていただけると、ありがたいです
冬弥:(こうやって近くで見ていると、 颯真さんのフレーズ作りはとても勉強になる)
冬弥:(自分だったら思いつかないような、細かい工夫が多い)
冬弥:(俺も、こういう心を揺さぶるような曲が作れたら……)
颯真:青柳くん? どうかした?
冬弥:え?
颯真:あーいや、なんか悩んでるみたいだったからさ
颯真:もし曲のこと考えてるなら、なんだって聞くよ? オレも青柳くんに力を貸すって約束なんだから、 気兼ねなく言ってくれていいからな
冬弥:あ……はい、ありがとうございます
冬弥:——颯真さんの音の工夫から、 どうしたら心を揺さぶる曲になるのか、 ヒントを探そうかと思ったのですが……
冬弥:どれだけ考えても、明確なイメージが掴めなくて
颯真:前に話してた『動』的な、力強い表現ってことだよね。 オレのやりかたは見てもらってるし、あとはそうだな……
颯真:青柳くんとオレとはスタイルが違うだろうし、 これはあくまでもオレが気をつけてることだから、 アドバイスが役に立つかわからないけど……
颯真:青柳くんは、自分の曲に何を込めたいって思ってる?
冬弥:何を込める、ですか……?
颯真:うん。曲にどんな想いを込めて、何を伝えたいのか、 そこがハッキリしてないと誰かの心には届かないと思うんだ
颯真:作曲者自身がわかってないことは誰にも伝わらない。 だから、まずは自分が何を伝えたいのか—— それを知ることが第一歩なんじゃないかな
冬弥:なるほど……
颯真:なんだっていいんだよ。 喜怒哀楽のどれでも、作曲の原動力にはなるんだから
冬弥:……そうですね。 たしかにクラシックでも、作曲者の想いや情熱が 楽譜にこもっていると感じることがあります
冬弥:ですが……そう、ですね
冬弥:何を伝えたいのか、か……
颯真:ま、ゆっくり考えていけばいいんじゃないか?
冬弥:……はい。 やっぱり難しいですね

第 5 话:自分の居場所

冬弥の部屋
冬弥:どうしたら颯真さんの作る曲のような、 誰かの心を震わせられる音になるんだろうか……
冬弥:(颯真さんの作曲を手伝うことは、 自分の引き出しが増えていく感覚があって とても勉強になっている)
冬弥:(でも、まだ足りない。 何が足りないのか、それだけでもわかれば……)
颯真:まずは自分が何を伝えたいのか—— それを知ることが第一歩なんじゃないかな
冬弥:何を伝えたいのか……
冬弥:(ここ最近は彰人達のおかげで 自分の気持ちに注意深くなっていたつもりだったのに、 まだ考えきれていなかったのかもしれない)
冬弥:……俺は自分の曲に、どんな気持ちを込めたいんだろう
数日後
病院
颯真:ふんふんふ~ん♪
冬弥:颯真さんって、本当に音楽が好きなんですね
颯真:え? まあ、そうだな、 ずっと昔から身近にあったからね
冬弥:昔から……? ご両親が音楽をされていたんですか?
颯真:やってるってわけじゃないんだけど……。 親がレゲエやジャズが好きで、家にいると四六時中流れてたんだ
颯真:だからその影響で、オレも自然と音楽を聴くようになったんだ。 最初にハマったのはポップスだったんだけどね
冬弥:颯真さんは、最初からストリート音楽というわけでは なかったんですね。……まあ、俺もそうなんですが
颯真:ははは、本当にな~元クラシック少年!
颯真:オレ、小学生の頃に楽器なんか買っちゃって、 自分でさわってみるようになってさ。 独学だし、飽き性だから全然上達しなかったけど
颯真:そのくらいの頃にビビッドストリートに寄って、 たまたま路上でRADderのライブを見たんだ
冬弥:RADder……! 謙さん達を路上で見たんですか!?
颯真:ああ。すごい人だかりができてて、 とてもじゃないが素通りなんかできなかったよ
颯真:これまで聴いてきた音楽とは違う、突き刺すみたいな勢いで、 こんな音楽があるんだって驚いたな
冬弥:そんなに……。 俺がビビッドストリートに来た頃には もう謙さん達は活動していなかったので、羨ましいです
颯真:当時だって、路上でやるのはかなり珍しかったらしいよ。 それですげえ人数が集まっちゃって、 1曲だけで解散になってさ
冬弥:すごいですね。さすが謙さんだ……
颯真:ああ、本当にな!
颯真:それに謙さん達だけじゃなくて、 他のアーティストも、客も、街中が音楽であふれてて……
颯真:『ここがオレの居場所だ!』って感じて、 すぐビビッドストリートが好きになったよ
颯真:それで、中学にあがってから、 オレもビビッドストリートで歌い始めたんだ
冬弥:そうだったんですね……。 遠野さんとも、最初から組んでいたんですか?
颯真:いや、最初はオレだけだったな。 新と組んだのは、音楽の授業がきっかけだった
冬弥:音楽の?
颯真:ああ、授業で他人に歌を聴かれるのって 普通はちょっと恥ずかしいだろ? でもあいつ、人に見られても全然気にしない感じでさ
颯真:歌はとにかく器用で、でもそれだけじゃなくて、 なんていうか……すげえセンスを感じたんだよ!
颯真:それで——こいつの本気の歌を聴いてみたい!って 思って、声をかけたんだ
冬弥:遠野さんは、昔からそんなに存在感があったんですね
冬弥:……あの、前から聞きたかったんですが、 颯真さんと遠野さんはどんなチームだったんですか?
颯真:最初は、本当に遊び感覚で一緒にいるだけだったから、 青柳くん達に比べたら、真剣さも熱意もなかったな。 気ままに楽しくやってるだけって感じだよ
颯真:あ、でも強いて言うなら、初日は大変だったかな。 チーム名を決めるのでつまづいたよ
颯真:だってあいつ、『颯真が決めていいよ』なんて言うんだよ。 面倒くさがってんの丸わかりでさ
冬弥:(チーム名か。彰人とふたりの時は彰人が決めてくれたし、 今の名前も、SQUADを提案したのは小豆沢だったな)
颯真:3日間くらい考えて、 風を切ってどんな道でも前に進んでいけるイメージで 『Gurney flap』って名前にしたんだ
冬弥:前に進んでいけるイメージ……。 なんだか、颯真さんらしいですね
颯真:え? そう?
冬弥:はい。作曲のお手伝いをしていて、そう感じました。 あの曲も、気持ちのいい疾走感がありますし
颯真:あー、はは……なんか照れるな
颯真:でも実際、結構とんとん拍子でオレ達は進んでいけたんだ
颯真:新のおかげで、活動を始めてすぐに、 名前を覚えてもらえるようになってさ
颯真:新の音楽センスは、オレの想像以上だったよ
颯真:ああいうのは天才としか言いようがないな。 あいつは最初っから、客の心をつかむセンスが抜群だった
冬弥:……なんというか、わかる気がします
颯真:あはは、そうかもしれないな。ひょうひょうとしてて 何考えてるのかさっぱりわからないヤツだったけど、 隣で歌ってると本当に頼もしかったんだよ、あいつは
颯真:それで、高校にあがってすぐだったな。 オレ達の音楽が変わったのは……
冬弥:——RAD WEEKENDを見たんですね
颯真:ああ。あれはオレの人生を変えた、 本当に特別なイベントだった
冬弥:(俺は映像で見ただけだが、それでも、 特別な空気というのは強く感じた……)
冬弥:会場には、おふたりで行ったんですよね
颯真:うん。新のことは……ま、ちょっと強引に 連れていっちゃったけど……
颯真:オレ達が入れた頃にはCOLのフロアはもう人でいっぱいで、 最前列に行けなかったんだ。 で、仕方なく後ろのほうで見ることにしたんだけど——
颯真:出てきた凪さんが、ずっと無言で目つむってて、 あれ、どうしたんだろう?って思ってたんだけど
颯真:深いブレスの音がして—— 歌い始めたら、一気に空気が変わったんだ
颯真:凪さんの歌が終わったら、 もうなんていうか、叫ばずにいられなかった。 周りもみんなそんな感じで、COLが歓声で震えてるんだ!
颯真:でも、隣で見てる新は、全然動かないんだよ。 周りが歓声あげてんのに、 あいつだけは不気味なくらい静かでさ……
凪:一緒に——伝説を作るよ!!
颯真:おい!って声かけたら、新は…… 学校でも路上でも見たことない顔で ジッとステージを見てた
颯真:新があんなに熱くなってるとこなんて 初めて見たから、なんか驚いちゃってさ
冬弥:(遠野さんはそんな風に、RAD WEEKENDを体感したのか)
冬弥:(だが——たしかに凪さん達は、 心の奥底から熱いものがこみ上げてくるような…… そんなパフォーマンスをしていた)
颯真:ラストには、謙さんと大河さんが出てきて——
颯真:RADderの歌も、とにかくすごかった。 路上で初めて聴いた時とは全然違ったんだ
颯真:RADderが連れてきてくれた音楽の世界で、あの日、 『音楽って、ここまでいけるんだ』って見せつけられた。 同時に、このイベントをオレが超えなくちゃいけないって思った
颯真:RAD WEEKENDを超えよう!って、オレがそう言ったら あいつも『いいね』なんて笑ってくれてさ
冬弥:(——ああ。遠野さんと初めて会った時に、言っていたな)
新:RAD WEEKENDを超えるっていうのは、 俺の夢っていうより……そいつの夢って感じかな
冬弥:(颯真さんも俺達と同じように、 本気でRAD WEEKENDを超えようとしていたんだな)
颯真:あの夜から、オレ達は音楽に本気になった。 これから先の自分がどう生きていくか、 カッチリと決まったなって感じがしたよ
冬弥:(自分の生きかたが決まった、か……)
彰人:オレはあれを見て、自分がどう生きたいかわかった
冬弥:……彰人も、同じことを言っていました
颯真:ははは。そんくらいじゃなきゃ、今日まで目指し続けてないよな。 昔は、そういうヤツがもっと大勢いたんだけど
颯真:どいつもこいつも『次はオレの番だ!』って 街中が熱くなってて、どこにいても歌声がするんだ
冬弥:颯真さん達も、その中で歌っていたんですね
颯真:もちろん。とにかく場数を踏みたいって話しあって、 路上もハコも関係なかったな
颯真:歌って、歌って、歌って、 ひたすら歌って、歌いまくったよ
颯真:もうクオリティなんか二の次で、オレも新も 喉なんかイッちまってて、がなるようにしないと声が出ないんだ
冬弥:それは……相当な量の練習をしてたんですね
颯真:うん。あの頃はとにかくがむしゃらで、無茶なことしたな。 今になって思えば、よくあんな練習できてたなって思うよ
颯真:でもオレは、新となら、絶対に RAD WEEKENDを超えられる!って信じられたんだよな
颯真:それに、本気になった新はさらにすごかったんだ! 一緒に歌ってて、ガチッて歯車がはまる感じがするっていうかさ
冬弥:(なんだか不思議と、自分のことを見ているみたいだ。 俺にも同じような経験があるからだろうか)
杏:あー! すっごい気持ちよかった! やるじゃん、BAD DOGS!!
冬弥:(俺にとっては、あの時がその瞬間だったかもしれない)
冬弥:(セカイで初めて白石と小豆沢と歌った時に、 こんなにはまるものか……と驚かされたな)
颯真:オレ達も、それなりに 満足のいくトラックが作れるようになったし、 新のパフォーマンスもどんどん良くなってさ
颯真:ビビッドストリートでも、 いろんなイベントに呼ばれるようになってたんだ
颯真:お互い調子よかったし、多少壁にぶつかっても負けなかった。 オレ達には追い風が来てる、オレ達は持ってる——って、 そう思ってたんだけど……
颯真:残念ながら、オレは持ってなかったんだな
冬弥:あ……
颯真:……で、Gurney flapは解散になったけど、 今は新が、オレの分も頑張ってくれてる
颯真:あいつはしっかり実力つけて戻ってきたし、 青柳くん達と一緒だから、もう心配してないんだけどな!
冬弥:……はい。ありがとうございます
冬弥:(颯真さんが、自分の夢を遠野さんに託したこと。 そして、遠野さんがどんな想いでその夢を背負っているのか…… 今なら、俺にもわかる気がする)
冬弥:(……だけど、颯真さんはこんなにも音楽を愛していて——)
冬弥:(それなら、やっぱり自分で叶えたいと思っているんじゃ……)
颯真:いやー、すっかり日が暮れちゃったな
冬弥:あ、本当ですね。 手伝うはずだったのに……すみません
颯真:いや、いいんだ。 ていうかごめんな、青柳くんの勉強に協力できなくてさ
颯真:でも……久々に新と組んでた時のことを思い出して、楽しかったよ
冬弥:俺のほうこそ、聞かせてくれてありがとうございました。 おふたりのことをもっと知ることができて嬉しかったです
冬弥:これからも颯真さんの曲作りから学ばせてください
颯真:……おう! こっちこそ、手伝ってくれてありがとな
冬弥:(……俺の曲、か)
冬弥:(颯真さんは、ただ音楽が好きなだけじゃない。 昔も、多分今でも、強い気持ちで音楽と向き合ってる)
冬弥:(俺も音楽と向き合って、 どんな想いを音楽に込めたいのかを考えなければ——)

第 6 话:伝わるといいな

ストリートのセカイ
ミク:さて、と。 この列の水やりは終わったから、あとは……
ミク:あ、冬弥。 いらっしゃい——って、外で言うことじゃないか
冬弥:ミク。この辺りの花壇に水をやっているのか
ミク:この子達も、すくすく育ってもらわないといけないからね
ミク:——あ、そうだ。 今、ちょうどこはねも来てたよ
冬弥:小豆沢が?
ミク:うん。こはねに聞いたんだけど、 彰人と杏はデモができあがったんだって?
冬弥:そのようだ。俺のほうにも、 『明日の練習からはデモを使って歌を合わせていく』と、 彰人から連絡がきていた
ミク:へえ、明日からの練習が楽しみだね
冬弥:ああ。 ふたりの曲に、最高のパフォーマンスで応えなければ
ミク:うん、頑張って
ミク:——っと。これで最後だから、おしまい。 話し相手になってくれてありがとね、冬弥
ミク:じゃ、今度こそいらっしゃい。 ご注文は?
こはね:あ、青柳くん!
冬弥:小豆沢、偶然だな
KAITO:あ~、冬弥くんだ! 久しぶりだねえ
冬弥:なかなか顔を出せずにすみません。 しばらく立てこんでいて……
MEIKO:気にしなくても大丈夫よ、元気そうでよかったわ。 いつものコーヒーでいいかしら?
冬弥:はい。お願いします
リン:——あ! ねえねえ! 冬弥くんにも協力してもらったら?
KAITO:あっ! こら、リン! しーっ!
冬弥:協力……?
リン:え? だって……ごめん!
冬弥:……どうしたんだ?
こはね:あ、えっとね……
こはね:……でも、 青柳くんが手伝ってくれたら心強いかも……
こはね:……えっと、実はまだ、みんなには内緒なんだけど
こはね:最近、自分でトラックを作ってるんだ
こはね:あ、私だけじゃわからないところもたくさんあって、 カイトさんやリンちゃんに手伝ってもらいながらだけど……
KAITO:ううん。こはねちゃんは頑張り屋だから、 ボク達はほとんど見守ってるだけだよ
リン:そうそう! こはねちゃん、すっごくがんばってるんだよ!
冬弥:そうだったのか……。 だが、どうして小豆沢がトラックメイクを?
こはね:えっと、杏ちゃんと東雲くんも、青柳くんも…… みんな曲を作れるのに、私だけできないから
冬弥:それは……仕方ないんじゃないか? 小豆沢は、まだ音楽を始めたばかりだからな
こはね:そうなんだけど、でも私、悔しくて……
こはね:今の私が曲を作ってるのは、ただ——私のわがままなんだ。 本当はもっとパフォーマンスに集中しないといけないって、 わかってるんだけど……
冬弥:……俺は、欲張りなのでしょうか?
颯真:——いや、いいんじゃないか? そういうものだろ
冬弥:……そうか
冬弥:(小豆沢も、俺と同じ気持ちでいたんだな)
冬弥:俺はそれでも、いいと思うが——
こはね:……え?
冬弥:わがままでも、いいんじゃないか? もし同じ立場にいたら、俺も小豆沢と同じことをしている
冬弥:それで、協力というのは何をすればいいんだ?
こはね:あ、うん……! まだ作りかけなんだけど、 私の作った曲を聴いて、感想を教えてほしいんだ
こはね:作ったり直したりしてると、 うまくできてるのかも、どんな曲にしたかったのかも 見失ってるような気がしてきちゃって
冬弥:……なるほど、わかった
冬弥:小豆沢がどんな曲を作ったのか、俺も聴いてみたい
こはね:あ、ありがとう。じゃあ再生するね……!
冬弥:(……ん? このメロディーは——)
こはね:……どうだったかな?
冬弥:そうだな……
冬弥:……俺も、まだ自分で納得のいく曲を作れていない。 だから本来、偉そうなことを言える立場ではないんだが……
冬弥:純粋なクオリティを言うなら、まだまだ粗い。 ビートの作りこみも甘いし、音のまとまりも崩れている
こはね:音のまとまり……
冬弥:そこが崩れると和音の調和が取れなくなっていく。 はっきりと見えていたはずのイメージがブレてしまうんだ
こはね:……そっか。だから私、ずっと不安だったのかな。 曲と向き合ってるうちに、だんだん自分が こめたかったはずの気持ちから遠ざかってる気がして……
こはね:……やっぱり、曲を作るのって難しいな
冬弥:だが俺は、悪くないと思う。 きっとこれは、小豆沢にしか書けない曲だ
冬弥:サビの部分は、白石の曲をサンプリングしたのか?
こはね:……え? う、うん。わかったの?
冬弥:ああ。白石が前に作ったトラックに、 音作りが似ている気がしたんだ
冬弥:細かく作りこまれた部分までよく聴きこんで、 その音をどうしたら活かせるか考えて作っているんだろう。 白石へのリスペクトを感じた
冬弥:——曲全体の感想になるが、 小豆沢らしい、素直で、繊細な情緒も感じる
冬弥:サビに向かって動きをつけていくところは、 大切に、丁寧に音を作りこもうとしているのがよくわかる
冬弥:小豆沢が、初めて音楽に触れてドキドキしているような、 幸せな気持ちが伝わってくるようだ
こはね:——すごいね、青柳くん。 私、杏ちゃんの歌を初めて聴いた時の気持ちを イメージして曲を作ってたんだ
こはね:でも、どうしてわかったの?
冬弥:どうして、と言われても……
KAITO:——もしかして、クラシックを通して学んだ技術かな?
冬弥:え?
ミク:ああ。今の楽曲分析のこと?
こはね:楽曲分析?
KAITO:うん。クラシックって、作曲者の正しい意図で弾けるように まずは楽譜をしっかり読みこんで——
KAITO:演奏する前には、作曲者の背景や人となりを調べて、 その音楽がどうやって作られた曲なのかを分析していくよね
KAITO:今のを見た感じ、 多分冬弥くんは楽曲分析が得意だったんじゃない?
冬弥:あ……
冬弥の父:——違う。何度言えばわかる。もう一度だ。 またリズムがずれているぞ。この曲は遅く、情感を豊かに、だ
冬弥の父:まただ。なぜずれている? お前は気がつくと急ぐ。もう少しゆったりと弾けないのか
冬弥の父:この曲は、作曲者が家族に贈った練習曲だ。 決して幸せではない渦中で、彼がどんな願いを込めたか…… その心情がわかっていれば、そんな弾きかたは選ばない
冬弥の父:冬弥、お前は楽譜を本当に読みこんだのか? そこには、別の楽章の旋律が同じ音型で引用されている。 その意図をよく考えるんだ。もう練習はいい、楽譜を読みなさい
冬弥:……たしかに父から、曲を演奏するためには必要なことだと 厳しく叩きこまれた経験がある
冬弥:特に父のピアノは、作曲者が楽譜にこめた情景や感情のイメージを 正確に読み取り、それを音色で再構成することが徹底されていた
冬弥:俺も、そんな父の演奏に憧れていて…… だから、得意だったかはわからないが、 楽譜の分析には真剣に取り組んでいた
冬弥:小豆沢とはこれまで一緒に活動してきた時間があったから—— 曲にこめた想いが、俺にも感じ取れたのかもしれない
ミク:冬弥は、その音楽がどんな想いで作られたどういう曲なのか、 ちゃんと知ってあげられる力を持ってるんだね
KAITO:優しい冬弥くんらしいね
冬弥:…………
こはね:青柳くん、ありがとう
こはね:えっと、私ね……。 どんなトラックを作りたいんだろうって考えた時に、 もしみんなに聴いてもらうなら、特別な気持ちがいいなって……
こはね:それで、杏ちゃんが私に出会ってくれたことを 形にしたいって思ったんだ
こはね:杏ちゃんが私を音楽の世界に連れてきてくれてから 毎日ドキドキすることばっかりで、 すごく幸せだよって気持ちを伝えたかったんだけど——
こはね:でも私、作曲の経験もまだ全然だし、 これで本当に曲になってるか、やっぱり不安だったから……
こはね:だから青柳くんが、私の気持ちがちゃんと曲にこもってるって 教えてくれて、すごく嬉しかった
冬弥:そうか……。 それなら、小豆沢の想いを見つけられてよかった
冬弥:あの頃の俺が、必死にやっていたことは—— 今もこんな形で残っているんだな
冬弥:——小豆沢、こちらこそありがとう
こはね:え? どう、いたしまして……?
冬弥:(それにしても、小豆沢はすごいな。 自分の気持ちをはっきりと自覚して曲を作っている)
冬弥:(……俺も、負けていられないな)

第 7 话:込められた願い

シブヤの公園
洸太郎:♪——! ♪——!
達也:へえ、これが三田の新曲か。 前から思ってたが、あいつ結構いい曲を作るよな
杏:うん。なんて言うんだろ。洸太郎らしいよね。 背伸びしてない自然体な感じで、聴きやすいのかな?
彰人:そうだな。硬派でロックスタイルなEVERが ガツンとくる感じだとして、三田の音は対照的かもな
新:ポピュラーな音の置きかたをしてるから、 聴いていてすごく安定感があるよね。それに……
洸太郎:みんな~! まだまだ盛り上がっていこうぜ!
新:トラックの途中で一部、あえて音数を減らして 『間』を作ってるのは、ああいう盛り上げかたをすることを あらかじめ想定しているからだろうな
冬弥:ええ。観客のことをよく考えていて…… 『人の心に届ける』ということをとても意識している
冬弥:(三田は、今回のテーマを直感的にやれているんだろうな)
冬弥:(聴いた人にこう感じてほしい、 こう反応してほしい、と—— ステージから、お客さんのことをよく見ているから)
冬弥:(俺は、人の心に届けたい、震わせたい、そう考えておきながら、 誰の心に届けるのかということまでは考えていなかった)
こはね:どんなトラックを作りたいんだろうって考えた時に、 もしみんなに聴いてもらうなら、特別な気持ちがいいなって……
こはね:それで、杏ちゃんが私に出会ってくれたことを 形にしたいって思ったんだ
こはね:杏ちゃんが私を音楽の世界に連れてきてくれてから 毎日ドキドキすることばっかりで、 すごく幸せだよって気持ちを伝えたかったんだけど——
冬弥:(——そういえば小豆沢も、そんなことを言っていた)
冬弥:(それなら、俺はどうなんだ?)
冬弥:(……俺は、自分の音を、 一体誰に届けるつもりなんだろう)
新:——じゃあ、次は俺だね
新:♪——! ♪——!
冬弥:やはりすごいな。 突き刺さるような迫力もあって、繊細な表現もうまい
こはね:新曲も、いつの間にできてたんだろう
杏:ついこのあいだまで『まあまあ』なんて言ってたのにね。 あの様子だと、もう完成形まで見えてない?
達也:ああ。もう手探りなところがないって感じだな。 俺達も三田も、まだまだ残ってるってのに
杏:そんなの私達も同じだよ。それに…… 新のトラック、かなりハイレベルだよね
彰人:流行をつかむのがうまいって感じだが、 そこに、自分のスタイルを自然と織り交ぜてるな
彰人:音はシンプルだし、目立った工夫もねえのに、 ここぞってとこでピンポイントに効かせてきやがる。 器用っつーか、なんつーか……
彰人:オレも、もっとデモを詰めねえとな
翌日
病院
冬弥:——という感じで、 昨日の練習ではもうみんな、新曲をかなり仕上げていました
颯真:そっか。イベントまで、もう時間もないもんなあ
颯真:そんな大変な時期だってのに、 こっちの作業手伝ってもらっちゃって、なんか悪いな
冬弥:いえ、むしろこちらからお願いしたことですから
颯真:でも実際のところ、 青柳くんが手伝ってくれて、かなり助かってるよ
颯真:思いついたアイディアが結構細かいやつで、 これをどう伝えようかなって考えてると——
颯真:オレが言う前に、 想像してるまんまの音をもう打ち込んでたりしたからさ
冬弥:そうですね……。少しずつ、颯真さんの 音の作りかたにも慣れてきたような気がします
颯真:勘がいいっていうよりは、 多分持ってる音楽センスが桁違いに優れてんだな……
颯真:いい助手を持って頼もしいよ、青柳くん。 オレだけでやってたら、多分この半分も進んでないと思うし
冬弥:お役に立てているならよかったです。 俺も勉強させてもらっているので
颯真:そうか? あんまり教えられてないような気もするけど…… でも、そうだな。仕上がってるっていうみんなの新曲くらい、 いい曲を書いてくれたら嬉しいな
颯真:あのメンバーだから、 きっとどれもめちゃくちゃかっこいいんだろ?
冬弥:はい。特に遠野さんの新曲は、これまで以上に迫力があって、 とても攻撃的なサウンドでした
颯真:へえ、あいつがそんな曲書いたのか! こりゃ負けてられないな~、Vivid BAD SQUAD
冬弥:そうですね。遠野さんに引けを取らないよう、 彰人と白石が作ってくれた新曲に 俺は、最高のパフォーマンスで応えないと
颯真:油断したら食われるから怖いよなあ。 チーム組んでた頃、オレも同じことを思ってたよ
冬弥:そうだったんですか?
颯真:ああ。オレよりも新のほうがパフォーマーとしては上だったから、 あいつばっかり目立ってたんだ
颯真:でもオレも負けたくなくて、 あいつがうまく客の心を掴んでる隣で、 精一杯、声を張り上げたよ
颯真:新はすごいヤツだけど、 だからってオレが負けてられるか!って
颯真:それに、オレがこうしたい!って相談したトラックも、 あいつは気に入ってくれてたしな
颯真:『いいよ颯真、これで歌いたい』ってさ
颯真:……オレの作るトラックは、昔も、今も、新のためにあるんだ。 あいつが歌いたいって言う時は、 いつも想像以上のパフォーマンスで応えてくれたから
颯真:青柳くん、さっき『みんなの力になりたい』って 言ってただろ? オレも同じ気持ちでさ
颯真:オレも、少しでも新の力になりたくて、 事故の直前まで書いてたトラックを完成させようと思ってるんだ
冬弥:颯真さんにとって、今でも遠野さんは、 本当に大事な相棒なんですね
颯真:…………
颯真:いや、違うよ
颯真:オレはもう、新の相棒じゃない
冬弥:え……?
冬弥:それは……どういうことですか?
颯真:だってこの体じゃ、もう音楽はできないし。 あいつと同じ舞台には、どうしたって立てないからさ
颯真:この曲も——新がひとりで歌うために作ってる。 昔と違って、オレはもうあいつの隣にはいられないからな
冬弥:…………
冬弥:(……本当に、そうなんだろうか)
冬弥:(この曲に込められている想いは、とてもそんな風には……)
冬弥:(……いや。 これはただ、俺の思い違いかもしれないが……)
ミク:冬弥は、その音楽がどんな想いで作られたどういう曲なのか、 ちゃんと知ってあげられる力を持ってるんだね
こはね:青柳くんが、私の気持ちがちゃんと曲にこもってるって 教えてくれて、すごく嬉しかった
冬弥:俺には——
冬弥:俺には……この曲からは、今でも、 遠野さんと肩を並べたいという気持ちが伝わってきます
冬弥:前を走っている背中を追いかけて、互いに追いかけあって、 ずっと遠いところまでふたりでたどり着きたい……。 そんな、願いの曲に聴こえました
颯真:なんで……
冬弥:それは、俺にも——
冬弥:(そうか……)
冬弥:大切な仲間だからこそ—— 俺を待ってくれているなら、それに応えたい
冬弥:(俺にも同じ願いがあるから。 だから颯真さんの曲は、こんなにも俺の心に響いたのか……)
冬弥:俺にも、同じようにかけがえのない相棒がいます。 だから、そんな風に思ったのかもしれません
颯真:…………
颯真:——そうか

第 8 话:今度は俺の番だ

冬弥の部屋
冬弥:俺にも、同じようにかけがえのない相棒がいます。 だから、そんな風に思ったのかもしれません
颯真:…………
颯真:——そうか
颯真:……はは、鋭いなあ。隠してんだから、 そういうのはわかっても言わないでよ
冬弥:あ……すみません
颯真:ううん—— そうだな、青柳くんの言ったとおりだよ
颯真:今のオレには高望みで、こんなこと考えたって どうしようもないし、言いづらいけどさ
颯真:これでもオレは、まだ新と……相棒でいたいんだ
冬弥:颯真さん……
颯真:それにしても、本当によくわかったね?
冬弥:……そうですね
冬弥:……今まで一緒に作業をしてきたからでしょうか。 颯真さんのことを、よく知ることができたからじゃないかなと
颯真:オレのことを?
冬弥:はい。曲の中にある作曲者の想いを知るためには、 まずは作曲者のことを深く知る必要があると クラシックではそう教わりました
冬弥:そのおかげで、颯真さんの曲の中に、 相棒を想う気持ちが込められていることに気づけました。 それに、俺の中に同じ想いがあることにも……
颯真:……そっか。 青柳くんも、想いを見つけられたんだな
冬弥:はい、颯真さんのおかげで。 ——次は何をすればいいですか?
颯真:いや、もう終わりにしよう
冬弥:……え?
颯真:オレのトラックメイクの手伝いは、今日で終わりにしよう
颯真:こっちのことは心配しなくていいからさ。 オレの気持ちはちゃんと曲に込められてるってわかったし、 もう続きはひとりでもやれる
冬弥:で、ですが……
颯真:それに——青柳くんも自分の曲を作りたいんじゃないか?
颯真:さっき、言ってくれただろ? 自分にも同じ想いがある、って
冬弥:あ……
颯真:やっと見つけられたんだ。 今すぐにでも作ったほうがいい
颯真:青柳くんだって、そう思ってるんじゃないか?
冬弥:颯真さん……
冬弥:そう、ですね。 今はこの想いのまま——曲を作りたいです
颯真:うん。 ——これでお互い、前に進めたな
颯真:青柳くんの納得がいく曲、楽しみにしてるよ
冬弥:(相棒とまた肩を並べたい—— その心からの願いが、颯真さんの曲を力強くしていたんだろう)
冬弥:そして俺にも、颯真さんと同じ願いがある……
彰人:♪————!
冬弥:(俺は彰人に、感謝してもしきれない)
冬弥:(クラシックから逃げて 自分を見失わないために歌っていた俺のことを、 彰人が見つけてくれた)
冬弥:(あの日——)
彰人:おもしろいな、お前。 なあ、ちょっとオレと歌ってみねえ?
冬弥:(チームを組もうと、声をかけてくれた)
冬弥:(そして俺を、『RAD WEEKENDを超える』という 新しい夢と出会わせてくれた)
冬弥:(小豆沢と初めて会った時は、 少し揉めてしまって大変だったが……)
冬弥:(だが、4人でチームを組むきっかけになった)
冬弥:(あれから、父やクラシックと向き合うこともできたし)
冬弥:(小さい頃には想像のつかなかった楽しいことも、 たくさん経験することができた)
冬弥:…………こんな、中途半端な俺が……お前の隣に立っていいのか?
彰人:お前は中途半端じゃねぇ。 中途半端って自分で思ってるだけの、オレの最高の相棒だ
冬弥:(彰人は、俺のことを『最高の相棒』だと言ってくれる)
冬弥:じゃあ俺は、最高の相棒であり続けるために……
冬弥:これからもずっと、彰人と、肩を並べていきたい
冬弥:(彰人がどんどん先を走っていくのは、とても頼もしい。 だが、同時に負けていられないとも思う)
冬弥:(追いつくためなら、 きっと俺は、どんな努力だって惜しまない)
冬弥:(支えになりたいし、高めあっていきたい。 俺は、彰人のことを誰よりも信頼している)
冬弥:(そして今は、彰人だけじゃない。 白石と小豆沢のことも、同じように、特別に感じている)
冬弥:(……みんなどんどん先に進んでいく。 俺も、いつまでも立ち止まってるわけにはいかない)
冬弥:(俺にとって大事な気持ちだ。 だからこそ、大事な音楽で伝えたい)
冬弥:ここは……ピッチを下げて、 もっと旋律に響きを持たせたいな
冬弥:ほどほどの、歩くような速さをベースにして…… 楽器の音は明瞭なほうがいい。動きをつけていこう
数日後
シブヤの公園
杏:♪————! ——!
杏:……ごめん! ちょっと1回デモ止めるね!
彰人:ああ。どうした?
杏:んー、やっぱりもうちょっとテンポ速くしない? 今は少し溜めを作ってるけど、 バーンって入ったほうがいいと思うんだよね
彰人:あー、そうだな。オレも出だしは少し気になった
こはね:じゃあ、やってみる? 私は大丈夫だよ
杏:うん、お願い! 冬弥もいい?
冬弥:ああ、構わない
彰人:よし。それじゃ、また最初から合わせてみるぞ
杏:はぁ、はぁ……。 あはは、ずっと歌いっぱなしだったねー
こはね:でも、サビにいく前の抑揚をつけてヒリヒリした感じから 一気に盛り上げるのも、歌ってて気持ちよかったな
杏:私も! でも、まだデモで合わせてるから 編曲が終わったらもっと気分が乗りそうだね
冬弥:その作業も、もうそろそろ終わるんだったな
彰人:ああ。あとは細かい調整が残ってるくらいだ。 明日には終わらせる
杏:急に新曲を作ることになったから最初はどうなるかと思ったけど、 案外、やってみたらやれるもんだね
冬弥:そうだな。ふたりが頑張ってくれたおかげだ
冬弥:(……そして、今度は俺の番だ)
冬弥:——ところでみんな。少しいいだろうか
彰人:なんだ、改まってどうした?
冬弥:ああ、大したことじゃないんだが……
冬弥:…………
冬弥:(そうか。颯真さんも小豆沢も、こんな気持ちだったんだな)
冬弥:(自分の想いが伝わるか、それを曲に込められているかどうか、 聴いてもらうことがこんなに不安だとは思わなかった)
冬弥:今回のイベントに、というわけではないんだが……、 実は、トラックを作ってきたんだ
杏:え……?
こはね:青柳くん……
冬弥:……俺も、わがままなんだろうな
こはね:……ふふっ。そうだったんだね
冬弥:ということで、彰人、白石、そして小豆沢。 聴いてみてもらえないだろうか
杏:いいに決まってるじゃん! 聴かせてよ
こはね:うん。聴いてみたいな
彰人:…………
冬弥:彰人……?
彰人:オレがお前と一緒にやりたいと思ったのは、今みてえな…… 『やってやる』って顔が心強かったからだ
彰人:そんなお前が、半端な曲を書いてきたとは思わねえ
彰人:お前のその顔、期待していいんだろ? 聴かせろよ、冬弥
冬弥:(不思議だな。彰人が信じてくれていると思えば、 あんなに不安だった気持ちが消えてしまった)
冬弥:——ああ、ありがとう。 それじゃあ、聴いてくれ
こはね:(……すごいな、青柳くん)
こはね:(楽器の音がひとつひとつはっきり聴こえて、 重なった時に、すごく気持ちいい響きになってる。 青柳くんが言ってた『音のまとまり』ってこういうことなんだ)
こはね:(でも、それだけじゃなくて、曲が進んでいくと—— あんなに綺麗に整ってた音に、全然違う音が交ざって……)
杏:(すごく激しいストリングスの音が入ってきた。 力強いのに、でも突き刺すような感じじゃない。 優しくて……背中を押してくれてるみたい)
杏:(なんでだろ、胸がぎゅっとして—— 今すぐ、歌いたくなる)
杏:(ああ——今ここがステージだったらいいのに!)
冬弥:……どうだろうか?
杏:——私
杏:絶対、このトラックで歌いたい!!
こはね:……すごい。すごいよ、青柳くん! 私も、今すぐ歌ってみたいって思ったよ!
冬弥:白石、小豆沢……
こはね:どう言ったらいいのかわからないけど…… 私達のためにある曲なんだ!って、そんな気がした
杏:わかるよ、こはね。このトラック、 ステージの私達を引き上げてくれようとしてるって感じたかも!
冬弥:……ありがとう、ふたりとも
冬弥:彰人は、どうだっただろうか
彰人:どうって……そんなの決まってんだろ、最高だよ! この曲なら、どんなパフォーマンスだってできそうだ
彰人:イントロからすぐに『こう歌いたい』ってイメージがわいて、 曲が進むと、息苦しいくらい喉の奥が熱くなった。 気持ちを引き出されるって、こういうことなんだな
彰人:いつもお前、気がつくと成長しやがって! ったく、オレも負けてられねえな……
杏:冬弥が最近忙しそうだったのって、 やっぱこの作曲のためだったの?
冬弥:ああ。そうなんだ、実は——
冬弥:(……いや、颯真さんの作曲の件は秘密にするんだったな)
こはね:どうしたの?
冬弥:いや、……実は作曲の件で、 ある人に相談にのってもらっていたんだ。 このトラックを作れたのは、その人のおかげだ
冬弥:だが、その人だけじゃなくて、彰人のおかげでもある
彰人:——オレ?
冬弥:ああ。 曲を作りながら、これまでのことを考えていた
冬弥:今の自分があるのは、クラシックを投げ出して ひとりで歌っていた俺のことを、彰人が見つけてくれたからだ
冬弥:俺には彰人と一緒にやっていく資格がないと悩んだ時も、 『隣にいていい』と言ってくれたから
彰人:……あったな。そんなことも
冬弥:彰人が——ああ言ってくれなければ、 俺はあのまま音楽から離れてしまっていたかもしれない
冬弥:だがそうならなかったのは、彰人が繋ぎとめてくれたからだ
冬弥:今でも相棒の隣で歌っていられることが、どれだけ幸福か…… そのことに気づいたんだ
冬弥:これから先もずっと 肩を並べられる相棒であり続けたいという気持ちがあったから、 このトラックを作ることができた
冬弥:彰人。お前は、最高の相棒だ
彰人:ったく。こっちの台詞だよ
杏:あれー? 彰人、嬉しそうだね?
彰人:うるせえな
冬弥:(みんなの反応を見ると、 どうやら俺は、想いを曲に込めることはできたらしい)
冬弥:(長いあいだ待たせてしまったが、 ちゃんと気持ちを伝えられて、よかった)
彰人:とにかく、来週のイベントは絶対にこの曲も入れるぞ。 遠野達にもあとで連絡しておく
冬弥:……ん? 待ってくれ彰人。 まさかこの曲もやるのか?
彰人:ああ。これから仕上げていくから、 チーム練習を少し増やしたい
冬弥:だが、イベントまでもう時間がないだろう。 今から新曲を2つも詰めていくのは無茶だと思うが
彰人:ま、やるしかねえだろ
杏:ふふっ。私達は別にいいよ、そのくらい無茶したって。 ねー、こはね?
こはね:うん! 大変でもいいよ。 青柳くんの作った曲で歌いたいから
彰人:そういうわけだ。 こんなにいいトラックが目の前にあんのに それをやらないなんてありえねえだろ
彰人:あと——オレのトラックだが、もう少し手を入れさせてくれ。 パート分けは極力変わらないようにする。 ……今なら、最高に熱い曲が作れそうだ!
冬弥:(……どう考えても、大変だと思うが——)
颯真:うん。あの頃はとにかくがむしゃらで、無茶なことしたな。 今になって思えば、よくあんな練習できてたなって思うよ
冬弥:(……だが、がむしゃらに高めあっていくのも 時にはいいか)
彰人:最高のイベントにするぞ、冬弥!
冬弥:ああ。楽しみだ