活动剧情
Light Up the Fire
活动ID:97
第 1 话:サードイベントの残響
WEEKEND GARAGE
杏の父:(これが、あいつらの実力か)
杏の父:(もしかしたらとは思ってたが……)
杏の父:もしあの夜を超える連中がいるとしたら、それは——
杏の父:……あの夜から、3年か
杏の父:(オレも——やるべきことをやらねえとな)
杏の父:(……カフェタイムが終わったら店を閉めて、 あいつらのところに行くとしよう)
杏の父:(大河もあの様子だと、 帰る前に活を入れていくようだしな)
杏の父:……それにしても……
杏の父:子供の成長ってのは早いもんだな……凪
常連客:こんちわー謙さん! って、真面目な顔でどうしたんすか?
杏の父:——ああ、少し考えごとをしててな。 注文は、いつもどおりでいいか?
ストリートのセカイ
crase cafe
リン:はい! 彰人くんと杏ちゃんは、サンドイッチとコーヒーで~
レン:冬弥はクッキーとコーヒー。 こはねはパンケーキと紅茶、だよね! どうぞ召し上がれ!
彰人:これは……
彰人・杏:『うまいな』 『美味しいね!』
杏:やるじゃんリンちゃん! このマスタードソース手作りだよね? ピリッとしてて、ハムにすっごくあってるよ!
杏:これならメイコさんがお店あけてても、心配いらないかも!
彰人:絶対うまい!って言い切ってただけあるな。 見直したぞ
リン:ふっふ~ん、あったりまえでしょ~! このくらい朝ごはん前なんだから!
冬弥:メイコさんの代わりに店に立つと聞いた時は 心配していたが、杞憂だったようだな
冬弥:レンにいれてもらったコーヒーも、とても美味しい
こはね:うん! パンケーキもふわふわで、ほっぺが落ちちゃいそうだよ
レン:えっへん。ま、このくらいはね~! いつでも頼んでよ!
リン:——で、これ食べたらみんなで見るんだよね? サードイベントの映像!!
杏:あ……うん!
冬弥:本当は、全員いる時にと思ったが……
彰人:メイコさん達はしばらく出かけてるみたいだしな。 料理の礼ってことで、先に見せてやるよ
リン・レン:『やったー!』
リン:わあ……っ! すごいね、こはねちゃんのソロ!
こはね:えへへ……ありがとう!
こはね:すごく緊張したけど……でも、 みんなが行ってこいって、背中を押してくれたから頑張れたんだ
冬弥:この時の小豆沢の歌は、本当に素晴らしかったな。 思わず目を奪われた
彰人:そうだな。 ……少し、RAD WEEKENDの1発目を 思い出したくらいだ
こはね:え? そ、それって凪さんの……!? さすがにあんな風には……!
彰人:ほんの少しだけだ。勘違いすんな
彰人:ま、でもそれぐらい良い出来だったってことだ
こはね:あ、ありがとう……!
杏:…………
こはね:♪————!
杏:(本当に、すごい歌……)
杏:(こはねは、どんどん高い場所に行こうとしてる。 ……ううん、近づいてる)
杏:(凪さんと同じような……高みに)
杏:(私は——?)
杏:(そうじゃない。 そんな風に考えてちゃ、行けない)
杏:(私も……行ける。絶対に。 一緒に、行くんだ……!)
リン:く~~~!! ほんっと、最高のイベントだったね!!
リン:トリで4人が歌ってる時なんて、 勢いぶああ~~って……も~最高だった!
レン:みんなのパフォーマンス、 今までで一番イキイキしてたぞ!
杏:ふふ、ありがと! ふたりとも!
彰人:次もこの調子で……いや。 今回よりもっと熱いイベントにしないとな
こはね:うん、そうだね! 街の人達も、次のイベントを すっごく楽しみにしてくれてるみたいだし……
冬弥:そういえば……このイベントのあとから、 街の人によく声をかけられるようになったな。 なんというか、期待をかけてもらっているというか……
杏:あ……うん!
杏:レコード屋のおじさんも言ってたんだ! 私達なら本当にRAD WEEKENDを超えるかも!って、 みんなが期待してくれてるって
こはね:本当? えへへ……なんだか嬉しいね
彰人:注目されるのはありがてえな。 その分、気合いが入るってもんだ
冬弥:ああ、気を緩めずに頑張っていこう
レン:それでみんな、このあとはこっちで練習していくの?
冬弥:いや、俺達はそろそろ出ようと思う。 実はこのあと、用事があるんだ
レン:用事?
杏:大河おじさんに呼ばれたんだよね。 夕方、新達と一緒に来いって
リン:大河さんに? どんな用事なの?
杏:それが、詳しい話は聞かされてないんだ。 大事な話があるって言ってたけど……
レン:大事な話……って、なんだろう?
冬弥:全米ツアーのために間もなくこちらを発つから、 その前に挨拶を……ということかもしれないな
レン:えっ、全米ツアー!?
こはね:うん。大河さん、アメリカに戻っちゃうんだ
リン:そっか~……遠くに行っちゃうなら、 ちゃんとお別れしたいね!
彰人:ま、他にも話はあるかもしれねえけどな。 あの人の考えてることは読めねえし……
彰人:——って、そろそろ遠野達と合流する時間だな。 行くか
杏:うん。 ふたりともごちそうさま! また来るね
リン:はーい! いってらっしゃい!
レン:よし、それじゃオレ達は片づけするか! カップを棚に戻すまでが店員の仕事って メイコも言ってたしな
リン:うん! ……あれ?
リン:このハンカチ、たしか杏ちゃんのだよね。 忘れてっちゃったみたい
レン:あ~、じゃあ次来た時に渡さないとな
リン:んー、でも渡すの忘れちゃったら嫌だし…… 『ここにあるから今度取りに来てね』って声かけてこよっかな
レン:わかった、それじゃ頼んだぞ! あ、他の人に見つからないようにな
リン:はーい! それじゃ、いってきまーす!
ビビッドストリート
杏:あ、いた! おじさーん!
大河:……おう、突然呼び出して悪かったな
彰人:いえ。気にしないでください
彰人:でも、急に『大事な話がある』って言うんで驚きましたよ。 しかもこんな人気のない場所で
大河:いい場所だろう、穴場ってやつだ。 ……たまに落ち着きたい時はここに来る
新:……でも、まさか穴場の紹介がしたいわけじゃないですよね
大河:ハハ。相変わらずお前は気が早いな。 話したいことはいくつかあるんだが……まあ、ひとつずついくか
大河:まず、これは嬢ちゃんからも聞いてると思うが…… 全米ツアーの予定が入って、アメリカに戻ることになった
大河:向こうの仲間から『早く戻ってこい』ってせっつかれてな。 まあ、当初の予定より長居しちまってるし
こはね:……それってもしかして、 私に歌を教えてくれてたから、ですか……?
こはね:その……時間を取らせてしまってすみませんでした
大河:嬢ちゃんが謝ることじゃねえさ。 ただの——俺の気まぐれだ
大河:それに、見合うだけの収穫はあったと思ってる
冬弥:収穫……?
大河:お前達のサードイベントだ
杏:えっ……
大河:あれはいいイベントだった。 この街を出る前に見られてよかった——本当にな
彰人:あ……ありがとうございます!
大河:嬢ちゃんも、もう『街を見る』ことの意味を掴めたようだしな
こはね:は……はい!
こはね:……私達の音楽を聴きたい人がいて、 その人達に私も、私達の音楽を聴いてほしいと思う——
こはね:——その関係が、力をくれる…… そういうことなんだと思いました!
大河:……ったく、飲み込みがよすぎる生徒は逆に可愛げがねえな
こはね:えっ? あっ、す、すみません!
大河:冗談だ。 とにかく、最高のイベントだった。久々に震えたぜ
杏:…………!!
大河:だから……ここらで教えてやらないといけねえと思ってな
杏:……え? 教えるって……何を?
大河:お前らが、このままじゃあ夢を叶えられないってことをだ
大河:——お前らは今のままじゃ、 一生かかってもRAD WEEKENDを超えられねえ
大河:絶対にだ
杏:……おじさん……?
第 2 话:あの夜の真実
ビビッドストリート
杏:一生かかっても、超えられない……?
杏:それって……、どういうこと?
大河:そのままの意味だ
大河:お前らは、お前らが超えようとしているものがどんなものか、 まだわかってねえからな
大河:で——わかんねえもんを超えることは、できないだろ?
杏:わ、わかってないって…… 私は、この目で見てるんだよ?
冬弥:……すみません。 まだ、大河さんが何をおっしゃりたいのか理解できないので……、 もう少し詳しく教えてもらってもいいでしょうか
大河:ああ、もちろんだ。 そのために、今日お前らを呼んだからな
大河:この前のサードイベントで、お前らも感じたと思うが——
大河:いいイベントってのは、ひとりひとりの実力はもちろん…… 仲間、そしてオーディエンスとの一体感が重要だ
大河:ひとりよがりのライブなんざ、 誰も見たくねえからな
大河:お前達は——見たところ、いい繋がりを持ってる
大河:メンバーが同じ気持ちで、同じ方向を向けてねえイベントは、 どうしたって取っ散らかるからな
彰人:それは……わかります。 同じ気持ちじゃなきゃ、熱いイベントは作れねえ
大河:で——RAD WEEKENDも例に漏れず、 そういうイベントだった
大河:最高の実力者が集まって、 仲間もオーディエンスもどこまでもひとつになって——、 そうしてできあがったってわけだ
新:……そこまでは理解できます
新:ですが……そういうことなら、 俺達にもチャンスはあるんじゃないですか
洸太郎:た……たしかに、そうだな……
洸太郎:小豆沢のおかげで、『客とひとつになる』って感じも なんとなくわかってきたし……
達也:……ああ。 それに俺達は『RAD WEEKENDを超える』って目標で ひとつになってる
大河:ああ、そのとおりだ。 そこをクリアできたからこそ、 俺はお前達に可能性を感じた
大河:だが……超えられねえ理由はシンプルだ
大河:圧倒的に——足りねえんだよ
杏:……!
杏:それは……! たしかに、大河おじさん達に比べれば まだまだかもしれないけど、でもちゃんと力をつけていけば、 きっといつか——!
大河:そういう問題じゃねえ
大河:実力はいずれ身につくものだろうよ。 俺とお前達の差が圧倒的だとしても、可能性はゼロじゃねえ
大河:俺が言ってるのは、“想い”の話だ
杏:……どういう、こと?
大河:あの夜は——あるひとつの想いでできていた
大河:そいつがなければRAD WEEKENDは あそこまでのイベントにはなってなかった
彰人:あるひとつの想い……?
冬弥:それは、一体どういう……
大河:…………
大河:——『このイベントを、あいつの人生の最期にふさわしい、 最高のもんにしてやろう』っていう想いだ
こはね:え?
彰人:人生の、最期……?
杏:あいつ、って…………?
杏:……あ…………
杏の父:……おい、杏。 まだ拗ねてるのか
中学生の杏:だって……だって! 凪さんが、私に黙って行っちゃうから……!
中学生の杏:アメリカに行くなら、 ちゃんと見送りたかったのに……
杏の父:……ま、あいつのことだ
杏の父:杏に会うと、寂しくなっちまうと思ったんじゃねえか
中学生の杏:…………もう!
中学生の杏:戻ってきたら絶対に、 ごめんねって言わせるんだから!
中学生の杏:……? どうしたの?
杏の父:いや……。 大したことじゃない
杏:…………まさか…………
杏:でも……そんな、こと……え……?
大河:あの夜は——あるミュージシャンの最期のイベントだった
大河:俺達は、そいつのために燃えカスになるまで歌った。 オーディエンスも、その一瞬一瞬を記憶に刻んだ
冬弥:……その、あるミュージシャンというのは……
大河:凪だ
杏:………………あ……
大河:RAD WEEKENDは、 俺の妹、古瀧凪の最期を飾るためのイベントだった
大河:……病気が見つかって、あと数カ月しか生きられない凪が、 この世を去っちまう前に、最期にこの街で開いたイベント
大河:——それが、RAD WEEKENDだ
杏:…………
達也:……凪さんが……この世を、去ってた……?
杏:……やめてよ…………
杏:大河おじさん……何言ってるの? 冗談、でしょ……?
大河:…………
杏:凪さんは……アメリカに行ったんでしょ? 街のみんなだって、そう言って……
杏:凪さんが死んだなんて、そんなの誰も——
大河:……お前ならわかるんじゃねえか。杏
大河:——この街の連中は、 お前のことも、凪のことも、家族みたいに思ってんだ
大河:お前らのためになら、 デカい嘘くらいついてみせるさ
こはね:…………嘘?
新:嘘って……。 まさか……全員で口裏を合わせて……?
洸太郎:そ……そんな馬鹿なことあるかよ!
洸太郎:それって街の連中全員が……、 凪さんが死んでんのを黙ってたってことだろ!?
洸太郎:街ぐるみで人ひとり死んだこと隠すなんて、 そんな……!!
冬弥:……どうしてそんなことを?
大河:他でもねえ——凪自身がそう望んだからだ
凪:……お願い
凪:私のわがままに、つきあってくれないかな
大河:……凪がもうこの世にいねえってことは、 昔から街にいる連中は全員知ってる
大河:知らねえのは、外からこの街に出入りするようになった連中と——
大河:杏。お前だけだ
杏:…………!
杏:……嘘。嘘だよ、そんなの……
杏:そんなわけわかんない話、信じられるわけ——!
杏:あ…………
大河:……この街の連中は、昔からずっと凪を見てきた。 あいつがまだ泣き虫だった頃から、ずっとな
大河:だから——
大河:——あいつの最期のエゴも 守ってやろうって気になったんだろうよ
杏:…………
杏:(……嘘じゃない)
杏:(嘘じゃ……ないんだ)
杏:(大河おじさんのこんな顔、一度も……)
杏:(じゃあ、凪さんは…………)
杏:(凪さんは、本当に…………?)
杏:……っ
こはね:杏ちゃん……!
杏:………………どうして?
杏:どうして、私にだけ黙って……——!
大河:言ったはずだ。 『凪がそう望んだからだ』ってな
大河:あとは——謙に聞け。 俺にはもうひとつ、お前らに教えてやらなきゃならねえことがある
こはね:もう、ひとつ……?
大河:さっき言っただろ。『実力はいずれ身に付く』 『俺とお前達の差が圧倒的だとしても、可能性はゼロじゃねえ』 ってよ
大河:RAD WEEKENDを見てたガキ共が、ここまで立派になったんだ。 だからきっと……昔よりわかるだろ? その“差”がよ
大河:——マイクとスピーカーなら、 そこらのライブハウスから借りてきた。好きに使え
洸太郎:好きに使えって……じゃ、じゃあ……!
達也:もしかして大河さんと、俺達が……!?
杏:……っ!
杏:今——今は、そんなことしてる場合じゃないでしょ……!?
杏:ちゃんと……ちゃんと説明してよっ! 凪さんのこと……! 何があったのか、全部……全部っ!!!
大河:……ったく、手のかかるやつだな。仕方ねえ
大河:♪————!! ————!!
杏:……っ!
大河:これで気つけになっただろ。 かかってこい、杏
大河:超えるんだろ? 凪の最期——街中の人間の想いの果てに生まれた、あの夜……
大河:——RAD WEEKENDをな
リン:『ど……どうしよう……!』
リン:『み、みんなにも知らせなくっちゃ……!』
第 3 话:突き付けられた壁
ビビッドストリート
街の若いミュージシャン達:今の、大河さんの歌だよな!?
街の若いミュージシャン達:ああ! すっげえ迫力だったな……! おい、まさかあんなところで歌ってんのか!?
街の若いミュージシャン達:つーか、なんでVivid BAD SQUADと遠野達までいるんだ……?
街の若いミュージシャン達:あの雰囲気……まさか、ここでやるつもりじゃ……
街の若いミュージシャン達:あの大河さん相手にか!? そりゃさすがに分が悪すぎるだろ! 束になっても敵わねえよ!
街の若いミュージシャン達:いや、だがあいつらならやってくれるかもしれねえぞ! なんてったって、RAD WEEKEND超え狙ってんだ!
大河:……はっ。ちょっと声出しただけだってのに、 相変わらず集まりのいい街だ
大河:ま、これで舞台は整ったな
大河:それじゃ——やるか
洸太郎:む……無理だろこんなの……!
達也:…………っ
新:(……まずいな。 さっきのワンフレーズで、全員気圧されている)
新:(……俺も、人のことは言えないけどね)
彰人:……やるしかねえ
冬弥:彰人……!
彰人:凪さんのことも、この街のことも……整理できねえし、 大河さんが何考えてんのかわけわかんねえ。わかんねえけど——
彰人:でも、わかんだよ……!
彰人:これは逃げていい勝負じゃねえ。 ここで逃げ出すようじゃ、 RAD WEEKENDは超えられねえ……!
新:……そうだね。それは……俺も同感だ
杏:……っ
大河:ったく……作戦会議はまだかかりそうか?
大河:さすがにオーディエンスを待たせすぎだ。 ……こっちから指名させてもらうぞ
大河:んじゃ——EVER、まずはお前らからだ
達也:……!
新:落ち着く時間すらもらえないとはね……
冬弥:……いけますか、皆さん
達也:……正直、いける気はしねえ……。 今までやったどんなケンカより……ビビってる
達也:だけど……東雲の言うとおりだ。 売られたケンカは、買うしかねえだろ……!!
達也:——いくぞお前ら!! 気合い入れろ!!
EVERのメンバーA・B:『おう!!』
達也:……本気で……勝つ気でいかせてもらいますよ。 ここまで覚悟決めてやってきたんだ
大河:……覚悟ねえ……
大河:——ま、威勢はいいな。 そんじゃ、始めようぜ
大河:ルールはまあ、わかせたほうが勝ちでいいだろ。 これだけギャラリーがいりゃ、白黒つけるには十分だ
大河:先攻はそっちにやる。好きなだけやれ
達也:……クソッ! なめんのも大概にしろよ!
EVER:♪————!!
街の若いミュージシャン達:お! 最初はEVERか! あいつら、そこらのチームとはキレが違うんだよな!
街の若いミュージシャン達:いいぞ! ブチかませ!
EVER:♪————!!
達也:……はぁ……はぁ
大河:……まあ、こんなもんだろうな
大河:それじゃ——こっちの番だ
杏:……っ!
こはね:(……! これが……大河さんの本気……!?)
彰人:(前に、遠野を相手にしてた時とは全然違え……!)
冬弥:(なんという迫力だ……! まるで、一瞬で激流に飲まれたような——)
新:……本当、嫌になるね……
達也:(嘘だろ……。 相手にすらならねえなんて……)
達也:(俺達じゃ、どうあがいても……)
大河:ま、これくらいだろうな。 じゃあ次は——お前だ
洸太郎:ひっ……!
洸太郎:オ……オレだって決めたんだ! RAD WEEKENDを超えるって!
洸太郎:こんなところで、オレだけビビッてらんねえんだ……!
大河:ハハ、いい度胸じゃねえか。 そんじゃ、口だけじゃねえところ見せてもらおうか
洸太郎:……っ!!
洸太郎:♪~~~~!
杏:あ……!!
街の若いミュージシャン達:うわ……! なんだよあのヘタクソ!
街の若いミュージシャン達:三田だろ? あいつはもうちょっとやれると思ってたが……
冬弥:駄目だ……! 大河さんに飲まれて、いつもの調子を出せていない……!
彰人:……っ三田! 焦んな! お前のペースで——
大河:覚えとけ。 心の強さも実力のうちだ
洸太郎:……!!
洸太郎:あ……あ…………
杏:洸太郎…………
大河:あんまり酷え歌だから、 思わずかぶせちまったな
大河:ま、仕方ねえか。 客に下手なもん聴かせるわけにはいかねえ
杏:……っ
新:——この流れなら、次は俺かな
街の若いミュージシャン達:おい、遠野が出てきたぞ!
街の若いミュージシャン達:なあ。たしかあいつ前に、大河さんとやりあって負けたよな。 ってことは——
大河:よう、新。 お前からすりゃ、リベンジマッチってやつだな
新:……ええ、そうですね
新:正直、大河さんに勝つならちゃんとしたステージで 勝ちたいと思ってましたけど——
新:でも今日はRAD WEEKENDの 尋常じゃない熱の理由がわかったので、よしとします
大河:はっ。 まったく、相変わらず可愛くねえヤツだなお前は。 いつもすましたツラしてよ
新:今日は、そうでもないですよ。 凪さんの話は……ショックでした
新:——真実を知ったからには、 生半可な気持ちで『超える』なんて言いません
新:覚悟を持って言います。 『超えてみせる』と
大河:…………
新:……大河さんは、絶対に無理だと言いましたね。 けど、俺にだって譲れないものがある
新:颯真のために——、 あいつの夢を背負って、叶えるために……!
新:俺はその覚悟ひとつで、勝ちにいきます!
冬弥:遠野さん……
新:♪——————!!
彰人:(……!! 遠野のヤツ、すげえ気迫だ……!!)
冬弥:(前のイベント以上に勢いがある……! しかもこの状況で、大河さんに飲まれていない!)
冬弥:(だが……)
大河:——そんなもんか? 新
新:…………っ!
こはね:……そんな……!
新:(まだ上があるのか——!?)
新:(あの日から——大河さんに負けた日から、 俺だって力をつけてきた。それなのに……)
新:(圧倒される……!! 積み重ねた努力すら、すべて塗りつぶされて……!!)
新:♪——————!!
街の若いミュージシャン達:た、大河さんの歌、どうなってんだよ……!!
街の若いミュージシャン達:すげえ……!! こんなの聴いたことねえぞ!!
街の若いミュージシャン達:大河! 大河! 大河!
新:はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!
新:くそ……っ。 ……どうして……縮まらないんだ……!
杏:(新……)
大河:——新。お前本当に、背負ってるのか?
新:……え?
大河:お前は本当に、颯真の夢を背負ってるのかって聞いてんだ
新:……っ、当然です! 俺はあいつのために——
大河:俺は、凪を——大事な仲間を失った。 だから、お前の気持ちも少しはわかる
大河:泣いてもわめいても、取り戻せねえ…… その、喪失感もな
新:…………
大河:お前の実力はこの街の中でも群を抜いてる。 いや、どこを探したって、 今のお前ほど歌えるヤツはそういないだろうよ
大河:だけどな、お前の歌は閉じてる。 街を——オーディエンスを、まだ見てねえ
新:……え?
大河:なあ新。お前は、お前のために歌ってんじゃねえか?
大河:お前は相棒の夢を背負ってるわけじゃねえ。 颯真を失った、その痛みに耐えきれねえから、 颯真の夢にすがって歌ってる
大河:……違うか?
新:…………!
新:……違う……違います!!
新:俺は、颯真のためにこの夢を……!!
大河:…………。 一度は……俺もとおって、苦しんだ道だ
大河:もう一度聞くぞ、新。 お前は——お前のために歌ってんじゃねえか?
新:……違うッ! 俺は……俺は……っ!!
新:俺……は…………
大河:…………
大河:前は街を見ろ……って言ったが、 そのためにはまず、お前がお前自身を見る必要があるな
大河:いや……まずは颯真抜きで、 お前自身が本当に超えたいと思ってんのか——そこからか
新:…………っ
大河:さて——
大河:次で最後だな
杏:……おじさんは一体……何がしたいの……?
杏:急に『凪さんがもういない』って言って……! こんな風に、みんなを叩きのめして……!
杏:一体、何が——!!
大河:……わかるだろうが、杏
大河:少なくともうしろの連中は、 わかってるみたいだぞ
杏:え……
彰人:……悪いな、杏
彰人:だが——やらなきゃならねえ。なんとしてもな
冬弥:……ああ
冬弥:これは、RAD WEEKENDを超えるために必要なことだ。 立ち向かわないわけにはいかない
冬弥:俺は——知りたい。俺と……俺達と、 RAD WEEKENDに、どれだけの差があるのかを
こはね:……っ
こはね:私も……行かなきゃ
杏:こはね……
杏:私は……
杏:私、は……
こはね:杏ちゃん—— 先に、行ってる
街の若いミュージシャン達:あれ? Vivid BAD SQUADは3人だけか?
大河:…………
大河:……3人で玉砕覚悟か?
彰人:玉砕なんてするつもり、さらさらねえっすよ
彰人:それに杏は……絶対来ます
冬弥:ああ。……いくぞ!
こはね:——うんっ!!
彰人・冬弥:『♪————!! ————!!』
こはね:♪————! ————!!
大河:……ま、これぐらいになるだろうな
達也:(東雲と青柳に、いつものキレがない。 それに小豆沢も……声がこもってる)
洸太郎:(……ダメだ。 やっぱりあいつらも——)
こはね:♪————!! ————!!
彰人・冬弥:『♪————————!!』
杏:(…………みんな……)
杏:…………っ
杏:(何も……わかんないよ……)
杏:(凪さんがもういなくて……会えなくて…… 街のみんなが、それをずっと隠してて……)
杏:(わかんないことだらけで頭真っ白で、 ぐるぐるして……気持ち悪い……)
杏:(こんな気持ちで、歌うなんて……!)
杏:(でも——)
杏:(…………このままじゃ、嫌だ……)
杏:(……みんなが、必死でぶつかってる)
杏:(あの大河おじさんに……、 勝てないってわかってても、食らいついてる)
杏:(ただ……知るために……)
杏:(知って……いつの日か、 RAD WEEKENDを超えるために……)
杏:(…………私は……)
こはね・彰人:『♪————! ——————!』
杏:私は…………!
杏・冬弥:『♪————————!!』
冬弥:(……! 白石……っ!?)
こはね:(杏ちゃん……!)
杏:(——歌え)
杏:(頭がグチャグチャする。考えても何もわからない。 だったら——考えるな)
杏:(私は歌うことしか——知らないんだから!!)
杏:(……不思議)
杏:(歌うと……あんなにグチャグチャした感情が、 少し落ち着く——)
杏:(いつもより集中できる。みんなの声がよく聴こえる。 Crawl Greenで歌った時みたいに——)
杏:♪————~~!!
達也:白石のヤツ……さっきまであんな状態だったってのに、 いつもどおりの……いや、いつも以上の声が出てやがる……
洸太郎:す、すげえ……!
彰人:(……やるじゃねえか、杏)
冬弥:(……俺達も、負けていられない。 白石の覚悟を——重く噛みしめろ!)
こはね:(……杏ちゃん……!)
こはね:(隣から杏ちゃんの歌声が聴こえる……。 それだけで、こんなに心強いなんて……)
こはね:(今なら、なんでもできる気がする。 ——私だって……もっと、やれる!)
こはね:♪——————~~~~!!
杏:(……こはねの歌が、一気に跳ね上がった……!)
杏:(なら——!!)
杏・こはね:『♪——————!!』
杏:(次は彰人と——!)
杏・彰人:『♪——————!!』
冬弥:(……! 俺達の歌が、白石に押し上げられている……!)
杏:(本能で——直感で歌うんだ! 考えてちゃ絶対、大河おじさんには通用しない。 するはず、ないんだから——!)
杏:(だから、今——私が持ってるもの全部ぶつけて、歌うんだ! 死に物狂いで、噛みついてやる!)
杏:(私の全部—— 今まで叩き込んだこと、全部全部ぶつけて……!!)
凪:あはは、杏は飲みこみが早いから教え甲斐あるな。 はい、じゃあグータッチ! イェーイ!
杏:…………!
凪:やっほー! 杏、今日も朝練?
凪:杏、もう1回もう1回! 今のは納得いかない!
杏:(…………今は、思い出したら……だめだ……っ!)
杏:(絶対、歌えなくなる。 忘れないと、凪さんのこと……!)
杏:(忘れないと…………!)
凪:——やっぱりここにいた
杏:…………っ
こはね:(……! 杏ちゃんの声が……!)
冬弥:(まずい、白石の動揺が声に……!)
彰人:(——持ちこたえろ! 杏!)
大河:——おい、そんなもんか? 杏
大河:お前が凪からもらったもんは——その程度か?
杏:…………っ!!
杏:(……ふざけるなっ……!)
杏:(凪さんが私にくれたものは——)
杏:(凪さんが私にくれたのは…… 私の歌の————全部だ!!!!)
杏:♪ ————————~~~~!!
大河:…………!!
街の若いミュージシャン達:な……!!
街の若いミュージシャン達:あ……杏ちゃんが歌ったのか……今……!!
冬弥:(——彰人! 小豆沢! この流れに乗るぞ!!)
こはね:(……! うん!)
彰人:(いくぞこのまま……! 最後まで突っ切るぞ!!)
杏・こはね:『はぁ、はぁ……はぁ……っ』
街の若いミュージシャン達:すげえ! やってくれたなVivid BAD SQUAD!
街の若いミュージシャン達:この土壇場で、今までで一番すげえ歌聴かせてくれるとはな!!
街の若いミュージシャン達:さっきの大河さんもヤバかったが……! もしかしたら、もしかするかもしれねえぞ!
彰人:クソ……もう……声が出ねえ……
冬弥:ああ…………。 それに集中しすぎて……頭がうまく回らない……
大河:(……なるほどな)
大河:(凪、これがお前の言う『次の世代』か……)
大河:——今のは悪くなかった。 やるじゃねえか
杏:…………っ
大河:はっ。そう睨むな。 ……いや、もう声も出ねえか
大河:たしかに、あの夜の俺よりは——上だったかもしれねえな
彰人:……!
大河:……だからなおさら、お前達には見せねえとな
大河:あの夜、俺達が見せた——RADderの夢の終わりをよ
杏:……!
冬弥:(大河さんの空気が——)
大河:(…………凪、謙)
大河:(今日だけ、RADderの歌を歌うぞ)
大河:(俺達の夢を、こいつらに見せる。 ……お前達も、それを望んでるだろ?)
大河:まったく……本当にらしくねえ
大河:♪————————————!!
杏:…………っ!!
彰人:(…………冗談だろ?)
冬弥:(……一体どうなってる? 体が——)
こはね:(聴いてるだけで、体が勝手に熱くなって——)
こはね:……怖い……
新:…………はは
新:——化け物じゃないか。こんなの
大河:……ん? どうした。 そろいもそろって間抜け面して
大河:お前らの知ってるRAD WEEKENDは—— ここからだろ
杏:……! まだ終わっちゃ……っ
杏:う……ゲホッ、ゲホッ……
こはね:杏ちゃん……!
街の若いミュージシャン達:信じられねえ……
街の若いミュージシャン達:…………これは、桁違い過ぎるだろ
街の若いミュージシャン達:ああ……
街の若いミュージシャン達:……なあ、もう帰ろうぜ……。 俺、あいつらが可哀そうで見てられねえよ……
街の若いミュージシャン達:……そうだな。 あいつらならもしかしたらなんて、期待かけちまったけど——
街の若いミュージシャン達:あれは超えられねえ……
街の若いミュージシャン達:——絶対、超えられねえよ
洸太郎:あ…………!
洸太郎:(あぁ……! クソ……みんな、行くなよ……!)
洸太郎:(行かないでくれよ……っ!)
大河:これが、お前達が超えようとしてる壁だ。 俺は、教えた
大河:——食らいついてくるなら、好きにしろ
第 4 话:夢の終わり
ビビッドストリート
杏の父:——大河!!
大河:…………よう、謙か
杏の父:……話は、さっき客から聞いた
杏の父:——やってきたんだな
大河:言っただろ。 中途半端に終わらせねえってよ
杏の父:……そうか
大河:……凪のことも、話したぜ
杏の父:……!
大河:あいつらが“次の世代”だとしたら、 知る必要があるからな
大河:だが……話したのは軽くだ。 あとはお前の仕事——だろ
杏の父:……ああ。そうだな
杏:…………
新:…………
冬弥:……! 遠野さん!!
冬弥:遠野さん……どこに行くんですか?
新:…………どこ?
新:帰るんだよ。 もう、ここにいる意味もないからね
彰人:……お前……それは、どういう意味で……
新:だって、はっきりわかったでしょ?
新:——超えられないってさ
こはね:あ……
洸太郎:と、遠野……
彰人:お前……それでいいのか……?
彰人:そんなわけねえだろ……? お前の覚悟は、そんなもんじゃ……!
新:結局、俺は……言えなかったんだ
新:『あんたになんて言われても、 俺はあいつの夢を背負ってる』って……言えなかった……!
彰人:……!
彰人:……だが、それは……!
彰人:それは…………
新:…………あいつに、なんて言えばいいんだろうね。 全然思い浮かばないな
冬弥:……っ
新:まあ、とにかくさ——
新:降りるよ、俺は
彰人:…………!!
新:それじゃあまた——いや……
新:じゃあね。 ……このチームでやるのは、楽しかったよ
冬弥:遠野さん……!!
彰人:…………っ!
達也:…………
達也:——実際、潮時かもしれないな
洸太郎:……! まさか、お前らまで……!
達也:俺は——俺達は、誰にどんだけ負けても構わねえ
達也:勝つまでやり続ければ、いつかは勝つ。 ……そう思ってここまでやってきた
達也:だが……今日初めてわかった
達也:戦うって考えるだけで動けなくなるくらい、圧倒的な…… 絶対的な相手がいるってことをな
こはね:あ……
こはね:……怖い……
こはね:…………
達也:それに、もしも—— もしも、いつか大河さんを超えることができても……
達也:RAD WEEKENDを超えられる……イメージが、わかねえ
達也:わかねえんだ……
冬弥:……それは……
達也:……正直、こんな形で終わりになんて したくなかったけどよ
達也:きっと、俺にとってこの夢は—— ここで終わりにしたほうがいいんだ
達也:……じゃあな
洸太郎:……っなんでだよ……
洸太郎:こんなの…… こんなの、あんまりじゃねえか……!
洸太郎:なんでなんだよ……! なんで初めてちゃんと持てた夢が……こんな…… こんなすげえ、わけわかんねえくらいハードモードで……!
洸太郎:なんで……なんで……! なんでオレは……っ大事なところで……全然、歌えねえで……!
洸太郎:なんでオレは…… 馬鹿で、意気地がなくて、ヘタクソなんだよお……っ!!
彰人:三田……
洸太郎:うぐ……っ、ひっ……う、う……!
洸太郎:………………っ
洸太郎:もしかしたら……大河さんは……
洸太郎:『身の丈に合わねえ夢は見るな』って、言いたかったのかもな……
こはね:……! そんなこと……!!
洸太郎:みんなの足を引っ張ってるってことくらい、 わかってたよ……
洸太郎:でも……それでも同じ夢を見てるって、 そう思ってる時間が楽しくて……ずっと……
洸太郎:ずっと……ズルズルここまできちまったのが…… 良くなかったのかもな……
冬弥:三田、決してそんなことは——!
洸太郎:——ごめんな
洸太郎:本当に…………ごめんな…………
こはね:三田さん!!
彰人:……っ!
彰人:クソッ!!
???:——お前ら!
杏:…………父さん……?
冬弥:謙さん……! どうして、ここに……
杏の父:店の客と——大河から聞いた
杏の父:……あいつから聞いたんだな。 凪のことを——
こはね:……っ!
杏:…………聞いたよ
杏:やっぱり……父さんも知ってたんだ……
杏:知っててずっと……黙ってたんだ…………
杏の父:杏……
杏:…………どうして?
杏:……どうして!? どうしてっ!!?
杏:どうしてそんなに大事なこと、私だけ知らされてないの!?
杏:おかしいでしょそんなの! みんな仲間だと思ってた、家族だと思ってた!!
杏:なのに、なんで!? なんで、私だけ……っ!!
杏の父:——凪がそう、望んだからだ
杏:……っ、わかんないよ!!
杏:そんな説明で……わかるわけないじゃない……!!
杏の父:…………悪かった、杏
杏の父:——店で、ちゃんと話したい
杏の父:彰人、冬弥、それに嬢ちゃんも…… すまないが、一緒についてきてくれ
杏の父:今日、すべて話そう。 ——RAD WEEKENDの裏にあった……すべてを
WEEKEND GARAGE
杏の父:看板はクローズにしてある。誰もこないはずだ
杏の父:——少し、長い話になる。 適当な席に座ってくれ
こはね:……わかりました
杏の父:まず、そうだな。 大河がどこまで話したかはわからないが——
杏の父:凪が死んだってのは、事実だ
杏:…………
杏の父:——聞きたいことは、山ほどあるだろう
杏の父:だから、いちから説明しよう。 凪について、そしてRAD WEEKENDについて
杏の父:そのために……まずは凪と—— オレ達、RADderのことから話すとしよう
杏の父:オレ達が3人で組むようになったのは、中学の頃だった
杏の父:オレと大河は同じ中学でな。 当初は反りが合わなかったが…… あいつの歌がきっかけで、この街でよくつるむようになった
彰人:(あ……)
大河:それで俺が路上で歌ってる時に、謙がとおりかかって…… いつものつまんなそうな顔を向けやがるから、ついカッと来てよ
大河:あの野郎——無視してんじゃねえ、こっちを見ろ! お前にはこんくらい、本気になれるもんはねえのかよ!って
大河:そんな風に思って、腹の底から全力で歌った
大河:それがかなり効いたみたいでな。 あいつの目に火がついた瞬間が、俺にもわかった
彰人:(あの時のことか……)
杏の父:で、ケンカして歌ってケンカして……ってやってる中で、 オレは、凪と出会った。 ある日突然、大河のうしろにくっついてきたんだ
杏の父:『大河とつるんでる頭おかしなヤツって、あんた? 私とも歌わない?』ってな
杏の父:なんだこの失礼なヤツは……と思ったもんだが、 その歌を聴いて、仰天した
杏の父:街の連中に、大河の妹もとんでもない歌を歌うと 聞いてはいたが……それにしてもすごかった
こはね:そんなに……
杏の父:ああ。人の心をグッと掴む、握力がある歌だった。 背も小せえくせに、歌声だけは大人びてて……
杏の父:……今も、忘れられねえな
杏:…………
杏の父:——それからいつの間にか、 オレと大河と凪の3人でよくつるむようになった
杏の父:で、ある日凪が言ったんだ。 『3人でチーム組んで、世界一になろう』——ってな
杏の父:世界一なんてバカげてるとは思ったが……、 ——ふたりの夢につきあうのは悪くないと思った
杏の父:あいつらとなら、そんなバカげた夢も、 叶えられそうな気がしたんだ
杏の父:あいつらとCrawl Greenまであいさつに行って、 盛大にデビューしてこいってんで、イベントを用意してもらってな
杏の父:そのイベントで注目されるようになって、 メジャーレーベルに声かけられて、音楽事務所に入ることになった
杏の父:それでようやくプロの仲間入り……となったんだが、 ……そこからがまた、大変だったな……
杏:…………
第 5 话:世界一を目指して!
約20年前
ビビッドストリート
街の人達:じ、事務所を辞めたぁ!?
街の人達:どういうことだよ!? あんなに売れてたってのに、勿体ねえな~!
大河:はっ、売れてた? 関係ねえな! 俺達の夢は世界一のミュージシャンになることだ
大河:大手の事務所だかなんだか知らねえが、 テレビに出演させる程度で偉そうな顔されてたまるかよ
凪:私達、別にタレントになりたかったわけじゃないしね。 ま、テレビに出させてもらったおかげで いろんな人に曲聴いてもらえたのはありがたかったけど
大河:だとしてもだ。ったくあいつら、 バラエティ出ろだとか、つまんねえ恋愛映画出ろだとか、 しまいにはこっちの曲にまで口出してきやがって……
Crawl Greenオーナー:はははっ。たしかに最近の売り出しかたは、 お前らも気に入ってねえだろうとは話してたがな
COLオーナー:ま、謙くらいの男前を 映画に使いたくなる気持ちはわからなくないけどねえ
謙:事務所には恩もあったから、できれば残りたかったけどな。 ただ……これはオレ達も引けねえ部分だから、 これ以上言っても仕方ない話だ
街の人達:けど……お前ら、これからどうすんだよ?
COLオーナー:たしかにねえ。謙は大学出てるからともかく、 大河……あんた高校も辞めちまってるし、将来考えてんのかい?
大河:もちろん、考えてるぜ
大河:これから俺達は、俺達のレーベルを立ち上げるつもりだ
街の人達:レーベルを!?
凪:そ! みんなで話し合って決めたんだ。 この街に自分達のレーベルを立ち上げて、活動していこうって
凪:まあ要するに……イチから出直しってこと!
COLオーナー:——ハッハッハ! そりゃまた、なかなかな茨の道だねえ!
Crawl Greenオーナー:だな。 しかし……そういう生きかたもお前達らしいかもな
街の人達:そういうことなら……凪、大河、謙! 頑張れよ! うちは妻も息子も、お前達のファンなんだからな!
凪:あははっ! あんたんちの子って、一昨日よちよち歩き始めたばっかりじゃん! さすがにちょっと教育に悪くない?
大河:いいじゃねえか。英才教育で将来安泰だろ
謙:ったく……よその家の心配してる場合か? オレらの将来のほうが大問題だろ
謙:レーベルを立ち上げたとして、軌道に乗るかどうか……。 これからいろいろと考えていかねえと——
凪:はいはい、細かいことは謙に任せた! 人には向き不向きってのがあるから
謙:凪、お前なあ……
凪:ふふ、頼りにしてるよ、謙!
凪:ってわけで——ここから世界一目指して、頑張ろーう!
数年後
横浜
謙:はぁ……弾丸ツアーってのも疲れるもんだな……
大河:昨日から宮城、神奈川ときて、明日の昼までに大阪か。 ま、俺達の名を上げりゃレーベルのためになる。頑張ろうや
謙:……おい大河、頑張ろうじゃなくて そろそろ運転かわったらどうだ
大河:ああ? 仕方ねえな。 ただしお前、眠ったらぶっ飛ばすからな
謙:ほう、口の利きかたに気をつけろよ? 誰がここまで運転してきてやったと思ってんだ
大河:……わかった、お前は勘弁してやる。 おい凪! いつまで寝てんだ、起きろ!
凪:——え、うわっ!?
凪:げっ! もしかして大河が運転するの? 人が寝てると機嫌悪くなるから嫌なんだけど~、謙が運転してよ!
謙:あのな……オレにもそろそろ休憩させろ……。 適当に話してりゃ眠気も覚めるだろ
凪:もう、誰かに運転頼めばよかったのに……。 そうしたら3人で休めたじゃん
謙:節約だ節約、そんな贅沢許すわけないだろ。 オレ達はもうメジャーアーティストじゃないんだからな
大河:しかし……こんくらいでヘバっちまうとはな。 昔はもうちょいタフだったんだが……
謙:学生の頃なんざ、学校終わったあと COL直行して歌い倒してたしな
凪:みんな、あの時は若かったよね~。 気づいたら金曜夜から土、日、って週末ずーっと歌ってたし! もう月曜じゃん!ってあわてて学校走ったりして、楽しかったな~
凪:あ、そうそう! その流れでよく、ふたりと登校してたから 謙のファンの子にすごい羨ましがられてたんだよね!
謙:ん? そうだったのか?
大河:あーあ、またクールぶってら。 昔っからお前はそういうところあるよな
凪:そんな謙にも、今じゃ由香さんっていう 綺麗で優しい奥さんがいるんだから、 人生わかんないよねえ
大河:ハハ、大学で女捕まえてんじゃねえって思ったけどな
謙:仕方ないだろ、一目ぼれしちまったんだから
謙:……くっちゃべってる暇ねえぞ。 今日中に大阪まで着かなきゃ車中泊だからな?
凪:げっ……! 大河、発進発進!
数年後
ビビッドストリート
凪:わあ見て見て、手足ちっちゃくてぷにぷに! ていうかすっごい美人さんじゃない!?
凪:ほら、この目元とか! 由香さんにそっくりじゃん!
大河:お、たしかにな
凪:名前はもう決めてるの?
謙:ああ。 ——杏だ。白石杏
凪:へえ! ……杏! 杏! ……うん! ぴったりじゃん!
凪:絶対いい子に育つよ! すーっごく優しい子にさ!
凪:……この子もいつか、 歌が好きになったりするのかな? 私達みたいに
大河:まだわかんねえだろ。 まあ、元気でいい声だけどな
謙:……そうだな
凪:あ、そうだ! これからのことなんだけどさ……
凪:しばらくはライブじゃなくって、音源のほうに力入れない?
謙:音源に?
大河:ああ。この前、凪と相談してな
大河:お前の性格を考えると—— 今は杏のそばにいてやりたい時期だろ?
謙:お前ら……
大河:もちろん、まだまだレーベルをでかくする必要はあるが…… とはいえ、最近じゃ軌道にも乗ってきた
凪:最近、私達の音源、 結構ダウンロードしてもらえるようになってきてるしね! 海外からも、イベントで使わせてほしいって連絡あるし
凪:せっかく風向きもいいんだから、このタイミングで 音源作りに集中するのはちょうどいいんじゃないかなって思ってさ
大河:まあいずれ、ちゃんと仕事としてやるつもりだったが……。 その機会が来たってわけだ
大河:だからお前は、嫁と子供のそばにいてやれ。 ——な、ほら杏、お前もパパが近くにいたほうがいいだろ?
大河:……ほう、俺の顔を見ても泣き出さないとは大したもんだ。 将来大物になるな、こいつは
凪:またバカなこと言ってるよ……。 でも大河の言うとおり、今は杏を大事にしたほうがいいって
凪:だって、こんな可愛い子に愛想つかされちゃったら嫌でしょ? 娘に男前は通用しないからね~
謙:お前らなぁ……
謙:ったく、わかったよ。 ……ありがとな
十数年後
中学生の杏:それじゃ父さん、先に帰ってるね! 大河おじさんも、バイバーイ!
謙:ああ。またあとでな
大河:昼飯が楽しみだからって、急いですっころぶなよ!
中学生の杏:もー! 子供じゃないんだからそんなことしないってば! ——それじゃあね!
謙:さて……それじゃ真面目な仕事の話といくか
謙:ついに、全米ツアーが決まりそうだな。 向こうもかなり前向きだし、このままうまく交渉が進むといいが
謙:大河、頼んだ飛行機のチケットはもうおさえたか? バーナー・レコードのお偉いさんと 直接話さなきゃならんそうだからな
大河:ああ、そっちは問題ねえよ。 だが——
大河:問題なのは……凪のほうだろうな
謙:ああ……。 まさか、また貧血で倒れるとは
謙:最近、なにかと不調が続いてるみたいだが……大丈夫なのか?
大河:そうだな……。あいつは軽い風邪だって言ってたが、 もういっぺん病院に行けって言ってみるか
謙:ああ。オレからも言っておこう
謙:CDリリースもいくつか控えてるし、 来年のツアー計画も今のうちから詰めておきたいしな
大河:おう、凪か。 お前から電話なんて珍しいな、どうした?
大河:——なに?
病院
大河:——凪!
凪:あ……
凪:大河、それに謙も……。 ごめんね、わざわざ来てもらって……
謙:急に病院に来いだなんて、驚いたぞ。 何があったんだ? また貧血か?
凪:…………
凪:……あの、さ
凪:ふたりとも……落ち着いて聞いてね
大河:……?
凪:私……すい臓がんらしいんだ
大河:…………は?
凪:結構、深刻な状態みたいで—— 先生が言うには、あと5カ月くらいしか生きられないって……
謙:あと、5カ月……?
大河:おいおい、冗談だよな。 大体そういうもんは、最初は家族が呼ばれて——
凪:みんな、忙しい時期だったからさ……。 どんな結果でも、先にひとりで知りたいって言ったんだ
大河:……本当、なのか?
凪:……うん。 もうしばらくは普通に動けるみたいだけど
凪:抗がん剤の治療をしても、治癒の見込みは少ない……って
凪:バーナー・レコードとの契約とか、全米ツアーとか、 やっとここまで来たのに、ごめん
凪:……本当に、ごめん
凪:一緒に世界……獲れそうにないや
大河:……っ、そこじゃ……ねえだろ…………
謙:いったん、落ち着こう……
謙:正直まだ……オレは事態を飲み込めてない……
大河:…………ああ
凪:あはは……そうだよね。 私も自分のことなのに、 なんかまだ、フワフワした感じしてるっていうか……
凪:あー……でも、ふたりよりは落ち着いてるかも
凪:さっき母さん達に連絡したら、 久しぶりの電話がそれか!って、泣いて怒られてさ。 すごく取り乱してたから、逆にこっちのほうが冷静になっちゃった
大河:…………そう……か
謙:…………
凪:……ねえ、私達の——RADderのこれからのことなんだけどさ
凪:ふたりで決めてもらって、大丈夫だよ
凪:っていうか……私、半年後にはいないわけだしさ。 だからなんか言う権利もないし
凪:私は私で……最期に何したいか、考えてみようと思うから
凪:——ちょっとそれぞれ考える時間、 作ったほうがいいかなって思うんだ
大河:(……凪が……死ぬ……)
大河:(凪が……いなくなる……)
大河:(…………駄目だ。 まるで、実感がわかねえ…………)
謙:……! バーナー・レコードからのメールか……
謙:(……クソ。 まだ、何も整理できてねえってのに)
謙:……大河。 バーナーからの連絡だが、一度保留を——
大河:——謙
大河:すまん。 今はそういう話はできねえ
大河:俺は今——これから先のことを考えられねえ
謙:……いや、そうだよな。 オレのほうこそ、悪かった
大河:…………
謙:——また今度話そう。 これからの、オレ達のことを
大河:…………おう
大河:…………っ
大河:…………っ!
大河:……ふざけんな……ふざけんじゃねえ……!!
大河:どうして——
凪:ってわけで——ここから世界一目指して、頑張ろーう!
大河:どうして……凪なんだよ…………!! 他に……他にいるだろうが!!!!
大河:どうして……どうして…………!
大河:どうして、凪が…………ッ!!
第 6 话:限りある時間の使いかた
翌日
ビビッドストリート
凪:…………
凪:(あと、5カ月……か)
凪:(なんか……なんにも考えられないな。 あんまり時間もないのに)
凪:(あと5カ月。 私は……)
凪:(私は、何を——)
中学生の杏:——よーし、それじゃいくよ! 凪さんも! 絶対聴いててよ!
凪:(……いけない。 歌教えるって約束だし……杏の前では、ちゃんとしないとね)
凪:……じゃ、聴かせてもらおうかな
中学生の杏:うん! 高音のところ、バッチリ練習してきたんだから! いくよ!
中学生の杏:♪——————!
凪:(……杏、本当にうまくなったな。 ひと月前とは別人みたい)
凪:(このあいだ教えたばっかりのことも、 もうモノにしてるみたいだし……)
中学生の杏:——どうだった!?
凪:うん、やるじゃん! 高音、綺麗に出るようになったね
中学生の杏:え、ホント!?
凪:ほんとほんと! 杏に嘘なんかつかないって
街の人達:うん! かっこよかったよ! スパーン!って声出てて、気持ちよかった~
中学生の杏:えへへ、ありがとう!
街の人達:でも、相変わらずムラがあるから、 細かいとこもコントロールできるようになるといいかもね
中学生の杏:んー。なるほどね!
中学生の杏:じゃあ、こんな感じかな?
中学生の杏:♪————! ————!
凪:(あ、よくなった。本当に勘がいいな)
凪:(……私も昔、こんな風に街の人達に見守ってもらってたな。 発声のしかたとか、歌との向き合いかたとか教えてもらって)
街の人達:にしても凪、 その歳でそこまで歌えるなんて、将来有望だな!
街の人達:お、世界獲るってんだろ? そのためにはもっと技を覚えないとな!
凪:(……この街があったから、今の私がある)
凪:(この街で、歌を好きになって。歌を練習して。 謙に出会えて、みんなでいろんな夢を見て、それで——)
中学生の杏:————♪
凪:(私——)
凪:(私、やっぱり……最期は、この街で飾りたいな。 大好きなこの場所で——)
凪:(……うん、決めた)
凪:(最期に何をやるのか)
中学生の杏:——ふう。 ねえ、どうだった!?
凪:うん、見違えるほど良くなった。 杏だったら、もっともっとうまくなれるよ
中学生の杏:やった! よーし、このまま凪さんよりうまくなっちゃうから!
中学生の杏:そしたら凪さん、私と一緒にイベント出てよ!
凪:え……
凪:(…………一緒に……)
凪:(今よりもっと成長した杏と歌えたら、 きっと……すごく楽しいんだろうな)
凪:(でも、その時には、私は……)
凪:(……そうか……もしかしたら——)
夜
謙:こんな時間に呼び出してどうしたんだ、凪
大河:……今日は、体調は大丈夫なのか?
凪:うん、平気だよ。心配してくれてありがと
凪:——あのね、私、決めたんだ。 最期に何をするのか
謙:……もう、答えがでたのか?
凪:うん。 なんか、思ったよりサラっと決まっちゃった
凪:——私、最期に、この街でイベントをやりたい
謙:イベント……?
大河:この街で……か?
凪:うん
凪:大好きなこの街で、歴史に残っちゃうくらいの—— 最っ高に熱いイベントを作りたい! そう思ってるの!
凪:……私がふたりに、こんなお願いするのは 本当にわがままだって思うけど……
凪:ねえ——大河、謙
凪:一緒にやってほしいんだ。 このイベントを
謙:気持ちはわかるが……、 その体で、本当にできるのか……?
凪:先生にはもう相談したんだ。 最期にどうしてもやりたいことがあるから、 その協力をしてほしいって
凪:まあ、無茶だからおすすめできないって言われちゃったけど…… 何回もお願いしたらわかってくれてさ
謙:……だが……
凪:……今日ね、杏に歌を教えてた時、言われたんだ
凪:『いつか、凪さんよりうまくなるから、 その時は一緒のステージで歌おうね』って
凪:——その時、はっとしたんだ。 私は、杏と同じステージに立つことはできないんだなって
凪:でも……でもね
凪:私がいなくなっても、きっと杏は……ううん、杏だけじゃない、 この街で——誰かが、ずっとずっと歌い続けていく
凪:私が……大河と謙が、この街で歌ってきたみたいに。 ……昔の私達と、同じように
凪:それで、思ったんだ
凪:そういう、昔の私達みたいな誰かが、 今度やる私達のイベントを見て、何か感じ取って、 それで、最っ高の音楽をやっていったとしたら——
凪:——私は、私達の夢は、 その子達と一緒に歩いていけるって
謙:凪……
謙:(オレ達の……次の世代、か……)
謙:……なるほどな
謙:オレも親になったから……少しはわかる
謙:若いやつが育って、オレ達のさらに先を進む姿は…… きっとそれだけで、希望になる
凪:……! じゃあ——
大河:——ふざけんじゃねえぞ
謙:……!
凪:大河……
大河:最期にここでイベントをやるってのは構わねえ。 凪の最期だ、俺も叶えてやりてえ
大河:だがな……その、 『次の世代に俺達の夢の先を歩かせる』って考えは、許せねえ
大河:俺は——顔も名前も知らねえヤツに、 俺達の夢を譲る気はねえぞ……!
謙:大河……凪が言いたいのはそういうことじゃない。 凪は夢を託したいと——
大河:物は言いようだろうが。 凪、お前はここでお前の夢を、 俺達の夢を、他人まかせにしていいのかよ
大河:——その夢は、俺達に託せばいいじゃねえか!!
大河:俺と謙はまだ歌える。お前の分も背負っていける!
大河:俺達の音楽を必ず、世界一にしてみせる……!
大河:そんで世界一でけえハコでお前に見せてやる! あの世で耳栓してたって聴かせてやるよ!!
大河:俺達の音楽はたしかに、世界一だった!!
大河:お前の夢は——叶ったって!!
大河:それが……それが俺にできる、たったひとつの……!
大河:……っ
謙:大河……
凪:——ありがとう。お兄ちゃん
凪:……でもね
凪:私のためだったら、しなくていい
凪:私、ふたりには、ふたりの好きな道を進んでほしいんだ
凪:——ほんっと、大河はいつも乱暴だし、 謙はシレっとしてるけど案外無茶するし、 手のかかる連中だけどさ
凪:やっぱ、好きなことに向かってハチャメチャにやってるふたりが 一番好きだから
大河:…………っ
凪:——とにかく、私が言いたいのはイベントやろう!ってこと
凪:ミュージシャンとしての最期は、 最高の場所で、最高の仲間を集めて、最高の時間を作りたい
凪:それは、大河も……協力してくれるんでしょ?
大河:……………………ああ
凪:じゃあ決定ね。私は会場の話通してくるから、 ふたりは共演してくれる仲間を探してきて!
謙:……わかった
謙:——凪
凪:ん?
謙:このこと……杏には、いつ伝える?
凪:あー……うーん……
凪:……ごめん。しばらく伝えないでほしい、かな
謙:……あいつが、受け止めきれないからか?
凪:えっと……それもあるんだけど——
凪:もうひとつ、理由があるんだ
謙:……理由?
数日後
COL
COLオーナー:そうかい……。 そりゃ、寂しくなるね……
COLオーナー:……あんたがいなくなるなら、 この店もたたもうかね
凪:え、なんで!? 私が死んじゃうからって、 おばさんまでお店たたんじゃう必要ないでしょ!
COLオーナー:あんたねえ、私のことを何歳まで働かせるつもりだい? 私が若く見えるのはわかるけど、 もうすぐ80だよ。そろそろ休ませな
凪:……そっか。ごめん。 COLまでなくなるなんて、寂しくなっちゃうな……
COLオーナー:…………
COLオーナー:……凪、あんた大丈夫かい?
凪:え? あー……あはは。 まあ、うん。大丈夫だよ
凪:今の私は、イベントのことで頭いっぱいだから! もう名前も考えてるんだ。まだ内緒だけどね
COLオーナー:……そうかい。あんま無理するんじゃないよ。 体だけじゃなくて、気持ちのほうもね
COLオーナー:私だってこの歳だ、死に向かう気持ちは一丁前にわかるつもりさ。 こればっかりは大河にも謙にも想像つきやしないだろうよ
COLオーナー:……昔は歳なんか取りたくないと思ってたけど、 年の功ってのは、なかなか馬鹿にならないね。 おかげであんたみたいな子の気持ちもわかる
凪:おばさん……
凪:……ほんと、いつもよく気づくんだから。 けど、ありがとね
数日後
レッスンスタジオ
謙:(凪は、朝から病院か。 悪化してないといいが……)
RUSTのメンバー:よう、謙。いいスタジオだな
謙:おう、よく来てくれたな。 今日の練習はよろしく頼む
RUSTのメンバー:大河のヤツは——
謙:……まだ、気持ちの整理がつかないんだろうよ
RUSTのメンバー:……そりゃ、そうだな。 それで——結局イベントの仲間は集まったのか?
謙:ああ。すんなり、な。 あいつらもそろそろ来るんじゃないかと…
GLaP dayのメンバー:——あ、もう集まってた。待たせてごめん!
RUSTのメンバー:えっ……マジかよ、GLaP dayじゃねえか! よく連れてきたな!?
謙:あいつらとはメジャー時代から競い合ってきた仲だ。 きっと誘いに乗ってくれると思ってた
GLaP dayのメンバー:誘ってくれてありがとう、謙、大河
GLaP dayのメンバー:僕らも迷ったけど、凪の最期のイベントって聞いたら断れないよ。 この話を蹴ったらきっと、一生後悔することになる
謙:こっちこそ恩に着るぞ。 お前らが参加してくれてありがたい
凪:ごめーん、おまたせ! ちょっと思ってたより長引いちゃった!
RUSTのメンバー:おう、凪! お前、体調は大丈夫なのか?
凪:うん! 全然ばっちり……とは、まあ、言えないけどさ。 でもやるからには絶対、本番までには仕上げておくから!
凪:それに、イベントやるぞって思ったら 治療もけっこう頑張れるんだよね
凪:ってわけで——早く練習しようよ! 病院退屈だったから、うずうずしてんだよね~
謙:……ああ。 それじゃ——始めるか!
凪:♪————~~!! ————~~!!
GLaP dayのメンバー:相変わらず、凪の歌は不思議だよね。 なんていうか、力をもらえるって感じがする
GLaP dayのメンバー:それに…………ほんとに病人なの? いつもよりパワーあるように感じるけど
RUSTのメンバー:ああ……今まで見たこともねえくらいの気迫だ
謙:……それだけ、あいつは今回のイベントに懸けてるんだろう
GLaP dayのメンバー:僕達も負けてられないな……
凪:♪——————~~~~!!
2時間後
RUSTのメンバー:それじゃ、また明日!
GLaP dayのメンバー:気をつけて帰れよ!
謙:おう、ありがとな
謙:凪はどうした?
大河:……ジャケット忘れたから取ってくるとよ
謙:……そうか
謙:……凪、今日の調子はよかったな
大河:……ああ
大河:このまま本番まで……いかせてやりてえな
謙:…………そうだな
???:……はぁ、はぁ……はぁ……
大河:ん……? ……! まさか……!
大河:……っ! 凪!
謙:おい、大丈夫か!?
凪:——え、あ……。 ……ごめん、平気。見苦しいとこ見せたね……
大河:なにを……っ! 今強がってる場合じゃねえだろうが!
謙:すごい汗だ……! 水持ってきてやるから、少し待ってろ!
謙:落ち着いたか?
凪:……うん。 ちょっと痛み止めが切れちゃったんだけど……今はもう大丈夫
大河:そうか……。 それならよかったが……
凪:……うん……
凪:……今日の練習さ、すごく楽しかったんだよね
凪:みんなで歌って、こだわりポイントでちょっとケンカして、 また歌って——
凪:こんな時間が、ずっと続けばいいなって思った
凪:でも、こういうことあると、 そういうわけにもいかないんだなあって……思って……
謙:…………
凪:……わかるんだ。 体、どんどん悪くなってるって
凪:気持ち悪くなることが増えて、 痛み止めが、効かなくなっていって……
凪:本番までは、意地でも耐えてみせるけど……
凪:でも……そのあとは、きっと……
大河:凪……
凪:あーあ! おばあちゃんになっても、この街で歌ってたかったな
凪:大河と私は一生独身! 白石夫婦はずっと仲良しで それで杏も、私みたいないい女になって……
凪:……この街でずっと……ずっと……
凪:ずっと——
凪:…………………………ない……
凪:…………死にたく、ないよ…………
凪:ここに……いたい…………
凪:まだ…………歌いたい………………
凪:ここで、みんなと一緒に……生きていたいよ……っ
凪:……っ、……はぁ
凪:…………ごめん。 一番みっともないとこ見せちゃった
大河:……馬鹿が……
大河:強がるんじゃねえって、言ってんだろ……! 俺達は、家族なんだぞ……っ!
凪:…………うん。……ごめんね、大河
凪:——ねえ、大河、謙
謙:……なんだ
凪:ひとつ、変なお願いしてもいいかな
大河:……変なお願い?
凪:うん
凪:私が、いなくなったらね——
第 7 话:『RAD WEEKEND』
RAD WEEKENDの1カ月前
COL
街の人達:こりゃ……すごい人数だな
街の人達:街の連中は全員いるんじゃねえか? 凪ちゃん、なんでこんなに集めたんだろうな?
街の人達:……うわ、急にライトが!? なんだってんだ……!?
街の人達:あ、なあ! ステージの上にいるの、凪じゃねえか?
凪:——みんな、来てくれてありがとう!
Crawl Greenオーナー:ずいぶんと派手な登場だな、凪。 どうしてまた、ここらの連中を集めたんだ?
凪:お、さすがおじさん。 単刀直入でいいね!
凪:今日はみんなに、すっごく大事な話があるんだ
Crawl Greenオーナー:大事な話……?
凪:そう。実は——
凪:実は私ね、あと半年も生きられないんだ
ライブハウス店長:……は?
凪:ちょっと前に、すい臓がんが見つかって…… もう手の打ちようがないみたい
くせっ毛のレコード屋店員:そ……それ……本当なの?
凪:……うん。 急な話で、ごめんね
凪:びっくりさせちゃうのはわかってたけど…… でもやっぱり、お世話になったみんなには ちゃんと伝えておきたかったから
セクシーなお姉さん:じゃあ……本当に……
凪:それでね——今日はみんなに、お願いがあるんだ
凪:1カ月後に、この場所で私の最期のイベントをやる!
凪:この街のみんなと——ううん、街の外の人もいっぱい集めて この街で一番、最っ高のイベントをやる!
凪:だからみんな見に来てほしい! それがひとつめ!
Crawl Greenオーナー:……最期のイベントを、ここで?
凪:うん! 名前も、もう決めてあるんだ!
凪:イベントの名前は——RAD WEEKEND!
COLオーナー:RAD……WEEKEND……?
凪:思い出のCOLで、私達の青春をもう一度見せるの!
凪:週末ここに集まって、 昼も夜もわからなくなっちゃうくらい歌った—— あのとびっきり熱い瞬間を!
ベテランスタッフ:……RAD WEEKEND……
くせっ毛のレコード屋店員:それが……最期のイベントに……
セクシーなお姉さん:…………私、絶対に行くわ
セクシーなお姉さん:ちゃんと、見届けたいから……!
ライブハウス店長:…………っ。 俺も……俺も行くぞ!
街の人達:俺達も絶対行くぞ!
街の人達:凪ちゃんのためだ! 最高に盛り上げてやるぜ!
凪:ふふっ、ありがと
凪:それとね……もうひとつ!
凪:こっちはちょっと……変なお願いなんだけどさ
凪:——私が死んでも、死んだ、って言わないでほしいんだ
ベテランスタッフ:……え?
ライブハウス店長:ど、どういうことだ?
凪:あはは……まあ、やっぱよくわかんないよね
凪:えっと、もうちょっと具体的に言うと…… 死んだんじゃなくてどこか遠くに行った、 ってことにしてほしいの
くせっ毛のレコード屋店員:それは、どうして……?
凪:私、やっぱりこの街が好きなんだ
凪:この街で、みんなと一緒に生きてたい
凪:でもそれは……もう絶対に無理で……
凪:だけど……だけどね
凪:みんなが『凪は今もどこかで歌ってる』って言ってくれたら——
凪:この街にいられなくても、 この街のみんなと、ずっと繋がっていられるような気がするんだ
街の人達:…………
凪:……自分でも、おかしなこと言ってるのはわかってる
凪:でも最後だと思って……っていうか、実際最後だしさ!
凪:私のわがままに——つきあってくれないかな
Crawl Greenオーナー:……いい大人になったと思ってたが、 まだまだ子供だったようだな、凪
Crawl Greenオーナー:そんな無茶苦茶なわがままのために、 俺達に全員で嘘をつけって?
凪:あ…………
Crawl Greenオーナー:…………
Crawl Greenオーナー:……じゃあ、こうだ
Crawl Greenオーナー:凪。お前は思い立って、武者修行のために単身海を渡った。 国境を越えて、文化や人種も超えて 本場のストリートをわかしながら、力をつけてる
凪:……え?
Crawl Greenオーナー:——どうせ嘘をつかされるんだ。 お前はまだ夢の途中、ってことにしたっていいだろう?
Crawl Greenオーナー:そうしたら俺達も、お前との日々を—— お前達の夢が叶うのを楽しみに待っていたこれまでの時間を、 いつだって思い返せる
凪:おじさん……
Crawl Greenオーナー:……どうだ? みんな
COLオーナー:……背伸びしたがりの凪には、似合いじゃないかい?
COLオーナー:昔は子供のくせに、大人にまじって夜通し歌ってたあんたが、 眠ったあとは、夢の中で世界中をわかせていくんだ
COLオーナー:豪快な夢の見かたで、 こういうのもあんたらしいね、凪
街の人達:…………そうだな
街の人達:ああ……バカみたいな話だが、おもしれえじゃねえか
凪:みんな……
凪:——ありがとう
ライブハウス店長:おっ! 久々に昔の泣き虫凪ちゃんを見れたぜ!
セクシーなお姉さん:ふふっ。 そんな顔してちゃ、もう杏ちゃんに威張れないわね
凪:え、そこで杏出す? それはずるいな……
凪:って、杏! そうだ、ごめん! もうひとつだけ、お願いがあるの!
Crawl Greenオーナー:ん? なんだ?
凪:このことは——杏には、絶対に言わないでほしいんだ
街の人達:……え?
くせっ毛のレコード屋店員:——なるほどな……
ライブハウス店長:はーっはっは! こりゃ杏には一生恨まれるな!
凪:そうだよね……本当にごめん
COLオーナー:大丈夫さ、凪
凪:……え?
COLオーナー:たしかに、杏はつらい思いをするかもしれない。 でも、あんたの優しさはきっと、伝わるさ
凪:そう……かな。そうだと、いいな……
大河の声:おい凪、待ちくたびれたぞ。 そろそろいいか?
凪:あ、ごめん! ——ふたりとも、もう出てきていいよ!
凪:それじゃあみんな! 1カ月後、私達のRAD WEEKENDで、 絶対にみんなを熱狂させてあげるからね!
大河:——そういうわけだ、お前ら! どいつもこいつも ぶっ倒れちまうくらい、熱い夜にしてやる!
謙:必ず見に来てくれ! ここにいる全員にとっての、人生最高のイベントにする!
COLオーナー:ふふっ……懐かしいね。 歌いどおしでもへっちゃらなあんたらの姿が目に浮かぶよ
COLオーナー:本当に楽しみだね。 『RAD WEEKEND』か——
RAD WEEKEND当日
凪:おお~、見て見て。お客さん入ってきたよ
RUSTのメンバー:お、本当だな。 つーか街の連中、ほとんど全員集まってんじゃねえか?
謙:はは、違いない。 見知った連中ばかりだな
凪:うん。みんな来てくれて嬉しいね……。 ……最後まで、悔いのないように歌おう!
大河:……そうだな
謙:——お前ら、準備はできてるな?
GLaP dayのメンバー:もちろん、今すぐにだって全開でいけるよ
凪:ふふ、いい気合いじゃん!
凪:……みんな、今日までつきあってくれて、本当にありがとう
凪:……本当は、もうすぐ死ぬんだって思うと、眠るのも怖かった
凪:眠っちゃったらもう……目が覚めないんじゃないかって
RUSTのメンバー:…………
凪:だけど、みんなと練習してるあいだは、 体のことも、私に残された時間のことも、 全部忘れられたんだ
凪:本当に、ありがとう
凪:——今日を、最高の夜にしよう。 いつかこの日を振り返った時、少しも後悔なんてないように…… 今まで誰も体験したことないくらい、人生最高の時間に!
凪:『RAD WEEKEND』——全力でいくよ!
全員:『おう!!』
凪:じゃあ、一足先にいってきます!
大河:…………
凪:(……目を閉じると、肌でわかる。 この空気の熱さと、ヒリついた感じ……)
凪:(大好きだ)
観客達:……なんか、様子がおかしいな
観客達:どうしたんだ?
中学生の杏:凪さん……?
凪:(ずっとこうして浸っていたいけど…… いつまでも私だけ楽しんでられないよね)
凪:(私のブレスで、この空気は一斉に動き出す。 ……終わりに向かって)
凪:(さあ、目を開けて——息を吸おう)
凪:(私の歌で、この街を全部—— みんなが生き続ける限り、わかせてあげる!)
凪:♪————————っ!!
凪:♪————————!! ♪————————!!
凪:——みんな。 今日私はここで、私の全部を出し切る。 だから——みんなも全力でついてきて!!
凪:♪————————っ!!
大河:…………
謙:……大河、どうした
大河:……熱気が違え、って思ってな
大河:この街でも、海の向こうでも…… どこでも感じたことがねえ
大河:体を内側から燃やして、焦がして、 まるごと溶かしちまう……そんな熱気だ
大河:そして、これを生んでる凪の歌が——
大河:次の世代ってやつに、火をつけて回ってる
大河:——ったく、無邪気なツラだな。 この道の険しさも知らねえで
謙:…………いずれ、知るだろうさ
謙:……否が応でも、痛みと共にな
大河:…………
凪の声:さあ、次は『RUST』! 飛ばしちゃって!
GLaP dayのメンバー:——ありがとう、みんな!
凪:さあラストを飾るのは、もちろん私達——
凪:RADder!!
謙:そら、呼び出しだ。いくぞ大河
大河:お前が仕切るんじゃねえよ、聞こえてる
凪:——ふたりとも、顔。 眉間にシワ寄りまくりだよ
凪:ねえ、今日は、思いっきり楽しもうよ
凪:それで——忘れられない日にしよう
謙:……ああ。そうだな
大河:…………
大河:——いくぞ
凪:うんっ!!
謙・凪・大河:『♪————~~!! ♪————~~~~!!』
謙:(ああ……熱いな)
謙:(オレ達も、客も、このハコも、 このまま何もかも溶けちまうんじゃねえかってくらい、熱い)
謙:(まるで、昔みたいだな)
謙:(昔——週末COLでバカみたいに歌ってたオレらは、 レーベルとか、誰に届けるとか、そんな荷物はひとつもなかった)
謙:(オレ達の音楽を、思うまま、必死で歌ってた。 ……はは、結局むき出しになりゃシンプルだ)
謙:(オレ達はただ——これがやりてえだけだ……!!)
謙:『♪————! ♪————!!』
謙:(……杏)
謙:(……そうだな。きっとお前もいつか、ここにたどり着く)
謙:(オレは、それを——)
大河:♪————!
大河:(……ハッ! 最高に熱いな!)
大河:(凪はキレるだろうが、 今ここで死ぬのも悪くねえくらいだ!!)
大河:(凪がいて、謙がいて、街の連中がいて——)
大河:(今ここは——世界のどこよりも熱い!!)
謙・凪:『♪————~~~~!!』
大河:(……なあ凪、謙)
大河:(俺は……俺はこの熱さを、どうしたって手放したくねえ)
大河:(お前らとやってきた、 この最高の、世界一の音楽を)
大河:(死んだって手放せやしねえ。 地獄だってわかせてやりてえ)
凪:私のためだったら、しなくていい
凪:私、ふたりには、ふたりの好きな道を進んでほしいんだ
大河:(——凪。 お前のためじゃない)
大河:(俺は————!)
大河:♪————! ♪————~~!
謙・凪・大河:『♪————~~!! ♪————~~~~!!』
謙:(……終わった、のか……。 ——終わっちまったんだな)
凪:……みんな、お疲れさま!
凪:ほんっっとに最高のイベントだった! 今までで一番!
凪:私のわがままを聞いてくれて……本当に、ありがとう!
大河:——凪
大河:やっぱり、お前にどう言われても、 俺の意志は変わらねえ
大河:俺は、俺達の音楽を必ず、世界一にしてみせる
大河:他でもねえ——俺自身のために
大河:……謙。お前はどうする
謙:オレは——
謙:オレは今日、気づいた
謙:……結局オレ達は、めちゃくちゃに歌って、 この最高に気持ちいい瞬間を味わいたいだけなんだって
大河:はっ。 そんなの言うまでもないだろ。 お前が利口ぶって斜に構えてただけでな
謙:かもな。 だが——その直後に、客席の杏を見て、思った
謙:『次を見たい』ってな
謙:オレ達が今日バラまいた熱気が、この街でどう育つのか
謙:この街で杏達が——次の世代が、どうなっていくのか
謙:見届けたい。そう思った
凪:……そっか
大河:…………はぁ。 ったく、親父になると考えかたも老け込んじまうもんだな。 あのドロっとした目ぇしてたお前がよ
謙:おい、視野が広がったと言え
凪:……ふふっ
凪:それじゃ私は、ふたりの頑張りを、空の上から見守ってようかな!
大河:あー……それはちょっとウゼえな
謙:そうだな。頭上に凪がいるとうるさそうだ
凪:え!? ちょっと、酷くない!?
凪:——じゃあ、これで私の音楽人生はおしまい!
凪:私達の夢の先は、きっと——
凪:次の世代が歩いてくれるよね
2週間後
病院
謙:凪……
謙:(……こんなに弱々しい凪は、初めて見る)
謙:(RAD WEEKENDから、まだひと月も経ってないってのに……)
凪:……あ、ふたりとも。来てたんだ。 ごめん、気づかなくて
謙:いや、今ちょうど来たところだ
大河:ほら、見舞いの品だ。たまにお袋も来るんだろ? ひとりで多かったらふたりで食べてくれ
凪:うん、ありがと。 ——ねえ、あれから街はどう?
謙:今まで見たことないくらい盛り上がってるぞ。 歌に真面目な奴ほど、良くも悪くも荒れてるな
大河:だな。超えられるはずねえって諦めてるヤツもいるし、 絶対超えてやるって歯食いしばってるようなヤツもいる
凪:そっか。……杏は?
謙:言わなくてもわかるだろ? あいつならこのあいだ、 仲いい連中に声かけてイベント開いてたよ
凪:へえ……! さすが、すごい行動力だね
謙:ああ、あいつの向こう見ずは誰に似たんだかな……
大河:……お前、『自分は違う』みたいなツラしてるが、 人のこと言えないからな?
大河:いよいよ引退宣言しちまって、何を血迷ったか 『カフェを開く』だと? そんなガラじゃねえだろうに……
凪:謙がカフェ? ずいぶん思い切ったね。 由香さんに怒られなかった?
謙:まあ、少しはな。 だがちゃんと話したら、理解してくれた
謙:……次の世代は苦労するだろうからな。 一息つける場所くらい、必要だろ
謙:ああ……そういえば杏は、 今、信頼できる相棒を探してるぞ。 オレ達みたいになりたいんだと
凪:へえ、杏に相棒かあ。どんな子がなるんだろう。 同じくらい元気な子だと、ふたりみたいに喧嘩しそうだけど……
大河:案外、おとなしいタイプかもしれねえぞ。 昔のお前みたいに、泣き虫で人の背中にひっつくくせに、 意地だけは一丁前だったりな
凪:うるさいな、私のことはいいでしょ。 ……まあでも、おとなしい子になるのはそんなに意外じゃないかも
凪:杏ってほら、勝気だけど面倒見いいからさ
凪:いい子が見つかるといいな。 杏くらい歌える子ってなると、時間かかるかもしれないけど
凪:……どんな子なんだろ、見てみたかったな
謙:……本当に、杏に話さなくていいのか?
凪:…………
謙:杏に話せば、見舞いに連れて来ることだってできる。 お前も……あいつとは話したいんじゃないか?
凪:……そりゃあね。でも——
凪:謙。やっぱり大丈夫だよ、言わなくて
凪:——私、信じてるんだ
凪:次の世代が本当にいるなら、 その中のひとりは、絶対に、絶対に杏だって
凪:この街でたくさんの人に愛されて、 周りの人達をたくさん愛して、 そうやって育ってきたあの子は、歌に自然と気持ちを乗せられる
凪:だから、傷ついてる人がいたら寄り添ってあげられるし、 怖がってる子がいたら、大丈夫だって励ましてあげられる。 ……誰かのために、まっすぐに歌える
凪:私がこの街で気づいた、歌うために一番大事なことを、 杏はもう知ってるから——
凪:だから私は杏が、 私の……私達の夢の先に行ってくれるって、信じてる
謙:…………
凪:でも、杏はまだ子供で……
凪:私が死んだら、どうしたって苦しくなっちゃう
凪:私との思い出が……歌との思い出が、 全部苦しいものになっちゃうかもしれない
凪:そうしたら……歌うのをやめちゃうかもって
凪:それだけは…………嫌なんだ
謙:……そうか
凪:……ほんと、わがままだよね
凪:死んだことにしないでほしい、なんていうのもそう
凪:……実はあれね、 この街のみんなと繋がっていたいのもあるけど——
凪:杏達が歩く、次の世代が歩く——そんな未来を、一緒に見たいんだ
凪:例え、古瀧凪って名前だけになったとしても——一緒に見たい
凪:そういう……ただのわがまま
大河:…………
凪:だから——だからね
凪:もしいつか杏が、本当のことを知っても大丈夫なくらい 強くなったら……
凪:私のこと、ちゃんと話してほしいな
凪:ちゃんと話して……『信じてる』って、伝えてほしい
凪:——今日のことも
凪:その時の杏は、 もう、歌の練習見てくれないからって拗ねる杏じゃない
凪:カッコよくて、美人で、真っ直ぐな歌で街中をわかせる…… 最高のミュージシャンになってるはずだから
謙:……ああ…………ああ……。 必ず、伝える……約束する
凪:うん……よろしくね
凪:…………お兄ちゃん
大河:……なんだ?
凪:私に、歌を教えてくれてありがとう
凪:最高で、楽しい人生だったよ
大河:…………
大河:………………ああ……俺もだ…………
杏の父:——そして、その1週間後
杏の父:凪は、静かに息を引き取った
第 8 话:終わらない夢の先へ
WEEKEND GARAGE
杏の父:……これが、RAD WEEKENDを開催し、 RADderが解散するまでに至った、すべてのことだ
杏:…………
杏:凪さん……
凪:ちゃんと話して……『信じてる』って、伝えてほしい
杏:凪……さん……
杏:……直接、言ってよ……
杏:私、もう、なにも……
杏:ありがとうも、言え、ない……っ
こはね:杏ちゃん……
杏:……っ、う……!
杏:言いたいこと……いっぱい、あったのに……っ
杏:こはねにも……、彰人にも、冬弥にも……会って……! いい仲間見つけたねって……言って、ほしくて……!
杏:RAD WEEKEND超える時だって……! 絶対、凪さんに、見てほしかったのに……!
杏:なのに……!
杏:もう、いないなんて…………!
杏:そんなの……酷いよ…………!!
杏:……う、うええ、うああああん……っ!!
杏:凪さん……! 凪さんっ……!
杏:ステージ、一緒に立とうって……っ言ったじゃん……!!
杏:凪さん……………………!!
杏の父:……凪は、最期までずっと、お前のことを想っていた
杏の父:お前のことを信じていた。 ——オレ達の夢の、先を歩いてくれると
杏の父:杏
杏の父:オレも凪と同じように、お前のことを信じている
杏の父:この前のサードイベントを見て、 オレは確信した
杏の父:お前は……あれだけのイベントをやれるようになった。 頼れる仲間を持つこともできた
杏の父:お前はもう、十分強くなった
杏の父:……もちろん、困難もあるだろう
杏の父:オレみたいに、伸び悩んで、 才能の壁にぶつかることだって……何度もな
杏:あ…………
杏の父:それでも、お前は……
杏の父:——お前は、オレ達の先に行ける。 凪が見ることができなかった、夢の先に
杏の父:ここにいる——仲間と一緒に
杏:…………っ
杏:凪さんの……父さん達の、夢の先……
杏の父:ああ
杏:私は……
大河:♪————————————!!
杏:…………っ
杏:私、は…………!
凪:おーい! 杏ー!
杏:…………決めた
杏:私もう————迷わない
杏:凪さんが私を信じてくれたんだ
杏:私が……私達が夢の先に進んでくって、信じてくれたんだ!
杏:なら、私は超える!
杏:RAD WEEKENDを絶対に超えて—— その先に、父さん達の夢の先に行ってみせる!!
冬弥:——ああ。そうしよう、白石
杏:冬弥……
冬弥:俺は今日、大河さんと戦った時…… 父さんの演奏を聴いた時のことを思い出した
冬弥:……あまりに遠すぎる。 その現実に打ちのめされた時を……思い出したんだ
冬弥:昔の俺は、逃げ出してしまった
冬弥:だが今は——違う
冬弥:俺は、あの壁を超えたい
冬弥:RAD WEEKENDを超えて—— まだ見たことのない景色を、この目で見たい
冬弥:……そうだろう。彰人
彰人:……はっ。 お前に先に言われるとはな
彰人:正直、オレは……どうすりゃいいかわからなくなってた
彰人:『超えるイメージがわかねえ』って岡崎さんが言った時、 たしかにそうだって、どこかで思っちまってる自分がいた
彰人:この先、どうやって力をつけたとしても……
彰人:ひとりの人間が、文字通り命を懸けて、 仲間と、街のみんなと作り上げた人生最期のイベント—— それを超えることなんて、本当にできるのか……ってな
彰人:だが……そんなの、考えたって仕方がねえ
彰人:オレは、最初から超えるって決めてんだ
彰人:今更もう——後戻りはしねえ
杏:…………!
こはね:……私……
こはね:…………会いたかったな、凪さんに
杏:……こはね……
こはね:会って、それで……伝えたいの
こはね:私は、杏ちゃんが私を見つけて、 信じてくれたから、今こうして歌えてるって
こはね:それはもう……伝えられないけど……
こはね:でも——私達を待ってる凪さんの気持ちに、応えることはできる
こはね:やろう、杏ちゃん。 ……一緒に!
杏:……ありがとう、みんな
杏:やろうみんな。 ここからが、本当のスタートだよ
杏:もっと力つけて、 新も、洸太郎も、EVERも、もう一度集めて……!
杏:RAD WEEKENDを——超えよう!!
彰人・こはね・冬弥:『おう!』 『うん!』 『ああ!』
???:『う……』
???:『う……う、う~……』
リン:う、うえ~~~ん……!
MEIKO:ほらほらリン。 それ以上泣くと、目が腫れちゃうわよ
リン:だって……だってぇ……!
レン:……っ。 グス……っ
KAITO:……でも、リンやレンの気持ちはわかるよ。 ボクも、話を聞いてるだけで胸が痛くなったから
ルカ:……そうだね。 それぞれの気持ちを考えると……涙が出そうだよ
ミク:でも、杏は……みんなは立ち上がった。 凪さんの想いに応えるために
ミク:なら私達も——全力で、みんなを応援しなくちゃね
ミク:リン、私達を呼びに来てくれて本当にありがとう。 勝手に聞いちゃったこと、杏達には謝らないとね
ミク:ふたりとも、泣くのはここで終わり。 ……杏達が顔を上げて、前に進むことを決めたんだから
ミク:一緒に杏達の背中を、押していこう!
リン:——うんっ!!
杏:——それじゃあ、まずは今後のこと考えなくちゃね
冬弥:ああ。そうだな、まずは——
杏の父:(……凪。見てるか?)
杏の父:(お前の信じた次の世代は、 たしかにちゃんと……ここで育ってるぞ)
杏の父:(——オレも、本腰入れねえとな)
杏の父:(今のオレが、こいつらのためにできることは——)