活动剧情

弓引け、白の世界で

活动ID:80

第 1 话:いつか見た顔

宮益坂女子学園 弓道場
雫:——あと10秒。 みんな、もう少しよ。頑張って!
弓道部1年生部員A:う~……55、56、57……! プランクきつい~!
弓道部1年生部員B:腹筋が……もう……!
雫:……60! はい、おしまいよ
弓道部1年生部員A:はー! 死ぬかと思った!
雫:ふふ、お疲れさま
雫:でもみんなすごいわ。 入部したての頃よりずいぶん長くできるようになってるもの。 頑張っている証拠ね
雫:みんなならきっと、次の大会もいい成績を残せると思うわ。 少し先になるけれど、気を引き締めて頑張りましょうね
弓道部1年生部員A・B:『……! 日野森先輩……!』
雫:じゃあ筋トレも終わったから、次は的の準備を——
弓道部1年生部員A:あ、的立てなら私達がやります! 日野森先輩は休んでいてください!
弓道部1年生部員A:やった~! 日野森先輩に褒められちゃった!
弓道部1年生部員B:ていうか日野森先輩、プランク全然余裕だったね! さっすがアイドル!
まふゆ:お疲れさま、日野森さん
雫:あ、朝比奈さん。お疲れさま
まふゆ:今日は1年生の筋トレ、見てくれてありがとう
まふゆ:新人大会が終わってからちょっと気が緩みそうになってたけど、 日野森さんが来てくれたおかげで、 みんな気が引き締まったみたい
雫:そんな、大したことはしていないわ
雫:私はMORE MORE JUMP!の活動で あまり練習に来れてないし……。 たまには、これぐらいやらないと
まふゆ:ふふ、日野森さんは真面目だな
弓道部1年生部員A:日野森先輩! 準備できましたー!
まふゆ:あ、呼ばれてるよ
雫:ええ、それじゃあ行ってくるわね。 朝比奈さんも、個人戦の練習頑張ってね!
まふゆ:うん。ありがとう
数時間後
弓道部部員達:お疲れさまでした! 失礼します!
まふゆ:うん、お疲れさま
まふゆ:……これで全員帰ったかな?
雫:更衣室のほうには誰もいなかったわ
まふゆ:そっか。それじゃ道場を閉めても大丈夫そうだね
雫:じゃあ、鍵は私が職員室に持っていくわ。 今日は私が当番だから
まふゆ:ありがとう。あ……でも私も一緒に行くよ。 教室のほうに少し用事があるから
雫:本当? ふふ、それじゃあ一緒に行きましょうか
雫:少し見ないうちに、 1年生のみんなも堂々と引けるようになったわね
まふゆ:うん。やっぱりこの前の新人大会が大きかったのかな
まふゆ:公式戦に出ると、やっぱり意識がずいぶん変わるみたい
雫:そうね……
雫:(……私も1年生の頃は、新人大会のあたりで いろいろなアドバイスをもらったから、 自信をつけていくことができたものね)
雫:(あの頃は、本当にいろんなことがあって——)
まふゆ:あ——3年生の先輩達だ
雫:え?
まふゆ:ほら、あっちの自習室で勉強してる
雫:本当だわ。 ……とても真剣ね
まふゆ:部活も引退して、受験も近づいてるもんね。 委員会で3年生の廊下をとおる時も、 ピリっとした雰囲気があるっていうか……
まふゆ:……私達も3年生になったら、 部活を辞めて勉強しないといけないんだろうね
雫:……そうね。 当たり前だけれど……いつかは辞めることになるのよね
雫:そう考えると、少し寂しいわ
まふゆ:うん。なんだかんだ1年からずっとやってきたしね
雫:でも……将来のことを考えると、しょうがないのよね。 自分の進路をきちんと決めないといけない時期だし
雫:あ……将来っていえば、 もしかして朝比奈さんは医大を志望しているの?
まふゆ:え? どうしてそれを……
雫:ふふ、1年生の子達が話してたの。 朝比奈さんが医大の参考書買ってるところを見たって
まふゆ:そうだったんだ。 なんだか恥ずかしいな
雫:そんなことないわ。 お医者さんなんて、優しい朝比奈さんにぴったりよ
雫:頑張ってね、朝比奈さん
まふゆ:…………
まふゆの母:じゃあ——頑張ってね、まふゆ
まふゆ:…………うん、そうだね
まふゆ:——頑張らないとね
雫:え……?
まふゆ:……? どうしたの、日野森さん
雫:あ……ええと……。 今少し、朝比奈さんがいつもと違うように見えて……
まふゆ:ふふ、きっと受験のこと考えたからだろうね。 勉強ばっかりやらなくちゃいけないなって思ったし
雫:あ……そうだったのね
雫:(……でもさっきの朝比奈さんは、 いつもと少し雰囲気が違ったような……)
雫:(それに、あの表情……)
雫:(前にもどこかで見たことが——)
雫:(あ……あの時の……)
まふゆ:——そういえば、日野森さんは1年生の頃、 姿勢をよくするために弓道を始めたって言ってたよね
雫:え? あ……そうね。 入部体験の時、そんな話をしたわね
まふゆ:うん。もう十分姿勢がいいのにそう言ってたから、 さすがプロのアイドルはストイックだなって思ったよ
雫:そんな……。 あの頃はアイドルになりたてで、必死だっただけよ
雫:……それより、朝比奈さんさっき……
教師:あら? ふたりとも、どうしたの? そろそろ下校時刻ですよ
まふゆ:あ、先生。 弓道場の鍵を返しに職員室に行こうと思って……
教師:ああ、それならちょうど戻るところだから、 代わりに返しておきましょうか
まふゆ:本当ですか? ありがとうございます
雫:あ…………
雫の部屋
雫:(……やっぱり、朝比奈さんのあの顔は……)
志歩:——お姉ちゃん
雫:ひゃっ!
志歩:え!? ちょっと、大丈夫?
雫:し、しぃちゃんだったのね……。 ごめんなさい、少し驚いちゃって……どうしたの?
志歩:少し驚いたって感じじゃないけど……ま、いいか。 次、お風呂お姉ちゃんの番だよ
雫:あ……そうなのね。 ありがとう、しぃちゃん
雫:でも……今は少し考えたいことがあるから、 私は最後にしてもらってもいいかしら?
志歩:…………。 お姉ちゃん、本当に大丈夫?
雫:ありがとう、しぃちゃん。でも大丈夫よ。 ちょっとだけ気になってることがあるだけだから
志歩:気になってること?
雫:ええ。でも、ちゃんと言葉にできなくて……
雫:だから、ちょっと整理をしようと思って、 いろいろ考えていたの
志歩:……ちゃんと言葉に……か。 なるほどね
志歩:そういうことなら、母さんに お風呂は先に入っといてって言っておくよ
志歩:——頑張ってね、お姉ちゃん
雫:……ええ! ありがとう、しぃちゃん
雫:(…………今日のあの、朝比奈さんの顔)
雫:(やっぱり……あの時に似ていたわ)
雫:(あの時も朝比奈さんは、 何か悩んでいるように見えたのよね)
雫:(ならもしかすると、今の朝比奈さんも、 何か悩んで…………)
雫:……なんて、ただの私の勘違いかもしれないけれど……
雫:どうしたらいいのかしら……
???:『——ちゃん!』
雫:あら? 何か今、聞こえたような……
KAITO:『雫ちゃん! こんばんは!』
ミク:『こんばんは! 遅くにごめんね!』
雫:カイトさんとミクちゃん? こんな時間にどうしたの?
KAITO:『実は、少し雫ちゃんにアドバイスをもらいたいことがあって、 こっちに来たんだ』
雫:アドバイス?
ミク:『うん! 実は次やるライブの衣装を ちょっとアレンジしようと思ってるの』
ミク:『いつも衣装室にある衣装でやってるんだけど、 今回はちょっとだけ違う感じにしたいんだ』
ミク:『それで、前に雫ちゃん達がやってたみたいに、 それぞれアレンジの方法を考えて、 持ち寄ることにしたんだけど……』
KAITO:『僕、こういうアレンジをどうするかって 考えるのは得意じゃなくて』
ミク:『そうなんだよね。 実はわたしも悩んじゃって』
ミク:『だからふたりで、デザインの得意な雫ちゃんに 話を聞こうって思ったの』
雫:そうだったのね。 得意っていうわけじゃないけれど…… そういうことなら、協力させてもらうわ
KAITO:『ありがとう雫ちゃん!』
KAITO:『できればこの季節に合うような、 あたたかみのある感じにしたいんだけど……』
雫:あたたかみ……。 それなら、袖にはあたたかそうなモコモコの素材を 使ってみるのはどうですか?
雫:それで、雪の結晶のモチーフを入れてみるの。 そうしたら冬らしくて綺麗な印象になりそうだわ
KAITO:『なるほど……! たしかに合いそうだね!』
雫:ライブの演出も衣装にあわせて、 雪かごを使って雪を降らせたりしたら——
雫:(あ……。雪……)
ミク:『雫ちゃん……?』
雫:ご、ごめんなさい! 今少し、別のことを考えてしまって……
KAITO:『別のこと? もしかして……何か悩みごとでもあるのかい?』
雫:あ、ええと……
雫:……少し、部活の友達のことで、思い出したことがあったんです
雫:本当に個人的なことなんですけど……
KAITO:『もし、誰かに話したほうがスッキリするなら、 僕はいつでも聞くよ』
雫:カイトさん……。ふふ、ありがとうございます
雫:それじゃあ少し——聞いてもらおうかしら

第 2 话:完璧になりたくて

数年前
番組のスタジオ
アナウンサー:本当にお人形さんみたいですね! 顔もちっちゃいし、手足も長いし……うらやましいな~!
雫:ふふ、ありがとうございます
アナウンサー:うわ~! もう笑うだけでオーラがありますね! 完璧な美少女!って感じが……
先輩メンバー:ですよね! まぶしすぎて私達も日傘必須って感じなんです!
雫:(大丈夫……ここまでは台本どおりにできてるわ)
雫:(この生放送もあと少しで終わるから、 最後まで気を抜かないようにしなくっちゃ)
司会:では最後に、新センターとしてのこれからの抱負を うかがってもいいですか?
雫:はい。 私はセンターとして——
雫:……、センターとして……
雫:(……嘘。 何度も読んだのに、急に思い出せなくなるなんて……!)
司会:日野森さん?
雫:あ……その……
先輩メンバー:……もー、雫ちゃんったら、 気合いが入りすぎて難しい顔になってるよ?
先輩メンバー:でも……それくらい力が入ってるってことかな? それならきっと、チアデも盛り上がりそうだよね
雫:(……! 先輩……!)
雫:……はい——
雫:これから私はセンターとして、自分に持てる力をすべて出して、 Cheerful*Daysを盛り上げていこうと思います
雫:だから——これからも、応援よろしくお願いします
司会:なるほど、今後のCheerful*Daysにも期待ですね! 本日はありがとうございました!
Cheerful*Daysシアター 控え室
マネージャー:みんなお疲れさま! よかったわよ
マネージャー:……雫、今日は最後危なかったわね。 ファンのみんなは、完璧な雫を求めてるんだから 次はちゃんと気をつけなさい
雫:は、はい……!
雫:……はぁ
雫:(台本どおりにやるだけなのに、 どうしてちゃんとできないのかしら……)
雫:(もっとしっかり、『完璧な日野森雫』をやりきらないと——)
???:『みんなの声に応えて、ハッピーエブリデイ参上よーっ!』
雫:あ、この声は——
テレビに映っている愛莉:『って、なんなのよこの落とし穴はー! 呼んでおいて穴に落とすんじゃないわよっ!!』
雫:愛莉ちゃん……
雫:(愛莉ちゃん、すごいなぁ。 最近じゃ、週に1回はテレビで見るようになったし……)
雫:私も落ち込んでばっかりいないで、 愛莉ちゃんみたいに、もっと頑張らなくっちゃ……!
先輩メンバー:お疲れ、雫ちゃん!
雫:先輩……! お疲れさまです。 それから、フォローありがとうございます!
先輩メンバー:あはは、気にしないで。 メンバー全員が輝けるほうがいいしね
先輩メンバー:ま、私ももうすぐ卒業するから、 雫ちゃんに頑張ってほしくて……っていうのもあるかな~?
雫:が、頑張ります!
先輩メンバー:ふふ、雫ちゃんは真面目すぎるくらいなんだから、 もっと肩の力を抜いたらちょうどいいと思うよ
雫:は、はい……!
先輩メンバー:ところで——雫ちゃんはもうすぐ高校に入るんだよね。 宮女だっけ?
雫:はい。勉強も頑張りたいって伝えたら、 それなら宮女がいいってマネージャーさんにすすめてもらって
先輩メンバー:うんうん! 宮女は学校の雰囲気もいいって聞くしね!
先輩メンバー:アイドル活動と学業の両立は大変だけど、 勉強したことはきっと力になると思うから、頑張ってね
雫:はい!
先輩メンバー:あ……せっかくなら部活も入ってみたら? 青春できるんだしさ!
雫:部活……ですか。 そういえば先輩は、なんの部活に入っていたんですか?
先輩メンバー:私は弓道部だよ! 3年間続けたら、ずいぶん姿勢がよくなったな
雫:弓道……
先輩メンバー:うん。でも、他にも楽しい部活はたくさんあると思うから、 雫ちゃんに合ったものを選ぶといいと思うよ
雫:……そうですね。 いろいろ体験してみようと思います
入学式当日
宮益坂女子学園
雫:……はぁ。 ちゃんと校門まで辿り着けてよかったわ
雫:ええと、私のクラスはどこかしら。 たしか掲示板に書かれてるって……
新入生達:え!? あれって日野森雫ちゃんじゃない!?
新入生達:うちの高校なの!? うわー、超美人……!
雫:あ……
雫:(……そうよね。ここにも応援してくれる人はいるのよね。 気を緩めないで、頑張らなくっちゃ)
???:雫~!!
雫:え? あ……!!
雫:愛莉ちゃん! 一緒の学校って聞いてたけど……まさかもう会えるなんて!
愛莉:しかも、まさかまさかの同じクラスよ! これって奇跡じゃない?
雫:そうね! すごいわ!
愛莉:ま、単位制クラスは少ないから 一緒になる確率は高いと思ったけどね
愛莉:これから1年間よろしくね、雫!
雫:……! 愛莉ちゃんと一緒なんて……! 嬉しいわ!
愛莉:もう、ちょっと喜びすぎじゃない? そんな大型犬みたいにはしゃがなくっても……
愛莉:……あ、とか話してたら予鈴のチャイムだわ! 行きましょ!
雫:うんっ!
教師:——さて、本日はこれで下校になりますが……
教師:明日から部活見学も始まります。 皆さんも、気になる部活を見に行ってみてくださいね
雫:(あ……。 もう明日から部活の見学ができるのね)
雫:(ふふ、楽しみだわ)
生徒:起立! 礼!
愛莉:——雫! 最近忙しそうだけど、部活は入るの?
雫:うん。お仕事もあるけど、せっかくだから 迷惑のかからない範囲で頑張ってみようと思ってるの。 愛莉ちゃんは?
愛莉:わたしは仕事があるから入るのは難しいけど、 茶道部を見学するつもりよ
愛莉:雫は? どこか決めてるの?
雫:入るかはわからないけれど……、 弓道部を覗いてみるつもりだよ
愛莉:へえ、弓道! かっこいいじゃない!
愛莉:最優先はやっぱりアイドル活動だけど、 女子高生としても満喫したいものね。 お互いがんばりましょ!
雫:ふふ、そうだね。アイドルとしても学生としても、 これからいっぱい楽しもうね、愛莉ちゃん!
翌日
宮益坂女子学園 弓道場
雫:……弓道着って、こうなっているのね
雫:体験入部なのに弓道着まで着させてもらえるなんて……。 ふふ、嬉しいわ
弓道部部長:体験入部の皆さん! 全員道着は着れましたか?
雫・1年生達:『はい!』
弓道部部長:まずは、自己紹介から始めましょうか! ——私は部長の林です! よろしくお願いします!
弓道部部長:じゃあみんなにも自己紹介してもらおうかな。 あ、どうして弓道部に興味を持ったのかも 教えてもらえたら嬉しいな
弓道部部長:じゃあ……あなたから!
雫:あ……は、はい!
1年生達:……わ! 何あの子、めちゃめちゃ美人じゃない!?
2年生達:っていうか、もしかしてあれってチアデの……!?
雫:あ……えっと……
雫:1年D組の、日野森雫です
雫:弓道部に興味を持ったきっかけは……その……。 経験者のかたから、姿勢をよくするのに向いていると聞いて……
雫:(どこまで話すべきかしら……。 アイドル活動であまり出られないって言ったら水を差しそうだし、 入部を決めてから言ったほうがいいのかしら……)
雫:その……
雫:きょ、今日はよろしくお願いします
弓道部部長:うん! よろしくね、日野森さん!
1年生達:……なんか、テレビで見たのと結構違うね
1年生達:ね。テレビで見た時はもっとハキハキしゃべってて、 大人っぽい感じだったのにね
雫:あ……
???:——日野森さん……だっけ
???:すごいね。頑張ってて
雫:え……? すごい?
???:うん。 今もすごく綺麗な姿勢なのに、今よりもっとよくしたいなんて、 努力家だなって思って
雫:あ……。 ありがとう……
???:ふふ、お礼なんていいよ。 思ったことを言っただけだし
雫:(……この人、私が落ち込んでるから、 気をつかってくれたのかしら)
雫:(会ったばかりなのに親切な人ね……)
弓道部部長:それじゃあ……隣の人、どうぞ!
???:——はい
雫:(あ……次はこの人の番なのね。 どうして弓道部に興味を持ったのかしら?)
まふゆ:はじめまして、1年A組の朝比奈まふゆです。 中等部からの持ち上がりになります
まふゆ:私が弓道部に興味を持ったきっかけは——
まふゆ:入学式のあとに、部長からチラシをもらったからです
弓道部部長:え?
まふゆ:チラシ配ってる姿がすごく生き生きしていて…… きっと楽しい部活なんだろうなって思ったんです
弓道部部長:そ、そうだったの!? なんだか恥ずかしいな……
2年生達:あはは! 部長、おてがらじゃないですか!
まふゆ:——未経験なのでご迷惑おかけするかもしれませんが、 今日はご指導、よろしくお願いします
雫:あ……
雫:(気づかいができるだけじゃなくて、しっかりしてて、 空気も良くすることができるなんて……)
雫:素敵な子ね……
弓道部部長:それじゃあまずは筋トレ! 弓道は体幹が命だからね
弓道部部長:プランク30秒を5セット、いくよー!
1年生達:お、お腹痛い~!
雫:(……ふぅ。 ちゃんとやりきれてよかったわ)
雫:(これ以上イメージを壊さないように、 完璧にやらなくちゃ……!)
2年生達:お、さすが日野森さんは余裕あるね。 アイドルも結構筋トレするの?
雫:はい。ダンスのレッスンの時は毎回やっています
2年生達:そうなんだね! あ……でも朝比奈さんもすごいな
雫:(あ……)
2年生達:朝比奈さん、楽勝って感じだね! もしかして中等部でも運動部だった?
まふゆ:あ、いえ。 たまに助っ人として呼ばれたことはありましたけど、普段は何も
弓道部部長:へえ! それでこんなにやれるのはすごいね
雫:(普段鍛えているわけでもないのに、 ここまでできるなんて……すごいわね……)
弓道部部長:次はこのゴム弓で射法を練習していこうか。 さっき教えた射法八節を思い出しながら、 私の真似をしてやってみてね
1年生達:う……思ったより重くて引けない……
1年生達:真似するどころか、 キープするのも難しいよ~
雫:く……!
2年生達:お、日野森さんいい感じだね! 初めてでここまで引分けができる子、なかなかいないよ!
雫:あ、ありがとうございます!
雫:(でも……弓を引いたままの状態を保つのは すごく難しいわ……)
雫:(見た目はそこまで難しそうじゃないのに、 こんなに大変だなんて……!)
雫:——きゃっ!!
2年生達:あ、ゴムが……! 大丈夫? ケガしてない?
雫:あ、は、はい……。 すみません、手が離れてしまって……
雫:(せっかくあと少しだったのに、 失敗しちゃったわ……)
弓道部部長:——わ! すごい朝比奈さん! 残心まで完璧だったよ!
雫:え?
まふゆ:本当ですか? よかった……!
まふゆ:最初は、思ったよりゴム弓を引く力が必要で、 うまく引けなかったんですけど……
まふゆ:でも先輩のお手本を見てもう一度やってみたら、 うまくできました。ありがとうございます
1年生達:朝比奈さん、すごーい! どうやってやったの?
まふゆ:ええと、先輩から聞いた感じだと、 こうやって全身を使って……
1年生達:あ、なるほど! これならできる!
雫:(……すごいわ。 少しやっただけで、できてしまって……)
雫:(そのうえ、周りの子達にも優しく教えられるなんて……)
雫:ああいう子を、完璧って言うんでしょうね……
雫:(私も、あんな風にできたら——)
弓道部部長:ねえ朝比奈さん! もし他に特別行きたい部活がないなら、 ぜひうちに来てくれない? 朝比奈さん、きっと弓道に向いてるから!
まふゆ:あ……ありがとうございます。 ええと……
まふゆ:……私も、実際にやってみたらすごく楽しかったですし、 もっとできるようになりたいなと思ったので…… 弓道部に入部しようと思います
弓道部部長:本当に!? ありがとう!!
雫:(朝比奈さんは、入部するのね……)
雫:(私は……どうしましょう)
雫:(実際やってみて、できるようになったら楽しそうって 思ったけれど——)
雫:(想像より難しかったし、 お仕事もまだきちんとできないのに始めたら、 迷惑になるかもしれないわね……)
雫:(朝比奈さんみたいにしっかりしていたら、 違うんでしょうけど……)
まふゆ:——日野森さんは、入部しないの?
雫:え? あ、私は……その……
まふゆ:弓道のことはまだそんなにわからないけど…… 日野森さんは向いてると思うな
雫:そう言ってもらえて嬉しいけれど…… でも、どうしてそう思うの?
まふゆ:立ち姿が綺麗だったし、それにとても真剣な顔で、 できるようになりたいっていう意志を感じたから
まふゆ:だから、一緒にできたら楽しそうだなって
雫:朝比奈さん……
弓道部部長:朝比奈さん! はい、これ入部届! ここにクラスと名前書いてね
弓道部部長:日野森さんは、どうする?
雫:あ、あの……!
雫:私も——入部させてください

第 3 话:この一瞬のためだけに

数カ月後
宮益坂女子学園 弓道場
雫:……!
2年生達:うわ、また皆中! 朝比奈さんもう完璧じゃん!
まふゆ:先輩がたのおかげです。 ふふ。ちゃんとあたると、こんなに嬉しいんですね
2年生達:そうなんだよね! 私達も初めてあたった時は感動したな~
雫:(……朝比奈さん、すごいわ……。 私も……!)
雫:あ、あら? どうして矢が落ちて……
弓道部部長:あ、矢こぼれしちゃったんだね。 私も初めの頃よくあったな
弓道部部長:馬手に余計な力が入ったり、 握り込みすぎちゃうと弦から外れちゃうんだよね。 少し意識して力を抜いてみて
雫:は、はい!
雫:馬手……たしか、右手のことよね。 力を抜いて……ええと……
雫:あ、ま、また……
1年生達:わ! あたった!!
1年生達:私も! 初めてあたったよ~!
雫:(あ……。 他の1年生も少しずつできるようになっているのに……)
弓道部部長:ふふ、もうすぐ新人大会もあるし焦っちゃうのもわかるけど、 最初はこうなること多いから気にしなくていいよ
弓道部部長:日野森さんはアイドルのお仕事もあるし、大変だと思うけど、 ちょっとずつ頑張っていこう!
雫:……はい……
雫:え? 事務所を変える?
愛莉:そ! まぁ……ちょっといろいろあってね。 昨日辞めてきたの
雫:ど、どうして急に……! 愛莉ちゃん、今のお仕事とっても頑張ってたのに
愛莉:……そうね。 見てくれる人達に喜んでもらえて、すごく嬉しかったけど……
愛莉:なんていうか……方向性の違いってやつがあってね。 ちょっとマネージャーや社長と揉めちゃってね
雫:え……方向性の違いって……?
愛莉:……あー、そこはそんなに心配しないで大丈夫だから!
愛莉:自分で考えて、ちゃんとやりたいことをやるためにも、 事務所を変えようって思ったのよ。 だから心配しないで
雫:……そう、なのね……
雫:……事情はわからないけど、私、応援してるね。 やっぱり、愛莉ちゃんがやりたいって思えることをやるのが 一番だと思うし
雫:別の事務所になっちゃうのは……すごく残念だけど……
愛莉:ふふ、違う事務所になったら今度はライバルね。 負けないわよ!
雫:……うん。 お互い、頑張ろうね
???:……ずくちゃん……雫ちゃん!
雫:あ、は、はいっ! なんですか?
リーダー:まだ衣装着てないの雫ちゃんだけだよ? ぼーっとしてどうしたの?
雫:あ、いえ! 大丈夫です!
リーダー:そう? ならいいけど……。 もうすぐライブ始まるから、先に行ってるね!
雫:(……本当にダメね、私……)
雫:(お仕事を頑張りながら、 部活も勉強もちゃんとやろうって決めたのに)
雫:(結局、うまくできなくて、 いろんな人に助けてもらってばかりで——)
雫:(そのうえ……愛莉ちゃんが大変なことにも気づけなくて……)
雫:……しっかりしなくちゃ……
雫:ちゃんと、ファンのみんなが求める完璧な私になれるように、 頑張らなくちゃ……
1カ月後
雫:……また外れちゃったわ
雫:(なんとか前に飛ぶようにはなったけど、 結局、的には一度も……)
雫:(これじゃ新人大会も、 何もできないまま終わってしまいそうね……)
雫:(……同じ時期に入った子達はちゃんとうまくなっているのに、 私は、全然……)
雫:(お仕事があって毎回出られないから、 差がつくのは当然だけれど……)
雫:(そのアイドルのお仕事も、 ちゃんとやりきれなくて)
雫:(頑張ってるつもりなのに何もうまくいかなくて……。 愛莉ちゃんの相談にも……)
雫:私……本当に、何をやっているのかしら……
雫:(すすめてもらったけれど…… 弓道を続けるのは、やっぱり……)
雫:(こんな状態じゃ、指導してくれる先輩達にも 迷惑をかけてしまうもの)
雫:(今度の大会が終わったら——)
???:——あれ? 日野森さん?
雫:え? あ……朝比奈さん……!
まふゆ:お疲れさま。 日野森さんも自主練?
雫:え、ええ。 朝比奈さんも……?
まふゆ:うん、大会が近づいているからちょっとでもやっておきたくて。 1カ月くらい前から朝練を始めたんだ
まふゆ:それにしても、日野森さんは偉いね。 仕事もあるのに、部活も頑張ってて
雫:そんな……偉くなんてないわ
雫:私はまだ1回も的にあてたことがないから、 せめて大会までに、あてられるようになりたくて……
まふゆ:ふふ、そういう考えかたが すごく偉いと思うよ
まふゆ:今できないことをできるようになろうって思って、 頑張ってるんだから
雫:……そう、かしら……
雫:(……たしかに、そう考えることもできるけれど……)
雫:(でも朝比奈さんだって、 こうやって誰も見ていないところで練習していて……)
雫:(私なんかより、ずっと——)
まふゆ:……日野森さん? どうしたの?
雫:あ……な、なんでもないわ。 ただ少し……
雫:……朝比奈さんは、本当にすごいと思って
まふゆ:え?
雫:朝比奈さんは、すごく弓道がうまくて、しっかりしていて……。 私も、頑張ってみてはいるんだけれど、 全然うまくできなくて
雫:そのせいで…… いろんな人に迷惑をかけてばっかりで……
雫:どうして私は……朝比奈さんみたいに しっかりできないのかしら……
まふゆ:——私はしっかりなんてしてないよ
まふゆ:だから、こうやってここに来てるの
雫:え?
まふゆ:私ね、弓道を始めてみて、気づいたんだ。 『ここに来ると心を整えることができる』って
雫:心を……整える?
まふゆ:うん
まふゆ:ここって、余計なことを考えちゃいけない場所だと思うの
まふゆ:胸の中にあるモヤモヤを全部捨てて、 一射のためだけに集中しないと、矢はあたらない
まふゆ:だから、勉強のこととか友達のこととか、 全部、一度手放して——
まふゆ:……ただ弓を引くことに集中すると、 いつの間にか、心が静かになってるんだ
まふゆ:そうやって全部手放して、心を整えることができたら…… また、前を向いて歩けるような気がするの
雫:(全部手放して、心を整えられたら……)
雫:(たしかに……そうかもしれないわ)
雫:(私は、『しっかりできない自分』ばかり見て、 落ち込んでしまったけれど)
雫:(悩んでいたことを全部思い切って手放して、 もっとシンプルに考えられたら……)
雫:(私もちゃんと、前を向けるようになるのかしら——)
まふゆ:……よかったら日野森さんも、一緒にやらない? 心の整理
雫:え……。 お邪魔しても、大丈夫なの?
まふゆ:うん、もちろん。 一緒にやろう
雫:……ありがとう、朝比奈さん
雫:じゃあ……やってみるわね
雫:(——まずは足踏みから。 正しい姿勢を作って……)
雫:(胴造り、弓構え。 打起し——)
雫:(しっかり……間違えないように……!)
雫:……っ
雫:(しっかり、やらなくちゃ……!!)
まふゆ:——大丈夫だよ、日野森さん
雫:え……
まふゆ:呼吸をして。 それだけに集中して
まふゆ:今はただ——この一射だけを考えて
雫:この、一射だけ……
雫:(——そうね。余計なことは考えちゃダメ)
雫:(しっかりやらなくちゃなんて考えなくていい。 ただ集中して、心を整えて——)
雫:(この一瞬のためだけに、 全力を振り絞ればいい……!)
雫:あ……!
雫:あ、あたった……! 朝比奈さん、私の矢が……!
まふゆ:うん……! おめでとう、日野森さん
まふゆ:今の感覚をつかめたら、 新人大会もきっと大丈夫だね
雫:……っ
雫:ありがとう、朝比奈さん……。 本当に……本当に嬉しいわ
雫:私、このままじゃ何もかもうまくいかなくなるんじゃないかって、 不安だったから……
まふゆ:ふふ。日野森さんは真面目だから、 いろいろ考えすぎちゃってたんだろうね
まふゆ:……そういう時って、頭の中がごちゃごちゃになって、 もう全部嫌だって気持ちになるかもしれないけど……
まふゆ:でもきっとこうやって心を静かにして整えれば、 大丈夫
まふゆ:きっとまだまだ、前を向いて頑張れるよ
雫:……そうね。 そうだと思うわ
雫:本当にありがとう。朝比奈さん!

第 4 话:雪の弓道場で

新人大会 会場
雫:(……大丈夫。 心を整えて……静かにして……)
雫:(この一射だけを考える……!)
雫:……あたった……!
1年生達:よーし! すごいね、日野森さん!
2年生達:うん! かなり上達してるじゃん!
雫:(……練習、頑張ってよかったわ。 やっと部員として、一緒に頑張れて……)
雫:(これも、朝比奈さんのおかげね)
弓道部部長:お、次は朝比奈さんの番だね!
雫:頑張って、朝比奈さん……!
雫:……! すごい、真ん中に……!
弓道部部長:集中してるし、ほとんど外してない……。 これなら朝比奈さん、優勝争いに入れそうだね
雫:え? 優勝争いに……!
雫:(朝比奈さん、頑張って……!!)
司会:——只今をもちまして、表彰式を終了します
2年生達:いや~! ほんっとに今回の朝比奈さん、惜しかったね~!
弓道部部長:惜しいって言っても4位入賞だよ! 未経験だったのにここまでやれるなんて、信じられないな
1年生達:次期部長は朝比奈さんで決定じゃないですか!?
弓道部部長:ちょっとちょっと、まだ私がいるんですけど~?
雫:ふふ……
雫:(今日の朝比奈さんも、 本当にかっこよかったわ)
雫:(初めての大会でも堂々としていて、 気迫もあって……)
雫:(朝比奈さんは自分を『しっかりしていない』なんて 言っていたけれど、やっぱり——)
1年生達:あれ? そういえば朝比奈さんは? 表彰のあとから見かけてないけど……
2年生達:お手洗いに行ってるだけかと思ったけど……。 たしかに遅いね。もうすぐ帰る時間なのに
雫:あ……。 じゃあ私、探してきますね
弓道部部長:本当? ありがとう、日野森さん!
更衣室
雫:(お手洗いにはいなかったから、 いるとしたらこの辺りだと思うんだけど……)
雫:(でも、全然人がいないわね。 表彰式が終わったばかりだからかしら)
雫:あ、朝比奈さ——
雫:(……あら?)
まふゆ:あれ、日野森さんどうしたの?
雫:あ、ええと……もうすぐ帰る時間だから、 朝比奈さんを呼びに来たのよ
まふゆ:ああ……もうそんな時間だったんだ。 ごめんね、少し疲れたから休憩してたんだ
雫:そうよね。 最後は接戦になって、すごく緊張したでしょうし……
まふゆ:うん。 周りは経験者ばっかりだったし、すごくドキドキしたな
まふゆ:でも、もう大丈夫だよ。 みんなのところに戻ろうか
雫:……ええ
雫:(…………朝比奈さん、よっぽど疲れたのかしら)
1カ月後
宮益坂女子学園 弓道場
弓道部部長:それじゃあ、今日の練習はここまで! 寒くなってきたから、みんなしっかり体調管理してね!
雫・まふゆ:『はい! ありがとうございました!』
雫:ふぅ……。 早く用意しないと……
まふゆ:あ、日野森さんはこのあとお仕事があるんだっけ?
雫:そうなの。 だから片づけに出られなくて……ごめんなさい
まふゆ:大丈夫だよ。 時間がある時はいっぱいやってもらってるし。気にしないで
まふゆ:あ、今日は雪になるって天気予報で言ってたから、 日野森さんも足下に気をつけてね
雫:ええ。 ありがとう、朝比奈さん
雫:着替えてたらもうこんな時間……急がないと
雫:マネージャーさんから電話? ——はい、日野森です
雫:あ……今日のインタビュアーのかた、 風邪をひかれてしまったんですか? それは大変ですね……
雫:じゃあ、今日のインタビューはまた別の日にですね。 わかりました。連絡ありがとうございます
雫:ということは……今日のお仕事はなくなっちゃったわね。 あら……?
雫:雪だわ……綺麗
雫:……くしゅんっ。 やっぱり、寒いわねぇ
雫:(あ、そうだわ。 朝比奈さんに道場の片づけをお願いしちゃったけど、 今からなら戻って一緒にできるかも)
雫:(弓道場はほとんど外だし、 こんな寒い中だと風邪をひいてしまうものね)
雫:戻って一緒にやりましょう
雫:(……あら? なんだか、すごく静かね)
雫:(もしかして、もう終わって帰っちゃったのかしら……。 でも、扉は開いていたし……)
雫:あ、この音は——
雫:朝比奈さ……
雫:(朝比奈さん……?)
雫:(四射すべて……! 皆中だわ……!)
雫:(すごい……。 だけど、なんだか——)
雫:(……怖いくらい……)
雫:(それに何か……つぶやいているような……?)
まふゆ:……けなきゃ
まふゆ:早く——けないと……
雫:(……何を言ってるのか、 ここからはよく聞こえないけれど)
雫:(……まるで、違う人みたい……)
まふゆ:……そういう時って、頭の中がごちゃごちゃになって、 もう全部嫌だって気持ちになるかもしれないけど……
まふゆ:でもきっとこうやって心を静かにして整えれば、 大丈夫
まふゆ:きっとまだまだ、前を向いて頑張れるよ
雫:(……心を、整えれば……)
雫:(でも今の朝比奈さんは、 心を整えているはずなのに、とても危うげで……)
まふゆ:——私はしっかりなんてしてないよ
雫:(……もしかして)
雫:(朝比奈さんも、悩んでいることがあるのかしら)
雫:(心を整えても整えてもどうにもならないような、 大きな悩みが……)
まふゆ:……! 誰かいるの?
雫:あ……! えっと、その……
雫:……私よ、朝比奈さん。 お仕事がなくなったから、片づけを手伝おうと思って……
まふゆ:——そうだったんだね。 わざわざありがとう
まふゆ:でも、もう片づけは終わっちゃったから 今は自主練してたんだ
雫:……そう、だったのね
雫:あの…………朝比奈さん
まふゆ:——ん? なあに?
雫:あ……
まふゆ:……? お仕事で、何かあった? それとも、体調が悪いとか……
雫:う、ううん! そういうわけじゃないのよ
雫:(……いつもの朝比奈さんだわ)
雫:(やっぱり、見間違いだったのかしら……)
KAITO:『……それで? そのあとは、どうなったんだい?』
雫:……特に何もありませんでした
雫:朝比奈さんはあの日以降も、ちょっと休むことはあっても、 いつもどおりで……
雫:そんな朝比奈さんを見ると、あの日私が見たのは、 自分の思い違いだったんじゃ……っていう気もしてきたんです
雫:そうこうしているうちにお仕事がどんどん忙しくなって…… 結局、そのまま
雫:でも、今日似たような表情を見て……。 やっぱり朝比奈さんは、 何か悩んでることがあるんじゃないかって思って
ミク:『……うーん……何に悩んでるのかな……?』
雫:……わからないわ。 だけど——
雫:だけどもし、今、 朝比奈さんが悩んでいるのなら……
雫:何か力になれたら、いいんだけど
KAITO:『……その気持ちだけでも、伝えてみたらどうかな』
雫:え?
KAITO:『力になりたいっていう気持ちがあるなら、 その想いを伝えてみたらいいと思うんだ』
雫:で、でも、そんなことだけ伝えられても、 朝比奈さんも困っちゃうんじゃ……
KAITO:『そんなことないと思うよ』
KAITO:『これは、雫ちゃんがこれまでやってきたことと 同じだと思うんだ』
雫:私が、やってきたこと……?
KAITO:『うん。ただまっすぐ、応援してるよ、って伝えることさ』
KAITO:『アイドルは、ファンひとりひとりの苦しみや、 悲しみまではわからない。 ……それでも、応援しているよって一生懸命伝えるよね』
KAITO:『——そういう想いが、相手の力になることもあると思うんだ』
雫:私の想いが、力に……
ミク:『ふふ、カイトくん、すごくいいこと言うね!』
KAITO:『そ、そうかな? 思ったまま話しただけだけど……』
雫:……ありがとうございます、カイトさん
雫:私なりに——朝比奈さんに届くように、 この想いを伝えてみようと思います

第 5 话:伝えるために

朝比奈家 リビング
まふゆ:ただいま
まふゆの母:おかえりなさい。外、寒かったでしょう?
まふゆの母:明日は雪が降るって予報が出ているから、 できるだけ温かくするのよ
まふゆ:うん、ありがとうお母さん
まふゆの母:そういえば……部活、今の季節はとっても寒いんじゃない?
まふゆ:あ……そうだね。 弓道場はほとんど屋外だし
まふゆの母:心配だわ。風邪を引いて予備校に行けなくなったら 勉強にも響くし……
まふゆの母:受験も近づいているし、部活のことも、 そろそろ考えたほうがいいかもしれないわね
まふゆ:…………うん
まふゆ:まだ後輩に教えることもあるから、すぐには難しいけど…… そろそろ考えておくね
まふゆの母:ええ、それがいいと思うわ
まふゆの母:——ああ、そうだわ。 さっき紅茶をいれていたの
まふゆの母:ちょうどいい頃合いね。 はい、まふゆもどうぞ
まふゆ:……うん、ありがとう
まふゆ:(……紅茶、あたたかいはずなのに)
まふゆ:(どうして、飲んでもあたたかくならないんだろう)
翌日
まふゆ:(……雪、結構降ってきたな)
咲希:うわ~! すご~い!
志歩:はいはい、わかったから。 っていうか走ると危ないでしょ……
穂波:ふふっ、ふたりともしばおみたいで可愛いな
一歌:たしかに、喜んでる犬みたいだね。 ……言ったら怒られるだろうけど
一歌:——あ。 朝比奈先輩、おはようございます
まふゆ:おはよう、星乃さん。望月さん。 みんな楽しそうだね
一歌:はい。 雪が降ってきてから、 みんなすごく盛り上がっちゃって……
まふゆ:ふふ、気持ちはわかるよ。 やっぱり雪って綺麗だし、降ると嬉しいよね
まふゆ:でも、滑って転ばないように気をつけてね? 今日は積もるらしいし
穂波:はい、ありがとうございます!
咲希の声:いっちゃーん! ほなちゃーん! はやくー!
一歌:あ、今行く! すみません朝比奈先輩、それじゃ失礼します
まふゆ:……教室、行かなくちゃ
放課後
クラスメイトA:は~、疲れた! 最近課題多すぎじゃない?
クラスメイトB:ほんとほんと! ま、まふゆはすぐに終わらせちゃうんだろうけどねー
まふゆ:そうでもないよ。 最近は予備校の宿題も多いし……ちょっと大変だから、 今日は自習室でやってこうと思う
クラスメイトA:え、ホント? 今日雪だし、電車とか止まるかもしれないから、 早めに帰ったほうがいいんじゃない?
クラスメイトB:ね。 夜になったら道凍ったりしそうだし……
まふゆ:たしかに、それもそうだね。 ……あれ?
まふゆ:(メッセージ……お母さんから……)
まふゆの母のメッセージ:『今日は予備校もお休みよね。 雪も降ってるし、車で迎えに行きましょうか?』
まふゆ:(……帰らなきゃ、いけないけど……)
まふゆ:……やっぱり、自習室で少し勉強してから帰るよ。 そっちのほうが集中できそうだから
クラスメイトA:ほんとー? まふゆがいいならいいけど、帰る時気をつけてね?
まふゆ:うん。バイバイ
まふゆ:『先生に教えてもらいたいことがあるから、 自習室で勉強してくるね。迎えはいらないよ』……
まふゆ:…………
まふゆ:(雪……このままずっと降ってくれればいいのに……)
まふゆ:(全部雪で埋もれちゃえば、 私もずっとこのまま、ここに——)
???:——朝比奈さん
まふゆ:……日野森さん?
まふゆ:どうしたの? 今日は部活ないし、桃井さん達との練習があるんじゃ……
雫:この天気だし、みんなそれぞれ用事もあったから、 今日はお休みになったの
雫:それで——もし、朝比奈さんさえよかったらなんだけど
雫:一緒に、弓の練習をしない?
まふゆ:……え? 今から?
雫:そう。今から。 どうかしら?
まふゆ:……でも、今日は雪だし……
雫:——お願い。 どうしても、朝比奈さんと練習したいの
まふゆ:(……日野森さんがここまで強引なの、珍しいな)
まふゆ:(…………。 どうせ課題はすぐに終わるし……)
まふゆ:……わかった。 少しだけなら、大丈夫だよ
雫:……! ありがとう、朝比奈さん……!
雫:——それじゃあ、さっそく行きましょう
まふゆ:うん。 そしたら、弓道着とってくるね

第 6 话:力になりたい、けれど

宮益坂女子学園 弓道場
雫:55、56、57……
まふゆ:58、59、60。 ……ふぅ。プランクはこれで終わりだね
雫:体も温まってきたし、 そろそろ巻藁打ちに入りましょうか
まふゆ:うん。そうだね
まふゆ:……ふふ。 少し懐かしいね、この感じ
まふゆ:1年生の頃は、 よくふたりで並んでやってたよね
雫:そうね。 引分けの動きがなかなかできないから、 朝比奈さんによく助けてもらったのよね
まふゆ:あの頃の日野森さんは本当に忙しそうだったから、 射法を覚えるのも大変だったでしょ
雫:ええ。本当に、あの頃はお仕事ばっかりで……
雫:でも、そんな私がこうやって弓道を続けられたのも、 朝比奈さんのおかげだわ。 ありがとう
まふゆ:ふふ、そんな風に言ってもらえて嬉しいな。 でも、私はそんなに大したことはしてないよ
雫:…………そんなこと、ないのよ?
まふゆ:え?
雫:朝比奈さん、覚えてる? 1年生の新人大会の前、私の練習を見てくれたこと
まふゆ:1年生の、新人大会の……
まふゆ:あ……。 そういえば新人大会の少し前、ここで一緒に練習したね
雫:ええ。 ……あの時朝比奈さんは私に、 『ここに来ると心を整えることができる』って教えてくれたわ
雫:ただ弓を引くことに集中すると、 いつの間にか、心が静かになってる……って
雫:あの時、朝比奈さんの言うとおりに心を落ち着かせて、 矢をあてることができて……
雫:私、とても救われた気持ちになったの
まふゆ:……救われた?
雫:ええ。 あの時の私は、本当にいっぱいいっぱいだったから
雫:期待をかけてもらってるのに、お仕事をちゃんとできなくて……。 事務所を変えた愛莉ちゃんのことも心配なのに、 何も力になれなくて
雫:どうして自分はしっかりできないのかしらって、 ずっと自分を責めていたの
雫:でも、朝比奈さんが心を整えることを—— ちゃんと前を向く方法を教えてくれて
雫:だから私は、ただこの一射……この一瞬のために、 全力を尽くそうって思えるようになったの
まふゆ:……そうだったんだ
まふゆ:でも……私は思ってることを言っただけだよ
まふゆ:あの時、日野森さんが救われたって思ったなら、 それは日野森さんが努力したからだと思うな。 私はただ、きっかけになっただけで
雫:……そうね。今の私がいるのは、 自分自身の頑張りもあったからだと思うわ
雫:でもやっぱり、あの時折れそうだった私を 助けてくれたのは朝比奈さんだったから……
雫:だから、ありがとう、朝比奈さん
まふゆ:……うん。 どういたしまして
雫:それで……それでね、朝比奈さん
雫:あの時、朝比奈さんに助けてもらったように、 私も、朝比奈さんの力になれたらいいなって思うの
まふゆ:え?
雫:……実は少し、気になっていたの
雫:……この前、話をした時、 朝比奈さん、落ち込んだような表情をしていたから
雫:それでね、その時に思い出したの。 新人大会のあとに見た朝比奈さんのこと
雫:雪の中、ひとりでずっと練習していて…… それがすごく危うげな雰囲気で……
雫:ちょっとだけ思ったの。 朝比奈さんも、何かに悩んでるんじゃないかって
雫:心を整えてもどうしようもないくらい、 つらいことがあるんじゃないか……って
まふゆ:…………
雫:……急にこんなこと言ってごめんなさい。 私がただ、そう感じてしまっただけなんだけれど……
雫:少し……心配で
雫:だから、もし苦しいことがあるなら、 いつでも言ってほしいの
雫:あの日朝比奈さんが助けてくれたように、 私も朝比奈さんの、力になりたいから
まふゆ:日野森さん……
まふゆ:(力に……なりたい……)
まふゆ:——心配してくれてありがとう、日野森さん
まふゆ:でも、私は大丈夫だよ
雫:え……
まふゆ:この前のは……そろそろ受験シーズンだなって思って、 少し気が重くなってただけなんだ
まふゆ:それに1年生の頃は……新人大会で4位に終わったのが 悔しかったから、ピリピリした空気になってたんだと思う
雫:……でも……
雫:…………そう、なの?
まふゆ:——うん。 だから心配しないで
雫:……そう。 ごめんなさい、私勝手にあれこれ、 心配しすぎちゃったみたいね……
まふゆ:ううん。 気にかけてくれて、すごく嬉しかったよ
まふゆ:ありがとう、日野森さん
雫:……そんな。私は……
まふゆ:……そうだ。 巻藁打ちまでやったんだし、ふたりで勝負をしない?
雫:え?
まふゆ:ふたりでやる機会ってあんまりなかったし。 どうかな
雫:……ええ、そうね。 せっかくだし、やりましょうか
まふゆ:決まりだね。 あ……その前に少し、お手洗いに行ってくる
雫:わかったわ。 …………
雫:(……やっぱり、私の勘違いだったのかしら)
雫:(でも——)
雫:(私が見た、あの顔は……)

第 7 话:今はただ、この一射を

宮益坂女子学園 弓道場
まふゆ:それじゃあ、ルールはさっき話したとおり。 ひとり四射で、交互に引いていこう
まふゆ:引き分けになった時は—— 本当は勝負が決まるまでやるけど、 遅くなるとよくないし、そこで終わりにしようか
雫:ええ、わかったわ。 お互い頑張りましょう
雫:(……結局、朝比奈さんに何があったのか…… 何もなかったのかは、わからないまま)
雫:(……朝比奈さんの力になることは、できなそうね)
雫:(でも……今は、それでもいいわ)
雫:(いつか、朝比奈さんに助けが必要な時、 手を差し伸べることができれば)
雫:(だから今は……力をつけましょう)
雫:(どんな時も誰かを支えられるような力を、 折れない心を身につけるの)
雫:(きっとそういったものを得るために、 これは——弓道はある)
まふゆ:それじゃあ日野森さん、始めようか
雫:——ええ
まふゆ:先攻は私だね
雫:(……さすが朝比奈さんね。 簡単にあててしまったわ)
雫:(本当にすごいわ。 迷いなんてまるで見えない、ゆったりとした、 力みのない射法で……)
雫:(私とは、全然違う)
雫:(私はずっと、どうしても右ひじや手首に力が入ってしまって、 うまく引くことができなかった)
雫:(それが……頑張ろうとすれば頑張ろうとするほど うまくいかなくなる自分に、よく似ていたわね)
雫:(でも今は——)
雫:(……私も少しは、近づけているかしら)
まふゆ:(……日野森さん、すごく落ち着いてるな)
まふゆ:(これなら、今日は引き分けで終わりそう——)
まふゆ:……!
雫:あら? 今の音……
まふゆ:……ごめん。カバンここに置いてたのに、 マナーモードにするのを忘れちゃってたみたい
まふゆ:試合の途中だけど、 一度、的前から出るね
雫:あ……ええ。わかったわ
まふゆ:(……お母さんから……)
まふゆの母のメッセージ:『そう。早く帰ってきなさいね』
まふゆ:…………
まふゆ:(……普通のメッセージ……だけど……)
まふゆ:(どうしてこんなに……)
雫:……朝比奈さん?
まふゆ:あ……
雫:もしかして、緊急の連絡? だったらもう……
まふゆ:あ……ううん。大丈夫だよ。 あと三射で終わるし
まふゆ:……やるね
雫:え、ええ……
雫:(……どうしたのかしら。 朝比奈さん、急に雰囲気が……)
まふゆ:……!
雫:あ……!
雫:(朝比奈さんが……外した……!)
雫:(……どうしたのかしら? 少しぐらい集中が切れたとしても、 いつもの朝比奈さんなら持ち直せるのに……)
まふゆ:……日野森さんの番だよ
雫:あ……ええ
雫:(…………落ち着いて。 心が騒がしいままじゃ、矢はあたらないわ)
雫:(息をして……。 まっさらな状態で、弓を引くことだけを考えて——)
雫:(——ギリギリだけれど、あたったわ。 よかった……)
雫:(弓道って本当に、心を映す鏡のようね)
雫:(あとは、朝比奈さんの番だけれど……)
まふゆ:…………
雫:(朝比奈さん——)
雫:(……力が入ってるわ……)
雫:(肩も、肘も……。 まるで、急に凍えてしまったみたい)
まふゆ:…………っ
雫:(どうして急にこうなってしまったのかしら……。 さっき、メッセージを見てから……?)
雫:(一度試合を止めたほうがいいのかしら……。 でも……)
雫:(……ダメ。さっき決めたでしょう。 朝比奈さんが本当に苦しくなる時がきたら、 その時力になろうって)
雫:(なら、私にできることは——)
雫:——呼吸をして、朝比奈さん
まふゆ:……え?
雫:何が朝比奈さんの心を乱してるのか、 私にはわからないわ
雫:でもきっと……朝比奈さんなら、 揺らいでも、自分の心を整えることができる
雫:だから今はただ——この一射だけを考えて
まふゆ:……日野森さん……
雫:きっと、できるわ
雫:(……頑張って、朝比奈さん……!)
雫:……! あたった……!
まふゆ:……はぁ
雫:すごいわ朝比奈さん……! あんなに綺麗にあてるなんて……!
まふゆ:……ありがとう、日野森さん
まふゆ:でも……勝負はまだ終わってないよ? 頑張って
雫:……ええ!

第 8 话:少しあたたかい雪

宮益坂女子学園 中庭
雫:あぁ……残念だったわ……
まふゆ:ふふ、日野森さん、 さっきからずっとしょんぼりしてるね
雫:だって、まさか四射目を外しちゃうだなんて……
まふゆ:じゃあ、またやろう
雫:え?
まふゆ:今回は引き分けになっちゃったけど——
まふゆ:今度は私が勝つよ
雫:……ええ! 私も負けないわ!
まふゆ:それにしても……雪が降ってるせいか、 いつもと違う場所みたいだね
雫:そうね。 誰もいないのもあって……なんだか夢の中みたいだわ
雫:そういえば、 子供の頃は、雪が降るとよく雪ウサギを作ったのよ
まふゆ:雪ウサギ?
雫:ええ。しぃちゃんがとっても喜んでくれるから、 いつも作っていたの
雫:……あ、この辺りならつもっているからできそうね。 ちょっと雪を丸くして……
雫:目は……ここに落ちてる南天の実にして、耳は葉っぱにして…… はい、ウサギさん
まふゆ:……ふふ、可愛いね
まふゆ:でも……晴れたら消えちゃうから、 少し寂しいね
雫:……そうね。 しぃちゃんもよくそう言っていたわ
雫:でも……寂しいことばかりじゃないと思うの
まふゆ:え?
雫:こうやって、雪ウサギを作ったっていうことは、 私達の心の中にちゃんと残るもの
雫:形として残らなくても、忘れなければ—— ずっとずっと、大切なものとして 胸の中に残ってくれると思うわ
まふゆ:忘れなければ……
まふゆ:……そう、なのかな
雫:わからないけれど……。 私はそう信じてるのよ
まふゆ:……そっか
雫:……もしよかったら、 今日のことも覚えておいてもらえたら、嬉しいわ
まふゆ:え?
雫:きっと朝比奈さんのことを大事に思って、 力になってくれる人は、たくさんいると思うけれど
雫:私もそのひとりだっていうことを、覚えておいてほしいの
まふゆ:……ありがとう
雫:(……あら? 今、少し雰囲気が……)
まふゆ:じゃあ、そろそろ帰ろうか。 暗くなってきたしね
雫:あ、そうね。もう帰らないと——
雫:——きゃーっ!!
まふゆ:ひ、日野森さん! 大丈夫? ケガはない?
雫:ご、ごめんなさい、雪ですべってしまって……。 びっくりしたわ……!
雫:でも、ケガはないから……ああっ!
まふゆ:どうしたの?
雫:傘が……曲がっちゃったわ……。 どうしましょう……
まふゆ:本当だ。 これじゃさすがに差せないね……
まふゆ:よければ、駅まで入っていく? 私の傘に入れると思うから
雫:本当? ありがとう、朝比奈さん……!
まふゆ:どういたしまして。 はい、半分どうぞ
雫:じゃあ、おじゃまします
まふゆ:あ……ふふっ
雫:え? どうしたの朝比奈さん
まふゆ:日野森さん、顔に雪がついてて……ふふふっ
雫:ほ、本当? ちょっと恥ずかしいわ……
まふゆ:ええと……今ハンカチで拭くからちょっと待ってね
まふゆ:……はい、これで大丈夫だよ
雫の部屋
雫:……ふぅ。 ずいぶん外にいたから、手が冷えちゃったわね
雫:だけど……
志歩:あ、お姉ちゃん帰ってたんだ
雫:あら、しぃちゃん。 ただいま
志歩:今日は母さんがカレーにするって言ってたから、 あとで皮むき手伝ってって……ん?
志歩:……お姉ちゃん、今日、何かいいことあった?
雫:あら……! しぃちゃんすごいわ! 何も言ってないのにわかっちゃうのね!
志歩:そりゃ、そんなにニヤニヤしてたら 誰でもわかると思うけど……
志歩:それで、何かあったの?
雫:そうなの! ええと……話すと長くなっちゃうんだけど……そうね
雫:——もらったものを、少しだけ返すことができたの
志歩:……そっか。よかったね
母親の声:志歩ちゃん。雫ちゃん。 お手伝い、お願いしていいかしらー?
雫:あ……はーい! 今行くわー!
雫:じゃあ——話の続きはお台所でね、しぃちゃん!