活动剧情
カナリアは窮境に歌う
活动ID:95
第 1 话:カナリアになるために
寧々の部屋
寧々:♪————
寧々:……うん、歌のほうは大丈夫かな。 いつもより高音も綺麗に出せてる感じがする
寧々:やっぱり、課題は演技だよね
寧々:……よし。 もう一度頭から通してみよう
寧々:(——まずは、リオと初めて話すシーン)
寧々:『え……えっと……、 歌を褒めてくれてありがとう』
寧々:『歌うことは大好きなの……。 だって、私にとって歌は言葉と同じだから』
寧々:『……ううん。言葉より、もっと大切なもの、かも……。 私は話すのが下手、だし——』
寧々:……やっぱり、なんか違う
寧々:(30周年記念公演の稽古が始まってから、もう結構経つ)
寧々:(ふたりの演技を見て、わたしもやらなくちゃって……、 できることは全部しなくちゃって思って……)
寧々:(司がやってたみたいに、わたしも自分の役—— 『臆病なカナリア』になるために、いろんな練習をした)
寧々:(公園で木にとまってる鳥を見てみたり、 気持ちを考えて歌ってみたり……)
寧々:(おかげで、稽古が始まったばっかりの時よりは 役を自分の中に落とし込めた感じがする)
寧々:でも……
寧々:(わたしはまだ、あんな風に演じられる気がしない)
寧々:(あんな風に……見てる人に、 『この役は本当に生きてるんだ』って思わせられるようには……)
寧々:……だからって、落ち込んでてもしょうがないよね
寧々:(明日からは、本格的に 『臆病なカナリア』が活躍するシーンの稽古が始まる)
寧々:(本当はそれまでに、自分が納得できるくらいには 役を掴んでおきたかったけど——)
寧々:今のわたしじゃ、まだまだだ。 だから……
寧々:明日からは、稽古をとおして役作りのヒントを探していこう
寧々:それで、本番までには……必ず。 必ずわたしも、完璧な『臆病なカナリア』になってみせる
寧々:あのふたりに、並べるくらいの——
翌日
フェニックスステージ
演出家:さて、予告していたとおり、 今日からはリオがフェニックスを追いかける中で、 森の鳥達と出会っていくシーンの稽古に入る
演出家:ではまず冒頭。 リオがカナリアを発見するところから
演出家:——始め!
司:『ううっ……また見失った……』
司:『このままじゃフェニックスを捕まえるどころか、 追いつくことさえできないよ……』
司:『……はあ。 あいつみたいに、僕にも翼があったらなあ……』
司:『——あれ? 向こうの木の上に、何かいる』
司:『……あれって……』
えむ:(ここからだ! リオが初めてカナリアの歌を聴くシーン!)
えむ:(寧々ちゃん、どんな風に歌うんだろ? 楽しみだな~っ)
寧々:(……この時のカナリアは、リオがいることに気づいてない)
寧々:(だから、好きなように歌うんだ。 自分の気の向くまま、楽しく)
寧々:(それで、その素直な歌がリオの心に響く——)
寧々:『♪————』
えむ:わあ、とっても、きれいな声……! 本物の小鳥さんみたい!
類:ああ。カナリアという役に相応しい、澄んだ歌声だね。 役のことを分析した甲斐があったみたいだ
櫻子:…………
司:『この歌、あの鳥が歌ってるのかな……?』
司:『……綺麗だな。 もっと近くで聴きたい……』
寧々:『♪————……』
寧々:『な、何っ!? 誰かいるの……!?』
司:『あっ……ごめんよ、驚かせて! 僕はただ——』
寧々:『こっ……こないでっ!』
寧々:『あっ……、ご、ごめんなさい。 でもっ……お願い……あっちへ行って』
寧々:『人間は——嫌いなの。 私を……いじめるから……』
演出家:——そこまで
演出家:リオ。 カナリアに拒絶された時の演技は大袈裟すぎる
演出家:大振りな芝居は観客に役の感情を伝えやすいが、 悪目立ちしやすいという欠点もあるから注意するように
司:はいっ、ありがとうございます!
寧々:(今の司の演技…… わたしは臨場感があってすごくいいと思ったのに、 それでも言われることがあるんだ……)
寧々:(だったら、わたしは…… どれだけ指摘されなきゃいけないことがあるんだろう)
寧々:(冒頭の歌は練習どおりうまくやれたけど……演技の部分は……)
演出家:次にカナリアだが——
演出家:——演技は、悪くなかった
寧々:えっ……
寧々:ほ……本当ですか……!?
演出家:ああ。間の取りかたは、 カナリアの性格をよく表現できていたと思う
演出家:あとは息の使いかただな。 臆病な性格だとどのような発話の仕方になるか意識すれば、 もっと繊細な表現ができるようになるだろう
寧々:あ……ありがとうございます……!
演出家:と、演技については以上だが——
演出家:歌は、今のままでは駄目だな
寧々:…………え?
演出家:この劇でのカナリアの歌唱は2曲で、 特に2曲目はリオとフェニックスの感情を突き動かす 重大な曲だが——
演出家:今のままでは、その曲でも観客の胸を打つことができないだろう。 それくらい、草薙くんの歌はこの劇から浮いている
寧々:浮いてる……。わたしの歌が……?
演出家:シーンとセリフのつながりを意識して、 次の稽古までにこの劇においてのカナリアの歌いかたを 研究してくるように
演出家:……それでは次のシーン、森の主オオワシ!
大森:はいっ!
寧々:あ……
寧々:(……どういうこと?)
寧々:(歌が『浮いてる』、って……)
第 2 话:譲れない想い
フェニックスステージ
えむ:みんな、お疲れさま~っ! 午前中の稽古も、わんだほいだったね~!
司:ああ。 特に寧々のカナリアが初登場するシーンはとてもよかったな!
司:臆病な性格が表現された、繊細な演技だった!
えむ:うんうんっ、あたしもそう思った! 演出家さんも、いつもムスーってしてるのに、 『悪くない』って言ってくれたし!
類:いつも夜中まで練習していた甲斐があったね
寧々:…………
えむ:寧々ちゃん……
類:……やはり、歌のことが気になっているのかい?
寧々:……演技が悪くないって言われた時は、嬉しかったんだ
寧々:わたしのお芝居はまだまだで、 これからもやらなきゃいけないことは、 たくさんあると思ってるけど……
寧々:みんなにも協力してもらったりして、 今日までいろんな方法でたくさん練習してきたし、 少しはその成果があったって思えた
寧々:思えた、けど……
寧々:歌が駄目だって言われたことが、 それ以上に、ショックで……
司:寧々……
えむ:……そうだよね
えむ:寧々ちゃんは、すごく歌上手だし…… 今までのショーでも、とっても大事にしてたもんね
寧々:……うん
寧々:……多分わたし、自分で思ってたより 歌に自信があったんだと思う
寧々:だから……正直、演技より歌のほうを 指摘されるなんて思ってもみなくて……
寧々:もちろん、歌を練習してなかったわけじゃないよ。 演技の特訓ほどしっかりやってたかって言われると…… ちょっと微妙だけど
寧々:それでも、今回の舞台に向けていつも以上に練習してた。 それなのに……
寧々:『駄目』なんて——
寧々:(……この前から、ずっと焦ってた)
寧々:(少しブランクはあるけど…… 同い年くらいの人に比べると、ステージ経験がある)
寧々:(それなのに……)
寧々:(あとから舞台に立った司はどんどん伸びていって…… 気づいた時にはもう、すぐ近くに来てた)
寧々:(でも、それでも—— わたしは歌に自信があったから……)
櫻子:とにかく、私達のライバルとしては認めてあげないこともないわ! 次もいいショーを作ることねっ!
寧々:(歌だけは青龍院さんも認めてくれて……、 わたしの得意なもので、わたしの武器なんだって)
寧々:(演技はまだまだでも…… 歌でなら、ふたりに負けないくらいの役者でいられるって)
寧々:(……どこかで、そう思ってた)
寧々:(でも……)
演出家:歌は、今のままでは駄目だな
寧々:(……このままじゃ駄目だ)
寧々:(このままじゃ、カナリアになれない。それに……)
寧々:(わたしの、夢にも——)
類:……寧々、大丈夫かい?
寧々:…………
寧々:……このまま、中途半端にしたくない
えむ:えっ?
寧々:わたしにとって歌は…… えむの言ってたとおり、すごく大事なもので——
寧々:唯一自信がある、ただひとつの武器なの。 だから——
寧々:だから——っ
寧々:本番までに、なんとかしなきゃ……
寧々:なんとかして——、 カナリアの歌声を、手に入れなきゃ……!
司:寧々……
寧々:(わたしの演技力は、役者として本当に平凡だ)
寧々:(それがわかってるから、 少しでも近づけるようにってやってきたし、 これからも頑張らなきゃって思ってる。でも……)
寧々:(でも、歌だけは——)
寧々:(歌だけは、負けたくない。だから——)
寧々:(——やれることは、全部やらなくちゃ)
寧々:ごめん、みんな!
えむ:えっ……どこ行くの寧々ちゃ——
寧々:あ、あの……、休憩中にすみません、演出家さん! さっき指摘されたことの詳しい話を聞きたくて……
寧々:わたしの歌が浮いてるっていうのは…… どういうことなんでしょうか?
類:……どうやら、火がついたようだね
司:ああ、そのようだな
類:しかし、歌について指摘をもらえたのはありがたいな
類:僕は歌唱については、 あまり技術的なアドバイスはできないからね
司:たしかに、オレ達は歌のことについては 寧々に教わることが多かったしな
えむ:寧々ちゃんが、あたし達の中でいっちばん上手だもんね!
類:うん。けれどフェニックスステージは、 演技だけではなく歌唱の指導にも力を入れている……
類:きっと、僕達でやっているだけではわからない、 専門的な部分を教えてもらえるだろう
類:普段と違うメンバーでやると、こういった学びがあっていいね
えむ:あ……
類:今回の公演が、寧々の大きな成長に繋がるといいな
えむ:——うん
えむ:寧々ちゃん、この公演のために 演技も一生懸命練習してたもんね
えむ:だからきっと本番までには歌も、 すっごくすっごくすっご~く上手になって、 スペシャル寧々ちゃんになってるよね!
司:……そうだな
司:オレ達に助言できることは少ないかもしれんが、 できることは協力しよう。そして……
司:臆病なカナリアが、さらに美しい歌声を響かせるその時を、 楽しみにしようではないか!
えむ:うんっ!
数十分後
演出家:では、午後の稽古を始めるぞ
演出家:さっきの続き、湖のシーンから——
寧々:(休憩時間いっぱい、演出家さんと話ができてよかった)
寧々:(でも——)
演出家:端的に言うと草薙くんは、劇の全体像を捉えられていない
寧々:劇の全体像を……
演出家:それがさっき言った、『浮いている』という体感の本質だ
演出家:草薙くんの歌は、それ単体なら 誰かの胸を打つことができるかもしれない
演出家:だが、それは『臆病なカナリア』の歌ではなく——
演出家:『草薙寧々』の歌だ
寧々:っ……
演出家:その歌いかたを改善しない限り、 カナリアが歌うシーンは『ハッピーフェニックス』ではなく、 お前のリサイタルになるだろう
寧々:——、それって……
寧々:わたしの歌が、 この劇を壊すかもしれないってことですか……?
演出家:そういうことだ
演出家:この問題を解決するのは、そう簡単じゃない。 自分に染みついた癖の矯正も必要になってくるからな
演出家:しかも、そういった癖は、 まず自覚することが難しいし、自覚できたとしても 長いあいだ『正しい』と信じてきたものを疑うことになる
演出家:……それは、想像よりもずっとつらいことだ。 それでも、もう一歩前に進む覚悟があるのなら…… まずは、自分の癖を研究するべきだな
寧々:(今まで、そんなの……考えたことなかった。 今の歌いかたが、一番わたしに合ってると思ってたから)
寧々:(……でも)
演出家:しかも、そういった癖は、 まず自覚することが難しいし、自覚できたとしても 長いあいだ『正しい』と信じてきたものを疑うことになる
寧々:(それでも、わたしの歌いかたが劇を壊しちゃうなら——)
キャスト達:ねえ、始まるわよ。 オオワシのあのシーン
キャスト達:ああ、楽しみだな
寧々:え……
大森:『さあさあ諸君、この歌を聴くといい。 立ち上がる勇気と、目が眩むような希望を与えよう』
大森:『そうして踊り明かそうではないか! この暗い闇を振り払うように!』
大森:『♪————~~!』
寧々:…………!
第 3 话:ステージに懸けるもの
フェニックスステージ
大森:『♪————~~! ♪————~!』
寧々:(すごい……)
寧々:(森の主のオオワシらしい、力強くて威厳のある声なのに 踊りだしたくなるような楽しさもあって……)
キャスト達:大森さん、仕上げてきたわね
キャスト達:威厳を見せつつもコミカルな立ち回りをする役って いつもの大森さんのイメージとは違うのに、すごいよな
キャスト達:すごいと言えば、西江さんもじゃない? あの、悪意がちょっと滲んだ歌いかた…… まさに魔女って感じで、ぞっとしちゃった
寧々:(今回の公演は、 主要な役と鳥の役にはそれぞれメインとなる歌がある)
寧々:(演技だけじゃなくて歌唱にも力をいれてる フェニックスステージらしい脚本で……)
寧々:(だからこそ今回の記念公演の演目にも選ばれて—— お客さんも、キャストの歌を期待してきてる)
寧々:(……それなのに……)
寧々:わたしの歌が、 この劇を壊すかもしれないってことですか……?
演出家:そういうことだ
寧々:(わたしの歌で、駄目にするわけにはいかない)
寧々:(……向き合わなきゃ。向き合って、勉強しなきゃ)
寧々:(癖を直さなきゃいけないのもそうだけど、 大森さんみたいな、うまい人達の歌を聴いて どんな小さなことでもいいから気づいて、勉強して)
寧々:(そうやって頑張れば、きっと——)
櫻子:『仕方ないわね』
櫻子:『ここで乗らないのも興醒めでしょう。 ……だから、特別に歌ってあげる』
櫻子:『全身で受け止めなさい。 私の高貴にして崇高なる歌声を』
櫻子:『♪————』
寧々:————っ!
キャスト達:……さすが櫻子。やるわね
キャスト達:本当。 今回も絶好調だわ
寧々:(どうして……)
寧々:(どうして、こんなに心に響く歌が歌えるんだろう)
寧々:(ここは、フェニックスが 助けてくれたオオワシに感化されて歌うシーンだけど…… 最初の登場シーンとは、声色が全然違う)
櫻子:『♪————』
寧々:(高飛車なフェニックスがリオとの交流をとおして、 周りの鳥達にもほんの少しだけ心を開いてきてるのがわかる)
寧々:(すごく繊細な表現……なのに、すごく自然。 心にすっと入ってくる——)
寧々:(すっ、と——……)
櫻子:とにかく、私達のライバルとしては認めてあげないこともないわ! 次もいいショーを作ることねっ!
寧々:(あの時、あんな風に言われて……、 『わたしは、あの青龍院櫻子に並べたんだ』なんて……思ってた)
寧々:(でも……気づいたら、 いつの間にか、背中さえ見えなくなってて——)
寧々:(一生懸命やってきた……つもりだった)
寧々:(でも、わたしはどこかで勝手に自信を持ってて…… 自惚れてたんだ)
寧々:(全然……全然、まだまだ足りてないのに)
寧々:(そんなだから、どんどん差が開いていって、 それにも気がつかなくて、今やっと……)
寧々:……本当に、馬鹿だ……
櫻子:『♪————』
寧々:…………でも
人魚姫:『未知の世界へ飛びこむのはとても怖いけれど、 恐怖に負けてどこにも行けないのは、もっと嫌!』
人魚姫:『私は、陸に行くわ! あの人に会いに——!』
寧々:それでも……、それでも、わたしは——
人魚姫:『♪————!』
幼い寧々:…………!
寧々:(諦めたくない……!)
寧々:(……青龍院さんの歌を聴いてると、 わたしの実力を思い知らされてるみたいで……すごく、苦しい)
寧々:(でも……でも……!)
寧々:(全部受け入れないと、きっと前に進めない……!)
寧々:(だから、ちゃんと聴くんだ。聴いて、見て—— わたしに足りないところを勉強させてもらわなきゃ)
寧々:(司だって、自分に一生懸命向き合って リオの役を勝ち取ったんだから)
寧々:(わたしも—— わたしも全力で向き合って、この舞台を成功させる)
寧々:(みんなの実力に追いついて——、 絶対に、『臆病なカナリア』をやりきってみせる……!)
櫻子:『♪————!』
第 4 话:思いがけない応援
数日後
寧々の部屋
寧々:♪————
寧々:————……
寧々:(あのあと……歌いかたの癖について考えてみたり、 みんなに聴いてもらったりした)
寧々:(でも——)
寧々:♪————……
寧々:って感じなんだけど……。 何か癖みたいなもの……感じる?
司:そうだな……
えむ:あたし、気になるところなかったなあ。 いつもどおり、寧々ちゃん歌うまいな~って、 きれいな歌声だな~って思ったよ!
類:そうだね……。 僕もこれといって指摘できるポイントは見つけられなかったよ
類:司くんは、どうだい?
司:ううむ……。 この前のワークショップで歌唱の稽古もあったのだが……
司:その時にオレや他の役者が注意されていたことが、 寧々に当てはまるようには思えない
寧々:ちなみにそれって、どういうものなの?
司:『歌い出しの音がぼやけている』とか、 『歌詞が聴き取りにくい』というものだったな
えむ:……たしかに、寧々ちゃんには当てはまりそうにないね
寧々:そっか……
類:あとは歌いかたの癖というと、 ビブラートの入れかたや、しゃくりなんかも一般的だけれど…… それらしいものも見当たらなかったな
類:寧々はステージ経験も豊富だし、歌唱技術も確かだ。 となると……もしかしたら『癖』というのは、 技術に関することじゃないのかもしれないね
寧々:技術に関することじゃない……か
寧々:……ありがとう。 みんなも自分の役のことがあるのに、相談に乗ってくれて
寧々:あんまり時間取ってもらうのも悪いし、 あとは自分で、もう少し考えてみるね
寧々:(……結局、癖についてはわからないままだった)
寧々:演出家さんが言ってたとおり、簡単にはいかないな……
寧々:って、外が明るくなってる……。 ずっと練習してたから気づかなかった
寧々:今何時だろう。スマホ——
寧々:——えっ、メッセージ未読30件!? ワンダーランズ×ショウタイムのグループだ……
寧々:も、もしかして、 わたしの気づかないうちに何かあったのかな……
寧々:あれ? 動画がきてる……
えむ:『寧々ちゃ~ん! こ~んにちは~っ!』
えむ:『歌の練習はどうですかっ!? ひとりで寂しくない?』
えむ:『あっ、でもおうちにネネロボちゃんがいるから大丈夫かな!?』
司:『こら、えむ! 早速脱線しているではないか!』
司:『——コホン。 今日は、頑張る寧々のために、動画を撮ってみたぞ!』
類:『ぜひ見てもらえると嬉しいな。 それでは、イッツショータイム!』
寧々:ふふっ、何この動画。 ぬいぐるみがいっぱい出てきて、可愛い——
ミク:『やっほ~、寧々ちゃ~んっ☆』
寧々:もう、ミク達まで巻き込んで……
リン:『寧々ちゃんっ、リン達も公演楽しみにしてるよ☆』
KAITO:『公演が終わったら、また遊びに来てね。 みんなでお疲れさま会をしようって話していたんだ』
MEIKO:『寧々ちゃんの悩みが解決して、最高の公演ができますように!』
寧々:みんな……
えむ:『えへへ……あたし達み~んな、 寧々ちゃんのカナリアさんの歌を聴けるの、 楽しみにしてるんだよ!』
司:『力になれないことは心苦しいが……、 寧々ならば、必ず乗り越えられるはずだ!』
類:『歌について助言できることは少ないけれど、 他に力になれることがあれば、いつだって相談に乗るよ』
えむ:『それじゃあ、皆さんご一緒に! せ~のっ……』
みんな:『頑張れ~、寧々~っ!』 『がんばれ~っ、寧々ちゃ~んっ!』
寧々:……まったく。 突然こんなの送ってくるなんて
寧々:みんなだって練習しなきゃいけないはずなのに、 こんなことしてていいわけ?
寧々:……でも……
寧々:——ありがとう
寧々:……やらなくちゃ
寧々:みんなのステージを、わたしが壊すわけにはいかない
寧々:……とりあえず今は、できることをやろう
寧々:でも……できることって、なんだろう。 基礎練もだけど、もっと癖のことがわかるような——
寧々:……そういえば類、わたしの癖は 『技術に関することじゃないのかもしれない』って言ってたっけ
寧々:いろんな人が歌うところを見て、 その人特有の癖を見つけられたら……何かヒントにならないかな?
寧々:よし、動画サイトで——
数時間後
フェニックスステージ
寧々:(少し、仮眠取ろうと思ってたけど…… 結局そのまま自主練の時間になっちゃったな)
寧々:(でも、動画見てたら試してみたいこともできたし…… 今日はここで練習してる人もいないみたいだから、やっていこう)
寧々:さっき作ったリストは——
寧々:——よし
寧々:(いろんな人の動画を見て、 やっぱり、どんな人でも歌いかたに癖はあるなって思った)
寧々:(だから、動画をたくさん見て……、 それぞれの癖をリストアップしてみたんだよね)
寧々:(……もしかしたらこの中に、 わたしと同じ癖を持ってる人がいるかもしれないから)
寧々:(このリストを参考にしながら歌って、 わたしに同じような癖がついてないか確かめてみよう)
寧々:(小さな癖から、目立ちやすいものも含めて30個……。 ちょっと多いけど、稽古が始まる前には全部検証したいな)
寧々:……頑張ろう
数十分後
寧々:♪————
寧々:……『ブレスの場所が独特』…… これも、あんまり当てはまりそうにないな……
寧々:『歌い終わりの音が跳ねる』も違う気がするし、 『ビブラートの振れ幅が大きい』……は少しある気がするけど、 それが答えかって言われると微妙な感じがするし——
寧々:これで、25個目の検証が終わり……
寧々:………………
寧々:(……わたしがやってることって、正しいのかな)
寧々:(もう、このリストも25番目まで終わったのに、 まだピンとくるものがない……)
寧々:(もしかしたら、残りの5個にあるのかもしれないけど、 もし、その中にもなかったら——)
寧々:(なくて、また最初から考え直しだったら——、 ……どうすればいいんだろう)
寧々:(もう、やれることは全部やってる気がする。 なのに、全然解決できる気がしない)
寧々:(こうしてるあいだにも本番までの時間は迫ってて、 悩んでる時間ももったいないから、 進み続けなきゃって思ってたけど)
寧々:(これが間違ってたら、わたしは…… わたしは、本番までに……)
寧々:——駄目だ。 こんなこと考えたってしょうがない
寧々:こうやってウダウダ考えてるあいだも時間は過ぎてって、 他の人も努力してて——
櫻子:『♪————』
寧々:もっともっと、見えなくなる……
寧々:(今は自分を信じるしかない)
寧々:(残り5個—— この中にヒントがきっと……きっとあるはず)
寧々:(それを、なんとしても掴まなきゃ。だってわたしは——)
寧々:(歌で……、わたしのこの歌で、舞台を——!)
寧々:♪————~~!!
???:そんな歌いかたをしたら、喉を壊してしまうわよ
寧々:え……
寧々:青龍院さん……!?
第 5 话:差を埋めるために
フェニックスステージ
寧々:青龍院さん……どうして……
櫻子:あら、稽古の時間以外に自主練をするのが、 あなただけだと思って?
寧々:あ……
寧々:…………ううん。 そんなこと思ってないよ。本当に
櫻子:あなたが頑張ってることは認めるけれど、 公演に差し支えるようなやりかたは賛成できないわね
櫻子:そんなに濃いクマまで作って。 ……もしかして、寝ていないのかしら?
寧々:こ、これは別に……
櫻子:強がる気持ちもわかるけれど、 悩んでいるのなら相談したらどう?
櫻子:私達は今、同じ公演をやる仲間なのだから
寧々:あ……
櫻子:特に私は、演技だけじゃなくて歌についてもエキスパートよ? ……あなたも知っているようにね
櫻子:それとも…… 私じゃ、相談相手として不足かしら?
寧々:そ、そんなこと——
寧々:(……たしかに、そうだ。 相談できる人は最初から……、こんなに近くにいたのに)
寧々:(わかってなかった……はずない。 だって、それが一番近道なんだから。でも——)
寧々:(でも、わたしは……、どこかで、プライドが邪魔して——)
櫻子:たしかに、私に歌のことを聞くのは気が引けるでしょうね
櫻子:だって、あなたと私はライバルになりえる関係なのだから
寧々:え……
寧々:……まだライバルだって……認めてもらえるの……?
櫻子:あら、認める——とは、言ってないわ。 今も……前もね
寧々:前も……
櫻子:とにかく、私達のライバルとしては認めてあげないこともないわ! 次もいいショーを作ることねっ!
寧々:(……そっか。たしかに、あの時も、 別に青龍院さんはわたしをライバルって言ったわけじゃない)
寧々:(……わたしが勝手に、そう思ってただけだったんだ)
櫻子:ただ、あなたには私と並ぶ素質があるのは事実
寧々:素質が……?
櫻子:ええ。あなたと私のあいだにあるのは、経験の差。 あとは……それに伴う視野の広さの差かしら
櫻子:だから、その距離さえ埋まってしまえば、 あなたは本当に——
櫻子:この私と、肩を並べることができると思っているわ
寧々:……!
櫻子:稽古の時にうちの演出家が言っていたことは間違いないわ。 あなたの歌は私達の劇から浮いている
櫻子:そしてそれは、癖がついてしまっているせいね。 そう——
櫻子:子供の頃からステージに立っている人、特有の癖だわ
寧々:っ!
寧々:(わたしの癖が、経験者特有のもの……?)
寧々:(ステージ経験があるのは、わたしの強みだと思ってたのに……)
寧々:どうして……
櫻子:……そういった癖をなくすことは、とても難しいわ。 矯正までには、どうしても時間がかかるでしょうね
櫻子:私からアドバイスをすることもできるけれど……
櫻子:……そうだわ。 今なら、ちょうど適任の先生がいるから、つないであげる
寧々:先生……?
櫻子:ええ。あなたも知っているんじゃないかしら
櫻子:せっかくだし、話を聞いてくるといいわ
数日後
カフェ
寧々:(約束の時間まで、あと10分……)
寧々:(まさか、またあの人に会えるなんて……。 まだ10分もあるのに、心臓がドキドキする——)
???:あ、もう来てたんだ! もしかして待たせちゃったかな?
寧々:あ……
夕夏:久しぶりだね、寧々ちゃん! 元気にしてた?
寧々:お……お久しぶりです。 すみません、今日はわざわざ来ていただいて……
夕夏:いいのいいの。 私もこっちに戻ってきて、ちょっと暇してたから
夕夏:あ、飲み物先に頼んじゃおっか。 実はここ、私の友達の店なんだ。 苦手じゃなかったらココアがオススメだけど、どうする?
寧々:あっ……じゃあ、それでお願いします
夕夏:オッケー!
夕夏:……マスター、ココアふたつ。 私のはいつもどおり、ミルクたっぷりでね
寧々:(風祭さん、元気そう)
寧々:(それに、少し話しただけなのに、 わたしのことも覚えててくれて……嬉しいな)
寧々:あ、そういえば……どうして日本に? たしか今は、アメリカにお住まいでしたよね?
夕夏:ああ、友達に、こっちで公演をやるから、 見にきてくれって言われて帰ってきてたんだ
夕夏:……天満星一。 寧々ちゃんなら知ってるかな?
寧々:あ……
寧々:もちろん、知ってます。 今、東京センチュリーホールで公演をやってらっしゃいますよね。 わたし達も、この前見に行きました
夕夏:そうだったんだ! 星一のためにも、詳しく感想を聞きたいとこだけど——
夕夏:今日は、大事な話があるんだよね
寧々:……はい
寧々:(風祭さんみたいなスターに時間を使ってもらうなんて、 滅多にない……ううん、普通ならありえないことだ)
寧々:(全部話して、聞いてもらって…… もらえるアドバイスを、全部吸収しよう)
寧々:……実は……
夕夏:劇の全体像が捉えられてない、か……
寧々:はい。それで癖を研究するように言われたんですけど、 自分ではどういう癖がついてるのか、わからなくて……
夕夏:そうだよね。 歌に限らず、癖って自分の一部になってることが多いし、 自分じゃ気づけないよね
夕夏:じゃあ、とりあえず——
夕夏:歌ってみてもらってもいいかな。 今の寧々ちゃんの歌を、私も聴いてみたいなって
寧々:えっ……
寧々:ここで、ですか? でも……お店だし、他のお客さんもいるし……
夕夏:あ、ここは音楽系のイベントもやるお店だから大丈夫だよ。 ほら、奥のほうにステージがあるでしょ
夕夏:まあ、突然歌い出すのは驚かれるかもしれないけど…… そういうサプライズもおもしろいんじゃないかな
寧々:お、おもしろいって……
寧々:(ここで歌うってことは…… まだ全然仕上げられてない未完成の歌を、 ここにいる人達に聴かせることになる……)
寧々:(……駄目だ。 そんなことを怖がってたら、駄目だ)
寧々:(できることはなんだってやるつもりで来たんだ。 だから——!)
寧々:♪————
カフェの客達:……あれ? この時間ってステージやってたっけ?
カフェの客達:なんか、ミュージカルっぽい曲だね
寧々:(声が震える……。 自主練の時より、全然うまく歌えてない……)
寧々:(……恥ずかしい。逃げ出したいくらい……)
寧々:(でも……、駄目だ。 逃げたって、何も変わらない……)
寧々:(恥ずかしさなんて、どうだっていい。 これが今のわたしの実力なんだから……)
寧々:(聴いてもらって、意見をもらうんだ……! 次の舞台を絶対成功させるために……!)
寧々:♪————!
夕夏:お疲れさま、寧々ちゃん
寧々:……聴いてくださって、ありがとうございます
寧々:それで……どう、でしたか?
夕夏:そうだね、まずは——
寧々:(……世界で活躍してる風祭さんから見たら、 フェニックスステージのみんなに遅れをとってる わたしの歌なんて、聴くに堪えないものだと思う)
寧々:(でも……どんなことを言われたっていい。 それが、今のわたしのありのままだから)
寧々:(全部受け止めて、自分で考えて、もっと先に進んで——)
夕夏:すごく上手になったと思った
寧々:え……
夕夏:前にショーを見せてもらった時は、テクニック的な部分より、 情熱を感じてすごくいいって思ったんだ
夕夏:でも今聴いた歌からは、 情熱もテクニックも両方感じられたよ
夕夏:すごく成長した。 ……たくさん努力したんだね
寧々:あ……
寧々:っ——、すみません、わたし——
寧々:(……駄目、だ……)
寧々:(わたしは、まだ努力が全然足りない。 もっと頑張らなくちゃいけない。だから——)
寧々:(嬉しい、なんて—— 思ってる場合じゃ、ないのに……)
寧々:——違うんです。 わたしの努力なんて、全然まだまだで……
寧々:それに気づいたのは、本当に少し前…… つい最近のことなんです
夕夏:寧々ちゃん……
寧々:だから——
寧々:どんな小さなことでもいいんです。 アドバイスをもらえませんか
寧々:このまま次の公演を中途半端なものにしてしまったら、 わたしは、わたしを許せない
寧々:だから……お願いします。 わたしは——
寧々:世界で歌う、ミュージカル俳優になりたいんです……!
夕夏:……そっか
夕夏:それなら寧々ちゃんは、 私のライバルになるってことだね!
寧々:えっ……
夕夏:そういうことなら、助けるのは今回だけだよ
夕夏:私がこっちに滞在してるあいだに、 教えられるもの全部——寧々ちゃんに叩き込んであげる!
寧々:あ……
寧々:ありがとうございます!
第 6 话:どんなことも力にして
数日後
寧々:♪————~~!
夕夏:最後まで声が続かないのを またビブラートでごまかそうとしてる! 最初から最後まで同じ声量で出しきることを意識して!
寧々:♪————!
夕夏:前のパートの疲労が残ってる! 苦しそうに歌うカナリアなんて誰が見たいと思う? 肺活量鍛えるトレーニング、今日からは家で50セットね!
寧々:(あれからずっと練習に付き合ってもらってるけど、 風祭さんは思ったよりもすごく厳しい人だった)
寧々:(でも……)
夕夏:寧々ちゃんの癖っていうのはね、 『歌唱』と『演技』のパートが完全に分断されちゃってること
夕夏:ミュージカルが苦手な人で、 『お芝居の中で突然歌い出すことに、すごく違和感を覚える』 って言う人がいるけど……
夕夏:寧々ちゃんの歌いかたは、その感覚を大きくしちゃってるの
夕夏:子供の時って、その時にしか出せない 声の綺麗さが重宝されがちだから——
夕夏:そのポテンシャルを引き出すことに一生懸命になって、 歌うことをおろそかにしちゃいがちなんだよね
夕夏:その結果、演技のパートとの調和が取りにくくなって、 『浮いてる』って思われるようになっちゃうことも多いんだ
寧々:そう……だったんですね
演出家:端的に言うと草薙くんは、劇の全体像を捉えられていない
寧々:(……演出家さんが言ってたのは、そういうことだったんだ)
夕夏:まあ、それに関しては最初こそ大変だと思うけど、 コツさえつかめれば大きな問題じゃないよ。でも……
夕夏:寧々ちゃんの歌には、他にも課題がたくさんある
寧々:…………そう、ですよね
夕夏:でもね。 それって、伸びしろしかないってことだよ
寧々:え……
夕夏:言ったでしょ? 私の持ってるもの、全部叩き込んであげるって
夕夏:この短期間で、直せるとこ全部直して…… みんなのことびっくりさせちゃおう!
寧々:(……やるんだ。 わたしの駄目なとこ、全部教えてもらって、 それを直す方法を精一杯……全部全部、吸収しなきゃ)
寧々:(この公演を、成功させるために——!)
ワンダーランドのセカイ
リン:ねえねえっ、みんな! 寧々ちゃん、この前みんなで撮った動画見たって言ってた!?
レン:ボクも気になってたんだ! 返事とかあった!?
えむ:うんっ、ちゃーんと見てくれたよ! それで、『ありがとう、頑張るね』ってお返事ももらえたんだ!
リン:わあっ……よかった~っ!
司:喜んでもらえたようで何よりだったな。 これも、動画を撮ろうと提案してくれたカイトのおかげだ
KAITO:みんなが落ち込んでいたみたいだったから、 僕はただ思いつきを話しただけだよ
KAITO:それがしっかり寧々ちゃんの心に届いたのは、 みんなの『応援したい』って想いがあったからこそじゃないかな
えむ:えへへ……そうだといいなあ
類:でも、最近の寧々は少し前より、忙しそうだね。 帰りも遅いみたいだし、無理をしていないといいのだけれど
MEIKO:あら、そうなの? ちょっと前もクマができたりしてて、 心配だって言ってたのに……それより?
司:ああ、泥だらけで稽古に来ることもあるしな
司:風祭さんに教わっていると言っていたが…… 一体、どんな練習をしているんだ?
えむ:寧々ちゃんに聞いても、 『大丈夫だから心配しないで』って言われちゃうんだよね
えむ:歌のことだからしょうがないかもしれないけど、 あんまり力になれなくて、しょんぼりだね……
司:そうだな……
KAITO:力になれてないってことは、ないんじゃないかな
司:どういうことだ?
KAITO:……僕はなんとなく、 寧々ちゃんの気持ちがわかるような気がするんだ
KAITO:直接話を聞いたわけじゃないし、想像でしかないけれど——
KAITO:寧々ちゃんは、頑張っている時に みんなから動画でメッセージをもらったんだよね
KAITO:だとすると、そのメッセージを受けて 『もっと頑張らなくちゃ』と思って、 今まで以上にがむしゃらになってるんじゃないかな
KAITO:『応援』には、そういう力があると思うから
えむ:あ……
KAITO:たしかに周りの人からすると、 無理をしているように映って 不安かもしれないけど……
KAITO:きっと寧々ちゃん自身は、 『みんなの応援にできるだけ応えたい』って必死なんだと思う
類:カイトさん……
KAITO:だからみんなは、そんな寧々ちゃんの成果を 楽しみに待ってあげていればいいんじゃないかな
類:……たしかにそうだね
ミク:うんうんっ、ミクもちゃ~んとわかったよ☆
ルカ:わたしも……、ふわあ……。 寧々ちゃんのカナリアさん、楽しみにしてるわあ
ルカ:すう……
MEIKO:あっ、ちょっとルカ、ここで寝ちゃダメっていつも言って——
ミク:あれ? みんなのスマホがピロピロ~ってしてるよ?
司:お、まさか——
えむ:寧々ちゃんからのメッセージかなっ!?
類:どうやらそのようだね。 ええと……
リン:リンにも見せて見せて~っ☆
レン:あっ、ちょっと押すなよ~!
寧々のメッセージ:『みんな、ずっと心配かけちゃっててごめん。でも……』
寧々のメッセージ:『もう、大丈夫。 本番、一緒に頑張ろうね』
えむ:——よかった。 寧々ちゃん、乗り越えたんだね
類:そのようだね。 ……それなら、僕達もあとは本番に向かって突き進むだけかな
司:ああ。カイトの言っていたとおり、 寧々の練習の成果を楽しみにしつつ——
司:ありったけの力で、本番をやり切るぞ!
えむ:うんっ!
30周年記念公演 当日
バックステージ
司:ついにこの日がやってきたか
寧々:……そうだね
寧々:(……大丈夫。 今日までにできることは全部やった)
寧々:(指摘されてた癖も、 風祭さんのおかげで納得できるところまでは直せた)
寧々:(あとは、後悔しないように 全部をこのステージに出し切るだけ——)
キャスト達:おっ、おい!? あの前のほうの列に座ってるのって、風祭夕夏じゃないか?
キャスト達:それだけじゃないわよ、隣見て!
キャスト達:あれって……天満星一じゃない!?
司:…………な……なんだとおおお~~!?!?!?
司:ななななななぜ、天満さんがこの舞台を見に……!?
寧々:風祭さんと天満さんは、昔からの知り合いで友達なんだって。 だから、招待したら一緒に来てくれたみたい
司:そっ……そういうことは、もっと早く言え!!
寧々:……ごめん。 わたしも、自分のことに精一杯で
類:元々手を抜くつもりはなかったけれど…… より一層、緊張感のあるステージになったね
えむ:うん……。 寧々ちゃんと司くんの憧れの人が見に来てくれてるんだもんね
えむ:なら、やっぱり—— 今まででいっちばん、わんだほいなステージにしなきゃねっ!
寧々:あと5分だね
司:——ああ
司:素晴らしいリオを演じた天満さんの前で、 無様な姿を見せるわけにはいかない
司:オレのリオを、完璧に演じなくては……
寧々:(……この舞台にかける想いが強いのは、わたし達だけじゃない)
西江:絶対に成功させましょうね
大森:当たり前だ
寧々:(……この場にいる全員で、 お客さんに最高のステージを届ける)
寧々:(——完璧なカナリアを、演じきって!)
第 7 话:30周年記念公演
フェニックスステージ
夕夏:さすがに記念公演なだけあって、客入りがいいね
星一:そうだな。 しかし……なんだか不思議な気持ちだよ
星一:久しぶりの日本で見る公演が 『ハッピーフェニックス』だなんて
夕夏:あはは、そういう妙に縁のある作品ってあるよね
夕夏:でも、役者にとってはプレッシャーじゃない? まさか、あの天満星一が見に来てるなんて
星一:君だってその対象だろう。 それに——
星一:その程度のことでプレッシャーに呑まれてしまうようでは、 ステージに立つ資格はないと思うよ
星一:客席では誰もが平等だ。 王様であろうと貧乏学生であろうとね
星一:つまり、ここでは僕もいち観客にすぎない——
星一:だから、それを忘れてしまうような役者は、 役者として失格だよ
夕夏:ふふっ、相変わらずだね、星一のステージ論。 でも……
夕夏:私も、そう願ってる
夕夏:——頑張って、寧々ちゃん
西の森のツバメ:『——なあ、知ってるか? 森の奥に住んでる綺麗な鳥!』
西の森のツバメ:『あんな綺麗な子、西の森じゃ見たことなかったよ。 お近づきになれないかなあ』
偏屈なカラス:『君が言ってるのは、フェニックスのことだろう? ……馬鹿だな。彼女は見た目は麗しくても心は氷のようだよ』
おっちょこちょいなアヒル:『そういえばツバメ君って、この森に来てまだ2日……。 ……あれ、1週間だったっけ?』
世話焼きのムクドリ:『何日でもいいが、新参の君に教えてあげよう。 ……彼女がどういう鳥なのかを』
鳥達:『♪————』
夕夏:(……さすが、国内で名が知られてるだけあるね。 端役の人達でさえ、この演技力と歌唱力)
夕夏:(でも、この公演の目玉は——)
フェニックス:『あんなところに見慣れない生き物がいるわね。 小さくて頼りなくて……なんて汚い』
フェニックス:『……あれは人間ね。それも、子供』
フェニックス:『本当に——大嫌いだわ』
フェニックス:『♪————』
夕夏:(昔共演した時も、光るものがある子だなと思ったけど…… この若さで、ここまで表現力を上げてるなんて……!)
夕夏:(間違いなくこの子は、今後の演劇界を牽引する存在になる。 ……寧々ちゃんが必死になるはずだね)
夕夏:(……でも、寧々ちゃんだって力をつけてきた)
夕夏:(本気を見せてあげて!)
リオ:『待って……、待ってよ、フェニックス!』
類:フェニックスがリオを大きく引き離し、 ふたりが完全に別れたところで、序盤は終了……
えむ:うんっ、ここからだよね——
えむ:寧々ちゃんと司くんが初めて会うシーン! あたし、寧々ちゃんの歌楽しみだなあ!
類:ああ、そうだね
寧々:…………
類:(いつもより集中しているようだね。 声をかけるのも躊躇われる雰囲気だ)
類:(果たして寧々は、この短期間で何を会得して それをどんな風に発揮するのか……)
類:……見届けさせてもらうよ
リオ:『ううっ……また見失った……』
リオ:『このままじゃフェニックスを捕まえるどころか、 追いつくことさえできないよ……』
リオ:『……はあ。 あいつみたいに、僕にも翼があったらなあ……』
えむ:……このあとが、寧々ちゃんの出番……
類:(カナリアは『言葉より歌で語る』という性格に相応しく、 セリフではなく歌がステージ上の第一声となる)
類:(まずは、ハミング。 そこから、少しずつ歌が乗っていって……)
類:(……リオに、カナリアの歌声が届く)
臆病なカナリア:『♪————』
えむ:この前と全然違う……!
類:そうだね、声のトーンが低い
類:(普通、カナリアなどの小さな鳥を演じようとしたら、 その鳴き声の性質から高音を出そうと考えるはず)
類:(実際に最初の立ち稽古の時は 寧々もそれを意識して歌っていたようだった)
類:(しかし、今はトーンを落としている。 ……スタミナを重視したのか? でも、あの音域なら、寧々は歌いきることができるはず——)
リオ:『この歌、あの鳥が歌ってるのかな……?』
リオ:『……綺麗だな。 もっと近くで聴きたい……』
臆病なカナリア:『♪————……』
臆病なカナリア:『……——な、何っ!? 誰かいるの……!?』
類:これは……
えむ:なんでだろう? 今、歌とセリフがスル~って入ってきた!
類:……そうだね
類:立ち稽古で演出家が『浮いてる』と指摘したのは、 『歌と台詞が完全に分かれてしまっていたこと』だったんだ
類:それに対して寧々は、 小鳥らしい高音を出そうとするのをやめて、地声に歌声を寄せた
類:それは、勇気のいる選択だったと思うけれど…… 結果的に『らしくあろう』としている時よりも自然で、 演技と歌声の間にムラがない
類:まさに、カナリア役らしく—— 『話すように歌っている』と感じられる
えむ:うん……
えむ:……あたし、このカナリアさん、好きだな。 本当に楽しそうにキラキラキラ~って歌ってて……
えむ:これが寧々ちゃんの『臆病なカナリア』なんだ……
臆病なカナリア:『え……えっと……、 歌を褒めてくれてありがとう』
臆病なカナリア:『歌うことは大好きなの……。 だって、私にとって歌は言葉と同じだから』
臆病なカナリア:『……ううん。言葉より、もっと大切なもの、かも……。 私は話すのが下手、だし——』
臆病なカナリア:『だから——あなたが好きだって言ってくれるなら…… もう1曲、歌ってもいいよ』
臆病なカナリア:『……誰かにちゃんと歌を聴いてもらうの、久しぶりだな……』
夕夏:(……いいね。特訓の成果、出し切れてる)
夕夏:(この調子ならきっと、あのシーンも——)
リオ:『……フェニックス……』
リオ:『どうして……、どうして戻ってきたんだ……』
類:(……いよいよクライマックスだ。 フェニックスがリオを癒すための羽根を落としたあと、 彼女は二度と戻らないと思われた)
類:(けれど、母親の命の期限の日没からほんの少し前…… フェニックスは自らの意思でリオの元に戻る。それは——)
フェニックス:『私が生きることを願ったのは事実よ。 ……けれどそれは、あなたとの日々が楽しかったから』
リオ:『僕との、日々が……?』
フェニックス:『——いいえ、少し違うわね。正確に言えば…… あなたと笑いあう日々が好きだった』
フェニックス:『けれど母親を喪えば、あなたはその笑顔を失うでしょう。 ……そんなあなたを見たら私は——』
フェニックス:『心臓を差し出さなかったことを、後悔するわ』
リオ:『フェニックス……』
フェニックス:『だから……もういいの。 あなたの笑顔が失われたら、また生きている意味はなくなる』
フェニックス:『さあ——私の心臓はここよ。 このナイフで、ひと思いに貫いて』
リオ:『……っ……、で、でも……僕は——』
フェニックス:『……ふふっ。 あなたって本当に、臆病で弱いところは変わらないのね』
フェニックス:『でも、最期だから、ひとことだけ言っておくわ』
フェニックス:『……あなたと友達になれて、幸せだった……』
リオ:『——っ!』
リオ:『どう、して……。 どうして、そんなことを……今——』
リオ:『僕は、どうしたら——、 どうしたらいいんだよ……!!』
えむ:……リオの気持ち、胸にぎゅって伝わってくるみたい
類:……うん。 青龍院くんの演技も繊細だ。 表情も、声色も……見ている者の心を揺さぶる
類:(やはりうまいな、このふたりは。 なるべくして主役になっている)
類:(しかし、このあとふたりに割って入る存在がいる)
類:(……ここが重要局面だ。 この抜群の表現力を持つふたりの前で、 説得力のある演技が求められる)
類:(……さあ、どう演じる?)
リオ:『……ごめん。 ごめんよ、フェニックス……』
リオ:『僕は……、母さんの……ために——!』
臆病なカナリア:『待っ、て……!』
臆病なカナリア:『お願い、待って……! 待って……ふたりとも……!』
フェニックス:『……大丈夫よ、リオ』
フェニックス:『私は、気高きフェニックス。 死を恐れたりしないわ……』
臆病なカナリア:『——っ』
臆病なカナリア:『言わなきゃ……、言わなくちゃいけないのに……、 リオのお母さんの呪いを解くのは、 フェニックスの心臓じゃないって——』
臆病なカナリア:『……っ、でもっ……』
臆病なカナリア:『でも、怖くて……声が……』
魔女:『よくも私の秘密を暴いたね……。 あの子達に伝えてごらん。お前も生かしてはおかないよ!』
臆病なカナリア:『い、言ったら……、私も殺されちゃう……。 でも……でも……っ』
臆病なカナリア:『リオは……私の歌が好きって言ってくれた。 こんな怖がりで何もできない私の……友達になってくれた』
臆病なカナリア:『だから……嫌……。リオが悲しむのも、 リオの友達のフェニックスが刺されるのも、嫌……!』
臆病なカナリア:『……止めなくちゃ。 止めなくちゃ、私は私を許せなくなる』
臆病なカナリア:『言葉では……無理……届かない。 でも、私には……歌がある』
臆病なカナリア:『この、歌なら——!』
臆病なカナリア:『♪————~~!!』
えむ:寧々ちゃん……!
類:(喉の奥から絞り出したような、声……。 必死さが歌に乗っていて、一瞬で心を掴まれた)
類:……こんな歌いかたができたなんて
夕夏:(超えてきた……特訓の時の限界を)
夕夏:(……怖いね、若さって)
リオ:『——この歌は……!』
フェニックス:『……聴こえるわ。カナリアの声ね。 何かを伝えようとしてる……』
フェニックス:『え……リオの母親の呪いを解く方法は、 フェニックスの心臓じゃ、ない……』
フェニックス:『魔女を倒すこと——ですって……!?』
リオ:『そう、か……』
リオ:『じゃあ、僕はずっと……魔女に騙されてたんだ……』
フェニックス:『リオ……』
リオ:『——でも』
リオ:『それなら僕は、フェニックスを刺さなくてもいいんだね』
リオ:『……よかった……。 本当に、よかった……』
フェニックス:『……っ』
フェニックス:『——まったく、何をめそめそしているの? 早く立ち上がりなさいな』
リオ:『えっ……えっ?』
フェニックス:『期限の日没まで、もう時間がない。 それまでに魔女を倒さなくちゃ』
フェニックス:『……あなたについていくわ。 とても厄介な相手だけれど…… 一緒に戦えば、勝てない敵じゃないはずよ』
フェニックス:『私達は……友達だから』
夕夏:(……お客さん達の意識が、舞台に集中しているのがわかる)
夕夏:(フェニックスとリオの和解を 心から喜んで、安心してることも……)
夕夏:(ここまで没入感を高められるのはもちろん、 あのふたりの技量があってこそだけど——)
臆病なカナリア:『……よかった』
臆病なカナリア:『私の歌が届いて……、本当によかった』
夕夏:——最高の公演になったね
第 8 话:経験を糧に
フェニックスワンダーランド
えむ:本日はご来場いただき、ありがとうございましたっ!
司:またのご来場を、心から楽しみにしています!
来場客:記念公演だからか、キャストのお見送りもあるんだね。 劇もすごくよかったし、最高の時間だったな~!
来場客:わかる! 特に最後の辺りのリオとフェニックスのシーン、 本当によかったよね……すごく感情移入できて——
類:……お客さんにも好評なようで、よかったね
寧々:うん。みんなの演技もすごかったし、 本当にいい公演になったって思う
寧々:わたしも全力を出し切れた
えむ:ほんっっとにすごかったよ、寧々ちゃんの歌! もうグイグイズッシーン!ってしてて、あたし——
???:そうね。 私も腕をあげたと思ったわ
寧々:え……
櫻子:お疲れさま。 いい公演になったわね
寧々:青龍院さん……
櫻子:あなたの歌唱も演技も、 最初の時とは見違えるようだったわ
櫻子:まさか、この短期間でここまで仕上げてくるとはね
寧々:……青龍院さんが、風祭さんに連絡を取ってくれたおかげだよ。 それがなかったら、ここまでできなかったから
櫻子:そう。 それは紹介したかいがあったわ
寧々:……わたし、今回の公演、本当によかったと思ってるんだ。 自分の足りないところを鍛えてもらって、がむしゃらにやって…… 本番では、全力をぶつけることができた
寧々:……もちろん青龍院さんには、かなわなかったけど…… それでも、一生懸命やってよかったって思ったんだ
寧々:だから——本当にありがとう。 成長できるきっかけをくれて
類:寧々……
櫻子:……そうね。 今回のことは貸しひとつとさせてもらおうかしら
櫻子:けれど——
櫻子:『私にかなわなかった』というのは、否定させてもらうわ
寧々:え……
櫻子:もちろん、この舞台の話題の中心は私とリオよ。 だって私達は、この物語の主役だったのだから
櫻子:けれど—— あなたの演技と歌は、私達の後押しをしてくれた
寧々:わたしの……演技と、歌が?
櫻子:ええ。 リオがフェニックスを刺してしまいそうになる、あの場面——
櫻子:私は、観客と呼吸がひとつになるのを感じたの
えむ:呼吸がひとつに……
類:……たしかに、あのシーンはとても没入感があったね。 見ている側も、物語に参加しているような…… 主役のふたりにシンクロしているような感覚——
類:そして、それをもたらしたのは、 紛れもなく『臆病なカナリア』の歌だ
寧々:わたしの歌が……
櫻子:あの歌が観客の胸に響いて、場の空気がひとつになったからこそ 私達はこの舞台の真の主役となることができた
櫻子:だからあなたが『私にかなわなかった』ことなんてない——
櫻子:なんて、柄にもないことを言ってしまったわね。 これも『貸し』の中に入れておこうかしら
寧々:青龍院さん……
櫻子:とにかく、自分の力を必要以上に卑下するのはやめることね。 それが自分の限界を決めることもあるわ。わかったら……
櫻子:早く上がって来なさい。 私のところまで
寧々:あ……
櫻子:——では、ごきげんよう。 ワンダーランズ×ショウタイムの皆さん
司:——よかったではないか、寧々! あの青龍院櫻子が褒めていたぞ!
えむ:寧々ちゃんの歌が後押ししてくれたって! ……よかったね、寧々ちゃん!
寧々:……うん
寧々:本当に今回は、お世話になっちゃったな
夕夏:あれ、櫻子ちゃん行っちゃったの? ちょっと挨拶しようと思ってたのに!
寧々:風祭さん……!
司:はっ…………!! 風祭さんがいらっしゃるということは……
司:ももももももしかして天満さんも お近くにいらっしゃるということではないでしょうか!?!?
夕夏:ふふっ。元気がいいね
寧々:すみません、うるさくて……
夕夏:いいんじゃない? しっかり、お腹から声出てて
夕夏:でも、ごめんね。 星一はおさかなコースター?の優先乗車券の時間が——って、 走って行っちゃったんだ
司:そっ……
司:そうでしたか…… 残念です……
えむ:天満さん、おさかなコースター乗ってくれるんだ……!
類:世界的な大スターが、おさかなコースターに……。 なんだか想像がつかないな
夕夏:まあ、星一のことはいいんだけど……
夕夏:寧々ちゃん、公演本当によかったよ。 特訓の成果あったね!
寧々:ありがとうございます。 風祭さんが、本当にたくさんのことを教えてくれたから……
寧々:わたし自身、すごく納得できる公演ができたし…… 自分の成長も感じることができました
夕夏:ふふっ、よかったね! でも……
夕夏:これで満足はしないでしょ?
寧々:…………!
夕夏:私が今回寧々ちゃんに教えたことは、ほんの一部だよ。 それにこの短期間じゃ、そこまで深いことも伝えられなかったしね
夕夏:私が長い時間かけて覚えてきたことを 厳選して教えることはできたけど…… それは、付け焼刃でしかないと思うんだ
夕夏:大切なのは、これから寧々ちゃん自身が いろんな人と出会って、たくさん勉強して、 その経験のすべてを自分の糧にすること
寧々:わたしの、糧に……
夕夏:そう。だから、立ち止まってたら駄目だよ。 前にも言ったけど、寧々ちゃんには伸びしろしかない——
夕夏:次に会った時、どれだけパワーアップしてるのか…… 楽しみにしてるからね!
寧々:風祭さん……
寧々:……はい。 次会う時には、必ず……、 必ずもっと成長したわたしを見せたいと思います
寧々:今回は、本当に…… 本当に、ありがとうございました!
数日後
バックステージ
寧々:ふう……これでこの辺りは片づいたかな
寧々:司のほうはどう?
司:こっちも順調だ! このハシゴを持っていったら終わりにできそうだぞ!
寧々:そっか。 じゃあ、わたしも一緒に持つね。大きくて重いだろうし
司:ぬおっ、ありがたい、感謝する!
寧々:……いつも思うけど、こうやって片づけしてる時が一番寂しいね。 もう今回の公演は終わっちゃうんだって感じちゃって
司:たしかにな。 特に、他との合同公演の時は顕著かもしれん
司:いずれまた、同じ演目で再演があったとしても…… 今日と同じメンバーでやれるかはわからないからな
寧々:そうだね。でも……
寧々:わたし、今回の公演で、もっともっといろんな場所で、 いろんな人と一緒にお芝居したいって思った
寧々:風祭さんの言ってた、 『わたしの経験したことが、わたしの糧になる』ってこと…… すごく納得できる気がして
寧々:わたしは今回の公演がなかったら、 自分の癖を知ることも、知識不足を知ることも、 風祭さんに鍛えてもらうこともできなかったから
司:……たしかに、そうかもしれないな
寧々:うん。それで—— それって、すごくもったいないことだと思ったんだ
寧々:もっとたくさんのことを知って成長できるかもしれないのに、 その機会を逃してたのかも、って……
寧々:……だからわたし、これからは司みたいに 積極的にいろんな場所に参加してみようと思う。 ワークショップとか……客演も。あとは——
寧々:いろんな世界に目を向けてみるのもいいかも
司:寧々……
寧々:それで、いろんなことを経験して、たくさん成長して——
寧々:世界で歌うミュージカル俳優になるって夢を、 叶えたいって思うんだ
司:……そうか
司:その気持ち、痛いほどわかるぞ。 なにせオレも『世界』を目指しているからな!
司:だからこれからも、同じ高みを目指すものとして—— 共に頑張っていこうではないか!
寧々:……うん。頑張ろう!
えむ:……なんだか寧々ちゃん達、キリってしててカッコイイね
類:ふたりとも、今回の公演が刺激になったんだろうね
類:僕も寧々とは、つきあいが長いけれど…… ステージで寧々が見せた輝きは、初めて見るものだったよ
えむ:……そうだね。寧々ちゃんの歌も、司くんのお芝居も…… 本当にすてきだったよね
えむ:ふたりとも…… 本当に、キラキラしてて……
類:……えむくんは——
類:えむくんは、もしもふたりが ワンダーステージを出たいと言ったら…… ついていこうとは思わないのかい?
えむ:思わないよ
えむ:だって、あたしの夢は おじいちゃんの遊園地を守ることだから
えむ:守って……笑顔でいっぱいにすることだから!
類:…………。 ……そう、だったね
類:(……たしかに、えむくんはずっとそう言っていた。 出会った時からずっと、強い信念でそれを貫いてきた)
類:(そんなえむくんだからこそ、 僕達は彼女を信頼したし、応援もしてきたんだ)
類:(……けれど……)
類:(えむくんの夢も——、 みんなの夢も、一緒に叶えることができる、 そんな道があると思うのは——)
えむ:あたし達も、早くこの辺のもの片づけちゃわないとね! 寧々ちゃん達、先に帰っちゃうよ~!
類:……ああ。そうだったね
類:(……これは、僕のエゴだ)
類:(けれど……、もし、願うことが許されるのなら……)
類:(話をしてみよう、『彼ら』に)
類:(僕達が——僕達ワンダーランズ×ショウタイムが、 一番いい道を歩めるように)