活动剧情

Never Give Up Cooking!

活动ID:87

第 1 话:素敵なお誘い

冬弥の部屋
冬弥:スマホは…………あった。 枕の下に隠れていたのか
冬弥:(……今日の練習は、セカイでだったな。 時間もあるし、早めに行って自主練をしておくとしよう)
冬弥:電話……咲希さん? なんの用だろうか……
咲希:『あ、もしもし。とーやくん、久しぶり!』
冬弥:咲希さん、おはようございます。 どうされたんですか?
咲希:『あのね、ちょっと話したいことがあって。 今、時間大丈夫?』
冬弥:はい。今日はこのあと歌の練習をする予定ですが、 集合までは、まだ余裕がありますので
咲希:『よかった! それで、話なんだけど……』
咲希:『再来週にある食事会の話って、もう知ってる?』
冬弥:ああ……このあいだ、母から聞きました。 たしか日曜に、俺の家に咲希さんのご両親が遊びに来るとか
咲希:『そうそれ! 最初にそれ聞いた時、 久しぶりにとーやくんとご飯だ~って お兄ちゃんと喜んでたんだけど……』
咲希:『お父さんに、今回は大人だけの集まりの予定だからごめんね、 って言われちゃったんだ』
冬弥:そうだったんですね。 大人同士、積もる話があるんだと思いますが…… 俺も、咲希さんや司先輩と食事をしたかったです
咲希:『だよねだよね! よかった。 とーやくんもそう思っててくれたんだ』
咲希:『実はね、昨日お兄ちゃんと、アタシ達はアタシ達で 家でパーティーしようかって話してたんだ』
咲希:『どうかな? 再来週の日曜、うちに来ない?』
冬弥:咲希さん達の家に、ですか?
咲希:『うんっ! あ……もし嫌だったら、 全然断ってくれて大丈夫だよ! アタシ達、まだなんの準備も始めてないから!』
冬弥:——いえ、再来週の日曜でしたよね。 それなら予定もありませんので、ぜひとも参加させてください
咲希:『ほんと? やったー!』
咲希:『あ、あとでお兄ちゃんにも伝えなくちゃ! きっと喜ぶよ!』
冬弥:こちらこそ、ありがとうございます。 パーティー、とても楽しみです
咲希:『うん! すっごくがんばって準備するから、期待しててね! それじゃあ、日曜日はよろしくね。ばいばい!』
冬弥:はい。では、また
冬弥:司先輩と咲希さんの家でパーティーか……
冬弥:(……懐かしいな)
冬弥:(……今でも思い出す。子供の頃、あの家に行くと なんだかとても、ほっとした)
冬弥:(あの頃は、自分の家では、 気持ちが休まる暇がなかったからな……)
冬弥:(……今はもう、そんなことも少なくなってきたが……。 それでも、子供の頃はあの家に預けられるのを、 どこか心待ちにしていたものだった)
冬弥:……ふたりに会うのが、楽しみだな
ストリートのセカイ
冬弥:(まだ、集合時間には早かったか)
冬弥:……とりあえず、待ち合わせ場所へ向かうか。 いつもどおり、メイコさんのカフェだったな
MEIKO:あら、冬弥くん。こんにちは。 もしかして、今日も練習?
冬弥:あ……メイコさん
冬弥:はい。午後から雨が降るそうなので、 今日はこちらでやらせてもらおうかと
冬弥:メイコさんは、今日はどこかへ行かれるんですか?
MEIKO:ええ、リンのところにね。 歌の練習につきあうって約束なのよ
冬弥:なるほど。 あ……それでは今、お店のほうは?
MEIKO:ああ、それなんだけど……。 実は今、お店をカイトとレンに貸し出してるの
冬弥:貸し出し? どういうことでしょう
MEIKO:それが、実はね……
レン:ねえ、メイコ!  キッチン借りたいから、1日だけお店を使わせてくれない!?
MEIKO:いいけど……キッチンだけなら、今からでも使っていいわよ
レン:あ……その、それじゃあダメで……。 お店の中、他の誰も入らないようにしたいんだ。 貸し切りって感じで!
MEIKO:あら、何に使うの?
レン:そ、それはその……まだ秘密なんだ! とにかく……お願い……!
MEIKO:……ということがあったの
冬弥:それは……不思議な話ですね。 何か、見られたくない物でもあるのでしょうか
MEIKO:ふふ、そうかもね。 まあ、この時期だし……だいたい予想はつくけどね
冬弥:……? そうなんですか
冬弥:……あ、それなら、 俺達も今日は店に入らないほうがいいんでしょうか
MEIKO:んー、どうかしら
MEIKO:もしかしたら、杏ちゃんとこはねちゃんは 入らないほうがいいかもしれないわね
MEIKO:……けど、冬弥くんと彰人くんなら大丈夫じゃないかしら
冬弥:俺達なら……?
MEIKO:きっと、行けばわかるわ。 ふふ、それじゃあ練習頑張ってね
冬弥:メイコさん達には知られたくないこと、か
冬弥:……レンとカイトさんは、 一体何をしているんだ……?

第 2 话:特別な贈り物

ストリートのセカイ
crase cafe
冬弥:こんにちは
冬弥:(……メイコさんは、 俺や彰人なら入っても大丈夫だと言っていたが、 本当によかったのだろうか)
???:よ~し! あとはこの生地をまとめて、 冷蔵庫で冷やせばいいんだな!
KAITO:うん。触りすぎないようにね。 バターが溶けないように、素早く整えるんだ
レン:オッケー! まかせといてよ!
冬弥:(ふたりは、キッチンで何か作っているみたいだな。 だが……何を……?)
KAITO:そうそういい調子! それができたらあとはラップで包んで……ん?
KAITO:あ、冬弥くん! いらっしゃい!
レン:え、と、冬弥!?
冬弥:……すみません。貸し切りだとは聞いていたんですが。 やはりお邪魔だったでしょうか
KAITO:大丈夫だよ! あ——でも、少し待ってもらえるかい、 これだけラップに包んじゃうから。 ……さ、レン、頼んだよ!
レン:う、うんっ!
KAITO:ふう……。お待たせ、冬弥くん。 ごめんね、バタバタしてて
冬弥:いえ、お気になさらず。 それより、今のは……
レン:え、え~と……!
KAITO:今はね、レンと一緒にクッキーを作ってたんだ
レン:あ、もうカイト、ばらすなよ~!
KAITO:あはは! ごめんごめん。 けど、言わなくてもきっともう、 だいたいバレちゃってるよ
冬弥:すまない。知られたくないことだったんだな
レン:あ、ううん。気にしないで! 冬弥だったら問題ないからさ
レン:だけど、メイコやリン達には、言わないでほしいんだ。 びっくりさせる予定だから!
冬弥:びっくり……?
レン:ほら、もうすぐホワイトデーだろ。 だから、リン達に贈り物をしようと思ってさ
レン:けど、普通のプレゼントじゃおもしろくない気がして…… リン達が驚くようなおいしいお菓子を作ろうと思って、 カイトに教わってたんだ
冬弥:なるほど……。そういうことだったのか
KAITO:本当は、ボクよりメイコのほうがうまく作れるんだけどね。 でもほら、メイコにも渡すんだし、 本人に聞くわけにはいかないでしょ?
冬弥:それは、たしかにそうですね。 ……レン、いいものができるといいな
レン:うん! ……あ、そうだ。 リン達だけじゃなくてこはねや杏にも内緒にして! あのふたりにも渡したいし!
冬弥:わかった。約束しよう
冬弥:それにしても、ホワイトデーか。 俺もそろそろ準備をしなくてはな
レン:冬弥は誰に贈り物をするの?
冬弥:そうだな……俺は、普段お世話になっている人達に渡すつもりだ
冬弥:小豆沢や白石、母さん。 メイコさんやミクやリン、ルカさんにもだな
KAITO:あはは! 冬弥くんも渡す相手がたくさんいるんだね
KAITO:けど、いいことだよね。 感謝したい相手がいっぱいいるっていうのは
冬弥:……たしかに、そうですね
冬弥:(……感謝したい相手、か。 そう考えると、他にもたくさんいると思うが……)
冬弥:(そうだ。……おふたりにも、何かお返しをしたいな)
冬弥:(ちょうど、ホームパーティーの日が ホワイトデーのすぐ近くだったはずだ。 パーティーのお礼も兼ねて、何か贈るとしよう)
レン:冬弥? どうかしたの?
冬弥:ああ……実は、子供の頃から お世話になっている人達がいるんだが、 その人達からパーティーに招待してもらったんだ
冬弥:だから、俺もふたりのために何かお返しをしたいと思ってな
レン:それなら、気合いを入れた贈り物をしないとな! せっかくのホワイトデーなんだしさ!
冬弥:……気合いを入れた贈り物、か……
冬弥:たしかに、レンの言うとおりだな。 考えておくとしよう
KAITO:いやあ、なんだか素敵だねえ
レン:え? 何の話?
KAITO:ん? もちろん、ホワイトデーのことだよ
KAITO:ほら、心の中で感謝していても、 普段はなかなかそのことを言い出せなかったり、 伝える機会がなかったりするでしょ?
KAITO:けど、こういう日があると、 感謝の気持ちも伝えやすいよね
KAITO:レンも、普段は中々素直になれない分、 こうしてホワイトデーに向けて頑張っているわけだしね
レン:だ、だから別に、そういうのじゃないって!
KAITO:——あれ、窓の外にいるの、彰人くんじゃない?
冬弥:あ……そうか。 そろそろ待ち合わせの時間だな
冬弥:だが……このままだと、 小豆沢や白石もここに来てしまうな
冬弥:……レン。彰人に事情を話して、 待ち合わせ場所を変えるよう頼んでくる
レン:本当? ありがとう、冬弥!
冬弥:ああ。それではレン、カイトさんも、 お菓子作り頑張ってください
KAITO:うん! 冬弥くんも歌の練習、頑張ってね!
数日後
ショッピングモール
冬弥:(ふう……こうして改めて見ると、 本当にたくさんの種類のお菓子が売られているな)
冬弥:(司先輩と咲希さん、おふたりが 喜んでくれそうなものが見つかるといいのだが……)
冬弥:(……この店では焼き菓子を中心に扱っているようだな)
冬弥:(マドレーヌ、マカロン、パウンドケーキ、 他にも様々な種類のお菓子がある)
冬弥:(俺は甘いものはあまり得意ではないが、 司先輩と咲希さんなら、喜んでくれそうだ)
冬弥:(いや……)
冬弥:(正直なところ、ふたりなら何を渡しても きっと喜んでくれるだろう……)
冬弥:(だが、それでは……)
レン:それなら、気合いを入れた贈り物をしないとな! せっかくのホワイトデーなんだしさ!
冬弥:(気合いを入れた特別な贈り物となると……なかなか難しいな)
冬弥:……どうしたものか
???:——おや、青柳くんじゃないか
冬弥:……神代先輩?
類:こんなところで会うとは奇遇だね。 ——もしかして、ホワイトデーの贈り物を探してるのかい?
冬弥:どうしてそれを?
類:お菓子のショーケースを眺めて、ため息を吐く姿を 見ていれば、簡単に想像できるよ
類:それより、随分浮かない顔をしていたけど…… 何を買うか、そんなに悩んでいるのかい
冬弥:それは……
冬弥:(……そういえば、神代先輩は司先輩と 同じショーステージで働いているんだったな)
冬弥:(もしかすると……俺よりも 司先輩の好みについて詳しいかもしれない)
冬弥:(それなら——)
冬弥:あの……すみません。少し相談に乗ってもらってもいいでしょうか
類:構わないよ。僕の用事も、もう済んでいるしね
冬弥:ありがとうございます。では——
類:……なるほど。 司くんと咲希くんに特別な贈り物をしたい、か
冬弥:はい、神代先輩は、司先輩とよく一緒にいらっしゃいますし、 よければアドバイスをいただきたいなと……
類:そうだね……。たしかに、咲希くんのことはともかく、 司くんのことなら、少しはアドバイスができるかもしれないな
類:とは言え彼は、君が心を込めて選んだものなら、 どんなものでも喜んでくれると思うよ
冬弥:やはり、そうですか……
類:青柳くんは、それでは満足できないみたいだね
冬弥:あ……その、もっと喜んでもらえるような、 いいプレゼントがないかと思ってしまって
類:ふむ……それなら、お菓子を手作りしてみるのはどうだい?
冬弥:え? 手作り……ですか?
類:ああ。実は僕自身、バレンタインにショーの仲間達から、 手作りのプレゼントをもらったんだけど、 想像していたより、とても嬉しかったんだ
類:自分でも不思議に思ってね。 どうしてだろうと考えてみたんだけど……
類:やはり、プレゼントにたくさんの想いが 込められてるのを感じられたからだと思ったよ
冬弥:想い……ですか
類:ああ。僕達ショーのメンバーひとりひとりのことを 想って作ってくれているのがよくわかるプレゼントだったんだ
類:もちろん、想いを込めるやりかたは 他にもいろいろあるとは思うけれど……
類:きっと、手作りのプレゼントなら、 ふたりも喜んでくれるんじゃないかな
冬弥:なるほど……。 たしかに、いい案だと思います
冬弥:ただ、その……
冬弥:正直に言うと、手作りというのを、 まったく考えなかったわけではないんです
冬弥:けど、俺は料理というものをほとんどしたことがなくて……。 美味しくないものを作って、ふたりをがっかり させるくらいなら、やめたほうがいいと思っていました
類:ふむ……。そうだったのか……
冬弥:——ですが、神代先輩の話を聞いて、 少しだけ気持ちが変わりました
冬弥:想いを込めた、手作りのプレゼント……。 これを機に、挑戦してみようと思います
冬弥:いいアドバイスをしていただき、ありがとうございました
類:……ああ、応援してるよ。 ふたりに喜んでもらえるといいね
冬弥:——はい!

第 3 话:頼りになる先生?

冬弥の部屋
冬弥:(ふむ……こうやってレシピを見てみると、 手作りのお菓子と言ってもいろいろな種類があるな)
冬弥:(あまり難易度の高くないものがいいが……かといって、 司先輩や咲希さんが喜んでくれるものでなければ意味がない)
冬弥:(だが……そもそも…… おふたりはどんなお菓子が好きなんだ……?)
冬弥:(たしか……昔、ふたりの家に預けられた時は……)
母親:……うん。いい焼き具合ね。 みんな、カップケーキが焼けたから、 一緒に食べない?
母親:冬弥くんの口にも合うように、甘さは控えめにしてあるの
幼い咲希:うわあ、おいしそう……!
冬弥:(よく、おばさまがお菓子を作ってくれたな。 どれも美味しくて、咲希さん達も喜んでいた……)
冬弥:カップケーキか……。 うん、初心者にもおすすめの簡単なお菓子とあるな
冬弥:——よし。明日、学校から帰ったらやってみるか
翌日
青柳家 キッチン
冬弥:ふう……とりあえず、レシピにあった材料は買ってきたが……
冬弥:こうして並べてみると、いろいろあるな。 これをすべて使って、カップケーキを作っていくわけか
冬弥:はたして俺に、できるだろうか……
冬弥:——いや、迷っていても仕方がない。 とにかくやってみなくてはな
冬弥:(レシピには 『誰でもできる! ふんわりふわふわシフォンカップケーキ!』 とあるが……)
冬弥:(……いくら簡単とは言え、俺は少し前まで 包丁すら握ったことがなかった人間だ)
冬弥:(いかに簡単そうに見えても、侮ることはできない。 慎重にやらなくては……)
冬弥:——よし、始めるとするか
冬弥:まずはボウルに卵と砂糖を入れる……いや、卵白だけか。 しかし、そんなことどうやって……
冬弥:……なるほど! 殻を半分に割り、 その殻を使って卵白と卵黄を分けるんだな
冬弥:——?
冬弥:殻を……半分に割って卵黄だけを残す……?
冬弥:言葉ではわかるが……。 そんなこと、本当にできるものなのか……?
冬弥:よ、よし……殻を半分に割れた……! あとはこれを使って、ふたつを分けられれば……
冬弥:っ! しまった……! 黄身が破れて……中身が……。 これでは、卵白だけを取り出せない……!
冬弥:くっ……もう一度か……
冬弥:(卵白をかき混ぜて……メレンゲというのを作るそうだが……)
冬弥:(これは……一体いつまでかき混ぜればいいんだ? 本当に、このレシピの写真のような、 ふわふわしたものになるのか……?)
冬弥:(わからないが……かき混ぜ続けるしかないか……)
冬弥:……よし。なんとかメレンゲはできたぞ。 あとは——
冬弥:なっ……このメレンゲを黄身のボウルに入れて、 また混ぜるのか……!?
冬弥:俺は一体、いつまで混ぜればいいんだ……
冬弥:あとは焼きあがるのを待つだけ、か……
冬弥:(気がつけば、だいぶ遅い時間になってしまったな。 レシピにはもっと早く作り終わるとあったが……)
冬弥:(キッチンも汚してしまった……。 父さん達が帰ってくる前に、片づけなくては)
冬弥:(一応、すべてレシピどおりにやったつもりではあるが…… 本当に美味しく作れたのだろうか……)
冬弥:——!
冬弥:できたみたいだな
冬弥:(これは……レシピの写真とは違うな……。 ずいぶんと背が低いというか、潰れているようにも見える……)
冬弥:(失敗したのか? いや……味を確かめてからでも遅くはない)
冬弥:……いただきます
冬弥:……う
冬弥:(これは……)
冬弥:(味は……いかにもケーキの生地らしく、甘い……。 だが、もそもそとしていて食べにくいな……)
冬弥:(レシピには、ふんわりした食感になると 書いてあったはずだが……)
冬弥:(……もともと甘いものは得意ではないが……。 このケーキはそういった問題ではなく……)
冬弥:(美味しくない、な……)
冬弥:……はあ
冬弥:(やはり手作りは、俺には難しかったか……)
冬弥:(いや——)
冬弥:(そうだ、俺も誰かに教えてもらおうか)
冬弥:(俺の周りで料理が得意な人と言えば、 メイコさんとカイトさんだな……)
冬弥:(忙しいふたりの手を煩わせるのは気が引けるが…… 俺ひとりの力では限界だ)
冬弥:……少し遅い時間だが、行ってみよう
ストリートのセカイ
crase cafe
ミク:——いらっしゃい。 ……あれ、冬弥? 今日はひとりなんだね
冬弥:ああ。個人的な用事で来たんだ。 店は……ミクだけか?
ミク:うん。誰か探してるの?
冬弥:メイコさんかカイトさんと話をしたいと思っていたんだが…… 留守のようだな
ミク:ん……そうだね。 どっちも今はいないかな
ミク:カイトは、リンとレンと一緒に歌の練習。 メイコは3人に差し入れしてくるって お弁当持って出かけて行ったんだ
ミク:だから今は私が、メイコが帰ってくるまで店番中
冬弥:……そうだったのか
ミク:ふたりに何か用事だった? 時間がないなら、伝言だけでもしようか
冬弥:いや、そこまでしてもらわなくても大丈夫だ。 また明日出直そう
ミク:ならいいけど……
ミク:でも——何か悩んでる時は、ちゃんと言ってね。 私も、冬弥の力になりたいし
冬弥:ミク……
冬弥:すまない。やはり、少し話を聞いてもらえるだろうか
ミク:うん、もちろん
ミク:ふうん。ホワイトデーの贈り物のために…… お菓子作りを教わりたい、か
ミク:そういえば冬弥、 料理とか全然やったことがないって言ってたね
冬弥:ああ。試しにひとりで作ってみたところ ……うまくいかなかった
冬弥:だが、一度作ってみたことで自分には何ができないのか、 わからないのかを少しは理解できた気もする
ミク:そっか。無駄じゃなかったんだね
ミク:それで……作るのはカップケーキだったっけ。 結構、手作りお菓子の中では簡単なほうだよね。 前にメイコがそう言ってた気がする
冬弥:ああ、レシピにも初心者向けと書かれていた
ミク:そっか。それなら、私でも作れそうだね
冬弥:え? ミクは、お菓子作りができるのか?
ミク:カップケーキ自体は作ったことないけど…… 普段からメイコの料理を手伝ったりしてるから、 少しはできるんじゃないかな
冬弥:そうだったのか……
冬弥:(メイコさんかカイトさんにお願いするつもりだったが、 ミクも料理ができるとは知らなかったな)
冬弥:(メイコさんは普段からお店があるだろうし、 カイトさんもレンの指導で忙しそうだった……)
冬弥:(だが、ミクが料理できるのであれば…… 迷惑かもしれないが、 ミクに頼むのもいいのかもしれないな)
冬弥:——ミク、もしよかったら、 俺にカップケーキの作りかたを教えてもらえないだろうか
ミク:うん。もちろんいいよ
冬弥:……よかった。ありがとう
ミク:じゃあ、いつにしようか それと場所かな
ミク:メイコにお願いすれば、キッチンを貸してくれると思うけど
冬弥:……そうだな。今日はもう遅いし、時間は明日の放課後がいいな
冬弥:(場所は……どうだろう。カフェのキッチンを 貸してもらえるとやりやすくはあるが……)
冬弥:(だが、このあいだもカイトさんとレンに貸していたし、 あまり何度も利用されるのも迷惑かもしれないな……)
冬弥:場所は……俺の家でやるのはどうだろうか
ミク:わかった。スマホから見せてくれれば 教えられると思うし、私は大丈夫だよ
ミク:じゃ、明日会いに行くから。よろしくね
冬弥:ああ。ありがとうミク

第 4 话:味見役

翌朝
神山高校 校門
冬弥:(放課後は、ミクとカップケーキ作りか……)
冬弥:(昨日ひとりでお菓子を作った時はもう駄目かと思ったが…… ミクのおかげで、なんとかなりそうだ)
冬弥:(今度こそ成功させて、 司先輩達に喜んでもらえるものを作りたいな)
彰人:よお、冬弥
冬弥:彰人か。おはよう
彰人:さっき笑ってたけど…… なんかいいことでもあったのか?
冬弥:そういうわけではないんだが、実は——
彰人:へえ、お前がお菓子作りか……
彰人:ま、いいんじゃねえか。 いろんなことに挑戦してみるのは
冬弥:ああ、そうだな。 いいものを作りたいと思っている
彰人:……けどお前、甘いもん苦手なのにちゃんと作れんのか? 味見とかしても、よくわかんねえだろ
冬弥:それは……たしかにそうだが……。 美味しいかそうでないかくらいの判別は……
冬弥:……いや、たしかに彰人の言うことはもっともだ
冬弥:普段甘いものをあまり食べない俺が、 お菓子の繊細な味の良し悪しについて、わかるはずもない
冬弥:俺はまったく、考えが足りていなかった……
彰人:いや、そこまで落ち込む必要もねえと思うが……
彰人:まあ、それなら今回はミクに 味見してもらえばいいんじゃねえか? 一緒に作るわけだしな
冬弥:なるほど、たしかにそうだな。 だが……
冬弥:せっかくなら、お菓子作りに関わらない、 第三者の意見が欲しいところでもあるな
冬弥:そうだ彰人……!
彰人:いや……。期待してくれてるところ悪いが、 今日の放課後はバイトが入ってるから無理だ
冬弥:そうか……
彰人:悪いな。誰か代わりのヤツがいればいいんだが……
彰人:っと、やべえ。そろそろHR始まっちまうな。 急ぐぞ、冬弥
昼休み
冬弥:(結局、誰に味見を頼むか決まらなかったな……)
冬弥:(放課後になったら、レンやカイトさん…… 引き受けてくれそうな人に当たってみるか)
???:やあ、ちょっといいかな
冬弥:神代先輩! どうして1年生の廊下に……
類:君と少し話がしたかったんだ。 ほら、このあいだのプレゼントの話、どうなったかと思ってね
冬弥:あ……そのことなら、神代先輩のアイディアをいただいて お菓子を作ってみたんです
冬弥:昨日やってみた時はうまくいかなかったんですが…… 作れる人に教えてもらえることになったので、 今日の放課後また挑戦するつもりです
類:それならよかった、きっと司くん達も喜んでくれると思うよ。 何しろ、彼もホームパーティーを とても楽しみにしているようだからね
冬弥:司先輩が?
類:ああ、そのことも話そうと思って来たんだ。 実は今朝、彼と少し話をしてね——
類:司くん。少しいいかな。 明日のショーの練習のことで、伝えておくことがあってね
司:……塩と胡椒をまぶして牛肉を焼き……野菜を加えて煮込む……。 む? 香草は野菜と一緒に入れるのか……。 このあいだ見たレシピとは順番が少し違うようだな……
司:——っと、類! すまん! 気がつかなかった! いつからそこにいたんだ?
類:ついさっきだよ。それより、何か考えごとかい?
司:ああ。実は、今度冬弥を招いてホームパーティーをするんだが…… そこで振る舞う料理のレシピを調べていたんだ
類:ホームパーティー……。 へえ、それでそんなに真剣に調べ物をしていたんだね
司:うむ! せっかく冬弥がうちに来てくれるのだ。 ならば、最高に楽しめるパーティーにしたいからな!
司:そうだ類! よければ意見を聞かせてくれ! 今、いくつか料理の候補を出しているんだが……
類:という感じで、ずっと君のことを話していたんだ。 君を楽しませようと、司くんも懸命に準備を進めているようだね
冬弥:司先輩が……
冬弥:……教えていただいて、ありがとうございます。 おかげで、ますますいいものを贈りたいと思うようになりました
類:ああ、応援しているよ。 僕もできることがあれば協力しよう
冬弥:(協力……)
彰人:悪いな。誰か代わりのヤツがいればいいんだが……
冬弥:(……神代先輩に、味見をお願いしてみようか)
冬弥:(いや、しかし……神代先輩はショーキャストもやっているし 味見につきあってもらうのは、さすがに迷惑かもしれない)
類:青柳くん、どうかしたかい?
冬弥:……あ、その、実は……
類:なるほど。……作ったお菓子の味見役か
類:いいよ、引き受けよう
冬弥:ほ、本当ですか? ですがその、いいんですか
類:ああ。そもそも青柳くんにお菓子作りを勧めたのは、僕だからね。 それに、できることがあれば協力すると言っただろう?
類:とはいえ、僕もそれほどお菓子に詳しいというわけではないけど
冬弥:いえ、大丈夫です。 神代先輩の率直な意見をいただきたいので
類:そうか。それなら大丈夫かな。 ……それで、いつ味見をすればいいんだい?
冬弥:そうですね……明日は休みなので、 学校へ持ってくるとなると、週明けになると思うのですが——
冬弥:(だが、彰人達との練習もある。 できるだけ早めに味見をお願いしたいが……)
類:もしかして、味見は早いほうがいいのかな
冬弥:あ……はい。できれば、ですが
類:ふむ……とはいえ、休みなのはどうしようもないね
類:そうだ。君さえ迷惑でなければだけど、 よかったら僕が青柳くんの家に行って、味見をしようか
冬弥:え……そんな、流石にそこまでしていただくのは……。 それに、神代先輩も予定があるのでは……
類:僕のほうは構わないよ。 今日ならショーの練習もないんだけど、どうかな
冬弥:そうですか……。 ありがとうございます
冬弥:(だが……ミクと一緒に作っているところを 見られるわけにもいかないな……)
冬弥:(いや……それなら、そうか)
冬弥:でしたら、18時頃に来ていただけませんか? それまでにお菓子を用意しておきます
類:わかった。では、そうさせてもらうよ
類:それじゃあ、また放課後に。 青柳くんの手作りお菓子、楽しみにしているよ
冬弥:は、はい。ありがとうございます。 期待に応えられるよう、頑張ります

第 5 话:レッツ、クッキング♪

青柳家 キッチン
冬弥:……というわけで、学校の先輩に味見をお願いすることになった。 今日このあと、家に来てくれることになっている
ミク:『いいと思うよ。 誰かに食べてもらうのが、上達の近道だしね』
ミク:『それじゃあ、早速だけど始めようか』
冬弥:ああ、よろしく頼む
冬弥:……手順としては、基本的にレシピどおりに進めていこうと思う。 だが、昨日ひとりでやっていた時も、 慣れないところやうまくできないところがたくさんあった
冬弥:そういう時、ミクにアドバイスをもらいたいと思っているんだ
ミク:『わかった。 じゃあ、レシピを見せてもらってもいいかな』
冬弥:ああ、これなんだが——
ミク:『ふうん。カップケーキって、こうやって作るんだ。 なるほどね』
ミク:『それで、昨日冬弥が作った時は、 どんな風になっちゃったの?』
冬弥:そうだな、できあがったものは、レシピの写真と 違ってあまり膨らんでいなかった
冬弥:それだけでなく、食べた時の食感も、 もそもそとした固いものになってしまっていたんだ
ミク:『もそもそか……。たしかにメイコも、 シフォン系のカップケーキは ふんわり感が大事だって言ってた気がする』
冬弥:やはり、そうなのか……
ミク:『でも、それなら…… 失敗しちゃったのは混ぜかたに問題があるのかもね』
冬弥:混ぜかた?
ミク:『うん。お菓子って、生地の混ぜかたで 膨らみが変わってきちゃうんだって』
ミク:『あんまり生地を混ぜすぎると、全然膨らまないとか、 そういうこともあるらしいし』
冬弥:なるほど……そうだったのか……
冬弥:俺は一体、いつまで混ぜればいいんだ……
冬弥:たしかに……思い返してみれば、 俺はわけもわからず、ただひたすら混ぜ続けていた気がするな
ミク:『ま、そういうことなら、 今度はあんまり混ぜないほうがいいかもね』
ミク:『冬弥って、丁寧にやりすぎるところありそうだし。 今から作るのは、本当にちょっとだけ混ぜるとかで いいんじゃないかな』
ミク:『たとえばそうだな——2、3回だけにするとか』
冬弥:さすがに、それでは生地が混ざり切らないんじゃないか?
ミク:『大事なのは回数じゃないと思うよ。 少なくても、しっかり混ぜることはできると思う』
冬弥:なるほど……
ミク:『あとは……そうだ。 ベーキングパウダーっていうのをもっと入れてみたら?』
ミク:『前にメイコに聞いたことがあるんだけど、 これがケーキを膨らませてくれるんだって』
冬弥:この粉には、そんな意味があったのか……
冬弥:だが、レシピと違う量を入れてもいいのか……?
ミク:『それは、お好みなんじゃないかな。 ほら、コーヒーでもどれだけ砂糖を入れるかは 人それぞれでしょ』
ミク:『ベーキングパウダーだって、 もっと膨らませたかったら、その分多く入れればいいんだよ』
冬弥:たしかに、そうかもしれないな……
ミク:『そういえば、このレシピにはいろんな アレンジの方法ものってるみたいだけど…… そういうのって、やってみるつもりなの?』
冬弥:ああ……。慣れてきたら挑戦してみようと思って、 材料だけは買っているが……
ミク:『そしたら、それも入れてみようよ。 “慣れてきたら”なんて言ってたら、 いつまで経ってもできるようにならないよ』
冬弥:それは……
冬弥:(……正直、いきなりアレンジに挑戦することに不安はある……。 だが挑戦してみなければ、 できるようにならないというのもたしかだ)
冬弥:(それに今は、ミクという先生もいる)
冬弥:そうだな……。やってみようと思う
冬弥:では……ミク。よろしく頼む。 俺のやりかたに間違っている箇所があれば、すぐ指摘してくれ
ミク:『うん、任せて』
類:青柳くんに教えられた住所だと…… 家はこの先のようだね
類:(フフ……お菓子作りは順調にいっているかな。 ……どんなものが出てくるのか楽しみだ)
類:(それにしても……)
司:うむ! 助かったぞ、類。 おかげで、パーティーのメニューが決まりそうだ
類:ああ。力になれたみたいでよかったよ。 青柳くんに、喜んでもらえるといいね
司:ああ。そうだな!
類:……どうしたんだい?
司:いや……少し昔のことを思い出してな
司:実を言うと……冬弥は昔、あまり笑わないヤツだったんだ。 いつもどこか怯えて……不安がっていた
司:今はもう随分変わったとは言え、やはり兄貴分として、 冬弥にはもっと笑顔でいてほしいと思うのだ
類:……なるほど。君が青柳くんを気にかけているのは、 そういう事情もあったんだね
司:うむ。そういうことだ!
司:だからこそ、今度のパーティーでは、 冬弥が思わず笑顔になるような 渾身の料理を用意してみせるぞ!
類:(司くんも青柳くんも、 お互いのためにああまで努力できるとはね)
類:(……とはいえ、これは彼らのショーだ。 僕にできることはあまりないけれど……)
類:(……ふたりには、ぜひとも成功してほしいな)
類:——あった。このマンションだね
青柳家 リビング
冬弥:神代先輩。 今日は来てくださって、ありがとうございます
類:ああ。こちらこそ、お招きいただきありがとう。 フフ……もうすでに、お菓子の甘い香りがしてきているね
冬弥:あ……そうですね。 ちょうど、もうすぐ焼きあがるところです
冬弥:今、飲み物を持ってくるので、 ここで座って待っていてください
類:ああ。お構いなく
類:(さて……どんなお菓子が運ばれて来るのかな)
ミク:『ケーキ、もうすぐ焼きあがりそう。 どんな風になってるかな』
ミク:(冬弥、すごく真剣だったな……。 きっと、それだけ贈る相手に 喜んでほしいって思ってるんだよね)
ミク:(美味しく作れるようになるといいな)
ミク:『なんだろう、ケーキが破裂した音がしたけど……』
ミク:『きっと、元気があり余ってるんだね。 食べ応えがあって、美味しいカップケーキになりそう』

第 6 话:いざ、試食!

青柳家 キッチン
ミク:『冬弥、どう? 取り出せた?』
冬弥:あ、ああ……
冬弥:だが——
冬弥:真っ青とは……なんだかすごい色合いだな……。 それに、ケーキのいたるところが破裂しているみたいだが……
冬弥:これは……本当に成功したと言えるのだろうか……
ミク:『たしかに、すごい色だけど……。 悪くはないんじゃないかな』
冬弥:え……?
ミク:『前に聞いたことがあるんだけど、 海外のケーキには、こういう色もあるんだって』
ミク:『たしかに形はちょっとよくないかもしれないけど…… でも破裂してるってことは、 前と違って膨らみはしたってことでしょ?』
ミク:『だったらきっと、食感もふわふわになって、 美味しくできてるんじゃないかな』
冬弥:そ、そうだろうか……
冬弥:(だが……たしかに、ひとりで作った時とは まったくの別物だ)
冬弥:(形が綺麗にできなかったのは残念だが…… ミクの言うとおり、味に期待することはできるかもしれない)
冬弥:……わかった。では、これを神代先輩に食べてもらおう。 先輩も楽しみに待ってくれているようだからな
ミク:『じゃあ私はそろそろ戻るね。 冬弥、頑張って』
冬弥:ああ。ありがとうミク。 あとでセカイに行くから、その時に改めてお礼を言わせてくれ
青柳家 リビング
類:(オーブンタイマーの止まる音がしたし、 そろそろかな)
類:(フフ……とうとうできたみたいだね)
冬弥:——おまたせしました。神代先輩
冬弥:これが、作ったカップケーキです。 早速ですが、味見をお願いできますか
類:もちろんだよ。そのために来たんだからね。 さて、どんなものが……
類:——!?
類:(これは……一体……!?)
冬弥:す、すみません。形は悪くなってしまったのですが、 その……きっと味のほうは……
類:あ、ああ……。そ、そうだね。 見た目で判断するのは早計だろう……
類:……と、とにかく、味見をさせてもらおうか
冬弥:は、はい。よろしくお願いします
類:(いや……しかし……これは…… 改めて見ても、すさまじい見た目だね……)
類:(なんと言ってもまず、目を奪われる色合い……。 派手な青や紫、そして全体にまぶされたスプリンクルの カラフルな色合いが、驚くほどに食欲を失わせる……)
類:(それだけじゃない……。オーブンの中で破裂したせいか、 カップケーキの上部は大きく膨らみ、 一部が容器の外へとその中身を垂れ流している)
類:(ダムの放流を思わせる荒々しい見た目だが、 色合いもあってますます毒々しい……)
類:(およそ食べ物として認識したくない……。先ほどまで あったはずの空腹感がどこかへ逃げ去るような見た目だ)
類:(……だが、食べ物は見た目で判断できないはずだ。 まだ味に期待することはできる——)
類:——それでは、いただきます
類:——っ……!
類:(口にした瞬間に広がるじゃりじゃりとした食感……。 これは……溶けきらなかった砂糖か……)
類:(だが、ただひたすらに甘いというわけでもなく、 ところどころ薬のような苦みもある)
類:(それに表面には、非常に硬い箇所もあれば 柔らかすぎる箇所もあり……食感が良いとは言い難い……)
類:(一応、なんとか食べられないこともないが…… それでも、人に渡せるかというと難しいね……)
冬弥:どう……でしょうか
類:フフ……そうだね……。 ……なんというか……とても個性的な味だ
冬弥:個性的……
冬弥:……すみません。俺も、一口……
冬弥:うっ……!
冬弥:これは……ひどいですね……。 すみません。下げさせていただきます
類:いや……最後まで食べ切るよ。 せっかく青柳くんが想いを込めて作ってくれたものだからね
冬弥:神代先輩……
冬弥:……わかりました。 代わりに、何か飲み物を持ってきます
類:ああ。ありがとう。よろしく頼むよ
類:——ふう。ごちそうさま。 コーヒーありがとう。とても美味しかったよ
冬弥:いえ……。お湯を注いだだけのインスタントですので
冬弥:それよりも……すみませんでした。 まさか、あんな味になっていたなんて……
類:たしかに、大胆な味ではあったけれど…… 慣れないお菓子作りだったのだから、 そこまで落ち込む必要はないさ
冬弥:はい……
冬弥:……やはり、俺には難しかったのかもしれません
冬弥:ひとりで作っても失敗し、 人に教わりながらでもうまくいかなかった
冬弥:仮に、これから練習を重ね、多少はうまくなったとしても……。 当日までに、美味しいものが作れるようになるとは思えない
冬弥:こんなことでは、司先輩と咲希さんを喜ばせることなど……
類:…………
類:たしかに、今のままでは手作りのお菓子を 贈るのは難しいかもしれないね……
類:それでも、君が一生懸命だったというのは、 このお菓子からも伝わってきたよ
類:何より、君の……司くんと咲希くん、 ふたりを喜ばせたいという想いは とても強いものだと、これまで話していて感じたよ
類:もしここで諦めてしまったら、他のプレゼントを贈るとしても、 最後までやり切れなかったことを 後悔することになるんじゃないかな
冬弥:それは……そうかもしれませんが……
類:(だいぶ意気消沈しているようだね……。 仕方ないか……。二度目の失敗なわけだから)
類:(だが……)
司:実を言うと……冬弥は昔、あまり笑わないヤツだったんだ。 いつもどこか怯えて……不安がっていた
司:今はもう随分変わったとは言え、やはり兄貴分として、 冬弥にはもっと笑顔でいてほしいと思うのだ
類:(笑顔でいてほしい、か……。そうだね。 司くんほどではないだろうけど……僕もそう思うよ)
類:——そういえば君は、随分と司くんを尊敬しているようだね。 たしか……司くんと、それに咲希くんとは、幼馴染みだったかな
類:もしよかったら、君達の昔の話を聞かせてもらえないかな
冬弥:それは構いませんが…… どうして急に……?
類:少し、気分転換をしたほうがいいと思ってね。 何気ない話をしているうちに、 気持ちが明るくなることもあるだろう?
冬弥:それは……
冬弥:……わかりました
冬弥:前にも言ったかもしれませんが、俺と司先輩達は、 お互いの親同士が知り合いだったんです
冬弥:だから俺はときどき、先輩の家に預けられていて…… その時はいつも、司先輩が俺の面倒を見てくれていました
冬弥:……俺の父は名の知れた音楽家で、幼い頃は俺も、 クラシックの勉強ばかりをさせられていたんです
冬弥:だから、誰かと一緒に遊ぶことや、 誰かの家に遊びに行く機会はそうなくて……
冬弥:そのせいか、最初の頃は…… 預けられるのが怖いと感じていました
冬弥:けれど、そういう思いも 司先輩と一緒に遊ぶうちに少しずつ消えて…… そのうち預けられる日を楽しみに待つようになったんです
類:なるほど……。子供の頃の君にとって、 司くんと過ごす時間は、とても大切なものだったんだね
類:……そういえば、咲希くんの話が出なかったけれど、 彼女とはどのようにして過ごしていたんだい
冬弥:あ……咲希さんとは、あまり会う機会はなかったんです
類:ほう、そうだったんだね
冬弥:はい。幼い頃の咲希さんは病気がちで、俺が預けられる時も、 いつも家にいるわけではなくて……
冬弥:あ……もちろん、たまにですが咲希さんもいて、 3人で一緒に遊ぶ機会はありました
冬弥:そういう時は、一緒に絵本を読んだり—— 司先輩が、俺のためにショーをやってくれたこともありました
類:へえ、司くんが……
冬弥:はい。たしか……あの日の俺は、 直前の練習で父さんにひどく叱られていて……
幼い冬弥:…………
幼い咲希:とーやくん、なんだか今日は元気ないみたいだね……
幼い司:よーし! じゃあオレのショーで、冬弥を笑顔にするぞ! もちろん、咲希のこともな!
幼い司:咲希、ウマのぬいぐるみを持ってきてくれ!
幼い咲希:うんっ! ほら、とーやくんこっち! 一緒にお兄ちゃんのショー見よ!
幼い咲希:お兄ちゃんのショーすっごく楽しいんだよ! 見たら、とーやくんもきっとニコニコしちゃうから!
幼い冬弥:あ……は、はい……!
冬弥:それで俺は、いつの間にか司先輩のショーに夢中になって、 笑顔になっていました
冬弥:咲希さんも、たくさん笑っていて…… 見終わったあとは一緒に感想を言い合って——
冬弥:俺にとって、ふたりがいたあの場所は……
冬弥:とても……ほっとするような気持ちに させてくれる場所だったんです
類:……フフ、そうなんだね
類:僕にもよく伝わってきたよ。 話している時、とても穏やかな顔をしていたからね
冬弥:あ……
冬弥:そう、ですか……。 俺はそんな顔を……
冬弥:(……ずっと、変わらないんだな。 司先輩と咲希さん、おふたりと過ごした時間は、 いつだって俺を励ましてくれる)
冬弥:(やはり……ふたりに喜んでもらいたい)
冬弥:(——なら、落ち込んでいる暇はないな)
冬弥:……ありがとうございます。 神代先輩のおかげで、とても元気が出ました
冬弥:明日にでもまた、もう一度挑戦してみようと思います。 今度こそ、ふたりが心から喜んでくれるような、 美味しいお菓子を作れるように
類:それなら、完成したらまた食べさせてほしいな。 いくらでも味見をするよ
冬弥:……いいんですか?
冬弥:その……あんな味のものを食べさせてしまったのに……
類:ああ。君と——それに司くん達の笑顔のためだからね
冬弥:……ありがとうございます

第 7 话:何度でも

ストリートのセカイ
crase cafe
ミク:(冬弥……あのあとどうなったかな。 ちゃんと美味しいって言ってもらえてたらいいんだけど……)
MEIKO:ミク、おまたせ。コーヒーできたわよ。 砂糖とミルクはお好みでね
ミク:うん。ありがとうメイコ
KAITO:あ、よかったらこれも食べてみない? お試しで作ってみたフルーツケーキなんだけど……
ミク:へえ、イチゴにキウイ、パイン……。 カラフルで綺麗だし、それに美味しそうだね
KAITO:うん! お菓子は見た目も大事だしね
ミク:見た目も……
ミク:(……冬弥と作ったケーキは見た目が悪くなっちゃったけど…… やっぱり、そこも気をつけなくちゃダメだったんだ)
ミク:(でも、なんであんな風に形が崩れちゃったんだろう……)
KAITO:あとね、今回は生地のふわふわ感にこだわってみたんだよ!
ミク:……そうだよね。ケーキは食感が大事だもんね
KAITO:そうなんだよ! いかに生地をふんわり膨らませるかは、 お菓子作りの醍醐味でもあるんだよね
ミク:膨らませたいなら、ベーキングパウダーを たくさん入れればいいんじゃないの?
KAITO:あー、それはあんまりよくないかな。 入れすぎると、生地が膨らみすぎて破裂しちゃうこともあるしね
KAITO:食感も悪くなって美味しくなくなるし、 下手すると、ケーキが苦くなっちゃうこともあるんだ
ミク:そ、そうなの?
ミク:(どうしよう。私、冬弥に 間違えたこと教えちゃったのかな……)
KAITO:ミク、どうしたの? 急に黙り込んじゃって……
ミク:あ……えっと、実は……
ミク:大切な人に贈りたいから、カップケーキの作りかたを 教えてほしいって冬弥に言われたんだけど……
ミク:ちゃんと教えられてたか、 今更だけど、少し心配になってきちゃって
KAITO:……教えたって、ミクが……?
ミク:え、そうだけど……何?
MEIKO:——そう……ミクが……料理を……
KAITO:これは……もしかすると、 とんでもないことになってるかもしれないね
冬弥の部屋
冬弥:ふう……
冬弥:(慣れないことをしたせいか、今日は疲れたな……)
冬弥:(それに、神代先輩には悪いことをしてしまった……。 あんな味のお菓子を食べさせてしまうとは……)
冬弥:(だが……次こそは美味しいものを作りたいな……)
冬弥:(っと、そうだ……。 ミクにお礼を言いに行かなくては……)
ミク:『——冬弥、今いい?』
冬弥:——ミク……それにカイトさんまで。 どうしたんですか
ミク:『今日のこと、早く聞きたくて。 ほら、結局どうだったのかなって』
ミク:『それで冬弥に会いに行くって話したら、 カイトもついてきたいって言って』
KAITO:『あはは。まあ、その、 ちょっと冬弥くんの様子が気になってね』
冬弥:そうだったんですか……? でもちょうどよかったです。 俺も今、セカイへ行こうとしてたところだったので
冬弥:ミク、今日はありがとう。 いろいろと指導をしてくれて
ミク:『うん、それはいいんだけど…… あのお菓子、味はどうだった?』
冬弥:あ……それは……
冬弥:……あのカップケーキは、美味しいとは言えなかった
ミク:『……そっか。そうだったんだ……』
冬弥:すまない。俺がミクの指示を正しく汲み取れなかったのが 問題だったのだろう……
ミク:『ううん。そうじゃないと思う』
ミク:『さっき、カイトと話してて思ったんだ。 ケーキを美味しく作る時のコツ、知らないことや 勘違いしてることがあったのかもって』
ミク:『だから、きっとそのせいで失敗しちゃったんだと思う。 ——ごめんね、冬弥』
ミク:『……味見をしてくれたって人にも、 申し訳ないことしちゃったな』
冬弥:ミク……
冬弥:本当に気にしないでくれ。 ミクが、助けになろうと頑張ってくれたのはわかっている
冬弥:その気持ちだけでも、とても嬉しいんだ
ミク:『冬弥……』
KAITO:『まあ、そんな落ち込まなくてもいいんじゃないかな! お菓子作りって、最初はなかなか難しいものだと思うしね』
KAITO:『それで……冬弥くん、このあとどうするの? お菓子作りは続けるのかな』
冬弥:はい、もちろん。大切な恩人のためですから
KAITO:『そっか……』
KAITO:『……よーし! じゃあ、今度はボクが力を貸すよ!』
冬弥:カイトさんが? しかし、忙しいんじゃ……
KAITO:『大丈夫! レンにはもう、十分教えたしね』
ミク:『え? レンがどうかしたの?』
KAITO:『あっ……いやいや、なんでもないよ!』
KAITO:『と、とにかく、ボクのことは気にしなくていいから! 今日はもう遅いし、明日、セカイで一緒に作ってみようか』
KAITO:『メイコにも、キッチンを貸してもらえるように話しておくよ!』
冬弥:ありがとうございます。 ……よろしくお願いします!
冬弥:(……今度は、カイトさんが力を貸してくれるのか……。 頼もしい限りだ)
冬弥:(……思えば、俺はいつも誰かに助けてもらっている)
冬弥:(力を貸してくれるみんなのためにも…… 今度こそ、成功させたいな)
翌日
crase cafe
KAITO:それじゃあ、冬弥くん。 カップケーキ作り、始めようか!
冬弥:はい、よろしくお願いします
MEIKO:ふふっ、頑張ってね、ふたりとも
冬弥:……すみません。メイコさん。 お店のキッチンを借りてしまって
MEIKO:いいのよ、せっかく冬弥くんが頑張ろうとしてるんだもの。 応援しないわけにはいかないわ
リン:がんばってね冬弥くん! 完成したら、わたしにも食べさせてね!
ルカ:あ、私も私も! 味見ならいくらでもするよ!
MEIKO:あらあら、賑やかになってきたわね
ミク:ねえカイト、ちょっといいかな
KAITO:ん? どうかした?
ミク:……私も一緒に教わりたいんだけど、いい?
KAITO:えっ……
ミク:その、昨日からずっと考えてたんだけど……
ミク:もしかしたら私、思ったより料理できないのかもって
ミク:昨日はそのせいで冬弥に迷惑かけちゃったから
ミク:私も次は、ちゃんと教えられるように きちんとした作りかたを知っておきたいって思ったんだ
KAITO:……ああ。もちろんいいよ!  一緒に頑張ろう、ミク!
ミク:うん
KAITO:う~ん、なるほど……。冬弥くんの話を聞く限り、 やっぱり膨らまない原因は、混ぜかたにある気がするなぁ
KAITO:お菓子は繊細だからね。 混ぜかたひとつで仕上がりが全然違ってきちゃうんだ
冬弥:では……ミクの指摘は正しかったんですね
KAITO:うん! いいところに気がついたと思うよ!
KAITO:ただ……そうだね。実際どういう風に混ぜていくかは、 教わらないとよくわからないよね
KAITO:今回はそこに注意しながら、一緒に作っていこっか
KAITO:メレンゲを作るには、卵白に砂糖を何回かにわけて入れて…… それから、ツノが立つまで泡立てるんだ
冬弥:ツノ……。 なるほど、たしかにそう見えるな……
ミク:うん。ピンと伸びてて、なんだか綺麗だね
KAITO:でしょ?  メレンゲができたら、 卵黄のボウルに入れて混ぜていくんだけど……
KAITO:その時は、気泡がつぶれないよう、 さっくり切るみたいに混ぜ合わせるんだよ
KAITO:そうすると、仕上がりもふわふわした食感になるからね。 じゃあ冬弥くん、やってみようか
冬弥:は、はい……!
MEIKO:……ふふ
ルカ:あれ、メイコ、どうかした?
MEIKO:ん? なんだか、一生懸命でいいなって思って
MEIKO:それじゃあ……そろそろ、コーヒーの準備をしようかしら
ルカ:ほんと? じゃあ私、砂糖とミルク、たっぷりで!
MEIKO:わかったわ。リンとレンも飲むわよね?
レン:うん!
MEIKO:とびっきりのケーキが来るんだから—— コーヒーも、とびきり美味しいのを用意しなくちゃね

第 8 话:ほっとする場所

数日後
神山高校 屋上
類:わざわざこうして呼び出してくれたということは…… ついに、完成したということかな
冬弥:はい。ようやくですが、 味見していただくに足るものが作れました
冬弥:どうぞ、これを……。 簡単な包装しかしていなくて申し訳ありませんが
類:いや。ありがとう
類:……それでは……開けさせてもらうよ
類:(ふむ……。見た目は、いたって普通のカップケーキだね)
類:(けれど驚いたな。 前の物より、随分と綺麗な見た目になっている……)
類:(爆発もしていなければ、毒々しい色にもなっていない。 少し形が大きすぎて不格好なところはあるけれど…… でも表面はこんがりと綺麗なきつね色だ)
類:(それにこの……ふわりと甘い、バニラの香り。 優しく鼻から抜けて……ふふ、胃に直接届くようだよ。 とても食欲をそそる……)
類:(彼の、不器用だけれど繊細で優しい心を表現するかのような…… 素朴な魅力のあるカップケーキじゃないか)
類:(味のほうは……どうなっているかな)
類:——それでは……いただきます
類:ふむ……これは……
類:(口にした瞬間に感じる生地のふわふわ感…… それでいてパサつきはなくて、舌触りもいい)
類:(甘さは控えめながら、 優しいバニラの香りが鼻腔をくすぐる……)
冬弥:どう……でしょうか
類:ああ、そうだね——
類:とても美味しいよ
冬弥:——あ、ありがとうございます……!
類:フフ、随分と腕を上げたね。 この味なら、司くん達もきっと喜んでくれると思うよ
冬弥:あ、はい。そうですね……。 いざ渡すことを考えると、やはり少し緊張してしまいますが
類:気持ちはわかるけれど、 そんなに構える必要はないんじゃないかな
類:君が幼い頃、司くん達にしてもらったことで 一番嬉しかったことはなんだい?
類:——自分を笑顔にしようと 彼らが行動してくれたこと、なんじゃないかな
冬弥:あ……
冬弥:(たしかに……そうかもしれないな)
冬弥:(あの時も、ふたりは俺を励まそうと行動してくれた)
冬弥:(ショーも素晴らしかったが、 何より俺が嬉しかったのは、ふたりの心づかいだった)
冬弥:(誰かを笑顔にしようと頑張る人の姿は、 俺にはいつもまぶしく見える……)
冬弥:(そしてそれは、きっと……今の俺も……)
冬弥:……ありがとうございます、神代先輩。 おかげで、勇気が出ました
類:ああ。役に立てたなら、よかったよ
冬弥:そうだ。あと——これを……神代先輩に
冬弥:少し早いですが、ホワイトデーの贈り物です。 先輩にも、とてもお世話になりましたから
類:これは……とても丁寧にラッピングされているね。 何が入っているのかな?
冬弥:こちらもカップケーキです
冬弥:ただ、チョコレートを入れて、 少しだけアレンジを加えてみました。 神代先輩のお口に合うといいのですが……
類:試食したケーキも美味しかったからね。 きっと大丈夫だと思うよ。 ありがとう、青柳くん
類:——司くん達に渡すカップケーキも、 喜んでもらえるといいね
数日後 日曜日
天馬家 リビング
咲希:お兄ちゃん! お皿、もう準備した?
司:うむ! テーブルクロスもばっちりだ! 料理のほうはどうだ? ビーフシチューはしっかり煮込まれているか!?
咲希:バッチリ! ——って、そのテーブルクロス、裏表逆じゃない!?
司:なにっ!? ほ、本当だ! タグが丸見えだ! オレとしたことが……
咲希:も~、早く直さないと とーやくん来ちゃうよ~!
司:そ、そうだな。いや、しかし大丈夫だ。 約束の時間まではまだ——
司:さ、咲希! テーブルクロスを直しておいてくれ! オレは鍵を開けてくる!
咲希:う、うん……!
司:今開けるぞー! 冬弥ー!
冬弥:おじゃまします。 今日はお招きいただき、ありがとうございます
咲希:こっちこそ、来てくれてありがとう~! ごはん、がんばって作ったから、楽しみにしててね!
司:うむ! それでは……冬弥も来たことだし、 早速ではあるが、パーティーを始めていくとするか!
冬弥:あ……その前に……
司:む? どうした?
冬弥:いえ、すみません。お渡ししたいものがあったのですが……… やはり食事の後にしようかと思います
咲希:わっ、サプライズってこと? なんだろう、楽しみだな~
司:ほう、よくわからんが…… では、パーティーを始めるか!
冬弥:ふう……ごちそうさまでした。 ……とても、美味しかったです
司:そうか! 喜んでもらえて何よりだ!
冬弥:はい。特に、メインのビーフシチュー……
冬弥:よく煮込まれていて、牛肉や野菜がとても柔らかく…… それに、ルー全体に豊かな風味とコクがあって、 素晴らしい味でした
咲希:そっか、よかった~。ちなみに、ビーフシチューは アタシとお兄ちゃん、ふたりで一緒に作ったんだ
司:焼いたり煮込んだりは咲希が、 オレは……野菜を洗って切ったぞ!
司:そうだ冬弥、マリネのほうはどうだった? あれはほとんど咲希が作ってくれたんだぞ
冬弥:そうだったんですか。玉ねぎのピリリとした辛さと レモン汁のさっぱりとした風味がよく絡み合っていて、 とても美味しかったです
咲希:え、えへへ……。なんだか照れちゃうね
冬弥:おふたりとも、素敵な料理を 本当にありがとうございました
司:では、食事もすんだことだし そろそろゆっくりお茶にするか
咲希:うん! とーやくん、お母さんがもらってきた、 おいしい紅茶があるんだ。 今いれるから、ちょっと待っててね!
冬弥:あ……すみません。その前に、 おふたりにお渡ししたいものがあるんです
咲希:あ、もしかして、来た時に言ってたやつ? なになに? ずっと気になってたんだ!
冬弥:その、これなんですが……
冬弥:……よければ、受け取ってください
咲希:——あ、これって……
司:おお! うまそうなカップケーキだな!
咲希:あれ? しかもこれって……手作り? もしかして、とーやくんが作ったの?
冬弥:はい。お口に合えばいいんですが……
司:なっ……
司:な、ななな、なにいーーーー!? 冬弥が、手作りのお菓子だとー!!!?
咲希:わあ! ほんと? ありがとう! すっごく、すっご~~~く嬉しいよ!
冬弥:あ……はい……。 喜んでもらえて、よかったです
司:しかし、冬弥……いつの間にこんなうまそうな お菓子が作れるようになったんだ……?
冬弥:いえ、実は、俺ひとりの手で作ったわけではないんです
冬弥:たくさんの人に協力していただいて…… いろいろありましたが、こうして完成させることができました
司:そうか……。オレ達のために…… きっとたくさん、頑張ってくれたんだな
冬弥:ですが、俺のためにいろいろと準備をしてくれたのは おふたりも同じですから——
冬弥:……本当に、感謝しています
司:冬弥……
咲希:とーやくん……
咲希:……アタシ、急いで紅茶の準備してくる! はやくみんなで食べたいもん!
司:ああ! 同感だ! 冬弥、カップケーキを皿に移すのを手伝ってもらえるか?
冬弥:はい、もちろんです
咲希:えっと、これはチョコチップが入ってて…… こっちは抹茶かな?
咲希:カップケーキ、いろんな種類があるんだね! なんだか見てるだけで楽しいな~♪
司:ああ、そうだな。 ……むっ! 見ろ、咲希! これにはイチゴがのっているぞ!
咲希:あ、ホントだ! アタシ、それ欲しいな~!
司:いいだろう、受け取れ! だが、代わりにオレは、このブルーベリーをもらうぞ!
咲希:はい、じゃあブルーベリーね♪ とーやくんはどれにする?
冬弥:あ、俺は……この抹茶入りのを。 自分用に、甘すぎないものをと思って用意したんです
咲希:そうなんだ! ……それじゃあ、みんな自分の食べる分取ったかな?
司:ああ! では……作ってくれた冬弥に感謝を込めて……
咲希・司:『いただきます!』
司:——うまい、うまいぞ冬弥! 今度はこのチョコチップのものをもらっていいか!?
咲希:あ、お兄ちゃんずるい! アタシも食べたいな~
司:それなら半分こにするか! ほら、半分!
咲希:わ、ありがとうお兄ちゃん! えへへ、嬉しいなぁ
咲希:そうだ、とーやくん。紅茶のおかわり、いる?
冬弥:あ……はい。お願いします
司:それにしても、なんだか懐かしいな。 こうして手作りのお菓子を食べていると、昔を思い出す
咲希:あ! そういえば、昔よく、 お母さんが家でお菓子を焼いてくれたりしたよね
冬弥:俺も、よく覚えています。 子供の頃、ここでお菓子をごちそうになったこと、 おふたりと一緒に遊んだこと……
冬弥:どれも俺にとっては、かけがえのない大切な思い出です
司:冬弥……
司:——無論、オレにとってもそうだ。 それに今日この日もな
咲希:うんっ! とーやくんが手作りのお菓子を贈ってくれて…… みんなで一緒に食べて…… 最高の思い出になったよ!
咲希:それと——
咲希:これから先も、こうやって3人で集まれたら…… すっごく、すっごーく嬉しいな!
司:——そうだな! いくつになっても、 こうやって3人で楽しい時間を過ごしたいものだな
冬弥:はい……。そうですね
冬弥:(……不思議だな)
冬弥:(子供の頃から何も変わらない……。 ここに来るといつも……とても安らいだ気分になる)
冬弥:(昔は、よく心細さを感じていた。 俺の気持ちをわかってくれる人なんて、 誰もいないような気がして……)
冬弥:(——今は、俺の気持ちをわかってくれる かけがえのない相棒と仲間がいる。 そのおかげで、もうあの頃のような心細さを感じることはない)
冬弥:(だが……それでも……)
冬弥:(今感じている、このほっとするような気持ちが、 俺をずっと支え続けてきてくれたんだな……)
冬弥:(今日の贈り物で、 少しはこれまでの恩を返すことができただろうか……)
冬弥:(わからないが……でも——)
冬弥:(おふたりが喜んでくれて、本当によかったな)