活动剧情

願いは、いつか朝をこえて

活动ID:77

第 1 话:表現したいもの

絵画教室
雪平:皆さん、こんにちは。 本日もよろしくお願いします
絵名:ふう……
絵名:(今日はどんな課題出されるんだろ。 緊張するな……)
絵名:(このあいだ、静物画の課題描いた時は、 立体感が甘いって言われちゃったし)
絵名:(前よりはマシになってきたとは思うんだけど、 まだまだ全然だな……)
絵名:(……でも、そんなことで落ち込んでられない)
絵名:(今日は、前よりもいい絵を描いてみせる……!)
雪平:では、皆さんに描いていただく課題を お伝えします
雪平:本日は、イメージ課題です。 『孵化』というテーマを素描で表現してください
絵名:…………孵化?
雪平:制作時間は6時間、3時間後に一度休憩を取ります。 では始めてください
絵名:(孵化……孵化……)
絵名:えっと……
絵名:(単語で考えたら、卵がかえることだけど…… でも、だからってそのまま描くわけにもいかないし)
雪平:——時間です。では皆さん、講評を始めますので 絵を前に出してください
絵名:(どうしよう……。 描けたには描けたけど……)
絵名:……!
絵名:(みんな、すごい……。 どれも私には思いつかなかったイメージばっかりだ)
絵名:(特に、二葉の絵……。 卵の中で育った世界が、殻を破って広がっていく感じ。 すごくいいな……)
絵名:(……どうして私は、 あんな風にイメージできなかったんだろ)
雪平:——それでは、次。誰の絵でしょうか
絵名:あ、はい! 私です。 ……よろしくお願いします!
雪平:東雲さんですね。 では見ていきましょう
絵名:…………
雪平:これは……卵から生まれた人間、ですか
絵名:はい……。 孵化をして、広い世界を見た人間を描きました
雪平:なるほど。 …………
雪平:この絵で、東雲さんは何を表現したかったのですか?
絵名:え、えっと……。 自分が見たことのない、新しい世界を見た驚きと、 高揚感を表現しました
雪平:なるほど。であれば、もう少し目線や表情で 感情を表現したほうがいいですね
雪平:しかし——
雪平:東雲さんは本当に『新しい世界を見た時の驚きや高揚感』を 表現したかったのですか?
雪平:私には、ただ思いついたから描いたというようにしか 見えませんでした
絵名:……! えっと、それは……
絵名:…………
雪平:……では次のかた、いきましょう
絵名:あ……
雪平:——以上で講評を終わります。 皆さん、お疲れさまでした
絵名:(本当に表現したかったのか、か……)
絵名:(先生の言うとおりだ。 あの絵は、それっぽく描いただけで ……私自身が表現したいものは、込められてない)
絵名:(……少しは成長できてるって思ってたけど、 やっぱりまだまだだな……)
二葉:絵名ちゃん、お疲れさま。 ……大丈夫?
絵名:——ああ、うん。大丈夫。 いつものことだし
二葉:今日の課題、難しかったよね……。 私もイメージ課題って苦手だから、 何描こうかすっごく悩んじゃったな
絵名:え、二葉も?
二葉:うん。私はどちらかと言うと、 目の前にある物を描くほうが得意だから
二葉:いつも、先生には独創性が足りないって言われちゃうし、 イメージ課題では厳しく言われることが多いから緊張するんだ
二葉:今日も、まだありきたりだって言われたけど……。 私が表現したいことは入れられたから、 ちょっとだけ、前に進めた気がするな
絵名:……前に、進めた……
絵名:(……そっか、そうだよね。 二葉も、みんなも……きっと私よりもしっかり考えて 課題に向き合ってる)
絵名:(私も……ちゃんと向き合わなきゃ。 みんなに追いついて、いい絵を描くために……!)
絵名:——雪平先生!
雪平:……どうしました?
絵名:あの、この課題……持ち帰らせてください! 私、納得できる絵を——絶対に描き上げてみせますから!
雪平:…………
雪平:わかりました。 それでは次回、お待ちしています
絵名:はい、ありがとうございます
二葉:絵名ちゃん……
宮益坂
まふゆ:(今日は委員会、予定より早く終わったな……)
まふゆ:(どこか寄って勉強するのもいいけど—— お母さんを心配させないように、早く帰ろう)
朝比奈家 リビング
まふゆ:ただいま、お母さん
まふゆ:……お母さん?
まふゆ:(……リビングには、いない……?)
まふゆ:(今日、どこかに行くって話は聞いてなかったけど……)
まふゆ:(……買い物に行ってるだけかもしれないし、 部屋で勉強してよう)
まふゆの部屋
まふゆ:…………!
まふゆ:(え……? どうして……)
まふゆ:え、と……。 お母さん……何、してるの?
まふゆの母:——あら、まふゆ。おかえりなさい。 今日は早かったのね
まふゆ:うん……。委員会早く終わったんだ。 だから、家で勉強しようと思って……
まふゆの母:そうだったのね。 じゃあ、頑張り屋さんなまふゆのために、 今日は美味しいごはんを作らなきゃね
まふゆ:う、うん。ありがとう。 えっと、それで……
まふゆ:お母さんは——何をしてたの?
まふゆの母:……ああ、勝手にパソコンを借りちゃってごめんなさいね。 ちょっと調べ物をしていたのよ
まふゆ:調べ物……?
まふゆの母:ええ。でも、もう終わったから大丈夫よ。 まふゆ、貸してくれてありがとう
まふゆの母:それじゃあ、勉強頑張ってね
まふゆ:う、うん……

第 2 话:抑えこまれた想い

絵名の部屋
絵名:孵化……。孵化、か……
雪平:東雲さんは本当に『新しい世界を見た時の驚きや高揚感』を 表現したかったのですか?
絵名:(私がこのテーマで表現したいこと……。 今度こそ、ちゃんとイメージしなきゃ)
絵名:何かが生まれる……。 花開く、成長する……
絵名:(——そうだ。画家として、もっと成長したい…… 自分の殻を破りたいって気持ちを乗せてみるのはいいかも)
絵名:(孵化する自分を描いてみよう)
絵名:……うん、悪くないかも。 これで描いていこう
絵名:……ラフはこんな感じかな
絵名:(この前描いたやつより、悪くはないかな……。 今回はテーマ性もしっかり入れたし)
絵名:(……でも……)
絵名:(なんでだろう。この絵に描かれている自分が、 自分じゃないみたいに感じる……)
絵名:(私自身、画家になりたいとは思ってるし…… これは自分が表現したいもののはずなのに)
絵名:(構図がおかしいのかな……。 どこかパースが狂ってるとか?)
絵名:(……でも、違和感があるのは“私”の姿だけだ。 腕も足もバランスが崩れてるわけじゃない)
絵名:……もしかしたら……
絵名:私が——自分のことを信じきれてないのかな
絵名:(絵の基礎もできてなくて、毎回酷評されてる私が、 画家として孵化なんてできるのか……って、感じてるのかも)
絵名:駄目だ……
絵名:(このまま描いたら、また中途半端なものになる……)
絵名:何か別のモチーフにしたほうがいいのかな……
奏:『みんな、もう作業してる? デモができたから、セカイに来てほしい』
絵名:あ……! もうそんな時間? まだ納得できるものが描けてないのに……
絵名:とりあえず、セカイに行こう。 もしかしたらみんなと話してるうちに、 もっといいアイディアが思い浮かぶかもしれないし
誰もいないセカイ
絵名:みんな、おまたせ!
絵名:……って、あれ?
絵名:どうしたの? ……もしかして、またなんかあった?
瑞希:えっと……まふゆが、お母さんにパソコン見られてたんだって
絵名:え!? でも、パスワードとかは? まさか設定してなかったの?
まふゆ:……してたけど、お母さんには教えてた
まふゆ:何もなければ、勝手に見ることはしないって言われてたから。 ……実際に今までも見られたことはなかった
まふゆ:でも、今日は——
まふゆ:……帰ってきたら、お母さんがパソコンを開いてて……
奏:……どうして、そんなことしてたんだろう
まふゆ:お母さんは、調べもののために使ったって 言ってた……けど……
絵名:でも、ただの調べものならスマホでもできるじゃん。 なのにわざわざ、まふゆのパソコンを使うわけ?
瑞希:……もしかしたら……
瑞希:調べてたのは、“まふゆが何をしてたのか”じゃないかな
絵名:え……?
瑞希:ほら、前にシンセのことがあったでしょ? それで……もしかしたらの話なんだけど
瑞希:まふゆのお母さんは、まふゆが何か 自分が知らないことをやってるって思って…… こっそり見てみようって思ったんじゃない?
奏・絵名:『…………!』
絵名:そ、それで勝手にパソコン見てたってこと……!? 信じられない……!
まふゆ:…………
レン:まふゆちゃん……
瑞希:……ねえ、まふゆ。 そのあと何か言われたりしてないの?
まふゆ:……うん。ナイトコードとか、曲のデータは見つからないように 隠してあったから、多分みんなのことは気づかれてないと思う
奏:そっか……。 見つかってないなら、よかった
瑞希:でも、また勝手に見られるかもしれないんだよね
瑞希:……あ、それならパスワードを変えるのはどう?
まふゆ:急にパスワードを変えたら、 変に思われるかもしれない
絵名:ていうか、見るなって言えばいいじゃん。 親だからって、勝手にパソコン見るのは絶対ないでしょ
まふゆ:そう、かもしれないけど……
まふゆ:でも……お母さんは、私のことが心配だから見ただけで……
絵名:心配してるからって、勝手に見ていいって ことにはならないでしょ
絵名:あんただって、嫌だって思ってるんでしょ? こういう時こそはっきり言うべきじゃないの
まふゆ:……私は……
まふゆ:…………
ミク:まふゆ……
瑞希:……言いづらいかもしれないけど、 本当に嫌なことは、はっきり言ったほうがいいと思うよ
瑞希:……はっきり言うのって、難しいことなんだけどさ
まふゆ:…………
まふゆ:……曲
絵名:え?
まふゆ:……新曲のデモ、聴きたい
絵名:ちょっと! 話はまだ終わってないでしょ!
瑞希:……絵名
絵名:…………、はあ。 わかったってば
奏:……流すね
まふゆ:うん
絵名:(たしかに、言えないことがあるのはわかるよ)
絵名:(わかる、けど——)
絵名:(まふゆは、嫌だって気持ちを抑え込んで、 苦しんでるみたいに見える)
絵名:(だったら……はっきり言ったほうがいいんじゃないの?)
絵名:(言いたいことを言えないまま、親に従って……。 そんなんじゃ、ずっと苦しむことになるんじゃないの?)
翌日
宮益坂
絵名:はあ……
絵名:あれからいろいろ考えたけど…… やっぱり、いいアイディアは浮かんでこないな
絵名:(本当は、画家として殻を破る自分をイメージできるのが 一番いいんだろうけど……)
絵名:(このまま考えてても駄目なのかも。 もう一度、“表現したいこと”から考え直してみよう)
絵名:……って、あれ? あそこにいるのって……
絵名:……まふゆ? こんなところでどうしたの?
まふゆ:絵名……
まふゆ:……少し気持ち悪くなって、休んでた
絵名:え、大丈夫なの?
まふゆ:……大丈夫だと思う。 熱はないし、予備校の講義は受けられたから
絵名:熱はない、って……。 でも、具合悪いんでしょ?
まふゆ:……大丈夫
まふゆ:ただ……胸の奥が、冷たくて……
絵名:あ……!
まふゆ:雨……
絵名:最悪、今日降るって言ってなかったじゃん! まふゆ、あんたも早く帰りなさいよ
まふゆ:……うん。 もう少しだけ、休んだら……
絵名:え? でも……
絵名:……あーもう!
絵名:まふゆ、ついてきて!
まふゆ:え?
絵名:早く、濡れちゃうでしょ! これで風邪引かれたら、なんか気分悪いじゃない!
絵名:ほら、早く!

第 3 话:衝動

東雲家 リビング
絵名:ただいまー
母親:絵名、おかえりなさい。 ……あら?
まふゆ:えっと……突然すみません。 ……宮益坂女子学園2年の、朝比奈まふゆです
絵名:さっき近くで会ったんだけど、雨が降ってきたから ちょっと雨宿りさせてあげようと思って
母親:あら……! 絵名が、愛莉ちゃん以外のお友達を……!?
まふゆ:え?
絵名:ちょっと、何その言いかた。 普通に愛莉以外の友達はいるから
母親:ふふ、そうね。まふゆちゃん、いらっしゃい。 なんのおかまいもできないけど、どうぞ上がってちょうだい
まふゆ:はい、ありがとうございます。 おじゃまします
レン:(……まふゆちゃん、大丈夫かな……)
誰もいないセカイ
レン:(……まふゆちゃん、この前来た時 すごく苦しそうだったな……)
ミク:……レン、まふゆのこと心配してるの?
レン:……うん、まふゆちゃんは大丈夫って言ってたけど、 やっぱり気になっちゃうんだ
レン:この前、お母さんのことで苦しんでたし……
ミク:……心配、だね
レン:……うん。ぼくが心配しても、 まふゆちゃんが苦しくなくなるわけじゃないと 思うんだけど……
レン:……大丈夫、かな……
ミク:……気になるのなら、見に行ってあげてもいいんじゃないかな
レン:え……
ミク:何もしなくても、そばにいるだけで 心があたたかくなったりするから
ミク:レンがいてくれることで、 まふゆも少し楽になるかもしれない
レン:……そうなの、かな……
レン:じゃあ……ぼく、まふゆちゃんのところに行ってくる。 なんにもできないかもしれないけど……
ミク:うん、いいと思う
ミク:まふゆを、よろしくね
レン:……うん!
絵名の部屋
絵名:まさか、あんたを連れてくることになるとはね……
絵名:はあ、帰ったら課題のこと考えようと思ってたのに
まふゆ:……課題?
絵名:そう、絵の課題。 ちょっと難しくて、悩んでるんだよね
絵名:だから、ニーゴの作業までに アイディアだけでもまとめようって思ってたんだけど
まふゆ:……そう。じゃあ、帰る
絵名:は?
まふゆ:私がいたら、課題ができないんでしょ?
絵名:それはそうだけど……別にいいってば! ここまで連れてきた時点で仕方ないって思ってるし
絵名:ていうか、あんただって帰りたくないんでしょ?
まふゆ:…………
絵名:ちょっと、なんとか言いなさいよ
絵名:(……はあ。相変わらずなんにも言わないんだから)
絵名:(……悩んでるのも、多分、親のことなんだろうけど……)
???:『ま、まふゆちゃん……』
まふゆ:え?
まふゆ:……レン?
絵名:え、どうしたの? 何かあった?
レン:『え、えっと……。 この前、まふゆちゃんが苦しそうだったから、 大丈夫かなって……』
レン:『でも……』
レン:『この前よりは、苦しくなさそう……?』
絵名:え?
まふゆ:……うん。前よりは、大丈夫
レン:『よかった……』
絵名:それならいいけど……。 ま、せっかくだし、もう少し休んでけば? 雨も強くなってるし
まふゆ:……ありがとう。でも……
絵名:でも、何?
まふゆ:…………帰らないと
絵名:は!? だからどうしてそうなるわけ? 家に帰りたくないんじゃないの?
まふゆ:……帰りたくない、というか……
まふゆ:家に帰ろうとすると、少し冷たい感じがして、苦しい
絵名:……それって、この前みたいなことがあるから?
まふゆ:…………
絵名:もう……。そういうことも、親にはっきり言えばいいじゃない
まふゆ:……そんなこと言ったら、余計に心配させる
まふゆ:模試に行けなかった時も、門限を破った時も すごく心配をかけたから……
絵名:……その気持ちはわからなくもないけど……
絵名:あんたは、それで納得できるの?
まふゆ:私は……
まふゆ:……お手洗い、借りるね
レン:『え、絵名ちゃん……。怒ってる?』
絵名:別に、怒ってないけど……。 なんでもっと自分の思ってること 言わないんだろっていうのは思うかな
絵名:……まふゆを見てると、 言いたいのに黙らせられてるって感じがするから
レン:『…………』
レン:『……絵名ちゃんは、強いね』
絵名:え?
レン:『ぼくだったら……、思ってること、 そのまま言うの怖いなって……』
レン:『えっと、お父さんやお母さんみたいな—— 大事な人に否定されたら、すごく苦しいから』
絵名:あ……
絵名:(否定、されたら……)
父親:お前に、画家になれるほどの才能はない
絵名:…………
絵名:それは……少し、わかるかも
絵名:(画家になりたいって思って絵を描き続けてきたのに、 わかってもらえなくて、否定されて——)
絵名:(あの頃は、どうしようもなくつらかったな)
絵名:(親と顔を合わせるのも嫌で、家の中でも 自分の部屋にしか居場所がないように思えて——)
絵名:(……もしかしたら、まふゆにとってのお母さんも そんな感じなのかな)
絵名:(だから——否定されたら嫌だって思って、 言うこと聞いちゃうのかな……)
まふゆ:……ただいま
レン:『あっ、まふゆちゃん……! おかえりなさい』
絵名:ねえ、まふゆ——
まふゆ:っ! あ……
まふゆ:——お母さんだ
絵名:え……
まふゆ:——もしもし、お母さん?
まふゆ:……えっと、今日は友達の家で勉強してて——
まふゆ:……うん、お互いに小テストが近かったから。 連絡してなくてごめんね
絵名:(……本当になんなの、親の顔色ばっかりうかがって)
絵名:(あんたはそれでいいの!? 勉強ばっかりさせられて、好きなことは諦めさせられて、 パソコンまで勝手に見られて!)
絵名:(……こんなんじゃ、ますます言いなりになって 逃げ出せなくなるじゃない)
絵名:(そしたら、あんたは……あんた自身を……)
まふゆ:え? 何時に帰れるか……?
まふゆ:……えっと……
絵名:——ちょっと貸して
まふゆ:え……?
絵名:はじめまして、いきなりすみません。 まふゆさんと仲良くさせてもらってる 東雲絵名と申します
まふゆの母:『——東雲さん? あら、はじめまして。 ええと……まふゆと同じクラスの子かしら』
絵名:いえ、私は別の高校なんですけど。 まふゆさんと勉強していたら、ちょっと遅くなっちゃって
まふゆの母:『あら、そうなのね。 いつもまふゆと仲良くしてくれてありがとう』
まふゆの母:『でも……』
まふゆの母:『まふゆとは、どういうつながりのお友達なのかしら?』
絵名:え……
絵名:それは……
まふゆの母:『もしかして……』
まふゆの母:『——まふゆと一緒に、音楽をしている子?』
絵名:……っ
奏:もしかして…… まふゆ、音楽やってること話してないの?
まふゆ:……うん。 お母さんは、私に勉強してほしいって思ってるから
まふゆ:……それで昔、部屋に置いてたシンセを 捨てられそうになったの
奏・絵名:『えっ……!?』
瑞希:……ねえ、まふゆ。 そのあと何か言われたりしてないの?
まふゆ:……うん。ナイトコードとか、曲のデータは見つからないように 隠してあったから、多分みんなのことは気づかれてないと思う
奏:そっか……。 見つかってないなら、よかった
絵名:(……まふゆの話からすると、ニーゴのことは 親には言ってないはず……)
絵名:(もしかして、パソコンの時と同じで 探りを入れてるのかも)
絵名:(……それなら……)
絵名:音楽……ですか? なんのことか、ちょっとわからないんですけど……
まふゆの母:『あら? 音楽を教えてくれるお友達がいるって聞いていたから 私からもお礼をしたいと思っていたんだけど——』
まふゆの母:『それって、あなたのことじゃなかったのかしら?』
絵名:いえ……。私じゃないと思います
まふゆの母:『そうなのね、早とちりしちゃったわ。ごめんなさい』
まふゆの母:『ええと……それなら、どういうお友達なの?』
まふゆ:……絵名……
絵名:いいから、あんたは黙ってて
絵名:私は……
絵名:まふゆさんとは、絵がきっかけで知り合ったんです
まふゆの母:『……絵? どういうことかしら』
絵名:えっと……
絵名:(あいつの名前を使うのはムカつくけど……)
絵名:——実は、私の父の個展にまふゆさんが来てくれたことがあって。 そこから仲良くなったんですよ
まふゆの母:『……個展?』
絵名:ええ、東雲慎英っていうんですけど……ご存知ですか?
まふゆの母:『……え? それって……シブヤ美術館で個展をやっていた あの東雲先生かしら?』
絵名:はい! 別の個展の時に手伝いをしていたら、 偶然まふゆさんが通りかかって……
絵名:父の絵を気に入ってくれて、同い年ってこともあって 意気投合したんです!
まふゆの母:『まあ、そうだったのね。 あの東雲先生のお嬢さんが、 まふゆとお友達になっていたなんて……』
絵名:ふふ、私もまふゆさんにはお世話になってます。 今日も勉強を教えてもらっちゃいましたし……
絵名:あ、それで—— 一応まふゆさんのお母さんにもお願いがあるんですけど……
まふゆの母:『お願い? 何かしら』
絵名:まふゆさんに、絵のモデルになってもらえないかと 思いまして
まふゆ:……!
まふゆの母:『絵のモデル……?』
絵名:はい。父の影響ではないんですけど…… 私も絵を描いていまして
絵名:今回出された絵の課題が、まふゆさんにぴったりなんです。 だから、ぜひモデルを頼みたいんですけど……
まふゆの母:『まあ、素敵じゃない。 あの東雲先生のお嬢さんに描いてもらえるなんて、 まふゆはとても恵まれているわね』
絵名:ありがとうございます! それで、課題を今日中に仕上げなきゃいけないので、 今夜まふゆさんをうちに泊めさせてもらいたいなって
まふゆの母:『今夜……? まあ、急ね』
まふゆの母:『まふゆは今、受験勉強で忙しいから、 できれば夜は勉強に集中してほしいんだけど……』
絵名:…………
まふゆの母:『……けれど、1日ならリフレッシュもかねて お友達の家にお泊りするのもいいかもしれないわね』
まふゆの母:『東雲さん、まふゆのことをよろしくね』
絵名:……はい、ありがとうございます!
まふゆの母:『それじゃあ、まふゆにかわってもらえるかしら』
絵名:……わかりました。 まふゆ、お母さんが呼んでるよ
まふゆ:あ……。う、うん
まふゆ:お母さん、急にごめんね
まふゆ:……うん、わかった。迷惑かけないようにするよ。 それに勉強も。今日の分はちゃんと進めておくから
まふゆ:……うん、うん。ありがとう。 じゃあ、また明日
まふゆ:……おやすみなさい
絵名:——はあ、つっかれた……
まふゆ:絵名……
絵名:これで帰らなくてもいいでしょ?
まふゆ:……ありがとう
まふゆ:でも、絵のモデルって?
絵名:ああ……。あれは咄嗟に出た嘘っていうか……
絵名:まあ、本気でやらせようなんて思ってないから安心して
まふゆ:そう……わかった
絵名:(けど、今日は課題できなそうだな……。 まふゆのこともあるし、しょうがないんだけど)
絵名:(時間見て、アイディアだけでも出しておこうかな)
絵名:じゃ、うちのお母さんにも事情を説明してこよっかな。 晩ご飯の準備もあるだろうし
まふゆ:……私も行く。 泊めてもらうなら、改めて挨拶しないと
絵名:そう? 別に気にしなくてもいいけど……。 じゃあ一緒に行こっか
まふゆ:……うん

第 4 话:あたたかな雰囲気の中で

絵名の部屋
絵名:パジャマはこれ使って。 普段使ってないやつだから、比較的綺麗だし
まふゆ:……ありがとう
母親の声:絵名~! そろそろ夕飯よ!
絵名:はーい! 行くよ、まふゆ
まふゆ:……うん
東雲家 リビング
絵名:はー、お腹すいた。 お母さん、今日のごはんって——
彰人:ただいま
絵名:あ、彰人。おかえり
彰人:……げ
絵名:は? おかえりって言ってんのに、何その態度。 ていうか、なんか目泳いでるし……怪しくない?
絵名:……あ! 手に持ってるのって、もしかして 駅前に新しくできたパンケーキ屋さんの……!?
彰人:あー……。めんどくせえのに見つかったな
絵名:ねえ! ちゃんと私の分も買ってきてるよね!?
彰人:買ってきてるわけねえだろ。 なんでオレが毎回お前の分も買わなきゃならねえんだよ
絵名:はあ? 家に同じものが好きな人間がいるって わかってるんだから、そこは気をつかうべきでしょ
絵名:あ……でも、今日食べるのならまふゆの分もないと駄目か
彰人:は……?
まふゆ:おじゃましてます。 えっと……彰人くん、だったかな
彰人:あ……どうも。 すみません、変なところ見せてしまって
まふゆ:いえ、私も急にごめんなさい。 今日はいろいろあって、泊まらせてもらうことになったんです
彰人:ああ、そうだったんですか。 狭い家ですけど、ゆっくりくつろいでいってください
絵名:(まったく、ふたりして外面だけはいいんだから……)
母親:ほら、ごはん冷めちゃうわよ。 みんな座って~!
絵名:はーい
母親:さあ、まふゆちゃんも食べてちょうだいね
まふゆ:ありがとうございます
まふゆ:……でも、すみません。 突然、泊まることになってしまった上に 晩ごはんまでいただいて……
絵名:別にそんなこと気にしなくていいってば
絵名:あ、今日ハンバーグ? いいじゃん、美味しそう!
絵名:……って、お母さん! にんじんのグラッセいらないってば!
母親:もう、わがまま言わないで食べなさい
母親:でも、まふゆちゃんも絵名の言うとおり、 遠慮なんかしなくていいからね
母親:それより、苦手なものとかなかったかしら
まふゆ:はい、どれもとっても美味しそうです
絵名:あ、じゃあこのグラッセ食べない?
彰人:嫌いなもの押し付けられたら、 朝比奈さんも迷惑じゃないかな
絵名:嫌いな人が食べるよりも、 好きな人が食べるほうがいいでしょ
彰人:これくらい好き嫌いしないで食えって言ってんだよ
彰人:朝比奈さんも断っていいですからね
まふゆ:ふふ、ありがとう
絵名:うわ、何それ。 自分だって嫌いなものは食べないくせに……
絵名:あ、もしかして食べたかった? それじゃ私の食べていいからねー
彰人:ちょっ……やめろって
絵名:好き嫌いしないで食べなさいねー
彰人:だから、自分で食えって言ってるだろ
母親:ふたりとも、いい加減にしなさい。 ハンバーグが冷めちゃうでしょ!
彰人・絵名:『はーい』
絵名:じゃ、いただきまーす
母親:まふゆちゃんも遠慮せず、好きなだけ食べてちょうだいね
まふゆ:ありがとうございます。 ハンバーグ、とっても美味しいですね
絵名:(美味しいって、味もわかんないくせに。 ……うちの親相手に優等生ぶらなくていいのに)
彰人:そういえば、ハンバーグって久々だな
母親:そりゃ、せっかく絵名のお友達が来たんだもの。 どうせなら喜んでもらいたいじゃない? 張り切って作っちゃった
まふゆ:突然お邪魔してしまったのに、ありがとうございます。 ハンバーグは好きなので嬉しいです
母親:ふふ、よかったわ。 そういえば、ふたりとも学校は違うみたいだけど…… どんなお友達なの?
彰人:たしか、音楽サークルで一緒に 曲作ってるとかじゃなかったですっけ
まふゆ:あ、えっと……
絵名:そうだけど……。それ、よそでは黙っててよね。 まふゆの親、ちょっとうるさいから
母親:あら、そうなの? 曲を作ってるなんて、とても素敵じゃない
まふゆ:その、勉強をしなければいけないので……
母親:ああ、もうちょっとしたら受験生だものね。 たしかにお母さんの気持ちもわかるわ
母親:でも、息抜きくらいならいいんじゃない? ……なんて言ったら、まふゆちゃんのお母さんに 怒られちゃうかしら
母親:まあ、絵名はやりたいことをやってても、 いつもイライラしてるから心配だけどね
絵名:う……
まふゆ:(……心配……)
まふゆ:(——やっぱり、そうなんだ)
母親:でも、私が言ったところでこの子の意志は変わらないし。 絵名には絵名の人生があるから、好きにやるのが一番よ
まふゆ:え……
まふゆ:(好きに、やるのが一番……? でも——)
まふゆの母:——ううん、いいのよ。 お母さんも、まふゆが本当にやりたいことなら応援するつもりよ
まふゆの母:心配だから、つい口うるさくなっちゃったけれど、 これはまふゆの人生だもの
まふゆの母:だから——まふゆがしたいようにしていいわ
まふゆ:(なんだか——お母さんとは、違う)
まふゆ:(どうして……?)
絵名:ま、私は誰がなんて言っても 好きにやらせてもらうつもりだから
母親:はいはい、わかってるわよ。 でも、少しくらいは勉強しなさいね?
彰人:そうそう。朝比奈さんを見習ってな
絵名:もう、うるっさい! ていうか、彰人だって赤点ギリギリなんだから 人のこと言えないでしょ
彰人:赤点は回避してんだからいいだろ。 こっちはお前と違って、テスト前にチームの連中と 勉強してるからな
母親:本当は平均点を目指してほしいんだけど?
彰人:う……。 ま、まあ……練習が早く終わる日があったら……
まふゆ:…………
まふゆ:(やっぱり……)
まふゆ:(なんだか、私の家と違う……)
まふゆ:(私の家でも、夕飯の時は家族で話すし—— うちのほうが喧嘩もあんまりしないし、穏やかなのに)
まふゆ:(絵名の家は、喧嘩してても冷たい感じがしない……)
母親:まふゆちゃん、ごめんなさいね。 せっかく遊びに来てくれたのに、こんな話聞かせちゃって
まふゆ:あ……いえ、大丈夫です。 私も家ではよく受験勉強の話をするので
母親:そうなの? 偉いわねえ。 もしよければ、絵名達にも教えてもらえないかしら
まふゆ:ええ、もちろんいいですよ。 絵名も彰人くんも、私でよければいつでも教えるから言ってね
彰人:あ……。 ありがとうございます……
絵名:私はいい。まふゆから教わるなんて絶対に嫌だし
彰人:朝比奈さんだって、お前に教えるのは苦労するから 嫌だろうよ
絵名:は!? あんたと一緒にしないでくれる? 私は勉強すればできるんだから
絵名:ほら彰人、だーい好きなにんじん 食べてないじゃん
絵名:まだこっちにあるからあげるねー
彰人:だからいらねえっつってんだろうが
まふゆ:(……なんだろう……)
まふゆ:(ここにいると、胸が軽くなる……)
まふゆ:(私の家と変わらないはずなのに、何か違う——)
まふゆ:(でも、何が違うんだろう……)

第 5 话:まふゆをモデルに

東雲家 リビング
絵名:はー、お腹いっぱい……
彰人:結局、にんじん全部押しつけてきやがって……
母親:ふたりとも、お客さんの前なんだから もう少し静かにケンカしなさい
母親:ごめんなさいね、まふゆちゃん。 せっかく来てくれたのに、こんな感じで
まふゆ:いえ、賑やかで楽しいです。 うちはきょうだいがいないので
絵名:たしかに、ひとりだとこういうケンカすることもないよね。 あーあ、私もひとりっこがよかったな~
彰人:そりゃこっちのセリフだけどな
母親:あ、そういえば……お客さん用のお布団、 クリーニングに出してたかしら。 押し入れにはあると思うんだけど……
絵名:あ、たしかに。 愛莉が泊まりに来たの、結構前だったし 枕とかぺちゃんこになってるかもね
まふゆ:あ、私は全然大丈夫ですので。 お気づかいなく
絵名:枕気にしないって、神経図太すぎない? 私だったら絶対無理
母親:こら、気をつかってくれてるのよ。 まふゆちゃん、ありがとうね
母親:そうだ。そろそろお風呂がわくから、先に入ってきたら? そのあいだに、お布団の準備もしておくわ
まふゆ:あ……ありがとうございます。 でも、皆さんより先にいただくのは……
彰人:気にしなくていいっすよ。 数少ない絵名の友達なんですから
彰人:つーか、絵名が先に入ると いつ上がってくるかわかんねえし。 今入っといたほうがいいと思います
絵名:そんなに長くないってば! ったく、変なこと吹き込まないでよね
まふゆ:ふふ。それじゃあ、先にいただきます
絵名:あっ! 手前にあるシャンプーは 私のだから使わないでよ。 奥にあるお母さんのやつ使って!
彰人:シャンプーぐらい貸してやれよ……
絵名:高いやつなの!
まふゆ:ふふ、奥のやつだね。わかった。 じゃあ、行ってくるね
彰人:……本当、なんであんな人がお前と仲良くしてんだ?
絵名:だから、普段は私が面倒見てあげてるんだってば!
彰人:は? どう考えてもありえねえだろ
絵名の部屋
絵名:ったく……。彰人ってば、まふゆのこと よく知らないから、あれこれ言っちゃって
絵名:(まあ……あの優等生顔してるまふゆに 本当は裏があるなんて、言っても信じないと思うけど)
レン:『え、えっと……絵名ちゃん』
絵名:あ、レン。ごめんね、来てくれてたのに
絵名:まふゆは今、お風呂入ってるから もう少しで帰ってくると思うよ
レン:『そうなんだ……。 えっと、まふゆちゃんの様子……どうだった?』
絵名:ん? んー、相変わらずよくわかんないけど……。 まあ、いつもどおりなんじゃない?
レン:『そっか……。よかった』
絵名:さて、と……。 まふゆが上がってくるまで、 課題のアイディアだけでも考えておこうかな……
レン:『課題……?』
絵名:絵の課題をどうするか考えてるの。 ちょっと難しくてさ
レン:『絵……』
レン:『絵名ちゃんが描いた絵、見たいな……』
レン:『あ、ご、ごめんなさい。 課題……やるんだよね……』
絵名:まあ、まだアイディア浮かんでないし、 ちょっとくらいならいいよ
絵名:んー、大したもの描いてないけど……。 あ、スケブに描いてあるのなら見せられるかも
絵名:えっと……写生で描いた花壇の花でしょ。 こっちは、子供の頃見たオオカミを思い出して描いたやつ。 これは、ニーゴのラフで悩んだ時にいろいろ描いたのかな
レン:『わ……いっぱいある……! 絵名ちゃん、上手だね』
絵名:え? それほどでもないけど……
レン:『他にはどんなのがあるの? もっと見たいな……』
絵名:じゃあ、そうだな……
絵名:これは友達を描いた絵。今はアイドルをやってるんだけど、 すっごく明るくて可愛い、いい子なんだよね
絵名:あ、奏達を描いたやつもあったな
レン:『わ……。ミクもいる……! とっても優しい顔してるね』
レン:『絵名ちゃん、ありがとう。どれもすごく上手だけど、 みんなを描いた絵が一番素敵だね……』
絵名:ふふ、ありがと
絵名:そうだ、よかったらレンも描いてあげよっか
レン:『え? ぼ、ぼくは……ちょっと恥ずかしいな。 描かれてるって思うと、ソワソワしちゃいそうだし……』
レン:『あ、まふゆちゃんは……?』
絵名:え、まふゆ?
レン:『う、うん。まふゆちゃんは落ち着いてるし…… ぼくよりも、描きやすいんじゃないかなって』
絵名:たしかに、ソワソワはしなさそうだけど
絵名:でも、まふゆをモデルに、か……
まふゆ:——絵名、お風呂あいたよ
まふゆ:……? どうしたの
絵名:んー……。ま、絵の練習にはなるかもね
絵名:まふゆ、今からデッサンさせてよ
まふゆ:え……どうして?
レン:『あ、ぼくが描いてほしいってお願いしたんだ。 えっと……絵名ちゃんが描いたまふゆちゃんが見たくて』
まふゆ:私を……?
レン:『うん。駄目、かな……?』
まふゆ:…………
まふゆ:…………いいけど
絵名:じゃ、決まりね。 私もお風呂入ってくるから、上がったらすぐにやろ
まふゆ:……うん、わかった

第 6 话:わからない、本心

数十分後
絵名の部屋
レン:『わあ……。こうやって描いてくんだね。 すごいなあ……』
まふゆ:……絵名、私はどんな顔をすればいいの?
絵名:別にいつもと同じでいいよ
まふゆ:わかった
絵名:(まさか、本当にまふゆをモデルに描くことになるなんてね。 それにしても……)
絵名:(ほんと、表情ないな……。石膏像描いてるみたい)
レン:『……絵名ちゃん、本当に絵が上手……』
レン:『こんなにうまいのに、まだ頑張ってるなんて すごいなあ……』
絵名:すごくなんてないけどね
絵名:私はただ、もっとうまくなりたいだけ
絵名:まあ、描いても描いてもボロボロに言われるし 悩むことばっかで、毎日キツいけど
レン:『絵名ちゃん……』
絵名:でも、これが私のやりたいことだし、 自分で決めたことだから
絵名:誰になんて言われてもやめるつもりはないし、 やり続けるつもり
まふゆ:…………
絵名:まあ、やりたいことやってるせいで、 お母さんには心配かけてるかもしれないけどさ
絵名:こうやって絵を描いてる自分が、 一番自分らしいって思うんだ
まふゆ:……自分、らしい……
絵名:そう。だからあんたも、ちゃんと言ってみたら? 自分がやりたいこと
絵名:シンセのことだって——
まふゆ:……私も、やりたいって言った
絵名:え……
まふゆ:勉強もやらなきゃいけないけど、 音楽も……やりたいって
絵名:え、そうだったの!?
絵名:(まふゆ……ちゃんと言ってたんだ……)
まふゆ:お母さんも……やりたいことをしなさいって、言ってくれた
絵名:本当? じゃあ——
まふゆ:でも——後悔しないように、って……
絵名:——え?
まふゆ:将来、後悔しないように考えたほうがいいって ……言われたの
絵名:……は? 何それ。 音楽続けたら後悔するってこと?
まふゆ:……そういうことじゃないと思う、けど……
まふゆ:きっと、お母さんは……私の将来を心配してるんだと、思う
まふゆ:医者になればたくさんの人を助けられる。 それに、経済的にも困ることはないし……
絵名:それは……たしかにそうかもしれないけど……
まふゆ:今、勉強を疎かにして受験に失敗したら 大変なことになるって……お母さんはわかってるから
まふゆ:だから——
まふゆ:だから……私は……
まふゆ:…………音楽を、やめるって、言った
絵名:…………!
絵名:は!? あんた、そんなこと言ったの!?
まふゆ:……うん
絵名:本当に——それでいいと思ってんの? あんた自身、納得してるの?
まふゆ:…………
まふゆ:——今は我慢して、受験勉強をして…… 大学生になれば、また……音楽ができるかもしれない
まふゆ:……だから……今は……
絵名:でも……あんた、結局私達と一緒にやってるじゃない
まふゆ:……どうしてなのか、自分でもわからない
まふゆ:……前、絵名に『本当にお母さんが正しいと 思ってるなら、セカイに来てない』って言われて……
まふゆ:たしかに、そうだと思った
まふゆ:……どうして私は、お母さんがいいって言ってることと 逆のことをしてるんだろうって——思ったの
絵名:……だからそれは、あんたが“そうしたい”って 思ってるからでしょ?
絵名:音楽をやりたい、セカイに行きたい。その気持ちは、 親に何言われても譲りたくないって思ってるから ニーゴの活動をするんでしょ?
絵名:それは当たり前のことじゃない
まふゆ:当たり前……?
絵名:そう
絵名:私は——描きたいから描く。 その先に私の幸せがあるって、信じたいから
絵名:……あんただって、親が決めた幸せじゃなくて 自分自身の幸せがあるって、どっかで思ってるんじゃないの?
まふゆ:……私自身の……
まふゆ:でも、私は——
レン:『まふゆ、ちゃん……』
絵名:(……わかんないな……)
絵名:(親が大事なのはわかるけど……。 どうして、自分がやりたいことに向き合えないんだろ)
絵名:(話を聞いてても、まふゆ自身にはちゃんと やりたいことがあるってわかるのに)
絵名:(……でも、もし私がまふゆと同じ立場だったら ——違ってたのかな)
絵名:(普段から『あなたのために』って言われて、 親の考えを押し付けられてたら——)
絵名:(私も、まふゆみたいに……なってたのかな)
絵名:——まふゆは、どうしたいの? 親のこととか関係なく
まふゆ:…………わからない
まふゆ:……でも、みんなと一緒に……曲を作りたい
絵名:……まふゆ……
絵名:……そっか
絵名:——じゃあ、私も手伝う。 ニーゴの仲間として
絵名:まあでも、あんたは自分らしくやれって言っても 『はいやります』って感じにはならないだろうし
絵名:……まずは練習として、今日くらいは 思いっきりやりたいことやれば?
まふゆ:え……
絵名:あっ、てかもう25時じゃん! 絵描いてて忘れてた……。作業しなきゃ!
まふゆ:作業……?
絵名:ニーゴの! あんたもやるでしょ?
まふゆ:……して、いいの?
絵名:は? 当然じゃない。 奏は曲仕上げてきてるだろうし、 まふゆの歌詞がないと、私も瑞希も困るんだからね
絵名:ナイトコード、つなげるよ
まふゆ:…………うん

第 7 话:隣で見えた光

25時
絵名の部屋
瑞希:『えっ! なんで、えななんのところに雪がいるの!?』
絵名:まあ、なんていうか……
まふゆ:……帰り道に休んでたら、雨が降ってきて…… えななんが“家に来い”って言ってくれたの
まふゆ:でも、お母さんから電話がかかってきて、 帰ってきなさいって……
まふゆ:そうしたら、えななんが電話をかわって、 家に泊めさせてほしいって、お母さんに言ってくれた
瑞希:『えっ、えななんが!?』
絵名:しょうがないでしょ。 あの時の雪、見てられなかったんだから
レン:『あ、あのね。絵名ちゃん、すっごくかっこよかったんだよ』
奏:『え?』
レン:『まふゆちゃんが“帰る”って話してる時に、 バッてスマホを取って……。まふゆちゃんのお母さんと 堂々と話してたんだ』
瑞希:『へえ……そうだったんだ。 えななん、すごいじゃん!』
絵名:別に、大したことじゃないってば。 ほっとけなかっただけだし
瑞希:『ねえねえ、雪! えななんの家はどんな感じなの?』
絵名:ちょっと、何聞き出そうとしてんの?
まふゆ:えななんの家……
まふゆ:えななんの部屋は散らかってる
絵名:は!? 十分綺麗でしょ!
まふゆ:綺麗……? 服とか、画材があちこちに転がってるけど
瑞希:『あははは! なんか想像できるな~』
奏:『……でも、きっとわたしの部屋よりも 片づいてると思う』
まふゆ:うん。Kも、もう少し片づけたほうがいいと思う
奏:『そ、そうだよね……』
瑞希:『それでそれで? 他には?』
まふゆ:…………
まふゆ:私の家とは、なんだか違った。 何が違うのかは、はっきりわからないけど……
瑞希:『まあ、たしかに違いそうだよね~。 すっごい賑やかそうっていうか』
奏:『えななんのお母さんも、 なんとなく元気そうなイメージがあるね』
瑞希:『わかるわかる! あ、弟くんには会った?』
まふゆ:……うん、えななんがにんじんを押し付けて ケンカしてた
絵名:ちょっと、そんなこと言わなくてもいいでしょ!?
瑞希:『あはは! 相変わらずだな~』
絵名:あいつだってにんじん嫌いなくせに、 好き嫌いするなとかうるさいんだもん
瑞希:『あー、すっごく想像つく! いいな~ボクもその場にいたかったー』
絵名:Amiaは絶対煽ってくるから駄目
奏:『ふふっ……』
まふゆ:……そろそろ、作業始める?
瑞希:『あはは、そうだね! ついいろいろ聞いちゃったな~♪』
奏:『あ……この前聴いてもらったデモ、 詰めてきたから共有するね。何かあったら言ってほしい』
絵名:ありがと、K。 早速聴いてみるね
まふゆ:…………
まふゆ:……この音なら……
瑞希:『え、もしかしてもう書いてるの? 早くない?』
まふゆ:うん、ある程度イメージはできてたから
絵名:へえ、どんな感じにするの?
まふゆ:どんな、感じ……
まふゆ:……うまく口には出せない。 だから、書いてみる
絵名:ふうん……。 ちょっと書いたら見せてよ。 絵のラフにも影響ありそうだし
まふゆ:別にいいけど……。 えななんはどんな絵を描こうと思ってるの
絵名:んー……。今回はイントロが重いけど、 ラストに向かって光が見える感じがするから もがきながら這い上がるイメージにしよっかなって
まふゆ:…………
絵名:だから、サビあたりはこういう絵にするつもり
絵名:どう?
まふゆ:……何がどうなってるのかわからない
絵名:今、簡単に描いただけだから!! これが人で、上に向かってもがいてる感じ
まふゆ:…………
まふゆ:……光が見える感じがあるのはわかるけど、 這い上がるよりは、解放されるほうがイメージに合ってる
絵名:解放される……?
まふゆ:うん、足が重くて動けないけど 最後は軽くなるようなイメージ
絵名:それって、解放されたあとはどうなるの?
まふゆ:…………わからない
まふゆ:わからない、けど……。 自由になったのなら、自分の足で歩いていく気がする
絵名:自分の足で、ね……
絵名:……じゃあ、こういうのは? ツタとかが巻き付いてる感じにするの
まふゆ:…………ツタ? 紐に見えるけど
絵名:だから、ラフだからだってば! あとでちゃんと清書するから、今は心の目で見て!
奏:『……なんだか、いつもよりも楽しそうだね』
瑞希:『だね! 仲良くなってるって感じ! お泊り効果かな?』
絵名:はあ? いつもと変わんないでしょ
レン:『ぼくも……まふゆちゃん、いつもより 楽しそうだなって思う』
レン:『きっと、絵名ちゃんのおかげだね』
絵名:私は別に何もしてないけど……
絵名:(……楽しそう、か)
絵名:(……あ、すっごく真剣に書いてる)
絵名:(……まあ、たしかに夢中でやってるって感じはするかな。 さっきは、あんなにお母さんのことで悩んでたのに)
まふゆ:……軽くだけど1サビ後まで書いてみた。 見てみてくれる?
奏:『うん、わかった。データ送って』
瑞希:『へ~、こうなったんだ! いいじゃん、もう1回曲のほう聴いてみよっと♪』
絵名:なるほどね、解放されるってこういうイメージか
絵名:……ちょっとわかったかも。 私もラフ直してみる
まふゆ:……じゃあ、私は続きを書くね
奏:『ふたりともありがとう。よろしく』
まふゆ:……うん
絵名:(ほんと、すごい集中して書いてるな……)
絵名:(あの歌詞も、奏の曲を聴いて 自分で感じ取ったイメージをちゃんと表現しようとしてる)
絵名:…………
絵名:(——音楽をやりたいって親に言ったって聞いたけど、 あんだけ親に何も言えないまふゆが『やりたい』って言うなんて、 相当勇気出したんだろうな)
まふゆ:……どうしたの?
絵名:別に。あんたにとって、 曲作りって大事なんだなって思っただけ
まふゆ:……大事……
まふゆ:…………
まふゆ:わからない、けど……
まふゆ:今は、みんなと曲を作りたい、と思う
絵名:え……今の、顔……
瑞希:『えななん、どうしたの?』
絵名:なんでもない。なんでもない、けど……
絵名:ああもう、スケブどこやったっけ……
まふゆ:……スケッチブックなら、カバンのところにあったけど
絵名:あ、ありがと!
まふゆ:何かするの?
絵名:あーうん。でもあんたはそのまま作業してていいから
まふゆ:……? わかった
絵名:(今の顔……。 さっきの石膏像みたいな顔とは全然違った)
絵名:(まふゆの想い——意志が、ちょっとだけ見えた気がする)
絵名:(やりたいことを真剣にやろうっていう、そんな表情)
絵名:(……まふゆって、こういう顔するんだ。 何をしてもつまんなそうにしてると思ってたのに)
絵名:(やっぱり——さっきの…… “みんなと曲を作りたい”っていうのが関係してるのかな)
絵名:(誰に言われたからじゃない。 まふゆ自身がやりたいって思ったことだから……)
絵名:(だったら——)
絵名:……できた
瑞希:『え、できたって何が? もしかしてラフ!?』
絵名:違う違う、まふゆを描いてたの
まふゆ:え……?
絵名:ほら、見てみて
レン:『わあ……!』
レン:『まふゆちゃんの顔、すっごくかっこいいね……!』
まふゆ:…………
絵名:どう? まふゆ
まふゆ:……絵名には、私がこう見えるんだね
まふゆ:なんだか……変な感じがする
まふゆ:でも——どうしてこう見えるの?
絵名:え?
まふゆ:どうして絵名には、私がこんな風に見えたの?
絵名:どうしてって……。 まふゆの意志が、ちょっと見えた気がするっていうか……
まふゆ:意志って何? どういうこと?
絵名:いや、だから……やりたいことをやろうって気持ち!
絵名:ていうか、合ってるかわかんないんだからね! 私がそう見えたってだけで!
まふゆ:……そうなんだ……
絵名:ほら、もういいから作業続けよ!

第 8 话:私が表現したいもの

翌朝
絵名の部屋
レン:『すう……すう……』
絵名:あ……もう朝じゃん。 どうりで眠いと思った……
まふゆ:……本当だ。 カーテン開けてくる
絵名:あ、ちょっ……! まぶしいからいいってば!
まふゆ:日光を浴びたほうが、目が覚めるよ
レン:『ん……。もう、朝……?』
絵名:あーもう、レンも起きちゃったでしょ。 せっかく気持ちよさそうに寝てたのに
瑞希:『おはよー、レン!』
レン:『ん、おはよ……』
瑞希:『でも、今日はなんか楽しかったよね。 作業もすっごく捗っちゃった!』
奏:『わたしも……。 雪が楽しそうで、嬉しかった』
瑞希:『雪、最近忙しくて あんまりログインできてなかったしね』
瑞希:『やっぱり、朝まで一緒にやれると嬉しいな~!』
まふゆ:…………
まふゆ:私も、こんな時間まで作業できたの……久しぶりだった
まふゆ:きっと——家だと、こんなに打ち込めなかったと思う。 だから……ありがとう、えななん
絵名:へっ? あー、うん。 まあ、ちょっとひと息つけたならよかったんじゃない?
瑞希:『じゃ、そろそろボクは寝よっかな~。 作業もキリがいいとこまでいったし』
奏:『わたしも、少し仮眠してから最終調整をしようと思う』
絵名:ん、わかった。 みんな、おやすみー
瑞希・奏:『おやすみ~!』 『おやすみ』
絵名:——よし。じゃあ、私も少しだけ課題やろっかな
まふゆ:……課題?
絵名:うん、絵の課題。 今なら、ちょっとだけ描けそうな気がするの
絵名:あんたのおかげでね
まふゆ:……? 私は何もしてないけど
絵名:まあ、わかんなくてもいいから。 とにかく、ありがと
まふゆ:……うん
レン:『頑張ってね、絵名ちゃん』
まふゆ:じゃあ、私は帰る。 今日は昼から予備校があるから、 早く帰って支度しないといけないし
絵名:え、ほんと? 少し寝たほうがいいんじゃない?
まふゆ:……もう大丈夫
絵名:……そっか
レン:『じゃあ、ぼくもそろそろ帰ろうかな……』
レン:『絵名ちゃん、まふゆちゃん、頑張ってね』
まふゆ:うん。……レン、ありがとう
絵名:おやすみ
絵名:レンも、安心したみたいでよかった
絵名:昨日はまふゆを描いた絵にも喜んでくれたし—— あ、そうだ
絵名:……はい、これ。お礼にあげる。 さっき描いたあんたの顔、すごくよかったから
まふゆ:あ……
まふゆ:……うん、ありがとう
まふゆ:じゃあ、また。 ——ナイトコードで
絵名:さて、と……やろうかな
絵名:(——今まで、自分が『孵化』ってテーマで 表現したいことはなんなのか、わからなかった)
絵名:(でも、今なら……わかる気がする)
絵名:そう……。だからあんたも、ちゃんと言ってみたら? 自分がやりたいこと
絵名:シンセのことだって——
まふゆ:……私も、やりたいって言った
絵名:え……
まふゆ:勉強もやらなきゃいけないけど、 音楽も……やりたいって
まふゆ:今、勉強を疎かにして受験に失敗したら 大変なことになるって……お母さんはわかってるから
まふゆ:だから——
まふゆ:だから……私は……
絵名:別に。あんたにとって、 曲作りって大事なんだなって思っただけ
まふゆ:……大事……
まふゆ:…………
まふゆ:わからない、けど……
まふゆ:今は、みんなと曲を作りたい、と思う
絵名:(今はまだ——殻に閉じ込められて、 手も足も出ないのかもしれない)
絵名:(でも……)
絵名:(いつか……いつか、あんたの力で、それを破ってほしい)
絵名:(自分の意志を表現して、貫いて—— まふゆが、広い世界に孵化できるように)
絵名:(それで……)
絵名:——もっと自由に、まふゆらしく過ごせるといいな
後日
絵画教室
雪平:——なるほど。 これが東雲さんの伝えたい“孵化”ですか
絵名:……はい。どう、でしょうか
雪平:……、そうですね
雪平:まず、背景の塗りかたが甘いですね。 夜から朝に移り変わる空を印象的に描きたい という意図は感じ取れますが、色が混ざり合いムラに見えます
雪平:人物は体のバランス、関節部分のつながりが描けていません。 動きが硬く見えてしまい、何をしているポーズなのかが 伝わってきません
絵名:…………はい
雪平:しかし、瞳はよく描けています。 空を睨む力強さから、『殻を破り、羽ばたいていきたい』 とする意志——
雪平:そして、そう願う描き手の想いも感じ取れました
絵名:…………!
絵名:あ、ありがとうございます
絵名:(伝わった……! 私の伝えたかったこと、 何も言ってないのに……)
雪平:今回の課題は、時間内に描けていれば及第点だったでしょう。 東雲さん、お疲れさまでした
雪平:次回は、先程話した課題点をクリアできるよう 頑張ってください
絵名:あ、はい……! 先生、ありがとうございました!
絵名:(よかった……。 一番表現したいことを、伝えられて……)
絵名:(それに——まふゆのおかげで、知れたこともあったし。 あいつは全然意識してないだろうけど)
絵名:(……でも、まだ周りに比べたら全然駄目だ。 次に向けて練習しなきゃ)
絵名:(いつか、もっとうまくなって—— 奏達の曲をちゃんと表現できるように)